説明

レトルト用容器、レトルト製品およびレトルト製品の製造方法

【課題】容器内の含気部における凝集物の発生が抑制されたレトルト製品を提供すること。
【解決手段】液状物質を含む内容物を充填するレトルト用容器における、含気部を覆う領域の容器内面にコロナ放電処理が施されたレトルト製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト用容器、レトルト製品、およびレトルト製品の製造方法に関し、特に、凝集物の発生が抑制されたレトルト用容器およびレトルト製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液状物質、特にたんぱく質、糖質、脂質などを含有する組成物をプラスチック製容器に充填した場合、容器の内面に斑模様や雫状の塊が発生するという現象がしばしば認められている。
このような現象は、充填された液状物質が容器内面に付着することによって発生すると考えられており、例えば、透明な容器の場合には、特に液状物質が有色であると、付着物により形成された斑模様などが可視化され、製品の外観を損ねる可能性がある。また、例えば容器を加熱処理した際には、雫状の塊部分が過加熱となり、品質を安定に維持することができなくなる場合がある。
一例を挙げると、これまでに高齢者や各種疾病を持つ入院患者や在宅療養者に対して、栄養補給を目的に使用される製品として、たんぱく質を配合した各種流動食や栄養剤などの栄養組成物が市販されている。これらは高温加熱を伴うレトルト殺菌処理をされているものが多く、レトルト殺菌処理後に、レトルトパウチ内にある含気部に、凝集物が発生する場合がある。これはパウチ内面のフィルムに付着した雫状の塊となった少量の内容液が乾燥、もしくは少量のため過剰に熱がかかり、たんぱく質などが凝集・凝固もしくは変性したためと考えられる。このような凝集物が、液体である内容液中に混入した場合、異物とみなされる可能性があり、また、液状物質のみからなる経管流動食の場合には、チューブ詰りを起こす可能性も示唆されている。
【0003】
これまで上記のような問題が発生した場合には、液の組成を変更させるなど、凝集物発生を抑制するために内容液の性質を変化させる検討がなされており、製品ごとに検討することが必要であった。
特許文献1には、含気部を高濃度の二酸化炭素を含む気体で置換し、殺菌後に含気量を激減させるようにし、結果として凝集物の発生が押さえられるという効果を記載する。
しかしながら、製造現場における充填時の二酸化炭素による置換操作は、個々の製品でばらつきが少なからず存在し、夫々が好ましい状態で置換された状態にあるのか、確認することは難しい。更に置換操作を実施するための設備導入が必須であり、製造ラインによっては導入が不適となる場合もある。
また特許文献2は、水分量の多い内包物を封入した場合、商品陳列時の気温の変化により包装袋内面に水滴が付着して曇りが生じるという課題を、包装袋内面にコロナ放電処理することにより防止できることを記載する。
しかしながら、100℃を超える高温で加熱するレトルト殺菌処理時における凝集物生成抑制効果については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−110937号公報
【特許文献2】特開2009−241975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、液状物質を含む内容物が充填されたレトルト用容器に対し、レトルト殺菌処理に伴い、液体を充填した際に容器内面に液体が付着して、斑模様になったり、雫状の塊となったりすることを抑制し、これによりレトルト製品の外観を損ねたり、品質がバラついたりせず、使用上好ましい形態でレトルト製品を使用者に提供することである。特に、レトルト用容器が含気部を有する場合、レトルト殺菌処理時の加熱によって、容器内面の含気部に付着した液状物質が斑模様などの原因となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、レトルト用容器内面をコロナ放電処理することで、これらの課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]容器内面がコロナ放電処理された、液状物質を含む内容物を収容する、レトルト用容器。
[2]前記容器の内面がポリオレフィンからなり、前記ポリオレフィンがコロナ放電された[1]記載のレトルト用容器。
[3]前記容器が、前記液状物質を含む内容物を、含気部を設けて収容する容器であって、レトルト殺菌処理時に、少なくとも前記含気部の内面がコロナ放電処理されている[1]または[2]記載のレトルト用容器。
[4]前記容器が、2枚の包材の周囲がヒートシールされて形成されてなる容器であって、前記包材のうちの一方の包材の内面がコロナ放電処理されてなる[1]〜[3]のいずれかに記載のレトルト用容器。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の容器に、含気部を設けて液状物質を含む内容物を封入する工程と、前記内容物が封入された容器をレトルト殺菌処理する工程と、を少なくとも有するレトルト製品の製造方法。
[6]前記レトルト殺菌処理工程が、コロナ放電処理された容器内面が少なくとも前記含気部を覆う状態でレトルト殺菌処理する工程である、[5]記載のレトルト製品の製造方法。
[7]前記レトルト殺菌処理工程が、コロナ放電処理された容器内面を上方にした状態でレトルト殺菌処理する工程である、[5]または[6]記載のレトルト製品の製造方法。
[8]前記封入工程が、容器の内容積の50%〜98%の容積の内容物を封入する工程である、[5]〜[7]のいずれかに記載のレトルト製品の製造方法。
[9]上記[5]〜[8]のいずれかに記載の方法で製造されたレトルト製品。
[10]内容物が液状成分を含み、かつ、たんぱく質、糖質、脂質から選ばれる少なくとも1つを含有する、[9]記載のレトルト製品。
[11]前記内容物が総合栄養組成物である、[10]記載のレトルト製品。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、たんぱく質、糖質、脂質を配合した各種流動食や栄養剤などの液状の総合栄養組成物などを内容物とするレトルト製品に対して、高温加熱を伴うレトルト殺菌処理を行っても、レトルト用容器内にある含気部における、凝集物の発生が抑制される。特に、容器内面から剥がれ落ちやすい塊状の凝集物の発生を顕著に抑制することができる。塊状の凝集物の発生が抑制されることにより、レトルト製品の外観不良の発生が防止され、剥がれ落ちた凝集物が内容液に混入することによる経管流動食用チューブの詰りなどの不具合発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は本発明の一実施形態のレトルト製品を示す断面模式図である。
【図2】図2は図1のA−A断面における部分拡大断面の模式図である。
【図3】図3は本発明の一実施形態のレトルト製品の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のレトルト用容器は、液状物質を含む内容物(以下、液状物質を内容液ということがある)が含気部を残して収容されうるレトルト用容器(以下、レトルトパウチということがある)であって、該容器内面がコロナ放電処理されているものである。また、本発明においてレトルト製品とは、本発明のレトルト用容器に液状物質を含む内容物が封入されたものである。
【0011】
図1に本発明の一実施形態のレトルトパウチ11に内容物12が収容されたレトルト製品10の断面を模式的に示しており、特に、レトルト殺菌処理時のレトルト製品10の断面形状を示している。レトルトパウチ11は、コロナ放電処理された内面20を有する第1包材11aとコロナ放電処理されていない第2包材11bからなる。レトルトパウチ11の周囲はヒートシール部14によってシールされており、それにより内容物12が含気部13とともにレトルトパウチ11内に封入されている。図1に示すように、レトルト殺菌処理時には、コロナ放電処理された内面20が含気部13を覆う状態で処理される。すなわち、レトルト殺菌処理時に内容液が接触していない内面が、コロナ放電処理されていることが好ましい。含気部13が第2包材11bにまで達している場合には、少なくとも含気部13に面する第2包材11bの内面もコロナ放電処理されていることが好ましい。
【0012】
液状物質を含む内容物12の容積は、ヒートシールされたレトルトパウチ11の内容積の50%以上、98%以下であることが好ましい。内容物12の容積をレトルトパウチ11の内容積の50%以上にすることで、コロナ放電処理された第1包材11aの内面20が、含気部13全体を覆うことができる。また、98%以下とすることで、内容物の充填が容易となる。
【0013】
液状物質を含む内容物12は、高温加熱を伴うレトルト殺菌処理時に、容器内面に凝集物が付着しやすい、たんぱく質、糖質、脂質などを含有しており、主に液状または流動状の内容物である。内容物としては、例えば、医療用流動食や医薬品栄養剤のような液状の総合栄養組成物が挙げられるが、それ以外にも、カレー、ミートソース、お粥等の流動性を有する食品、ココア、コーヒー、スープ等の飲料、などが挙げられる。
ここで、総合栄養組成物は、窒素源、ミネラル、ビタミンを含み、糖質、脂肪を含有してもよい。窒素源としては、酸カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、乳性たん白質などやこれらの加水分解物を例とする乳たんぱく質などの動物性たんぱく質や大豆たんぱく質、小麦たんぱく質などやこれらの加水分解物を例とする植物性たんぱく質の如何なるものも利用できる。糖質としては、デキストリン、オリゴ糖、ショ糖、グルコース、果糖、二糖類、パラチノースなどを単独で、もしくは組み合わせて用いることができる。脂質としては、キャノーラ油、大豆油、コーン油、エゴマ油、サフラワー油、パーム油、菜種油、その他植物性由来油脂、魚油、バター、豚脂、牛脂その他動物性由来油脂、脂肪酸を構造中に有する乳化剤や中鎖脂肪酸トリグリセリド等機能性を有する油脂が挙げられる。また、ビタミンとしては、ビタミンA、B1、B2、B6、B12、C、D、E、K、β−カロチン、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンなどが挙げられる。さらに、必須アミノ酸であるスレオニン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、バリンなどを含んでも良い。また、ミネラルとしては、ナトリウム、亜鉛、銅のほかに、カルシウム、鉄、リン、マグネシウム、カリウム、ヨウ素、マンガン、セレン、クロム、モリブデンなどが挙げられる。これらは有機酸や無機酸の塩、高含有含む食品抽出物や酵母、乳酸菌等の形態で使用、添加される。また、経口摂取を容易にするために、適当な香料、アスパルテームなどのノンカロリー甘味料を含んでいても良く、排便促進のための難消化性食物繊維などの成分、場合によっては経口投与される医薬品など含んでもよい。さらに、成分の分散のために各種乳化剤や安定剤を含んでも良い。風味を良好とするために食品由来の原材料や、調味料、pH調整剤のような食品添加物を含んでも良い。このような総合栄養組成物は、経口摂取が不十分な患者に対しては、投与チューブを用いて直接腸や胃に給与することができる。
【0014】
レトルトパウチ11を構成するラミネートフィルムとしては、従来から、レトルトパウチ用として用いられている各種のラミネートフィルムを用いることができる。ラミネートフィルムとしては、外層、および容器内面に露出し、かつヒートシールすることができる包材の最内層(以下、シーラント層ともいう)よりなる積層体を最少の構成要素とするが、該外層と該シーラント層の間に接着層、ガスバリア層、補強層、あるいは他の材料からなる中間層を積層してもよい。例えば、該外層にアルミニウム箔またはアルミニウム蒸着膜を使用する場合、延伸ナイロン(ONY)及び/またはポリオレフィンの樹脂層を中間に積層することが好ましい。また、包材を全体として透明フィルムで構成する場合には、アルミニウム蒸着膜に代えて、透明フィルム上に酸化珪素系や、酸化アルミ系蒸着膜を形成しても良い。
【0015】
外層に用いる基材フィルムとしては、レトルト殺菌処理時の加熱条件に耐えられるよう、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、芳香族ポリステルなどのポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6−10、MXDナイロンなどのナイロン樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、およびポリエーテルイミドなどの耐熱性を有する熱可塑性樹脂が好ましい。
特に、耐熱性、強度物性、透明性、印刷適性などが求められる場合には、PETフィルム、シリカ蒸着PETフィルム、アルミナ蒸着PETフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ナイロンフィルム等が好ましい。市販されているアルミナ蒸着PETフィルムとしては、1011SG、1011EG(東洋メタライジング(株)製)、GL−AEH(凸版印刷(株)製)などが挙げられ、シリカ蒸着PETとしては、テックバリアーTZ(三菱樹脂(株)製)などが挙げられる。
外層フィルムの厚さに制限はないが、通常、10〜60μm、好ましくは10〜20μm程度である。
【0016】
容器内面に露出し、かつヒートシールすることができるシーラント層(最内層)は、液状物質を含む内容物と接触する層でもある。シーラント層としては、ポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンとしては、汎用ポリオレフィンや特殊ポリオレフィン類を挙げることができる。具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体(EAM)、アイオノマー(IO)等が挙げられる。
ポリオレフィンの中でも無延伸ポリプロピレン(CPP)がより好ましい。CPPとしては、特に、ポリプロピレンホモポリマー、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体などの各種ポリプロピレン、メタロセン触媒ポリプロピレンなどが好ましい。市販されているCPPとして、例えば、東洋紡績(株)製C1506、昭和電工プラスチックプロダクツ(株)製アロマーUT−2などが挙げられる。
シーラント層の厚みは20〜100μmであることが好ましく、60〜80μmであることがより好ましい。
【0017】
図2に、図1のレトルト製品10のA−A断面における部分断面図を模式的に示す。図2に示す実施形態では、レトルトパウチ11を構成する第1包材11aと第2包材11bは同一の積層構成のラミネートフィルムからなる。
図2の実施形態では、第1包材11aおよび第2包材11bは、いずれも、外層21、中間層22、シーラント層23の3層積層構成である。第1包材11aは、内面が、コロナ放電処理された内面20であるのに対し、第2包材11bは、コロナ放電処理されていない点で異なっている。なお、図2では、第1包材11aと第2包材11bが同一の積層構成であるが、最内層がポリオレフィンからなる層であれば、第1包材11aと第2包材11bが、互いに異なる積層構成のラミネートフィルムであっても良い。
【0018】
次に、図3を参照して、本発明の一実施形態のレトルト製品の製造方法について説明する。
【0019】
まず、ラミネートフィルムを作製する(S101)。ラミネートフィルムの製造方法は従来から行われている方法を採用することができる。外層フィルムとシーラント層からなる積層体の場合には、接着剤を介することなく、市販のラミネータを用いて、両者をラミネートすることもできる。外層フィルムとシーラント層の間に中間層を有する場合には、外層フィルムと中間層間を、脂肪族ウレタン系接着剤を介してラミネートするとともに、中間層とシーラント層間は接着剤を用いることなくラミネートすることができる。
ラミネート方法としては、ドライラミネート、熱ラミネート、押出しラミネートなどを採用することができる。
【0020】
次に、一方のラミネートフィルム(第1包材)のシーラント面の全面をコロナ放電処理(S102)する。コロナ放電処理における放電量は、特に限定されないが、15〜100W・min/mであることが好ましい。この処理条件範囲とすることで、レトルト殺菌処理時のフィルム面への凝集物の付着が解消されるとともに、被処理面の劣化などの問題が生じない。コロナ放電処理の装置としては、市販の装置を用いることができる。例えば、商品名コロナフィット(信光電気計装株式会社製)、コロナ放電表面処理装置AGI-020D(春日電機株式会社)などが挙げられる。容器の内容積に対する内容物の充填比率が大きい時、言い換えると、含気部の容積が小さい時には、第1包材のシーラント面を部分的(例えば、第1包材の中央部の所定面積)にコロナ放電処理することもできる。逆に、含気部の容積が大きい時には、含気部が全てコロナ放電処理されたシーラント面で覆われるように、第2包材の含気部に面するシーラント面もコロナ放電処理する必要がある。
【0021】
第1包材のコロナ放電処理されたシーラント面と、コロナ放電処理されていない第2包材のシーラント面とを対向させ、ホットシーラー(例えば、大洋電気産業株式会社製)、またはヒートシーラー(例えば、大洋電気産業株式会社製)で、周囲の3辺をヒートシール(S103)して、1辺を開口部とするパウチを作製する。S103または、S105の工程で、ヒートシール部がコロナ放電処理された面を含んでいても構わない。
【0022】
開口部から、液状物質を含む内容物を充填する(S104)。充填量は、4方シール後の容器の内容積に対して、50%〜98%が好ましく、70%〜98%がさらに好ましい。50%未満の場合、容器の外形が大きくなり、コロナ放電処理の必要な面積が大きくなり、レトルト殺菌処理時に、コロナ放電処理された内面で含気部を覆うことが容易でなくなることがある。一方、98%を超えると充填および密封シールが困難になることがある。
【0023】
充填後、開口部をホットシーラーまたはヒートシーラーを用いて、ヒートシールする(S105)ことにより、内容物が封入された4方パウチ(容器)が形成される。コロナ放電処理(S102)後、4方パウチを作製するまでの時間は、特に制限はない。一般に、コロナ放電処理後、長時間が経過すると、コロナ放電処理された表面のヌレ性が低下することは知られているが、後述するように、レトルト殺菌処理時における容器内面の塊状凝集物の発生抑制という本発明の効果は、コロナ放電処理後、長時間経過した後でも維持される。
【0024】
作製された4方パウチをレトルト釜内に並べてレトルト殺菌処理(S106)を行う。レトルト殺菌処理とは、包装された食品中の微生物等を加熱により殺菌する処理である。図1に示す実施形態では、コロナ放電処理された第1包材11aのシーラント面を上面にして並べる。このようにすることで、図1に示すように、含気部13がコロナ放電処理された内面20に覆われる。図1の例では、レトルトパウチ11の内面の約50%の面積がコロナ放電処理されている。なお、レトルト殺菌処理時にコロナ放電処理された内面20が含気部13を覆うことが必要であるため、内容物12の充填量が多く、含気部13の容積が小さい場合には、コロナ放電処理された内面20の面積を図1の場合よりも、小さくすることができる。
またレトルト殺菌処理の条件は、内容物の種類、充填量、パウチの大きさ等によって異なり、一概に規定できないが、一般的には、中心温度105〜130℃で200分〜数秒のレトルト殺菌処理を施したものであればよい。具体的には、115℃−30分、120℃−4分、124℃−9分、130℃−8分などの条件が挙げられる。ここで、中心温度とは、加熱開始から終了までの時間ではなく、被処理物の中心部分が、一定の温度(例えば、124℃)で一定時間(例えば、9分間)保持されるということである。
レトルト殺菌処理装置の装置は特に限定されず、バッチ式であっても連続式であってもよい。具体的には、蒸気式、熱水式、熱水シャワー(スプレー)式、熱水式とシャワー式の兼用タイプなどが挙げられる。
【0025】
[評価方法]
内容積80mlの容器に、たんぱく質、糖質、脂質などを含む液状内容物(内容液ともいう)を封入したサンプルを作製した。封入した内容液の体積は70mlで、含気量は10mlとした。レトルト殺菌処理を行った後、含気部を覆う容器内面に付着した凝集物について以下の方法で評価した。
【0026】
1.目視観察
含気部を覆う容器内面を目視で観察し、内面における凝集物の付着形状を記録した。
【0027】
2.容器内面における付着物の剥れ難さ
凝集物の容器内面からの剥れ難さは容器を両方の手のひらで挟み、床面と垂直になるように持ち、全体を往復10回上下に振とうした後の剥れ状況を目視で検査した。
振とう後の容器内面を目視で観察し、凝集物が内面から剥がれた面積の割合を観察した。
×:剥がれた割合が20%以上
○:剥がれた割合が20%未満
【0028】
3.凝集物付着量の測定
容器内面の凝集物発生量を測定するため、容器内面に付着した凝集物をスパチュラで回収し、容器内のサンプルと共にミルクセジメントディスクを使用して吸引ろ過し、ミルクセジメントディスク上の残留物の重量を測定した。ミルクセジメントディスクは、株式会社アドバンテック製No.1026(白色)を用いた。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の一実施形態について、実施例を用いて詳細に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[実験例1]
外層側から、12μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムと、15μm厚の二軸延伸された6−ナイロン(ONY)層とを、脂肪族ウレタン系接着剤を用いてドライラミネートして耐熱性の外層/中間層積層フィルムを作製した。該積層フィルムの内側にシーラント層として、70μm厚の無延伸ポリプロピレン(CPP)(ZK93KM:東レフィルム加工株式会社製)を無接着で熱ラミネートしてラミネートフィルム(包材)を作製した。
コロナ表面処理装置AGI-020D(春日電機株式会社製)を用いて、一方のラミネートフィルム(PET/ONY/CPP)のシーラント(CPP)面を放電量15、25、50、75、100W・min/mでコロナ放電処理した。コロナ放電処理を施したラミネートフィルムと、コロナ放電処理を施していない同一構成のラミネートフィルムをCPP層が内側となるように対向させ、ホットシーラーにて3方を貼りあわせて袋(縦110mm、横180mm)を作製した。比較例として両内面ともにコロナ放電処理を施していない袋を同様の方法で作製した。
別途、内容液Aおよび内容液Bを調整した。内容液Aおよび内容液Bは、表1に示す各成分を水に分散、溶解し、全体として100mlとなるように調整したものである。
上記の袋に、表1の組成を有する内容液Aもしくは内容液Bをそれぞれ充填した後、開封部をシールして4方パウチとした。この時、すべてのサンプルにおいて充填液70ml、含気量10mlとなるように調整した。また、コロナ放電処理してからパウチを作成するまでは、48時間以内に行った。内容液Aのレトルト殺菌処理前の粘度は9mPa・s、レトルト殺菌処理後の粘度は11mPa・sであった。また、内容液Bのレトルト殺菌処理前の粘度は13mPa・s、レトルト殺菌処理後の粘度は14mPa・sであった。
作製したパウチを、コロナ放電処理したフィルムが上面となるようにレトルト釜内に並べ、レトルト殺菌処理(熱水スプレー式、殺菌温度124℃、9分)後、パウチ内の凝集物について上記の評価方法により評価した。結果を表2および表3に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
表2及び表3の結果が示すように、パウチ内面片側がコロナ放電処理されていることによって、レトルト殺菌処理時に、パウチ内面に付着した凝集物の形状と剥れ難さ、および凝集物発生量が顕著に異なることが判明した。すなわち、コロナ放電処理されていない比較例1、2の容器内面に付着した凝集物は、塊状で剥がれ易かった。これに対し、内面がコロナ放電処理された本発明の実施例1〜10の容器内面に付着した凝集物はシート状の付着物であるため外観を損ねることが少なく、また容器内に強固に付着していたため、内面から剥れ難かった。
つまり、凝集物が塊状の比較例1、2と比較すると、実施例1〜10の凝集物は外観を損なうことが少なく、かつ、凝集物が剥がれ落ちて内容液の異物となることが少なく、また、凝集物の発生量自体も減少していた。例えば、実施例2では、比較例1の1/10以下にまで減少していた。したがって、レトルト殺菌処理時に、含気部を覆う容器内面をコロナ放電処理することによって、内容液中へ異物の混入が抑制され、経管投与時におけるチューブ詰りを防止することができると考えられる。
【0034】
[実験例2]
上記実験例1と同一のラミネートフィルム(PET/ONY/CPP)を用い、同様の方法で、放電量15、25、50W・min/mでコロナ放電処理した。前記処理後、1ヶ月経過後のラミネートフィルムと、コロナ放電処理を施していない同一構成のラミネートフィルムとをCPP層が内側となるように対向させ、ホットシーラーにて3方を貼りあわせて袋(縦110mm、横180mm)を作製した。比較例3として両内面ともにコロナ放電処理を施していない袋を同様の方法で作製した。
上記の袋に、表1の組成を有する内容液Aを充填した後、開封部をシールして4方パウチとした。この時、すべてのサンプルにおいて充填液70ml、含気量10mlとなるように調整した。
作製したパウチを、コロナ放電処理したフィルムが上面となるようにレトルト釜内に並べ、レトルト殺菌処理(熱水スプレー式、殺菌温度124℃、9分)後、パウチ内の凝集物について上記の評価方法により評価した。結果を表4に示す。
【0035】
[ヌレ性の評価] ヌレ性の評価のため、JIS K6768に準拠して、コロナ放電処理直後、及び、1ヵ月経過後のシーラント表面のヌレ張力を測定した。
【0036】
【表4】

【0037】
一般的にコロナ放電処理面のヌレ性は処理直後から経時劣化することが知られており、ラミネート面の接着性向上を目的としたコロナ放電処理の場合には、なるべく速やかにラミネート工程を実施する必要がある。実際に、実施例11〜13の例でも、1ヵ月後のシーラント面のヌレ張力は、未処理の比較例3に近い値にまで低下した。
しかしながら、表4から明らかなように、本発明が目的とする、レトルト殺菌処理時の容器内面への塊状凝集物形成の抑制および、凝集物の剥がれ落ちの抑制の効果としてはコロナ放電処理後1ヶ月経過後であっても、コロナ放電処理直後と同等の良好な結果が得られた。このことから、本発明のコロナ放電処理における、塊状凝集物の発生を抑制する効果は、シーラント表面のヌレ性にのみ依存するわけではない可能性も考えられる。
【0038】
上記実施の形態では、2枚の包材の4方をヒートシールして作製した4方パウチを用い、かつ、一方の包材の全面をコロナ放電処理する場合について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の特徴は、高温が加えられるレトルト殺菌処理において、含気部を覆う容器内面がコロナ放電処理されていることであることから、容器の内容積に対する内容物の容積が大きい場合には、一方の包材の全面ではなく、一部のみをコロナ放電処理すればよい。また、1枚の包材を折りたたんで3方をヒートシールして作製する容器の場合、折りたたまれた一方の面の全面または一部のみにコロナ放電処理してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
コロナ放電による本発明のレトルト容器内面の処理方法は、レトルト製品全般に適用することができる。さらに、液状物質を含む内容物が、含気部を備えて、最内層がプラスチック、特にオレフィンである容器内に密封され、その状態で加熱処理される製品であれば、レトルト製品に限ることなく本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 レトルト製品
11 レトルトパウチ
11a 第1包材
11b 第2包材
12 内容物
13 含気部
14 ヒートシール部
20 コロナ放電処理された内面
21 外層
22 中間層
23 シーラント層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内面がコロナ放電処理された、液状物質を含む内容物を収容する、レトルト用容器。
【請求項2】
前記容器の内面がポリオレフィンからなり、前記ポリオレフィンがコロナ放電された請求項1記載のレトルト用容器。
【請求項3】
前記容器が、前記液状物質を含む内容物を、含気部を設けて収容する容器であって、レトルト殺菌処理時に、少なくとも前記含気部の内面がコロナ放電処理されている請求項1または2記載のレトルト用容器。
【請求項4】
前記容器が、2枚の包材の周囲がヒートシールされて形成されてなる容器であって、前記包材のうちの一方の包材の内面がコロナ放電処理されてなる請求項1〜3のいずれか1項記載のレトルト用容器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の容器に、含気部を設けて液状物質を含む内容物を封入する工程と、前記内容物が封入された容器をレトルト殺菌処理する工程と、を少なくとも有するレトルト製品の製造方法。
【請求項6】
前記レトルト殺菌処理工程が、コロナ放電処理された容器内面が少なくとも前記含気部を覆う状態でレトルト殺菌処理する工程である、請求項5記載のレトルト製品の製造方法。
【請求項7】
前記レトルト殺菌処理工程が、コロナ放電処理された容器内面を上方にした状態でレトルト殺菌処理する工程である、請求項5または6記載のレトルト製品の製造方法。
【請求項8】
前記封入工程が、容器の内容積の50%〜98%の容積の内容物を封入する工程である、請求項5〜7のいずれか1項記載のレトルト製品の製造方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項記載の方法で製造されたレトルト製品。
【請求項10】
内容物が液状成分を含み、かつ、たんぱく質、糖質、脂質から選ばれる少なくとも1つを含有する、請求項9記載のレトルト製品。
【請求項11】
前記内容物が総合栄養組成物である、請求項10記載のレトルト製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−184071(P2011−184071A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50988(P2010−50988)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】