説明

レドックス触媒、燃料電池用電極触媒及び燃料電池

【課題】触媒活性に優れるレドックス触媒の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される複核錯体を用いたレドックス触媒。(式中、Yは酸素原子又は硫黄原子であり;Qは窒素原子及びYに隣接する炭素原子と共に複素環を形成し;M及びMはそれぞれ独立に金属原子、金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンであり;Lは対イオン又は中性分子であり;nは1〜4の整数であり、nが2〜4の場合、複数のQは同一でも異なっていてもよく、複数のYは同一でも異なっていてもよく;mは0以上の数であり、Lが複数ある場合、これら複数のLは同一でも異なっていてもよく;矢印(→)はMもしくはMに対する配位結合又はイオン結合を表す。)
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複核錯体を用いたレドックス触媒並びに該レドックス触媒を用いた燃料電池用電極触媒及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
金属錯体には、酸素添加反応、酸化カップリング反応、脱水素反応、水素添加反応、酸化物分解反応等の電子移動を伴うレドックス反応における触媒(レドックス触媒)として作用するものがあり、高分子化合物をはじめとする各種有機化合物の製造に使用されている。さらに、このような金属錯体は、添加剤、改質剤、電池、センサーの材料等、種々の用途にも利用されており、特に燃料電池への利用が有望視されている。
【0003】
このような中、金属錯体のうち、例えば、遷移金属原子であるコバルトを中心金属として有するコバルト錯体は、レドックス触媒として機能することが開示されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tatsuhiro Okada, et.al.Journal of Inorganic and Organometallic Polymers,9,199,(1999).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1に記載されているような金属錯体のレドックス触媒としての触媒活性は、まだ不十分であり、更なる触媒活性の向上が望まれていた。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、触媒活性に優れるレドックス触媒、並びに該レドックス触媒を用いた燃料電池用電極触媒及び燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、
本発明は、下記一般式(1)で表される複核錯体を用いたレドックス触媒を提供する。
【0007】
【化1】

(式中、Yは酸素原子又は硫黄原子であり;Qは窒素原子及びYに隣接する炭素原子と共に複素環を形成し;M及びMはそれぞれ独立に金属原子、金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンであり;Lは対イオン又は中性分子であり;nは1〜4の整数であり、nが2〜4の場合、複数のQは同一でも異なっていてもよく、複数のYは同一でも異なっていてもよく;mは0以上の数であり、Lが複数ある場合、これら複数のLは同一でも異なっていてもよく;矢印(→)はMもしくはMに対する配位結合又はイオン結合を表す。)
【0008】
本発明のレドックス触媒においては、前記一般式(1)で表される複核錯体において、前記Qが前記窒素原子及びYに隣接する炭素原子と共に形成する複素環が6員環であり、該6員環を構成する原子のうち、前記窒素原子及びYに隣接する炭素原子以外の原子が、それぞれ独立に炭素原子又は窒素原子であることが好ましい。
本発明のレドックス触媒においては、前記Yが酸素原子であることが好ましい。
【0009】
本発明のレドックス触媒においては、前記一般式(1)で表される複核錯体が、下記一般式(2)又は(3)で表される複核錯体であることが好ましい。
【0010】
【化2】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、アミノ基、ニトロ基、ホスホン酸基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基、炭素数1〜50の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数3〜50の環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数7〜50のアラルキル基、又は1価の複素環基であり、複数のRは同一でも異なっていてもよく;M及びMはそれぞれ独立に金属原子、金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンであり;Lは対イオン又は中性分子であり;nは1〜4の整数であり、nが2〜4の場合、nが付された複素環は同一でも異なっていてもよく;mは0以上の数であり、Lが複数ある場合、これら複数のLは同一でも異なっていてもよく;矢印(→)はMもしくはMに対する配位結合又はイオン結合を表す。)
【0011】
【化3】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、アミノ基、ニトロ基、ホスホン酸基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基、炭素数1〜50の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数3〜50の環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数7〜50のアラルキル基、又は1価の複素環基であり、複数のRは同一でも異なっていてもよく;M及びMはそれぞれ独立に金属原子、金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンであり;Lは対イオン又は中性分子であり;nは1〜4の整数であり、nが2〜4の場合、nが付された複素環は同一でも異なっていてもよく;mは0以上の数であり、Lが複数ある場合、これら複数のLは同一でも異なっていてもよく;矢印(→)はMもしくはMに対する配位結合又はイオン結合を表す。)
【0012】
本発明のレドックス触媒においては、前記nが4であることが好ましい。
本発明のレドックス触媒においては、前記Mが、貴金属原子、貴金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した貴金属原子若しくは貴金属イオンであることが好ましい。
本発明のレドックス触媒においては、前記Mが、周期表第4周期の遷移金属原子、周期表第4周期の遷移金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した周期表第4周期の遷移金属原子若しくは遷移金属イオンであることが好ましい。
本発明のレドックス触媒においては、前記Mがパラジウム原子、パラジウムイオン、白金原子又は白金イオンであり、前記Mがバナジウム原子、バナジウムイオン、クロム原子、クロムイオン、マンガン原子、マンガンイオン、鉄原子、鉄イオン、コバルト原子、コバルトイオン、ニッケル原子、ニッケルイオン、銅原子、銅イオン、亜鉛原子又は亜鉛イオンであることが好ましい。
本発明のレドックス触媒においては、前記一般式(1)で表される複核錯体と、導電性担体とを含む組成物を用いたことが好ましい。
本発明のレドックス触媒においては、前記複核錯体、又は前記複核錯体と前記導電性担体とを含む組成物を、200℃〜1400℃で加熱することで得られたことが好ましい。
【0013】
また、本発明は、上記本発明のレドックス触媒を用いた燃料電池用電極触媒を提供する。
また、本発明は、上記本発明のレドックス触媒を用いた燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、触媒活性に優れるレドックス触媒、並びに該レドックス触媒を用いた燃料電池用電極触媒及び燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例6、7及び10のレドックス触媒のXRDスペクトルである。
【図2】実施例11〜13のレドックス触媒のXRDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<レドックス触媒>
本発明のレドックス触媒は、下記一般式(1)で表される複核錯体(以下、複核錯体(1)と略記することがある)を用いたものである。
【0017】
【化4】

(式中、Yは酸素原子又は硫黄原子であり;Qは窒素原子及びYに隣接する炭素原子と共に複素環を形成し;M及びMはそれぞれ独立に金属原子、金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンであり;Lは対イオン又は中性分子であり;nは1〜4の整数であり、nが2〜4の場合、複数のQは同一でも異なっていてもよく、複数のYは同一でも異なっていてもよく;mは0以上の数であり、Lが複数ある場合、これら複数のLは同一でも異なっていてもよく;矢印(→)はMもしくはMに対する配位結合又はイオン結合を表す。)
【0018】
一般式(1)中、Qは窒素原子及びYに隣接する炭素原子と共に複素環を形成している。
前記複素環は、5員複素環、6員複素環、又はこれらの複素環を含む多環式複素環であることが好ましく、6員複素環及び6員複素環を含む多環式複素環であることがより好ましく、6員複素環であることが特に好ましい。
前記5員複素環としては、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環が例示できる。前記6員複素環としては、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環が例示できる。
前記複素環は、その環構造を構成する原子のうち、前記窒素原子及びYに隣接する炭素原子以外の原子が、それぞれ独立に炭素原子又は窒素原子であることが好ましい。
【0019】
は、酸素原子又は硫黄原子である。これらの原子は、通常、マイナスの電荷を帯びており、Yには後述するMが配位している。
そして、Yは酸素原子であることが好ましい。
【0020】
nは1〜4の整数であり、2〜4であることが好ましく、3又は4であることがより好ましく、4であることが特に好ましい。
nが2〜4の場合、複数のQは同一でも異なっていてもよい。
【0021】
及びMは、それぞれ独立に金属原子、金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンである。ここで、「M及びMが、Yに該当しない酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンである」とは、Yが酸素原子である場合に、M及びMが、この酸素原子以外の酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンであることを意味する。
【0022】
及びMにおける前記金属原子としては、遷移金属原子、典型金属原子が例示できる。ここで、「遷移金属原子」とは、周期表の第3族から第12族までの金属原子を意味し、「典型金属原子」とは、「遷移金属原子」以外の金属原子を意味する。
【0023】
前記遷移金属原子としては、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等の原子が例示できる。
【0024】
前記典型金属原子としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、スズ、鉛、ビスマス等の原子が例示できる。
【0025】
前記金属原子は、実用面から、第4周期から第6周期までに属する遷移金属原子であることが好ましく、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金の原子であることがより好ましい。
【0026】
の前記金属原子は、貴金属原子であることが好ましい。ここで、「貴金属原子」とは、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウムの原子を指す。
これらの中でも、Mの前記金属原子は、パラジウム又は白金の原子であることが好ましい。
【0027】
の前記金属原子は、周期表第4周期の遷移金属原子であることが好ましく、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛の原子であることがより好ましい。
【0028】
及びMにおける前記金属イオンとしては、M及びMにおける前記金属原子が荷電したイオンが例示できる。
及びMにおける酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンとしては、酸素原子(オキソ)が配位した、M及びMにおける前記金属原子若しくは金属イオンが例示できる。
【0029】
Lは対イオン又は中性分子であり、mは0以上の数である。すなわち、複核錯体(1)は、対イオン又は中性分子を含むことがある。
【0030】
Lにおける前記中性分子は、具体的には、水;アンモニア;メタノール、エタノール、1−プロパノ−ル、2−プロパノ−ル、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、1,1−ジメチルエタノール、エチレングリコール等のアルコール類;N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;アセトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、デュレン、デカリン等の炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等の二トリル類;トリエチルアミン、ピリジン、ピラジン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、4,4’−ビピリジン等のアミン類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、メチルエチルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル類;酢酸、プロピオン酸、2−エチルヘキサン酸等のカルボン酸類が例示できる。
これらの中でも前記中性分子としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、クロロホルム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、トリエチルアミン、ピリジン、ピラジン、ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、4,4’−ビピリジン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、酢酸、プロピオン酸、2−エチルヘキサン酸が好ましい。
【0031】
前記中性分子は、プロトンを放出することで、対イオンとして含まれていてもよい。
【0032】
Lにおける前記対イオンは、通常、金属原子が正の電荷を有することから、これらを電気的に中性にする陰イオンである。
このような対イオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、亜硫酸イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、酢酸イオン、2−エチルヘキサン酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸水素イオン、トリフルオロ酢酸イオン、チオシアン化物イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、アセチルアセトナート、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、メトキシドイオン、エトキシドイオン等のアルコキシドイオンが例示できる。
これらの中でも前記対イオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、酸化物イオン、水酸化物イオン、水素化物イオン、リン酸イオン、シアン化物イオン、酢酸イオン、2−エチルヘキサン酸イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、アセチルアセトナート、テトラフェニルホウ酸イオン、メトキシドイオンが好ましい。
【0033】
mは、複核錯体に含まれるLの個数を示し、複核錯体に含まれるLの平均数であり、整数でない場合も含まれる。したがって、Lが複数種ある場合、mは、それぞれのLの平均数の和である。
前記mは、0〜20であることが好ましく、1〜15であることがより好ましく、1〜10であることが特に好ましい。
Lが複数ある場合、これら複数のLは同一でも異なっていてもよい。例えば、複数のLは、互いに同一又は異なる中性分子でもよいし、互いに同一又は異なる対イオンでもよく、中性分子及び対イオンが共存していてもよい。
【0034】
矢印(→)はMもしくはMに対する配位結合又はイオン結合を表す。
【0035】
符号nが付された複素環(配位子)の好ましいものとしては、下記式で表されるものが例示できる。なお、下記式中において電荷は省略しており、複素環は置換基を有していてもよい。ここで「置換基を有する」とは、例えば、複素環の環構造を構成している原子に結合している水素原子が、水素原子以外の原子又は基で置換されていることを意味する。また、下記複素環は、芳香族性を有する形態で示されているが、複核錯体が置かれている条件によっては、ケト−エノール平衡等の水素イオン(H)の移動を伴う平衡反応によって、芳香族性を有さない形態となっていることもあり、本発明において、下記複素環は上記のいずれの形態も包含するものとする。これは、さらに以降で示すその他の複素環についても同様である。
【0036】
【化5】

【0037】
複素環が有する前記置換基としては、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、アミノ基、ニトロ基、ホスホン酸基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基、炭素数1〜50の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数3〜50の環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数7〜50のアラルキル基、1価の複素環基が例示できる。
これらの中でも前記置換基としては、ハロゲノ基、メルカプト基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数3〜20の環状のアルキル基、アルコキシ基、炭素数6〜30のアリール基、1価の複素環基が好ましい。なお、本明細書において「置換基」とは、特に断りがない限り、すべて上記と同様の基を指すものとする。
【0038】
前記ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が例示できる。
【0039】
前記炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基が例示できる。
【0040】
前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ノニル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基が挙げられる。
【0041】
前記環状のアルキル基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロノニル基、シクロドデシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基が例示できる。
【0042】
前記アルケニル基としては、前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基において、いずれか一つの炭素原子間の単結合(C−C)が、二重結合(C=C)に置換されたものが例示でき、二重結合の位置は特に限定されない。
前記アルケニル基の好ましいものとしては、エテニル基、プロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、2−ノネニル基、2−ドデセニル基が例示できる。
【0043】
前記アルキニル基としては、前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基において、いずれか一つの炭素原子間の単結合(C−C)が、三重結合(C≡C)に置換されたものが例示でき、三重結合の位置は特に限定されない。
前記アルキニル基の好ましいものとしては、エチニル基が挙げられる。
【0044】
前記アルコキシ基としては、前記直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基あるいは前記環状のアルキル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
【0045】
前記アリール基は、単環状及び多環状のいずれでもよく、フェニル基、4−メチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基が挙げられる。
【0046】
前記アラルキル基としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニル−1−プロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、2−フェニルプロピル基、3−フェニル−1−プロピル基が例示できる。
【0047】
前記1価の複素環基としては、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基が例示できる。
【0048】
複数の前記置換基は、互いに結合することで、これらが結合し且つ複素環の環構造を構成している原子と共に環を形成していてもよい。この場合、複素環と一体となり多環式複素環を形成していてもよい。このような複素環の好ましいものとしては、複素環の環構造を構成している隣り合う原子に結合している二つの置換基同士が、互いに結合して環を形成しているものが例示でき、下記式で表されるものが例示できる。なお、下記式中において電荷は省略しており、下記式で表される複素環は、さらに置換基を有していてもよい。
【0049】
【化6】

【0050】
複核錯体(1)は、下記一般式(2)又は(3)で表される複核錯体(以下、それぞれ複核錯体(2)、複核錯体(3)と略記することがある)であることが好ましい。
【0051】
【化7】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、アミノ基、ニトロ基、ホスホン酸基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基、炭素数1〜50の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数3〜50の環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数7〜50のアラルキル基、又は1価の複素環基であり、複数のRは同一でも異なっていてもよく;M及びMはそれぞれ独立に金属原子、金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンであり;Lは対イオン又は中性分子であり;nは1〜4の整数であり、nが2〜4の場合、nが付された複素環は同一でも異なっていてもよく;mは0以上の数であり、Lが複数ある場合、これら複数のLは同一でも異なっていてもよく;矢印(→)はMもしくはMに対する配位結合又はイオン結合を表す。)
【0052】
【化8】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、アミノ基、ニトロ基、ホスホン酸基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基、炭素数1〜50の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数3〜50の環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数7〜50のアラルキル基、又は1価の複素環基であり、複数のRは同一でも異なっていてもよく;M及びMはそれぞれ独立に金属原子、金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンであり;Lは対イオン又は中性分子であり;nは1〜4の整数であり、nが2〜4の場合、nが付された複素環は同一でも異なっていてもよく;mは0以上の数であり、Lが複数ある場合、これら複数のLは同一でも異なっていてもよく;矢印(→)はMもしくはMに対する配位結合又はイオン結合を表す。)
【0053】
一般式(2)中、M、M、L、n、m、矢印(→)は、一般式(1)中のM、M、L、n、m、矢印(→)と同じである。nが2〜4の場合、nが付された複素環は同一でも異なっていてもよい。
は、水素原子、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、アミノ基、ニトロ基、ホスホン酸基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基、炭素数1〜50の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数3〜50の環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数7〜50のアラルキル基、又は1価の複素環基であり、ハロゲノ基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基、炭素数1〜50の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数3〜50の環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数7〜50のアラルキル基、1価の複素環基は、前記と同じである。
【0054】
一般式(3)中、M、M、L、n、m、矢印(→)は、一般式(1)中のM、M、L、n、m、矢印(→)と同じである。nが2〜4の場合、nが付された複素環は同一でも異なっていてもよい。
また、Rは一般式(2)中のRと同じである。
【0055】
複核錯体(2)における、符号nが付された複素環(配位子)の好ましいものとしては、下記式で表されるものが例示できる。なお、下記式中において電荷は省略しており、複素環は置換基を有していてもよい。
【0056】
【化9】

【0057】
複核錯体(3)における、符号nが付された複素環(配位子)の好ましいものとしては、下記式で表されるものが例示できる。なお、下記式中において電荷は省略しており、複素環は置換基を有していてもよい。
【0058】
【化10】

【0059】
複核錯体(1)は、例えば、原料となる配位子と、金属原子を付与する反応剤(以下、「金属付与剤」と略記する)とを、適切な溶媒中で混合し、反応させることにより製造できる。
また、複核錯体(1)は、原料となる配位子と金属付与剤とを混合して、複核錯体の前駆体である単核錯体を合成した後、この単核錯体と、さらに別の金属付与剤と混合することで製造してもよい。
【0060】
前記金属付与剤は、M及びMに該当する金属原子を有する化合物であり、通常、該金属原子を陽イオンとして有する塩である。より具体的には、M及びMにおける金属の酢酸塩、塩化物塩、臭化物塩、硫酸塩、炭酸塩、過塩素酸塩、硝酸塩、アセチルアセトナト塩が例示できる。また、金属付与剤には、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、4級アンモニウムイオン等が含まれていてもよい。
【0061】
前記溶媒としては、Lにおける前記中性分子として例示したもの(ただし、アンモニアを除く。アンモニアはアンモニア水として使用できる。)が挙げられる。前記溶媒は、後述の反応温度に応じて選択することができ、反応温度よりも融点の低い溶媒を用いることが好ましい。
前記溶媒は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。そして、原料となる配位子及び金属付与剤が溶解するものが好ましい。
【0062】
反応温度は、配位子及び金属付与剤の種類に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、−10〜250℃であることが好ましく、0〜200℃であることがより好ましく、0〜150℃であることが特に好ましい。
【0063】
反応時間は、配位子及び金属付与剤の種類に応じて適宜調節すればよく、特に限定されないが、1分間〜1週間であることが好ましく、5分間〜5日間であることがより好ましく、1時間〜3日間であることが特に好ましい。
【0064】
反応後の反応液から複核錯体(1)を分離する方法は、例えば、公知の再結晶法、再沈殿法、クロマトグラフィー法等から選択すればよく、これらの方法を組み合わせてもよい。なお、反応溶媒の種類によっては、反応後に複核錯体(1)が析出することがあり、その場合には、析出した複核錯体(1)を濾別等で分離すればよい。分離した複核錯体(1)は、さらに、必要に応じて洗浄操作を行った後、乾燥させればよい。
【0065】
本発明のレドックス触媒は、複核錯体(1)と、導電性担体とを含む組成物を用いたものでもよい。
【0066】
前記導電性担体は特に限定されず、例えば、ノーリット(NORIT社製)、ケッチェンブラック(Lion社製)、バルカン(Cabot社製)、ブラックパール(Cabot社製)、アセチレンブラック(Chevron社製)(いずれも商品名)等のカーボンブラックや黒鉛;C60やC70等のフラーレン;カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボン繊維等の炭素材料が望ましい。
前記導電性担体は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0067】
前記組成物における導電性担体の含有量は、10〜90質量%であることが好ましく、30〜90質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることが特に好ましい。
【0068】
前記組成物における複核錯体(1)の含有量は、10〜90質量%であることが好ましく、10〜70質量%であることがより好ましく、10〜50質量%であることが特に好ましい。
【0069】
前記組成物は、例えば、複核錯体(1)と導電性担体とを適切な溶媒中で混合することにより製造できる。この時の溶媒としては、配位子と金属付与剤との混合に使用する溶媒と同じものが使用できる。
【0070】
本発明のレドックス触媒としては、複核錯体(1)又は前記組成物を加熱することなく用いることができるし、加熱してメタル化したものを用いてもよい。すなわち、本発明のレドックス触媒は、複核錯体(1)又は前記組成物を加熱することで得られたものでもよい。
【0071】
加熱する場合には、加熱前の前処理として、複核錯体(1)又は前記組成物を15〜100℃、1.3kPa以下の条件下、6時間以上乾燥させることが好ましい。前処理には、真空乾燥機等を用いればよい。
【0072】
加熱温度の下限は、200℃であることが好ましく、300℃であることがより好ましく、400℃であることがさらに好ましく、500℃であることが特に好ましい。
また、加熱温度の上限は、1400℃であることが好ましく、1200℃であることがより好ましく、1000℃であることがさらに好ましく、800℃であることが特に好ましい。
そして、加熱温度は、200℃〜1400℃であることが好ましい。
【0073】
加熱は、水素、一酸化炭素等の還元ガス;酸素、炭酸ガス、水蒸気等の酸化ガス;窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等の不活性ガス;アンモニア、アセトニトリル等の含窒素化合物のガス;これらのガスから選択される二種以上の混合ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。そして、水素又は水素と前記不活性ガスとの混合ガス;酸素又は酸素と前記不活性ガスとの混合ガス;窒素、ネオン、アルゴン又はこれらのガスから選択される二種以上の混合ガスの雰囲気下で加熱することが好ましい。
【0074】
加熱時の圧力は、0.5〜1.5気圧程度の常圧が好ましい。
【0075】
加熱は、例えば、複核錯体(1)又は前記組成物を、ガスを充填して密閉した空間内に配置し、又はガスを通気させた空間内に配置し、室温から徐々に温度を上昇させ目的温度に到達させた後、すぐに降温させることにより行ってもよいが、触媒の均一性を高める観点から、目的温度に到達した後、温度を所定時間維持することが好ましい。目的温度到達後に温度を維持する時間は、1〜100時間であることが好ましく、1〜40時間であることがより好ましく、2〜10時間であることがさらに好ましく、2〜5時間であることが特に好ましい。
【0076】
加熱は、例えば、管状炉、オーブン、ファーネス、IHホットプレート等を使用して行うことができる。
【0077】
本発明のレドックス触媒の用途として、具体的には、酸素還元触媒、水素酸化触媒、過酸化水素の分解触媒、芳香族化合物の酸化重合触媒、排ガス・排水浄化用触媒、色素増感太陽電池の酸化還元触媒層、二酸化炭素還元触媒、改質水素製造用触媒、酸素センサー等が例示できる。これらの中でも、酸素還元触媒、水素酸化触媒として特に好適であり、酸素還元触媒としてとりわけ好適である。
【0078】
本発明のレドックス触媒を、酸素還元触媒又は水素酸化触媒として用いる場合、燃料電池用電極触媒として適用できるが、適用する部位は、カソード又はアノードに限定されず、その機能を効率よく発揮できる部位であればよい。
【0079】
<燃料電池用電極触媒及び燃料電池>
本発明の燃料電池用電極触媒は、上記本発明のレドックス触媒を用いたものである。
また、本発明の燃料電池は、上記本発明のレドックス触媒を用いたものである。
本発明の燃料電池用電極触媒及び燃料電池は、上記のように、本発明のレドックス触媒の酸素還元能又は水素酸化能を利用したものであり、発電性能に優れる。
【実施例】
【0080】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0081】
<複核錯体の合成>
[合成例1]
下記構造式で表される複核錯体(A)を、以下の方法で合成した。
【0082】
【化11】

【0083】
26.6mg(0.1mmol)のVO(acac)(「V」はバナジウムを、「acac」はアセチルアセトナトをそれぞれ示す)30.5mg(0.1mmol)のPd(acac)と、38.2mg(0.4mmol)の2−ピリドンを14mLのアセトン中で混合し緑色溶液を調製した。この溶液を数日間室温で静置することで、複核錯体(A)を淡灰色の針状微結晶性沈澱として得た。収量は27.6mgであり、収率は、50%であった。
元素分析値:理論値(%);C 43.27、H 3.55、N 9.39、実測値(%);C 43.35、H 3.12、N 9.15。
【0084】
[合成例2]
下記構造式で表される複核錯体(B)を、以下の方法で合成した。
【0085】
【化12】

【0086】
まず、原料となるPd錯体であるバリウム/パラジウム(2−ピリドン)・5水和物を以下の方法で合成した。
0.67g(1.3mmol)のテトラクロロパラジウムテトラエチルアンモニウムと0.50g(5.3mmol)の2−ピリドンを含んだ20mLの水溶液へ、10mLの10%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を加え、室温にて10分間撹拌した。この溶液に0.44g(1.3mmol)の臭化バリウム2水和物を含んだ水溶液1mLを徐々に加えたところ、数時間後に淡黄色結晶が析出した。この結晶をろ別、風乾した。
次に、複核錯体(B)を以下の方法で合成した。
前記Pd錯体0.227g(0.29mmol)を含んだ40mLメタノール溶液に、0.149gの過塩素酸鉄(II)n水和物(0.59mmol)を含んだ10mLメタノール溶液を室温にて加え、不溶解物をろ別したのち、大気下でろ液を静置したところ、溶液が黄色から赤色に変化して赤色の結晶が析出した。この結晶を、ろ取して風乾した。収量は0.144gであり、収率は、80%であった。
元素分析値:理論値(%);C 42.64、H 4.07、N 9.04、実測値(%);C 42.84、H 3.76、N 8.94。
【0087】
[合成例3]
下記構造式で表される複核錯体(C)を、以下の方法で合成した。
【0088】
【化13】

【0089】
合成例2における前記Pd錯体0.67g(1.3mmol)を水2mLに溶解し、そこへ0.5gの2−ピリドン(5.3mmol)と7.80gの10%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(5.3mmol)との混合溶液を室温にて加えた。得られた混合溶液を1時間攪拌した後、0.31gの塩化コバルト(II)6水和物(1.3mmol)を加えた後、pHを11に調整した。該溶液を2時間静置することで、濃緑色の生成物が沈殿したので、これをろ取し、メタノールで再結晶した。収量は0.40gであり、収率は、51%であった。
元素分析値:理論値(%);C 41.87、H 4.09、N 9.08、実測値(%);C 42.05、H 3.84、N 9.18。
【0090】
[合成例4]
前記塩化コバルト(II)6水和物に代えて塩化ニッケル(II)を使用したこと以外は、合成例3と同様の方法で、下記構造式で表される複核錯体(D)を合成した。
【0091】
【化14】

【0092】
元素分析値:理論値(%);C 39.74、H 3.83、N 9.27、実測値(%);C 39.94、H 3.73、N 9.24。
【0093】
[合成例5]
前記塩化コバルト(II)6水和物に代えて塩化銅(II)を使用したこと以外は、合成例3と同様の方法で、下記構造式で表される複核錯体(E)を合成した。
【0094】
【化15】

【0095】
元素分析値:理論値(%);C 40.01、H 3.69、N 9.33、実測値(%);C 40.12、H 3.47、N 9.33。
【0096】
[合成例6]
下記構造式で表される複核錯体(F)を、以下の方法で合成した。
【0097】
【化16】

【0098】
まず、原料となるPt錯体である(テトラフェニルホスホニウム)(4,6−ジヒドロキシ−5−メチルピリミジン)白金・6水和物を以下の手順で合成した。
2.52gの4,6−ジヒドロキシ−5−メチルピリミジン(20mmol)に2.02gのトリエチルアミン(20mmol)を加え、蒸留水20mLに溶解した後、2.08gのテトラクロロ白金カリウム(5.0mmol)を加え、40℃にて一日攪拌を行ったところ、溶液の色が赤褐色から黄色へと変化した。トリエチルアミンでpHを8に調整し、さらに一日攪拌したところ、溶液の色が薄黄色へと変化した。不溶物をろ別した後、4.2gの臭化テトラフェニルホスホニウムブロミド(10mmol)の飽和水溶液を加えたところ、白色沈殿が生じた。この沈殿をろ取し、真空デシケータで乾燥させた。収量は4.42gであり、収率は、60%であった。
元素分析値:理論値(%);C 55.10、H 4.90、N 7.56、実測値(%);C 54.94、H 4.62、N 7.72。
次に、複核錯体(F)を以下の方法で合成した。
前記Pt錯体0.30g(0.2mmol)を含んだ25mLメタノール溶液へ、塩化亜鉛(0.2mmol)を含んだメタノール溶液を室温にてゆっくり加えたところ、沈殿が生じた。そのまま、数時間撹拌し、沈殿をろ取し、デシケータで乾燥した後、5mLのジメチルスルホキシド(DMSO)から再結晶を行うことで板状結晶を得た。収量は0.10gであり、収率は、46%であった。
元素分析値:理論値(%);C 29.55、H 4.41、N 10.21、実測値(%);C 29.91、H 4.06、N 10.26。
【0099】
[合成例7]
前記塩化亜鉛に代えて塩化コバルト(II)を使用したこと以外は、合成例6と同様の方法で、下記構造式で表される複核錯体(G)を合成した。収量は0.10gであり、収率は、46%であった。
【0100】
【化17】

【0101】
元素分析値:理論値(%);C 29.48、H 4.49、N 10.19、実測値(%);C 29.84、H 4.06、N 10.04。
【0102】
[合成例8]
前記塩化亜鉛に代えて塩化マンガン(II)を使用したこと以外は、合成例6と同様の方法で、下記構造式で表される複核錯体(H)を合成した。収量は0.10gであり、収率は、48%であった。
【0103】
【化18】

【0104】
元素分析値:理論値(%);C 30.06、H 4.27、N 10.79、実測値(%);C 30.01、H 3.89、N 10.76。
【0105】
[合成例9]
下記構造式で表される複核錯体(I)を、以下の方法で合成した。
【0106】
【化19】

【0107】
合成例6における前記Pt錯体0.51g(0.34mmol)を含んだ30mLメタノール溶液に、0.11gのVO(acac)錯体(0.4mmol)を含んだ50mLメタノール溶液を加えて室温にて3日間攪拌することで、淡緑色の沈殿を得た。この沈殿物をろ取し、真空デシケータで乾燥した後、DMSOから再結晶を行った。
元素分析値:理論値(%);C 29.72、H 4.22、N 10.66、実測値(%);C 29.95、H 3.99、N 10.60。
【0108】
[実施例1]
<レドックス触媒の調製>
複核錯体(A)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC600JD、ライオン社製)を1:4の質量比で混合し、該混合物を、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて200Pa(1.5Torr)の減圧下で12時間乾燥することで、レドックス触媒(A)を調製した。
<電極の作製>
電極には、ディスク部がグラッシーカーボン(直径6.0mm)、リング部がPt(リング内径:7.0mm、リング外径:9.0mm)であるリングディスク電極を用いた。レドックス触媒(A)2mgを入れたサンプル瓶へ、0.6mLの水、0.4mLのエタノール、20μLのナフィオン(登録商標)溶液(Aldrich、5質量%溶液)を順に加えた後、超音波で分散処理を行った。得られた懸濁液10μLを上記電極のディスク部に滴下した後、室温にて一晩乾燥することにより、測定用電極を作製した。
<回転リングディスク電極によるレドックス触媒の酸素還元能の評価>
作製した測定用電極を回転させることにより、その時の酸素還元反応の電流値を測定し、レドックス触媒(A)の酸素還元能を評価した。評価結果を表1に示す。測定は室温において窒素雰囲気下及び酸素雰囲気下で行い、酸素雰囲気下での測定で得られた電流値から、窒素雰囲気下での測定で得られた電流値を引いた値を酸素還元の電流値とした。測定装置及び測定条件は、以下の通りである。
【0109】
(測定装置)
回転リングディスク電極装置:日厚計測RRDE−1
電気化学アナライザー:BAS社製 ALS701C
(測定条件)
セル溶液:0.05mol/L硫酸水溶液
参照電極:銀/塩化銀参照電極(飽和塩化カリウム)
カウンター電極:白金ワイヤー
掃引速度:5mV/s
電極回転速度:600rpm
【0110】
[実施例2]
複核錯体(A)に代わり、複核錯体(B)を使用したこと以外は、実施例1と同様にレドックス触媒(B)を調製し、その酸素還元能を評価した。評価結果を表1に示す。
【0111】
[実施例3]
複核錯体(A)に代わり、複核錯体(C)を使用したこと以外は、実施例1と同様にレドックス触媒(C)を調製し、その酸素還元能を評価した。評価結果を表1に示す。
【0112】
[実施例4]
複核錯体(A)に代わり、複核錯体(D)を使用したこと以外は、実施例1と同様にレドックス触媒(D)を調製し、その酸素還元能を評価した。評価結果を表1に示す。
【0113】
[実施例5]
複核錯体(A)に代わり、複核錯体(E)を使用したこと以外は、実施例1と同様にレドックス触媒(E)を調製し、その酸素還元能を評価した。評価結果を表1に示す。
【0114】
[比較例1]
複核錯体(A)に代わり、サルコミン(Co−salen錯体、東京化成社製、製品コードS0318)を使用したこと以外は、実施例1と同様にレドックス触媒(Z)を調製し、その酸素還元能を評価した。評価結果を表1に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
[実施例6]
<レドックス触媒の調製>
複核錯体(A)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC600JD、ライオン社製)を1:4の質量比で混合し、エタノール中、室温にて攪拌後、室温にて200Pa(1.5Torr)の減圧下で12時間乾燥した。次いで、得られた混合物を管状炉(プログラム制御開閉式管状炉、商品名:EPKRO−14R、いすゞ製作所製)において、窒素雰囲気下、窒素ガスフローを200mL/分、昇温速度を200℃/時間として600℃まで昇温し、その後、600℃で2時間加熱を行った。0.1M塩酸溶液を用いて酸処理を行い、ろ取した後、真空乾燥機で一晩乾燥させることで、レドックス触媒(F)を調製した。得られたレドックス触媒(F)のXRD(X−Ray Diffraction spectroscopy)スペクトルを図1に示す。図1のグラフにおける縦軸はスペクトル強度を、横軸は2θ(°)を示す。図1より、Pdメタル由来のピークが確認できた。
<回転リングディスク電極によるレドックス触媒の酸素還元能の評価>
レドックス触媒(A)に代わり、レドックス触媒(F)を使用したこと以外は、実施例1と同様に酸素還元能を評価した。評価結果を表2に示す。
【0117】
[実施例7]
複核錯体(A)に代わり、複核錯体(B)を使用したこと以外は、実施例6と同様にレドックス触媒(G)を調製し、その酸素還元能を評価した。評価結果を表2に示す。また、得られたレドックス触媒(G)のXRD(X−Ray Diffraction spectroscopy)スペクトルを図1に示す。図1より、PdFe合金由来のピークが確認できた。
【0118】
[実施例8]
複核錯体(A)に代わり、複核錯体(C)を使用したこと以外は、実施例6と同様にレドックス触媒(H)を調製し、その酸素還元能を評価した。評価結果を表2に示す。
【0119】
[実施例9]
複核錯体(A)に代わり、複核錯体(D)を使用したこと以外は、実施例6と同様にレドックス触媒(I)を調製し、その酸素還元能を評価した。評価結果を表2に示す。
【0120】
[実施例10]
複核錯体(A)に代わり、複核錯体(E)を使用したこと以外は、実施例6と同様にレドックス触媒(J)を調製し、その酸素還元能を評価した。評価結果を表2に示す。また、得られたレドックス触媒(J)のXRD(X−Ray Diffraction spectroscopy)スペクトルを図1に示す。図1より、PdCu合金及びPdメタル由来のピークが確認できた。
【0121】
[実施例11]
複核錯体(A)に代わり、複核錯体(F)を使用したこと以外は、実施例6と同様にレドックス触媒(K)を調製し、その酸素還元能を評価した。評価結果を表2に示す。また、得られたレドックス触媒(K)のXRD(X−Ray Diffraction spectroscopy)スペクトルを図2に示す。図2のグラフにおける縦軸はスペクトル強度を、横軸は2θ(°)を示す。図2より、PtZn合金由来のピークが確認できた。
【0122】
[実施例12]
複核錯体(A)に代わり、複核錯体(G)を使用したこと以外は、実施例6と同様にレドックス触媒(L)を調製し、その酸素還元能を評価した。評価結果を表2に示す。また、得られたレドックス触媒(L)のXRD(X−Ray Diffraction spectroscopy)スペクトルを図2に示す。図2より、PtCo合金由来のピークが確認できた。
【0123】
[実施例13]
複核錯体(A)に代わり、複核錯体(H)を使用したこと以外は、実施例6と同様にレドックス触媒(M)を調製し、その酸素還元能を評価した。評価結果を表2に示す。また、得られたレドックス触媒(M)のXRD(X−Ray Diffraction spectroscopy)スペクトルを図2に示す。図2より、Ptメタル由来のピークが確認できた。
【0124】
[実施例14]
複核錯体(A)に代わり、複核錯体(I)を使用したこと以外は、実施例6と同様にレドックス触媒(N)を調製し、その酸素還元能を評価した。評価結果を表2に示す。
【0125】
【表2】

【0126】
<レドックス触媒の調製>
複核錯体(B)とカーボン担体(ケッチェンブラックEC600JD、ライオン社製)を1:4の質量比でメタノール中において混合した後、溶媒を除去することで、レドックス触媒(O)を得た。
<電極の作製>
電極には、ディスク部がグラッシーカーボン(直径6.0mm)のディスク電極を用いた。レドックス触媒(O)2mgを入れたサンプル瓶へ、0.6mLの水、0.4mLのエタノール、20mLのナフィオン溶液(Aldrich、5質量%溶液)を順に加えた後、超音波で分散処理を行った。得られた懸濁液10μLを上記電極のディスク部に滴下した後、室温にて一晩乾燥することにより、測定用電極を作製した。
<回転リングディスク電極によるレドックス触媒の水素酸化能評価>
測定は室温において窒素雰囲気下及び水素雰囲気下で行い、0.1Vにおける水素雰囲気下での測定で得られた電流値から、窒素雰囲気下での測定で得られた電流値を引いた値を水素酸化の電流値とした。測定装置及び測定条件は、以下の通りである。
【0127】
(測定装置)
回転リングディスク電極装置:日厚計測RRDE−1
電気化学アナライザー:BAS社製 ALS601B
(測定方法)
リニアスウィ−プボルタンメトリー
(測定条件)
セル溶液:0.10mol/L過塩素酸水溶液
参照電極:可逆水素電極(RHE)
カウンター電極:白金ワイヤー
掃引速度:5mV/s
電極回転速度:600rpm
【0128】
上記測定において、0.1Vにおける電流値は、0.85mA/cmであり、レドックス触媒(O)は、水素酸化能を有していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、酸素還元触媒、水素酸化触媒、過酸化水素の分解触媒、芳香族化合物の酸化重合触媒、排ガス・排水浄化用触媒、色素増感太陽電池の酸化還元触媒層、二酸化炭素還元触媒、改質水素製造用触媒、酸素センサーに利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される複核錯体を用いたレドックス触媒。
【化1】

(式中、Yは酸素原子又は硫黄原子であり;Qは窒素原子及びYに隣接する炭素原子と共に複素環を形成し;M及びMはそれぞれ独立に金属原子、金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンであり;Lは対イオン又は中性分子であり;nは1〜4の整数であり、nが2〜4の場合、複数のQは同一でも異なっていてもよく、複数のYは同一でも異なっていてもよく;mは0以上の数であり、Lが複数ある場合、これら複数のLは同一でも異なっていてもよく;矢印(→)はMもしくはMに対する配位結合又はイオン結合を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される複核錯体において、前記Qが前記窒素原子及びYに隣接する炭素原子と共に形成する複素環が6員環であり、該6員環を構成する原子のうち、前記窒素原子及びYに隣接する炭素原子以外の原子が、それぞれ独立に炭素原子又は窒素原子である請求項1に記載のレドックス触媒。
【請求項3】
前記Yが酸素原子である請求項1又は2に記載のレドックス触媒。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される複核錯体が、下記一般式(2)又は(3)で表される複核錯体である請求項1〜3のいずれか一項に記載のレドックス触媒。
【化2】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、アミノ基、ニトロ基、ホスホン酸基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基、炭素数1〜50の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数3〜50の環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数7〜50のアラルキル基、又は1価の複素環基であり、複数のRは同一でも異なっていてもよく;M及びMはそれぞれ独立に金属原子、金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンであり;Lは対イオン又は中性分子であり;nは1〜4の整数であり、nが2〜4の場合、nが付された複素環は同一でも異なっていてもよく;mは0以上の数であり、Lが複数ある場合、これら複数のLは同一でも異なっていてもよく;矢印(→)はMもしくはMに対する配位結合又はイオン結合を表す。)
【化3】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、スルホン酸基、アミノ基、ニトロ基、ホスホン酸基、炭素数1〜4のアルキル基で置換されたシリル基、炭素数1〜50の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、炭素数3〜50の環状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、炭素数6〜60のアリール基、炭素数7〜50のアラルキル基、又は1価の複素環基であり、複数のRは同一でも異なっていてもよく;M及びMはそれぞれ独立に金属原子、金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した金属原子若しくは金属イオンであり;Lは対イオン又は中性分子であり;nは1〜4の整数であり、nが2〜4の場合、nが付された複素環は同一でも異なっていてもよく;mは0以上の数であり、Lが複数ある場合、これら複数のLは同一でも異なっていてもよく;矢印(→)はMもしくはMに対する配位結合又はイオン結合を表す。)
【請求項5】
前記nが4である請求項1〜4のいずれか一項に記載のレドックス触媒。
【請求項6】
前記Mが、貴金属原子、貴金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した貴金属原子若しくは貴金属イオンである請求項1〜5のいずれか一項に記載のレドックス触媒。
【請求項7】
前記Mが、周期表第4周期の遷移金属原子、周期表第4周期の遷移金属イオン、又はYに該当しない酸素原子が配位した周期表第4周期の遷移金属原子若しくは遷移金属イオンである請求項1〜6のいずれか一項に記載のレドックス触媒。
【請求項8】
前記Mがパラジウム原子、パラジウムイオン、白金原子又は白金イオンであり、前記Mがバナジウム原子、バナジウムイオン、クロム原子、クロムイオン、マンガン原子、マンガンイオン、鉄原子、鉄イオン、コバルト原子、コバルトイオン、ニッケル原子、ニッケルイオン、銅原子、銅イオン、亜鉛原子又は亜鉛イオンである請求項1〜7のいずれか一項に記載のレドックス触媒。
【請求項9】
前記一般式(1)で表される複核錯体と、導電性担体とを含む組成物を用いた請求項1〜8のいずれか一項に記載のレドックス触媒。
【請求項10】
前記複核錯体、又は前記複核錯体と前記導電性担体とを含む組成物を、200℃〜1400℃で加熱することで得られた請求項1〜9のいずれか一項に記載のレドックス触媒。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のレドックス触媒を用いた燃料電池用電極触媒。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のレドックス触媒を用いた燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−602(P2012−602A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140538(P2010−140538)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】