説明

レドーム及び飛しょう体

【課題】 レドームの先端に耐衝撃性を有する金属チップを埋め込んだ場合、この金属チップにおける反射の影響によりレドーム内部のアンテナ放射特性が劣化するという問題が生じていた。例えば、アンテナ利得の低下やサイドローブレベルが上昇するという課題があった。
【解決手段】 飛しょう体に設けられるレドームであって、誘電体、またはハニカム材を誘電体で挟んだハニカムサンドイッチ構造からなるレドーム本体と、前記レドーム本体の先端部に前記レドーム本体を貫通して取り付けられる金属片と、前記レドーム本体の内側に露出された前記金属片に取り付けられた電波吸収部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンテナを保護するためのレドームに関し、特に音速を超える速度で移動する物体の先頭部に取り付けられるレドームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機やロケット等、音速を超えて飛しょうする物体においては、物体先端部に気象レーダや捜索レーダ等のアンテナが設けられている。このアンテナを保護するためのレドームは飛しょう時の空力特性を考慮して、先端が尖った形状かあるいは尖らないまでも非常に曲率の小さい球状とされている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Analysis of Radome-Enclosed Antennas, D. J. Kozakoff, Artech-House, 1997, p.122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レドームは、その内部のアンテナが放射あるいは受信する電波を透過できるように誘電体で構成されている。
誘電体の一例としてGRFP(ガラス繊維強化プラスチック)やセラミックスが用いられている。
さらにレドームの電波透過性の周波数特性を広帯域化するためには、ハニカム材や発泡材等の低誘電率材料の両面に薄い誘電体を装荷したサンドイッチレドームと呼ばれる形状にすると効果的であることが知られている。
【0005】
このように誘電体を成形して作られるレドームにおいて、レドームの空力性能を重視して先端部を尖らせる場合、次の2つの課題があった。
(1)誘電体の成形が困難である。特にサンドイッチレドームにおいてこの困難性が顕著となる。
(2)音速を超える速度によって、レドーム先端の誘電体部分が空気による衝撃や熱衝撃に耐えられない。
【0006】
従来このような問題を解決するために、レドーム先端部のみを金属として、(1)成形性の向上や、(2)耐環境性の向上を図る工夫が為されている。一例として、非特許文献1には先端部を金属としたレドームの記載がある。
【0007】
しかしながら先端部のみを金属とするため、レドーム先端に金属チップを埋め込むと、この金属チップにおける反射の影響によりレドーム内部のアンテナ放射特性が劣化するという問題が生じていた。例えば、アンテナ利得の低下やサイドローブレベルの上昇などが生じていた。
【0008】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、レドーム先端部を金属とすることにより生じるアンテナ放射特性の劣化を低減可能なレドームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によるレドームは飛しょう体に設けられるレドームであって、誘電体、またはハニカム材を誘電体で挟んだハニカムサンドイッチ構造からなるレドーム本体と、前記レドーム本体の先端部に前記レドーム本体を貫通して取り付けられる金属片と、前記レドーム本体の内側に露出された前記金属片に取り付けられた電波吸収部とを備えた。
【発明の効果】
【0010】
この発明のレドームによれば、レドームを搭載する飛しょう体が高速で移動する場合であっても、レドーム内部に搭載するアンテナの放射特性の劣化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1に係るレドームの実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】実施の形態1に係る電波吸収体6の装荷有無による、アンテナの利得変動の周波数特性の一例を示す図である。
【図3】従来の金属チップを有するレドームを示す構成図(概略)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
まず、レドーム先端に金属チップを配置した場合の課題について図を用いて説明する。
図3は、レドームの構成の一例を示す図である。レドーム本体3は、誘電体1とハニカム材2を積層して構成される。先端が尖った形状を有するレドーム本体3の先端部(頂部ともいう)には、レドームの成形性の向上、耐環境性の向上を図る目的として、レドーム本体3を貫通するように金属チップ4を設置している。
アンテナ5はレドーム本体3の内部に配置されており、気象観測や目標の捜索等を行う。
【0013】
図3のようにレドーム本体3の先端部に金属チップ4を配置する場合、レドーム内部に設けられたアンテナ5により送受信する電波を、金属チップ4が遮断する状況が生じる。例えば図2中の矢印10で示すように、アンテナ5から放射された電波は前方の金属チップ4で反射される。この金属チップ4による反射波は再びアンテナ5で反射して、意図しない方向に電波が放射されることになる。
この結果、レドーム先端に金属チップを配置した場合には、アンテナ利得の低下やサイドローブレベルの上昇など、アンテナ放射特性を劣化させるという課題が生じていた。
【0014】
以下、本実施の形態のレドームについて図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、実施の形態1に係るレドーム10の構成を示す図である。
レドーム10は、レドーム本体3と、レドーム本体3の先端部に設けられた導電性の金属チップ4を備える。
実施の形態1では、更に、金属チップ4のレドーム内部の面に、電波吸収体6を設ける。
【0016】
アンテナ5は、レドーム本体3の内側における内部収容空間に配置される。
レドーム本体3は、ハニカムコアを構成するハニカム材2と、ハニカム材2の両面に接着した誘電体1の3層からなり、各層を接着したサンドイッチ構造により構成される。 誘電体1は例えば、GRFPやセラミック材を素材とする。
レドーム本体3は、レドームの空力性能を重視する観点から、先端部が尖った形状もしくは非常に曲率の小さい形状を有する流線形状をなしている。
【0017】
なお、図1ではレドーム3の構成の一例として3層構造のサンドイッチレドームの例を示しているが、3層構造に限られるものではなく、誘電体1、ハニカム材2、誘電体1、ハニカム材2、誘電体1の順に積層した5層構造であってもよく、あるいは更に多層化したサンドイッチ板とすることもできる。
【0018】
レドームの空力性能を重視して先端部を尖らせる場合、先に記載したように、誘電体の成形が困難となる。特にレドーム本体3をサンドイッチ構造とした場合は、誘電体の成形が非常に困難となる。
そこで、先端部に金属チップ4を設けることで、先端部の機械構造を確実にして機械的強度を向上させ、かつ、熱環境に耐える構造としている。
【0019】
また、この金属チップ4の効果として、音速を超えて飛しょうする場合の耐機械構造強度性、耐熱強度性の向上も挙げることができる。
【0020】
金属チップ4は、誘電体1を貫通してレドーム本体3の先端部に埋め込まれる。
金属チップ4のレドーム外側表面に露出する部分は、レドーム本体3の形状に合わせて曲面形状もしくは尖形状をなしている。
そして金属チップ4は、レドーム本体3の内側に露出されアンテナ5と対向する箇所に、電波吸収体6を取り付けている。
電波吸収体6の主な材料としては、例えばフェライトの焼結体やフェライトやカーボンを樹脂に分散させたものなどが挙げられる。特に、反射率を低く抑えることが必要な場合には、反射を低減するために構造をピラミッド型等としてもよい。
【0021】
金属チップ4に取り付ける電波吸収体6は、金属チップ4の表面を覆う程度の大きさであり、また耐熱性に優れた物を選定する。
このように実施の形態1の電波吸収体6は、金属チップ4の表面と同程度の大きさでよく、例えば、レドーム内部の広い面積に電波吸収体を貼る必要はない。
【0022】
図2は、実施の形態1による電波吸収体6の装荷有無によるアンテナの利得変動の周波数特性の一例である。
図2の実線は、電波吸収体6を装荷しない場合を基準に、波吸収体6を装荷した場合のアンテン5の利得の周波数特性の変動を示したものである。
このように、レドーム内部に露出した金属チップ4の表面であって、アンテナの電波放射面に対向する面に電波吸収体6を装荷することにより、利得が改善されることがわかる。
【0023】
このように本実施の形態のレドームによれば、アンテナ5から放射した電波を、金属チップ4における電波吸収体6により吸収し、アンテナ5の正面方向への反射波を低減させることができる。これにより、特定の方向に対するサイドローブレベルの上昇を抑え、アンテナ放射特性の劣化を低減させることができる。
【0024】
なお、図1は3層サンドイッチレドームの構成例を示しているが、さらに多層のサンドイッチレドームあるいは単層レドームについて、金属チップ4および電波吸収体6を設けるようにしても良い。
【0025】
また、電波吸収体として電波吸収塗料や電波吸収シートを使用しても良い。
例えば、特開2000-101287号公報等には電波吸収に関する周波数特性を可変にした可変電磁シールド機構に関する技術が開示されており、これに記載の可変電磁シールド機構を金属チップ4のアンテナ対向面に装荷するようにしてもよい。
【0026】
また、電波強度や透過する電波特性に応じて、レドーム本体3はGFRPやセラミックス等の誘電体を単層構造として構成しても良い。
また、ハニカム材2の代わりに、発泡材を使用しても良い。
【符号の説明】
【0027】
1 誘電体、2 ハニカム材、3 レドーム本体、4 金属チップ、5 アンテナ、6 電波吸収体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛しょう体に設けられるレドームであって、
誘電体、またはハニカム材を誘電体で挟んだハニカムサンドイッチ構造からなるレドーム本体と、
前記レドーム本体の先端部に前記レドーム本体を貫通して取り付けられる金属片と、
前記レドーム本体の内側に露出された前記金属片に取り付けられた電波吸収部と、
を備えたことを特徴とするレドーム。
【請求項2】
前記電波吸収部は電波吸収体、又は電波吸収塗料、又は電波吸収シートであることを特徴とする請求項1記載のレドーム。
【請求項3】
先頭部に設けられ、誘電体から構成されて先端が尖った形状を有するレドーム本体と、
前記レドーム本体の先端部に、前記レドーム本体を貫通して取り付けられる金属片と、
前記レドーム本体の内側に搭載されたアンテナと、
前記レドーム本体の内側に露出された前記金属片の、前記アンテナの電波放射面に対向する箇所に取り付けられた電波吸収部と、
を備えたことを特徴とする飛しょう体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−41130(P2011−41130A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188512(P2009−188512)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】