説明

レジノイド砥石用ノボラック型フェノール樹脂組成物

【課題】特に精密砥石用途において有用であり、砥石の強度を低下させることなく、弾性率を低く維持し、研削性能が優れたレジノイド砥石を得ることができるノボラック型フェノール樹脂及び組成物を提供する。
【解決手段】ノボラック型フェノール樹脂及びアクリルポリマーを含有することを特徴とするレジノイド砥石用ノボラック型フェノール樹脂組成物であって、アクリルポリマーの含有量がノボラック型フェノール樹脂組成物全体に対して1〜25%であり、樹脂組成物がさらにヘキサメチレンテトラミンを含有するものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジノイド砥石の結合剤として使用されるノボラック型フェノール樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レジノイド砥石は、砥粒と、ウェッターと呼ばれる溶剤や液状のレゾール型フェノール樹脂とを混合して、さらに、クリオライト、硫化鉄など研削助剤となるようなフィラーと、粉末状のフェノール樹脂組成物を混合してコーテッドグレインを製造し、これを、コールドプレス、セミホットプレス、ホットプレスなどのプレス成形装置により成形し、得られた成形物を最高温度130〜230℃の乾燥装置で焼成することにより製造される。ここでフェノール樹脂組成物は、ウェッターとともにレジノイド砥石のバインダーとして使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記の粉末状のフェノール樹脂組成物としては、通常、ノボラック型フェノール樹脂と、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを配合したものが用いられている。ノボラック型フェノール樹脂としては、重量平均分子量が1000〜15000、分散度=3〜10、未反応フェノール類の含有量が0.1〜10重量%、2核体成分の含有量が7〜20重量%であるものが用いられることが多い。
【0004】
レジノイド砥石の強度を向上させて研削性能を向上させる努力は過去より行われてきた。
例えば、一般に、用いるフェノール樹脂の分子量を下げて流れ性を上げることで、砥石強度が向上することが知られている。
また、フェノール類に対するホルムアルデヒドの比率、すなわちモル比を上げる例が知られる。例えば、モル比1.5以上で反応させて得られるジベンジリックエーテル型フェノール樹脂と、フェノール類とを反応させることによりモノマーやダイマーの含有量が少ないフェノール樹脂が、このような用途にも適用できる。
【0005】
レジノイド砥石の中でも精密研削用の砥石用途では回転研磨時に砥石の振動が問題になり、研削性向上のためにはバインダー樹脂の低弾性化が必要になる。しかし、上記のように砥石強度を上げようとすると弾性率が高くなるため、砥石がバウンドして被研削面に砥粒によるキズが生じたり、研削効率が悪化するという問題があり、砥石強度と低弾性化は両立することが難しかった。
【0006】
【特許文献1】特開平08−081531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の砥石用粉末状ノボラック型フェノール樹脂で問題となっていた種々の問題を解決すべく検討の結果なされたものであり、特に精密砥石用途において有用であり、砥石の強度を低下させることなく、弾性率を低く維持し、研削性能が優れたレジノイド砥石を得ることができるノボラック型フェノール樹脂及び組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(3)により達成される。
(1) ノボラック型フェノール樹脂及びアクリルポリマーを含有することを特徴とするレジノイド砥石用ノボラック型フェノール樹脂組成物。
(2) アクリルポリマーの含有量がノボラック型フェノール樹脂組成物全体に対して1〜25%である上記(1)記載のレジノイド砥石用ノボラック型フェノール樹脂組成物。
(3) 樹脂組成物がさらにヘキサメチレンテトラミンを含有するものである上記(1)又は(2)に記載のレジノイド砥石用ノボラック型フェノール樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、砥石の強度を低下させることなく、弾性率を低く維持し、研削性能が優れたレジノイド砥石を得ることができるノボラック型フェノール樹脂及び組成物を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明のレジノイド砥石用ノボラック型フェノール樹脂及び組成物について説明する。
本発明のレジノイド砥石用ノボラック型フェノール樹脂(以下、単に「フェノール樹脂」ということがある)は、未反応フェノール類の含有量が1重量%以下、2核体成分の含有量が5重量%以下であることを特徴とする。
また、本発明の組成物は、上記ノボラック型フェノール樹脂と、ヘキサメチレンテトラミンとを含有することを特徴とする。
まず、本発明のフェノール樹脂について説明する。
【0011】
本発明のフェノール樹脂に用いるフェノール類は特に限定されないが、例えば、フェノール、オルソクレゾール、メタクレゾール、パラクレゾール、キシレノール、パラターシャリーブチルフェノール、パラオクチルフェノール、パラフェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシンなどのフェノール類から選ばれた少なくとも1種以上のフェノール類が挙げられ、通常、フェノール、クレゾールが多く用いられる。
【0012】
本発明のフェノール樹脂に用いるアルデヒド類は特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクロレイン等あるいはこれらの混合物であり、これらのアルデヒド類の発生源となる物質あるいはこれらのアルデヒド類の溶液を使用することも可能で、これらのアルデヒド類から選ばれた少なくとも1種以上のアルデヒド類が挙げられるが、通常はホルムアルデヒドが多く用いられる。
【0013】
ここでホルムアルデヒドとしては特に限定されないが、好ましくはホルムアルデヒド水溶液、パラホルムアルデヒド等あるいはこれらの混合物であり、これらのホルムアルデヒド類の発生源となる物質あるいはこれらのホルムアルデヒドの溶液を使用することも可能である。
次に、ノボラック型フェノール樹脂の触媒となる酸性物質としては、例えば、シュウ酸などの有機酸や塩酸、硫酸、燐酸などの鉱物酸、パラトルエンスルホン酸、パラフェノールスルホン酸などを使用することができる。またこれらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0014】
本発明のフェノール樹脂を合成する際に、上記フェノール類(P)とアルデヒド類(F)との仕込みモル比(F/P)は特に限定されないが、0.3〜3.0とすることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜2.0である。モル比が上記下限値より小さいと、反応が十分に行われず未反応のフェノール類が多量に残留したり、フェノール樹脂の収得量が少なくなったりすることがあり、上記上限値より大きいと、反応条件によっては反応が進みすぎてゲル化することがある。
【0015】
上記フェノール類とアルデヒド類との反応方法としては、特に限定されないが、反応の開始時において、フェノール類とアルデヒド類を全量一括して仕込み触媒を反応させてもよく、また、反応初期の発熱を抑えるため、フェノール類と触媒を混合してからアルデヒド類を逐次添加して反応させてもよい。
【0016】
上記の反応時において、消泡剤、界面活性剤等を反応安定化のために使用することは可能である。また、メタノール、アセトン等の有機溶剤を使用することも可能である。
上記反応終了後、触媒除去のために、相分離を利用して静置分離や遠心分離機等により取り除くことや、中和や水洗を行うことができる。その際、必要により、水や有機溶剤を添加することも可能である。有機ホスホン酸を含んだ水、あるいは、リン酸類水溶液は容易に相分離するため、比較的簡単に静置分離や遠心分離機等により取り除くことができ、除去後、再利用してもよい。中和は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、アンモニア、トリエチルアミン等の有機、無機のアルカリ性物質を使用できる。これらの除去工程により、反応物のpHを2〜12として、その後の未反応フェノール類の除去、又は、未反応フェノール類の除去時に熱による分解が起こらないようすることが望ましい。
【0017】
本発明に用いられるノボラック型フェノール樹脂の未反応フェノール類の含有量は、ノボラック型フェノール樹脂全体に対して5.0重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは1.0重量%以下である。こうすることで、未反応フェノールに起因する樹脂加工時の臭気を低減でき、作業環境を良好なものにすることができると共に緒物性を良好に維持することができる。
【0018】
本発明のフェノール樹脂の分子量については、特に限定されない。コーテッドグレインを製造するときの作業性、コーテッドグレインの保存性や硬化性を考慮すると、本発明においては、樹脂の分子量より軟化点が重要である。樹脂の軟化点は、70〜150℃が好ましく、より好ましくは90〜140℃である。軟化点が上記下限値より低いと、粉末化した樹脂あるいはコーテッドグレインがブロッキングを生じるなどの問題が生じることがある。軟化点が上記上限値を越えると、硬化剤であるヘキサメチレンテトラミンの分解温度より高いため、加熱時に樹脂が溶融する以前にヘキサメチレンテトラミンが分解し硬化剤として機能しない場合がある。
【0019】
次に、本発明の組成物について説明する。本発明の組成物は、上記に説明したフェノール樹脂、熱可塑性樹脂と、ヘキサメチレンテトラミンとを含有するものである。
【0020】
本発明に用いられるアクリルポリマーの添加量は、ノボラック型フェノール樹脂全体に対して、1〜25重量%である。
硬化剤としては特に限定はされないが、ヘキサメチレンテトラミンが硬化性や耐熱性の面から好ましい。含有量としては、特に限定されないが、組成物全体に対して3〜20重量%であることが好ましい。これにより、本発明の用途に用いたときに硬化が均一で、適度の架橋密度とすることができる。
【0021】
また、本発明の組成物には、このほか、ポリアミド、ポリビニルブチラールなどの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、あるいは、酸性またはアルカリ性の有機物または無機物、有機充填材、無機充填材などを適宜添加することもできる。これらの添加剤を用いる場合、添加するタイミングは特に限定されず、組成物製造時あるいはレジノイド砥石の製造時のいずれでもよい。
【0022】
本発明の組成物の製造方法としては特に限定されないが、例えば、上記本発明のフェノール樹脂とヘキサメチレンテトラミン、及び必要に応じて添加剤等を配合し、これを打撃式、乾式ミル式の既存の粉砕装置を用いて粉砕し、粉末状とすることにより得ることができる。粉砕後の組成物の粒径は、特に限定されないが、平均粒径5〜50μmとすることが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ここで記載されている「部」及び「%」は全て「重量部」及び「重量%」を示す。
【0024】
(実施例1)
3Lの三口フラスコ中にフェノール1000部、シュウ酸を10部添加し、100℃に昇温して、37%ホルムアルデヒド水溶液690部を30分間かけて逐次添加し、その後100℃で1時間還流させながら反応した。その後、常圧蒸留を行い130℃まで昇温して、5000Paの減圧下で減圧蒸留を行って190℃まで昇温したのち、170℃にしてアクリルポリマーUP−1000(東亜合成(株)製)、を315部添加混合したノボラック型フェノール樹脂、1415部を得た。得られた樹脂にヘキサメチレンテトラミンを157部加え、打撃式粉砕機を用いて粉砕して粉末状のフェノール樹脂組成物A、1572部を得た。
【0025】
(実施例2)
実施例1のアクリルポリマーUP−1000の代わりにアクリルポリマーUME−1001(綜研化学(株)製)を用いた以外同様にして、粉砕し、粉末フェノール樹脂B、1572部を得た。
(実施例3)
実施例1のアクリルポリマーUP−1000の代わりにアクリルポリマーUMB−1003(綜研化学(株)製)を用いた以外同様にして、粉砕し、粉末フェノール樹脂C、1572部を得た。
(比較例1)
実施例1のアクリルポリマーUP−1000を添加しないで得られたノボラック型フェノール樹脂1100部にヘキサメチレンテトラミンを122部加え、打撃式粉砕機を用いて粉砕して粉末状のフェノール樹脂組成物D、1222部を得た。
【0026】
実施例1、2、3と比較例1で得られた粉末状フェノール樹脂A、B、C、Dについて、特性を表1に示す。
(測定方法)
融点、ゲル化時間、流れ:JIS K6910に準拠して求めた。
【0027】
(砥石試験片製造例)
アルミナ砥粒、サクランダムA#60 (日本カーリット(株)製)1000部とウェッター用液状フェノール樹脂PR−940(住友ベークライト(株)製)10部とを、品川式混練機を用いて5分間混練を行い、上記粉末状フェノール樹脂組成物150部を添加して、更に5分間混練を行ってコーテットグレインを製造した。コーテッドグレインは、混練直後と、25℃相対湿度60%の条件で12時間保存した後で状態を確認した。その後、成形物が100mm×25mm×15mmの大きさで、かさ比重2.0となるように、コーテッドグレインを金型に投入してプレス成形を行い、成形物をステンレス製の鉄板に載せた。これをプログラム機能の付いた熱風循環式の乾燥機に入れて、常温から100℃まで5時間、100℃で5時間保持、100℃から180℃まで10時間、180℃で10時間保持、その後10時間かけて常温に冷却するプログラムを用いて硬化させ、砥石試験片を製造した。
【0028】
実施例1、2、3と比較例1で得られた粉末状のフェノール樹脂組成物A、B、C、Dを用いて砥石試験片製造例に従い砥石試験片を作成した。その砥石片を25℃、250℃の温度でJIS K 6910に従い3点曲げ強度試験を行った。その結果を表2に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
実施例1、2で得られたフェノール樹脂は、比較例1に比べて、コーテッドグレインを成形した砥石試験片は、曲げ強度において優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のレジノイド砥石用フェノール樹脂を用いて成形した砥石は、砥石作製時における作業性が良好である。また、砥石強度が高いため、研削性能に優れるものであり、レジノイド砥石用として好適に用いることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノボラック型フェノール樹脂及びアクリルポリマーを含有することを特徴とするレジノイド砥石用ノボラック型フェノール樹脂組成物。
【請求項2】
アクリルポリマーの含有量がノボラック型フェノール樹脂組成物全体に対して1〜25重量%である請求項1記載のレジノイド砥石用ノボラック型フェノール樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂組成物がさらにヘキサメチレンテトラミンを含有するものである請求項1又は2に記載のレジノイド砥石用ノボラック型フェノール樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−95555(P2010−95555A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264963(P2008−264963)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】