説明

レンズ駆動装置、光ピックアップ装置、およびレンズ駆動装置の取り付け方法

【課題】リードスクリューとリードナットとを用いたレンズ駆動装置では、レンズの移動誤差を抑えるため、リードナットの回転止め、与圧スプリングその他の構成を必要とするため、小型化が困難であった。
【解決手段】レンズ駆動装置200は、ガイドシャフト201,202と、リードスクリュー204を有する駆動源とを備える。ガイドシャフト202には、ベアリング212が摺動可能に取り付けられ、このベアリング212に当接するようにレンズホルダ203が固定されている。レンズホルダ203には、レンズ205と、ガイドシャフト201に摺動可能に係合する溝部203gと、ガイドシャフト202と略平行な中心軸を有するコイルスプリング206とが取り付けられている。コイルスプリング206は、リードスクリュー204の側に突出する線状部分208を有し、線状部分208はリードスクリュー204の谷部204bに押圧されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク等の光学式媒体に対して情報の記録または再生を行うための光ピックアップ装置、およびこの光ピックアップ装置に用いられるレンズ駆動装置に関する。本発明は、また、レンズ駆動装置の光ピックアップ装置への取り付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、光ディスク等の光学式媒体には、データ記録面を保護するため、データ記録面を覆う透明な透過層が設けられている。この透過層の厚みの差によって生じる球面収差を補正するため、従来の光ピックアップ装置では、レンズ駆動装置によりカップリングレンズあるいはビームエキスパンダレンズを光軸方向に移動させることにより、対物レンズに入射する光束の収束発散角を補正している。
【0003】
レンズ駆動装置は、レンズを保持するレンズホルダを有しており、このレンズホルダは、光ピックアップ装置のベース部に配設された2本のガイドシャフトに沿って移動可能に支持されている。光ピックアップ装置のベース部には、リードスクリューが取り付けられたステッピングモータが配設されており、そのリードスクリューにはリードナットが螺合している。ステッピングモータによりリードスクリューが回転すると、リードナットが直進移動し、これに伴ってレンズホルダがガイドシャフトに沿って移動する(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−65093号公報(図1,3参照)
【特許文献2】特開2007−257805号公報(図1,2,4参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように構成されたレンズ駆動装置では、リードスクリューの回転に応じた距離だけレンズホルダを正確に移動させるために、リードナットとレンズホルダとを常に密着させておくこと、また、リードナットがリードスクリューの回転につられて回転しないようにすることが必要である。
【0006】
そこで、例えば特許文献1に開示された光ピックアップ装置では、リードナットとレンズホルダとをガイドシャフトの軸方向に直交する面で互いに接触させ、移動方向の駆動力のみを伝達するよう構成している。
【0007】
また、リードナットがリードスクリューの回転につられて回転しないようにするため、リードナットに突起部を設け、この突起部をリードナットの回転方向においてレンズホルダの所定箇所に当接させている。
【0008】
また、レンズホルダが移動範囲のどの位置にあってもレンズホルダとリードナットとを密着させておくため、上記2本のガイドシャフトのうちの1本に与圧スプリングを取り付け、レンズホルダをリードナット側に付勢している。
【0009】
また、特許文献2には、リードナットからレンズホルダへの振動伝達を抑制するため、リードナットとレンズホルダとの接触部に緩衝材等を設けることが開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1,2に開示された従来のレンズ駆動装置では、上述したように、リードナットの回転止めの構成と、リードナットからレンズホルダに軸方向の駆動力のみを伝達させる構成と、リードナットとレンズホルダとを密着させるための与圧スプリングとを必要とするため、レンズ駆動装置の小型化が難しい。
【0011】
この発明は、上述のような課題を解消するためになされたもので、レンズを含む可動部を高い精度で移動させることができ、小型化が可能なレンズ駆動装置および光ピックアップ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るレンズ駆動装置は、互いに平行に配設された第1および第2のガイドシャフトと、第1および第2のガイドシャフトに沿って移動可能な可動部と、可動部を第1および第2のガイドシャフトに沿って移動させるリードスクリューを有する駆動源とを備える。可動部は、第1のガイドシャフトに軸方向に摺動可能に取り付けられたベアリング部と、ベアリング部に当接するように固定され、あるいはベアリング部と一体に構成されたレンズホルダと、レンズホルダに設けられ、ガイドシャフトの軸方向と略平行な光軸を有するレンズと、レンズホルダに設けられ、第2のガイドシャフトに摺動可能に係合する摺動部と、レンズホルダにおいてベアリング部の近傍に設けられ、第1のガイドシャフトの軸方向と略平行な方向に中心軸が規定されるコイルスプリングとを備える。コイルスプリングは、リードスクリューの側に突出する線状部分を有し、当該線状部分がリードスクリューの谷部に押圧されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リードスクリューを有する駆動源と、線状部分がリードスクリューの谷部に押圧されたコイルスプリングとを用いることにより、リードナットを用いずに、レンズを含む可動部を高い精度で移動させることができる。そのため、従来のレンズ駆動装置に設けられていたリードナットの回転止め、与圧用スプリングその他の構成が不要になり、レンズ駆動装置を小型化することができる。
【0014】
また、コイルスプリングの巻き線の間、およびコイルスプリングとレンズホルダとの間に粘弾性部材を設けることにより、可動部への振動伝達を抑制することができる。これにより、レンズ移動による例えば球面収差の補正を高精度かつ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1における光ピックアップ装置を示す上面図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるレンズ駆動装置を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるレンズ駆動装置の可動部を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるレンズ駆動装置の光ピックアップ装置への取り付け方法を説明するための斜視図である。
【図5】比較例のレンズ駆動装置の作用を説明するための上面図(A)および側面図(B)である。
【図6】本発明の実施の形態1におけるレンズ駆動装置の作用を説明するための上面図(A)および側面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
以下、図面を参照して本発明の実施の形態1におけるレンズ駆動装置および光ピックアップ装置について説明する。実施の形態1におけるレンズ駆動装置は、光ピックアップ装置に用いられるものであり、小型化に適し、さらに、構成部品を積み上げ方式で一方向に組み立てることが可能な構成を有している。
【0017】
<レンズ駆動装置および光ピックアップ装置の構造>
図1は、本発明の実施の形態1におけるレンズ駆動装置200を搭載した光ピックアップ装置101を示す上面図である。なお、図1では、実施の形態1におけるレンズ駆動装置200の構成要素、光ピックアップ装置の主要な光学部品、および光ピックアップ装置101の全体構成を分かり易く示すため、他の構成要素(例えば対物レンズアクチュエーター等)を省略している。
【0018】
図1に示す光ピックアップ装置101は、光学式媒体としてのBD(Blu−Ray Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)およびCD(Compact Disc)に対して情報の記録または再生を行う光ディスク装置に用いられる。
【0019】
そのため、光ピックアップ装置101は、BD用光学系として、BD用LD(Laser Diode)ユニット103、BD用カップリングレンズ205、BD用立ち上げミラー107、およびBD用有限系対物レンズ105を備えている。また、DVD/CD用光学系として、DVD/CD用LDユニット104、DVD/CD用カップリングレンズ109、DVD/CD用立ち上げミラー108、およびDVD/CD用有限系対物レンズ106を備えている。この実施の形態1のレンズ駆動装置200は、BD用カップリングレンズ205をその光軸方向に移動させるものである。
【0020】
光ピックアップ装置101は、基体としての光ピックアップベース102(ベース部材)を備えており、上述したBD用光学系およびDVD/CD用光学系は、光ピックアップベース102に搭載されている。
【0021】
ここでは、説明の便宜上、図1において各構成要素が配列された光ピックアップベース102の面を、XY面とする。XY面において、BD用カップリングレンズ205の光軸方向をY方向とし、BD用カップリングレンズ205からBD用LDユニット103に向かう方向を+Y方向とする。また、XY面において、Y方向に直交する方向をX方向とし、+Y方向を向いて右手方向を+X方向とする。また、対物レンズ105(106)の光軸方向を、XY面に直交するZ方向とし、光ピックアップベース102から対物レンズ105(106)に向かう方向を+Z方向とする。
【0022】
図2は、BD用光学系のBD用カップリングレンズ205を駆動するためのレンズ駆動装置200を示す斜視図である。図3は、レンズ駆動装置200の可動部分を示す斜視図である。
【0023】
図2に示すように、BD用レンズ駆動装置200は、Y方向に延在する互いに平行なガイドシャフト201,202を備えている。これらガイドシャフト201,202は、光ピックアップベース102に、それぞれシャフト取付部215,216およびシャフト取付部217,218を介して固定されている。ガイドシャフト201,202のうち、外径の太いガイドシャフト201は主ガイドシャフト(第1のガイドシャフト)である。一方、外径の細いガイドシャフト202は、副ガイドシャフト(第2のガイドシャフト)である。
【0024】
主ガイドシャフトであるガイドシャフト201の外周面には、円筒状のベアリング212が摺動可能に取り付けられている。ベアリング212は、その内面を滑り面とする円筒状部材であり、ガイドシャフト201の外周面に対して摺動可能に、なお且つ隙間なく取り付けられている。
【0025】
図3に示すように、ガイドシャフト201,202には、BD用カップリングレンズ205を保持するレンズホルダ203が支持されている。レンズホルダ203は、BD用カップリングレンズ205が取り付けられたレンズ枠部203aを有している。レンズ枠部203aのガイドシャフト202側(−X側)の端部には、ガイドシャフト202に摺動可能に係合する溝部203g(摺動部)が形成されている。
【0026】
レンズ枠部203aのガイドシャフト201側(+X側)に隣接して、被案内部203bが形成されている。被案内部203は、ガイドシャフト201に取り付けられたベアリング212の外周面(円筒面)に+Z側から当接する当接面203c(図4)と、ベアリング212に−X側から当接する当接面203d(図4)とを有している。なお、当接面203cの高さ(Z方向位置)は、例えば、レンズ枠部203aに保持されたカップリングレンズ205の光軸の高さとほぼ同じである。
【0027】
被案内部203bには、この被案内部203bに対してベアリング212を一体に固定するためのベアリング固定部材213が、止めねじ214により固定されている。ベアリング固定部材213は、例えば金属製の板状部材を、被案内部203bの+Z側の面と+X側の面に沿うように略L字状に屈曲し、さらに、下端部213aをベアリング212の円筒面に当接するように屈曲したものである。ベアリング212は、ベアリング固定部材213および止めねじ214により、レンズホルダ203の当接面203c,203dに円筒面が隙間なく当接した状態で固定されるため、レンズホルダ203に対するベアリング212の取り付け精度が確保される。
【0028】
レンズホルダ203の被案内部203bには、+Y方向に突出する略円柱状の突起部203eが形成されている。突起部203eの外周面(円筒面)には、コイルスプリング206が巻き回されている。なお、突起部203eは、上述した当接面203c(図4)の近傍でなお且つ上方(+Z側)に位置している。また、突起部206に巻き回されるコイルスプリング206は、ここでは、レンズホルダ203の当接面203c,203dに当接するベアリング212に対してほぼ直上に位置している。突起部203eの先端には、D字状の断面を有する係合部203fが形成されており、コイルスプリング206の屈曲された一端部206aが係合している。
【0029】
コイルスプリング206としては、例えば、巻き径(外径)が3mm、線径が0.10mm〜0.15mmのものを用いる。また、コイルスプリング206の他端部(突起部203eの根元側の端部)は、XZ面と略平行な面内において直線状に延在するワイヤ部208(線状部分)を構成している。このワイヤ部208の長さは、例えば5mmである。
【0030】
コイルスプリング206の巻き線の隙間およびコイルスプリング206と突起部203eとの間には、粘弾性部材207が充填されている。
【0031】
これらレンズホルダ203、ベアリング212、ベアリング固定部材213、コイルスプリング206および粘弾性部材207は、一体となって可動部を構成している。また、ガイドシャフト201にベアリング212が摺動可能に装着され、ガイドシャフト202にレンズホルダ203の溝部203gが摺動可能に係合することにより、可動部がガイドシャフト201,202の軸方向に移動可能に支持されている。
【0032】
図2に示すように、光ピックアップベース102には、レンズ駆動装置200の駆動源としてのステッピングモータ209が、モータ取付部材210を介して取り付けねじ211により固定されている。ステッピングモータ209の出力軸には、Y方向を軸方向とするリードスクリュー204が固定されている。リードスクリュー204としては、例えば、ピッチが0.15〜0.20mm、リードが3〜4mmのものを用いる。コイルスプリング206の上記のワイヤ部208は、リードスクリュー204の谷部204b(隣接するねじ山204aの間)に押圧されている。
【0033】
ステッピングモータ209が回転すると、その出力軸に取り付けられたリードスクリュー204が回転し、リードスクリュー204の谷部204bに押圧されたワイヤ部208がY方向に駆動力を受け、これにより、レンズホルダ203、ベアリング212、ベアリング固定部材213、コイルスプリング206および粘弾性部材207を含む可動部が、ガイドシャフト201,202に沿ってY方向に移動する。
【0034】
<レンズ駆動装置の組立て方法>
図4は、レンズ駆動装置200の組み立て方法(すなわち、レンズ駆動装置200の光ピックアップ装置101への取り付け方法)を説明するための分解斜視図である。
【0035】
まず、光ピックアップベース102に設けたシャフト取付部215,216およびシャフト取付部217,218に、ガイドシャフト201およびガイドシャフト202をそれぞれ取り付ける。シャフト取付部215〜218は、いずれも上方(+Z側)に開口した溝部を有しており、ガイドシャフト201,202は、シャフト取付部215〜218の溝部に上方(+Z側)から挿入される。なお、ガイドシャフト201には、予めベアリング212を取り付けておく。シャフト取付部215〜218は、切削加工または成型により高い精度で作製されており、これによりガイドシャフト201,202の高い平行度が得られる。
【0036】
次に、紫外線硬化型の接着剤を、シャフト取付部215,216,217,218とガイドシャフト201,202に塗布し、紫外線を短時間照射することにより、シャフト取付部215,216,217,218とガイドシャフト201,202とを固定する。
【0037】
さらに、リードスクリュー204を予め取り付けたステッピングモータ209を、モータ取付部材210を介して光ピックアップベース102に取り付けねじ211で固定する。
【0038】
次いで、BD用カップリングレンズ205を予め取り付けたレンズホルダ203を、ガイドシャフト201,202に取り付ける。具体的には、まず、レンズホルダ203の溝部203gを、(シャフト取付部217,218に取り付けられた)ガイドシャフト202に係合させる。このとき、レンズホルダ203のコの字状の溝部203gの奥までガイドシャフト202を係合させるようにする。
【0039】
次に、ガイドシャフト202を中心としてレンズホルダ203を回動させ、レンズホルダ203の被案内部203bを、(ガイドシャフト201に取り付けられた)ベアリング212に押し当てる。これにより、被案内部203bの当接面203c,203dが、ベアリング212の円筒面に当接する。さらに、被案内部203bに、ベアリング固定部材213を取り付けねじ214により固定し、これによりレンズホルダ203とベアリング212とを一体に固定する。
【0040】
このとき、レンズホルダ203からリードスクリュー204の側に突出しているコイルスプリング206の一端のワイヤ208は、リードスクリュー204の谷部204bに押し当てられる。これにより、レンズ駆動装置200の組み立てが完了する。
【0041】
上述したガイドシャフト201,202をシャフト取付部215〜218に取り付ける作業、ステッピングモータ209を光ピックアップベース102に取り付ける作業、および、レンズホルダ203をガイドシャフト201,202に取り付ける作業は、いずれも同じ側、すなわち光ピックアップベース102に対して+Z側から行うことができる。
【0042】
<レンズ駆動装置の作用>
次に、本実施の形態におけるレンズ駆動装置200の作用について、比較例と対比して説明する。
【0043】
図5は、比較例によるレンズ駆動装置の作用を示す上面図(A)および側面図(B)である。図6は、実施の形態1におけるレンズ駆動装置200の作用を示す上面図(A)および側面図(B)である。
【0044】
まず、図5の比較例のレンズ駆動装置について説明する。
この比較例では、図5(A)に示すように、カップリングレンズ305が取り付けられたレンズホルダ303は、互いに平行なガイドシャフト301,302に案内されている。副ガイドシャフト302は、レンズホルダ303に形成された溝部303g(図5(B))に摺動可能に係合している。一方、主ガイドシャフト301は、実施の形態1とは異なり、レンズホルダ303の中央近傍に形成された軸受部303aに挿通されている。
【0045】
図示しないステッピングモータに固定されたリードスクリュー304には、リードナット310が螺合しており、このリードナット310は、レンズホルダ303の凹部303bにY方向に当接している。リードスクリュー304が回転すると、リードナット310がレンズホルダ303をY方向に押圧して、レンズホルダ303をY方向に移動させる。
【0046】
レンズホルダ303とリードナット310とが離れないようにするため、レンズホルダ303のリードナット310と反対の側に、与圧スプリング309が配設されている。この与圧スプリング309により、レンズホルダ303には与圧力Fkxが常に作用している。また、レンズホルダ303のガイドシャフト301を中心とした回転方向のガタを生じないよう、予圧スプリング309の取り付け時には捩りが加えられ、レンズホルダ303に対してトルクTk(図5(B))を常に作用させ、ガイドシャフト302との接触点で予圧力Ftを作用させている。
【0047】
しかしながら、リードスクリュー304とリードナット310との接触部における摩擦により、リードスクリュー304からリードナット310に回転方向の力が伝達されると、この回転方向の力によってリードナット310が回転し、レンズホルダ303の移動精度(すなわちカップリングレンズ305の移動精度)が低下する可能性がある。レンズホルダ303とリードナット310との接触面における摩擦を完全に無くすことは困難であるため、リードスクリュー304の軸方向に直交する面内(特に上記回転方向)の力の発生を抑制することは難しい。
【0048】
また、リードナット310からレンズホルダ303に回転方向の力が伝達されると、レンズホルダ303が振動する可能性があり、カップリングレンズ305による安定した光学補正機能を発揮させることができず、光学補正に時間がかかり、また光学補正精度を低下させる可能性がある。
【0049】
加えて、比較例のレンズ駆動装置300を組み立てる際には、リードナット310を予めリードスクリュー304に螺合させておく必要がある。リードナット310をリードスクリュー304に螺合させる作業(ねじ込み作業)には時間を要するため、組立性が良くない。また、リードナット310には耐久性が必要であるため、構造変更や材料変更の毎に性能保証試験を実施する必要があり、安価な材料への変更や、設計変更を短期間に行うことができない。
【0050】
さらに、レンズホルダ303に軸受部303aが一体に形成されているため、レンズホルダ303の軸受部303aにガイドシャフト301を挿通した後で、ガイドシャフト301を光ピックアップ装置101のシャフト取付部に取り付ける必要がある。そのため、レンズホルダ303を、その軸受部303aにガイドシャフト301が挿通された不安定な状態で取り扱わなければならない。レンズホルダ303には、カップリングレンズ305など光学部品が既に搭載されており、それら光学部品の近傍で、ガイドシャフト301を固定するための接着剤の塗布・硬化などの作業を行うことになるため、光学部品への汚れの付着などが生じる可能性がある。
【0051】
加えて、レンズホルダ303の軸受部303aの摩擦力を小さくするためには、予圧スプリング309の作用点からできるだけ近い位置にリードナット310を配置することが望ましく、従ってリードスクリュー304をガイドシャフト301,302の間に配置することが望ましい。このような配置を実現するためには、レンズホルダ303の全長を長くする必要がある。レンズ駆動装置内には、レンズホルダ303の全長に、レンズホルダ303の移動距離を掛け合わせた大きな空間を確保しなければならないため、レンズホルダ303の全長が長いほど、光ピックアップ装置101の小型化が難しくなる。
【0052】
次に、図6を参照して、実施の形態1のレンズ駆動装置200について説明する。
実施の形態1におけるレンズ駆動装置200では、図5(A)に示すように、レンズホルダ203、カップリングレンズ205、ベアリング212、コイルスプリング206および粘弾性部材207により、可動部が構成されている。また、レンズホルダ203は、ガイドシャフト201,202によりY方向に案内されている。レンズホルダ203の突起部203eにはコイルスプリング206が巻き回されており、コイルスプリング206の巻き線の間隙部、および、コイルスプリング206とレンズホルダ203との間隙部には、粘弾性部材207が充填されている。
【0053】
コイルスプリング206のワイヤ部208は、リードスクリュー204の軸方向(Y方向)に略垂直な面に沿って延在し、リードスクリュー204のねじ部の谷部204b(リード角に応じて傾斜している)にZ方向に押圧されている。また、コイルスプリング206は、ワイヤ部208をリードスクリュー204の谷部204bに押圧する方向に付勢力を生じる向きに巻き回されている。
【0054】
このように構成されているため、リードスクリュー204が回転すると、その谷部204bに当接しているワイヤ208にY方向の駆動力が作用する。これにより、レンズホルダ203がY方向に移動し、このレンズホルダ203に搭載されたカップリングレンズ205がY方向に移動して、所望の光学性能の補正を行う。
【0055】
上述したように、コイルスプリング206のワイヤ部208がリードスクリュー204の谷部204bに常に押圧(与圧)されているため、リードスクリュー204の正逆回転のいずれにおいてもガタが生じず、レンズホルダ203を高い精度でY方向に移動させることができる。そのため、図5に示した比較例では不可欠な予圧スプリング309を設ける必要が無く、構成部品数を低減することができる。また、与圧スプリング309(図5)は、レンズホルダ203の移動範囲の全域に亘って与圧を発生させるだけの長さを有する必要があるが、この実施の形態1では、そのような長いコイルスプリングを設ける必要がなく、従ってそのための配設空間も不要となるため、レンズ駆動装置の小型化が容易になる。
【0056】
ワイヤ部208には、リードスクリュー204の回転動作に伴って、上下方向(Z方向)の振動や摩擦による接触面方向(X方向)の振動が伝達される可能性があるが、コイルスプリング206とレンズホルダ203の突起部203eとの間隙に充填された粘弾性部材207により振動が減衰されるため、レンズホルダ203への振動伝達が十分に抑制される。
【0057】
また、図6(B)に示すように、コイルスプリング206のワイヤ部208がリードスクリュー204の谷部204bに押圧される力の反力として、ワイヤ部208には、リードスクリュー204から予圧力Fsが作用する。この予圧力Fsにより、レンズホルダ203を、ガイドシャフト201を中心としてガイドシャフト202に当接させる方向のトルクTsが生じ、このトルクTsによりレンズホルダ203の溝部203gがガイドシャフト202に当接する(溝部203gには予圧力Ftとして作用する)。そのため、レンズホルダ203の移動時のガタが抑制され、円滑な移動が可能となる。
【0058】
また、ワイヤ部208を有するコイルスプリング206(リードスクリュー204からの駆動力の伝達部)とベアリング212とが、いずれもガイドシャフト201の近傍に配置されているため、ベアリング212とガイドシャフト201との摩擦力を十分に小さくすることができ、コイルスプリング206で発生するガイドシャフト201の軸方向の振動を抑制することができる。
【0059】
また、実施の形態1におけるレンズ駆動装置200では、比較例のようなリードナットを設ける必要が無いため、レンズホルダ203にリードナットとの当接箇所を設ける必要も無い。その結果、レンズホルダ203の全長を、2本のガイドシャフト201,202の間隔とほぼ等しい最小長さにすることができ、レンズ駆動装置200の小型化が可能となる。
【0060】
また、2本のガイドシャフト201,202の間にカップリングレンズ205を配置することができるため、レンズホルダ203の端部近傍にカップリングレンズ205を配置した場合(図5(B)参照)よりも、カップリングレンズ205の位置精度を高めることができる。
【0061】
また、レンズホルダ203とベアリング212とが別体であるため、レンズホルダ203に各部品(カップリングレンズ205、コイルスプリング206、粘弾性部材207、ベアリング固定部材213)を取り付けたのち、ガイドシャフト201,202(ベアリング212)に上方から組み付けることができる。すなわち、ガイドシャフト201,202をシャフト取付部215,217に上方から取り付け、そのガイドシャフト201,202にレンズホルダ203を上方から取り付けるという、積み上げ式の組み立てが可能となる。
【0062】
また、レンズホルダ203とベアリング212とが別体であるため、それぞれに適した素材を選択することができる。例えば、レンズホルダ203を樹脂成型により製造し、ベアリング212を含油メタルで製造することができる。
【0063】
また、比較例のようなリードナットのねじ込み作業が不要であるため、光学レンズを搭載したレンズホルダ203を最終段階で取り付ける、簡便な組み立てが可能となる。そのため、手作業、自動組立のいずれにおいても、光学レンズの表面、レンズホルダ203の摺動面などにおける汚れの付着や傷の発生を防止することができる。
【0064】
<変形例>
上述した実施の形態1において説明したレンズ駆動装置200および光ピックアップ装置101は、小型化等を目的として、以下のような種々の変形が可能である。
【0065】
例えば、上述した実施の形態1では、DVD/CD用有限系対物レンズ106と、カップリングレンズ109と、BD用有限系対物レンズ105と、カップリングレンズ205とを有する構成により、集光光学系の光軸方向の距離を短く、光束径を小さくし、光ピックアップ装置の小型化に最適な構成を実現していた。
【0066】
これに対し、対物レンズを無限系対物レンズとし、カップリングレンズに換えてコリメータレンズを用いることも可能である。すなわち、BD用対物レンズ105を無限系対物レンズとし、カップリングレンズ205に換えて、入射光束をコリメータ光束とするためのコリメータレンズを用いることができる。また、DVD/CD用対物レンズ106を無限系対物レンズとし、カップリングレンズ109に換えて、入射光束をコリメータ光束とするためのコリメータレンズを用いることができる。
【0067】
また、上述した実施の形態1では、半導体レーザーと光検知器が一体化されたレーザーユニットを使用することで、光ピックアップ装置の小型化に最適な構成を実現していた。
【0068】
これに対し、一体化されたレーザーユニットの代わりに、半導体レーザー、光検知器、プリズム、光学レンズ、ミラーなどを光学筐体に配置したディスクリート型の光学系を用いることも可能である。すなわち、BD用LDユニット103の代わりに、BD用のディスクリート光学系を用い、DVD/CD用LDユニット104の代わりに、DVD/CD用のディスクリート光学系を用いることができる。
【0069】
また、上述した実施の形態1では、ベアリング固定部材213を、取り付けスクリュー214によりレンズホルダ203に固定していたが、ベアリング固定部材213をレンズホルダ203と予め一体に形成してもよい。この場合、レンズホルダ203の当接面203c,203dをベアリング212に当接させた状態で、例えばスナップフィットによりベアリング212と一体化させることができる。ベアリング固定部材213は、レンズホルダ203と同じ材料で形成される。このように構成しても、レンズ駆動装置200の取り付けを積み上げ方式で効率よく行うことができる。
【0070】
また、ベアリング212とレンズホルダ203とを、接着剤を用いて固定しても良い。
【0071】
また、上述した実施の形態1では、円筒状に巻き回されたコイルスプリング206を用いると共に、コイルスプリング206の巻き線間、およびコイルスプリング206と突起部203eとの間に粘弾性部材207を設けることで振動減衰効果を確保していた。
【0072】
これに対し、円筒状に巻き回されたコイルスプリング206の代わりに、円錐状に巻き回されたスプリングを用いることも可能である。この場合も、上記と同様に粘弾性部材207を設けることで、振動減衰効果を得ることができる。
【0073】
また、コイルスプリング206の代わりに、バネ材料からなるシートを、コイルスプリング206と同様の押圧力を発生する形状にプレス加工して用いることも可能であり、同様の振動減衰効果を得ることができる。
【0074】
また、上述した実施の形態1では、レンズホルダ203の溝部203gがガイドシャフト202と摺動可能に係合していたが、溝部203gの代わりに、例えば、予圧力Ft(図6(B))を受けることが可能な当接面を形成してもよい。
【0075】
また、上述した実施の形態1のレンズ駆動装置は、カップリングレンズ等を移動することにより球面収差を補正するものであったが、本発明は、このような構成に限定されるものではなく、レンズを移動することにより何らかの機能を発揮するものであればよい。
【符号の説明】
【0076】
101 光ピックアップ装置、 102 光ピックアップベース、 103 BD用LDユニット、 104 DVD/CD用LDユニット、 105 BD用対物レンズ、 106 DVD/CD用対物レンズ、 107 BD用立ち上げミラー、 108 DVD/CD用立ち上げミラー、 109 DVD/CD用カップリングレンズ、 200 レンズ駆動装置、 201,202 ガイドシャフト、 203 レンズホルダ、 203a レンズ枠部、 203b 被案内部、 203c,203d 当接面、 203e 突起部、 203g 溝部(摺動部)、 204 リードスクリュー、 204a ねじ山、 204b 谷部、 205 BD用カップリングレンズ、 206 コイルスプリング、 207 粘弾性部材、 208 ワイヤ部、 209 ステッピングモータ、 210 モータ取付部材、 211 取り付けねじ、 212 ベアリング、 213 ベアリング固定部材、 214 取り付けねじ、 215,216,217,218 シャフト取付部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行に配設された第1および第2のガイドシャフトと、
前記第1および第2のガイドシャフトに沿って移動可能な可動部と、
前記可動部を前記第1および第2のガイドシャフトに沿って移動させるリードスクリューを有する駆動源と
を備え、
前記可動部は、
前記第1のガイドシャフトに軸方向に摺動可能に取り付けられたベアリング部と、
前記ベアリング部に当接するように固定され、あるいは前記ベアリング部と一体に構成されたレンズホルダと、
前記レンズホルダに設けられ、前記ガイドシャフトの軸方向と略平行な光軸を有するレンズと、
前記レンズホルダに設けられ、前記第2のガイドシャフトに摺動可能に係合する摺動部と、
前記レンズホルダにおいて前記ベアリング部の近傍に設けられ、前記第1のガイドシャフトの軸方向と略平行な方向に中心軸が規定されるコイルスプリングと
を備え、
前記コイルスプリングは、前記リードスクリューの側に突出する線状部分を有し、当該線状部分が前記リードスクリューの谷部に押圧されていること
を特徴とするレンズ駆動装置。
【請求項2】
前記コイルスプリングの巻き線の間、および、コイルスプリングとレンズホルダとの当接部分に、粘弾性部材が充填されていることを特徴とする請求項1に記載のレンズ駆動装置。
【請求項3】
前記レンズホルダの前記摺動部は、前記第2のガイドシャフトの軸方向と平行に設けられた溝部であることを特徴とする請求項1または2に記載のレンズ駆動装置。
【請求項4】
前記レンズホルダと前記ベアリングとが、互いに別体として構成されていることを特徴とする請求項1から3までの何れか1項に記載のレンズ駆動装置。
【請求項5】
前記レンズホルダが、前記第1のガイドシャフトの軸方向に平行な2つの平面において前記ベアリング部に当接し、前記ベアリングに対して固定されていることを特徴とする請求項4に記載のレンズ駆動装置。
【請求項6】
前記コイルスプリングの前記線状部分が、前記リードスクリューの軸方向に対して略垂直な平面に沿って延在していることを特徴とする請求項1から5までの何れか1項に記載のレンズ駆動装置。
【請求項7】
前記レンズホルダは、前記第1および第2のガイドシャフトの間隔に略等しい全長を有し、前記第1および第2のガイドシャフトの間に前記レンズが取り付けられており、
前記リードスクリューは、前記レンズホルダの長手方向における外側に配設されていること
を特徴とする請求項1から6までの何れか1項に記載のレンズ駆動装置。
【請求項8】
前記レンズホルダは、前記第1のガイドシャフトと平行に延在する略円柱状の突起部を有し、前記突起部に前記コイルスプリングが巻き回されていることを特徴とする請求項1から7までの何れか1項に記載のレンズ駆動装置。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか1項に記載のレンズ駆動装置を有することを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項10】
有限系の対物レンズを有し、
前記レンズ駆動装置の前記レンズとして、カップリングレンズを有することを特徴とする請求項9に記載の光ピックアップ装置。
【請求項11】
請求項1から8までの何れか1項に記載のレンズ駆動装置を、光ピックアップ装置に取り付ける方法であって、
前記光ピックアップ装置のベース部材に設けたシャフト取付部に、予め前記ベアリングを装着した前記第1のガイドシャフトと前記第2のガイドシャフトとを取り付ける工程と、
予め前記レンズおよび前記コイルスプリングを取り付けた前記レンズホルダを、前記第1および第2のガイドシャフトに取り付ける工程と
を含むことを特徴とするレンズ駆動装置の取り付け方法。
【請求項12】
前記第1および第2のガイドシャフトを前記シャフト取付部に取り付ける工程と、前記レンズホルダを前記第1および第2のガイドシャフトに取り付ける工程とを、前記ベース部材の同じ側から行うこと
を特徴とする請求項11に記載のレンズ駆動装置の取り付け方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−165272(P2011−165272A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27217(P2010−27217)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】