説明

レドックスフロー電池、及びその運転方法

【課題】高い起電力が得られるレドックスフロー電池と、その運転方法を提供する。
【解決手段】電池要素100に、正極用タンク106に貯留される正極電解液、及び負極用タンク107に貯留される負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池1である。このレドックスフロー電池1における正極電解液は、正極活物質としてMnイオンを含有し、負極電解液は、負極活物質としてTiイオン、Vイオン、およびCrイオンの少なくとも1種を含有する。そして、このレドックスフロー電池1は、負極用タンク107の外部から内部に連通され、その負極用タンク107内部に酸化性気体を導入するための負極側導入配管10と、負極側導入配管10を介して負極用タンク107内部に酸化性気体を供給する供給機構11と、を備える

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池、及びその運転方法に関するものである。特に、高い起電力が得られるレドックスフロー電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化への対策として、太陽光発電、風力発電といった新エネルギーの導入が世界的に推進されている。これらの発電出力は、天候に影響されるため、大量に導入が進むと、周波数や電圧の維持が困難になるといった電力系統の運用に際しての問題が予測されている。この問題の対策の一つとして、大容量の蓄電池を設置して、出力変動の平滑化、余剰電力の貯蓄、負荷平準化などを図ることが期待される。
【0003】
大容量の蓄電池の一つにレドックスフロー電池がある。レドックスフロー電池は、正極電極と負極電極との間に隔膜を介在させた電池要素に正極電解液及び負極電解液をそれぞれ供給して充放電を行う。上記電解液は、代表的には、酸化還元により価数が変化する金属イオンを含有する水溶液が利用される。正極に鉄イオン、負極にCrイオンを用いる鉄−クロム系レドックスフロー電池の他、正極及び負極の両極にVイオンを用いるバナジウム系レドックスフロー電池が代表的である(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−147374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バナジウム系レドックスフロー電池は、実用化されており、今後も使用が期待される。しかし、従来の鉄−クロム系レドックスフロー電池やバナジウム系レドックスフロー電池では、起電力が十分に高いとは言えない。今後の世界的な需要に対応するためには、更に高い起電力を有し、かつ、活物質に用いる金属イオンを安定して供給可能な、好ましくは安定して安価に供給可能な新たなレドックスフロー電池の開発が望まれる。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、高い起電力が得られるレドックスフロー電池を提供することにある。また、本発明の他の目的は、優れた電池特性を有する状態を維持できるレドックスフロー電池の運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
起電力を向上するためには、標準酸化還元電位が高い金属イオンを活物質に用いることが考えられる。従来のレドックスフロー電池に利用されている正極活物質の金属イオンの標準酸化還元電位は、Fe2+/Fe3+が0.77V、V4+/V5+が1.0Vである。本発明者らは、正極活物質の金属イオンとして、水溶性の金属イオンであり、従来の金属イオンよりも標準酸化還元電位が高く、バナジウムよりも比較的安価であって資源供給面においても優れると考えられるマンガンを用いたレドックスフロー電池を検討した。Mn2+/Mn3+の標準酸化還元電位は、1.51Vであり、Mnイオンは、起電力がより大きなレドックス対を構成するための好ましい特性を有する。
【0008】
ここで、レドックスフロー電池は、電解液として水溶液を用いる電池である。そのため、このレドックスフロー電池では、充放電反応に伴う副反応として、水の分解により負極では水素ガス、正極では酸素ガスが発生する場合がある。本発明者らが検討した結果、正極活物質としてMnイオンを含有する正極電解液を用いたレドックスフロー電池では、正極活物質であるMnの酸化還元電位が、従来正極活物質として用いられていたFeやVに比べてより貴な電位を有していることから、正極での副反応が支配的となることを見出した。この場合、負極電解液の充電状態(SOC:State of Charge、充電深度と言うこともある)が次第に正極電解液よりも高い状態となる。このように、両電解液に充電状態の差が生じると、レドックスフロー電池の電池容量が初期状態に比べて大きく減じられるため、その対策が必要となる。
【0009】
以上説明した検討・知見に基づき、本発明を以下に規定する。
【0010】
本発明レドックスフロー電池は、正極電極と、負極電極と、これら両電極間に介在される隔膜とを備える電池要素に、正極用タンクに貯留される正極電解液、及び負極用タンクに貯留される負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池である。この本発明レドックスフロー電池における正極電解液は、正極活物質としてMnイオンを含有し、負極電解液は、負極活物質としてTiイオン、Vイオン、およびCrイオンの少なくとも1種を含有する。そして、本発明レドックスフロー電池は、負極用タンクの外部から内部に連通され、その負極用タンク内部に酸化性気体を導入するための負極側導入配管と、負極側導入配管を介して負極用タンク内部に酸化性気体を供給する負極側供給機構と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明レドックスフロー電池の運転方法は、上記本発明レドックスフロー電池を用いたレドックスフロー電池の運転方法であって、負極電解液に含まれる負極活物質を酸化するために、前記負極用タンク内部に前記酸化性気体を導入することを特徴とする。
【0012】
上記本発明レドックスフロー電池、およびその運転方法によれば、充放電を繰り返すうちに正極電解液と負極電解液の充電状態に差が生じたときに、負極電解液に酸化性気体を導入して負極電解液を酸化させることで、その差を小さくすることができる。両電解液の充電状態の差が小さくなれば、レドックスフロー電池の電池容量を、初期の電池容量に近い状態に復帰させることができる。
【0013】
以下、本発明レドックスフロー電池、及びその運転方法の好ましい形態について説明する。
【0014】
本発明レドックスフロー電池の一形態として、酸化性気体は、酸素を含む気体であることが好ましい。
【0015】
酸化性気体としては、負極電解液を酸化することができれば特に限定されず、例えば、塩素などであっても良い。しかし、酸化性気体の取り扱い時の安全性を考慮すれば、酸素を含む気体、例えば、純粋酸素、オゾン、あるいは空気などを利用することが好ましい。
【0016】
上記本発明レドックスフロー電池は、正極用タンクの気相と、負極用タンクの気相と、を連通する気相連通管を備えることが好ましい。
【0017】
既に述べたように、正極側では副反応として酸素ガスが発生する。そのため、上記気相連通管を設けておけば、正極側で発生した酸素ガスを負極電解液の酸化のために利用することができる。気相連通管は、常時開放しておくことで、正極用タンクから負極用タンクに酸素ガスを導入することができる。もちろん、気相連通管は、常時は閉鎖しておいて、負極側導入配管から負極用タンクに酸化性気体を導入する際に開放しても良い。
【0018】
上記本発明レドックスフロー電池は、レドックスフロー電池の充電状態をモニタするモニタ機構を備えることが好ましい。
【0019】
モニタ機構としては、例えば電池要素と同様の構成を備えるモニタセルを用いることが挙げられる。モニタセルには、正極用タンクと負極用タンクからそれぞれ実際に使用している正負の電解液を供給するように構成すると良い。その他、電解液の透明度を目視できるようにするモニタ機構(例えば、タンクやタンクと電池要素とを繋ぐ配管に設けられる透明な窓など)を挙げることもできる。後述するように、負極活物質としてTiイオンを利用する場合、3価のTiイオン(Ti3+)の溶液は黒色、4価のTiイオン(Ti4+)の溶液はほぼ透明である。つまり、レドックスフロー電池を完全に放電させて、負極電解液においてTi4+が支配的になったときに、負極電解液の透明度が低ければ、負極電解液の充電状態は正極電解液の充電状態よりも高いと判断でき、負極電解液の透明度が高ければ、両電解液の充電状態は同等程度と判断できる。
【0020】
上記本発明レドックスフロー電池に備わる負極側導入配管は、負極用タンクの液相内に開口していることが好ましい。
【0021】
負極側導入配管は、気相中に開口していても良いが、液相中に開口している方が、より効率的に負極電解液を酸化できる。
【0022】
上記本発明レドックスフロー電池は、負極用タンク内部に設けられ、負極電解液を撹拌する撹拌機構を備えることが好ましい。
【0023】
負極電解液を撹拌することで、負極電解液を効率的に酸化できる。その効果は、負極側導入配管を液相中に開口させることと組み合わせることで向上する。
【0024】
上記本発明レドックスフロー電池に用いる正極電解液は、Tiイオンを含有することが好ましい。
【0025】
正極活物質としてMnイオンを用いた場合、充放電に伴い、MnOが析出するという問題がある。これに対して、本発明者らの検討の結果、詳しいメカニズムは不明であるものの、正極電解液にMnイオンと共にTiイオンを存在させることで、上記析出を効果的に抑制できることが明らかになっている。
【0026】
上述のように、正極電解液にMnイオンとTiイオンを含有させる場合、負極電解液は、負極活物質としてTiイオンを含有し、さらにMnイオンを含有することが好ましい。
【0027】
上記構成は、正極電解液中の金属イオン種と、負極電解液中の金属イオン種とを等しくする構成である。そうすることで、(1)金属イオンが電池要素の隔膜を介して対極に移動して、各極で本来反応する金属イオンが相対的に減少することによる電池容量の減少現象を効果的に回避できる、(2)充放電に伴って経時的に液移り(一方の極の電解液が隔膜を介して他方の極に移動する現象)が生じて両極の電解液の液量やイオン濃度にばらつきが生じた場合でも、両極の電解液を混合するなどして、上記ばらつきを容易に是正できる、(3)電解液の製造性に優れる、といった効果を奏する。
【0028】
両電解液に含まれる金属イオン種を同じとする場合、本発明レドックスフロー電池は、正極用タンクの液相と、負極用タンクの液相と、を連通する液相連通管を備えることが好ましい。
【0029】
両電解液に含まれる金属イオン種が共通であるということは、両電解液を混合してもかまわないということである。両電解液を混合すると、レドックスフロー電池は完全放電状態になる。また、後述するように、両電解液にTi/Mn系の電解液を利用する場合、両電解液を混合し、完全放電状態としてから混合電解液を酸化させる方が、当該酸化操作の終了時点を容易に判別できる。それは、Ti/Mn系の電解液は、放電されたときに透明になるからである。
【0030】
上記液相連通管を備える場合、本発明レドックスフロー電池は、正極用タンクの外部から内部に連通され、その正極用タンク内部に酸化性気体を導入するための正極側導入配管と、正極側導入配管を介して前記正極側タンク内部に前記酸化性気体を供給する正極側供給機構と、を備えることが好ましい。
【0031】
上記構成とすれば、液相連通管を開放させて両電解液を混合したときに、混合電解液を速やかに酸化させることができる。
【0032】
一方、本発明レドックスフロー電池の運転方法の一形態として、酸化性気体の導入は、正極電解液と負極電解液の充電状態が異なったときに行うことが好ましい。
【0033】
両電解液の充電状態が異なったときにその差を補正することで、効率的なレドックスフロー電池の運転を行うことができる。なお、この構成とは異なり、酸化性気体を負極用タンクに導入しながらレドックスフロー電池を運転することもできる。
【0034】
本発明レドックスフロー電池の運転方法の一形態として、酸化性気体の導入量を制御することで、正極電解液と負極電解液の充電状態をほぼ同じ状態にすることが好ましい。
【0035】
酸化性気体の導入量の調節は、モニタセルにより両電解液の充電状態を監視し、その監視結果に基づいて行うと良い。このように両電解液の充電状態を揃えることで、再び両電解液の充電状態に差が生じるまでの時間を長くすることができる。
【0036】
本発明レドックスフロー電池の運転方法の一形態として、負極電解液の透明度を用いても良い。
【0037】
上述したように、負極活物質にTiイオンを利用する場合、レドックスフロー電池を完全に放電させて負極電解液中におけるTi4+が支配的になったときに、負極電解液の透明度を観察することで、両電解液の充電状態の差を確認できる。放電させた負極電解液中にTi3+が存在すればするほど、負極電解液の透明度は低下し、両電解液に充電状態の差があることが分かる。また、後述する実施形態に示すように、正極活物質としてMnイオンを利用する場合、正極電解液の充電状態も正極電解液の透明度で判断することができる。この点については、実施形態に詳しく説明する。
【0038】
本発明レドックスフロー電池の運転方法の一形態として、レドックスフロー電池の充電状態をモニタリングしながら運転することが好ましい。
【0039】
モニタリングの手法には、上記電解液の透明度を利用しても良いし、モニタセルを備えるレドックスフロー電池であれば、そのモニタセルを利用すれば良い。
【発明の効果】
【0040】
本発明レドックスフロー電池は、高起電力で、かつ充放電に伴う電池容量の低下を回復させることができるレドックスフロー電池である。また、本発明レドックスフロー電池の運転方法は、充放電に伴って本発明レドックスフロー電池の電池容量が低下した際、その低下した電池容量を回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態1に示すレドックスフロー電池の概略図である。
【図2】図1に示すレドックスフロー電池の負極用タンクにおける負極側導入配管の形成状態を示す模式説明図であって、(A)は負極側導入配管が負極用タンクの気相に開口した状態、(B)は負極側導入配管が負極用タンクの液相に開口した状態、(C)は(A)の状態に加えて液相中に撹拌機構が存在する状態、(D)は(B)の状態に加えて液相中に撹拌機構が存在する状態を示す図である。
【図3】実施形態2に示すレドックスフロー電池の概略図である。
【図4】試験例1に示すレドックスフロー電池の運転日数と電池容量(Ah)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
<実施形態1>
≪全体構成≫
以下、正極活物質としてMnイオン、負極活物質としてTiイオンを用いたレドックスフロー電池(以下、RF電池)1の概要を図1,2に基づいて説明する。図1における実線矢印は、充電、破線矢印は、放電を意味する。なお、図1に示す金属イオンは代表的な形態を示しており、図示される以外の形態も含み得る。例えば、図1では、4価のTiイオンとしてTi4+を示すが、TiO2+などのその他の形態も含み得る。
【0043】
図1に示すように、RF電池1は、代表的には、交流/直流変換器を介して、発電部(例えば、太陽光発電機、風力発電機、その他、一般の発電所など)と電力系統や需要家などの負荷とに接続され、発電部を電力供給源として充電を行い、負荷を電力提供対象として放電を行う。このRF電池1は、従来のRF電池と同様に、電池要素100と、この電池要素100に電解液を循環させる循環機構(タンク、配管、ポンプ)とを備える。そして、このRF電池1の従来と異なる点は、正極電解液の正極活物質としてMnイオンを用い、かつ充放電に伴う電池容量の低下を抑制するための構成(後述する負極側導入配管10および負極側供給機構11)を備えることにある。以下、RF電池1の各構成を詳細に説明し、次いでRF電池1の運転方法を説明する。
【0044】
[電池要素と循環機構]
RF電池1に備わる電池要素100は、正極電極104を内蔵する正極セル102と、負極電極105を内蔵する負極セル103と、両セル102,103を分離すると共にイオンを透過する隔膜101と、を備える。正極セル102には、正極電解液を貯留する正極用タンク106が配管108,110を介して接続される。負極セル103には、負極電解液用を貯留する負極用タンク107が配管109,111を介して接続される。配管108,109には、各極の電解液を循環させるためのポンプ112,113を備える。電池要素100は、配管108〜111、ポンプ112,113を利用して、正極セル102(正極電極104)、負極セル103(負極電極105)にそれぞれ正極用タンク106の正極電解液、負極用タンク107の負極電解液を循環供給して、各極の電解液中の活物質となる金属イオン(正極にあってはMnイオン、負極にあってはTiイオン)の価数変化反応に伴って充放電を行う。
【0045】
電池要素100は通常、複数積層されたセルスタックと呼ばれる形態で利用される。電池要素100を構成するセル102,103は、一面に正極電極104、他面に負極電極105が配置される双極板(図示せず)と、電解液を供給する給液孔及び電解液を排出する排液孔を有し、かつ上記双極板の外周に形成される枠体(図示せず)とを備えるセルフレームを用いた構成が代表的である。複数のセルフレームを積層することで、上記給液孔及び排液孔は電解液の流路を構成し、この流路は配管108〜111に接続される。セルスタックは、セルフレーム、正極電極104、隔膜101、負極電極105、セルフレーム、…と順に繰り返し積層されて構成される。なお、RF電池の基本構成は、公知の構成を適宜利用することができる。
【0046】
[電解液]
本実施形態のRF電池1に用いられる正負の電解液には、MnイオンとTiイオンを含有する共通のものを使用している。正極側にあってはMnイオンが正極活物質として働き、負極側にあってはTiイオンが負極活物質として働く。また、正極側におけるTiイオンは、理由は不明ではあるが、MnOの析出を抑制する。Mnイオン及びTiイオンの各濃度はいずれも0.3M以上5M以下とすることが好ましい。
【0047】
電解液の溶媒としては、HSO、KSO、NaSO、HPO、H、KPO、NaPO、KPO、HNO、KNO、及びNaNOから選択される少なくとも一種の水溶液を利用することができる。
【0048】
[負極側導入配管]
負極側導入配管10は、負極用タンク107の内部に酸化性気体を導入するための配管である。酸化性気体としては、純粋酸素、空気、オゾンなどを利用することができる。この負極側導入配管10は、負極用タンク107に連通していれば良い。例えば、図2(A)に示すように、負極用タンク107の気相に開口している形態、図2(B)に示すように、負極用タンク107の液相に開口する形態とすることが挙げられる。その他、図2(C)や(D)に示すように、図2(A)や(B)の構成にさらにスクリューなどの撹拌機構12を加えた形態とすることもできる。なお、負極用タンク107には、図示しない開放弁が設けられており、負極側導入配管10から酸化性気体を導入しても、いたずらに負極用タンク107の圧力が高くならないようになっている。
【0049】
上記負極側導入配管10には、バルブなどの開閉機構を設けておくことが好ましく、そうすることで負極側導入配管10の連通・非連通を制御することができる。常時は、負極側導入配管10を閉じておいて、負極電解液の蒸発を抑制することが好ましい。
【0050】
[負極側供給機構]
負極側供給機構11は、上記負極側導入配管10を介して負極用タンク107の内部に酸化性気体を導入するための構成である。例えば、送風機(負極側導入配管10が気相連通の場合)や、圧送ポンプなどを利用することができる。
【0051】
[その他]
図示しないが、RF電池1は、電池容量を監視するモニタセルを備えていても良い。モニタセルは基本的に電池要素100と同一の構成を備える電池要素100よりも小型の単セルであり、正極用タンク106と負極用タンク107から正負の電解液の供給を受けて、電池要素100と同様に起電力を生じる。その起電力からRF電池1の電池容量を知ることができる。
【0052】
≪RF電池の運転方法≫
上記構成を備えるRF電池1を運転する(充放電を繰り返す)と、徐々に電池容量が低下していく。その場合、RF電池1を完全放電状態とすると共に、上述した負極側導入配管10を開放し、負極側供給機構11を動作させて、負極用タンク107の内部に酸化性気体を導入する。酸化性気体を導入するタイミングの判断、酸化性気体の導入量の判断は、RF電池1にモニタセルが備わっている場合はモニタセルで検知される起電力に基づいて行えば良い。その他、負極電解液の透明度により上記判断を行うこともできる。3価のTi(Ti3+)は褐色、4価のTi(Ti4+)はほぼ無色透明であるので、負極電解液の透明度の低下を目視あるいは分光分析や光の透過率で確認したら酸化性気体の導入を開始し、同様に透明度の上昇をもって酸化性気体の導入を終了すると良い。
【0053】
ここで、酸化性気体の導入は、RF電池1の運転時に同時に行ってもかまわない。そうすることで、RF電池1の電池容量の低下を抑制しつつRF電池1の運転を行うことができる。その際、負極電解液の蒸発を考慮して、負極側導入配管10は常時開放するのではなく、断続的に開放するようにすることが好ましい。加えて、負極電解液の液量を監視し、必要な場合には適宜溶媒を追加することが好ましい。
【0054】
<実施形態2>
実施形態2では、図3に基づいて、実施形態1の構成にさらに付加的な構成を備えるRF電池2を説明する。なお、図3は、各配管の接続状態のみを示す簡易的な図面である。
【0055】
≪全体構成≫
実施形態2のRF電池2は、実施形態1のRF電池の構成に加えて、気相連通管13と、液相連通管14と、正極側導入配管15と、正極側供給機構16と、を備える。
【0056】
[気相連通管]
気相連通管13は、正極用タンク106の気相と、負極用タンク107の気相と、を連通する配管である。気相連通管13を設けることで、充放電に伴って正極側で副反応により発生する酸素を、負極用タンク107に導入することができる。この気相連通管13にはバルブなどを設けて、両タンク106,107間の連通・非連通を調節できるようにしておくことが好ましい。
【0057】
[液相連通管]
液相連通管14は、正極用タンク106の液相と、負極用タンク107の液相と、を連通する配管である。液相連通管14を設けることで、両タンク106,107内の電解液を混合させることができる。この液相連通管14には、充放電時に両タンク106,107に貯留される両電解液同士が混合しないように、バルブなどを設けておく。
【0058】
ここで、正極電解液と負極電解液とを混合できる液相連通管14を有する構成の場合、両電解液に含まれる金属イオン種は共有している必要がある。例えば、両電解液共に、MnイオンとTiイオンを含有する電解液とすることが挙げられる。正極電解液においてはMnイオンが正極活物質として働き、負極電解液においてはTiイオンが負極活物質として働く。
【0059】
[正極側導入配管と正極側供給機構]
正極側導入配管15及び正極側供給機構16はそれぞれ、負極導入配管10及び負極側供給機構11と同じ構成を採用することができる。
【0060】
[その他]
正極用タンク106の液相内には、実施形態1と同様に撹拌機構を設けることが好ましい。
【0061】
≪RF電池の運転方法≫
上記RF電池2で充放電を行う際は、気相連通管13は基本的に開放しておき、液相連通管14は閉じておく。一方、RF電池2の電池容量を回復させる際は、気相連通管13は開放しておき、液相連通管14も開放する。液相連通管14を開放することで、正負の電解液が混ざり合い、RF電池2は速やかに放電状態となる。そして、負極側導入配管10から負極用タンク107内に酸化性気体を導入すると共に、正極側導入配管15から正極用タンク106内にも酸化性気体を導入する。その際、両タンク106,107内に撹拌機構を備えるのであれば、その撹拌機構を動作させておくと良い。
【0062】
RF電池2の電池容量を回復されるタイミング、酸化性気体の導入量と導入終了のタイミングの判断には、実施形態1と同様に、モニタセルや、正負の電解液が混合された混合電解液の透明度を利用することができる。ここで、Mn3+の溶液は有色、Mn2+の溶液はほぼ無色透明であり、RF電池2を放電させた場合、電解液中でMn2+が支配的になれば、電解液の透明度は高くなる。同様に、RF電池2を放電させたときに、電解液中で支配的になるTi4+の溶液はほぼ無色透明である。従って、電池容量が低下した状態で得られた混合電解液の透明度は低く、酸化性気体で電池容量が回復した状態の混合電解液の透明度は高くなる。
【0063】
<試験例1>
次に、図3を参照して説明した実施形態2と同様の構成を備えるRF電池2を作製した。正極電解液と負極電解液には、濃度2Mの硫酸、1MのMnSO(Mn2+)、1MのTiOSO(Ti4+)を混合させた電解液を用いた。正負の電解液は、各々3Lとし、各々のタンク106,107に外部空気と気密した状態で封入した。気相部には酸化を抑制するために窒素ガスを封入した。また、電池要素100には、カーボンフェルト電極、陽イオン交換膜を適用した電極面積500cmを有する単セルを用いた。また、液相連通管14と気相連通管13は共に閉じておいた。
【0064】
こうして試作したTi/Mn系RF電池2を用いて充放電試験を行った。初期性能は、電流効率99%、セル抵抗率1.5Ωcm、電池容量45Ahであった。このRF電池2を約1ケ月間の運転(充放電)したところ、その電池容量は次第に減少し、初期の約75%程度となった。さらにRF電池2の運転を継続し、運転開始後約65日目にRF電池2の電池容量が初期の約65%となった時点で一旦RF電池2の運転を停止した。なお、RF電池2の運転期間中も、液相連通管14と気相連通管13は共に閉鎖しておいた。
【0065】
RF電池2の運転を停止した時点で、正極用タンク106の気相に滞留するガスの成分を分析した。酸素ガスが数体積%検知され、ごくわずかのCOも検知された。水素ガスは検知限界以下であった。一方、負極用タンク107の気相のガス成分は、ほぼ窒素ガスであった。
【0066】
次に、液相連通管14を開放し、正極電解液と負極電解液とを十分に混合させることで、RF電池2を完全放電状態とした。この時点で混合された電解液は黒色(有色不透明)を呈していた。
【0067】
次に、正極用タンク106と負極用タンク107とに設けておいた正極側導入配管15と負極側導入配管10とから各タンク106,107内に空気(酸化性気体)を導入した。その際、各タンク106,107中の混合電解液を目視にて観察すると、混合電解液は徐々に透明に変化していくことが確認された。最終的に、混合電解液がほぼ透明になったことを目視で確認した時点で、空気の導入を停止した(導入開始から終了までおよそ7日間)。そして、空気の導入の終了後、再度充放電を繰り返した。試験の開始から終了に至るまでのRF電池2の電池容量の変化を図4のグラフに示す。
【0068】
図4に示すグラフの結果から明らかなように、混合電解液への空気の導入により、RF電池2の電池容量が大幅に回復したことが確認された。
【0069】
<試験例2>
試験例1と同様の構成を備えるRF電池2を用いて、今度は、気相連通管13を開放した状態(液相連通管14は閉)で充放電試験を開始した。そうすることで、試験開始後、電池容量が初期の約65%に低下するまで約90日となり、RF電池2の電池容量の減少速度が緩やかになることを確認した。この結果は、RF電池2の電池容量の減少を効果的に抑制できるといえるほどではなかった。
【0070】
そこで、次に、負極側導入配管10から負極用タンク107の内部に空気を導入させながら充放電(気相連通管13は開、液相連通管14は閉)を繰り返した。その結果、次第に電池容量が回復する現象を観察した。その際、負極用タンク107への空気導入量を、負極側導入配管10のバルブ開閉、負極側供給機構11の送風圧力制御、送風時間制御等によって調整することで、電池容量の回復の程度が制御できた。さらに、正負の電解液の充電状態をモニタセルで測定しながらその状態に応じて空気導入量を制御したところ、常時電池容量を一定に制御することが可能であった。この結果を応用することで、例えば、モニタセルでの測定結果から電池容量が初期容量に比べて10%低下したら、負極用タンク107に所定量の空気を所定時間導入する、といった操作を行うことで、安定したRF電池2の運転を実現することができる。
【0071】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。例えば、使用する負極電解液の負極活物質としてVイオンやCrイオンを利用することもできる。その場合、正負の電解液を混合しないことを前提とした実施形態1の構成を採用する。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明レドックスフロー電池は、太陽光発電、風力発電などの新エネルギーの発電に対して、発電出力の変動の安定化、発電電力の余剰時の蓄電、負荷平準化などを目的とした大容量の蓄電池に好適に利用することができる。その他、本発明レドックスフロー電池は、一般的な発電所に併設されて、瞬低・停電対策や負荷平準化を目的とした大容量の蓄電池としても好適に利用することができる。本発明レドックスフロー電池の運転方法は、上記本発明レドックスフロー電池を上記種々の用途で使用する際に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1,2 レドックスフロー電池
100 電池要素
101 隔膜 102 正極セル 103 負極セル
104 正極電極 105 負極電極 106 正極用のタンク
107 負極用のタンク 108,109,110,111 配管
112,113 ポンプ
10 負極側導入配管 11 負極側供給機構
12 撹拌機構
13 気相連通管 14 液相連通管
15 正極側導入配管 16 正極側供給機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電極と、負極電極と、これら両電極間に介在される隔膜とを備える電池要素に、正極用タンクに貯留される正極電解液、及び負極用タンクに貯留される負極電解液を供給して充放電を行うレドックスフロー電池であって、
前記正極電解液は、正極活物質としてMnイオンを含有し、
前記負極電解液は、負極活物質としてTiイオン、Vイオン、およびCrイオンの少なくとも1種を含有し、
前記負極用タンクの外部から内部に連通され、その負極用タンク内部に酸化性気体を導入するための負極側導入配管と、
前記負極側導入配管を介して前記負極用タンク内部に前記酸化性気体を供給する負極側供給機構と、
を備えることを特徴とするレドックスフロー電池。
【請求項2】
前記酸化性気体は、酸素を含有する気体であることを特徴とする請求項1に記載のレドックスフロー電池。
【請求項3】
前記正極用タンクの気相と、前記負極用タンクの気相と、を連通する気相連通管を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のレドックスフロー電池。
【請求項4】
前記レドックスフロー電池の充電状態をモニタするモニタ機構を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項5】
前記負極側導入配管は、前記負極用タンクの液相内に開口していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項6】
前記負極用タンク内部に設けられ、前記負極電解液を撹拌する撹拌機構を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項7】
前記正極電解液は、Tiイオンを含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池。
【請求項8】
前記負極電解液は、負極活物質としてTiイオンを含有し、さらにMnイオンを含有することを特徴とする請求項7に記載のレドックスフロー電池。
【請求項9】
前記正極用タンクの液相と、負極用タンクの液相と、を連通する液相連通管を備えることを特徴とする請求項8に記載のレドックスフロー電池。
【請求項10】
前記正極用タンクの外部から内部に連通され、その正極用タンク内部に酸化性気体を導入するための正極側導入配管と、
前記正極側導入配管を介して前記正極側タンク内部に前記酸化性気体を供給する正極側供給機構と、
を備えることを特徴とする請求項9に記載のレドックスフロー電池。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池を用いたレドックスフロー電池の運転方法であって、
前記負極電解液に含まれる負極活物質を酸化するために、前記負極用タンク内部に前記酸化性気体を導入することを特徴とするレドックスフロー電池の運転方法。
【請求項12】
前記酸化性気体の導入は、前記正極電解液と前記負極電解液の充電状態が異なったときに行うことを特徴とする請求項11に記載のレドックスフロー電池の運転方法。
【請求項13】
前記酸化性気体の導入量を制御することで、前記正極電解液と前記負極電解液の充電状態をほぼ同じ状態にすることを特徴とする請求項12に記載のレドックスフロー電池の運転方法。
【請求項14】
前記導入量を制御する基準として、前記負極電解液の透明度を用いることを特徴とする請求項13に記載のレドックスフロー電池の運転方法。
【請求項15】
前記レドックスフロー電池の充電状態をモニタリングしながら運転することを特徴とする請求項11〜14のいずれか一項に記載のレドックスフロー電池の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−204135(P2012−204135A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67422(P2011−67422)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【特許番号】特許第5007849号(P5007849)
【特許公報発行日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】