説明

レンズの製造方法及びその製造装置

【課題】レンズ表面への付着物の付着を防止して外観が良好となるレンズの製造方法を提
供すること。
【解決手段】レンズ基材500の表面にハードコート層502を形成した後であって、ハ
ードコート層502の表面に有機系の反射防止層をスピンコート法で成形する前に、洗浄
水を含浸させた洗浄部材6でハードコート層502を接触させながらスピンコート槽内で
洗浄する。ハードコート層502の表面の汚れ等が洗浄部材6で直接拭き取ることになる
から、従来のIPAによる清浄化以上の清浄効果を得ることができる。IPAを用いない
ので、スピンコート槽に付着・堆積している処理液体にIPAが降りかかり、乾燥して粉
状の成分が析出するのを未然に防ぐことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ基材の表面に直にハードコート層単独又はプライマー層を介したハー
ドコート層を形成し、このハードコート層の表面に有機系の反射防止層をスピンコート法
で形成するレンズの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼鏡用などのプラスチックレンズでは、レンズ基材の表面にハードコート層単独
又はプライマー層を介したハードコート層が形成され、このハードコート層の表面に、ゴ
ースト及びちらつきを防止するための反射防止層が形成されている。
この反射防止層は、従来、主に真空蒸着法による多層膜として形成されていたが、最近
では、反射防止機能を有する硬化性液体からなる反射防止層用組成物が考案されている。
反射防止層用組成物の塗膜方法としては、ハードコート層単独又はプライマー層を介して
ハードコート層が形成されたレンズ基材に対し、反射防止層用組成物を塗布し、その後硬
化させるのが一般的である。
【0003】
反射防止層用組成物の塗布方式としては、主に浸漬方式やスピンコーティング方式が用
いられる。中でも、予めハードコート層単独又はプライマー層を介したハードコート層が
形成されたプラスチックレンズの表面にコーティング用組成物を吐出し、回転してコーテ
ィング層を形成するスピンコーティング方式は、均一、かつ、高品質なコーティング層が
得られる上に、加工スピードが速く、装置がコンパクトである。
スピンコーティング方式の従来例として、レンズ基材を把持・回転部材で把持した後
、ハードコート層用組成物をプラスチックレンズに吐出する直前に、回転しているレンズ
基材表面にイソプロピルアルコール(IPA)等の低沸点溶剤を吐出し、所定の回転数で
回転させて振り切ることにより、プラスチックレンズを清浄化・乾燥する方法がある(特
許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−290704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、スピンコーティング方式によるハードコート層の形成
を行うと、振り切ったハードコート層用組成物を受け止めるスピンコート槽の壁面に、ハ
ードコート層用組成物が付着し、徐々に粘度が増してくる。さらに、枚葉処理で連続した
スピンコーティングを行うと、付着したハードコート層用組成物が堆積してくる。このよ
うにして堆積したハードコート層用組成物に、プラスチックレンズの清浄化・乾燥を行う
ために用いたIPAが降りかかると、IPAに対して溶けやすい成分は溶解して流れるが
、溶けにくい又は溶けない成分は乾燥し、粉状になって析出する。さらに、析出した粉状
の成分は、回転による振り切り工程等によってコーティング槽内に飛散し、プラスチック
レンズに付着し、外観不良が発生する。
コーティング環境の湿度を高めれば、このような粉状の成分の析出をある程度抑えるこ
とも可能であるが、加湿によって外観品質や耐久性能に悪影響を与えるおそれがある。
【0006】
また、IPAによる清浄化・乾燥工程では、プラスチック眼鏡レンズ1枚毎にIPAを
吐出しており、一度用いたIPAはそのまま廃棄している。この廃棄したIPAの回収、
再利用も考えられるが、不純物の混入や回収設備の設置による装置コスト上昇等の問題が
ある。そのため、低沸点溶剤の消費量が多大になると共に、繁雑な日常の溶剤補充が必要
となる。さらに、作業環境や地球環境の上からも好ましくない。
【0007】
本発明の目的は、レンズ表面への付着物の付着を防止して外観が良好となるレンズの製
造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のレンズの製造方法は、レンズ基材の表面に直に、又はプライマー層を介してハー
ドコート層を形成した後、このハードコート層の表面に有機系の反射防止層をスピンコー
ト法で形成するレンズの製造方法であって、前記反射防止層を前記ハードコート層表面へ
形成する前に、水を主成分とする洗浄液を含浸させた洗浄部材を前記ハードコート層へ接
触させながらスピンコート槽内で前記ハードコート層表面を洗浄することを特徴とする。
本発明のレンズの製造装置は、レンズ基材の表面に直に、又はプライマー層を介してハー
ドコート層を形成し、このハードコート層の表面に有機系の反射防止層を形成したレンズ
を製造する装置であって、前記レンズ基材が内部に配置されるスピンコート槽と、このス
ピンコート槽内で前記レンズ基材を保持する保持具と、前記ハードコート層と接触可能で
あり水を主成分とする洗浄液を含浸した洗浄部材とを備え、前記反射防止層を形成する前
に、前記洗浄部材を前記ハードコート層表面へ接触させながら前記ハードコート層表面を
洗浄することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、レンズのハードコート層の表面に水を含浸させた洗浄部材を接触さ
せて清浄化することで、従来のIPAによる清浄化以上の清浄効果を得ることができる。
しかも、IPAを用いないので、スピンコート槽に付着・堆積している処理液体にIPA
が降りかかり、乾燥して粉状の成分が析出するのを、未然に防ぐことが可能となり、レン
ズの外観が良好となる。
【0010】
本発明のレンズの製造方法において、前記洗浄部材は布であることが好ましい。
この構成の発明では、布を構成する複数の繊維の間で洗浄液が十分に含浸され、この状
態で繊維がハードコート層に付着している汚れ等の付着物を払拭するので、ハードコート
層の表面に付着物がなくなる。
【0011】
また、本発明のレンズの製造方法において、前記洗浄部材による前記ハードコート層の
洗浄の後に、前記ハードコート層に水を主成分とする洗浄液を供給し、その後、前記レン
ズ基材を回転させて前記洗浄液を振り切る構成としてもよい。
この構成の発明では、ハードコート層の洗浄工程として、洗浄部材による第1の洗浄工
程と、水を主成分とする洗浄液を供給し、供給された洗浄液を振り切って乾燥させる第2
の洗浄工程との2種類を行うことにより、洗浄効果をより高いものにすることができる。
特に、第1の洗浄工程で繊維等の洗浄部材を構成する部材が仮にハードコート層に付着し
てしまっても、その後に実行される第2の洗浄工程によって洗浄部材を構成する部材が洗
浄液によって洗い流された後、乾燥され、ハードコート層に付着するものがなくなる。
【0012】
そして、前記レンズ基材を回転させながら前記洗浄部材を前記ハードコート層に接触さ
せる構成が好ましい。
この構成の発明では、洗浄部材による洗浄を、レンズ基材を回転させながら行うことで
、より洗浄効果を高いものにすることができる。
【0013】
前記布は繊維径が0.1〜5μmであり、好ましくは、1〜5μm、より好ましくは、
2〜3μmである。布は、その目付が150〜250g/mである。ここで、目付とは
、織物、編み物の単位面積当たりの重さをいう。
この構成の発明では、超々極細繊維が高密度に配列されていることにより、たとえ1本
の繊維が汚れを拭き残したとしても、次々と新しい繊維が汚れを拭き取っていくため、洗
浄効果が非常に高い。しかも、毛細管現象により吸水性が高いため、布が容易に洗浄液を
含浸し、洗浄効果をより高めることができる。
つまり、繊維径が0.1μm未満であり、目付が150g/m未満であると、密度が
低すぎることになり、十分な洗浄効果を得ることができず、繊維径が5μmを超え、目付
が250g/mを超えると、密度が大きくなりすぎることになり、吸水性が確保できな
い。
【0014】
前記布はポリエステル製ニットである構成が好ましい。
この構成の発明では、繊維径や目付が小さい布を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るスピンコート装置1の概略図である。
スピンコート装置1は、その内部に、レンズのコーティング作業が行われるスピンコー
ト槽11を備えている。このスピンコート槽11の底部には、レンズ50の保持具20が
配設されるとともに、スピンコート槽11の底部側面側には、コーティング廃液の排出口
111が形成されている。
スピンコート槽11の上方には、図示しない加圧タンクとチューブでそれぞれ連通された
2種類の吐出装置12A,12Bが配置されており、これらの吐出装置12A,12Bは
、それぞれ下端部にノズル121が具備されているとともに、待機位置と保持具20の上
方との間を略水平に移動する構造になっている。
さらに、スピンコート装置1の上部には、HEPAフィルタ13が設けられ、スピンコ
ート装置1の内部は局所クリーン構造となっている。
【0016】
図2は、保持具20を拡大して示す図である。
保持具20は、モータ30と、このモータ30を動力源として回転する筒状の回転軸2
1と、回転軸21を回動自在に支持するベアリング223と、このベアリング223を収
納するハウジング22と、回転軸21の一端側に設けられたホルダー23と、このホルダ
ー23に取り付けられた吸着パッド24とを備え、この吸着パッド24にレンズ50が保
持されるものである。
【0017】
回転軸21には、ホルダー23側とは反対側の端部に歯付きプーリー211が設けられ
、このプーリー211と、モータ30に設けられた歯付きプーリー301とに掛け回され
たタイミングベルト302により、モータ30の回転が回転軸21に伝達されている。
回転軸21のプーリー211側の端部には旋回継ぎ手28が設けられ、この旋回継ぎ手
28には、真空ポンプ40からの配管29が接続され、この真空ポンプ40の吸引により
、回転軸21の内部を通じて、吸着パッド24に配置されたレンズ50が吸着される。
【0018】
ベアリング223は、回転軸21との間で回転自在な複数のボール221をボール保持
部222で保持する構成であり、ボール221の回転により、回転軸21の回転を円滑に
受けている。
なお、回転軸21の端部はベアリング223から突出しており、突出部にホルダー23
を差し込んだ後にネジ止めする構造になっている。
【0019】
ホルダー23は、テフロン(登録商標)製の円板状部材であり、中央に形成された孔2
31に対し、回転軸21の端部を差し込んで固定する構造になっている。また、孔231
の周縁から立ち上がる突出部232が形成されており、この突出部232の外周に吸着パ
ッド24の内周部が嵌合される。
【0020】
吸着パッド24は、ニトリルゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム等
により形成された平面視環状の部材であって、断面形状は略コ字状であり、このコ字形状
における対向部分の一方がホルダー23に支持され、他方の部分がレンズ50の保持部2
41とされている。
なお、吸着パッド24の材質には、このようなゴム素材のほか、レンズ50の形状に追
従、密着可能な各種の弾性部材を使用できる。
【0021】
図1において、吐出装置12Aは、レンズ50を洗浄する際に用いられる洗浄水を、ノ
ズル121を通じてレンズ50に供給するものである。
吐出装置12Bはレンズ50に反射防止層を形成する際に用いられる反射防止層組成物
を、ノズル121を通じてレンズ50に供給するものである。この反射防止層組成物は、
有機系の材料からなる。
レンズ50を洗浄する際には洗浄部材6が用いられる。
この洗浄部材6は、図3に示される通り、ポリエステル製ニットからなる布を折りたた
んだものであり、この布は繊維径が0.1〜5μm、好ましくは、1〜5μm、より好ま
しくは、2〜3μmである。布の目付は、150〜250g/mである。
洗浄部材6を構成する布として、眼鏡レンズを拭くためのクロス、例えば、トレシー(
商品名)を例示することができる。
繊維径が0.1μm未満であって目付が150g/m未満であると、密度が低すぎる
ことになり、十分な洗浄効果を得ることができず、繊維径が5μmを超え、目付が250
g/mを超えると、密度が大きくなりすぎることになり、吸水性が確保できない。
【0022】
図4(A)及び(B)は、レンズ50の断面図であって、レンズ50のレンズ基材50
0に積層された複数の層を示している。
図4(A)では、レンズ50の凹面側、凸面側の両方に、レンズ基材500表面から順
に、プライマー層501、ハードコート層502、反射防止層503、防汚層504がそ
れぞれ形成されている。
レンズ基材500はプラスチック製であればよく、特に限定されないが、屈折率が1.
6以上の透明な素材を使用することが好ましい。例えば、イソシアネート基またはイソチ
オシアネート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製
造されるポリチオウレタン系プラスチック、エピスルフィド基を持つ化合物を含む原料モ
ノマーを、重合硬化して製造される、エピスルフィド系プラスチックを基材の素材として
使用することができる。
【0023】
ポリチオウレタン系プラスチックの主成分となるイソシアネート基またはイソチオシア
ネート基を持つ化合物としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。
イソシアネート基を持つ化合物の具体例としては、エチレンジイソシアナート、トリメ
チレンジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサンジイソシアナート、ヘキサメ
チレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナート等が挙げられる。
【0024】
プライマー層501は、ウレタン樹脂などで形成され、レンズ基材500とハードコー
ト層502との密着性を高める必要がある場合や、耐衝撃性を向上させる必要がある場合
に形成されたもので、図4(B)のように、プライマー層501を形成せずにレンズ基材
500に直接ハードコート層502を形成する場合もある。
ハードコート層502は、シリコーン系、アクリル系材料により、レンズ50の傷付き
を防止するために、例えば、2μm程度の厚さで形成されている。このハードコート層5
02をレンズ基材500に直に形成する場合は、レンズ基材500の表面に予めアルカリ
処理、酸処理、微粒子による研磨処理、プラズマ処理等を行うことが好ましく、これによ
り、レンズ基材500とハードコート層502との密着性が向上する。
【0025】
反射防止層503は、レンズ50の表面反射を防止するために、これより下層のハード
コート層502、プライマー層501及びレンズ基材500よりも低屈折の層として形成
される。
【0026】
反射防止層503は、吐出装置12Bによりレンズ50のハードコート層502に塗布さ
れ、単層膜としてだけでなく、多層膜として形成することも可能である。
吐出装置12Bで塗布されるコーティング液としては、フッ素系化合物や、シラン化合
物等を使用できる。本実施形態では、シラン化合物を有機溶剤で希釈し、必要に応じて水
または薄い塩酸、酢酸等を添加して加水分解を行い、さらに、シリカ系微粒子が有機溶剤
中にコロイド状に分散したゾルを添加した後、必要に応じて界面活性剤、紫外線吸収剤、
酸化防止剤などを添加し、十分に撹拌したものをコーティング液として使用する。
このような反射防止層503の膜厚は、所望の光学特性を実現するため、例えば、単層
膜の場合で、所定の膜厚100nmに対して、±10nmの範囲で制御されている。
防汚層504は、防汚成分としてフッ素含有化合物が添加されたもので、レンズ50の
最表層として形成されている。
【0027】
以下、本実施形態のレンズ50の製造方法について説明する。
[ハードコート層の形成工程]
ハードコート液をレンズ基材500の上に塗布する。塗布する方法は、任意であるが、
例えば、ディッピング法、スピンコート法、スプレーコート法、ロールコート法、フロー
コート法等があげられる。
レンズ基材500とハードコート層502との密着性を高めるために、ハードコート液
を塗布するまえに、レンズ基材500にアルカリ処理、酸処理、界面活性剤処理、プラズ
マ処理等を行っても良い。
基材上にハードコート液を塗布したら、所定温度、例えば、40〜200℃で数時間、
乾燥する。これにより、ハードコート層502が形成されることとなる。
[プラズマ処理工程]
ハードコート層502の表面にプラズマによって表面改質処理を施す。
【0028】
[レンズの保持具での保持工程]
ハードコート層502がレンズ基材500に形成されたレンズ50を保持具20で保持
する。
そのため、真空ポンプ40でレンズ50を吸引チャックする。この際、レンズ50の形
状に従って吸着パッド24の保持部241が弾性変形し、レンズ50が動かずに確実に保
持される。
【0029】
[洗浄工程1]
レンズ50を保持具20にセットしたら、モータ30を作動させ、保持具20の回転軸
21を介してレンズ50を回転させながら、作業員が洗浄水を含ませた洗浄部材6を手に
とり、図5に示される通り、洗浄部材6をハードコート層502の表面に押し当てて接触
させながら前記径方向に沿ってレンズ中心から外周方向に向かって移動させる。これによ
り、ハードコート層502の表面に汚れがあっても、洗浄部材6の超々極細繊維が高密度
に配列されていることにより、多くの繊維で汚れが拭き取られる。しかも、洗浄部材6を
構成する繊維の毛細管現象により吸水される。
【0030】
[洗浄工程2]
洗浄工程1の後に、ハードコート層502に洗浄水を所定時間供給し続け、その後、洗浄
水の供給を停止した後もレンズ50を回転させ続けてハードコート層502の表面に残っ
た洗浄液を振り切る。これにより、ハードコート層502が洗浄されるとともに乾燥する

【0031】
[反射防止層組成物の吐出工程]
洗浄工程が終了したら、吐出装置12Aを待機位置に移動させ、図6に示される通り、
吐出装置12Bから反射防止層組成物をハードコート層502の表面に吐出する。この際
、保持具20によるレンズ50の回転を低速にしておく。
反射防止層組成物をハードコート層502に吐出したら、レンズ50を高速回転させ、
余分な反射防止層組成物をハードコート層502の表面から飛ばし、塗布される組成物の
厚さを均一にし、乾燥させる。
【0032】
[レンズの焼成工程]
その後、反射防止層組成物が設けられたレンズ50を焼成する。これにより、ハードコ
ート層502の上に反射防止層503が形成されることになる。
反射防止層503が複数層から形成される場合は前述の工程を繰り返す。
なお、前述の工程がレンズ基材500の片面にて終了したなら、レンズ基材500を反転
させて保持具20にセットし、同様の手順で他の片面に反射防止層503を形成する。
[防汚層の形成工程]
反射防止層503が形成されたレンズ50を装置から取り出し、さらに、ディップコート
方式で反射防止層503の上に、レンズ50の最表層として防汚層504を形成する。そ
の後、必要な処理を施すことによりレンズ50が完成する。
【0033】
以上説明した本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)レンズ基材500の表面にハードコート層502を形成した後であって、ハードコ
ート層502の表面に有機系の反射防止層503をスピンコート法で形成する前に、洗浄
水を含浸させた洗浄部材6でハードコート層502を接触させながらスピンコート槽11
内で洗浄するため、ハードコート層502の表面の汚れ等を直接拭き取ることになる。そ
のため、従来のIPAによる清浄化以上の清浄効果を得ることができる。しかも、IPA
を用いないので、スピンコート槽11に付着・堆積している処理液体にIPAが降りかか
り、乾燥して粉状の成分が析出するのを、未然に防ぐことが可能となり、レンズ50の外
観が良好となる。
【0034】
(2)洗浄部材6を布としたので、布を構成する複数の繊維の間で洗浄水が十分に含浸さ
れることになる。そのため、繊維がハードコート層502に付着している汚れ等の付着物
を払拭するので、ハードコート層502の表面に付着物がなくなる。
【0035】
(3)洗浄部材6によってハードコート層502を洗浄する第1の洗浄工程の後に、ハー
ドコート層502に洗浄水を供給し、その後、レンズ基材500を回転させて洗浄水を振
り切る水切り・乾燥をする第2の洗浄工程を行ったので、洗浄効果をより高いものにする
ことができる。特に、第1の洗浄工程で洗浄部材6の繊維が仮にハードコート層502に
付着してしまっても、その後に実行される第2の洗浄工程によって繊維が洗い流された後
に乾燥され、ハードコート層502に付着するものがなくなる。
【0036】
(4)レンズ基材500を回転させながら洗浄部材6をハードコート層502に接触させ
るから、洗浄部材6による洗浄を、レンズ基材500を回転させながら行うことで洗浄効
果をより高いものにすることができる。
【0037】
(5)洗浄部材6を構成する布は繊維径が0.1〜5μmであり、その目付が150〜2
50g/mであるため、超々極細繊維が高密度に配列されていることにより、たとえ1
本の繊維が汚れを拭き残したとしても、次々と新しい繊維が汚れを拭き取っていくため、
洗浄効果が非常に高い。しかも、毛細管現象により吸水性が高いため、布が容易に洗浄液
を含浸し、洗浄効果をより高めることができる。
【0038】
(6)洗浄部材6を構成する布はポリエステル製ニットであるから、繊維径や目付が小さ
い布を容易に製造することができる。
(7)洗浄部材6を、布を折りたたんだ構造としたので、布を折り返して使用することで
、未使用の布部分を簡単に露出させることができる。そのため、作業員の判断で適宜に布
を折り返すことで、ハードコート層502を容易に洗浄することができる。
【0039】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる
範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、レンズ50を洗浄する際に用いられる洗浄液を水としたが、本発明の
洗浄液は、水を主成分とするものであればよく、例えば、界面活性剤を含むものでもよい

【0040】
また、洗浄部材6による洗浄作業を作業員による手作業としたが、ロボットを用いた機械
作業としてもよい。
そして、洗浄部材6は布を折りたたんだ構造としたが、回転可能なロール部材の周面に布
地を巻き付け、これを回転させながらハードコート層502に接触させるものでもよい。
さらに、洗浄部材6は布に限定されるものではなく、例えば、紙を利用するものであって
もよい。
【0041】
すなわち、本発明は、主に特定の実施の形態に関して特に図示され、かつ、説明されて
いるが、以上述べた実施の形態に対し、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱す
ることなく、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加
えることができる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の効果を確認するために実施例について説明する。なお、以下の説明にお
ける数値などは、本発明を実施するにあたり、あくまで一例を示すものに過ぎない。
[実施例1]
前記実施形態におけるスピンコート装置1を使用した。
予めディップコート方式によりプライマー層501及びハードコート層502を形成し
、プラズマにより表面改質処理を施した中心厚1.1mm、外周厚4.5mm、直径80
mmのレンズ50の凹面に対し、反射防止膜用組成物のコーティングを行った。
レンズ50の凹面を上にして保持具20にセットし、吸着パッド24に吸引により吸着さ
せた。次にレンズ50を低速で回転させ、水を含浸させた繊維径2μm、目付が205g
/mのポリエステル製のニットからなる洗浄部材6をレンズ50のハードコート層50
2に当接・押圧し、レンズ中心部から外周部に向けて移動させ、さらに、吐出装置12A
のノズル121より洗浄水を吐出し、高速で回転、水を振り切ってプラスチック眼鏡レン
ズを清浄化した。
【0043】
次に、低速で回転させながら吐出装置12Bのノズル121より反射防止膜用組成物を吐
出し、続けて高速で回転させて振り切った。その後、乾燥・焼成することで、反射防止層
503を形成した。
凹面側に対しても同様の方法で反射防止膜用組成物を形成した後、最後にディップコー
ト方式で防汚膜504を形成して完成した。
得られたプラスチック眼鏡レンズの外観は良好であり、異物の付着は認められなかった

【0044】
[実施例2]
洗浄部材6の布として繊維径15μmのナイロンを用いた以外は実施例1と同様な装置及
び操作でプラスチック眼鏡レンズを作成した。
得られたプラスチック眼鏡レンズには若干の異物の付着が見られるものの実用には問題が
なかった。
【0045】
[比較例1]
実施例1と同様の装置を用い、予めディップコート方式によりプライマー層及びハードコ
ート層を形成し、プラズマにより表面改質処理を施した中心厚1.1mm、外周厚4.5
mm、直径80mmのプラスチック眼鏡レンズの凹面に対し反射防止膜用組成物のコーテ
ィングを行った。
プラスチック眼鏡レンズの凹面を上にして保持具20にセットし、吸着パッド24に吸引
により吸着させた。次に、プラスチック眼鏡レンズを低速で回転させながら吐出装置12
Bのノズル121より反射防止膜用組成物を吐出し、続けて高速で回転させて振り切った
。その後、乾燥・焼成することで、反射防止膜を形成した。比較例1では、実施例1で行
われた洗浄工程を行わなかった。
凹面側に対しても同様の方法で反射防止膜用組成物を形成した後、最後にディップコー
ト方式で防汚膜を形成して完成した。
得られたプラスチック眼鏡レンズには多数の異物が付着しており、レンズの外観不良を生
じさせていた。
【0046】
[比較例2]
予めディップコート方式によりプライマー層及びハードコート層を形成し、プラズマによ
り表面改質処理を施した中心厚1.1mm、外周厚4.5mm、直径80mmのプラスチ
ック眼鏡レンズの凹面に対し、反射防止膜用組成物のコーティングを行った。
プラスチック眼鏡レンズの凹面を上にして保持具20にセットし、吸着パッド24に吸引
により吸着させた。次に、プラスチック眼鏡レンズを低速で回転させ、水を含浸させた繊
維径2μm、目付が205g/mのポリエステル製のニットからなる洗浄部材6をプラ
スチック眼鏡レンズに当接・押圧し、レンズ中心部から外周部に向けて移動させた。さら
に、ノズルより洗浄水に代えてIPAを吐出し、高速で回転し、プラスチック眼鏡レンズ
を清浄化した。次に低速で回転させながら吐出装置12Bのノズル121より反射防止膜
用組成物を吐出し、続けて高速で回転させて振り切った。その後、乾燥・焼成することで
、反射防止膜を形成した。
凹面側に対しても同様の方法で反射防止膜用組成物を形成した後、最後にディップコー
ト方式で防汚膜を形成して完成した。
得られたプラスチック眼鏡レンズには多数の異物が付着していた。
【0047】
以上の実施例1,2及び比較例1,2について表1にまとめる。
【表1】

評価の欄中、○は異物の付着なし、△は異物の付着は見受けられるものの実用上問題な
し、×は異物の付着がありレンズの外観を損なう
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、眼鏡レンズ、その他のレンズ一般に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態におけるスピンコート装置の概略図。
【図2】前記実施形態における保持具の側断面図。
【図3】前記実施形態で使用される洗浄部材を示す斜視図。
【図4】前記実施形態において保持されるレンズの断面図。
【図5】洗浄工程を説明するための断面図。
【図6】反射防止層組成物の吐出工程を説明するための断面図。
【符号の説明】
【0050】
1…スピンコート装置、6…洗浄部材、11…スピンコート槽、20…保持具、500…
レンズ基材、501…プライマー層、502…ハードコート層、503…反射防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材の表面に直に、又はプライマー層を介してハードコート層を形成した後、この
ハードコート層の表面に有機系の反射防止層をスピンコート法で形成するレンズの製造方
法であって、
前記反射防止層を前記ハードコート層表面へ形成する前に、水を主成分とする洗浄液を
含浸させた洗浄部材を前記ハードコート層へ接触させながらスピンコート槽内で前記ハー
ドコート層表面を洗浄する
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたレンズの製造方法において、
前記洗浄部材は布である
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載されたレンズの製造方法において、
前記洗浄部材による前記ハードコート層の洗浄の後に、前記ハードコート層に水を主成
分とする洗浄液を供給し、その後、前記レンズ基材を回転させて前記洗浄液を振り切る
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載されたレンズの製造方法において、
前記レンズ基材を回転させながら前記洗浄部材を前記ハードコート層に接触させる
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれかに記載されたレンズの製造方法において、
前記布は繊維径が0.1〜5μmであり、目付が150〜250g/mである
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載されたレンズの製造方法において、
前記布はポリエステル製ニットである
ことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項7】
レンズ基材の表面に直に、又はプライマー層を介してハードコート層を形成し、このハ
ードコート層の表面に有機系の反射防止層を形成したレンズを製造する装置であって、
前記レンズ基材が内部に配置されるスピンコート槽と、このスピンコート槽内で前記レ
ンズ基材を保持する保持具と、前記ハードコート層と接触可能であり水を主成分とする洗
浄液を含浸した洗浄部材とを備え、前記反射防止層を形成する前に、前記洗浄部材を前記
ハードコート層表面へ接触させながら前記ハードコート層表面を洗浄する
ことを特徴とするレンズの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−102057(P2007−102057A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294437(P2005−294437)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】