説明

レチノイン酸関連オーファンレセプターアルファ(ROR−アルファ)のリガンド結合ドメインの結晶構造

本発明は、RORαの結晶化形態およびその製造方法に関するものである。本発明はまた、RORαの三次元モデルおよびRORαモジュレーターの設計手段を提供する。RORαに結合するリガンドもまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、結晶化形態のRORαおよびその製造方法に関するものである。さらに本発明は、RORαの三次元モデルおよびRORαモジュレーターの設計手段を提供する。
【0002】
発明の背景
レチノイン酸関連オーファンレセプターα(RORα)は、レセプター、たとえばレチノイン酸レセプター(RAR)、ペルオキシソーム増殖因子活性化レセプター(PPAR)、エストロゲンレセプター(ER)、ビタミンDレセプター(VDR)および甲状腺レセプター(TR)が属する核レセプタータンパク質ファミリーの一オーファン構成員である。核レセプターファミリーの他の構成員と同様、RORαは、幾つかのドメイン、中でもDNA結合ドメイン(DBD)およびリガンド結合ドメイン(LBD)から成るモジュラー構造を呈する。後者は、X線構造が解明されているT3Rβ(25%)、VDR(24%)、RARα(24%)、PPARα(24%)およびRXRα(20%)のLBDと低い度合の相同性を表す。しかしながら、RORαのLBDを結晶化させる試みは現在までのところ失敗に帰しており、RORαのX線構造は全く入手できなかった。さらに、この点に加えてリガンドも現在までのところ全く同定されていない。レセプターの生理学的役割についての我々の理解は、天然リガンドの発見により大きく増すことになる。さらに、空間的構成が与えられれば、RORαのアゴニストおよびアンタゴニストの設計の助けとなる。
【0003】
発明の要約
一局面において、本発明は、RORαの結晶性LBDを提供する。関連局面では、本発明は、リガンドと結合したRORαの結晶性LBDを提供する。別の局面において、本発明は、RORαのLBDの空間的構成を表す座標のセットを提供する。関連局面において、本発明は、RORαのLBDの構造を具体的に表す1セットの座標を含むRORαのLBDのモデルを提供する。別の関連局面において、本発明は、薬剤設計に有用な座標のセットを提供する。さらに別の関連局面において、本発明は、RORαのLBDに結合する物質の同定方法であって、RORαのLBDの構造を具体的に表すモデルを準備し、上記モデルと候補物質の相互作用を評価し、そしてRORαのLBDと相互作用すると予測される物質を選択する方法を提供する。この方法により同定される物質もまた提供される。
【0004】
さらに別の局面において、本発明は、RORαのLBDの結合するRORαのアゴニストまたはアンタゴニストとして作用する化合物の同定方法であって、RORαのLBDの構造を具体的に表す原子座標の一つまたはそれ以上のセットによる合理的薬剤設計を実施することにより可能性のある化合物を選択し、可能性のある化合物をRORαのLBDと接触させ、そしてRORαのLBDへの化合物の結合を測定することを含む方法を提供する。この方法により同定されるアゴニストおよびアンタゴニストもまた提供される。
【0005】
別の局面において、本発明は、RORαと相互作用する化合物についてのスクリーニング方法であって、RORαを候補化合物と接触させ、ステロールの不存在下で候補化合物およびRORα間の相互作用を測定し、そして化合物がステロールの不存在下でRORαと相互作用する場合にそれを選択することを含む方法を提供する。好ましいステロール類は、コレステロールまたはコレステロール誘導体である。この方法により同定される化合物もまた提供される。
【0006】
本発明の別の局面では、コレステロール関連疾患のスクリーニングを目的とするRORαの使用が提供される。
【0007】
さらに別の局面において、本発明は、RORαのLBDおよびステロール、好ましくはコレステロールまたはコレステロール誘導体を含む組成物を提供する。好ましい実施態様において、上記組成物は結晶化可能である。
【0008】
表および図面の簡単な説明
表1:コレステロールとの複合体におけるRORαのLBDの天然結晶データおよびX線データ統計値。
【0009】
表2:Hg誘導体結晶データ、X線データおよび重原子精密化統計値(コレステロールとの複合体について)。
【0010】
表3:精密化統計値(コレステロールとの複合体について)。
表4:RORαへのコレステロールの結合を阻止する突然変異の効果を示す。
【0011】
表5:RORα転写活性に対するフルバスタチンの効果を示す。
表6:RORアルファ転写活性に対するコレステロールおよびコレステロール誘導体の効果。
【0012】
表7:コレステロールサルフェートとの複合体におけるRORαのLBDの天然結晶データおよび精密化統計値。
【0013】
表8:コレステロールとの複合体におけるRORαのLBDの代表的構造についての原子構造座標(スイスプロットP35398−1による番号付け)。
【0014】
表9:コレステロールサルフェートとの複合体におけるRORαのLBDの代表的構造についての原子構造座標(スイスプロットP35398−2による番号付け)。
【0015】
図1:ヒトRORαの配列(スイスプロットP35398−1)。
図2は、RORα‐LBDおよびコレステロール間における複合体のX線構造表す概略図を示す。
【0016】
図3は、RORα‐LBDおよびコレステロール間における複合体のズームイン写真を示す(スイスプロットP35398−1による番号付け)。
【0017】
図4:親和力を増加させ、アンタゴニスト活性を得るためのリガンドの提案(スイスプロットP35398−1による番号付け)。
【0018】
図5:親和力を増加させるためのコレステロールのさらなる誘導体の提案(スイスプロットP35398−1による番号付け)。
【0019】
図6は、25−OHコレステロールおよびコレステロールサルフェートによるコレステロールの置換を示す。
【0020】
図7は、ROR(アルファ)/コレステロールのX線構造のズーム写真を示す(スイスプロットP35398−2による番号付け)。
【0021】
図8:コレステロールサルフェートとROR(アルファ)のLBPにより行なわれる相互作用の概観(スイスプロットP35398−2による番号付け)。
【0022】
図9:ROR(アルファ)/コレステロール‐サルフェートおよびROR(アルファ)/コレステロールのX線構造の比較(スイスプロットP35398−2による番号付け)。
【0023】
図10:ROR(アルファ)/コレステロール(左)およびROR(アルファ)/コレステロール‐サルフェート(右)のX線構造の比較(スイスプロットP35398−2による番号付け)。
【0024】
図11:結晶化で使用される構築物の配列。二次構造エレメントは配列の下に示されている。コレステロールに対し4オングストロームより近位に非水素原子を有するアミノ酸は、赤色で強調されている(スイスプロットP35398−2による番号付け)。
【0025】
発明の詳細な記載
本発明は、RORαのLBDの結晶を提供する。さらに、本発明は、X線結晶学による上記結晶の構造測定法を提供する。一実施態様において、結晶の構造は1.88オングストロームの分解能まで解明されている。驚くべきことに、結晶はRORαに結合したリガンドを含むことが見出された。リガンドは、コレステ−5−エン−3ベータ−オール(コレステロール)として同定された。すなわち、本発明は、たとえばインシリコ(コンピューター利用)スクリーニング、ドッキングおよび合理的薬剤設計に有用なRORαのLBDの空間的構成に関する情報だけでなく、リガンド結合に関与するアミノ酸の同定に有用であるRORαに結合しているリガンドとしてのコレステロールに関する情報も提供する。本発明にしたがって提供される情報は、下記で実例を挙げている通り、RORαのLBDに結合する化合物の設計基盤として使用され得る。本発明により提供されるRORαの結晶LBDは、いかなる結晶形態でもとり得るが、好ましくは単結晶である。さらに好ましい実施態様において、結晶は、a=55オングストローム±5オングストローム、b=50オングストローム±5オングストローム、c=60オングストローム±6オングストロームおよびβ=98.5°±9°の大きさを有する単位格子および空間群P21を含む。好ましくは、単位格子の大きさは、a=55.9オングストローム±2オングストローム、b=49.9オングストローム±2オングストローム、c=60.7オングストローム±2オングストロームおよびβ=98.7°±5°またはa=54.4オングストローム±2オングストローム、b=49.9オングストローム±2オングストローム、c=60.7オングストローム±2オングストローム、β=97.8°±5°である。別の好ましい実施態様において、RORαの結晶LBDはヒトに由来する。本発明によるRORαの結晶LBDは、好ましくは第二化学物質と会合している。かかる物質は天然または合成化学分子のいずれでもあり得、好ましいのは小分子であり、さらに好ましいのは小親油性分子である。コレステロールは、本発明にしたがって、この結合ポケットへ収まるリガンドとして同定されている。すなわち、特に好ましい実施態様において、かかる物質はコレステロールまたはコレステロール誘導体である。本明細書で使用されている「小分子」の語は、分子量が3000Da未満、さらに好ましくは1000Da未満、最も好ましくは500Da未満である、天然または合成化合物、好ましくは有機分子をいう。本明細書で使用されている「親油性」の語は、主として非極性であり、水に僅かしか溶けない化合物をいう。典型例には、脂肪酸、レチノイン酸、メラトニン、ステロイドホルモン、ビタミンD誘導体が含まれ得る。他の例には、タモキシフェンまたはラロキシフェンのような親油性分子が含まれ得る。本発明によると、特に好ましい親油性リガンドは、コレステロールおよびその誘導体である。本明細書で使用されている「コレステロール誘導体」は、コレステロールとの類似性、たとえば同じ全体構造を有するが、置換基が異なるかまたは不飽和結合の位置または立体異性体の差異を伴う分子をいう。上記コレステロール誘導体についての例は、たとえばhttp://www.steraloids.comにおいて見出され得る。
【0026】
RORαのLBDの結晶および所望により第二化学種は、バッチ結晶化法、蒸気拡散法(シッティングドロップ法またはハンギングドロップ法による)および微小透析法を含む若干の技術により育成され得る。結晶のシーディングは、X線品質の結晶を得ることが必要な場合もある。したがって、結晶の標準ミクロおよび/またはマクロシーディングが使用され得る。初期結晶をハンギングドロップから4℃または室温(約20℃)で数週間にわたって成長させ得る。次にそれに続いて、初期結晶からのマクロシーディングにより結晶を成長させ得る。一旦本発明の結晶を成長させると、X線回折データが収集され得る。たとえばX線回折データ収集用MARイメージングプレート検出装置が使用され得る。慣用的供給源(たとえば密封管または回転式アノード)で発せられたX線を用いるかまたはシンクロトロンソースを用いることにより、結晶が特性確認され得る。
【0027】
特性確認およびデータ収集方法には、歳差運動写真撮影、振動/回転データ収集および回折計データ収集があるが、これらに限定はされない。下記で実例が示されている通り、重原子誘導体は、4mM酢酸メチル水銀の溶液に1時間結晶を浸すことにより得られる。データ処理および縮小は、HKL総合ソフトウェア[OtwinowskiおよびMinor、Meth.Enzymol.276:307−326(1997)]のプログラム(DENZOおよびSCALEPACK)を用いて実施され得る。重原子位置は、プログラム、たとえばSnB[Weeks,C.M. & Miller,R.(1999)J.Appl.Cryst.32、120−124]またはCCP4プログラム総合ソフトウェア[Collaborative Computational Project、ナンバー4、Acta Cryst.D53:760−763(1994)]のプログラム(例、SHELXおよびRSPS)を用いて見出され得る。電子密度地図は、CCP4プログラム総合ソフトウェア[Collaborative Computational Project、ナンバー4、Acta Cryst.D53:760−763(1994)]のプログラム(例、MLPHAREおよびDM)または別法としてSHARP[La Fortelle,E.D.およびBricogne,G.、Methods in Enzymology 276:472−494(1997)]およびSOLOMONを用いて計算され得る。分子モデルは、O[Jones,T.a.et al.、ACTA Crystallogr.A47:110−119(1991)]を用いてこの地図へ構築され得る。タンパク質についての完全分子モデルは、実験的電子密度地図に基づいて構築され得る。X−PLOR[Brunger、X-PLOR v.3.1Manual、New Haven : Yale University,(1993)]を用い、またはCNSにより最大尤推定法残差を用いて[Brunger,A.T.etal.、Acta Cryst.D54:905−921(1998)]ポジショナルおよびシミュレーション化アニーリング精密化を散在させたモデルビルディングにより、RORαのLBDの明白なトレースおよび配列割り当てが行われ得る。
【0028】
したがって、本発明は、RORαのLBDの構造を具体的に表す座標のセットを含む合理的薬剤設計に有用なRORαのLBDの構造モデルを提供する。すなわち、好ましい実施態様は、表8または9における原子座標の一またはそれ以上のセットを含むLBD RORαの構造を具体的に表すモデルを提供する。他の好ましい実施態様は、コンピューターハードウェアまたは本発明のモデルを含むコンピューターシステムおよび本発明のモデルを含むコンピューター読取可能媒体を提供する。座標のセットは、好ましくはRORαのLBDの結晶学的解析により決定されるが、利用可能な方法であれば全て、本明細書で開示されているかまたはRORαのLBDの独立した結晶学的解析から入手されたデータを用いてかかるモデルを構築するのに使用され得る。「構造座標」の語は、タンパク質またはタンパク質‐リガンド複合体の結晶形態の原子(散乱中心)によりX線の単色ビームの回折で得られたパターンに関連した数学的等式から誘導されたカーテシアン座標をいう。回折データを用いることにより、結晶の反復単位の電子密度地図が算出される。次いで、電子密度地図を用いて、酵素または酵素複合体の個々の原子の位置を確立する。座標における変動は、構造座標の数学的操作故に生じ得る。たとえば、表8または9に示された構造座標は、構造座標の結晶学的置換、構造座標の分割、構造座標のセットへの整数加算または減算、構造座標の反転または上記の組合せにより操作され得る。別法として、アミノ酸の突然変異、付加、置換および/または欠失、または結晶を構成している成分のいずれかにおける他の変化に起因した結晶構造における修飾もまた、構造座標における変動を説明するものであり得る。上記変動が、元の座標と比べて許容される標準誤差内に含まれる場合、生じた三次元形状は同じであると見なされる。したがって、分子または分子複合体またはその一部分が、同じと見なされるほどRORαのLBDの構造の全部または一部と十分に類似しているか否かを決定するのには、様々なコンピューター解析が必要である。上記解析は、現行のソフトウエアアプリケーション、たとえばQUANTA(Molecular Simulations Inc., San Diego, Calif.)バージョン4.1のMolecular Similarity(分子類似性)アプリケーションで、添付のユーザーズガイドの説明にしたがって実施され得る。本発明の目的とするところでは、表8または9に列挙された構造座標により記された関連性のあるバックボーン原子に重ね合わせたとき、1.5オングストローム未満の保存残基バックボーン原子(N、Cα、C、O)の二乗平均偏差を有する分子または分子複合体であれば同一であると考えられる。さらに好ましくは、二乗平均偏差は1.0オングストローム未満である。「二乗平均偏差」の語は、平均からの偏差の平方の相加平均の平方根を意味する。それは、傾向または対象からの偏差または変動を表す一方法である。本発明の目的の場合、「二乗平均偏差」は、本明細書に記載されている構造座標により定義されたところによるとRORαのLBDのバックボーンの関連性のある部分からのタンパク質またはタンパク質リガンド複合体のバックボーンにおける変動を定義する。
【0029】
ある種の実施態様において、データセットは、限定無しで、RORαのLBDの結合ポケットを含む、RORαのLBDの構造の一部分を具体的に表す。本明細書で使用されている「結合ポケット」の語は、その形状の結果として、別の化学物質または化合物と好都合に会合する分子または分子複合体の一領域をいう。本発明によると、好ましい結合ポケットは、図3、4、5、7、8、9または10に示されたアミノ酸、すなわち以下のアミノ酸:Cys321、Gln322、Tyr323、Leu328、Trp353、Cys356、Ala357、Lys359、Ile360、Glu362、Ala363、Val397、Phe398、Arg400、Met401、Arg403、Ala404、Val412、Tyr413、Phe414、Phe424、Leu427、Cys429、Phe432、Ile433、Val436、His517、Lys520およびTyr540(SWISS−PROT P35398−1による番号付け)の1個またはそれ以上を含む。
【0030】
本発明の一実施態様において、モデルは、RORαのLBDと相互作用する物質を同定するのに使用され得る。一般に、本発明による分子類似性アプリケーションは、異なる構造、同じ構造の異なる立体配座、および同じ構造の異なる部分間における比較を可能にする。ドッキングプログラム、たとえばGRAM、DOCKまたはAUTODOCKを用いたコンピューターモデリングの使用を通して、潜在的相互作用性物質を調べる[Dunbrack et al.、Folding & Design、2:27−42(1997)]。この手順は、RORαのLBDへの潜在的リガンドのコンピューターフィッティング(当てはめ)を含むもので、たとえば潜在的リガンドの形状および化学構造が如何にうまく本発明により提供される結合ポケットと補完し合うかを確認し得る。コンピュータープログラムはまた、RORαのLBDへのリガンドの誘引、反発および立体障害を評価するのにも使用され得る。一般的に、適合度が堅固である(例、立体障害性が低い、および/または引力が大きい)と、これらの特性は堅固な結合定数と一致することから、潜在的薬剤は強力なものとなる。さらに、可能性のある薬剤の設計における特異性が高いと、薬剤がRORαタンパク質または他のタンパク質(特に核に存在するタンパク質)の他の特性に干渉する見込みは低くなる。これにより、他のタンパク質との望ましくない相互作用に起因して起こり得る副作用は最小限となる。最初に可能性のある相互作用性物質は、化学ライブラリーをスクリーニングすることにより得られる。次いで、この方法で選択されたリガンドを、1個またはそれ以上の有望な潜在的リガンドが同定されるまでコンピューターモデリングプログラムにより系統的に修飾し得る。別法として、RORαの既知リガンド、たとえば本発明により同定されたコレステロールは、系統的修飾についての出発点として使用され得る。上記コンピューターモデリングにより、実施可能であり、そのうちのいずれかは有用な薬剤となり得る無数の本質的に無作為な化学修飾とは反対に、有限数の合理的化学修飾の選択が可能となる。各化学的修飾は追加の化学工程を必要とし、それらは有限数の化合物の合成については妥当なものであるが、可能な修飾が全て合成される必要がある場合直ちに収拾がつかなくなる。すなわち、本明細書で開示されている三次元構造の使用およびコンピューターモデリングを通して、多数のこれら化合物がコンピューターモニタースクリーン上で迅速にスクリーニングされ得、莫大な数の化合物の労力を要する合成を行わずとも数少ない見込みのある候補が決定され得る。
【0031】
したがって、RORαのLBDに結合する物質の同定方法が提供される。上記方法は、典型的には、RORαのLBDの構造を具体的に表すモデルを準備し、候補物質と上記モデルとの相互作用を評価し、RORαのLBDと相互作用すると予測される物質を選択し、そして所望により、RORαのLBDと選択された物質を接触させる工程を含む。好ましい実施態様において、かかる方法では、本明細書においてたとえば図3、4、5、7、8、9または10で開示されている通り、候補化合物の3−D構造を、表8または9に示された3−D分子モデルまたは好ましい結合ポケットの一部であるかまたは直接または間接的にリガンドの結合に関与するアミノ酸の座標と比較する。好ましくは、上記アミノ酸は、候補化合物における水素結合性官能基と(直接または水分子を介して)水素結合を形成し得るか、または好都合なvdW−相互作用を形成し得る。相互作用は、好ましくはコンピューター支援による方法、たとえば、RORαのLBDの原子間における原子間距離が容易に引き出され、異なる候補化合物の水素結合性官能基および3D分子モデルにおいて結合ポケットを形成するアミノ酸の水素結合原子間の距離(またはvdW−相互作用形成基間の距離)を比較することにより、2構造間における最適水素結合およびvdW−相互作用に基づいて、理論的にRORαのLBDの3−D分子モデルポケットと最も安定した複合体を形成する候補化合物が同定され得るように、上記構造座標データをデータ構造に入力するデータ処理法により評価される。
【0032】
好ましい実施態様において、物質は、vdW−相互作用または水素結合相互作用により直接的または間接的に(例、水分子を介して)図3、4、5、7、8、9または10に示されているかまたはCys321、Gln322、Tyr323、Leu328、Trp353、Cys356、Ala357、Lys359、Ile360、Glu362、Ala363、Val397、Phe398、Arg400、Met401、Arg403、Ala404、Val412、Tyr413、Phe414、Phe424、Leu427、Cys429、Phe432、Ile433、Val436、His517、Lys520およびTyr540、Gln322、Tyr323、Arg400、Arg403から成る群から選択される1個またはそれ以上のアミノ酸の原子と相互作用するように設計される。さらに好ましい実施態様において、物質は、vdW−相互作用または水素結合相互作用により直接的または間接的(例、水分子を介して)にGln322、Tyr323、Arg400、Arg403またはTrp353、Lys359、Ile360、Ala363、Met401、Phe414、Leu427、Phe432、Val436から成る群から選択される1個またはそれ以上のアミノ酸の原子と相互作用する。上記方法を用いて同定される物質もまた提供される。好ましい物質は小分子であり、さらに好ましいのは小親油性分子(極性基をもつと思われる)であり、特に好ましいのはコレステロールまたはコレステロール誘導体、たとえばコレステロールサルフェートである。さらに好ましい実施態様において、RORαへの物質の結合定数は、少なくとも1μM、好ましくは少なくとも100nM、さらに好ましくは少なくとも10nMである。
【0033】
さらに、RORαのアゴニストおよびアンタゴニストが提供される。一実施態様では、RORαのアゴニストまたはアンタゴニストのスクリーニング方法が提供される。上記方法では、RORαのLBDの構造を具体的に表す原子座標の一またはそれ以上のセットで合理的な薬剤設計を実施することにより潜在的アゴニストまたはアンタゴニスト化合物を選択し、可能性のある化合物をRORαのLBDと接触させ、RORαの生物活性を測定する。選択は、典型的にはコンピューターモデリングと連係的に為される。可能性のある化合物は、それがRORαの生物活性を高める場合アゴニストとして、またはそれがRORαの生物活性を減じる場合アンタゴニストとして同定される。上記方法により同定されるアゴニストおよびアンタゴニストもまた提供される。アゴニストまたはアンタゴニストは、RORαの天然リガンドにより用いられる結合ポケットに結合する必要は無いが、また別の位置で結合し、アロステリック的にその効果を発揮し得る。本発明によるアゴニストの好ましい具体例は、アゴニスト位置、すなわちH12がH3−H4領域と一緒になって、補助活性化因子に関して適切な相互作用表面、すなわち完全AF−2を形成する位置にあるらせん12(H12)を安定させる化合物である(たとえば、Renaud & Moras、Cell.Mol.Life Sci.、57、1748−1769、2000で概説)。本発明によるアンタゴニストの好ましい具体例は、たとえばH12の位置を傾けることによりH12のアゴニスト位置を脱安定化する化合物である(たとえばRenaud & Moras、2000、前出で概説)。H12の脱安定化は、たとえば26位に巨大置換基をもつコレステロール誘導体により、すなわちTyr540および/またはHis517を置換することにより達成され得る。好ましい実施態様において、上記アゴニストまたはアンタゴニストは小分子である。特に好ましいのは、親油性小分子である。限定するわけではないが、例としては、たとえば脂肪酸、レチノイン酸、メラトニン、ステロイドホルモン、ビタミンD誘導体、ならびにタモキシフェンまたはラロキシフェンと類似した化合物またはその誘導体がある。一実施態様において、上記アゴニストまたはアンタゴニストは、コレステロールまたはコレステロール誘導体であり得る。本発明の好ましい実施態様において、コレステロールリガンドは、本発明により提供された構造情報を用いることにより、本発明により提供されるRORαのLBDのリガンド結合ポケット(LBP)により強く結合するコレステロール誘導体へ修飾されている。本発明により提供される構造情報を用いて設計されたより強く競合的に結合するコレステロール誘導体についての一例は、コレステロールサルフェートである(下記参照)。別の好ましい実施態様において、本発明は、アゴニスト位置にあるRORαのH12を安定化させる化合物の治療有効量および医薬上許容される担体を含む医薬組成物を提供する。関連実施態様において、本発明は、アゴニスト位置にあるRORαのH12を脱安定化する化合物の治療有効量および医薬上許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0034】
一旦潜在的結合性物質、たとえばアゴニストまたはアンタゴニストが同定されると、それは化学物質のライブラリーから選択され得るかまたは別法として潜在的リガンドが新たに合成され得る。特異的化合物の1個または比較的小さい基でもその新たな合成は、薬剤設計技術において妥当である。見込みのある薬剤を標準結合検定法にかけることにより、特定RORα機能、たとえば下記で例証されているRORαのDNA結合に対するその効果が試験され得る。適切な薬剤が同定されると、たとえばRORαのLBDの結合ポケットおよび薬剤間に形成されたタンパク質‐リガンド複合体を含む補足的結晶を成長させ得る。好ましくは、結晶がX線を有効に回折することにより、タンパク質‐リガンド複合体の原子座標が5.0オングストロームより大きい、さらに好ましくは3.0オングストロームより大きいかまたは2.0オングストロームより大きい分解能まで測定され得る。補足的結晶の三次元構造は、分子置換分析により測定され得る。分子置換では、検索モデルとして既知三次元構造を用いることにより、新たな結晶形態の密接に関連した分子またはタンパク質‐リガンド複合体の構造を測定し得る。新たな結晶の測定されたX線回折特性を、検索モデル構造と比較して、新たな結晶におけるタンパク質の位置および配向をコンピューターで計算する。使用され得るコンピュータープログラムには、CCP4プログラム総合ソフトウェア[Collaborative Computational Project、ナンバー4、Acta Cryst.D53:760−763(1994)]のプログラム(AMORE、MOLREP)またはX−PLOR[Brunger、X-PLOR v3.1 Manual、New Haven : Yale University,(1993)]がある。一旦位置および配向が判明すると、検索モデルを用いて電子密度地図を算出することにより、X線位相が提供され得る。その後、電子密度を構造差異について調べ、検索モデルを修正して新たな構造と同様にする。この方法を用いると、請求された構造を用いることによりRORα複合体のいずれかの上記LBDの三次元構造を解明することが可能である。本明細書に記載されている薬剤スクリーニング検定法の全てについて、薬剤の構造に対するさらなる精密化が一般的には必要であり、特定薬剤スクリーニング検定法により提供される工程のいずれかおよび/または全部の連続反復により為され得る。
【0035】
合理的設計により同定された物質は、薬剤スクリーニング検定法でさらに分析され得る。本発明の薬剤スクリーニング検定法は、RORαのリン酸化を増すことにより、RORαを二量体化または別の核レセプターとヘテロ二量体化させることにより、補助活性化因子と相互作用するその能力を改良することにより、その立体配座を変えることにより、そしてそのDNA結合能力を高めることにより、リガンド結合後のRORαが遺伝子の転写調節を行う能力に関するものを含む、RORαの官能性を測定するための若干の検定法のいずれかを使用し得る。一結合検定法では、RORα結合部位を含む核酸を、コーティングまたは固体支持体上に置く。好ましい結合部位は、ハーフサイトAGGTCAの直前にある6bpの高ATモチーフにより構成される応答エレメント(RORE)およびGiguere et al.、1994、Genes & Development 8:538−553、Mc Broom et al.、1995、Mol.Cel.Biol.15:796−808、Moraitis & Giguere、1999;Molecular Endocrinology.13:431−439で与えられているこの応答エレメントの可能な変異型である。核酸を固体支持体上に置く方法は、当業界ではよく知られており、核酸へのビオチン結合および固体支持体へのアビジンの結合を含む。RORαを核酸と平衡状態にし、薬剤が結合を破壊するか促進するかを見るためにそれらを試験する。
【0036】
別の検定法において、補助活性化因子タンパク質、たとえばGRIPまたはDRIP205(Brandon‐Atkins et al.、1999、Molecular Endocrinology 13:1550−1557)、またはSRC1、NcoA−1、ERAP/P160、SRC2/NcoA−2、ACTR、SRC−3、pCIP、ERAP−140、RIP140、RIP160P/Caf、CBP/P)、ARA70、Ada3、Rap46、GRIP170、TRIP1、PGC1および2、SPT6、TIFα、SW1/SNUERF、TRAP100、TRAP220、DRIP、NSD1(Robyr et al.、2000、Mol.Endo.14:329−347)を、コーティングまたは固体支持体上に置く。RORαタンパク質は標識され得る。たとえば、一実施態様では、放射性標識RORαタンパク質を用いて、結合に対する薬剤の効果を測定する。別の実施態様では、RORαタンパク質の天然紫外線吸収を使用する。さらに別の実施態様では、補助活性化因子ペプチドでコーティングしたバイアコアチップ(ファルマシア)を使用し、表面伝導性の変化を測定し得る。さらに別の実施態様では、RORαおよびそれらのDNA結合部位間の相互作用に対する有望薬剤(候補化合物)の効果を、活性化RORαタンパク質を含むかまたは含むように誘導され得る生きている細胞において検定する。リポーター遺伝子、たとえばルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼまたは3−ガラクトシダーゼなどについての異種遺伝子を含む細胞を、RORα結合部位を含むプロモーターに機能し得るように結合する。次いで、有望薬剤を細胞と接触させる。有望薬剤の不存在および存在下で生成されるリポーターの量(および/または活性)を測定し、比較する。生成されるリポーターの量(および/または活性)を減らす有望薬剤は、RORα DNA結合の候補アンタゴニストであり、生成されるリポーターの量(および/または活性)を増やす有望薬剤はRORα DNA結合の候補アゴニストである。リポーター遺伝子産物の検出方法は文献で容易に入手できる。たとえば、ルシフェラーゼ検定法は、製造業者のプロトコール(プロメガ)にしたがって実施され得、ベータ‐ガラクトシダーゼ検定法は、Ausubel et al.により報告された要領[Current Protocols in Molecular Biology中、J. Wiley & Sons, Inc. (1994)]で実施され得る。一例において、トランスフェクション反応は、RORαタンパク質を含むように修飾されたプラスミドによる細胞のトランスフェクションを含み得る。
【0037】
一実施態様において、本発明方法により同定される有望薬剤は、当業界で公知の検定法を用いることにより薬理学的活性について試験され得る。たとえば、同定された有望薬剤は、国際公開第01/26737号で開示された方法を用いて過度の骨または軟骨喪失を伴う疾患または医学的状態の予防または処置について可能性のある薬剤としての活性について試験され得る。たとえば、リポーター検定法は、骨鉱化作用および再造形作用の既知モジュレーターである、骨シアロタンパク質(BSP)またはオステオカルシン(OC)を用いて実施され得る。BSPまたはOCプロモーターがリポーター遺伝子、たとえばホタルルシフェラーゼ遺伝子を駆動するリポーター構築物により適切な細胞をトランスフェクションし得る。次いで、有望薬剤を細胞と接触させる。有望薬剤の不存在および存在下で生成されるルシフェラーゼ活性の量を測定し、比較する。別の実施態様において、本発明による有望薬剤の試験システムは、古典的卵巣切除ラットモデルの使用であり得、卵巣機能の喪失により、循環しているエストロゲンの低下が誘導され、直ちに骨量が減少する(Wronski et al.、Calcified Tissue International. 45(6):360、1989)。卵巣切除術の12週間後に開始して8週間の治療処置期間中、薬剤を卵巣切除動物で試験し、骨鉱質密度をモニターする。8週間無傷の動物の予防的処置である別タイプの実験も予測され得る。
【0038】
コレステロールは、RORαのリガンドであることが見出された。この発見により、本発明は、RORαに結合する化合物を同定する、特にRORα活性を調節する化合物を同定するための新規検定方法を提供し、それらの方法では、候補化合物およびRORα間の相互作用をコレステロール低減化、好ましくはコレステロール不含有環境で行わせる。かかる方法は、典型的には、(a)RORαを候補化合物と接触させ、(b)本質的にコレステロール不含有環境で候補化合物およびRORα間の相互作用を測定し、そして(c)化合物がRORαと相互作用する場合にはそれを選択するという段階を含む。必要条件ではないが、コレステロール低減化、または好ましくは本質的コレステロール不含有環境で全方法‐段階を実施するのが好ましい。さらに好ましい実施態様において、かかる方法は真核生物細胞系に関するものである。さらに別のさらに好ましい実施態様では昆虫細胞を使用する。昆虫細胞は、新たなステロール合成能を欠くことにより真核生物細胞とは異なる。これらの細胞は、コレステロール不含有条件下で増殖され得ることが示されている(Cleverley et al.1997、Exp.Cell Res.233:288−296)。すなわち、かかる細胞系は、たとえば、適切な昆虫細胞ベクターでクローン化されたRORαおよび古典的リポーターROREtklucを用いてRORαリガンドの活性をモニターするのに適切な細胞バックグラウンドを提供し得る。別の実施態様では、真核生物細胞、好ましくはヒト細胞を使用する。これらの細胞は、たとえば、本質的にコレステロール不含有の培地および本質的にLDL‐コレステロール不含有の血清(LDL−不含有血清の調製物は、Goldstein et al、1983、Methods in Enzymology 98:241−260に記載されている)中で培養され得る。哺乳類細胞は、コレステロールを内因的に生産することができる。本発明による本質的コレステロール不含有環境の意味は、内因的に生産された上記コレステロールを含まない。一実施態様において、内因的コレステロール生産性哺乳類細胞は、たとえば化合物の内因性コレステロール置換能力をスクリーニングする検定法で使用され得る。
【0039】
核レセプターは、リガンド結合時に特異的遺伝子または遺伝子のセットの転写を調節することが知られており、そのため治療薬として有用な化合物についてスクリーニングするための興味深い標的とされている。しかしながら、これまでのところ、治療薬の開発に役立ち得るRORαの分子機構について理解を深めることは、RORαのLBDと結合するリガンドの情報を欠くことにより厳しく阻まれてきた。本発明によるレセプターRORαのリガンドとしてのコレステロールの同定により、RORαの生理学的役割が新たに看破され、コレステロール関連疾患の処置に有用な化合物をスクリーニングするための標的としてのRORαが提供されている。コレステロール生合成における欠損は、脳損傷、骨格欠損、骨硬化を伴う場合もあり、四肢発育不全または脊椎形成不全を含む様々な臨床的特徴に至らしめることが示されている(Nwokoro et al.、Mol Genet Metab 74:1−2 105−19 2001)。すなわち、コレステロール関連疾患は、内分泌疾患、アテローム性動脈硬化症および心臓血管疾患、代謝性疾患、たとえば肥満、炎症性疾患、皮膚病、CNS関連疾患、たとえばアルツハイマー病および細胞増殖およびアポトーシスにおける疾患、たとえば腫瘍関連疾患を含み得る。
【0040】
一実施態様において、本発明は、内分泌疾患、特にステロイドホルモンの合成またはステロイド生成の調節に関連した疾患の処置に有用な化合物をスクリーニングするための標的としてのRORαを提供する。全ステロイド生成組織においては、合成されるホルモンとは関係無く、ステロイド生成細胞における初段階は、コレステロールから第一ステロイド、プレグネノロンへの変換である(Stocco、Ann Rev Physiol 63:193−213、2001)。
【0041】
別の実施態様において、本発明は、コレステロールホメオスタシスの障害の処置に有用な化合物をスクリーニングするための標的としてのRORαを提供する。コレステロールホメオスタシスの崩壊は病的状態を誘発し、最もよく起こるのはアテローム性動脈硬化症である。高コレステロール血症は、よく知られた危険因子である。スタチンを用いることにより、本発明は、RORαの活性および強力な抗アテローム性動脈硬化性分子間の直接関連を示すことから(表5)、アテローム性動脈硬化症および心臓血管疾患を抑える化合物を検索するための分子標的としてのRORαの有用性を立証している。
【0042】
別の実施態様において、本発明は、代謝性疾患の処置に有用な化合物をスクリーニングするための標的としてのRORαを提供する。C/EBPおよびPPARγが重要な役割を演じている事象のカスケードが脂質生成を開始させることは知られている。さらに、RORαは、PPARγを強く誘導することができる(Sundvold et al.Biochem.Biophys.Res.Com.287:383−390、2001)。SREBPは脂質生成プログラムを促進し、SREBP活性は細胞内コレステロールのレベルに敏感である(Brown et al. Cell 89:331−340、1997)。すなわち、本発明によると、RORαは、2型糖尿病をまねき得る脂質生成、肥満の進展およびインスリン抵抗性に関連した疾患の処置に有用な化合物をスクリーニングするための標的として提供される。さらに、成熟脂肪細胞は、免疫学的応答、血管疾患および食欲調節においてある一定の役割を演じる因子を分泌する。脂肪細胞由来因子には、レプチン、プロスタグランジン類およびレシスチンがある。すなわちRORαのリガンドとしてコレステロールを提供する本発明は、免疫応答、血管疾患および食欲調節に関連した疾患の処置に有用な化合物をスクリーニングするための標的としてのRORαを提供する。
【0043】
最近、間葉幹細胞はこれら3系統に分化する潜在能力を有することが示された(Pittenger et al.、1999 Science 284:143−147)。すなわち、見かけ上の相互関係は、脂肪細胞および骨芽細胞表現型間に存在すると仮定される。この均衡は、骨粗そう症患者における脂肪細胞に向かってスイッチされる。本発明は、脂質生成経路または脂肪細胞、軟骨細胞または骨芽細胞系統への間葉幹細胞の分化における重要なプレーヤーとしてのRORα(PPARγまたはC/EBPとして)を提供する。すなわち、本発明は、脂質生成に向かうこのスイッチにおいてRORαを連結するため、骨粗しょう症における治療介入についての可能性のある標的である。
【0044】
別の実施態様において、本発明は、炎症性疾患の処置に有用な化合物をスクリーニングするための標的としてのRORαを提供する。分子リンクは、コレステロールおよびサイトカイン間で確立されており、アテローム発生における炎症および免疫性の掛かり合いを示している。さらに、RORαは炎症に関与している(国際公開第01/26737号、Bourdji et al. J.Biol.Chem. 275:12243−12250、2000、Delerive et al.、EMBO reports 21:42−48、2001)。
【0045】
別の実施態様において、本発明は、皮膚病の処置に有用な化合物をスクリーニングするための標的としてのRORαを提供する。RORαは皮膚で高度発現される(Becker‐Andre、1993、Biochem.Biophys.Res.Commun. 194:1371−1379)。さらに、コレステロール生合成の遺伝的障害をもつ患者の臨床観察は、羞明および円形脱毛ならびに小胞皮膚萎縮症を報告している。
【0046】
別の実施態様において、本発明は、アルツハイマー病の処置に有用な化合物をスクリーニングするための標的としてのRORαを提供する。リポタンパク質対立遺伝子ApoE4は、アルツハイマー病の発病増加と関連している(Trittmatter et al. Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:1977−1981、1993)。海馬ニューロンにおける原形質膜コレステロールの枯渇により、Abeta(アミロイドベータタンパク質、Simons et al. PNAS 95:6460−6464、1998)、アミロイド前駆タンパク質の開裂産物、すなわち上記疾患の病因における主要因子の形成が阻害される。さらに、RORαノックアウトマウスの主たる特徴は重い運動失調であり、それらの小脳は著しく萎縮している。これは、運動障害に陥りやすい稀な遺伝病に関与している。
【0047】
実施例
(His)6RORα-LBD304-556のクローニングおよび発現
ATGコドンまでのポリヘドリン(多角体タンパク質)プロモーターの一部をコード化するDNAフラグメントを、オリゴヌクレオチドRS365(5’-ACCATCTCGCAAATAAATAAG-3’)およびMG384(5’-ATGATGATGATGATGATGGC-TGCTGCCCATGGTGGGAACTCGAGGCCTGCAGGG-3’)を用いることによりpBAKPac8プラスミド(クロンテック)からのPCRにより増幅する。MG384は、鋳型DNAには存在しないが、ATGコドンの正面にあるコザック配列をコード化する5'伸長部分および最終遺伝子操作ベクターに存在するHis標識の一部を有する。第二PCR反応は、RORαタンパク質のリガンド結合ドメイン(aa304−aa556;SWISS−PROT P35398−1による番号付け)をコード化するプラスミド鋳型でのオリゴヌクレオチドMG383(5’-GCCATCATCATCATCATC-ATCTGGAAGTTCTGTTCCAGGGGCCCGCAGAATTAGAACACCTTGC-3’)およびMG385(5’-GTACCAGATCTTCTAGATTCGTTACCCATCAATTTGCATTG-3’)により行なわれる。第一PCRフラグメントについては、オリゴヌクレオチドMG383は、第一PCRフラグメントに存在する伸長部と相補的であり、MG384によるフラグメントの伸長により付加された5'伸長部を有する。新たな両フラグメントを混合し、MG365およびRS365でのPCR増幅により、コザック配列、ATG、(His)6‐標識およびPreScissionプロテアーゼ開裂部位(Amersham Pharmacia)についての開裂部位をコード化する新たなフラグメントが、RORαリガンド結合ドメインの正面に導入される。この新しいフラグメントは、標的プラスミドpBAKPac8と共通した2つの相同性領域を両末端に有する。遺伝子操作を加えた遺伝子のクローニングベクターへの組込みは、前述の方法(Geiser et al.、BioTechniques 31 88−92、2001)を用いることにより行なわれる。生成したクローンのDNA配列解析により、クローンが意図された通りであることを確認する。このプラスミドをpXI338と称する。
【0048】
リポフェクションを用いて、プラスミドpX1338を、線状化BacPAK6(AcNPV)ウイルスDNAとSf−21昆虫細胞へコトランスフェクションする。5日後に採取したウイルス上清を、プラーク精製にかけて均一なウイルス集団を得、それに続いて小規模増幅し、ウエスタンブロッティングにより生産について分析する。分析された6個の細胞ペレット全部において抗RORα抗体(サンタクルス、カタログ番号sc−6062)を用いることにより、正確なサイズのバンドが容易に検出され得る。一ウイルス分離株をさらなる増幅用に選択する。マスターウイルスストック、次いで作業ウイルスストックをSf−9細胞でのさらなる増幅により生成する。力価をプラーク検定法により測定する。速度論実験により、72時間1.82×106細胞/ml(TOI)での1 MOIを用いてRORα−sLBDについての最適生産条件が示される。これらの条件下で、タンパク質の大きな分画は、昆虫細胞において可溶性のままである。2つのウェーブバイオリアクター作業を、上記条件下において各々約10〜13リットルで実施する。Heraeus Cryofuge M7000における10分間6000gでの遠心分離により細胞を採取し、ペレットを−80℃で貯蔵する。
【0049】
(His)6RORα−LBD304−556の精製および特性確認
(His)6RORα−LBD304−556を、標準方法にしたがってNi−NTAクロマトグラフィー、次いでアニオン交換およびサイズ排除クロマトグラフィーにより精製する。20gの細胞ペーストから、15mg前後の(His)6RORα−LBD304−556が精製される。タンパク質は、サイズ排除クロマトグラフィーでは単量体として振るまう。N−末端配列解析は、N−末端が遮断されていることを示す。質量分析計による解析は、アセチル‐デスMet−(His)6RORα−LBD304−556(Acet- GSSHHHHHHLEVLFQGPAELEH…MQIDG)に対応する31515.4の均一分子質量を示す。PreScission(登録商標)プロテアーゼによるN−末端6xHis標識のタンパク質加水分解的開裂により、有用な結晶を生じないが均一のタンパク質が生じる。対照的に、非開裂RORα−LBDは、X線回折解析に適切な結晶をもたらす。
【0050】
結晶化
50mMトリス‐HCl pH7.5、100mMのNaCl、5mMのDTT中の組換え体ヒトRORα−LBDを、14mg/mlに濃縮する。ハンプトン リサーチからのVDX結晶化プレートおよびシリコーン処理した顕微鏡カバーグラスと共に標準的蒸気拡散ハンギングドロップ設備を用いて結晶化を実施する。カバーグラス上で混合することにより結晶化小滴を作製する。2.0μlのタンパク質ストック溶液を2.0μlのレザーバー溶液と共に20℃で700μlのレザーバー溶液に対して平衡状態にする。市販のスクリーニングキットを用いて、予備的な結晶条件を見出す。精密条件で、結晶は、100mMトリス−HCl pH8.4、19%PEG6000、0.2MのCaCl2のレザーバーにより20℃で2週間以内に0.15×0.15×0.3mmのサイズに成長する。天然結晶の空間群はP21であり、単位格子パラメーターはa=55.9オングストローム、b=49.9オングストローム、c=60.7オングストローム、β=98.7°および空間群P21である。一非対称単位につき一単量体が存在する。結晶は、シンクロトロン(ESRFでのSNBL、グルノーブル)で少なくとも1.88オングストロームに回折する。
【0051】
X線データ収集
天然データ収集のため、上記要領で成長させた結晶を、約10秒間20%グリセリン(レザーバー組成物に加えて)を含む溶液5μlに移す。次いで、結晶を迅速にナイロン製クリオループ(ハンプトン リサーチ)に載せ、105KでのX線データ収集用に冷窒素気流中で直接冷凍する。European Synchrotron Radiation Facilityのスイス−ノルウェジアン ビームラインのmar345イメージプレートシステム(λ=0.8727オングストローム)により回折データを集める。各1.0°回転の合計230画像を、178mmの結晶〜検出器距離(180mmのリードアウトプレート直径を用いる)による時間モード(1フレームにつき15秒)で集める。未処理回折データを処理し、HKLプログラム総合ソフトウェアのバージョン1.96.6(OtwinowskiおよびMinor、1996)でスケールする。結晶データおよびネイティブデータのデータ収集統計を表4に示す。天然結晶の空間群はP21であり、単位格子パラメーターは、a=55.9オングストローム、b=49.9オングストローム、c=60.7オングストローム、β=98.7°である。1非対称単位当たり1単量体が存在する。ウィルソンプロットにより推定されるBファクターは20(オングストローム)2である。Hg誘導体データ収集については、4mMの酢酸メチル水銀を含む(レザーバー組成物に加えて)溶液5μlに結晶を予め1時間浸す。次いで、天然結晶の場合と同様に低温冷却を実施する。European Synchrotron Radiation Facilityのスイス‐ノルウェジアン ビームラインのmar345イメージプレートシステム(λ=0.8727オングストローム)により回折データを集める。各1.0°回転の合計287画像を、178mmの結晶〜検出器距離(180mmのリードアウトプレート直径を用いる)による時間モード(1フレームにつき15秒)で集める。未処理回折データを処理し、HKLプログラム総合ソフトウェアのバージョン1.96.6(OtwinowskiおよびMinor、1996)でスケールする。結晶データおよびHg−誘導体データのデータ収集統計を表2に示す。Hg誘導体結晶の空間群はP21であり、単位格子パラメーターは、a=55.6オングストローム、b=50.0オングストローム、c=60.1オングストローム、β=98.0°である。1非対称単位当たり1単量体が存在する。ウィルソンプロットにより推定されるBファクターは29(オングストローム)2である。
【0052】
構造解明
pbd−エントリ2lbd(hRARγ)または1bsx(hTRβ)の座標に基いた幾つかの異なるモデルを用いることによる、プログラムAmoRe(Navaza、1994)またはMOLREPバージョン6.2.5.(Vagin & Teplyakov、J.Appl.Cryst. 30、1022−1025、1997)による分子置換により構造を解明する試みは、成功していない。すなわち、水銀置換結晶に関する単波長実験からのデータを、SIRASによる初回位相決定についてのネイティブデータセットと一緒に使用する。異常分散差および同形差パターソン地図は、少なくとも1個の共通した主要ピークを示す。観察された異常分散差を用いるDREAR正規化(Blessing & Smith、J.Appl.Cryst.32、664−670、1999)と共にSnBバージョン2.1(Weeks & Miller、J.Appl.Cryst.32、120−124、1999)を用いて、4個のHg‐部位を決定する。それに続いて、MLPHAREバージョン4.1(CCP4、1994)を用いて、重原子パラメーターを精密化する。DM(CCP4、1994)による後続の密度修正により、優れた実験的SIRAS地図が得られる。mapmanプログラムでの骨格化により、Oバージョン7.0(Jones et al.、Acta Crystallogr.A47:110−19、1991)での連鎖トレーシングおよびモデルビルディングが可能となる。
【0053】
精密化
タンパク質(残基His308−Phe544は可視電子密度を有していた)を構築し、112個の水分子を実験的SIRAS地図へ挿入した後、数回の精密化および手動再構築の交互サイクルにより、Rcryst=28.1%(8オングストローム‐1.88オングストローム)を有するモデルを作製することにより、LBPにおけるリガンドについての優れた2Fo−FcおよびFo−Fc地図が得られる。優れた品質の電子密度により、コレステ−5−エン−3ベータ−オール(コレステロール)であるものとしてリガンドが明白に同定され得る。次いで、コレステロールリガンドを電子密度へ構築し、X−PLORパラメーター‐および構造‐ファイルが、X−PLORパラメーター‐および構造‐ファイルの作成に使用され得るプログラムXPLO2D(Kleyewgt G.、CCP4/ESF−EACBM Newsletter on Protein Crystallography 31、45−50、1995)により作製され得る。さらに精密化および119個のさらなる水分子の挿入(合計231個の水分子となる)のサイクルにより、最終Rcryst=24.8%およびRfree=26.3%が得られる(シグマ カットオフ無し、8オングストローム〜1.8オングストローム、25592特有反射の作業セット、1279反射の試験セット)。一般に、電子密度は、弱い密度を有するループ493−498以外、優れた品質を有する(残基308−544は、モデルに含まれる)。精密化は、タンパク質についてのEnghおよびHuberの力場(Engh & Huber、Acta Crystallogr.A47:392−400、1991)を用いるX−PLOR3.1(A.Bruenger、X−PLORバージョン3.1:A system for X-ray Crystallography and NMR、Yale University Press, New Haven, CT, USA, 1992)で行なわれる。使用される連鎖識別子は、タンパク質についてのA(残基His308−Phe544、SWISS−PROT P35398−1による番号付け)、リガンドについてのL(コレステロール:残基1)および水分子についてのV(合計231)である。pdb−ファイルでリガンドコレステロールについて使用される原子数は、IUPAC−IUBによる原子数と同じではない。
【化1】

【0054】
モデルの品質を、X−PLOR3.1(A.Bruenger、同上、1992)およびPROCHECKv3.3(Laskowski et al.、J.Appl.Cryst.1992、26:283−91)で評価する(表3参照)。複合体RORα/コレステロールの最終モデルは、良好な外面的形態を有し(rms結合長=0.013オングストローム、rms結合角=1.46°)、PROCHECKv3.3により測定されたところによると、ラマチャンドラン(Ramachandran)プロットの不認可領域に残基は無い。分子グラフィック写真は、Oバージョン7.0(Jones et al.、同上、1991)により作製される。
【0055】
表1:
【表1】

【0056】
表2:
【表2】

【0057】
表3:
【表3】

【0058】
RORα−LBDの全体構造
RORα−LBDは、NR−LBDについての標準的な折りたたみ構造をとり(Wurtz et al.、Nat Struct Biol 3、206、1996)、加えて2個のらせんH2*およびH11*を有する。H12の位置により判断すると(図2および3も参照)、RORα−LBDはアゴニスト結合状態にある。この位置にあるH12は、H3−H4領域と一緒になって、補助活性化因子についての適切な相互作用表面、すなわち完全AF−2を形成する(Renaud & Moras、Cell.Mol.Life Sci.、57、1748−1769、2000で概説)。この結晶構造を得るために補助活性化因子ペプチドが付加されることはない。追加のH2*らせんはまた、ペルオキシソーム増殖因子−活性化レセプター(PPAR;Nolte et al.、Nature、395、137−143、1998)についてはH2およびH3間に見出される。H11*は、既知LBD構造の中でRORα−LBD(およびRORβ−LBD、Stehlin et al.、Embo J.、20、5822−5832、2001)に特有なものである。それは、RARのループ11−12の中間部分と概ね重なり合う。RORα−LBDの全体構造は、RORβ−LBDの一つと類似しているが(例、Stehlin et al.、同上、2001における図4により判断)、RORβ−LBDの座標は入手できないため、RORα−LBDとの定量的比較は為され得ない。RORα−LBDについては、リガンドについての推定エントランス部位(複合体の溶媒接近可能表面により判断)は、H2およびH3間に位置し、たとえばRAR−γについて仮定されているように(Renaud et al.、378、681−689、1995)、H12側ではない。結晶では、非対称単位のRORα−LBD分子は、近隣分子とは二量体を形成しない。これは、天然ゲルではRORα−LBDが単量体としてふるまうという発見と一致する。以下のCys残基は酢酸メチル水銀と反応した(Hg部位の分率座標については表2参照):Cys321(部位3)、Cys429(部位1)、Cys505(部位4)およびCys514(部位2)。すなわち、これらの反応性Cys残基はSerへの突然変異についての候補であり、その結果恐らくはE.coliでの可溶性発現が獲得される。結晶化セットアップに存在するタンパク質種は、以下の配列His6−標識およびPreScission(登録商標)開裂部位およびRORα−LBDの残基304−556:
【表4】

【0059】
リガンドの同定およびリガンド結合ポケットの説明
CSD(エントリFIZDUN)からの26−OH−コレステロールの小分子X線構造は、この不偏電子密度への完全明白なフィット(26−OH基の除去およびC24−C25結合周囲での120°回転後)を示す。すなわち、高分解能の優れた品質により、リガンドはコレステ−5−エン−3ベータ−オール(コレステロール)として同定され得る。RORαのリガンド結合ポケットさらに精密に調べると、コレステロールの末端イソプロピル基のC27がTrp353の側鎖とvdW接触をもち、C26がIle360の側鎖とvdW接触をもっていることが判る。C26における置換基は、H12の位置に影響を及ぼす可能性を有する(例、C26における巨大置換基は、H12をそのアゴニスト位置から除去し得るため、コレステロールのアンタゴニスト的誘導体を誘導する)。この結晶構造におけるH12は、アゴニスト位置をとる。それは、OH−Tyr540(H12)およびNE2−His517(H11)間の水素結合(距離2.8オングストローム)によりアゴニスト位置で安定している。これら2残基は、RORのα−、β−およびγ−のイソ型間で変換される。
【0060】
LBPは、分子間水素結合(OH−Tyr540およびNE2−His517間の距離は2.8オングストロームである)を形成するTyr540およびHis517以外、AF−2側では本質的に疎水性である(H5 N−末端、H6、H7、H10、H12)。LBPは、H3側(ループ1−2、H3、H5 C−末端)で極性が高い。ループ1−2におけるGln322およびTyr323の主鎖NHおよびH5におけるArg400およびArg403の側鎖は、正の静電ポテンシャルの発生に寄与する。すなわち3−オール基における負に荷電した置換基(例、SO4−)は、かなり親和力が増強された誘導体を生じる(図4)。親水性部分には12個の水分子が整列している。これらの水分子のうち5個は、最低のBファクターを有する[14(オングストローム)2〜24(オングストローム)2]7水分子(合計231水分子のうち)の中にある。コレステロールの3−オール基は、整列した水分子のネットワークを介して、NE-Arg403、NH2-Arg403、CO-Arg400、NH1-Arg400、NH-Tyr323、OE1-Gln322およびNH-Gln322との水介在水素結合を成している。
【0061】
リガンドについての平均B値[20.1(オングストローム)2]は、タンパク質についての平均B値[38.3(オングストローム)2]より低く、コレステロールの全非水素原子についての優れた電子密度が認識できるという事実と一致している。すなわち、コレステロールは、LBPにおいて十分に特定された単一立体配座をとる。これは、RORβ−LBDに存在する非天然リガンドステアリン酸について報告された(Stehlin et al.、同上、2001)多重低エネルギー立体配座とは対照的である。以下の残基は、リガンドコレステロールに対し4オングストロームより近位に非水素原子を有する:Trp353、Cys356、Lys359、Ile360、Ala363、Val397、Arg400、Met401、Val412、Tyr413、Phe414、Phe424、Leu427、Phe432、Val436およびHis517。
【0062】
RORαのLBDに結合するコレステロール誘導体の設計
全般的に、LBPへのリガンドコレステロールのフィットは非常に良好である。にもかかわらず、リガンドのvdW‐表面と、LBPのvdW‐表面を比較すると、依然としてコレステロールの誘導体化についての可能性が僅かに存在し(図4および5)、親和力が増強され得ることが示される。追加の水素結合は、6位(OE1−Glu362への水を介した水素結合)、19位(CO−Tyr413への水素結合)または26位(OH−Tyr540および/またはNE2−His517への水素結合)に付加されたヒドロキシ基により得られる。かなりの静電気相互作用エネルギーが、3位に付加された荷電基、たとえばSO4−により得られる(NH1−Arg400、NH2−Arg403、NE−Arg403、NH−Gln322および/またはNH−Tyr323への水分子を介した水素結合および静電気相互作用)。さらなるvdW相互作用は、12位(Phe398、Met401の側鎖へのvdW接触)、18位(Val412、Phe398の側鎖へのvdW接触)、27位(Trp353、Cys429、Phe432の側鎖へのvdW接触)に付加された追加メチル基または21位(Phe424、Ile433、Val436、Phe437の側鎖へのvdW接触)に付加された追加エチル基により得られる。4および6位における修飾は、必要ならば、あまり親和力を変えることなく物理化学的または薬物動態パラメーターを修正するのに使用され得る。巨大置換基を伴う26位における誘導体は、H12をそのアゴニスト位置で脱安定化する可能性を有するため、誘導体にアンタゴニスト的活性を与える。
【0063】
コレステロールについての作用機構
本X線構造は、以下の構造的作用機構を促す:コレステロール(または恐らくはコレステロール誘導体)はH2,H3側からLBPに入り、これは恐らくはArg400およびArg403から発生した静電界により導かれたと思われる。次いで、コレステロール(またはこの位置にある誘導体)のイソプロピル末端は、LBPの他端に影響を及ぼし、これがH12と接触をもつことにより、LXXLL−結合部位への補助活性化因子の結合を調節する。C26に巨大置換基を伴うコレステロール誘導体は、そのアゴニスト立体配座からH12を置換することにより、補助活性化因子結合を阻止し、さらにTyr540およびHis517間の水素結合を安定させるコレステロール誘導体はアゴニスト立体配座をさらに強化する。
【0064】
RORα‐LBDの選択された突然変異
RORα‐LBD X線構造からの座標を用いて、コレステロールの結合を阻止すべきLBPにおける一連の点突然変異が設計され、加えてTyr540(H12)およびHis517間の水素結合の喪失によりH12安定化を阻止/低減化すべき突然変異が提案される(Tyr540‐>Phe540突然変異)。突然変異の詳細は下記に包含される。
【表5】

【0065】
一時的トランスフェクション実験では、RORα突然変異体の転写活性を、それらの野生型対応物質と比較する。U2OS細胞を、RORαについての共通応答エレメントをもつルシフェラーゼリポーター遺伝子(RORE−tk−luc)と一緒にRORα(ROR)またはその突然変異形態についての発現ベクターでトランスフェクションする。ルシフェラーゼ活性を、6ウェルプレートからの細胞で検定し、野生型RORα発現プラスミドでトランスフェクションした細胞での活性と関連づける。結果をタンパク質含有率に対して正規化する。図は平均±SDを示し、左パネルでは結果を野生型RORαの活性と比べた誘導%として表す。表4で示されている通り、LBPにおける全突然変異(ただし突然変異Phe432‐>Trp432を除く)は、RORαの転写活性を顕著に/徹底的に低減化することから、事実上RORαの活性形態がコレステロールに結合しているという結論に達する。突然変異Trp432の側鎖は、Arg516およびLys520の側鎖もまたそれらの立体配座を相応じて変える場合に、LBPにおけるコレステロールとの立体衝突が起こらない立体配座をとる可能性を有する。これら2残基は表面にあり、それらの側鎖立体配座は相互作用により安定化されないため、これは、LBPにおける他の突然変異とは対照的に、Phe432‐>Trp432突然変異についての転写活性が僅かしか失われず、コレステロールとの立体衝突を阻止する可能な代替的側鎖立体配座が無いことの説明となる。突然変異Tyr540‐>Phe540は転写活性の約40%の喪失をまねくことから、Tyr540およびHis517間の水素結合がかなりの量でアゴニスト位置にあるH12の安定化に寄与することがわかる。
【0066】
表4
【表6】

【0067】
RORα転写活性に対するHMG CoAレダクターゼの阻害剤、フルバスタチンの効果
哺乳類細胞は、リポタンパク質(LDL−コレステロール)からの取込によりコレステロールを受け取り、メバロン酸塩経路を通じてコレステロールを合成することができる。細胞が本質的にステロール不含有の条件下で培養される状況において、主要転写因子、SREBPは、タンパク質加水分解的に開裂され、これが転写因子を核に放出する。この転写因子は、HMG‐CoAレダクターゼを転写活性化することができ、これがメバロン酸塩経路を通したコレステロール生合成における重大な段階である。高コレステロール状態についての既知薬剤であるスタチン類は、HMG‐CoAレダクターゼの特異的阻害剤である。細胞をステロール不含有培地で培養するとき、それらのHMG‐CoAレダクターゼは強く活性化される。この実験では、本質的にステロール不含有培地で培養された細胞を、フルバスタチンで処理する。RORα活性の明らかな減少が観察されることから、細胞内コレステロールレベルの低下は、RORα転写活性の減少により翻訳されるという結論に導かれる(表5)。U2OS細胞を、RORαについての共通応答エレメントをもつルシフェラーゼリポーター遺伝子(RORE−tk−luc)と一緒にRORα(ROR)用発現ベクターでトランスフェクションする。ルシフェラーゼ活性を6ウェルプレートからの細胞で検定し、フルバスタチン処理を伴うかまたは伴わなわずにトランスフェクションされた細胞での活性と関連づける。結果をタンパク質含有率に対して正規化する。
【0068】
表5:
【表7】

【0069】
ROREに結合するRORαのコレステロールサルフェート阻害
コレステロールサルフェート(表6における化合物番号12)を含む様々なコレステロール誘導体を、本質的にコレステロール不含有培地でRORαのROREへの結合についてスクリーニングする。RORαタンパク質は、バクロウイルス系で発現される。他の化合物は、番号2:5α−コレスタン−3−オン(ステラロイドC4550)、3:4−コレステン−3α−オール(C6090)、4:5−コレステン−3β,6−ジオール(C6418)、5:5−コレステン−3β,7α−ジオール7−ベンゾエート(C6425)、6:5−コレステン−3β,7β−ジオール7−ベンゾエート(C6438)、7:5−コレステン−3β,19−ジオール(C6470)、8:5−,25R−コレステン−3β,26−ジオール(C6570)、9:5−コレステン−24β−エチル−3β−オールアセテート(C6681)、10:5−コレステン−3α−オール(C6730)、11:5−コレステン−3β−オール(C6760)、12:5−コレステン−3β−オールサルフェート、ナトリウム塩(C6905)、13:7,(5α)−コレステン−3β−オール(C7400)、14:7−デヒドロコレステロール(フルカ30800)である。これは、X線構造により予測された通り、コレステロールサルフェートがコレステロールを置換できることを示している。
【0070】
RORアルファ転写活性に対するコレステロールおよびコレステロール誘導体の効果
次に、我々は、コレステロールを部分的に枯渇させた真核生物細胞において、RORα転写活性がコレステロールを加えることにより再構成され得るか否かを確立する。したがって、我々は、細胞をヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPCD)、コレステロールシャトルとして機能することが知られているシクロデキストリン誘導体で処理する。HPCD処理は、細胞内コレステロールの部分枯渇を目指す実験で使用される。メバロン酸塩経路の活性化を通じて細胞内コレステロールの増加を阻止するため、同じく細胞をロバスタチンで処理し、LDL不含有血清を含む培地でそれらを培養する。HPCDおよびロバスタチンの組合せを用いることにより、ROREリポーターの転写は、コレステロール、エピコレステロールおよびコレスタノールに応答し、さらに高い度合でコレステロールサルフェートおよび7−デヒドロコレステロールにより刺激されることがわかった。対照的に、試験された全ヒドロキシコレステロールは、顕著な活性を示すことはなく、コレステロール誘導体5−コレステン−24β−エチル−3β−オール−アセテートは、賦形剤と比べてもRORα転写活性の増加を全く誘発しない(表6)。これらのデータは、我々のRORαのX線構造を用いたコレステロール誘導体に関するドッキング試験と十分な相関関係を示す。
【0071】
表6:
【表8】

【0072】
質量分析法によるリガンド交換スクリーニング
(His)6RORα−LBD269−556を、Sf9細胞で製造し、Ni−NTAクロマトグラフィー、次いでサイズ排除クロマトグラフィーにより精製する。135μM濃度のトリス−HCl緩衝液中のタンパク質を、10倍モル過剰の25−ヒドロキシコレステロール(5−コレステン−3ベータ,25−ジオール)またはコレステロールサルフェート(5−コレステン−3ベータ−オール−サルフェート)と4℃で一晩インキュベーションする。質量分析前に、タンパク質を、製造業者の使用説明書にしたがって使い捨てCentri Spin20カラム(Princeton Separations, Adelphia, NJ)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより50mM酢酸アンモニウム(pH7.0)中での高速緩衝液交換にかける。マイクロマスZ型エレクトロスプレーイオン化ソース(ESI)を備えたQ−Tof(Micromass, Manchester, UK)四重極飛行時間型ハイブリッドタンデム質量分析計を用いて、質量分析法を実施する。捕捉質量範囲は、典型的には5秒でm/z1500〜4500である。質量分析法を調整することにより、非共有結合複合体の多価核種の検出が可能となる。ソース遮断温度および脱溶媒和温度をそれぞれ50℃および80℃に保つ。試料コーン電圧(Vc)を標準測定用の23ボルトにセットする。インソース誘導フラグメンテーション実験を、Vcを100ボルトまで高めることにより実施する。タンパク質溶液を10μL/分の流速で注入する。データを記録し、Masslynxソフトウェアを用いて処理する。MaxEnt分析ソフトウェア(マイクロマス、マンチェスター、英国)を用いて、スペクトルをデコンヴォルーションする。結果は、25−OHコレステロールおよびコレステロールサルフェートが両方ともROR−LBDに結合したコレステロールを完全に置換できることを示している。さらに、リガンド/ROR−LBD−複合体およびアポ−ROR−LBD(リガンド無し)間の様々なコーン電圧(Vc)での比較は、コレステロールおよび25−OHコレステロールがインソース衝突に対して類似した安定性を有することを示している。対照的に、コレステロールサルフェート/ROR−LBD複合体は、コレステロールまたは25−OHコレステロール複合体よりも安定している。
【0073】
2.20オングストローム分解能での複合体ROR(アルファ)/コレステロールサルフェートの結晶化およびX線構造:構造に基く設計の一例
複合体ROR(アルファ)/コレステロールサルフェートに関する全アミノ酸残基(例、添付のコレステロールサルフェートとの複合体の座標、表9)を、SWISS−PROTエントリP35398(33を引いた図1に示されたSWISS−PROT P35398−1による所定のアミノ酸の番号に対応する)のスプライス変異型アルファ−1(すなわちP35398−2)にしたがって番号づけする。複合体ROR(アルファ)/コレステロールに関する全アミノ酸残基(例、添付のコレステロールとの複合体の座標、表8)を、SWISS−PROTエントリP35398のスプライス変異型アルファ−2(すなわちP35398−1)にしたがって番号づけするが、ただし、使用された番号づけがP35398−2にしたがっている図7〜11を除き、コレステロールサルフェート複合体との比較検討におけるものを除く。請求の範囲に明記されている全アミノ酸残基を、図1に示された、SWISS−PROTエントリP35398のスプライス変異型アルファ−2(すなわち、P35398−1)にしたがって番号づけする。
【0074】
コレステロールサルフェートがROR(アルファ)のリガンドであるという提案は、1.63オングストローム分解能で以前に測定したROR(アルファ)/コレステロールのX線構造を用いた、構造に基く設計の結果である。特に、後者のX線構造は、水分子が置換されている場合、LBPの親水性部分にコレステロールのヒドロキシ基に結合した置換基のための空間があることを示している。3個のアルギニン(Arg292、Arg370およびArg367)および2個の遊離バックボーンアミド窒素(NH−Gln289およびNH−Tyr290)の存在は、少なくとも2個の水素結合アクセプター官能基(例、硫酸基)をもつ負に荷電した置換基を強く示唆している。ドッキング試験は、コレステロールサルフェートがコレステロールよりも高い親和力を有するという予測を導く。それに続いて、事実上ROR(アルファ)LBDに結合したコレステロールがコレステロールサルフェートにより置換され得ることがMS分析により示される。
【0075】
次いで、複合体ROR(アルファ)/コレステロールサルフェートは共結晶化され得、複合体のX線構造は2.20オングストローム分解能で解明され、20オングストローム〜2.20オングストロームのデータについてRcrystは19.4%およびRfreeは21.9%である。観察された結合モードは以下の特徴を示す:
【0076】
1)コレステロールサルフェートおよびコレステロールは類似した全般的結合モードを有するが、コレステロールサルフェートはLBPの親水性正荷電部分に向かって僅かに(例、対応するC3原子は0.85オングストロームほど)置き換えられている。これは、硫酸基により為された静電気および水素結合相互作用の最適化により説明され得る。
【0077】
2)LBPの親水性部分におけるコレステロールについて存在する7個の整列した水分子は、コレステロールサルフェートとの複合体により置換されている。硫酸基およびNH1−Arg367およびO−Ala330間の相互作用を仲介する唯一保存された水分子は依然として存在する。
【0078】
3)硫酸基は、NH−Gln289、NH−Tyr290およびNH1−Arg370との直接水素結合相互作用を成す。これはドッキング仮説を確認するもので、コレステロールサルフェートの提案を導く。
【0079】
4)コレステロールおよびコレステロールサルフェートとのROR(アルファ)の複合体のタンパク質部分における唯一の顕著な変化は、Ile327の側鎖およびループ1〜2(残基Gln289およびTyr290)について起こる。
【0080】
分子生物学、発酵、精製およびMS分析
構築物(His)6RORα−LBD270−523の生成、発酵および精製は、上記要領で行なわれる。コレステロールサルフェートによるコレステロールの置換は37℃で行なわれ、MS分析により確認される。コレステロールサルフェートをDMSOに50mMで溶かし、73μMの(His)6RORα−LBD270−523溶液に1.0mM最終濃度で加える。生成した溶液を37℃で一晩インキュベーションし、SPX75カラムでのサイズ排除クロマトグラフィーによりさらに精製した後、結晶化試験用に17.6mg/mlに濃縮する。天然複合体のMS測定を前記要領で行う(Kallen et al.、Structure、第10巻、1697−1707、2002)。同量のRORαLBDタンパク質を5%DMSOと同一条件下でインキュベーションすることにより、対照実験を行う。タンパク質濃度は、50mMのAcONH4(pH7.0)中約15μMである。Vc=20ボルトの同一条件下で両スペクトルを記録する。
【0081】
結晶化
結晶化に使用されるタンパク質は、100mMのNaCl、50mMのトリス−HCl(pH7.5)、5mMのDTT中17.6mg/mlである。結晶化条件について最初からの検索に取りかかる。ハンプトン リサーチ製のVDX結晶化プレートおよびシリコーン処理した顕微鏡カバーグラスによる、標準蒸気拡散ハンギングドロップ設備を用いて、試験を実施する。1.0μlのタンパク質ストック溶液を1.0μlの結晶化溶液とカバーグラス上で混合することにより、結晶化小滴を4℃でセットアップする。
【0082】
X線データ収集:ほぼ正確な大きさ60μm×60μm×200μmの単結晶を、ナイロン製CryoLoop(ハンプトン リサーチ)により固定し、100KでのX線データ収集用に冷窒素気流中で急速冷凍する。マレサーチ(Marresearch)CCD検出器および0.9200オングストローム波長での入射単色X線ビームを用いて、スイス ライト ソース(300mAで稼動)、ビームラインX06SAで回折データを集める。1フレーム当たり9秒の曝露時間および150mmの結晶〜検出器距離を用いて、合計226画像を各1.0°回転により集める。未処理回折データを処理し、HKLプログラム総合ソフトウェアバージョン1.96.1(OtwinowskiおよびMinor、1996)でスケーリングする。ウィルソンプロット分析による推定Bファクターは32.9(オングストローム)2である。結晶データおよびデータ収集統計を表7に示す:
表7:
【0083】
【表9】

【0084】
構造決定および精密化:1.63オングストローム分解能に精密化した複合体ROR(アルファ)/コレステロールの座標を標準モデルとして用いて構造を決定する。プログラムREFMACバージョン5.0(CCP4、Acta Crystallogr.D50、760−763、1994)を精密化に使用する。バルク溶媒補正、初期異方性Bファクター補正および抑制等方性原子Bファクター精密化を適用する。精密化標的は振幅を用いる最尤標的である。構造因子振幅においてシグマカットオフは適用されない。特有反射の5.0%(829)を含む試験セットを用いて、精密化中終始、交差検定を使用する。水分子は、プログラムARP/wARPにより同定され、差異ピーク高(3.0σより大)および距離基準に基づいて選択される。70(オングストローム)2より大きい温度因子をもつ水分子は拒絶される。プログラムOバージョン7.0(A.Jones et al.、1991)をモデル復元に使用する。最終モデルについての精密化統計値を表2に示す。複合体ROR(アルファ)/コレステロールサルフェートの最終モデルは、良好な外面的形態(rms結合長=0.014オングストローム、rms結合角=1.41°)を有し、残基は、ラマチャンドランプロットの不認可領域には無い。
【0085】
結晶化、データ収集:データ収集に使用する結晶は、0.2MのMgCl2、16%w/vPEG4000、0.1MのトリスHCl、pH8.5から成る適切な溶液より得られる。結晶は、6週間以内に0.2mmまでの最大大きさに達した。すなわち、コレステロールサルフェートとRORαLBDの複合体は、a=54.4オングストローム、b=49.9オングストローム、c=60.7オングストローム、β=97.8°、P21および1複合体/非対称単位の結晶形態で結晶化され、これはコレステロールとの複合体で以前に得られた結晶形態と類似している。
【0086】
ROR(アルファ)に結合したコレステロールサルフェートの立体配座およびその相互作用:一般に、電子密度は、弱い密度しかもたないアミノ酸461−464(L9−10)以外、優れた質を有する。精密化モデルのタンパク質部分は、His標識からの最終2個のHisアミノ酸、次いでPreScission(登録商標)部位(LEVLFQG)およびRORα−LBDのアミノ酸271−511により構成される。精密化モデルはまた、256個の水分子および1個のコレステロールサルフェート分子を含む。硫酸基により、NH−Gln289(3.0オングストローム)、NH−Tyr290(2.9オングストローム)との直接水素結合相互作用およびNH1−Arg370(3.0オングストローム、3.1オングストローム)との二座配位相互作用を為す。水介在相互作用は、NH1−Arg367により為される。
【0087】
ROR(アルファ)LBDに結合したコレステロールサルフェートおよびコレステロールのX線構造の比較
図10は、コレステロールおよびコレステロールサルフェートとのROR(アルファ)複合体についての重ね合わせ(各LBDのCαを用いる)を示す。重ね合わせ後の残基Pro270−Phe511のCα原子についてのr.m.s.dは0.26オングストロームである。タンパク質部分における唯一の顕著な変化は、Ile327の側鎖およびループ1−2(残基Gln289およびTyr290)について生じる:Gln289およびTyr290についてのバックボーンNH原子は、硫酸基との相互作用を改善するために、硫酸基に向かって約0.8オングストロームほど移動する(各側鎖の同時移動を伴う)。Ile327の側鎖は、末端イソプロピル基との立体衝突を回避するために僅かに移動しなければならない(図9)。比較結果は、コレステロールサルフェートおよびコレステロールが類似した全般的結合モードを有するが、コレステロールサルフェートはLBPの親水性正荷電部分に向かって僅かに(例、対応するC3原子は0.85オングストロームおよび対応するC2原子は0.7オングストロームほど)置き換えられていることを示す(図9)。これは、硫酸基により為される静電気および水素結合相互作用の最適化により説明され得る。LBPの親水性部分におけるコレステロールについて存在する7個の整列した水分子は、コレステロールサルフェートとの複合体では置き換えられている(図10)。硫酸基およびNH1−Arg367およびO−Ala330間の相互作用を仲介する唯一保存された水分子は依然として存在している。硫酸基は、NH−Gln289、NH−Tyr290およびNH1−Arg370との直接水素結合相互作用を為す。これはドッキング仮説を確認するもので、コレステロールサルフェートの提案が導かれる。
【0088】
【表10】

【表11】

【表12】

【表13】

【表14】

【表15】

【表16】

【表17】

【表18】

【表19】

【表20】

【表21】

【表22】

【表23】

【表24】

【表25】

【表26】

【表27】

【表28】

【表29】

【表30】

【表31】

【表32】

【表33】

【表34】

【表35】

【表36】

【表37】

【表38】

【表39】

【表40】

【表41】

【表42】

【表43】

【0089】
【表44】

【表45】

【表46】

【表47】

【表48】

【表49】

【表50】

【表51】

【表52】

【表53】

【表54】

【表55】

【表56】

【表57】

【表58】

【表59】

【表60】

【表61】

【表62】

【表63】

【表64】

【表65】

【表66】

【表67】

【表68】

【表69】

【表70】

【表71】

【表72】

【表73】

【表74】

【表75】

【表76】

【表77】

【表78】

【表79】

【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1:ヒトRORαの配列(スイスプロットP35398−1)。
【図2】図2は、RORα‐LBDおよびコレステロール間における複合体のX線構造表す概略図を示す。
【図3】図3は、RORα‐LBDおよびコレステロール間における複合体のズームイン写真を示す(スイスプロットP35398−1による番号付け)。
【図4】図4:親和力を増加させ、アンタゴニスト活性を得るためのリガンドの提案(スイスプロットP35398−1による番号付け)。
【図5】図5:親和力を増加させるためのコレステロールのさらなる誘導体の提案(スイスプロットP35398−1による番号付け)。
【図6】図6は、25−OHコレステロールおよびコレステロールサルフェートによるコレステロールの置換を示す。
【図7】図7は、ROR(アルファ)/コレステロールのX線構造のズーム写真を示す(スイスプロットP35398−2による番号付け)。
【図8】図8:コレステロールサルフェートとROR(アルファ)のLBPにより行なわれる相互作用の概観(スイスプロットP35398−2による番号付け)。
【図9】図9:ROR(アルファ)/コレステロール‐サルフェートおよびROR(アルファ)/コレステロールのX線構造の比較(スイスプロットP35398−2による番号付け)。
【図10】図10:ROR(アルファ)/コレステロール(左)およびROR(アルファ)/コレステロール‐サルフェート(右)のX線構造の比較(スイスプロットP35398−2による番号付け)。
【図11】図11:結晶化で使用される構築物の配列。二次構造エレメントは配列の下に示されている。コレステロールに対し4オングストロームより近位に非水素原子を有するアミノ酸は、赤色で強調されている(スイスプロットP35398−2による番号付け)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RORαの結晶性LBD。
【請求項2】
RORαのLBDが小分子と会合している、請求項1記載のRORαの結晶性LBD。
【請求項3】
RORαのLBDが親油性物質と会合している、請求項1または2記載のRORαの結晶性LBD。
【請求項4】
RORαのLBDがコレステロールまたはコレステロールの誘導体と会合している、請求項1、2または3記載のRORαの結晶性LBD。
【請求項5】
結晶が、a=55.9オングストローム±2オングストローム、b=49.9オングストローム±2オングストローム、c=60.7オングストローム±2オングストロームおよびβ=98.7°±5°の大きさを有する単位格子および空間群P2(1)を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のRORαの結晶性LBD。
【請求項6】
RORαの結晶性LBDが表8または9の原子構造座標またはその一部を含む、請求項1〜5のいずれかに記載のRORαの結晶性LBD。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の結晶の重原子誘導体。
【請求項8】
表8または9における原子座標の一つまたはそれ以上のセットを含むLBD RORαの構造を具体的に表すモデルを含むコンピューター読取可能媒体。
【請求項9】
RORαのLBDに結合する物質の同定方法であって、
(a)表8または9における原子座標の一つまたはそれ以上のセットを含むRORαのLBDの構造を具体的に表すモデルを提供し、
(b)上記モデルと候補物質の相互作用を評価し、そして
(c)RORαのLBDと相互作用すると予測される物質を選択する
ことを含む方法。
【請求項10】
選択された物質をRORαのLBDとさらに接触させる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
物質が、Cys321、Gln322、Tyr323、Leu328、Trp353、Cys356、Ala357、Lys359、Ile360、Glu362、Ala363、Val397、Phe398、Arg400、Met401、Arg403、Ala404、Val412、Tyr413、Phe414、Phe424、Leu427、Cys429、Phe432、Ile433、Val436、His517、Lys520およびTyr540から成る群から選択される1個またはそれ以上のアミノ酸と直接的または間接的に相互作用する、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
物質が、Gln322、Tyr323、Arg400およびArg403から成る群から選択される1個またはそれ以上のアミノ酸と直接的または間接的に相互作用する、請求項9または10記載の方法。
【請求項13】
相同体が、1.5オングストローム以下のアミノ酸のバックボーン原子からの二乗平均偏差(derivation)を有する、上記モデルの相同体を用いる請求項9、10、11または12記載の方法。
【請求項14】
物質が小分子である、請求項9、10、11、12または13記載の方法。
【請求項15】
物質がコレステロールまたはコレステロール誘導体である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
(a)表8または9に示された原子座標の一つまたはそれ以上のセットによる合理的な薬剤設計を実施することにより可能性のある化合物を選択し、ただし選択はコンピューターモデリングと連係的に実施するものとし、(b)可能性のある化合物をRORαのLBDと接触させ、そして(c)RORαの生物活性を測定することを含む、RORαのLBDに結合するアゴニストまたはアンタゴニストの同定方法。
【請求項17】
化合物が、Cys321、Gln322、Tyr323、Leu328、Trp353、Cys356、Ala357、Lys359、Ile360、Glu362、Ala363、Val397、Phe398、Arg400、Met401、Arg403、Ala404、Val412、Tyr413、Phe414、Phe424、Leu427、Cys429、Phe432、Ile433、Val436、His517、Lys520およびTyr540から成る群から選択される1個またはそれ以上のアミノ酸と直接的または間接的に相互作用するように設計されている、請求項16記載の方法。
【請求項18】
物質が、Gln322、Tyr323、Arg400およびArg403から成る群から選択される1個またはそれ以上のアミノ酸と直接的または間接的に相互作用する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
化合物がアゴニスト位置におけるRORαのLBDのらせん12を安定化させる場合にはそれがRORαアゴニストとして選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
化合物がアゴニスト位置からRORαのLBDのらせん12を脱安定化させる場合にはそれがRORαアンタゴニストとして選択される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
アゴニスト位置におけるRORαのらせん12を安定化させる化合物の治療有効量および医薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項22】
アゴニスト位置からRORαのらせん12を脱安定化させる化合物の治療有効量および医薬上許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項23】
RORαと相互作用する化合物についてのスクリーニング方法であって、
(a)RORαを候補化合物と接触させ、(b)ステロールの不存在下で候補化合物およびRORα間における相互作用を測定し、そして(c)化合物がRORαと相互作用する場合にはそれを選択することを含む方法。
【請求項24】
コレステロール関連疾患の処置に有用な化合物についての請求項23記載のスクリーニング方法。
【請求項25】
内分泌疾患、アテローム性動脈硬化症および心臓血管疾患、代謝性疾患、たとえば肥満、炎症性疾患、皮膚病、CNSに関連した疾患、たとえばアルツハイマー病および腫瘍関連疾患の処置に有用な化合物についての請求項23記載のスクリーニング方法。
【請求項26】
コレステロール関連疾患の処置に有用な化合物を同定するための細胞スクリーニング検定法におけるRORαの使用。
【請求項27】
内分泌疾患、アテローム性動脈硬化症および心臓血管疾患、代謝性疾患、たとえば肥満、炎症性疾患、皮膚病、CNSに関連した疾患、たとえばアルツハイマー病および腫瘍関連疾患による化合物を同定するための細胞スクリーニング検定法におけるRORαの使用。
【請求項28】
RORαのLBDおよびコレステロールまたはコレステロール誘導体を含む組成物。
【請求項29】
組成物が結晶化し得る、請求項28記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2006−502970(P2006−502970A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−501451(P2004−501451)
【出願日】平成15年4月28日(2003.4.28)
【国際出願番号】PCT/EP2003/004433
【国際公開番号】WO2003/093312
【国際公開日】平成15年11月13日(2003.11.13)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】