説明

レボフロキサシン含有錠剤

【課題】通常の成形圧力の範囲で、流通過程で破損することのない強度を有しつつ、水への崩壊性・懸濁性が良好で、経管投与可能なレボフロキサシン含有錠剤を提供する。
【解決手段】(A)レボフロキサシン及び(B)分子量250,000〜400,000のヒドロキシプロピルセルロース0.1〜3.0質量%を含有する錠剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性を保持しつつ、水への崩壊性・懸濁性に優れるレボフロキサシン含有錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢化の進展に伴い、医薬品についても高齢者の身体特性に合致した製品が求められている。例えば、高齢の入院患者あるいは重症患者の場合、錠剤を患者自身が経口服用することは困難であるため、製剤の懸濁液ないしは溶液を調製し、シリンジから経管チューブを経由して投与する方法が、医療現場においてしばしば実施されている。しかしながらこれまでの錠剤については、移送や保管時での破損を回避する上での十分な強度を保持させることに主眼が置かれ、この様な経管投与での利用は想定されておらず、そのための崩壊特性については考慮されていなかった。したがって従来の錠剤は、常温の水に対する崩壊性あるいは懸濁性は必ずしも良好ではなかった。そのため、錠剤からの懸濁液の調製については、錠剤の粉砕や、温水の使用、あるいは長時間の処理といった煩雑な作業を必要としてきた。従って、医療ニーズとして、一定の成形性を保持しつつ、より簡便に懸濁液が調製できる特性を有する製剤への要求が高い。
なお、ここでいう錠剤の崩壊性とは、錠剤を水中に投じたときの錠剤の崩れやすさの程度をいい、懸濁性とは錠剤を水中に投じて崩壊して形成される懸濁液においてより微細な懸濁粒子の形成し易さの程度をいう。優れた崩壊性により懸濁液を速やかに調製でき、懸濁性に優れることで懸濁粒子は経管投与に使用されるチューブ類を速やかに通過することができる。
【0003】
感染症治療に用いられる抗菌剤についても年齢を問わず広く使用される医薬であり、通常の経口投与に用いられる製剤が、そのまま経管投与の際に容易に懸濁液として調製でき、投与できることが望まれている。このうち、レボフロキサシンは、優れた抗菌力と高い安全性を有する抗菌薬であり、高齢者の感染症治療に汎用されることから、錠剤が経管投与時にも優れた水懸濁適性を有することが望まれている。
【0004】
昨今、高齢者の薬剤の服用性を考慮して、口中で速やかな崩壊性を有する製剤の技術開発が盛んに行われている。例えば、凍結乾燥法を利用した技術(特許文献1)や湿った粉末を低圧で成形した後、乾燥するといった方法(特許文献2)が開発されたが、このような技術の多くは、充分な成形性を有する製剤が得られず、輸送時やPTP包装からの取り出しの際に製剤が破損するという欠点を有していた。このような欠点を改善すべく、糖アルコールの物理化学的特性を利用した技術(特許文献3及び4)も数多く検討されている。
【0005】
一方、ヒドロキシプロピルセルロースは従来から結合剤として汎用されているが、その分子量に着目し、最適な分子量のヒドロキシプロピルセルロースの適当量を使用することによって強度と崩壊性を付与した製剤は知られていない。
【特許文献1】特開平1−501704号公報
【特許文献2】特開平5−271054号公報
【特許文献3】特開平11−33084号公報
【特許文献4】特開2001−58944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在販売されているレボフロキサシン含有錠剤は常温の水に投入後、静置した状態では崩壊に30分以上を要する。このため、レボフロキサシン錠を経管投与するには、粉砕、加温、攪拌等の操作を必要とし、経管投与をするには利便性が低かった。
また、製剤の崩壊性を改善する場合、一般に崩壊剤の種類や添加量を種々変化させて改善することが定法であるが、本製剤の場合、崩壊剤の種類、量を変更しても、常温の水中に放置した際の崩壊性が改善できないという課題を有していた。
従って、本発明の目的は、通常の成形圧力の範囲で、流通過程で破損することのない強度を有しつつ、水への崩壊性・懸濁性が良好で、経管投与可能なレボフロキサシン含有錠剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、レボフロキサシン含有錠剤の水への崩壊性・懸濁性について種々検討したところ、結合剤として分子量250,000〜400,000という特定のヒドロキシプロピルセルロースを一定量配合したところ、適切な成形圧力の範囲で十分な成形性を保持し、かつ、常温の水への崩壊性・懸濁性に優れるレボフロキサシン含有錠剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、(A)レボフロキサシン及び(B)分子量250,000〜400,000のヒドロキシプロピルセルロース0.1〜3.0質量%を含有する錠剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレボフロキサシン含有錠剤は、常温の水に投入し、静置しておくか、あるいは簡単な攪拌を行うだけで、20分以内に完全に崩壊し、経管投与の際の作業性に優れる。さらに、通常の流通過程でも破損しない十分な強度を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明錠剤の有効成分は、(A)レボフロキサシンである。レボフロキサシンは、化学名:(−)−(S)−9−フルオロ−2,3−ジヒドロ−3−メチル−10−(4−メチル−1−ピペラチニル)−7−オキソ−7H−ピリド[1,2,3−de][1,4]ベンゾオキサジン−6−カルボン酸であるニューキノロン系抗菌剤であり、広い抗菌スペクトルを有し、抗菌薬として広く使用されている。国内で販売されているレボフロキサシンを含有する錠剤中のレボフロキサシンの含有量は、1錠あたり100mgであり、通常、その1日投与量は成人あたり200〜300mg(重症例では600mg)である。尤も、本発明においては1錠あたりのレボフロキサシンの含有量に限定されるわけでない。
【0011】
本発明の錠剤は、強度を保持しつつ、水への崩壊性・懸濁性を向上させるため、(B)分子量250,000〜400,000のヒドロキシプロピルセルロースを含有する。結合剤として通常用いられる分子量55,000〜70,000のヒドロキシプロピルセルロースや、アラビアゴム、コーンスターチを配合した場合には、水中での崩壊性が時間にして30分以上と長く経管投与には不向きである。これに対し、分子量として250,000〜400,000という高分子量のヒドロキシプロピルセルロースを一定量配合すると、成形性を保持しつつ、常温の水中での崩壊時間・懸濁時間が20分以内となる。
ここで成形性とは、所定の打錠圧で製錠した錠剤が所定の形状を保つことをいい、具体的には、硬度を測定することによりその成形性を判断することができる。硬度(kp)は錠剤圧縮破壊法によりシュロイニガー(Schleuniger)やエルウェカー(ERWEKA)硬度計を用いて測定することができ、その場合、錠剤の大きさや形状にもよるが、4kp以上の数値であることが好ましく、より好ましくは5〜13kp以上であり、さらに好ましくは6〜10kpである。その際、打錠圧は、杵の耐圧・製造適性等を考慮し、400〜800kgfであることが望ましい。
錠剤の硬度が低い場合には崩壊性は高まるものの例えば運送中には錠剤の破損が生ずる等医薬としての適性を欠くことになる。また、一般的に打錠圧を高めることで硬度の高い錠剤を得ることができるが、スティッキング、キャッピングなどの打錠障害の発生や機器の維持・保守が困難となる等の問題が発生する。
【0012】
本発明錠剤中のヒドロキシプロピルセルロースの含有量は、成形性及び水への崩壊性・懸濁性の点から、0.1〜3.0質量%、さらには0.1〜1.0質量%、特に0.1〜0.7質量%が好ましい。ヒドロキシプロピルセルロースの含有量が多すぎる場合には懸濁に要する時間が延長されてしまい、易経管投与製剤としての適性は低下する。
【0013】
本発明錠剤にはこの分野で錠剤の調製に通常使用される製剤原料・添加剤等を使用することができ、例えば乳糖等の糖類、トウモロコシデンプン(コーンスターチ)等のデンプン類、マンニトール等の糖アルコール、結晶セルロース等のセルロース類の賦形剤;カルボキシメチルセルロース(カルメロース)、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル類等の滑沢剤;酸化チタン、タルク、二酸化ケイ素、カルナウバロウ等をさらに配合することができる。
【0014】
このうち、賦形剤としては乳糖、トウモロコシデンプンが好ましく、賦形剤は錠剤中に10〜90質量%、特に30〜80質量%含有させるのが、強度及び崩壊性の点で好ましい。また、好ましい賦形剤としてマンニトール、エリスリトールなどの糖アルコールを挙げることができ、これらは錠剤中に10〜90質量%含有させるのが崩壊性の点で好ましい。さらに、結晶セルロースを賦形剤としてもよく、この場合、錠剤中に5〜30質量%含有させるのが強度の点で好ましい。これらの賦形剤は、各々単独でも使用してもよいが組み合わせて使用してもよい。
崩壊剤としてはカルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムが好ましく、崩壊剤は錠剤中に3〜15質量%、特に5〜10質量%含有させるのが崩壊性の点で好ましい。
滑沢剤としてはフマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸マグネシウムが好ましく、滑沢剤は錠剤中に0.5〜10質量%、特に1.0〜5質量%含有させるのが、強度及び崩壊性の点で好ましい。
【0015】
本発明の錠剤は、前記成分を直接打錠することにより製造してもよいが、流動層造粒法等により造粒した後打錠することにより製造するのが好ましい。また、本発明錠剤には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酸化チタンなどを含む適切なコーティング剤によりフィルムコーティングを施してもよい。
【0016】
本発明の錠剤は、通常の経口投与も可能であるが、20分以内に水に容易に崩壊・懸濁するので水懸濁液として経管投与可能である。より詳細には、錠剤を常温(25℃)の水に投入し、簡単な攪拌を行うだけで20分以内、より好ましくは15分以内に完全に崩壊する。したがって、この状態で経管投与可能な水懸濁液となる。一方、本発明の錠剤は、流通過程で破損しない十分な強度を有する。
【0017】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
実施例1及び比較例1〜3
表1〜3記載の処方の錠剤を製造し、その硬度、崩壊時間及び懸濁に要する時間を測定した。結果を表1〜3に示す。
【0019】
錠剤の製造方法
まず、有効成分である(A)レボフロキサシンと賦形剤の乳糖、トウモロコシデンプン又は結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース(商品名 カルメロース:崩壊剤)を流動層造粒乾燥機(フロイント産業(株)製)に投入し、(B)分子量250,000〜400,000のヒドロキシプロピルセルロース(結合剤)で湿式造粒した。仕上がった顆粒にステアリン酸マグネシウム、又はフマル酸ステアリルナトリウム(滑沢剤)を添加し、混合機(WILLy社製)で混合し、打錠用顆粒にした。
この顆粒を単発打錠機(岡田精工製)で打錠して錠剤を製造した。
【0020】
硬度測定試験方法
測定対象である錠剤5個につき、錠剤硬度はシュロイニガー(Schleuniger)硬度計を用いて錠剤圧縮破壊法により測定した。
【0021】
崩壊試験方法
測定対象である錠剤6個につき、試験液である水を用い、日本薬局方で定める崩壊試験用により、試験を行った。
【0022】
懸濁性評価方法
測定対象である錠剤3個につき、25℃の水20ccに投入し、3分後毎に10秒軽く攪拌を行い、完全に崩壊・懸濁するまでの時間を測定するとともに、懸濁粒子のサイズを目視によって確認した。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
表1〜3から処方量1mgの分子量250,000〜400,000のヒドロキシプロピルセルロース(HPC−H)を用いた実施例1−1〜3は、成形圧約600kgfで、分子量55,000〜70,000のヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L)を用いた比較例1と比べ、十分な成形性を確保した。また、分子量55,000〜70,000のヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L)及び分子量250,000〜400,000のヒドロキシプロピルセルロース(HPC−H)の処方量約5質量%である比較例2−1〜3及び3−1〜3と比べ、水への良好な崩壊性・懸濁性を有していた。
実施例1〜3の処方から得られた懸濁液は懸濁粒子が微細であることが目視によって確認でき、懸濁粒子のサイズの点からも懸濁性にも優れていた。
この様に本願発明の錠剤は、崩壊性・懸濁性に優れ、易経管投与特性に優れた錠剤であることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)レボフロキサシン及び(B)分子量250,000〜400,000のヒドロキシプロピルセルロース0.1〜3.0質量%を含有する錠剤。
【請求項2】
20分以内に水に崩壊するものである請求項1記載の錠剤。
【請求項3】
水に懸濁して経管投与可能な錠剤である請求項1又は2記載の錠剤。

【公開番号】特開2007−254461(P2007−254461A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40109(P2007−40109)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】