説明

レーザレーダ装置

【課題】広い画角と長い距離の測距の双方を実現することができるレーザレーダ装置を得ることを目的とする。
【解決手段】変調信号でレーザ光を変調し、変調後のレーザ光を測距対象物に向けて走査するレーザ光送信部1と、視野が異なる複数の受信光学系21a,21bを用いて、測距対象物に対するレーザ光の散乱光を受信し、その散乱光を示す電気信号を出力する散乱光受信部2と、散乱光受信部2から出力された電気信号と変調信号の位相差あるいは時間差を検出するとともに、その記電気信号の振幅を検出する距離強度検出装置32とを設け、画像処理装置33が距離強度検出装置32により検出された位相差あるいは時間差に基づいて測距対象物までの距離を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、測距対象物までの距離を算出するレーザレーダ装置に関するものであり、特に、受信系を走査せずに、受信系の視野内で、送信系を走査する受信スキャンレス型のレーザレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
受信スキャンレス型のレーザレーダ装置では、受信装置の視野によって、レーザレーダ装置が測距する角度範囲(画角)が決まる(例えば、非特許文献1を参照)。
例えば、レーザレーダ装置の受信装置が、一組の受信光学系と受光器から構成されている場合、受信装置における受光器の受光面の長さをw、受信装置の受信光学系のF値をFとすると、受信装置の視野角θと受光量を決める開口径Dの積は、下記の式(1)のように表される。

【0003】
ただし、受信光学系のF値は1付近に下限があるので、受光器の受光面の長さwが決まると、視野角θと開口径Dの積には上限がある。
このため、レーザレーダ装置の画角を広くすると、受信装置の視野角θが広くなり、開口径Dが小さくなるため、測距対象物に対するレーザ光の散乱光の受光量が減少する。これにより、受信SN比が低くなり、レーザ測距可能な距離が短くなる。
一方、散乱光の受光量を増やすためには開口径Dを広くする必要があるが、この場合には、受信装置の視野角θが狭くなるため、レーザレーダ装置の画角が狭くなる。
【0004】
以下の特許文献1には、式(1)の限界を超える受信装置として、レンズとテーパーによる反射を用いたテーパー集光器から構成されている受信装置が開示されている。
この受信装置は、従来の受光器には到達できなかった光を、反射を用いて折り返すことで受光器に到達させて、視野角を大きくしているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−267314号公報(段落番号[0012]、図1)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】今城他、「受信スキャンレス型CW変調方式3DImagingLADARの開発」、第27回レーザセンシングシンポジウム予稿集、pp.18−19,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のレーザレーダ装置は以上のように構成されているので、受信装置が反射を用いるようにすれば、視野角を大きくすることができる。しかし、光の入射角度が大きくなり過ぎると、反射を繰り返して入射方向に戻ってしまうため、視野と開口径の積には、やはり一定の上限があり、広い画角と長い距離の測距の双方を実現することが困難であるなどの課題があった。
【0008】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、広い画角と長い距離の測距の双方を実現することができるレーザレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るレーザレーダ装置は、変調信号でレーザ光を変調し、変調後のレーザ光を測距対象物に向けて走査するレーザ光送信手段と、視野が異なる複数の受信光学系を用いて、測距対象物に対するレーザ光の散乱光を受信し、その散乱光を示す電気信号を出力する散乱光受信手段と、散乱光受信手段から出力された電気信号と変調信号の時間差あるいは位相差を検出するとともに、その電気信号の振幅を検出する距離強度検出手段とを設け、距離強度算出手段が時間差あるいは位相差から測距対象物までの距離を算出するようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、変調信号でレーザ光を変調し、変調後のレーザ光を測距対象物に向けて走査するレーザ光送信手段と、視野が異なる複数の受信光学系を用いて、測距対象物に対するレーザ光の散乱光を受信し、その散乱光を示す電気信号を出力する散乱光受信手段と、散乱光受信手段から出力された電気信号と変調信号の時間差あるいは位相差を検出するとともに、その電気信号の振幅を検出する距離強度検出手段とを設け、距離強度算出手段が時間差あるいは位相差から測距対象物までの距離を算出するように構成したので、広い画角と長い距離の測距の双方を実現することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1によるレーザレーダ装置を示す構成図である。
【図2】受光器22a,22bの受光面を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1によるレーザレーダ装置を示す構成図である。
【図4】この発明の実施の形態2によるレーザレーダ装置を示す構成図である。
【図5】この発明の実施の形態3によるレーザレーダ装置を示す構成図である。
【図6】レーザレーダ装置における受信光学モジュール23の配置例を示す説明図である。
【図7】レーザレーダ装置における受信光学モジュール23の配置例を示す説明図である。
【図8】レーザレーダ装置における受信光学モジュール23の配置例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるレーザレーダ装置を示す構成図である。
図1において、レーザ光送信部1は変調信号でレーザ光を変調し、変調後のレーザ光を測距対象物に向けて走査する処理を実施する。なお、レーザ光送信部1はレーザ光送信手段を構成している。
【0013】
レーザ光送信部1のレーザ装置11はレーザ光を発光させる発光器である。
発振器12は基準となる変調信号を発振させる機能を備えている。変調信号は正弦波でもパルスでも良い。
変調器13は発振器12から発振された変調信号でレーザ装置11から発光されたレーザ光を強度変調し、強度変調後のレーザ光を出力する処理を実施する。
スキャナ14は例えば反射鏡などから構成されており、図示せぬ制御装置の制御の下で走査角が切り替えられて、変調器13から出力された強度変調後のレーザ光を空間中に走査する処理を実施する。
角度モニタ装置15はスキャナ14の走査角を観測し、その走査角を示すスキャナ角度信号を信号処理部3に出力する処理を実施する。
【0014】
散乱光受信部2は視野が異なる複数の受信光学系21a,21bを用いて、測距対象物に対するレーザ光の散乱光を受信し、その散乱光を示す電気信号を出力する処理を実施する。なお、散乱光受信部2は散乱光受信手段を構成している。
散乱光受信部2の受信光学系21aと受信光学系21bは、互いに異なる視野を有しており、測距対象物に対するレーザ光の散乱光を受信する。
受光器22a,22bは受信光学系21a,21bにより受信された散乱光を電気信号に変換し、その電気信号を信号処理部3に出力する処理を実施する。受光器22a,22bは単素子でもよいし、アレイでもよい。
なお、受信光学系21aと受光器22aから一組の受信光学モジュール23aが構成され、受信光学系21bと受光器22bから一組の受信光学モジュール23bが構成されている。
図1の例では、二組の受信光学モジュールが実装されているものを示しているが、三組以上の受信光学モジュールが実装されていてもよい。
【0015】
信号処理部3は散乱光受信部2から出力された電気信号などから測距対象物までの距離を算出し、その距離を用いて測距画像を生成する処理を実施する。
信号処理部3の受信信号選択装置31は複数の受信光学系21a,21bの中で、角度モニタ装置15から出力されたスキャナ角度信号が示す走査角に対応する視野を有する受信光学系を選択し、その受信光学系により受信された散乱光を示す電気信号を距離強度検出装置32に与える処理を実施する。
距離強度検出装置32は受信信号選択装置31から与えられた電気信号の位相あるいは時間と発振器12により発振された変調信号の位相あるいは時間から、その電気信号の位相差あるいは時間差を検出するとともに、その電気信号の振幅を検出し、その位相差あるいは時間差に相当する距離信号と振幅に相当する強度信号を画像処理装置33に与える処理を実施する。変調信号が正弦波の場合、電気信号と変調信号の位相差を検出する。変調信号がパルスの場合、電気信号と変調信号の時間差を検出する。
なお、受信信号選択装置31及び距離強度検出装置32から距離強度検出手段が構成されている。
【0016】
画像処理装置33は距離強度検出装置から与えられた距離信号である位相差あるいは時間差から測距対象物までの距離を算出し、強度画像と測距画像を生成する処理を実施する。
【0017】
次に動作について説明する。
レーザ光送信部1は、変調信号でレーザ光を変調し、変調後のレーザ光を測距対象物に向けて走査する。
即ち、レーザ光送信部1の変調器13は、発振器12から発振された変調信号でレーザ装置11から発光されたレーザ光を強度変調し、強度変調後のレーザ光をスキャナ14に出力する。
【0018】
レーザ光送信部1のスキャナ14は、図示せぬ制御装置の制御の下で、散乱光受信部2の視野内で走査角が切り替えられ、変調器13から出力された強度変調後のレーザ光を空間中に走査する。
これにより、空間中の測距対象物に向けてレーザ光が送信され、その測距対象物に対するレーザ光の散乱光がレーザレーダ装置に戻ってくる。
なお、角度モニタ装置15は、スキャナ14の走査角を観測しており、その走査角を示すスキャナ角度信号を信号処理部3に出力する。
【0019】
散乱光受信部2は、視野が異なる複数の受信光学系21a,21bを用いて、測距対象物に対するレーザ光の散乱光を受信し、その散乱光を示す電気信号を信号処理部3に出力する。
即ち、散乱光受信部2の受光器22a,22bは、視野が異なる受信光学系21a,21bが測距対象物に対するレーザ光の散乱光を受信すると、その散乱光を電気信号に変換し、その電気信号を信号処理部3に出力する。
【0020】
一般的に、受信光学系と受光器から構成される受信光学モジュール23a,23bの視野角θm1と開口径Dm1の積は、下記の式(2)のように表される。

このため、例えば、受光器22の受光面の長さwが2mm、開口径Dm1が10mm、受信光学系21のF値が1である場合、1つの受信光学モジュール23の視野角θm1は0.1radとなる。
【0021】
図1のレーザレーダ装置では、二組の受信光学モジュール23a,23bを備えているが、一組の受信光学モジュール23を備えるだけの場合と比べて、N組の受信光学モジュール23を備えることで、散乱光受信部2の全体の視野角θt1を受信光学モジュール23の台数Nに比例して拡大することができ、広範囲の受信視野を得ることができる。その結果、レーザレーダ装置として広い画角を得ることができる。
θt1=Nθm1 (3)
なお、図1のレーザレーダ装置では、二組の受信光学モジュール23a,23bを備えているので、散乱光受信部2の全体の視野角θt1は0.2radとなり、一組の受信光学モジュール23を備えるだけの場合の2倍になる。
【0022】
信号処理部3の受信信号選択装置31は、散乱光受信部2から電気信号を受けると、複数の受信光学系21a,21bの中で、角度モニタ装置15から出力されたスキャナ角度信号が示す走査角に対応する視野を有する受信光学系を選択し、その受信光学系により受信された散乱光を示す電気信号を入力して、その電気信号を距離強度検出装置32に与える。
例えば、走査角θ1〜θ2に対応する視野を有する受信光学系が受信光学系21aであり、走査角θ2〜θ3に対応する視野を有する受信光学系が受信光学系21bである場合(θ1<θ2<θ3)、スキャナ角度信号が示す走査角がθ1〜θ2の範囲内であれば、受信光学系21aを選択し、スキャナ角度信号が示す走査角がθ2〜θ3の範囲内であれば、受信光学系21bを選択する。
【0023】
距離強度検出装置32は、受信信号選択装置31から電気信号が与えられると、その電気信号の位相あるいは時間と発振器12により発振された変調信号の位相あるいは時間から、その電気信号の位相差Δφあるいは時間差Δtを検出し、また、その電気信号の振幅を検出する。距離強度検出装置32は検出した位相差Δφあるいは時間差Δtに相当する距離信号と振幅に相当する強度信号を画像処理装置33に与える。
位相差あるいは時間差と振幅の検出処理自体は公知の技術であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
画像処理装置33は、距離強度検出装置32が距離信号である位相差Δφを検出すると、下記の式(4)に示すように、その位相差Δφに基づいて測距対象物までの距離z(測距対象物の視線方向の距離)を算出する。

ここで、cは光速、fは変調信号の周波数である。
また、画像処理装置33は、距離強度検出装置32が距離信号である時間差Δtを検出すると、下記の式(5)に示すように、その時間差Δtに基づいて測距対象物までの距離z(測距対象物の視線方向の距離)を算出する。

【0024】
画像処理装置33は、測距対象物までの距離zを算出した後、その距離zと強度信号と角度モニタ装置15から出力されたスキャナ角度信号が示す走査角とを用いて、測距画像と強度画像を生成する。
【0025】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、変調信号でレーザ光を変調し、変調後のレーザ光を測距対象物に向けて走査するレーザ光送信部1と、視野が異なる複数の受信光学系21a,21bを用いて、測距対象物に対するレーザ光の散乱光を受信し、その散乱光を示す電気信号を出力する散乱光受信部2と、散乱光受信部2から出力された電気信号と変調信号との位相差あるいは時間差を検出するとともに、その電気信号の振幅を検出する距離強度検出装置32とを設け、画像処理装置33が距離強度検出装置32により検出された位相差あるいは時間差に基づいて測距対象物までの距離を算出するように構成したので、広い画角と長い距離の測距の双方を実現することができる効果を奏する。
【0026】
また、この実施の形態1によれば、複数の受信光学系21a,22bの中で、角度モニタ装置15から出力されたスキャナ角度信号が示す走査角に対応する視野を有する受信光学系を選択し、その受信光学系により受信された散乱光を示す電気信号を距離強度検出装置32に与える受信信号選択装置31を設けているので、測距対象物に対するレーザ光の散乱光以外の光を含む電気信号が距離強度検出装置32に与えられる可能性が低下する。このため、ノイズの増加を抑えて、受信SN比の低下を防ぐことができる効果を奏する。
【0027】
この実施の形態1では、変調器13が発振器12から発振された変調信号でレーザ装置11から発光されたレーザ光を強度変調しているものを示しているが、レーザ装置11が発振器12から発振された変調信号を入力して変調光(変調後のレーザ光)を生成し、その変調光をスキャナ14に出力するようにしてもよい。
例えば、レーザダイオードを用いてレーザ装置11を構成し、変調信号に同期している駆動電流をレーザ装置11に注入することで、直接変調光を生成することができる。
【0028】
この実施の形態1では、スキャナ14が強度変調後のレーザ光を空間中に走査するものを示しているが、レーザ光の走査は空間的に1次元でも2次元でもよい。
1次元走査の場合、角度モニタ装置15が1次元のスキャナ走査角度を示すスキャナ角度信号を信号処理部3に出力し、信号処理部3の画像処理装置33が2次元の測距画像を生成する。
この場合、受光器22a,22bは、図2(a)に示すように、スキャン方向に長い受光面を持つことになる。
2次元走査の場合、角度モニタ装置15が2次元のスキャナ走査角度を示すスキャナ角度信号を信号処理部3に出力し、信号処理部3の画像処理装置33が3次元の測距画像を生成する。
この場合、受光器22a,22bは、図2(b)に示すように、2次元状に広がった受光面を持つことになる。
【0029】
この実施の形態1では、二組の受信光学モジュール23a,23bを備えているものを示しているが、複数の受信光学モジュール23は1列に配置してもよいし、2次元状に配置してもよい。
この実施の形態1では、受信光学モジュール23a,23bにおける受信光学系21a,21bの視野が相互に異なっているものを示しているが、受信光学系21a,21bの視野の一部が重なっていてもよい。
【0030】
この実施の形態1では、複数の受信光学系21a,21bの中で、角度モニタ装置15から出力されたスキャナ角度信号が示す走査角に対応する視野を有する受信光学系を選択し、その受信光学系により受信された散乱光を示す電気信号を距離強度検出装置32に与える受信信号選択装置31を設けているものを示しているが、受信信号選択装置31が、複数の受信光学系21a,21bにより受信された散乱光を示す電気信号の中で、信号強度が最も高い電気信号を選択し、その電気信号を距離強度検出装置32に与えるようにしてもよい。
【0031】
例えば、受信光学系21a,21bの視野の一部が重なっている領域では、受信信号選択装置31には複数の受信光学モジュール23a,23bから散乱光を示す電気信号が入力されるが、測距対象物からの散乱光の強度に角度依存性があり、複数の受信光学系21a,21bの中の1つが強い散乱光を受信する場合、受信信号選択装置31が、最も強い信号を選択することで、受信SN比を高くすることができる。
【0032】
図1のレーザレーダ装置では、受信信号選択装置31が複数の受信光学モジュール23a,23bから出力された電気信号のいずれかを選択して、その選択した電気信号を距離強度検出装置32に与えるものを示したが、図3に示すように、受信光学モジュール23a,23bと同数の距離強度検出装置32a,32b(受信光学モジュール23a,23bから出力された電気信号と変調信号の位相差あるいは時間差を検出するとともに、その電気信号の振幅を検出する距離強度検出装置)を実装し、受信信号選択装置31が、受信光学モジュール23a,23bから出力された電気信号のうち、信号強度が最も強い電気信号と変調信号の位相差あるいは時間差を検出するとともに、その電気信号の振幅を検出している距離強度検出装置32a又は32bの出力信号である距離信号(位相差あるいは時間差を示す信号)と強度信号(振幅を示す信号)を選択して、その距離信号と強度信号を画像処理装置33に与えるようにしてもよい。
この場合、太陽光などの散乱光が受信光学モジュール23a,23bで受信され、散乱光よりも大きな信号として出力された場合でも、太陽光などの信号は距離強度検出装置32a,32bでカットされるので、信号を正確に選択することができる。
【0033】
実施の形態2.
図4はこの発明の実施の形態2によるレーザレーダ装置を示す構成図である。
この実施の形態2では、散乱光受信部2の全体の視野角がθt2であって、散乱光受信部2がN台の受信光学モジュール23が実装しているものを説明するが(図4の例では、N=2)、N台の受信光学モジュール23における受信光学系21として、散乱光受信部2の全体の視野角θt2がN分割された角度θt2/Nの視野角θm2を有する受信光学系21を使用しているものとする。
【0034】
一般的に、受信光学系と受光器から構成される受信光学モジュール23における受信光学系21の視野角θm2と開口径Dm2の積は、上記実施の形態1でも説明したように、式(2)のように表される。
例えば、受光器22の受光面の長さwが2mm、開口径Dが10mm、受信光学系21のF値が1である場合、1つの受信光学モジュール23における受信光学系21の視野角θm2は0.1radとなる。
【0035】
このとき、散乱光受信部2の全体の視野角がθt2で固定される場合、複数の受信光学モジュール23における受信光学系21の視野角θm2を、全体の視野角θt2をN分割した角度θt2/Nとすることで、下記の式(6)で示されるように、1つの受信光学モジュール23における受信光学系21の視野角θm2を受信光学モジュール23の台数Nに比例して小さくすることができる。
θm2=θt2/N (6)
【0036】
また、1つの受信光学モジュール23における受信光学系21が、散乱光受信部2の全体の視野角θt2を持つ場合の開口径をDt2とすると、下記の式(7)で示されるように、1つの受信光学モジュール23における受信光学系21の開口径Dm2を受信光学モジュール23の台数Nに比例して大きくすることができる。

例えば、散乱光受信部2の全体の視野角θt2が0.1rad、受光器22の受光面の長さwが2mm、受信光学系21のF値が1である受信光学モジュール23が2台実装される場合、1つの受信光学モジュール23における受信光学系21の視野角θm2が0.05radになり、開口径Dm2が20mmになる。
【0037】
なお、散乱光の受光量Iは、受信光学モジュール23における受信光学系21の開口径Dm2の二乗に比例するので、散乱光の受光量Iを受信光学モジュール23の台数Nの二乗に比例して増大させることができる。
また、受信SN比をS、測距対象物までの距離をL、測距対象物の反射率をRとすると、下記の式(8)に示されるように、受信光学モジュール23の台数Nの二乗に比例して受信SN比を増大させることができる。

【0038】
また、レーザレーダ装置として検出限界の受信SN比をS、測距対象物までの距離の限界値をLとすると、下記の式(9)に示されるように、受信光学モジュール23の台数Nに比例して、より遠方の測距対象物の測距画像を取得することができる。

【0039】
また、測距対象物の検出可能な最小反射率をRとすると、下記の式(10)に示されるように、受信光学モジュール23の台数Nの二乗に反比例して、より低反射率の測距対象物の測距画像を取得することができる。

【0040】
このように、N台の受信光学モジュール23における受信光学系21として、散乱光受信部2の全体の視野角θがN分割された角度θt2/Nの視野角θm2を有する受信光学系21を使用することで、低反射率あるいは長距離の測距対象物でも検出することが可能になる効果を奏する。
【0041】
実施の形態3.
上記実施の形態1,2では、散乱光受信部2の受信光学系21aと受信光学系21bが、互いに異なる視野を有しているものを示したが、この実施の形態3では、受信光学系21aと受信光学系21bの視野の一部が重なっている例を説明する。
図5はこの発明の実施の形態3によるレーザレーダ装置を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
信号処理部3の受信信号加算装置34は受信光学モジュール23aにより受信された散乱光を示す電気信号と、受信光学モジュール23bにより受信された散乱光を示す電気信号とを加算し、加算後の電気信号を距離強度検出装置32に与える処理を実施する。
なお、受信信号加算装置34及び距離強度検出装置32から距離強度検出手段が構成されている。
【0042】
受信光学系21aと受信光学系21bの視野の一部が重なっている場合、重なっている視野での散乱光が、複数の受信光学モジュール23a,23bで受信されることになる。
信号処理部3の受信信号加算装置34では、受信光学モジュール23aから出力された電気信号と、受信光学モジュール23bから出力された電気信号とを加算するので、視野が重なっている部分では、1つの受信光学モジュール23から出力された電気信号を選択する場合よりも、受信信号である電気信号の信号強度を強くすることができる。
【0043】
信号強度が強くなれば、受信SN比を高めることができるので、より低反射率の測距対象物、あるいは、より遠方の測距対象物の測距画像を取得することができるようになる。
また、視野が重なっている部分では、信号強度が強くなることから、レーザレーダ装置では、視野が重なっていない領域での低感度の画角と、視野が重なっている領域での高感度の画角とを併せ持つことができる。
これにより、例えば、ある領域だけ反射率が低い測距対象物、あるいは、距離が遠い測距対象物が存在していることが分かっている場合、その領域において、受信光学系21aと受信光学系21bの視野を重ねて感度を高めれば、測距対象物から到来する散乱光の受光量を増やすことができる。
【0044】
ここで、図6、図7及び図8はレーザレーダ装置における受信光学モジュール23の配置例を示す説明図である。
図6はレーザ光送信部1及び信号処理部3と一体で、レーザレーダ装置の筺体内に受信光学モジュール23a,23bが配置されている例を示している。
図7はレーザ光送信部1及び信号処理部3を収納している筺体から離れている位置に設置されている別々の受信装置の筺体内に受信光学モジュール23a,23bが配置されている例を示している。
図8は受信光学モジュール23aについてはレーザ光送信部1及び信号処理部3を収納している筺体内に配置されているが、受信光学モジュール23bについては、その筺体から離れている位置に設置されている受信装置の筺体内に配置されている例を示している。
【0045】
例えば、測距対象物におけるレーザ光の散乱光強度に角度依存性があり、その散乱光の方向が複数に分かれている場合、図6のような受信光学モジュール23a,23bの隣接配置では、1方向から到来する散乱光を受信するのみで、散乱光の一部しか受信することができない。
これに対して、図7及び図8のように、受信光学モジュール23aと受信光学モジュール23bを離して配置している場合には、複数に分かれている散乱光を受信することができる。
【0046】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 レーザ光送信部(レーザ光送信手段)、2 散乱光受信部(散乱光受信手段)、3 信号処理部、11 レーザ装置、12 発振器、13 変調器、14 スキャナ、15 角度モニタ装置、21a,21b 受信光学系、22a,22b 受光器、23a,23b 受信光学モジュール、31 受信信号選択装置(距離強度検出手段)、32,32a,32b 距離強度検出装置(距離強度検出手段)、33 画像処理装置(距離強度算出手段)、34 受信信号加算装置(距離強度検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変調信号でレーザ光を変調し、変調後のレーザ光を測距対象物に向けて走査するレーザ光送信手段と、視野が異なる複数の受信光学系を用いて、上記測距対象物に対する上記レーザ光の散乱光を受信し、上記散乱光を示す電気信号を出力する散乱光受信手段と、上記散乱光受信手段から出力された電気信号と上記変調信号の位相差あるいは時間差を検出するとともに、上記電気信号の振幅を検出する距離強度検出手段と、上記距離強度検出手段により検出された位相差あるいは時間差に基づいて上記測距対象物までの距離を算出する距離強度算出手段とを備えたレーザレーダ装置。
【請求項2】
距離強度検出手段は、複数の受信光学系の中で、レーザ光送信手段によるレーザ光の走査角に対応する視野を有する受信光学系を選択し、上記受信光学系により受信された散乱光を示す電気信号と変調信号の位相差あるいは時間差を検出するとともに、上記電気信号の振幅を検出することを特徴とする請求項1記載のレーザレーダ装置。
【請求項3】
距離強度検出手段は、複数の受信光学系により受信された散乱光を示す電気信号の中で、信号強度が最も高い電気信号を選択し、上記電気信号と変調信号の位相差あるいは時間差を検出するとともに、上記電気信号の振幅を検出することを特徴とする請求項1記載のレーザレーダ装置。
【請求項4】
散乱光受信手段の全体の視野角がθである場合、視野角がθ/Nである受信光学系がN台実装されていることを特徴とする請求項1記載のレーザレーダ装置。
【請求項5】
距離強度検出手段は、視野の一部が重なっている複数の受信光学系により受信された散乱光を示す電気信号を加算し、加算後の電気信号と変調信号の位相差あるいは時間差を検出するとともに、上記電気信号の振幅を検出することを特徴とする請求項1記載のレーザレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−173099(P2012−173099A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34603(P2011−34603)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】