説明

レジオネラ菌の濃縮及び溶出方法

【課題】被処理液中のレジオネラ菌を、簡易かつ収率よく回収することができるレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法、および、レジオネラ菌の濃縮及び溶出キットを提供すること。
【解決手段】本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法は、レジオネラ菌を含有する被処理液3中から、レジオネラ菌を濃縮及び溶出する方法である。このレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法では、少なくとも表面付近が、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された担体1に、被処理液3を接触させることにより、担体1にレジオネラ菌を付着させる第1の工程と、レジオネラ菌が付着した担体1に、濃度25〜500mMで緩衝剤を含有する緩衝液4を接触させることにより、緩衝液4中にレジオネラ菌を遊離させて濃縮及び溶出(緩衝液4中に回収)する第2の工程とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジオネラ菌の濃縮及び溶出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、レジオネラ菌は、呼吸器系の病原細菌であり、元来は土壌中に広く分布するが、人工環境である24時間浴槽水等からも検出されるようになっている。
【0003】
そして、これらから空中に飛散し、呼吸器系感染を起こすことによって発症する、レジオネラ肺炎やポンティアック熱等が問題となっている。
【0004】
このようなレジオネラ菌等の微生物を検出する方法としては、イムノクロマト法が知られている。イムノクロマト法は、抗原抗体反応を利用する測定法であり、検出しようとする抗原(この場合には微生物)に結合する抗体を発色物質で標識しておき、この抗体を局所部分に固定した試験紙を用いて行う。具体的には、試験紙の抗体を固定した部分から離れた部分に、液体状の検体を垂らす。すると、検体が、試験紙上をゆっくりと移動し、検体中に抗原が含まれている場合には、この抗原と抗体とが結合して発色する。これにより、検体中の抗原を検出することができる。
【0005】
ところで、イムノクロマト法のような微生物の検出方法によって微生物を検出するには、単位体積当りの微生物数が検出限界以上であることが必要となる(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
したがって、浴槽水等の被処理液中に微生物が生息している場合でも、その数が極めて少ない場合には、微生物を検出できずに見逃してしまう場合がある。
このような場合、被処理液中から微生物を濃縮して検出することが考えられる。
【0007】
しかしながら、効率よく微生物を濃縮する方法について、有効な方法が見出されていないのが実情である。
【0008】
【特許文献1】特開平5−322897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、被処理液中のレジオネラ菌を、簡易かつ収率よく濃縮及び溶出することができるレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法およびレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
(1) レジオネラ菌を含有する被処理液中から、前記レジオネラ菌を濃縮及び溶出する方法であって、
少なくとも表面付近が、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された担体に、前記被処理液を接触させることにより、前記担体に前記レジオネラ菌を付着させる第1の工程と、
前記レジオネラ菌が付着した前記担体に、濃度25〜500mMで緩衝剤を含有する緩衝液を接触させることにより、前記緩衝液中に前記レジオネラ菌を遊離させて回収する第2の工程とを有することを特徴とするレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0011】
これにより、被処理液中のレジオネラ菌を、簡易かつ収率よく濃縮及び溶出することができる。
【0012】
(2) 前記被処理液を前記担体に接触させる際の前記被処理液の温度は、70℃以下である上記(1)に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0013】
これにより、被処理液中のレジオネラ菌を、より収率よく担体に付着させることができる。
【0014】
(3) 前記緩衝液の量は、前記被処理液の量より少ない上記(1)または(2)に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0015】
これにより、緩衝液の単位体積当りのレジオネラ菌の数を、被処理液のそれよりも大きくすることができる。
【0016】
(4) 前記緩衝液は、リン酸緩衝液である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
これにより、レジオネラ菌の濃縮及び溶出をより短時間で確実に行うことができる。
【0017】
(5) 前記緩衝液のpHは、6.5〜8.5である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0018】
これにより、緩衝液中に濃縮及び溶出されたレジオネラ菌を、イムノクロマト法によって検出するに際して、正確な検出結果を得ることができる。
【0019】
(6) 前記緩衝液を前記担体に接触させる際の前記緩衝液の温度は、70℃以下である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0020】
これにより、レジオネラ菌をより効率よく、濃縮及び溶出(緩衝液中に回収)することができる。
【0021】
(7) 前記担体は、粒状のものである上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0022】
これにより、担体の表面積を増大させることができ、より効率よくレジオネラ菌を付着させることができる。
【0023】
(8) 粒状の前記担体の平均粒径は、20〜5000μmである上記(7)に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0024】
これにより、担体の表面積を十分に確保することができるので、担体へのレジオネラ菌の付着率をより向上させることができる。
【0025】
(9) 前記担体は、その少なくとも表面付近が多孔質なものである上記(1)ないし(8)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0026】
これにより、担体の表面積をより増大させることができ、担体へのレジオネラ菌の付着率をさらに向上させることができる。
【0027】
(10) 前記担体は、主として樹脂材料で構成された基材と、該基材の表面を覆うように設けられ、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された被覆層とを有するものである上記(1)ないし(9)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0028】
これにより、担体の形状、大きさ(平均粒径等)、物性(密度等)等の調整が容易となる。
【0029】
(11) 前記樹脂材料は、ポリアミドおよびエポキシ樹脂の少なくとも一方を主成分とするものである上記(10)に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0030】
これにより、例えば、基材の表面付近に、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された粒子の一部を貫入させることにより、リン酸カルシウム系化合物層を形成する場合には、基材の硬さ(硬度)を適度なものとすることができるので、前記粒子による被覆を容易かつ確実に行うことができる。
【0031】
(12) 前記リン酸カルシウム系化合物は、ハイドロキシアパタイトを主成分とするものである上記(1)ないし(11)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
これにより、担体にレジオネラ菌が極めて効率よく付着するようになる。
【0032】
(13) 前記担体は、その比表面積が5〜100m/gである上記(1)ないし(12)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0033】
これにより、担体の機械的強度が低下するのを防止しつつ、レジオネラ菌の担体への付着効率をより向上させることができる。
【0034】
(14) 前記被処理液は、浴槽水である上記(1)ないし(13)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0035】
本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法は、浴槽水に含まれるレジオネラ菌の濃縮及び溶出への適用が好適である。
【0036】
(15) 前記第1の工程は、前記担体を、管体の内腔部内に充填した状態で、前記内腔部内に、前記被処理液を通液することにより行われる上記(1)ないし(14)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0037】
これにより、被処理液中のレジオネラ菌を、簡易かつ収率よく濃縮及び溶出することができる。
【0038】
(16) 前記第2の工程は、前記被処理液が通液された前記管体の内腔部内に、前記緩衝液を通液することにより行われる上記(15)に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0039】
これにより、被処理液中のレジオネラ菌を、簡易かつ収率よく濃縮及び溶出することができる。
【0040】
(17) 前記緩衝液を前記内腔部内に通液する際の流速をA[mL/min]とし、前記被処理液を前記内腔部内に通液する際の流速をB[mL/min]としたとき、A/Bが0.5〜3なる関係を満足する上記(16)に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0041】
これにより、被処理液中のレジオネラ菌を担体に確実に付着させることができ、かつ、担体から確実に遊離させて溶出(緩衝液中に回収)することができる。すなわち、レジオネラ菌の濃縮倍率(被処理液中からのレジオネラ菌の回収率)を確実に上昇させることができる。
【0042】
(18) 前記緩衝液を前記内腔部内に通液する際の流速は、0.75〜15mL/minである上記(15)ないし(17)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
これにより、レジオネラ菌をより確実に溶出することができる。
【0043】
(19) 前記第1の工程は、前記担体を収納した網状の袋を、前記被処理液中に浸漬することにより行われる上記(1)ないし(14)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0044】
これにより、担体への被処理液の接触をより簡便な操作で行うことができるとともに、被処理液中のレジオネラ菌を、簡易かつ収率よく濃縮及び溶出することができる。
【0045】
(20) 前記第1の工程において、前記被処理液中へ前記担体を収納した袋を浸漬する時間は、2.5時間以上である上記(19)に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0046】
これにより、被処理液中に存在するレジオネラ菌の数が比較的少ない場合でも、担体にレジオネラ菌を十分に付着させることができ、被処理液中のレジオネラ菌の検出(濃縮)を確実に行うことができる。
【0047】
(21) 前記第2の工程は、前記担体を収納した網状の袋に、前記緩衝液を液滴として供給することにより行われる上記(19)または(20)に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【0048】
これにより、比較的少ない緩衝液の使用量で、担体からレジオネラ菌を効率よく遊離させることができる。
【0049】
(22) 上記(1)ないし(14)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法に使用するためのレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットであって、
少なくとも表面付近が、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された担体と、
該担体を収納する収納空間と、該収納空間に連通する注入口および排出口とを備える容器と、
前記収納空間内に、前記排出口を塞ぐように設けられたフィルタとを有することを特徴とするレジオネラ菌の濃縮及び溶出キット。
【0050】
これにより、被処理液中のレジオネラ菌を、簡易かつ収率よく濃縮及び溶出することができる。
【0051】
(23) 前記容器は、その少なくとも一部が折り畳み可能となっている上記(22)に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出キット。
【0052】
これにより、レジオネラ菌の濃縮及び溶出キットの保管時において、スペースの削減を図ることができる。
【0053】
(24) 上記(15)ないし(18)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法に使用するためのレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットであって、
少なくとも表面付近が、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された担体と、
該担体を充填する内腔部と、該内腔部に連通する注入口および排出口とを備える管体と、
前記内腔部内に、前記排出口を塞ぐように設けられたフィルタとを有することを特徴とするレジオネラ菌の濃縮及び溶出キット。
【0054】
これにより、被処理液中のレジオネラ菌を、簡易かつ収率よく濃縮及び溶出することができる。
【0055】
(25) 上記(19)ないし(21)のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法に使用するためのレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットであって、
少なくとも表面付近が、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された担体と、
該担体を収納する網状の袋とを有することを特徴とするレジオネラ菌の濃縮及び溶出キット。
【0056】
これにより、被処理液中のレジオネラ菌を、簡易かつ収率よく濃縮及び溶出することができる。
【0057】
(26) 前記袋は、その目開きが20〜85μmである上記(25)に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出キット。
【0058】
これにより、袋内から担体が散逸することや、被処理液中にレジオネラ菌が存在する場合には、そのレジオネラ菌の袋への出入が阻害されること等を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、被処理液中のレジオネラ菌を、簡易かつ収率よく濃縮及び溶出することができる。
【0060】
また、回収液として用いる緩衝液の量を、被処理液の量より少なくすることにより、レジオネラ菌を確実に濃縮することができる。このため、仮に、被処理液中において、レジオネラ菌が少数しか存在せず、その存在が確認できない(検出不能な)場合でも、緩衝液中において、その存在を確認することができるようになる。これにより、被処理液に対する早期の対処(例えば、殺菌等)を行うことができる。
【0061】
また、緩衝液の濃度を適正範囲に規定していることにより、溶出(緩衝液中に回収)されたレジオネラ菌を、例えばイムノクロマト法によって検出するに際して、緩衝液中に高濃度に存在する緩衝剤によって、抗原抗体反応が阻害されるのが防止される。これにより、正確な検出結果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下、本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法およびレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットを添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0063】
本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法は、レジオネラ菌を含有する被処理液中から、レジオネラ菌を回収する方法であり、担体に被処理液を接触させることにより、この担体にレジオネラ菌を付着させる第1の工程と、レジオネラ菌が付着した担体に、濃度25〜500mMで緩衝剤を含有する緩衝液(回収液)を接触させることにより、緩衝液中にレジオネラ菌を遊離させて溶出(緩衝液中に回収)する第2の工程とを有している。
【0064】
まず、本発明において用いられる担体について説明する。
図1は、本発明で用いられる担体の一例を示す断面図である。
【0065】
図1に示す担体1は、粒状(ほぼ球状)をなしている。担体1には、ブロック状(塊状)、ペレット状、シート状等の各種形状のものを使用することもできるが、粒状のものを用いることにより、その表面積を増大させることができ、より効率よくレジオネラ菌を付着させることができる。
【0066】
担体1は、その少なくとも表面付近が、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成されたものである。リン酸カルシウム系化合物は、各種細胞との親和性(細胞親和性)が高いため、かかる担体1は、その表面にレジオネラ菌を付着させる担体1として好適に使用される。
【0067】
図1に示す担体1は、主として樹脂材料で構成された基材11と、基材11の表面を覆うように設けられ、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成されたリン酸カルシウム系化合物層12とを有している。これにより、担体1の形状、大きさ(平均粒径等)、物性(密度等)等の調整が容易となる。
【0068】
なお、担体1は、その全体が、リン酸カルシウム系化合物を主材料として構成されたものであってもよい。全体がリン酸カルシウム系化合物で構成される担体1は、レジオネラ菌を効率よく捕集できる。
【0069】
また、担体1の比表面積は、5〜100m/gであるのが好ましく、15〜80m/gであるのがより好ましい。下限値を下回った場合、被処理液の量によっては、効率よくレジオネラ菌を付着させることができないおそれがある。また、上限値を上回った場合、担体1の機械的強度が低下することにより担体1が破砕し、後述のレジオネラ菌の濃縮及び溶出の際に、フィルタの目詰まりを引き起こすおそれがある。
【0070】
基材11を構成する樹脂材料としては、各種熱硬化性樹脂、各種熱可塑性樹脂を用いることができ、具体的には、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、アクリル樹脂、熱可塑性ポリウレタン等、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、熱硬化性ポリウレタン、エボナイド等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
これらの中でも、基材11を構成する樹脂材料としては、ポリアミドおよびエポキシ樹脂の少なくとも一方を主成分とするものであるのが好適である。例えば、後述するように、基材11の表面付近に、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された粒子の一部を貫入させることにより、リン酸カルシウム系化合物層12を形成する場合には、基材11を前述した材料で構成することにより、その硬さ(硬度)を適度なものとすることができるので、前記粒子による被覆を容易かつ確実に行うことができる。
【0072】
リン酸カルシウム系化合物層12を構成するリン酸カルシウム系化合物としては、特に限定されず、Ca/P比が1.0〜2.0の各種化合物を用いることができ、例えば、Ca10(PO(OH)、Ca10(PO、Ca10(POCl、Ca(PO、Ca、Ca(PO、CaHPO等のうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0073】
これらの中でも、リン酸カルシウム系化合物としては、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))を主成分とするものが好適である。ハイドロキシアパタイトは、生体材料として用いられるものであり、担体1にレジオネラ菌が極めて効率よく付着するようになる。また、ハイドロキシアパタイトは、レジオネラ菌に対するダメージを与える可能性が特に低いため、レジオネラ菌が崩壊しない(破壊されない)状態で、後述するように溶出(緩衝液中に回収する)ことができる。これにより、レジオネラ菌をより確実に検出することができる。
【0074】
なお、これらのリン酸カルシウム系化合物は、公知の湿式合成法、乾式合成法などによって合成することができる。この場合、リン酸カルシウム系化合物中には、その合成の際に残存する物質(原料等)または合成の過程で生じる二次反応生成物等が含まれていてもよい。
【0075】
また、リン酸カルシウム系化合物層12は、図1に示すように、基材11の表面付近に、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された粒子13(以下、単に「粒子13」と言う。)の一部が貫入することにより形成されたものであるのが好ましい。これにより、リン酸カルシウム系化合物層12と基材11との密着性を優れたものとすることができる。このため、リン酸カルシウム系化合物層12の基材11の表面からの剥離を好適に防止すること、すなわち、担体1の強度を優れたものとすることができる。
【0076】
この場合、リン酸カルシウム系化合物層12は、例えば、基材11の表面に、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された多孔質粒子(以下、単に「多孔質粒子」と言う。)を衝突させることにより形成することができる。かかる方法によれば、容易かつ確実に、リン酸カルシウム系化合物層12を形成することができる。
【0077】
この基材11と多孔質粒子との衝突は、例えば、市販のハイブリダイゼーション装置やメカノフュージョン装置等を用いて、乾式で行うことができる。このときの条件は、例えば、基材11と多孔質粒子との混合比が、重量比で400:1〜20:1程度、装置内の温度が、基材11の主材料として用いた樹脂材料の軟化温度以下(通常、80℃以下)とされる。
【0078】
このような担体1は、その密度(比重)が水の密度に近いのものであるのが好ましい。具体的には、担体1の密度は、0.8〜2g/cm程度であるのが好ましく、0.9〜1.35g/cm程度であるのがより好ましい。これにより、担体1を、後述する被処理液や緩衝液中でより均一に懸濁させることができる。その結果、これらの液体と担体1とをより確実かつ均一に接触させることができ、担体1へレジオネラ菌が付着する効率や、緩衝液中へのレジオネラ菌の収率をより向上させることができる。
【0079】
また、担体1の平均粒径は、20〜5000μm程度であるのが好ましく、40〜200μm程度であるのがより好ましい。これにより、担体1の表面積を十分に確保することができるので、担体1へのレジオネラ菌の付着率をより向上させることができる。また、粒径が小さ過ぎると、担体1同士の間を液体が流れにくくなるおそれがある。
【0080】
また、担体1は、その少なくとも表面付近(本実施形態では、リン酸カルシウム系化合物層12)が多孔質なものであるのが好ましい。これにより、担体1の表面積をより増大させることができ、担体1へのレジオネラ菌の付着率をさらに向上させることができる。
【0081】
次に、本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法について説明する。
<第1実施形態>
まず、本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第1実施形態について説明する。
【0082】
ここで、第1実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法で使用されるレジオネラ菌の濃縮及び溶出キット(以下、単に「キット」と言う。)について説明する。
【0083】
図2は、第1実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法で使用されるキットを示す模式図(内部透視図)、図3は、図2に示すキットが折り畳まれた状態を示す模式図である。なお、以下の説明では、図2および図3中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0084】
図2に示すキット2は、前述したような担体1と、この担体1を収納する収納空間20と、収納空間20に連通する注入口22および排出口23とを備える容器21とを有している。
【0085】
容器21内(収納空間20)に収納する担体1の量は、特に限定されないが、処理する液体(被処理液)の容積500mL当り0.3〜5g程度であるのが好ましく、0.5〜3g程度であるのがより好ましい。担体1の量が少な過ぎると、担体1に付着できるレジオネラ菌の数が制限され、レジオネラ菌の濃縮倍率(緩衝液4中への回収率)が低くなるおそれがあり、一方、担体1の量が多過ぎると、担体1が被処理液および緩衝液(溶離液)中で移動し難くなることから、これらの液体と担体1との接触が不十分となり、レジオネラ菌の濃縮倍率が低下するおそれがある。
【0086】
なお、このようなキット2は、担体1が、予め容器21に収納された形態のものであってもよく、容器21とは、個別に担体1が添付され、使用時に担体1を容器21に投入して使用する形態のものであってもよい。
【0087】
容器21は、ほぼ円筒状をなす側壁部211と、ほぼ円盤状をなす上壁部212および底壁部213と有している。
【0088】
側壁部211は、蛇腹状(ベローズ状)をなし、図3に示すように、折り畳み可能となっている。これにより、キット2の保管時において、スペースの削減を図ることができる。
【0089】
また、上壁部212および底壁部213には、それぞれ、収納空間20に連通する注入口22および排出口23が設けられている。
【0090】
これらの注入口22および排出口23は、それぞれ、栓24、25によって閉塞(封止)可能になっている。
【0091】
なお、側壁部211の形状は、円筒状に限定されず、例えば、立方体、直方体、袋状等のいかなるものであってもよいが、担体1と、被処理液および緩衝液と担体1との接触を均一に行うことができ、また強度に優れることから円筒状であるのが好ましい。
【0092】
容器21(側壁部211、上壁部212および底壁部213)の構成材料としては、特に限定されず、例えば、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフェニレンオキサイド、熱可塑性ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリオキシエチレン、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、アセタール樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。また、容器21の構成材料には、例えば、各種セラミックス材料、各種金属材料等を用いることもできる。
【0093】
また、収納空間20内(容器21の底壁部213)には、排出口23を塞ぐように、フィルタ26が設けられている。
【0094】
このフィルタ26は、担体1の通過を阻止し、かつ、被処理液および緩衝液を通過させ得る開口径を有するものである。この開口径は、担体1の平均粒径の0.1〜90%程度であるのが好ましく、担体1の平均粒径の1〜50%程度であるのがより好ましい。開口径が小さ過ぎると、被処理液および緩衝液の組成、粘度等によっては、これらの液体の通過抵抗が大きくなり、処理に要する時間が長くなるおそれがあり、一方、開口径が大き過ぎると、担体1がフィルタ26を容易に通過してしまうおそれがある。
【0095】
次に、図2に示すキット2を用いて行うレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法(本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第1実施形態)について説明する。
【0096】
図4は、レジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第1実施形態を説明するための模式図である。なお、以下の説明では、図4中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0097】
[1]被処理液を担体に接触させる工程(第1の工程)
まず、レジオネラ菌(レジオネラ属菌)を含む被処理液3を用意する。
【0098】
被処理液3としては、特に限定されないが、浴槽水(温泉水)、クーリングタワーの冷却水、加湿用水、温度50℃以下の貯湯タンク水、河川水、湖沼水、井戸水、プールの水等が挙げられるが、浴槽水(特に、循環式浴槽水)が好適である。近年、浴槽水中でのレジオネラ菌の発生が問題となっている。かかる問題を解決するためには、レジオネラ菌が増殖する前に検出することが重要となる。本発明を用いれば、仮に、浴槽水中に存在するレジオネラ菌の数が少ない場合でも、効率よくレジオネラ菌を濃縮及び溶出でき、確実に検出することができる。このため、浴槽水に対する早期の対処が可能となる。
【0099】
次に、被処理液3を、担体1に接触させることにより、担体1にレジオネラ菌を付着させる。
【0100】
具体的には、まず、前述したようなキット2を用意し、容器21の排出口23を栓25で閉塞し、注入口22を開放しておく。なお、容器21(収納空間20)内には、担体1が収納された状態とする。
【0101】
次いで、この収納空間20内に、注入口22を介して被処理液3を注入(供給)する(図4中(a)参照)。
【0102】
次いで、注入口22を栓24で閉塞し、容器21を振盪(揺動)、攪拌、超音波の付与等することにより、被処理液3中に担体1を懸濁させる(図4中(b)参照)。これにより、担体1に被処理液3を接触させ、担体1の表面にレジオネラ菌を付着させる。
【0103】
ここで、担体1は、少なくとも表面付近がレジオネラ菌に対して親和性の高いリン酸カルシウム系化合物を主材料として構成されているので、レジオネラ菌が効率よく付着する。
【0104】
本実施形態では、この被処理液3を担体1に接触させる時間は、500mL当り1〜240分程度であるのが好ましく、10〜180分程度であるのがより好ましい。この時間が短過ぎると、担体1に付着するレジオネラ菌の数が少なくなり、十分にレジオネラ菌を回収できないおそれがあり、一方、この時間を前記上限値を超えて長くしても、それ以上の効果の増大が見込めないばかりか、レジオネラ菌が崩壊してしまい、後述する工程においてレジオネラ菌の検出を行う場合には、その検出を正確に行うことが困難となるおそれがある。
【0105】
また、この際(処理時)の被処理液3の温度は、70℃以下であるのが好ましく、50℃以下であるのがより好ましく、5〜50℃程度であるのがさらに好ましい。処理時の被処理液3の温度が低く過ぎると、レジオネラ菌の種類等によっては、担体1にレジオネラ菌を効率よく付着させることができないおそれがあり、一方、処理時の被処理液3の温度を前記上限値を超えて高くしても、それ以上の効果の増大が見込めないばかりか、レジオネラ菌が崩壊して(破壊されて)しまい、後述する工程においてレジオネラ菌の検出を行う場合には、その検出を正確に行うことが困難となるおそれがある。
【0106】
次いで、栓25を取り外して、容器21の排出口23を開放する。これにより、容器21内の被処理液3を排出口23を介して排出する。
【0107】
なお、担体1はフィルタ26を通過することができないため、収納空間20には、レジオネラ菌が付着した担体1が残存することとなる(図4中(c)参照)。
次いで、排出口23を栓25で閉塞する。
【0108】
[2]緩衝液を担体に接触させる工程(第2の工程)
次に、レジオネラ菌が付着した担体1に、濃度25〜500mM(特に、50〜300mM)で緩衝剤を含有する緩衝液4を接触させ、担体1に付着したレジオネラ菌を緩衝液4中に遊離させて溶出する。
【0109】
具体的には、まず、栓24を取り外して、容器21の注入口22を開放する。
次いで、収納空間20内に、注入口22を介して緩衝液4を注入(供給)する(図4(d)参照。)。
【0110】
次いで、注入口22を栓24で閉塞し、容器21を振盪(揺動)、攪拌、超音波の付与等することにより、緩衝液4中に担体1を懸濁させる(図4中(e)参照)。これにより、担体1に緩衝液4を接触させ、担体1の表面からレジオネラ菌を遊離させる(剥がす)。
【0111】
担体1に緩衝液4を接触させると、例えば、担体1の表面の荷電状態が変化すること等が一要因となり、担体1に付着していたレジオネラ菌が担体1から効率よく遊離する。
【0112】
ここで、本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法では、緩衝液4の緩衝剤の濃度が25〜500mMとされていることが重要である。担体1に付着したレジオネラ菌は、緩衝液4が高濃度である程、効率よく担体1から遊離する。そして、緩衝液4の緩衝剤の濃度が低過ぎると、担体1から遊離するレジオネラ菌の数が少なく、十分にレジオネラ菌を溶出(緩衝液4中に回収)できない。一方、緩衝液4の緩衝剤の濃度が高過ぎると、溶出されたレジオネラ菌を検出する際に、緩衝剤が検出系(測定系)に影響を及ぼし、正確な検出結果が得られなかったり、検出結果の再現性が低くなる。
【0113】
用いる緩衝液4のpHは、6.5〜8.5であるのが好ましく、7〜8であるのがより好ましい。緩衝液4のpHが、前記範囲から外れる場合、すなわち緩衝液4の液性がアルカリ性または酸性である場合には、溶出されたレジオネラ菌を検出する際に、検出系の種類等によっては、正確な検出結果が得られないおそれがある。特に、検出法としてイムノクロマト法を用いる場合には、抗原抗体反応が阻害され、正確な測定結果が得られない可能性が高くなる傾向にある。
【0114】
また、緩衝液4は、等張液(レジオネラ菌の細胞内液の浸透圧とほぼ等しい浸透圧の液体)であるのが好ましい。これにより、浸透圧の違いによるレジオネラ菌の崩壊を防止することもできる。
【0115】
このような緩衝液4としては、例えば、トリエタノールアミン塩酸−水酸化ナトリウム緩衝液、ベロナ−ル(5,5−ジエチルバルビツル酸ナトリウム)−塩酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、グリシルグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール−塩酸緩衝液、ジエタノールアミン−塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、ホウ酸ナトリウム−塩酸緩衝液、グリシン−水酸化ナトリウム緩衝液、炭酸ナトリウム−炭酸水素ナトリウム緩衝液、ホウ酸ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、炭酸水素ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム−リン酸ニナトリウム緩衝液、リン酸二ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、塩化カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、ブリトン−ロビンソン緩衝液、GTA緩衝液等の各種緩衝液(緩衝剤を含有する液体)が挙げられる。これにより、レジオネラ菌をより確実に担体1から遊離させることができるとともに、レジオネラ菌の崩壊をより確実に防止することができる。その結果、レジオネラ菌の検出をより確実に行うことができる。
【0116】
また、これらの緩衝液4の中でも、特に、リン酸緩衝液を用いるのが好ましい。これにより、レジオネラ菌の濃縮及び溶出をより短時間で確実に行うことができる。
【0117】
また、緩衝液4中に遊離するレジオネラ菌を生存した状態で溶出(緩衝液4中に回収)する場合には、緩衝液4中には、レジオネラ菌の成育に必要な各種添加物を添加するようにしてもよい。これにより、レジオネラ菌の生存数が低減するのを効果的に防止することができる。
【0118】
このような添加物としては、例えば、グルコース、各種ビタミン類、グルタミン等のようなアミノ酸類、NaCl、KClのような電解質等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0119】
本実施形態では、この緩衝液4を担体1に接触させる時間は、2.5mL当り0.1秒〜5分程度であるのが好ましく、1秒〜1分程度であるのがより好ましい。この時間が短過ぎると、緩衝液4中に十分にレジオネラ菌を溶出できないおそれがあり、一方、この時間を前記上限値を超えて長くしても、それ以上の効果の増大が見込めないばかりか、レジオネラ菌が崩壊して(破壊されて)しまい、後述する工程においてレジオネラ菌の検出を行う場合には、その検出を正確に行うことが困難となるおそれがある。
【0120】
また、この際(処理時)の緩衝液4の温度は、70℃以下であるのが好ましく、50℃以下であるのがより好ましく、5〜50℃程度であるのがさらに好ましい。処理時の緩衝液4の温度が低く過ぎると、レジオネラ菌の種類等によっては、レジオネラ菌を担体1から効率よく遊離させることができないおそれがあり、一方、処理時の緩衝液4の温度を前記上限値を超えて高くしても、それ以上の効果の増大が見込めないばかりか、レジオネラ菌が崩壊して(破壊されて)しまい、後述する工程においてレジオネラ菌の検出を行う場合には、その検出を正確に行うことが困難となるおそれがある。
【0121】
次いで、栓25を取り外して、容器21の排出口23を開放する。これにより、容器21内の緩衝液4を、排出口23を介して排出して回収する(図4中(f)参照)。
【0122】
ここで、本工程[2]において用いる緩衝液4の量を、前記工程[1]の被処理液3の量よりも少ない量とすることにより、緩衝液4の単位体積当りのレジオネラ菌の数を、被処理液3のそれよりも大きくすることができる。すなわち、レジオネラ菌の濃縮を確実に行うことができる。このため、仮に被処理液3中のレジオネラ菌の数が少なく、その存在を確認(検出)できない場合でも、緩衝液4の容量を適宜設定することにより、緩衝液4中において、レジオネラ菌の存在を確認できるようになる。
【0123】
なお、このような緩衝液4による処理は、複数回に分けて行ってもよい。これにより、緩衝液4中に回収されるレジオネラ菌の収率をより高くすることができる。
【0124】
<第2実施形態>
次に、本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第2実施形態について説明する。
【0125】
以下、第2実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法について、前記第1実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0126】
ここで、第2実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法で使用されるレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットについて説明する。
【0127】
図5は、第2実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法で使用されるレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットを示す模式図(内部透視図)である。なお、以下の説明では、図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0128】
図5に示すカラム(キット)2’は、ほぼ円筒状をなすカラム本体(管体)21’の内腔部内に、2枚のフィルタ26a’、26b’が設けられ、カラム本体21’およびフィルタ26a’、26b’により、前記担体1を充填(収納)する充填空間20’が画成されている。
【0129】
このカラム2’では、カラム本体21’の図5中上側の端部が注入口22’を構成し、下側の端部が排出口23’を構成する。
【0130】
また、フィルタ26a’、26b’には、それぞれ、前記第1実施形態で説明したフィルタ26と同様のものを用いることができる。
【0131】
次に、図5に示すカラム2’を用いて行うレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法(本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第2実施形態)について説明する。
【0132】
図6は、レジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第2実施形態を説明するための模式図である。なお、以下の説明では、図6中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0133】
[1]被処理液を担体に接触させる工程(第1の工程)
まず、前述したようなカラム2’を用意する。なお、カラム本体21’(充填空間20’)内には、担体1を収納した状態とする。
【0134】
次に、カラム2’の充填空間20’を、緩衝液によって満たす。
具体的には、充填空間20’内に、注入口22’を介して緩衝液を注入(供給)する。
【0135】
注入口22’から注入された緩衝液は、自重によりフィルタ26b’を通過して、充填空間20’内に供給され、充填空間20’内を下方に向かって通過する。そして、充填空間20’の下端に到達した緩衝液は、フィルタ26a’を通過して、徐々に排出口23’から排出される。
そして、充填空間20’内が緩衝液により満たされると、緩衝液の注入を停止する。
【0136】
この緩衝液には、次工程[2]で用いる緩衝液4と同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。
【0137】
次に、前記第1実施形態と同様のレジオネラ菌を含む被処理液3を、担体1に接触させることにより、担体1にレジオネラ菌を付着させる。
【0138】
具体的には、まず、排出口23’の下方に、排出口23’から排出される液体を回収するための回収用容器27a’を配置する。
【0139】
次に、充填空間20’内に、注入口22’を介して被処理液3を注入(供給)する(図6(a)参照)。
【0140】
注入口22’から注入された被処理液3は、自重により、フィルタ26b’を通過して、充填空間20’内に供給される。充填空間20’内に供給された被処理液3は、この充填空間20’内を下方に向かって通過しながら担体1と接触し、担体1の表面にレジオネラ菌が付着する。
【0141】
そして、担体1に付着しなかった被処理液3の成分は、充填空間20’の下端に到達し、フィルタ26a’を通過して、徐々に排出口23’から排出され、回収用容器27a’に回収される。
【0142】
そして、所望量の被処理液3を収納空間20内に通液したところで、被処理液3の注入を停止する。
【0143】
ここで、担体1は、少なくとも表面付近がレジオネラ菌に対して親和性の高いリン酸カルシウム系化合物を主材料として構成されているので、レジオネラ菌が効率よく付着する。
【0144】
また、この際(処理時)の被処理液3の温度は、前記第1実施形態と同様とするのが好ましい。
【0145】
[2]緩衝液を担体に接触させる工程(第2の工程)
次に、レジオネラ菌が付着した担体1に、前記第1実施形態と同様の緩衝液4を接触させ、担体1に付着したレジオネラ菌を緩衝液4中に遊離させて回収する。
具体的には、まず、回収用容器27a’を、空の回収用容器27b’と交換する。
【0146】
次に、緩衝液4を、注入口22’を介して充填空間20’内に注入(供給)する(図6(b)参照)。
【0147】
注入口22’から注入された緩衝液4は、自重により、フィルタ26b’を通過して、充填空間20’内に供給される。充填空間20’内に供給された緩衝液4は、この充填空間20’内を下方に向かって通過しながら担体1と接触する。
【0148】
担体1に緩衝液4が接触すると、例えば、担体1の表面の荷電状態が変化すること等が一要因となり、担体1に付着していたレジオネラ菌が担体1から効率よく遊離する。
【0149】
そして、レジオネラ菌が浮遊する緩衝液4は、充填空間20’の下端に到達した後、フィルタ26a’を通過して徐々に排出口23’から排出され、回収用容器27b’に回収される。
【0150】
そして、所望量の緩衝液4が充填空間20’を通過したところで、緩衝液4の注入を停止する。
【0151】
ここで、緩衝液4の種類、浸透圧、温度、添加物の種類は、前記第1実施形態と同様とするのが好ましい。
【0152】
このような第2実施形態のキット(カラム2’)によっても、前記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0153】
<第3実施形態>
次に、本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第3実施形態について説明する。
【0154】
以下、第3実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法について、前記第1および第2実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0155】
ここで、第3実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法で使用されるレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットについて説明する。
【0156】
図7は、第3実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法で使用されるレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットを示す模式図(内部透視図)である。なお、以下の説明では、図7中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0157】
第3実施形態では、カラム本体21’の構成(形状)が異なる以外は、前記第2実施形態と同様である。
【0158】
すなわち、図7に示すカラム2’では、カラム本体21’の図中上側の端部の内径および外径が縮径しており、当該部分が注入口22’を構成している。
【0159】
そして、注入口22’のサイズ(内径)が、通常のシリンジ100の先端部(口部)110を装着し得るように設定されている。
【0160】
シリンジ100をカラム本体21’に装着(接続)し、シリンジ100を押圧操作することにより、シリンジ100内に収納された液体をカラム本体21’内に注入することができる。これにより、液体をカラム本体21’(充填空間20’)内に通液する際の流速(速度)を、調整することができる。
【0161】
この場合、緩衝液4を充填空間20’(内腔部)内に通液する際の流速と、被処理液3を充填空間20’(内腔部)内に通液する際の流速とは、次の関係を満足するように設定するのが好ましい。
【0162】
すなわち、緩衝液4を充填空間20’内に通液する際の流速A[mL/min]とし、被処理液3を充填空間20’内に通液する際の流速をB[mL/min]としたとき、A/Bが0.5〜3程度なる関係を満足するのが好ましく、0.5〜1.5程度なる関係を満足するのがより好ましい。これにより、レジオネラ菌を担体1に確実に付着させることができ、かつ、担体1から確実に遊離させて溶出(緩衝液4中に回収)することができる。すなわち、被処理液3中からのレジオネラ菌の濃縮倍率(回収率)を確実に上昇させることができる。なお、A/Bを前記下限値を下回るように設定しても、すなわち、緩衝液4を充填空間20’内に通液する際の流速を必要以上に遅くしても、レジオネラ菌の濃縮及び溶出に長時間を要するだけで、それ以上のレジオネラ菌の濃縮倍率の上昇は期待できない。
【0163】
具体的には、被処理液3を充填空間20’内に通液する際の流速は、1.5〜5mL/min程度であるのが好ましく、2〜4mL/min程度であるのがより好ましい。一方、緩衝液4を充填空間20’内に通液する際の流速は、0.75〜15mL/min程度であるのが好ましく、1〜6mL/min程度であるのがより好ましく、1〜5mL/min程度あるのがさらに好ましい。これにより、レジオネラ菌を確実に溶出することができる。
【0164】
また、この場合、カラム本体21’内を通過した被処理液3および緩衝液4を溶出した後、空気等の気体を吸引したシリンジ100をカラム2’に装着し、シリンジ100内の気体をカラム本体21’内に注入するようにしてもよい。この気体の注入により生じる圧力によって、カラム本体21’内に残存する液体が排出口23’から押し出され、回収用容器27b’に回収される。これにより、レジオネラ菌の濃縮倍率(回収率)をより上昇させることができる。
【0165】
注入する気体は、空気や、窒素、アルゴンガス等の不活性ガスであるのが好ましい。これにより、気体との接触によって、担体やレジオネラ菌がダメージを受けるのが防止される。
【0166】
このような第3実施形態のキット(カラム2’)によっても、前記第1および第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0167】
<第4実施形態>
次に、本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第4実施形態について説明する。
【0168】
以下、第4実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法について、前記第1実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0169】
ここで、第4実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法で使用されるレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットについて説明する。
【0170】
図8は、第4実施形態のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法で使用されるレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットを示す模式図である。なお、以下の説明では、図8中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0171】
図8に示すバッグ(キット)2”は、前記担体1と、網状の袋21”とを有し、この袋21”内に担体1を収納して使用するものである。
【0172】
また、袋21”は、直方体状をなし、その一方の長辺部のほぼ中央には、バッグ2”を用いて処理操作を行う際に、手指等で把持する紐(線状体または帯状体)22”が固定されている。なお、袋21”の全体形状は、直方体状に限らず、例えば、立方体状、三角錐状(角錐状)、円錐状など如何なるものであってもよい。
【0173】
この袋21”の目開きは、担体1の平均粒径より小さく設定されていればよく、特に限定されないが、20〜85μm程度であるのが好ましく、40〜80μm程度であるのがより好ましい。袋21”の目開きを前記範囲とすることにより、袋21”内から担体1が散逸することや、被処理液中にレジオネラ菌が存在する場合には、そのレジオネラ菌の袋21”への出入が阻害されること等を確実に防止することができる。なお、レジオネラ菌の長さは、2〜5μm程度である。
【0174】
また、袋21”の構成材料には、前記第1実施形態において容器21で挙げた樹脂材料と同様のものを用いることができる。
【0175】
次に、図8に示すキット2”を用いて行うレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法(本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第4実施形態)について説明する。
【0176】
図9は、レジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第4実施形態を説明するための模式図である。なお、以下の説明では、図9中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0177】
[1]被処理液を担体に接触させる工程(第1の工程)
まず、前述したようなバッグ2”を用意する。なお、袋21”内には、担体1を収納した状態とする。
【0178】
次に、前記第1実施形態と同様のレジオネラ菌を含む被処理液3を、担体1に接触させることにより、担体1にレジオネラ菌を付着させる。
【0179】
具体的には、まず、被処理液3を収納した容器27a”を用意し、被処理液3中にバッグ2”を浸漬する(図9(a)参照)。
【0180】
これにより、被処理液3は、袋21”の開口を通過して袋21”内に浸入して、担体1と接触し、担体1の表面にレジオネラ菌が付着する。
【0181】
そして、被処理液3中にバッグ2”を所定時間浸漬した後、被処理液3中からバッグ2”を取り出す。
【0182】
ここで、担体1は、少なくとも表面付近がレジオネラ菌に対して親和性の高いリン酸カルシウム系化合物を主材料として構成されているので、レジオネラ菌が効率よく付着する。
【0183】
被処理液3中へバッグ2”を浸漬する時間は、2.5時間以上であるのが好ましく、7.5時間以上であるのがより好ましい。前記範囲の浸漬時間とすることにより、被処理液3中に存在するレジオネラ菌の数が比較的少ない場合でも、担体1にレジオネラ菌を十分に付着させることができ、被処理液3中のレジオネラ菌の検出(濃縮)を確実に行うことができる。なお、浸漬時間の上限値は、特に限定されないが、25時間以下とするのが好ましい。上限値を超えて浸漬時間を長くしても、担体1に付着するレジオネラ菌の菌数のそれ以上の増大が期待できない。
【0184】
また、この際(処理時)の被処理液3の温度は、前記第1実施形態と同様とするのが好ましい。
【0185】
また、この浸漬は、バッグ2”および被処理液3の少なくとも一方に、振動または揺動を与えつつ行うのが好ましい。これにより、効率よくレジオネラ菌を担体1に付着させることができる。
【0186】
なお、本工程[1]は、被処理液3中にバッグ2”を浸漬する方法に代えて、バッグ2”に被処理液3を液滴として供給(噴霧またはシャワー)する方法を用いてもよい。ただし、前者の方法を用いることにより、担体1への被処理液3の接触をより簡便な操作で行うことができるという利点がある。
【0187】
[2]緩衝液を担体に接触させる工程(第2の工程)
次に、レジオネラ菌が付着した担体1に、緩衝液4を接触させ、担体1に付着したレジオネラ菌を緩衝液4中に遊離させて回収する。
【0188】
具体的には、まず、空の回収用容器(例えば、シャーレ等)27b”内に、バッグ2”を配置(載置)し、このバッグ2”に緩衝液4を液滴として供給(噴霧またはシャワー)する(図9(b)参照)。
【0189】
これにより、供給された緩衝液4は、袋21”の開口を通過して袋21”内に浸入して、担体1と接触する。
【0190】
担体1に緩衝液4が接触すると、例えば、担体1の表面の荷電状態が変化すること等が一要因となり、担体1に付着していたレジオネラ菌が担体1から効率よく遊離する。
【0191】
そして、レジオネラ菌が浮遊する緩衝液4が、袋21”の開口を通過して袋21”外に流出して回収用容器27b”内に徐々に貯留する。
【0192】
ここで、緩衝液4の種類、浸透圧、温度、添加物の種類は、前記第1実施形態と同様とするのが好ましい。また、緩衝液4の使用量も、前記第1実施形態と同様とするか、それ以下の比較的少ない緩衝液の量が好ましい。具体的な緩衝液の量としては、500〜1200μL程度が好ましく、700〜900μL程度がより好ましい。
【0193】
なお、本工程[2]は、バッグ2”に緩衝液4を液滴として供給(噴霧またはシャワー)する方法に代えて、緩衝液4中にバッグ2”を浸漬する方法を用いてもよい。ただし、前者の方法を用いることにより、比較的少ない緩衝液4の使用量で、担体1からレジオネラ菌を効率よく遊離させることができるという利点がある。
【0194】
このような第4実施形態のキット(バッグ2”)によっても、前記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0195】
以上、本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法およびレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットについて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではなく、必要に応じて任意の工程が追加されてもよい。
【0196】
なお、本発明は、レジオネラ菌のみならず、例えば、大腸菌O157、黄色ぶどう球菌、コレラ菌、炭疽菌等の微生物を被処理液中から濃縮して溶出する場合に適用することができる。
【0197】
また、レジオネラ菌を濃縮及び溶出する目的は、レジオネラ菌を検出する目的に限定されるものではない。例えば、前記第2実施形態のキットは、公衆浴場やプール等の水を循環して使用する施設において、循環ラインの途中に設置し、循環水中からレジオネラ菌を除去する用途として用いることができる。また、前記第4実施形態のキットは、前記施設において、浴槽内やプール内に貯留される水中に浸漬しておけば、同様に、貯留水からレジオネラ菌を除去する用途として用いることができる。なお、いずれのキットにおいても、前記第2の工程においてレジオネラ菌を遊離させることにより、繰り返して利用することが可能となる。
【0198】
また、本発明を用いれば、被処理液中からレジオネラ菌を濃縮及び溶出する目的に限らず、単に、被処理液中からレジオネラ菌を回収する場合にも適用することができる。
【実施例】
【0199】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1−1.キットの作製
平均粒径80μmのハイドロキシアパタイト多孔質粒子1g(比表面積40m/g、容積:約1.6mL)を、容量:20mLのエコノパックカラム(バイオラッド社製)に充填して、図7に示すようなカラム(キット)を作製した。なお、2枚のフィルタ開口径は、それぞれ、10μmである。
【0200】
1−2.レジオネラ菌の濃縮
レジオネラ菌を含有する浴槽水(被処理液)を用意した。
【0201】
(実施例1)
まず、25±1℃、pH7.5、10mMのリン酸緩衝液(KHPO−NaHPO)を、キットの容器内を通過させ、カラム本体内をリン酸緩衝液で満たした。
【0202】
次に、25±1℃の浴槽水(原液):500mLを、注入口からカラム本体内に供給し、排出口から流出する浴槽水を回収した。このとき、浴槽水の通過時間は、約180分であり、通液の流速は、約2.7mL/minである。
【0203】
次に、25±1℃、pH7.5、50mMのリン酸緩衝液(KHPO−NaHPO):2.5mLを、注入口からカラム本体内に注入し、排出口から流出するリン酸緩衝液(回収液)を回収した。このとき、リン酸緩衝液の通過時間は、約50秒であり、リン酸緩衝液の流速は、約2mL/minである。
【0204】
(実施例2〜4)
リン酸緩衝液の濃度を、表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして、レジオネラ菌を濃縮した。
【0205】
(実施例5〜8)
リン酸緩衝液の濃度および流速を、表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして、レジオネラ菌を濃縮した。
【0206】
(比較例1、2)
リン酸緩衝液の濃度を、表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして、レジオネラ菌を濃縮した。
【0207】
1−3.評価
原液および回収液の一部を、それぞれ採取し、各サンプルに対して、それぞれレジオネラ菌の菌数測定を培養法により行った。また、回収液の一部について、イムノクロマト法により菌体の検出を行った。
【0208】
培養法による菌数の測定結果を図10に、イムノクロマト法による菌体の検出結果を表1に示す。また、流速と、濃縮倍率の関係を図11に示す。ここで、図11においてグラフの縦軸の数値は、単位体積あたり、回収液中の菌数が、原液中の菌数の何倍になったかを表し、数値が大きい程、濃縮の程度が大きいことを示す。
【0209】
【表1】

【0210】
なお、イムノクロマト法による菌体の検出結果において、「+」は陽性、「±」は弱陽性(疑陽性)、「−」は陰性を示す。
【0211】
図10および表1に示すように、各実施例の回収液中には、培養法およびイムノクロマト法のいずれの方法によっても、レジオネラ菌が検出された。
【0212】
これに対して、比較例1の回収液中には、培養法およびイムノクロマト法のいずれの方法によっても、レジオネラ属菌がほとんど検出されなかった。
【0213】
また、比較例2の回収液中には、培養法ではレジオネラ菌が検出されたものの、イムノクロマト法ではレジオネラ菌が検出されなかった。これは、イムノクロマト法では、回収液中に高濃度に存在する緩衝剤により抗原抗体反応が阻害され、これにより菌の検出が阻害されたからと考えられる。
【0214】
また、各実施例では、それぞれ、原液単位体積当りのレジオネラ菌の菌数に対して、回収液単位体積当りのレジオネラ菌の菌数は、明らかに多かった。
【0215】
このことから、濃度25〜500mMで緩衝剤を含有する緩衝液を用いること(本発明)により、レジオネラ菌が担体から効率よく遊離し、緩衝液(回収液)中に濃縮及び溶出できること、また、濃縮された菌をイムノクロマ法により検出可能であることが明らかとなった。
【0216】
また、図11に示すように、レジオネラ菌の濃縮倍率は、緩衝液の流速が速くなる程、低くなる傾向が見られる。
【0217】
そして、緩衝液の流速を被処理液の流速の0.5〜3倍(特に、0.5〜1.5倍)とすることにより、レジオネラ菌の濃縮倍率が上昇することが明らかとなった。
【0218】
また、ナイロン粒子(基材)とハイドロキシアパタイト粒子とを用意し、これらをNARAハイブリダイゼーションシステムNHS−1((株)奈良機械製作所製、定格動力5.5kW、定格電流23A)に投入し、この装置を6400回転/分、45℃で5分間稼動させた。これにより、図1に示すような担体を得た。なお、得られた担体は、その表面付近が多孔質なものであった。
【0219】
そして、この担体を用いて、前記実施例1〜8および比較例1、2と同様にして、浴槽水からレジオネラ菌の濃縮を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
【0220】
2−1.キットの作製
平均粒径100μmのハイドロキシアパタイト多孔質粒子1g(比表面積40m/g)を、目開き76μmのナイロン(ポリアミド)製の袋に収納して、図8に示すようなバッグ(キット)Aを作製した。なお、キットAは、6個作製した。
また、目開き42μm、20μmのナイロン製の袋を用いて、それぞれ、キットBおよびCを作製した。
【0221】
2−2.レジオネラ菌の濃縮
レジオネラ菌液を、pH6.8、1mMのリン酸緩衝液で1000倍に希釈して、被処理液とした。
【0222】
(実施例11)
まず、ビーカー内に被処理液500mLを収納し、この被処理液(25±1℃)にキットAを振盪しつつ浸漬した。
次に、2.5時間経過後、被処理液からキットAを取り出し、余分な水分を除去した。
次に、シャーレ内にキットAを配置し、25±1℃、pH7.5、250mMのリン酸緩衝液800μLをシャワー状に供給した後、3分間放置した。その後、シャーレからキットAを取り出した。
【0223】
(実施例12〜16)
被処理液へのキットAの浸漬時間を、表2に示すように変更した以外は、前記実施例11と同様にして、レジオネラ菌を濃縮した。
【0224】
(実施例17)
キットBを用い、被処理液へのキットBの浸漬時間を、表2に示すようにした以外は、前記実施例11と同様にして、レジオネラ菌を濃縮した。
【0225】
(実施例18)
キットCを用い、被処理液へのキットCの浸漬時間を、表2に示すようにした以外は、前記実施例11と同様にして、レジオネラ菌を濃縮した。
【0226】
2−3.評価
各シャーレ内のリン酸緩衝液(回収液)を100μL採取して、それぞれイムノクロマト法により菌体の検出を行った。
イムノクロマト法による菌体の検出結果を表2に示す。
【0227】
【表2】

【0228】
なお、イムノクロマト法による菌体の検出結果において、「+」は陽性、「±」は弱陽性(疑陽性)、「−」は陰性を示す。
【0229】
表2に示すように、同一のキットAを用いた場合、浸漬時間を7.5時間以上にすることにより、より正確にレジオネラ菌の濃縮(検出)を行い得ることが確認された。
【0230】
また、袋の目開き20〜85μmの範囲では、レジオネラ菌の濃縮(検出)結果に差異は確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0231】
【図1】本発明で用いられる担体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第1実施形態で使用されるキットを示す模式図(内部透視図)である。
【図3】図2に示すキットが折り畳まれた状態を示す模式図である。
【図4】本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第1実施形態を説明するための模式図である。
【図5】本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第2実施形態で使用されるレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットを示す模式図(内部透視図)である。
【図6】本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第2実施形態を説明するための模式図である。
【図7】本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第3実施形態で使用されるキットを示す模式図(内部透視図)である。
【図8】本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第4実施形態で使用されるレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットを示す模式図である。
【図9】本発明のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法の第4実施形態を説明するための模式図である。
【図10】各液体中のレジオネラ菌の菌数を示すグラフである。
【図11】リン酸緩衝液の流速と、濃縮倍率の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0232】
1 担体
11 基材
12 リン酸カルシウム系化合物層
13 粒子
2 キット
20 収納空間
21 容器
211 側壁部
212 上壁部
213 底壁部
22 注入口
23 排出口
24、25 栓
26 フィルタ
2’ カラム
20’ 充填空間
21’ カラム本体
22’ 注入口
23’ 排出口
26a’、26b’ フィルタ
27a’、27b’ 回収用容器
2” バッグ
21” 袋
22” 紐
27a” 容器
27b” 回収用容器
3 被処理液
4 緩衝液
100 シリンジ
110 先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジオネラ菌を含有する被処理液中から、前記レジオネラ菌を濃縮及び溶出する方法であって、
少なくとも表面付近が、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された担体に、前記被処理液を接触させることにより、前記担体に前記レジオネラ菌を付着させる第1の工程と、
前記レジオネラ菌が付着した前記担体に、濃度25〜500mMで緩衝剤を含有する緩衝液を接触させることにより、前記緩衝液中に前記レジオネラ菌を遊離させて回収する第2の工程とを有することを特徴とするレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項2】
前記被処理液を前記担体に接触させる際の前記被処理液の温度は、70℃以下である請求項1に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項3】
前記緩衝液の量は、前記被処理液の量より少ない請求項1または2に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項4】
前記緩衝液は、リン酸緩衝液である請求項1ないし3のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項5】
前記緩衝液のpHは、6.5〜8.5である請求項1ないし4のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項6】
前記緩衝液を前記担体に接触させる際の前記緩衝液の温度は、70℃以下である請求項1ないし5のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項7】
前記担体は、粒状のものである請求項1ないし6のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項8】
粒状の前記担体の平均粒径は、20〜5000μmである請求項7に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項9】
前記担体は、その少なくとも表面付近が多孔質なものである請求項1ないし8のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項10】
前記担体は、主として樹脂材料で構成された基材と、該基材の表面を覆うように設けられ、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された被覆層とを有するものである請求項1ないし9のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項11】
前記樹脂材料は、ポリアミドおよびエポキシ樹脂の少なくとも一方を主成分とするものである請求項10に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項12】
前記リン酸カルシウム系化合物は、ハイドロキシアパタイトを主成分とするものである請求項1ないし11のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項13】
前記担体は、その比表面積が5〜100m/gである請求項1ないし12のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項14】
前記被処理液は、浴槽水である請求項1ないし13のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項15】
前記第1の工程は、前記担体を、管体の内腔部内に充填した状態で、前記内腔部内に、前記被処理液を通液することにより行われる請求項1ないし14のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項16】
前記第2の工程は、前記被処理液が通液された前記管体の内腔部内に、前記緩衝液を通液することにより行われる請求項15に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項17】
前記緩衝液を前記内腔部内に通液する際の流速をA[mL/min]とし、前記被処理液を前記内腔部内に通液する際の流速をB[mL/min]としたとき、A/Bが0.5〜3なる関係を満足する請求項16に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項18】
前記緩衝液を前記内腔部内に通液する際の流速は、0.75〜15mL/minである請求項15ないし17のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項19】
前記第1の工程は、前記担体を収納した網状の袋を、前記被処理液中に浸漬することにより行われる請求項1ないし14のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項20】
前記第1の工程において、前記被処理液中へ前記担体を収納した袋を浸漬する時間は、2.5時間以上である請求項19に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項21】
前記第2の工程は、前記担体を収納した網状の袋に、前記緩衝液を液滴として供給することにより行われる請求項19または20に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法。
【請求項22】
請求項1ないし14のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法に使用するためのレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットであって、
少なくとも表面付近が、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された担体と、
該担体を収納する収納空間と、該収納空間に連通する注入口および排出口とを備える容器と、
前記収納空間内に、前記排出口を塞ぐように設けられたフィルタとを有することを特徴とするレジオネラ菌の濃縮及び溶出キット。
【請求項23】
前記容器は、その少なくとも一部が折り畳み可能となっている請求項22に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出キット。
【請求項24】
請求項15ないし18のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法に使用するためのレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットであって、
少なくとも表面付近が、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された担体と、
該担体を充填する内腔部と、該内腔部に連通する注入口および排出口とを備える管体と、
前記内腔部内に、前記排出口を塞ぐように設けられたフィルタとを有することを特徴とするレジオネラ菌の濃縮及び溶出キット。
【請求項25】
請求項19ないし21のいずれかに記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出方法に使用するためのレジオネラ菌の濃縮及び溶出キットであって、
少なくとも表面付近が、主としてリン酸カルシウム系化合物で構成された担体と、
該担体を収納する網状の袋とを有することを特徴とするレジオネラ菌の濃縮及び溶出キット。
【請求項26】
前記袋は、その目開きが20〜85μmである請求項25に記載のレジオネラ菌の濃縮及び溶出キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−296417(P2006−296417A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35780(P2006−35780)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】