説明

レゾルバによる角度検出方法

【課題】第1の信号と第2の信号を同時に検出するハードウェア構成がなくても、第1の信号と第2の信号の振幅比を正確に検出し、精度良く角度を検出するレゾルバによる角度検出方法を得る。
【解決手段】1相励磁2相出力のレゾルバから得られる2相の正弦波変調信号である第1の信号及び第2の信号を、同期検波して回転体の回転角度を検出する方法であって、前記第1の信号、前記第2の信号の順に信号を検出する第1の信号検出過程と、前記第2の信号、前記第1の信号の順に信号を検出する第2の信号検出過程とを備えている、

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、1相励磁2相出力のレゾルバから得られる信号によって、モータなどの回転体の回転角度を検出するレゾルバによる角度検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転機の回転子などの回転角度を検出する方法として1相励磁2相出力のレゾルバを用いるものがある。1相励磁2相出力のレゾルバは、交流信号である励磁信号の入力を受けて、この励磁信号により励磁されるコイルを用いて回転角の余弦値、正弦値で振幅変調された2相信号(2相の正弦波変調信号)を出力する。以下では、これら各相の信号をそれぞれ第1の信号、第2の信号と呼ぶ。
1相励磁2相出力のレゾルバによる角度検出は、第1の信号及び第2の信号を符号付で検出し、この第1の信号と第2の信号を入力とする4象限逆正接(atan2)を利用し、レゾル
バ・デジタル変換(以下RD変換という。)をしている。
【0003】
ここで、4象限逆正接について説明する。通常の逆正接は振幅比を用いるため、演算結果が-90〜+90度の範囲となるが、4象限逆正接は振幅比だけでなく、sin信号とcos信号の符号も勘案することで、-180〜+180度の範囲で演算結果を得ることが可能である。
例えば、第1の信号がcos信号、第2の信号がsin信号であった場合、4象限逆正接では、cos信号とsin信号のいずれもが正であれば第1象限、cos信号が負でsin信号が正であれば第2象限、cos信号が負でsin信号が負であれば第3象限、cos信号が正でsin信号が負であれば第4象限、と場合分けすることによって、-180〜+180度の範囲で回転角度が得られる。この4象限逆正接を用いたRD変換によって回転角度を得ることができる。
【0004】
このような1相励磁2相出力のレゾルバの励磁信号は交流信号であるとともに、第1の信号と第2の信号も励磁信号と同期した交流信号である。この第1の信号と第2の信号に基づいて回転角度を検出する場合は、第1の信号と第2の信号の振幅比を利用するので、第1の信号と第2の信号の振幅精度が回転角度の検出精度を左右する。交流信号である第1の信号と第2の信号は、検出時刻によってその振幅は変化するので、従来のレゾルバによる角度検出方法では、励磁信号に同期して第1の信号と第2の信号を同時に検出するようにしていた。その理由は、例えば、第1の信号を検出してから第2の信号を検出するようにすると、第1の信号を検出した時刻に相当する第2の信号を検出することができず、その結果、第1の信号と第2の信号の振幅比の精度を保つことができずに位置検出精度も低下するためである。
【0005】
2相出力の第1の信号と第2の信号を同時に検出するようなレゾルバの角度検出法は、第1の信号と第2の信号の振幅比を正確に得ることで位置検出精度を保つことが可能であるが、2相出力の信号を同時に検出させる為に複数信号を同時検出できる機能を有するマイクロコンピュータや、サンプルホールド回路等のハードウェアを用いる必要があった。時間差を設けて信号を検出するようなマイクロコンピュータは、複数信号を同時検出するマイクロコンピュータより安価であるが、このようなマイクロコンピュータに、第1の信号と第2の信号を同時検出するためにサンプルホールド回路等のハードウェアを追加すると、ハードウェアの分コストアップしたり、ハードウェアの寸法分だけ回路全体の寸法が大きくなるといった問題があった。
【0006】
この問題を解決するため、例えば、特許文献1に記載の従来の角度検出方法では、回転角を2相の正弦波変調信号に基づいて出力するレゾルバの信号処理方法であって、レゾルバから出力される2相信号について、回転体が実質的に停止している間に規定される2相
信号の振幅ピーク発生時刻を挟んだ所定のタイミングで、2相信号の各相の信号をそれぞれサンプリングする工程と、各相の信号間のサンプリング・タイミングのずれによる誤差補正を行いつつ、サンプリングされた前記それぞれの信号に基づいて角度を演算する工程とを備えるようにしている。
このような従来の角度検出方法では、それぞれ連続して行った2度のサンプリングのタイミングが、ピークを挟んで、それぞれピークから等しい時間だけずれるようにしているので、2相出力の第1の信号と第2の信号を同時に検出することなく、第1の信号と第2の信号の振幅比を正確に検出できるようになり、その結果、複数信号を同時検出できる機能を有するマイクロコンピュータや、サンプルホールド回路等のハードウェアを用いることなく、正確な回転角度を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−61157号公報(段落0038、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の角度検出方法は、それぞれ連続して行った2度のサンプリングのタイミングが、ピークを挟んで、それぞれピークから等しい時間だけずれるようにしなければ、角度検出の精度が低下してしまう問題があった。
このような従来の角度検出方法では、角度検出の精度を保つために、サンプリングのタイミングを調整したり、励磁信号の位相を調整する必要があった。
また、通常、レゾルバの2相信号の振幅ピーク発生時刻は励磁信号と一定の位相差を保っているが、この位相差は製造ばらつきなどによって個々に異なったり、レゾルバの温度変化によって変化したりするため、固体毎に微調整したり、サンプリングのタイミングをオンラインで調整したりしなければ、所望の検出精度を得ることができなかった。
【0009】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、高価なハードウェア回路、複雑な検出シーケンスなどを必要とせず、製造ばらつきによる2相信号の振幅ピーク発生時刻の誤差やレゾルバの温度変化があっても、第1の信号と第2の信号の振幅比を正確に検出し、その結果、正確な回転角度を得ることができるレゾルバによる角度検出方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係るレゾルバによる角度検出方法は、1相励磁2相出力のレゾルバから得られる2相の正弦波変調信号である第1の信号及び第2の信号を、同期検波して回転体の回転角度を検出する方法であって、前記第1の信号、前記第2の信号の順に信号を検出する第1の信号検出過程と、前記第2の信号、前記第1の信号の順に信号を検出する第2の信号検出過程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明のレゾルバによる角度検出方法によれば、1相励磁2相出力のレゾルバから得られる第1の信号及び第2の信号の振幅比の4象限逆正接(atan2)を用いて角度検出を行
う方法において、第1の信号と第2の信号を同時に検出するハードウェア構成がなくても良く、また、レゾルバの温度変化や、製造ばらつきがあっても、第1の信号と第2の信号の振幅比を正確に検出し、精度良く角度を検出することが出来る等、従来にない顕著な効果を奏することができるものである。
【0012】
上述した、またその他の、この発明の目的、特徴、効果は、以下の実施の形態における詳細な説明および図面の記載からより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1におけるレゾルバによる角度検出方法を説明するための構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1の動作を説明するための、第1の信号、第2の信号を検出するタイミングを示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1の動作を説明するための処理ステップを示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1におけるステップS002の第1の信号検出過程に関するフローチャートである。
【図5】この発明の実施の形態1におけるステップS006の第2の信号検出過程に関するフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態2の動作を説明するための、第1の信号、第2の信号を検出するタイミングを示す図である。
【図7】この発明の実施の形態3の動作を説明するための、第1の信号、第2の信号を検出するタイミングを示す図である。
【図8】この発明の実施の形態3における、第1の所定時間と励磁信号周期の比と、第1の信号及び第2の信号の振幅との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1におけるレゾルバによる角度検出方法を説明するための構成図である。図1において、マイクロコンピュータ1は矩形波電圧出力部2を具備する。矩形波電圧出力部2が出力する矩形波電圧は、アナログローパスフィルタ3によって矩形波から正弦波状の信号に変換され、レゾルバ4に励磁信号として出力される。
矩形波電圧出力部2が出力する矩形波電圧の周波数は、本実施の形態1では10kHzとする
が、これ以外の周波数であっても良い。
レゾルバ4は1相励磁2相出力のレゾルバであり、励磁信号が入力されるとともに第1の信号(cos信号)及び第2の信号(sin信号)の2相を出力する。
レゾルバ4が出力する第1の信号及び第2の信号の周波数は、レゾルバ4に入力された励磁信号と同じ周波数である。
【0015】
マイクロコンピュータ1はマルチプレクサ5を具備しており、マルチプレクサ5に前記第1の信号(cos信号)と前記第2の信号(sin信号)が入力される。
マルチプレクサ5が選択した信号はAD変換器6へ出力される。AD変換器6はマルチプレクサ5から得たアナログ信号をアナログ/デジタル変換し、デジタル信号を演算部7へ出力する。演算部7は、マルチプレクサ5が選択すべき信号をマルチプレクサ5へ出力するとともに、AD変換器6が信号を検出すべきタイミングに検出トリガ信号をAD変換器6へ出力する。
【0016】
この発明の実施の形態1における第1の信号、第2の信号を検出するタイミングを図2に示す。また、実施の形態1の動作を説明するための処理ステップのフローチャートを図3に示す。
図2は実施の形態1の動作を示す図であり、回転角度は45度となっている。
また、横軸は時刻、縦軸は各信号の振幅である。図2の上段は励磁信号、中段は第1の信号、下段は第2の信号の波形である。
本実施の形態1では、図2に示すように、「第1の所定時間(ΔT)」+「第2の所定時間
」=「励磁信号2周期(2T)」の関係を保ち、第1の信号検出過程と第2の信号検出過程をそれぞれ励磁信号に同期させている。
【0017】
ここで、「第1の所定時間」、「第2の所定時間」について説明する。
図2において、時刻t1で第1の信号を検出し、時刻t1から第1の所定時間が経過した時刻t2で第2の信号を検出する。この励磁信号に同期し、時刻t1にて第1の信号を検出し
、第1の所定時間後となる時刻t2に第2の信号を検出する検出過程を第1の信号検出過程と定義する。
時刻t2から第2の所定時間後の時刻t3で第2の信号を検出し、時刻t3から第1の所定時間後となる時刻t4に第1の信号を検出する。この第1の信号検出過程から第2の所定時間後となる時刻t3に、第2の信号を検出し、さらに第1の所定時間後となる時刻t4に第1の信号を検出する過程を第2の信号検出過程と定義する。
【0018】
図2において、1段目に記載した励磁信号がレゾルバへ入力されている場合、時刻tに
おけるレゾルバが出力する第1の信号と第2の信号は、夫々以下のy1(t), y2(t)と記述できる。
【0019】
【数1】

【0020】
(1)、(2)式において、Aは励磁信号の振幅に比例する定数、B,Cは検出オフセット、θはレゾルバの回転角度、f(t)は周波数10kHzの周期関数である。このf(t)の周波数は励磁信号の周波数と一致し、周期関数f(t)は、以下の(3)、(4)式の関係を満たすものである。
【0021】
【数2】

【0022】
(3)、(4)式において、m, nは任意の整数、Tはf(t)の周期であり、実施の形態1
におけるTは100μsecになる。(3)式は、時刻tにおけるf(t)は1/2周期前のf(t-T/2)と振幅が同じで符号が異なっていることを意味する。換言すると、T/2周期毎に反転した同一形状の波形であると言っても良い。励磁信号が正弦波状であればf(t)は周波数10kHzの
三角関数なので(3)式が成り立つが、励磁信号に歪があったとしても、時刻tにおけるf(t)は、1/2周期前のf(t-T/2)と振幅が同じで符号が異なっていれば成立する。
【0023】
まず、第1の信号の振幅について求める。
時刻t1における第1の信号y1(t1)は(5)式、時刻t4における第1の信号y1(t4)は(6
)式となる。
【0024】
【数3】

【0025】
(5)式から(6)式を減算すると(7)式を得る。
【0026】
【数4】

【0027】
第1の所定時間をΔT1とすると、時刻t1と時刻t4の間には(8)式の関係が成立する。
t4=t1+2T+ΔT1 ・・・・・(8)
上記(4)式と(8)式の関係から(9)式を得る。
【0028】
【数5】

【0029】
この(9)式を(6)式に代入すると(10)式を得る。
【0030】
【数6】

【0031】
同様に第2の信号の振幅について求める。時刻t2における第1の信号y2(t2)は(11)式、時刻t3における第2の信号y2(t3)は(12)式となる。
【0032】
【数7】

【0033】
(11)式から(12)式を減算すると(13)式を得る。
【0034】
【数8】

【0035】
第1の所定時間をΔT1とすると、時刻t2と時刻t3の間には(14)式の関係が成立する。
t3=t2+2T-ΔT1 ・・・・・・・・(14)
上記(4)式と(14)式の関係から(15)式を得る。
【0036】
【数9】

【0037】
この(15)式を(13)式に代入すると(16)式を得る。
【0038】
【数10】

【0039】
図2において、上述したように「第1の所定時間(ΔT)」+「第2の所定時間」=「励
磁信号2周期(2T)」の関係が成り立っているので、t1とt3の間には(17)式の関係が成立する。
t3-t1=2T ・・・・・・(17)
前記(3)式と(17)式の関係から(16)式は(18)式に置き換えてよい。
【0040】
【数11】

【0041】
前記(10)式、(18)式より(19)式を得ることができる。
【0042】
【数12】

【0043】
従って、4象限逆正接atan2を利用した(20)式に従えば、レゾルバの回転角度θを
得ることができる。
【0044】
【数13】

【0045】
図2に記載したように、第2の信号検出過程は、第1の信号検出過程を行ってから励磁信号のゼロクロス点を挟んで行うとともに、第1の信号検出過程は、第2の信号検出過程を行ってから第1の信号及び第2の信号のゼロクロス点を挟んで行うようにしている。
このような検出方法とすることで第1の信号検出過程と第2の信号検出過程に時間差を確保することが可能であり、励磁信号に同期して第1の信号と第2の信号を同時に検出する必要がなく、複数信号を同時検出できる機能を有するマイクロコンピュータや、サンプルホールド回路等のハードウェアを用いることなく、正確な回転角度を得ることができるといった効果を得る。
【0046】
また、励磁信号に同期して前記第1の信号を検出し、第1の所定時間後に前記第2の信号を検出する第1の信号検出過程と、前記第1の信号検出過程から第2の所定時間後に、前記第2の信号を検出し、さらに前記第1の所定時間後に前記第1の信号を検出する第2の信号検出過程と、を含むようにしたので、時刻t1,t2,t3,t4と異なる時刻に第1の信号
若しくは第2の信号を検出しており、第1の信号と第2の信号を同時に検出していないにも関わらず、回転位置を得ることができる。
従来のレゾルバによる角度検出方法は、それぞれ連続して行った2度のサンプリングのタイミングがピークを挟んで、それぞれピークから等しい時間だけずれるようにしなければ、角度検出の精度が低下してしまう問題があった。本実施の形態1に記載のレゾルバによる角度検出方法では、(20)式を見て判るように、2度のサンプリングのタイミングがピークを挟んで、それぞれピークから等しい時間だけずれるようにしていなくても良く、レゾルバの2相信号の振幅ピーク発生時刻と励磁信号のピーク発生時刻の時間差が、製造ばらつきなどによって個々に異なったり、レゾルバの温度変化によって変化しても、固体毎に微調整したり、サンプリングのタイミングをオンラインで調整する必要がなく、所望の検出精度を得ることができるといった効果を得る。
【0047】
図3は、本実施の形態1のレゾルバによる角度検出方法の処理ステップを示すフローチャートである。このフローチャートは、ステップS001から開始する。
ステップS002で第1の信号検出過程を実行する。この第1の検出過程では、前記y1(t1), y2(t2)の値を取得する。ステップS003では第1の信号検出過程(ステップS002)の実行完了から第2の所定時間が経過したか否かを確認し、第2の所定時間が経過していなければS003でFALSE、第2の所定時間が経過していればS003でTRUEの処理を施す。
【0048】
ステップS004で第2の信号検出過程を実行する。この第2の検出過程では、前記y2(t3),y1(t4)の値を取得する。ステップS005では前記(20)式の演算を行い、レゾルバの回転角度θを得る。ステップS006では第2の信号検出過程(ステップS004)の実行完了から第2の所定時間が経過したか否かを確認し、第2の所定時間が経過していなければS006でFALSE、第2の所定時間が経過していればS006でTRUEの処理を施す。
図3のフローチャートに従った処理によりレゾルバの回転角度を逐次検出することができる。
【0049】
図4は、前記ステップS002に記載した第1の信号検出過程について記したフローチャートであり、ステップS011から開始する。ステップS012では第1の信号を検出する。このときの時刻はt1であり、検出した第1の信号はy1(t1)として記憶しておく。
ステップS013では第1の信号を検出(ステップS012)完了から第1の所定時間ΔTが経過し
たか否かを確認し、第1の所定時間が経過していなければS013でFALSE、第1の所定時間
が経過していればS013でTRUEの処理を施す。
ステップS014では第2の信号を検出する。このときの時刻はt2であり、検出した第2の信号はy2(t2)として記憶しておく。ステップS015で第1の信号検出過程を完了する。
【0050】
図5は、前記ステップS006に記載した第2の信号検出過程について記したフローチャートであり、ステップS021から開始する。ステップS022では第2の信号を検出する。このときの時刻はt3であり、検出した第2の信号はy2(t3)として記憶しておく。
ステップS023では第2の信号を検出(ステップS022)完了から第1の所定時間ΔTが経過し
たか否かを確認し、第1の所定時間が経過していなければS023でFALSE、第1の所定時間
が経過していればS023でTRUEの処理を施す。
ステップS024では第1の信号を検出する。このときの時刻はt4であり、検出した第1の信号はy1(t4)として記憶しておく。ステップS025で第2の信号検出過程を完了する。
【0051】
以上のように、この発明の実施の形態1のレゾルバによる角度検出方法によれば、1相
励磁2相出力のレゾルバ4から得られる2相の正弦波変調信号である第1の信号及び第2の信号を、同期検波して角度を検出する方法であって、励磁信号に同期して第1の信号を検出し、第1の所定時間後に第2の信号を検出する第1の信号検出過程と、第1の信号検出過程から第2の所定時間後に、第2の信号を検出し、さらに第1の所定時間後に第1の信号を検出する第2の信号検出過程と、を含むようにしたので、2相出力の第1の信号と第2の信号を同時に検出することなく、第1の信号と第2の信号の振幅比を正確に検出できる。その上、図2及び(20)式から判るように、それぞれ連続して行った2度のサンプリングのタイミングがピークを挟んで、それぞれピークから等しい時間だけずれるようにしてなくても、精度良く角度検出が可能である。従って、レゾルバの2相信号の振幅ピーク発生時刻と励磁信号との位相差が、製造ばらつきなどによって個々に異なったり、レゾルバの温度変化によって変化しても、所望の検出精度を保つ効果が得られる。
【0052】
また、第2の信号検出過程は、第1の信号検出過程を行ってから励磁信号のゼロクロス点を挟んで行うとともに、第1の信号検出過程は、第2の信号検出過程を行ってから励磁信号のゼロクロス点を挟んで行うことによって、第1の信号検出過程と第2の信号検出過
程に時間差を確保することが可能であり、励磁信号に同期して第1の信号と第2の信号を同時に検出する必要がなく、複数信号を同時検出できる機能を有するマイクロコンピュータや、サンプルホールド回路等のハードウェアを用いることなく、正確な回転角度を得ることができるといった効果が得られる。
【0053】
このように本実施の形態1のレゾルバによる角度検出方法では、同時検出するためのハードウェアが不要である。また、従来のレゾルバによる角度検出方法で必要としていた、信号のピークを挟んで、それぞれピークから等しい時間だけずれるような、サンプリングの繊細なタイミング調整や、励磁信号の位相調整は不要であり、製造ばらつきやレゾルバの温度変化に起因する検出精度低下を抑制できる、といった効果がある。
【0054】
実施の形態2.
実施の形態1では、第1の所定時間は励磁信号の半周期より大きかったが、実施の形態2では、第1の所定時間を励磁信号の半周期以内にするようにしたものである。
図6は実施の形態2の動作を示す図であり、回転角度は実施の形態1の図2と同様に45度となっている。また、横軸は時刻、縦軸は各信号の振幅である。
図6の上段は励磁信号、中段は第1の信号、下段は第2の信号の波形である。
本実施の形態2では、図6に示すように、「第1の所定時間(ΔT)」+「第2の所定時間
」=「励磁信号1.5周期(1.5T)」の関係を保ち、第1の信号検出過程と第2の信号検出過
程をそれぞれ励磁信号に同期させている。
本実施の形態2においても、時刻tにおけるレゾルバが出力する第1の信号と第2の信
号は、前記(1)、(2)、(3)、(4)式の関係が成立している。
【0055】
本実施の形態2における第1の信号の振幅について求める。時刻t1における第1の信号y1(t1)は、以下の(21)式、時刻t4における第1の信号y1(t4)は(22)式となる。
【0056】
【数14】

【0057】
(21)式から(22)式を減算すると(23)式を得る。
【0058】
【数15】

【0059】
第1の所定時間をΔT1とすると、時刻t1と時刻t4の間には(24)式の関係が成立する。
t4=t1+1.5T+ΔT1 ・・・・・・(24)
上記(4)式と(24)式の関係から(25)式を得る。
【0060】
【数16】

【0061】
この(25)式を(23)式に代入すると(26)式を得る。
【0062】
【数17】

【0063】
同様に第2の信号の振幅について求める。時刻t2における第1の信号y2(t2)は(27)式、時刻t3における第2の信号y2(t3)は(28)式となる。
【0064】
【数18】

【0065】
第1の所定時間をΔT1とすると、時刻t2と時刻t3の間には(30)式の関係が成立する。
t3=t2+1.5T-ΔT1 ・・・・・・(30)
上記(4)式と(30)式の関係から(31)式を得る。
【0066】
【数19】

【0067】
図6において、上述したように「第1の所定時間(ΔT)」+「第2の所定時間」=「励
磁信号1.5周期(1.5T)」の関係が成り立っているので、t1とt3の間には(33)式の関係
が成立する。
t3-t1=1.5T ・・・・・・(33)
前記(4)式と(33)式の関係から(32)式は(34)式に置き換えてよい。
【0068】
【数20】

【0069】
従って、4象限逆正接atan2を利用した以下の(36)式に従えば、レゾルバの回転角
度θを得ることができる。
【0070】
【数21】

【0071】
本実施の形態2におけるレゾルバによる角度検出方法の処理ステップを示すフローチャートは、図3、図4と同様であり、第1の所定時間及び第2の所定時間の値が異なる点と、図3のステップS005の演算が(20)式を演算する代わりに(36)式を実行する点と、が異なるのみである。
【0072】
この実施の形態2では、第1の所定時間は前記励磁信号の半周期以内とした。例えば時刻t1における第1の信号y1(t1)、時刻t2における第2の信号y2(t2)は、(21)、(27)式となる。レゾルバの回転角度θが時刻によって変化する場合、厳密には時刻t1と時刻t2でレゾルバの回転角度の値が異なるが、時刻t1とt2の間隔が充分短ければ時刻t1と時刻t2とでレゾルバの回転角度は殆ど変化しないと見なすことができる。
これについては時刻t3における第2の信号y2(t3)、時刻t4における第1の信号y1(t4)についても同様である。そこで、本実施の形態2では、第1の所定時間は前記励磁信号の半周期以内とすることにより、時刻t1とt2の間隔、及び時刻t3とt4の間隔を充分短くするようにしたので、前記実施の形態1の効果に加えて、回転角度が変化する場合でも正確に回転角度が検出できるといった効果を得る。
【0073】
また、実施の形態1における第1の信号検出過程及び第2の信号検出過程は、第1の信号及び第2の信号のゼロクロス点付近を含んでいたが、本実施の形態2における第1の信号検出過程及び前記第2の信号検出過程は、図6に記載したように、第1の信号及び第2の信号のゼロクロス点付近を除いて行う。
【0074】
例えば、第1の信号のゼロクロス点付近で第1の信号を検出した場合、検出した第1の信号はゼロ付近の値となる。同様に第2の信号のゼロクロス点付近で第2の信号を検出した場合、検出した第2の信号はゼロ付近の値となる。このような場合であっても、検出時刻が第1の信号及び第2の信号のゼロクロス点と完全に一致していなければ前記(36)式が成立し、レゾルバの2相信号の振幅ピーク発生時刻と励磁信号との位相差が、製造ばらつきなどによって個々に異なったり、レゾルバの温度変化によって変化しても、所望の検出精度を保つ効果が得られる。
しかしながら、検出した第1の信号及び第2の信号の振幅が小さいことは自明であり、信号とノイズの比(S/N比)が小さくなり、ノイズの影響を受けやすくなってしまう。
【0075】
これに対して、本実施の形態2では、第1の信号検出過程及び第2の信号検出過程は、第1の信号及び第2の信号のゼロクロス点付近を除いて行うようにしたので、S/N比を大きくしてノイズに対する誤差を抑制するといった効果を得る。
このS/N比を大きくするには、第1の信号検出過程及び第2の信号検出過程を第1の信号及び第2の信号のピーク近傍で行うようにすれば良く、これによりS/N比を高めてノイズに対する誤差を更に抑制するといった効果を得ることができる。
【0076】
その上、図6及び(36)式から判るように、それぞれ連続して行った2度のサンプリングのタイミングがピークを挟んで、それぞれピークから等しい時間だけずれるようにしてなくても、精度良く角度検出が可能である。従って、レゾルバの2相信号の振幅ピーク発生時刻と励磁信号との位相差が、製造ばらつきなどによって個々に異なったり、レゾルバの温度変化によって変化しても、所望の検出精度を保つ効果が得られる。
【0077】
実施の形態3.
前記実施の形態2におけるレゾルバによる角度検出方法では、第1の信号検出過程は、第1の信号を検出してから該第1の信号及び第2の信号がピークに到達する前に第2の信号を検出すると共に、第2の信号検出過程は、前記第2の信号を検出してから前記第1の信号及び第2の信号がピークに到達する前に前記第1の信号を検出するようにしていた。
これに対し、本実施の形態3におけるレゾルバによる角度検出方法は、第1の信号検出過程は、第1の信号を検出してから該第1の信号及び第2の信号のピークを挟んで前記第2の信号を検出するとともに、前記第2の信号検出過程は、前記第2の信号を検出してから前記第1の信号及び第2の信号のピークを挟んで前記第1の信号を検出するようにしたものである。
【0078】
図7は実施の形態3の動作を示す図であり、回転角度は実施の形態1の図2と同様に45度となっている。また、横軸は時刻、縦軸は各信号の振幅である。
図7の上段は励磁信号、中段は第1の信号、下段は第2の信号の波形である。
本実施の形態3では、図7に示すように、「第1の所定時間(ΔT)」+「第2の所定時間
」=「励磁信号0.5周期(0.5T)」の関係を保ち、第1の信号検出過程と第2の信号検出過
程をそれぞれ励磁信号に同期させている。
本実施の形態3においても、時刻tにおけるレゾルバが出力する第1の信号と第2の信
号は前記(1)、(2)、(3)、(4)式の関係が成立している。
【0079】
本実施の形態3における第1の信号の振幅について求める。時刻t1における第1の信号y1(t1)は、以下の(37)式、時刻t4における第1の信号y1(t4)は(38)式となる。
【0080】
【数22】

【0081】
第1の所定時間をΔT1とすると、時刻t1と時刻t4の間には以下の(40)式の関係が成立する。
t4=t1+0.5T+ΔT1 ・・・・・・(40)
上記(4)式と(40)式の関係から(41)式を得る。
【0082】
【数23】

【0083】
同様に第2の信号の振幅について求める。時刻t2における第1の信号y2(t2)は、以下の(43)式、時刻t3における第2の信号y2(t3)は(44)式となる。
【0084】
【数24】

【0085】
第1の所定時間をΔT1とすると、時刻t2と時刻t3の間には以下の(46)式の関係が成立する。
t3=t2+0.5T-ΔT1 ・・・・・・(46)
前記(4)式と(46)式の関係から(47)式を得る。
【0086】
【数25】

【0087】
図7において、上述したように「第1の所定時間(ΔT)」+「第2の所定時間」=「励
磁信号0.5周期(0.5T)」の関係が成り立っているので、t1とt3の間には(49)式の関係
が成立する。
t3-t1=0.5T ・・・・・・(49)
前記(4)式と(49)式の関係から(48)式は(50)式に置き換えてよい。
【0088】
【数26】

【0089】
従って、4象限逆正接atan2を利用した以下の(52)式に従えば、レゾルバの回転角
度θを得ることができる。
【0090】
【数27】

【0091】
前記実施の形態2に記載の(35)式と、(51)式とは同じ式である。
従って、 本実施の形態3におけるレゾルバによる角度検出方法の処理ステップを示すフローチャートは、図3、図4と同様であり、第1の所定時間及び第2の所定時間の値が異なる点以外は前記実施の形態2と同様となる。
【0092】
なお、第1の信号検出過程は、第1の信号を検出してから第1の信号及び第2の信号のピークを挟んで第2の信号を検出するとともに、第2の信号検出過程は、第2の信号を検出してから第1の信号及び第2の信号のピークを挟んで第1の信号を検出するうえで、第1の所定時間(ΔT)は、励磁信号周期Tの1/10倍以下、即ちΔT≦0.1Tにすると良い。
図8は、本実施の形態3において、第一の所定時間ΔTと励磁信号周期Tの比「ΔT÷T」と、第1の信号及び第2の信号の振幅の関係についてプロットしたものである。
SN比を勘案すれば、検出する第1の信号及び第2の信号の振幅は大きいほど良い。
振幅低下が5%以下であれば、工学的な影響は充分小さいと見なして良い。
図8の関係から「ΔT÷T≦0.1」であれば振幅低下が5%以下にすることが可能であり、
第1の所定時間(ΔT)は、励磁信号周期Tの1/10倍以下、即ちΔT≦0.1Tにすると良いこと
が判る。
【0093】
以上のように、本実施の形態3におけるレゾルバによる角度検出方法では、第1の信号検出過程は、第1の信号を検出してから第1の信号及び第2の信号のピークを挟んで第2の信号を検出するとともに、第2の信号検出過程は、第2の信号を検出してから第1の信号及び第2の信号のピークを挟んで第1の信号を検出するようにしたので、第1の信号検出過程で検出した第1の信号と第2の信号の振幅を大きく取れると同時に、第2の信号検出過程で検出した第1の信号と第2の信号の振幅も大きく取れるのでS/N比を高めてノイズに対する誤差を抑制するといった効果を得る。
【0094】
また、本実施の形態3におけるレゾルバによる角度検出方法では、第2の所定時間は励磁信号の半周期以内とするようにしたので、第1の信号検出過程と第2の信号検出過程の時間差を短くすることができるので、回転角度が変化する場合でも第1の信号検出過程における回転位置と第2の信号検出過程における回転位置の変化を充分短くすることができる。従って、レゾルバ角度が回転している場合であっても、正確に回転角度が検出できるといった効果を得る。
【0095】
その上、前記(52)式は、それぞれ連続して行った2度のサンプリングのタイミングがピークを挟んで、それぞれピークから等しい時間だけずれるようになっていなくても成立しており、この場合でも精度良く角度検出が可能である。従って、レゾルバの2相信号の振幅ピーク発生時刻と励磁信号との位相差が、製造ばらつきなどによって個々に異なったり、レゾルバの温度変化によって変化しても、所望の検出精度を保つ効果が得られる。
【符号の説明】
【0096】
1 マイクロコンピュータ、2 矩形波電圧出力部、3 アナログローパスフィルタ、
4 レゾルバ、5 マルチプレクサ、6 AD変換器、7 演算部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1相励磁2相出力のレゾルバから得られる2相の正弦波変調信号である第1の信号及び第2の信号を、同期検波して回転体の回転角度を検出する方法であって、
前記第1の信号、前記第2の信号の順に信号を検出する第1の信号検出過程と、
前記第2の信号、前記第1の信号の順に信号を検出する第2の信号検出過程と、
を含むことを特徴とするレゾルバによる角度検出方法。
【請求項2】
前記第1の信号検出過程と、前記第2の信号検出過程は、前第1の信号及び第2の信号のゼロクロス点を挟んで行うことを特徴とする請求項1に記載のレゾルバによる角度検出方法。
【請求項3】
前記第1の信号検出過程は、レゾルバの励磁信号の半周期以内に実行とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレゾルバの角度検出方法。
【請求項4】
前記第1の信号検出過程及び前記第2の信号検出過程は、前記第1の信号及び第2の信号のゼロクロス点付近を除いて行うことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のレゾルバによる角度検出方法。
【請求項5】
前記第1の信号検出過程及び前記第2の信号検出過程は、前記励磁信号のピーク近傍で行うことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のレゾルバによる角度検出方法。
【請求項6】
前記第1の信号検出過程は、前記第1の信号を検出してから前記第1の信号及び第2の信号のピークを挟んで前記第2の信号を検出するとともに、
前記第2の信号検出過程は、前記第2の信号を検出してから前記第1の信号及び第2の信号のピークを挟んで前記第1の信号を検出することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のレゾルバによる角度検出方法。
【請求項7】
前記第1の信号検出過程を実行してから前記励磁信号の半周期以内に前記第2の信号検出過程を実行することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のレゾルバによる角度検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−24577(P2013−24577A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156428(P2011−156428)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】