説明

レンズフィルムの製造方法

【課題】レンズフィルムを製造する新規な方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、微細な凹凸形状を有するレンズアレイ層が表面に積層されたレンズフィルムの製造方法であって、第1樹脂層と、第1樹脂層より低い相転移温度の第2樹脂層と、第1樹脂層より高い相転移温度の第3樹脂層とがこの順で積層された多層フィルムを、第2樹脂層の相転移温度より高い延伸温度で自由端一軸延伸することにより、第1樹脂層の表面に微細な凹凸形状を有するレンズアレイ層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズフィルムの製造方法に関し、より詳しくは液晶表示装置の光学機能フィルムとして好適に用いられるレンズフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、液晶テレビ、液晶モニタ、パーソナルコンピュータなどに用いられる薄型の表示装置として用途が急拡大している。特に、液晶テレビの市場拡大は著しく、また、低コスト化の要求も非常に高い。
【0003】
通常の液晶表示装置は、冷陰極管やLEDからなるバックライト、光拡散板、1つまたは複数の光学機能フィルム、偏光板および液晶表示素子が組み合わされて構成されている。このようにして用いられる光学機能フィルムの一つとして、レンズフィルムが例示される。
【0004】
レンズフィルムは、液晶表示素子とバックライトとの間に配置されて液晶表示素子に入射する光を集光するために用いられたり、液晶表示素子の表示面側に配置されて液晶表示装置における透過光線を広げるために用いられたりする。
【0005】
レンズフィルムを製造する方法としては、金型を用いて熱可塑性樹脂の表面に凹凸を設ける方法、エンボスロールやエンボス板でプレスする方法、レジスト技術を応用する方法が挙げられる。また、特開平11−221854号公報(特許文献1)には、熱可塑性樹脂の溶液キャスティングフィルムに一軸延伸フィルムを粘着剤で貼り付け、加熱によって一軸延伸フィルムを収縮させて溶液キャスティングフィルムに微細な凹凸を形成することにより、レンズフィルムを製造する方法が記載されている。この方法によると、経済的に安価にレンズフィルムを製造することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−221854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のレンズフィルムの製造方法においては、一軸延伸フィルムの緩和による自然収縮によって溶液キャスティングフィルムに微細な凹凸を形成するので、精度よく収縮させようとすると時間がかかるという問題があった。
【0008】
本発明は、レンズフィルムを製造する新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、微細な凹凸形状を有するレンズアレイ層が表面に積層されたレンズフィルムの製造方法であって、第1樹脂層と、第1樹脂層より低い相転移温度の第2樹脂層と、第1樹脂層より高い相転移温度の第3樹脂層とがこの順で積層された多層フィルムを、第2樹脂層の相転移温度より高い延伸温度で自由端一軸延伸することにより、第1樹脂層の表面に微細な凹凸形状を有するレンズアレイ層を形成する。
【0010】
上記多層フィルムにおいて、好ましくは、第1樹脂層と第2樹脂層との相転移温度の差が10℃以上である。また、延伸温度は、第1樹脂層の相転移温度より低い温度であることが好ましく、第1樹脂層の相転移温度から−10℃〜−1℃の範囲の温度であることがさらに好ましい。
【0011】
上記多層フィルムにおいて、第3樹脂層は、好ましくはポリビニルアルコール系樹脂からなる。また、上記多層フィルムにおいて、第1樹脂層および第2樹脂層は、好ましくはポリオレフィン系樹脂からなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、新規なレンズフィルムの製造方法が提供される。また、本発明の方法によると、経済的に安価に、かつ簡便な方法でレンズフィルムを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)本発明で用いられる多層フィルムの構成を示す断面図であり、(b)本発明で得られるレンズフィルムの構成を示す断面図である。
【図2】延伸工程により多層フィルムからレンズフィルムが形成されるメカニズムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明のレンズフィルムの製造方法の好ましい実施形態を詳細に説明する。本発明は、微細な凹凸形状を有するレンズアレイ層が表面に積層されたレンズフィルムの製造方法であって、第1樹脂層と、第1樹脂層より低い相転移温度の第2樹脂層と、第1樹脂層より高い相転移温度の第3樹脂層とがこの順で積層された多層フィルムを、第2樹脂層の相転移温度より高い延伸温度で自由端一軸延伸する(延伸工程)ことにより、第1樹脂層の表面に微細な凹凸形状を有するレンズアレイ層を形成する。
【0015】
図1(a)は本発明で用いられる多層フィルムの構成を模式的に示す断面図であり、図1(b)は延伸工程を経て形成されるレンズフィルムの構成を模式的に示す断面図である。図1(a),(b)は、延伸方向に対して垂直な方向の断面図である。
【0016】
図1(a)に示すように、多層フィルム10は、第1樹脂層11と、第1樹脂層11より低い相転移温度の第2樹脂層12と、第1樹脂層11より高い相転移温度の第3樹脂層13とがこの順で積層されている構成である。すなわち、各樹脂層の相転移温度は次の式(1):
第2樹脂層の相転移温度<第1樹脂層の相転移温度<第3樹脂層の相転移温度
の関係にある。
【0017】
ここで、相転移温度とは、樹脂層を構成する樹脂が非晶性樹脂である場合にはガラス転移温度を意味し、結晶性樹脂である場合には融点を意味する。各樹脂層の相転移温度は、ISO3146に基づいて昇温速度10℃/mimで測定した値である。
【0018】
延伸工程において多層フィルム10を第2樹脂の相転移温度より高い延伸温度で自由端一軸延伸することにより、図1(b)に示すように、第1樹脂層11の表面に微細な凹凸形状を有するレンズアレイ層21を形成することができ、レンズフィルム20が作製される。
【0019】
延伸工程における延伸温度において、第2樹脂層12は溶融状態にあり、第1樹脂層11は溶融状態ではないが曲がりやすい程度にやわらかく、第3樹脂層13はリジッドであることが好ましい(以下、「最適状態」ともいう)。各樹脂層は、その相転移温度が上記式(1)の関係を満たすので、各樹脂層の状態が上記最適状態となる延伸温度を選択することができる。なお、最適状態となる延伸温度を選択しやすい観点から、第1樹脂層の相転移温度と第2樹脂層の相転移温度とは、その差が好ましくは10℃以上である。
【0020】
図2は、延伸工程において多層フィルム10からレンズフィルム20が作製されるメカニズムを説明する図である。多層フィルム10が最適状態となる延伸温度において、図2に示すように適切な延伸倍率で縦方向に自由端一軸延伸を行なうと、第3樹脂層13の自由端にネックインが生じる。第3樹脂層13にネックインが生じると、溶融状態にある第2樹脂層12は幅方向に押し縮められる。このとき、第2樹脂層12は溶融状態であるため、波打ち形状にならずに平面を保ったまま、あるいは若干の波打ち形状を生じさせながら押し縮められるが、第1樹脂層11は溶融状態までは達していないため、ある程度形状を維持した状態で曲がり、延伸方向の垂直方向に波打った形状に変形する。このようにして、表面に微細な凹凸形状を有するレンズアレイ層21を形成することができ、レンズフィルム20が作製される。レンズアレイ層21における凹凸形状は、延伸方向に対して垂直な方向に形成される。
【0021】
以下、各要素について詳細に説明する。
[多層フィルム]
第1樹脂層11と、第2樹脂層12と、第3樹脂層13とがこの順で積層された多層フィルム10の製造方法を説明する。各樹脂層は、原反フィルムを貼合することにより積層してもよいし、樹脂溶液を塗工することにより積層してもよい。または、多層の溶融押出法により積層体を得てもよい。各樹脂層は上述の積層順序である限り、その作製順序は限定されない。たとえば、第1樹脂層11を構成する原反フィルムと第2樹脂層12を構成する原反フィルムとを貼合して第1樹脂層11と第2樹脂層12とからなる積層体を形成し、その後第2樹脂層12上に第3樹脂層13を形成する樹脂溶液を塗工して第3樹脂層を積層することができる。または、第1樹脂層11と第2樹脂層12との積層体を溶融押出法により形成した後に、第2樹脂層12上に第3樹脂層13を形成する樹脂溶液を塗工して第2樹脂層を積層することができる。
【0022】
第1樹脂層11、第2樹脂層12、第3樹脂層13の材料は、これらの相転移温度が式(1)の関係を満たす限り限定されない。たとえば、第1樹脂層11および第2樹脂層12がポリオレフィン系樹脂からなり、第3樹脂層13がポリビニルアルコール系樹脂からなる組み合わせは好ましい。さらには、第1樹脂層11/第2樹脂層12/第3樹脂層13のより具体的な好ましい組み合わせとして次の組み合わせi)〜iv)が例示される。
【0023】
i)ランダムポリプロピレン(相転移温度:140℃)/低密度ポリエチレン(相転移温度:120℃)/ポリビニルアルコール(相転移温度:180℃)、
ii)ホモポリプロピレン(相転移温度:160℃)/低密度ポリエチレン(相転移温度:120℃)/ポリビニルアルコール(相転移温度:180℃)、
iii)ホモポリプロピレン(相転移温度:160℃)/ランダムポリプロピレン(相転移温度:138℃)/ポリビニルアルコール(相転移温度:180℃)、
iv)ランダムポリプロピレン(相転移温度:138℃)/低密度ポリエチレン(相転移温度:120℃)/ホモポリプロピレン(相転移温度:160℃)。
【0024】
以下、各樹脂層の材料を具体的に例示する。
(第1樹脂層、第2樹脂層)
本発明で用いられる第1樹脂層および第2樹脂層の材料としては、たとえば、透明性、機械的強度、延伸性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、セルローストリアセテート等のセルロースエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、およびこれらの混合物、共重合物などが挙げられる。第1樹脂層および第2樹脂層は、上述の樹脂1種類のみを用いた単層であっても構わないし、樹脂を2種類以上をブレンドしたものであっても構わない。もちろん、単層でなく多層膜を形成していても構わない。
【0025】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられ、安定的に高倍率に延伸しやすく好ましい。ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)を適宜選択して使用することができる。また、ポリピロピレンとしては、プロピレンの単独重合体、プロピレンの共重合体を適宜選択して使用することができる。プロピレンにエチレンを共重合することで得られるエチレン−プロピレン共重合体などを用いることも出来る。共重合は他の種類のモノマーでも可能であり、プロピレンに共重合可能な他種のモノマーとしては、たとえば、エチレン、α−オレフィンを挙げることができる。α−オレフィンとしては、炭素数4以上のα−オレフィンが好ましく用いられ、より好ましくは、炭素数4〜10のα−オレフィンである。炭素数4〜10のα−オレフィンの具体例を挙げれば、たとえば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン等の直鎖状モノオレフィン類;3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン等の分岐状モノオレフィン類;ビニルシクロヘキサンなどである。プロピレンとこれに共重合可能な他のモノマーとの共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。共重合体中の当該他のモノマー由来の構成単位の含有率は、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法に従い、赤外線(IR)スペクトル測定を行なうことにより求めることができる。
【0026】
上記のなかでも、ポリプロピレン系樹脂フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂として、プロピレンの単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体、および、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体が好ましく用いられる。
【0027】
また、ポリプロピレン系樹脂フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、実質的にアイソタクチックまたはシンジオタクチックであることが好ましい。実質的にアイソタクチックまたはシンジオタクチックの立体規則性を有するポリプロピレン系樹脂からなるポリプロピレン系樹脂フィルムは、その取扱い性が比較的良好であるとともに、高温環境下における機械的強度に優れている。
【0028】
環状ポリオレフィン系樹脂としては、好ましくはノルボルネン系樹脂が用いられる。環状ポリオレフィン系樹脂は、環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称であり、たとえば、特開平1−240517号公報、特開平3−14882号公報、特開平3−122137号公報等に記載されている樹脂が挙げられる。具体例としては、環状オレフィンの開環(共)重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレン等のα−オレフィンとその共重合体(代表的にはランダム共重合体)、およびこれらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体、ならびにそれらの水素化物などが挙げられる。環状オレフィンの具体例としては、ノルボルネン系モノマーが挙げられる。
【0029】
環状ポリオレフィン系樹脂としては種々の製品が市販されている。具体例としては、Topas(登録商標)(Ticona社製)、アートン(登録商標)(JSR(株)製)、ゼオノア(ZEONOR)(登録商標)(日本ゼオン(株)製)、ゼオネックス(ZEONEX)(登録商標)(日本ゼオン(株)製)、アペル(登録商標)(三井化学(株)製)が挙げられる。
【0030】
セルロースエステル系樹脂は、セルロースと脂肪酸のエステルである。このようセルロースエステル系樹脂の具体例としては、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリプロピオネート、セルロースジプロピオネートなどが挙げられる。これらの中でも、セルローストリアセテートが特に好ましい。セルローストリアセテートは多くの製品が市販されており、入手容易性やコストの点でも有利である。セルローストリアセテートの市販品の例としては、フジタック(登録商標)TD80(富士フィルム(株)製)、フジタック(登録商標)TD80UF(富士フィルム(株)製)、フジタック(登録商標)TD80UZ(富士フィルム(株)製)、フジタック(登録商標)TD40UZ(富士フィルム(株)製)、KC8UX2M(コニカミノルタオプト(株)製)、KC4UY(コニカミノルタオプト(株)製)などが挙げられる。
【0031】
ポリエステル系樹脂は、エステル結合を有するポリマーであり、主に、多価カルボン酸と多価アルコールの重縮合体である。用いられる多価カルボン酸は、主に2価のジカルボン酸が用いられ、たとえば、イソフタル酸、テレフタル酸、ジメチルテレフタレート、ナフタレンジカルボン酸ジメチルなどがある。また、用いられる多価アルコールも主に2価のジオールが用いられ、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。
【0032】
ポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリシクロへキサンジメチルテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルナフタレート、などが挙げられる。これらのブレンド樹脂や、共重合体も好適に用いることが出来る。
【0033】
ポリカーボネート系樹脂は、カルボナート基を介してモノマー単位が結合されたポリマーからなるエンジニアリングプラスチックであり、高い耐衝撃性、耐熱性、難燃性を有する樹脂である。また、高い透明性を有することから光学用途でも好適に用いられる。光学用途では光弾性係数を下げるためにポリマー骨格を修飾したような変性ポリカーボネートと呼ばれる樹脂や、波長依存性を改良した共重合ポリカーボネートなども市販されており、好適に用いることが出来る。
【0034】
このようなポリカーボネート樹脂は広く市販されており、たとえば、パンライト(登録商標)(帝人化成(株))、ユーピロン(登録商標)(三菱エンジニアリングプラスチック(株))、SDポリカ(登録商標)(住友ダウ(株))、カリバー(登録商標)(ダウケミカル(株))などが挙げられる。
【0035】
(メタ)アクリル系樹脂としては、任意の適切な(メタ)アクリル系樹脂を採用し得る。たとえば、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂など)、脂環族炭化水素基を有する重合体(たとえば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体など)が挙げられる。
好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1−6アルキルが挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂として、より好ましくは、メタクリル酸メチルを主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%)とするメタクリル酸メチル系樹脂が用いられる。
【0036】
第1樹脂層および第2樹脂層には、上記の熱可塑性樹脂の他に、任意の適切な添加剤が添加されていてもよい。このような添加剤としては、たとえば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、および着色剤などが挙げられる。基材フィルム中の上記にて例示した熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは50〜99重量%、さらに好ましくは60〜98重量%、特に好ましくは70〜97重量%である。第1樹脂層および第2樹脂層中の熱可塑性樹脂の含有量が50重量%未満の場合、熱可塑性樹脂が本来有する高透明性等が十分に発現されないおそれがあるからである。
【0037】
第2樹脂層は、相転移温度が90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。また、第2樹脂層の相転移温度が高すぎると、それ以上の温度で延伸することが困難になることから、第2樹脂層の相転移温度は170℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましい。
【0038】
第1樹脂層の相転移温度は、第2樹脂層の相転移温度より高くなるようにする。延伸工程における延伸温度では、第2樹脂層12は完全に溶融した状態にあり、そして、かかる延伸温度は、第1樹脂層11の相転移温度の−10℃〜−1℃の範囲であることが好ましい。したがって、第1樹脂層11の相転移温度は、第2樹脂層12の相転移温度より10℃以上高いことが好ましい。
【0039】
第2樹脂層12の厚さは、適宜に決定しうるが、第3樹脂層13のネックインによる力を第1樹脂層11に伝達しやすいという点、取扱性等の作業性の点から1〜500μmが好ましく、1〜300μmがより好ましく、さらには5〜200μmが好ましい。第2樹脂層12の厚さは、5〜150μmが最も好ましい。
【0040】
第1樹脂層11の厚さは、延伸時に適度に変形しやすいように、1〜200μmであることが好ましく、さらには5〜100μmであることがより好ましい。
【0041】
第1樹脂層11と第2樹脂層12とは、たとえば接着剤層または粘着剤層を介して貼合され積層されてもよい。この場合、接着剤層または粘着剤層の厚みは、第1樹脂層11の延伸時の変形を妨げないとの観点から、10μm以下であることが好ましい。第1樹脂層11と第2樹脂層12との間には、延伸時における第1樹脂層11の変形を妨げない限り任意の層が積層されていてもよい。
【0042】
第2樹脂層12の表面には、第3樹脂層13との密着性を向上させるために、第3樹脂層13が形成される側の表面に、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理等を行ってもよい。また密着性を向上させるために、第2樹脂層12の第3樹脂層13が形成される側の表面にプライマー層等の薄層を形成してもよい。第2樹脂層12と第3樹脂層13との間には、延伸時における第1樹脂層11の変形を妨げない限り任意の層が積層されていてもよい。この場合、プライマー層は、任意の層の第3樹脂層13が積層される表面に形成される。
【0043】
(第3樹脂層)
第3樹脂層13は、相転移温度が上述の式(1)の関係を満たす限り、その材料は限定されない。たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、およびこれらの混合物、共重合物などが例示される。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂およびその誘導体が挙げられる。ポリビニルアルコール樹脂の誘導体としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタールなどの他、ポリビニルアルコール樹脂をエチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のアルキルエステル、アクリルアミドなどで変性したものが挙げられる。上述のポリビニルアルコール系樹脂材料の中でも、ポリビニルアルコール樹脂を用いるのが好ましい。
【0044】
ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、100〜10000が好ましく、1000〜10000がより好ましい。特に、1500〜8000がより好ましく、さらには2000〜5000であることが最も好ましい。ここでいう平均重合度もJIS K 6726(1994)によって定められた方法によって求められる数値である。10000超では水への溶解性が悪化し溶液を塗工することによる樹脂層の形成が困難になってしまう。
【0045】
第3樹脂層13の形成に用いられるポリビニルアルコール系樹脂は、ケン化品であることが好ましい。ケン化度の範囲は、80モル%以上のものを用いることができる。
【0046】
ここでいうケン化度とは、ポリビニルアルコール系樹脂の原料であるポリ酢酸ビニル系樹脂に含まれる酢酸基がケン化工程により水酸基に変化した割合をユニット比(モル%)で表したものであり、下記式で定義される数値である。JIS K 6726(1994)で規定されている方法で求めることができる。
【0047】
ケン化度(モル%)=(水酸基の数)÷(水酸基の数+酢酸基の数)×100
ケン化度が高いほど、水酸基の割合が高いことを示しており、すなわち結晶化を阻害する酢酸基の割合が低いことを示している。
【0048】
また、第3樹脂層13の形成に用いられるポリビニルアルコール系樹脂は、一部が変性されている変性ポリビニルアルコールでもよい。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂をエチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のアルキルエステル、アクリルアミドなどで変性したものなどが挙げられる。変性の割合は30モル%未満であることが好ましく、10%未満であることがより好ましい。
【0049】
このような特性を有するポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば(株)クラレ製のPVA124(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、PVA117(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、PVA117H(ケン化度:99.5モル%以上)、例えば日本合成化学工業(株)製のAH−26(ケン化度:97.0〜98.8モル%)、AH−22(ケン化度:97.5〜98.5モル%)、NH−18(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、およびN−300(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、例えば日本酢ビ・ポバール(株)のJC−33(ケン化度:99.0モル%以上)、JP−45(ケン化度:86.5〜89.5モル%)、JF−17(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、JF−17L(ケン化度:98.0〜99.0モル%)およびJF−20(ケン化度:98.0〜99.0モル%)、などが挙げられ、本発明において好適に用いることができる。
【0050】
上述のポリビニルアルコール系樹脂中には、必要に応じて、可塑剤、界面活性剤等の添加剤が添加されていてもよい。可塑剤としては、ポリオールおよびその縮合物などを用いることができ、たとえばグリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが例示される。添加剤の配合量は、特に制限されないがポリビニルアルコール系樹脂中20重量%以下とするのが好適である。
【0051】
第3樹脂層13の厚みは、第3樹脂層13がポリビニルアルコール系樹脂で構成される場合には、3μm超かつ30μm以下が好ましく、さらには5〜20μmが好ましい。3μm以下であると延伸により薄くなりすぎて第1樹脂層11の変形に十分な力を生じさせない場合がある。30μmを超えると、ポリビニルアルコール系樹脂の塗布時および延伸後のカールが著しくなる不具合がある。
【0052】
第3樹脂層13は、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂の粉末を良溶媒に溶解させて得たポリビニルアルコール系樹脂溶液を第2樹脂層12または第2樹脂層12上に形成されている任意の層の表面上に塗工し、溶剤を蒸発させることにより形成することができる。ポリビニルアルコール系樹脂溶液を塗工する方法としては、ワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法などを公知の方法から適宜選択して採用できる。乾燥温度は、たとえば50〜200℃であり、好ましくは60〜150℃である。乾燥時間は、たとえば2〜20分である。
【0053】
なお、第3樹脂層13は、たとえばポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムを第2樹脂層12の一方の表面上に貼合することにより形成することも可能である。この場合には、後述する粘着剤層または接着剤層を用いて貼合することができる。
【0054】
[プライマー層]
第3樹脂層13を形成する面に形成されるプライマー層としては、接触する二つの層にある程度強い密着力を発揮する材料であれば特に限定されない。たとえば、透明性、熱安定性、延伸性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。具体的にはアクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0055】
プライマー層を構成する樹脂は、溶媒に溶解した状態で用いてもよい。樹脂の溶解性により、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸イソブチルなどのエステル類、塩化メチレン、トリクロロエチレン、クロロホルムのような塩素化炭化水素類、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどのアルコール類など、一般的な有機溶媒を用いることもできる。ただ、有機溶媒を含む溶液を用いてプライマー層を形成すると塗工面を溶解させてしまうこともあるので、塗工面の溶解性も考慮して溶媒を選択するのが好ましい。環境への影響を考慮すると水を溶媒とする塗工液を用いてプライマー層を形成するのが好ましい。中でも、密着性がよいポリビニルアルコール系樹脂は好ましく用いられる。
【0056】
プライマー層として使用されるポリビニルアルコール系樹脂としては、たとえば、ポリビニルアルコール樹脂およびその誘導体が挙げられる。ポリビニルアルコール樹脂の誘導体としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタールなどの他、ポリビニルアルコール樹脂をエチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のアルキルエステル、アクリルアミドなどで変性したものが挙げられる。上述のポリビニルアルコール系樹脂材料の中でも、ポリビニルアルコール樹脂を用いるのが好ましい。
【0057】
プライマー層の強度を上げるために上記の熱可塑性樹脂に架橋剤を添加してもよい。樹脂に添加する架橋剤は、有機系、無機系など公知のものを使用することができる。使用する熱可塑性樹脂に対して、より適切なものを適宜選択すればよい。たとえば、エポキシ系、イソシアネート系、ジアルデヒド系、金属系の架橋剤を選択することができる。エポキシ系の架橋剤としては、一液硬化型のものや二液硬化型のもののいずれも用いることができる。エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジまたはトリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン等のエポキシ類が挙げられる。
【0058】
イソシアネート系の架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパン−トリレンジイソシアネートアダクト、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビス(4−フェニルメタントリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、及びこれらのケトオキシムブロック物またはフェノールブロック物等のイソシアネート類が挙げられる。
【0059】
ジアルデヒド系の架橋剤としては、グリオキザール、マロンジアルデヒド、スクシンジアルデヒド、グルタルジアルデヒド、マレインジアルデヒド、フタルジアルデヒド等が挙げられる。
【0060】
金属系の架橋剤としては、例えば、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物が挙げられ、金属の種類は特に限定されず適宜選択すればよい。金属塩、金属酸化物、金属水酸化物としては、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄、ニッケル、ジルコニウム、チタン、珪素、ホウ素、亜鉛、銅、バナジウム、クロム、スズ等の二価以上の原子価を有する金属の塩及びその酸化物、水酸化物が挙げられる。
【0061】
有機金属化合物とは金属原子に、直接有機基が結合しているか、または、酸素原子や窒素原子などを介して有機基が結合している構造を、分子内に少なくとも1個有する化合物である。有機基とは、少なくとも炭素元素を含む官能基を意味し、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アシル基などであることができる。また、結合とは共有結合だけを意味するものではなく、キレート状化合物などの配位による配位結合であってもよい。
【0062】
上記金属有機化合物の好適な例としては、チタン有機化合物、ジルコニウム有機化合物、アルミニウム有機化合物、および珪素有機化合物が挙げられる。これら金属有機化合物は、一種類のみを用いてもよく、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0063】
上記チタン有機化合物の具体例としては、例えば、テトラノルマルブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート等のチタンオルソエステル類;チタンアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート、ポリチタンアセチルアセトナート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、チタンエチルアセトアセテート等のチタンキレート類;ポリヒドロキシチタンステアレート等のチタンアシレート類等が挙げられる。
【0064】
上記ジルコニウム有機化合物の具体例としては、例えば、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムモノアセチルアセトナート、ジルコニウムビスアセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナートビスエチルアセトアセテート等が挙げられる。
【0065】
上記アルミニウム有機化合物の具体例としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトナート、アルミニウム有機酸キレート等が挙げられる。上記珪素有機化合物の具体例としては、例えば、上述したチタン有機化合物およびジルコニウム有機化合物で例示した配位子を有する化合物が挙げられる。
【0066】
上記の低分子架橋剤の他にも、メチロール化メラミン樹脂、やポリアミドエポキシ樹脂などの高分子系の架橋剤なども用いることができる。かかるポリアミドエポキシ樹脂の市販品としては、住化ケムテックス(株)から販売されている「スミレーズ(登録商標)レジン650(30)」や「スミレーズ(登録商標)レジン675」(いずれも商品名)などがある。
【0067】
熱可塑性樹脂としてポリビニルアルコール系樹脂を使用する場合は、ポリアミドエポキシ樹脂、メチロール化メラミン、ジアルデヒド、金属キレート架橋剤などが特に好ましい。
【0068】
プライマー層を形成するために用いる熱可塑性樹脂と架橋剤の割合は、樹脂100重量部に対して、架橋剤0.1〜100重量部程度の範囲から、樹脂の種類や架橋剤の種類などに応じて適宜決定すればよく、とりわけ0.1〜50重量部程度の範囲から選択するのが好ましい。また、プライマー層用塗工液は、その固形分濃度が1〜25重量%程度となるようにするのが好ましい。
【0069】
プライマー層の厚みは、0.05〜1μmが好ましい。さらに好ましくは0.1〜0.4μmである。0.05μmより薄くなると第3樹脂層の密着力向上の効果が小さく、1μmより厚くなると、レンズフィルムが厚くなるため好ましくない。
【0070】
プライマー層の形成にあたり、使用する塗工方式は特に制限されるものでなく、ワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法、などを公知の方法から適宜選択して採用できる。
【0071】
(粘着剤層)
第1樹脂層11と第2樹脂層12とを貼合するために、上述の通り粘着剤層を用いることができる。
【0072】
第1樹脂層11と第2樹脂層12との貼合に用いられる粘着剤は、通常、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂などをベースポリマーとし、そこに、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物などの架橋剤を加えた組成物からなる。さらに微粒子を含有して光散乱性を示す粘着剤層とすることもできる。
【0073】
粘着剤により第2樹脂層12を第1樹脂層11に貼合する方法においては、第2樹脂層12の表面に粘着剤層を設けた後、第1樹脂層11に貼合してもよいし、第1樹脂層の表面に粘着剤層を設けた後、ここに第2樹脂層12を貼合してもよい。
【0074】
粘着剤層を形成する方法は特に限定されるものではなく、第1樹脂層11面、もしくは第2樹脂層12面に、上記したベースポリマーをはじめとする各成分を含む溶液を塗布し、乾燥して粘着剤層を形成した後、第1樹脂層11と第2樹脂層12とを貼り合わせてもよいし、セパレータ上に粘着剤層を形成した後、第1樹脂層11と第2樹脂層12の表面に転写して積層してもよい。また、粘着剤層を第1樹脂層11もしくは第2樹脂層12の表面に形成する際には必要に応じて第1樹脂層11もしくは第2樹脂層12の表面、または粘着剤の片方若しくは両方に密着処理、たとえば、コロナ処理等を施してもよい。
【0075】
(接着剤層)
第1樹脂層11と第2樹脂層12とを貼合するために、上述の通り接着剤層を用いることができる。
【0076】
第1樹脂層11と第2樹脂層12との貼合に用いられる接着剤としては、たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液、水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤などを用いた水系接着剤が挙げられる。接着剤として用いるポリビニルアルコール系樹脂には、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルをケン化処理して得られるビニルアルコールホモポリマーのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体をケン化処理して得られるビニルアルコール系共重合体、さらにはそれらの水酸基を部分的に変性した変性ポリビニルアルコール系重合体などがある。水系接着剤には、多価アルデヒド、水溶性エポキシ化合物、メラミン系化合物、ジルコニア化合物、亜鉛化合物などが添加剤として添加されてもよい。このような水系の接着剤を用いた場合、それから得られる接着剤層は、通常1μm以下となり、通常の光学顕微鏡で断面を観察しても、その接着剤層は事実上観察されない。
【0077】
水系接着剤を用いて第1樹脂層11と第2樹脂層12とを貼合する方法は特に限定されるものではなく、たとえば第1樹脂層11および/または第2樹脂層12の表面に接着剤を均一に塗布し、塗布面にもう一方の樹脂層を重ねてロールなどにより貼合し、乾燥する方法などが挙げられる。通常、接着剤は、その調製後、15〜40℃の温度下で塗布され、貼合温度は、通常15〜30℃の範囲である。
【0078】
水系接着剤を使用する場合は、第1樹脂層11と第2樹脂層12とを貼合した後、水系接着剤中に含まれる水を除去するため、積層体を乾燥させる。乾燥炉の温度は、30℃〜90℃が好ましい。30℃未満であると第1樹脂層11と第2樹脂層12とが剥離しやすくなる傾向がある。乾燥時間は10〜1000秒とすることができる。
【0079】
乾燥後はさらに、室温またはそれよりやや高い温度、たとえば、20〜45℃程度の温度で12〜600時間程度養生しても良い。養生のときの温度は、乾燥時に採用した温度よりも低く設定されるのが一般的である。
【0080】
また第1樹脂層11と第2樹脂層12を貼合する際の接着剤として、光硬化性接着剤を用いることもできる。光硬化性接着剤としては、たとえば、光硬化性エポキシ樹脂と光カチオン重合開始剤との混合物などを挙げることができる。
【0081】
第1樹脂層11と第2樹脂層12を光硬化性接着剤にて貼合する方法としては、従来公知の方法を用いることができ、たとえば、流延法、マイヤーバーコート法、グラビアコート法、カンマコーター法、ドクタープレート法、ダイコート法、ディップコート法、リップコート法、噴霧法などにより、第1樹脂層11および/または第2樹脂層12の接着面に接着剤を塗布し、両者を重ね合わせる方法が挙げられる。流延法とは、被塗布物である第1樹脂層11または第2樹脂層12を、概ね垂直方向、概ね水平方向、または両者の間の斜め方向に移動させながら、その表面に接着剤を流下して拡布させる方法である。
【0082】
第1樹脂層11または第2樹脂層12の表面に接着剤を塗布した後、第1樹脂層11および第2樹脂層12を接着剤塗布面を介してニップロールなどで挟んで貼り合わせることにより接着される。また、第1樹脂層11と第2樹脂層12とを重ね合わせた状態で第1樹脂層11と第2樹脂層12との間に接着剤を滴下した後、この積層フィルムをロール等で加圧して均一に押し広げる方法も好適に使用することができる。この場合、ロールの材質としては金属やゴム等を用いることが可能である。さらに、第1樹脂層11と第2樹脂層12の間に接着剤を滴下した後、この積層フィルムをロールとロールとの間に通し、加圧して押し広げる方法も好ましく採用される。この場合、これらロールは同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。上記ニップロール等を用いて貼り合わされた後の接着剤層の、乾燥または硬化前の厚さは、5μm以下かつ0.01μm以上であることが好ましい。
【0083】
第1樹脂層11および/または第2樹脂層12の接着表面には、接着性を向上させるために、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理などの表面処理を適宜施してもよい。ケン化処理としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリの水溶液に浸漬する方法が挙げられる。
【0084】
接着剤として光硬化性樹脂を用いた場合は、第1樹脂層11と第2樹脂層12とを接合後、活性エネルギー線を照射することによって光硬化性接着剤を硬化させる。活性エネルギー線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する活性エネルギー線が好ましく、具体的には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどが好ましく用いられる。
【0085】
光硬化性接着剤への光照射強度は、光硬化性接着剤の組成によって適宜決定され、特に限定されないが、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜6000mW/cmであることが好ましい。照射強度が0.1mW/cm以上である場合、反応時間が長くなりすぎず、6000mW/cm以下である場合、光源から輻射される熱および光硬化性接着剤の硬化時の発熱によるエポキシ樹脂の黄変や偏光フィルムの劣化を生じるおそれが少ない。光硬化性接着剤への光照射時間は、硬化させる光硬化性接着剤に応じて適用されるものであって特に限定されないが、上記の照射強度と照射時間との積として表される積算光量が10〜10000mJ/cmとなるように設定されることが好ましい。光硬化性接着剤への積算光量が10mJ/cm以上である場合、重合開始剤由来の活性種を十分量発生させて硬化反応をより確実に進行させることができ、10000mJ/cm以下である場合、照射時間が長くなりすぎず、良好な生産性を維持できる。なお、活性エネルギー線照射後の接着剤層の厚みは、通常0.001〜5μm程度であり、好ましくは0.01μm以上でかつ2μm以下、さらに好ましくは0.01μm以上でかつ1μm以下である。
【0086】
[延伸工程]
多層フィルムの延伸工程では、多層フィルム10を自由端一軸延伸する。元長に対して、好ましくは、3倍超かつ10倍以下の延伸倍率となるように一軸延伸する。さらに好ましくは4倍超かつ8倍以下の延伸倍率となるように一軸延伸する。延伸倍率が3倍以下だと、十分なネックインが生じずに規則的な凹凸形状を得るのが難しい場合がある。一方、延伸倍率が10倍を超えると多層フィルムの破断が生じ易くなると同時に、延伸フィルムの厚みが必要以上に薄くなり、後工程での加工性・ハンドリング性が低下するおそれがある。延伸工程における延伸処理は、一段での延伸に限定されることはなく多段で行なうこともできる。多段で行なう場合は、延伸処理の全段を合わせた延伸倍率ば上述の範囲にあることが好ましい。
【0087】
本発明において、延伸工程における延伸温度は、第2樹脂層12の層転移温度よりも高い温度とする。第2樹脂層12の相転移温度よりも高い温度で延伸を行なうことで、第2樹脂層12を溶融状態とすることができる。また、延伸温度は第1樹脂層11の相転移温度に近い方が好ましいが、第1樹脂層11が溶融状態とならない程度が好ましく、第1樹脂層11の相転移温度から−10℃〜−1℃の範囲であることが好ましい。ここでいう延伸温度とは、熱風を吹き付けることでフィルムを加熱するタイプの延伸機では加熱炉内の雰囲気温度ことを意味し、熱ロールなどのように接触型のタイプの延伸機では熱ロールなどの表面の温度のことを意味する。また、フィルムの加熱には、複数の異なる加熱方法を組み合わせてもよく、IRヒーターなどの補助加熱装置を用いることもできる。
【0088】
上述のように、多層フィルムに用いる樹脂により、好ましい延伸温度は異なるが、具体的な延伸温度は80℃〜200℃程度の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、100℃〜180℃の範囲である。
【0089】
延伸工程においては、多層フィルムの長手(縦)方向に対する自由端一軸延伸が好ましい。縦延伸方式としては、ロール間延伸方法、テンターを用いた延伸方法などが挙げられる。延伸処理は、縦延伸処理に限定されることはなく、斜め延伸処理等であってもよい。
【0090】
また、延伸処理は、湿潤式延伸方法と乾式延伸方法のいずれも採用できるが、乾式延伸方法を用いる方が、多層フィルム10を延伸する際の温度を広い範囲から選択することができる点で好ましい。
【0091】
以上の延伸工程を経て、レンズフィルムが製造される。本発明の方法によると、延伸工程を行なうだけで凹凸形状を形成することができるので簡便にレンズフィルムを製造することができる。さらに、延伸しながら凹凸形状を形成していくため、フィルムがたるまずに均一な構造を得ることができる。本発明の方法は、延伸工程以外にも他の工程をさらに有してもよい。以下、他の工程の一例を説明する。
【0092】
[その他の工程]
延伸工程を経て形成されたレンズフィルム20において、さらに第3樹脂層13を剥離する工程を行なってもよい。第3樹脂層13の剥離方法は特に限定されない。第3樹脂層13は、複屈折を生じさせる場合があるので、これを剥がすことによりレンズフィルム20の光学機能フィルムとしての用途を広げることができる。
【0093】
[用途]
本発明の製造方法により製造されたレンズフィルムは、液晶表示装置の構成要素として好適に用いられる。たとえば、集光性シートとして、液晶セルとバックライトとの間に配置される。配置の方法として、バックライト上にそのまま設置して用いてもよいし、偏光板の片面に接着して用いたり、液晶パネルのバックライト側に配置される偏光板の保護フィルムを兼ねた形で用いることができる。または、透過光を広げる偏向シートとして、液晶セルの表示面側に配置して用いることができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0095】
[実施例1]
(多層フィルムの作製)
第1樹脂層の形成にホモポリプロピレン(商品名:FLX80E4、融点:163℃、住友化学(株)製)、第2樹脂層の形成にランダムポリプロピレン(商品名:W151、融点:138℃、住友化学(株)製)、第3樹脂層の形成にポリビニルアルコール樹脂(商品名:PVA124、融点:220〜230℃、クラレ(株)製)を用いた。
【0096】
まず、多層の溶融押出法にてFLX80E4/W151/FLX80E4の3層からなるフィルムを製膜した。このフィルムの一方のFLX80E4の上に、以下の組成からなるプライマー溶液をマイクログラビアを用いて塗布して乾燥させ、プライマー層を形成した。乾燥後のプライマー層の厚みは0.2μmであった。このようにして、FLX80E4(第1樹脂層)/W151(第2樹脂層)/FLX80E4/プライマー層の4層からなるフィルムを作製した。
【0097】
さらに、上記プライマー層の表面上に、以下の組成からなる樹脂溶液をリップコーターを用いて塗布して乾燥させ、第3樹脂層を形成した。
【0098】
<プライマー溶液>
水:100重量部、Z200(商品名、変性ポリビニルアルコール、日本合成工業(株)製):3重量部、スミレ−ズ(登録商標)レジン650(30)(商品名、住化ケミテックス(株)販売):2.5重量部。
【0099】
<樹脂溶液>
水:100重量部、PVA124:8.7重量部。
【0100】
以上の工程を経て、以下の組成および厚みの多層フィルムを作製した。FLX80E4(第1樹脂層、15μm)/W151(第2樹脂層、60μm)/FLX80E4(15μm)/Z200(プライマー層、0.2μm)/PVA124(第3樹脂層、10μm)。
【0101】
(延伸工程)
上記多層フィルムに、160℃で5.8倍に自由端一軸延伸を行なった。得られたフィルムは第1樹脂層の表面が100μmのピッチで波打った形状となっており、レンズアレイ層を形成していた。このようにして、レンズフィルムが得られた。
【0102】
(評価)
得られたレンズフィルムの凹凸の方向と蛍光灯の管とを平行にかざすと、蛍光灯の光が幅方向に広く広がり、レンズフィルムの効果が確認できた。逆に、レンズフィルムの凹凸の方向と蛍光灯の管とを垂直にかざすと、蛍光灯の光は幅方向にはほとんど広がらず、これより前記レンズフィルムには、凹凸方向と垂直な方向に光を広げる効果があることが分かった。
【0103】
[比較例1]
実施例1と同じ多層フィルムを作製し、これを120℃で自由端一軸延伸を実施した。しかしながら、第1樹脂層の表面に規則的な凹凸形状を得ることはできず、レンズフィルムが形成されなかった。
【符号の説明】
【0104】
10 多層フィルム、11 第1樹脂層、12 第2樹脂層、13 第3樹脂層、20 レンズフィルム、21 レンズアレイ層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な凹凸形状を有するレンズアレイ層が表面に積層されたレンズフィルムの製造方法であって、
第1樹脂層と、前記第1樹脂層より低い相転移温度の第2樹脂層と、前記第1樹脂層より高い相転移温度の第3樹脂層とがこの順で積層された多層フィルムを、前記第2樹脂層の相転移温度より高い延伸温度で自由端一軸延伸することにより、前記第1樹脂層の表面に微細な凹凸形状を有するレンズアレイ層を形成する、レンズフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第1樹脂層と前記第2樹脂層との相転移温度の差が10℃以上である、請求項1に記載のレンズフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記延伸温度は、前記第1樹脂層の相転移温度より低い温度である、請求項1または2に記載のレンズフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記延伸温度は、前記第1樹脂層の相転移温度から−10℃〜−1℃の範囲の温度である、請求項3に記載のレンズフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記第3樹脂層は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる、請求項1〜4のいずれかに記載のレンズフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記第1樹脂層および前記第2樹脂層は、ポリオレフィン系樹脂からなる、請求項1〜5のいずれかに記載のレンズフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−145752(P2012−145752A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3876(P2011−3876)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】