説明

レーザーアブレーション装置

【課題】簡素な装置構成で運転が容易で長期間に亘り安定的に成膜操作が可能であり、またターゲットの不均一で無駄な消耗が少なく高価なターゲット材料の使用歩留りを大幅に高めることが可能なレーザーアブレーション装置を提供する。
【解決手段】膜構成成分を含有する円盤状のターゲット2を保持するターゲット保持台32と、上記ターゲット2にレーザー光4を照射することによりターゲット成分を原子,分子,イオンまたはクラスター状の微細化粒子として放出するレーザー発振装置5と、上記ターゲットから放出された微細化粒子を薄膜として堆積させる基板6を保持する基板保持台14と、上記ターゲット保持台32をその自転軸周りに回転自在とし、かつ自転軸と平行で所定距離をおいて配置された公転軸周りに公転自在とするターゲット駆動機構3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膜成分を含有するターゲットにパルスレーザー光を照射して放出させた微細化粒子を基板上に堆積させて薄膜を形成するレーザーアブレーション装置に係り、特に簡素な装置構成で運転が容易で長期間に亘り安定的に成膜操作が可能であり、またターゲットの不均一で無駄な消耗が少なく高価なターゲット材料の使用歩留りを大幅に高めることが可能なレーザーアブレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、真空容器内でターゲットにパルスレーザー光を照射して、該ターゲットから放出される微細化粒子を基板上に堆積させて薄膜を形成する方法が複合材料の製造方法として注目されている。
【0003】
しかしながら、上記従来のレーザーアブレーション方法においては、パルスレーザー光の照射方向、ターゲットおよび基板の相対位置は実質的に固定されているため、上記の方法において、長時間に亘ってターゲットにパルスレーザー光を照射して厚さが大きい膜を形成する場合、ターゲットの1点にパルスレーザー光が連続的に照射されるため、ターゲットが局所的にかつ不均一に消耗される結果、ターゲットの使用歩留りが低下する問題があった。また、ターゲットから放出された微細化粒子を含むガス塊(プルーム)が不安定になり、安定した成膜操作が困難になる問題点もあった。さらに、プルームの不安定化に伴い、ターゲットの温度が上昇し易くなる。このような温度上昇が生じると、ターゲットの構成成分が蒸散揮発により変化するため、所定組成を有する良好な成膜を安定して得ることが困難になるばかりでなく、ターゲットの多くの部分を無駄に消耗し高価なターゲットの使用歩留りの低下がさらに加速されるという問題点もあった。
【0004】
上記のような問題点を解決するために、特にターゲットの均一な消耗を実現するために、ターゲットに対するレーザー光の照射位置が変化するように構成したレーザーアブレーション装置が、例えば下記特許文献1に開示されている。
【0005】
上記特許文献1に記載された従来のレーザーアブレーション装置は、上記の問題点を解決すべく、ターゲットの保持台をその軸芯周りに回転運動させるとともに、往復運動させるように構成した装置である。具体的には、円盤状のターゲットの保持台を、その軸芯周りに回転可能、且つ前記軸芯に対して直交する往復方向に往復移動可能に構成し、このターゲット保持台を軸芯周りに回転させる回転機構と、往復方向に直線往復移動させる直線移動機構とを備えて構成されるものである。
【0006】
そして、上記構成を有する従来のレーザーアブレーション装置においては、ターゲット保持台は、回転機構と直線移動機構との動作により、保持台の軸芯周りに回転駆動されるとともに、この軸芯に直交する方向である往復方向に往復直線移動される。このような移動形態にあっては、レーザー光の光路が固定される一般的な装置構成にあっても、二次元平面内で滑らかな移動経路を辿りながら動作できる。従って、ターゲットの均等な消耗が可能となり、プルームを長時間に亘って安定化できるため、長時間の成膜操作を継続した場合においても、その膜質や組成が安定した成膜を得ることができるという効果が指向されている。
【特許文献1】特開平9−263935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載されている従来のレーザーアブレーション装置においては、回転機構と直線移動機構との両機構を各々別の駆動機構(モーター)で作動させる必要があり、装置構成が複雑になり設備費用が高騰する問題点があった。また上記従来装置においては、ターゲット消耗の均一性を過度に重要視したため、ターゲットの外径側部位と内径側部位とにおける単位時間当たりの径方向移動量を均一化するために、各部位の周速度と回転角速度との関係を取って制御すべく上記両駆動機構を制御する手段を設けたため、装置構造が複雑化するのみならず、制御操作に高度な技量を必要とするなどの問題点があった。
【0008】
一方、パルスレーザー光の照射によってターゲットから放出される微細化放出物は、ターゲットにレーザー光が当たった点(照射点)を中心として、該ターゲットの表面に垂直な方向に、広がりをもったプルームとして基板に向かって放出される。そして、一般的にプルームの中心部ほど放出物の濃度が高く、また均一であると考えられているので、成膜時間が長時間に及ぶほど基板の中心部と周縁部とで膜厚に差が生じるとともに、組成が不均一になるという問題もあった。
【0009】
この問題点を解決するために、例えば基板の保持台に回転軸を設け、その軸芯周りに回転させる方法も採用されているが、この回転機構を導入しても基板における中心部と周縁部との相対位置関係は変化しないので本質的な問題の解決にはなっていない。
【0010】

本発明は、上記従来装置における問題点を解決するためになされたものであり、極めて簡単な機構によりターゲットの均等な消耗を可能とし、プルームを長時間に亘って安定化でき長時間に亘り成膜を継続した場合においても、その膜質が安定した成膜を基板の表面に均一に形成できるとともに、ターゲットを無駄に消耗させず有効に活用することが可能になるレーザーアブレーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係るレーザーアブレーション装置は、膜構成成分を含有する円盤状のターゲットを保持するターゲット保持台と、上記ターゲットにレーザー光を照射することによりターゲット成分を原子,分子,イオンまたはクラスター状の微細化粒子として放出するレーザー発振装置と、上記ターゲットから放出された微細化粒子を薄膜として堆積させる基板を保持する基板保持台と、上記ターゲット保持台をその自転軸周りに回転自在とし、かつ自転軸と平行で所定距離をおいて配置された公転軸周りに公転自在とするターゲット駆動機構とを備えていることを特徴とする。
【0012】
すなわち本発明では、パルスレーザー光をターゲットに照射して該ターゲットからの微細化放出物を基板に堆積させるレーザーアブレーション装置において、ターゲットがその軸芯周りを自転するとともに該軸芯に平行かつ所定の距離を隔てた公転軸芯周りを公転するようにターゲット駆動機構が構成されている。さらに、基板がその軸芯周りを自転するとともに該軸芯に平行かつ所定の距離を隔てた公転軸芯周りを公転するように基板駆動機構を備えて構成することもできる。
【0013】
このように、レーザー光を照射されるターゲットが自転すると共に所定範囲内を公転するように構成されているため、レーザー光の光路が固定される一般的な装置構成であっても、ターゲットの二次元平面内でレーザー光の照射点が滑らかな移動経路を辿りながらアブレーション操作が継続される。したがって、ターゲットの均等な消耗が可能となり、プルームを長時間に亘って安定化できるため、長時間の成膜操作を継続した場合においても、その膜質や組成が安定した成膜を得ることができる。
【0014】
さらに、ターゲットから放出された微細化粒子を薄膜として堆積させる基板が自転すると共に所定範囲内を公転するように構成した場合には、プルーム内での微細化放出物の濃度分布に影響されずに、大きな基板や複数個の基板であっても、その基板の全表面に亘って均一な厚さを有する膜を形成することができる。
【0015】
また上記レーザーアブレーション装置において、前記ターゲット駆動機構は、ターゲット保持台を回転させる自転軸に装着された平歯車と、上記自転軸と平行で一定距離をおいて配置された公転軸が中心となるように配置された内歯車とを噛合させて構成されていることが好ましい。
【0016】
上記のように、自転軸に装着された平歯車と公転軸が中心となるように配置された内歯車とを噛合させて連動するように構成することにより、1基の駆動モーターによってターゲット保持台の自転運動および公転運動を実現することができ、ターゲット駆動機構を簡素に構成することが可能になり、運転操作も容易になる。
【0017】
さらに、上記レーザーアブレーション装置において、前記基板駆動機構は、基板保持台を回転させる自転軸に装着された第1の平歯車と、上記自転軸と平行で一定距離をおいて配置された公転軸が中心となるように固定された第2の平歯車とを噛合させて構成されていることが好ましい。
【0018】
上記のように、自転軸に装着された第1の平歯車と公転軸が中心となるように配置された第2の平歯車とを噛合させて連動するように構成することにより、1基の駆動モーターによって基板保持台の自転運動および公転運動を実現することができ、基板駆動機構を簡素に構成することが可能になり、運転操作も容易になる。
【0019】
また、上記レーザーアブレーション装置において、前記ターゲット駆動機構の公転軸と自転軸との距離が、円盤状のターゲットの有効半径以下であることが好ましい。
【0020】
上記のように、ターゲット駆動機構の公転軸と自転軸との距離を円盤状のターゲットの有効半径以下とすることにより、ターゲットの公転軸芯が常にターゲットの有効面内に存在することとなり、ターゲットの公転面の中心部にレーザー光の非照射部が形成されることが無く、アブレーション効率が低下することがない。
【0021】
さらに、上記レーザーアブレーション装置において、前記ターゲット駆動機構の公転軸と自転軸との距離が、ターゲットの有効半径の略2分の1であることが好ましい。
【0022】
上記のようにターゲット駆動機構の公転軸と自転軸との距離をターゲットの有効半径の略2分の1とすることにより、ターゲットの公転面の中心部にレーザー光の非照射部が形成されることが無く、ターゲットの有効面積全域にレーザー光照射点が及ぶため、ターゲットの利用効率が最適(最大)となる。
【0023】
また、上記レーザーアブレーション装置において、前記ターゲット駆動機構の公転軸が中心となるように配置された内歯車の歯数と、この内歯車に噛合して前記ターゲット保持台を回転させる自転軸に装着された平歯車の歯数との最小公倍数を上記内歯車の歯数で割った値(平歯車の歯数を両歯車の歯数の最大公約数で割った値でもある)が30以上であることが好ましい。
【0024】
上記内歯車の歯数と、この内歯車に噛合して前記ターゲット保持台を回転させる平歯車の歯数との最小公倍数を上記内歯車の歯数で割った値が30未満となると、ターゲット表面上に隣接して形成されるレーザー光の照射経路の間隔が粗くなり、同一の照射経路をなぞる頻度が増加し、ターゲットを均一に消耗させる観点から好ましくない。そこで、上記内歯車の歯数と、この内歯車に噛合して前記ターゲット保持台を回転させる平歯車の歯数との最小公倍数を上記内歯車の歯数で割った値を30以上とすることにより、ターゲット表面上に隣接して形成されるレーザー光の照射経路の間隔を狭めることができ、ターゲットを均一に消耗させることができ、ターゲットの使用歩留りを高めることができる。この観点から、上記両歯車の歯数の最小公倍数を上記内歯車の歯数で割った値は30以上、好ましくは100以上とする。
【0025】
さらに、上記レーザーアブレーション装置において、前記ターゲットに対するレーザー光の照射位置は、公転軸芯を中心として、ターゲットの有効半径から公転軸と自転軸との距離を差し引いた距離を半径とする円内にあることが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、レーザー光の照射位置がターゲットから外れることがなく常にターゲットの有効面内に存在することになり、アブレーション効率を低下させることがない。
【0027】
また、上記レーザーアブレーション装置において、前記ターゲットに対するレーザー光の照射位置は、公転軸芯を中心として、ターゲットの有効半径から公転軸と自転軸との距離を差し引いた距離を半径とする円の円周上にあることが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、レーザー光の照射位置がターゲットから外れることがなく常にターゲットの有効面内に存在することになり、特にターゲットの有効面積全域にレーザー光照射点が及ぶため、ターゲットの利用効率が最適(最大)となる。
【0029】
さらに、上記レーザーアブレーション装置において、前記基板駆動機構の自転軸は、ターゲットからの微細化放出物の放出面積内にあることが好ましい。
【0030】
上記構成によれば、ターゲットから形成されるプルーム内での微細化放出物の濃度分布に影響されずに、基板の全表面に亘って均一な厚さを有する膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係るレーザーアブレーション装置によれば、レーザー光を照射されるターゲットが自転すると共に所定範囲内を公転するように構成されているため、極めて簡単な機構で、ターゲットが無駄に消耗せず均等な消耗が可能となり、プルームを長時間に亘って安定化できる。そのため、長時間の成膜操作を継続した場合においても、その膜質や組成が安定した成膜を得ることができる。さらに、ターゲットから放出された微細化粒子を薄膜として堆積させる基板が自転すると共に所定範囲内を公転するように構成した場合には、プルーム内での微細化放出物の濃度分布に影響されずに、大きな基板や複数個の基板であっても、その全表面に亘って均一な厚さを有する膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に本発明の実施形態について添付図面を参照してより具体的に説明する。
【0033】
図1は、本発明に係るレーザーアブレーション装置の一実施形態の概略構成を示す断面図である。図2はターゲット駆動機構の構成を示す断面図であり、図3は、図2に示すターゲット駆動機構の構成および作動状況を示す平面図であり、図4は基板駆動機構の構成および作動状態を示す断面図である。
【0034】
すなわち、本実施形態に係るレーザーアブレーション装置1は、膜構成成分を含有する円盤状のターゲット2を保持するターゲット保持台32と、上記ターゲット2にパルスレーザー光4を照射することによりターゲット成分を原子,分子,イオンまたはクラスター状の微細化粒子として放出するレーザー発振装置5と、上記ターゲット2から放出された微細化粒子を薄膜として堆積させる基板6を保持する基板保持台14と、上記ターゲット保持台32をその自転軸C1周りに回転自在とし、かつ自転軸C1と平行で所定距離をおいて配置された公転軸C2周りに公転自在とするターゲット駆動機構3と、上記基板保持台14をその自転軸C3周りに回転自在とし、かつ自転軸C3と平行で一定距離をおいて配置された公転軸C4周りに公転自在とする基板駆動機構7とを備えて構成されている。
【0035】
また、上記ターゲット駆動機構3および基板駆動機構7は、チャンバー(真空容器)8に収容されている。さらにチャンバー(真空容器)8の側壁には、レーザー発振装置5からのパルスレーザー光4をチャンバー8内に導入するためのレーザー光導入窓9が設けられる一方、チャンバー8の頂部には、ターゲット駆動機構3および基板駆動機構7の動作状態を視認するための覗窓10が設けられている。また、チャンバー8の本体部と頂部とを緊結し頂部を開閉するためのクランプ等の緊結部材12が装着されている。さらに、チャンバー8内部を排気し真空状態に減圧する真空ポンプ等の真空源に連通する排気口11が設けられている。ターゲット駆動機構3は、チャンバー内面から突設されたブラケットに緊結手段13を介して固定されている。
【0036】
図2は、上記ターゲット駆動機構の構成をより詳細に示す断面図である。
【0037】
ターゲット2を駆動するための真空用モーター21がモーターマウント22を介してベース23に固定されている。真空用モーター21の出力シャフト24の端部にはスパーギヤ(平歯車)25が取り付けられている。
【0038】
上記スパーギヤ25に噛合するようにスパーギヤ26が設けられ、このスパーギヤ26を外周面の一部に取り付けられた中空略円柱状のボス40は、他の外周面においてベアリング27を介してベアリングホルダー28に回転自在に取り付けられている。なお、ベアリングホルダー28もベース23に固定されている。上記ベアリング27はベアリングカバー29,30によって覆われている。
【0039】
円盤状のターゲット2はスプリング31を介在させた状態で略円板状のターゲットホルダー32に載置され、略円筒状のターゲットカバー33をターゲットホルダー32に螺合させることにより固定されている。ここでターゲットカバー33は一端面に内側に突出する中空円板状の鍔部を有しているので、ターゲットカバー33をターゲットホルダー32に螺合させると上記鍔部がターゲット上面の最外周部に掛合し、ターゲット2をターゲットホルダー32方向に押しつけて固定する。
【0040】
ターゲットホルダー32の裏面には該ターゲットホルダー32と軸芯(自転軸C1)を同じくするシャフト34が固着されている。このシャフト34は、上記ボス40の中空内周面に対し、カラー35a、35bによって位置決めした上で、ベアリング36、36を介して回転自在に取り付けられている。なお、シャフト34の軸芯(自転軸C1)とスパーギヤ26の軸芯(公転軸C2)とは、平行ではあるが偏芯している。
【0041】
シャフト34の他方の端部には、カラー35cによって軸方向の位置決めをした上で、スパーギヤ37が取り付けられている。
【0042】
上記スパーギヤ37は、内周面にギヤ歯が切ってあるインターナルギヤ(内歯車)38の内周部において噛合しており、そのインターナルギヤ(内歯車)38の軸芯は上記スパーギヤ26の軸芯(公転軸C2)と一致している。このインターナルギヤ38はインターナルギヤマウント39を介してベース23に固定されている。ここで、インターナルギヤ38のピッチ円直径(PCD)はスパーギヤ37のピッチ円直径よりも大きく設定されており、インターナルギヤ38の歯数と、このインターナルギヤ38に噛合して前記ターゲット保持台32を回転させる自転軸C1に装着されたスパーギヤ37の歯数との最小公倍数を上記インターナルギヤ38の歯数で割った値(スパーギヤ37の歯数を両歯車の歯数の最大公約数で割った値でもある)が30以上、好ましくは100以上となるように調整した。
【0043】
なお、上記ターゲット駆動機構3は、図1に示すようにボルト・ナット等の緊結手段13により、チャンバー8の任意の内側面に固定される。
【0044】
次に図3を参照してターゲット駆動機構の作動方法について説明する。
【0045】
真空用モーター21を、例えば図3に示すように平面方向から見て左回りに回転させると、スパーギヤ25に噛合するスパーギヤ26は両者の歯数の比に反比例する回転数で右回りに回転する。
【0046】
スパーギヤ26に回転自在に取り付けられているシャフト34は、該スパーギヤ26の回転に伴って、該スパーギヤ26の軸芯(公転軸芯C2)を中心として、右回りに移動、すなわち公転するが、該シャフト34の公転に伴って、シャフト34の端部に取り付けられているスパーギヤ37は、歯合しているインターナルギヤ38の内周面に沿って逆方向に回転、すなわち自転するので、シャフト34の先端に位置するターゲット2は、自らは左回りに自転しながら、スパーギヤ26の軸芯の周りを右回りに公転する。
【0047】
ここで、ターゲット2の公転軸芯C2はターゲット2の有効面内にあることが好ましい。公転軸芯C2が有効面外にあると、レーザー光4の光路が固定されている一般的な装置においては、当初レーザー光4がターゲット2の有効面内を照射していても、ターゲット2が自転と公転を行うことにより、ターゲット2の有効面を外れてしまうからである。
【0048】
そのため、後述の基板駆動機構7の場合とは異なり、ターゲット駆動機構3においては、上記のとおり、シャフト34に取り付けられ、外周面にギヤ歯を有するスパーギヤ37と内周面にギヤ歯を有するインターナルギヤ38との組合せを採用する必要がある。
【0049】
上記のターゲット2の有効面とは、図1に示すようにレーザー光4が、その進行方向に対してある傾斜角度を有して取り付けられているターゲット2に照射されるとき、ターゲット2の中心からレーザー光4がターゲットカバー33の鍔部に接することなくターゲット2に当たる位置までの距離を半径(有効半径)とする円の内部をいう。
【0050】
ターゲット2の公転軸芯C2の自転軸芯C1からの距離をAとすると、0<A<有効半径、の関係式を満足することが好ましく、A=有効半径/2であることが最も好ましい。このとき、レーザー光4の照射位置にもよるが、照射位置が最適の場合、ターゲット2の中心を最内周軌道点、有効半径の軌跡(円周上)を最外周軌道点とする一種の内トロコイド曲線にそってレーザー光4はターゲット2に照射される。
【0051】
また、レーザー光4は同じ軌跡をなぞる頻度が少ないことが好ましい。そのため、レーザー光4の照射幅によっても異なるが、スパーギヤ37のギヤ歯数とインターナルギヤ38のギヤ歯数の最小公倍数を該インターナルギヤ38の歯数で割った値(スパーギヤ37の歯数を両歯車の歯数の最大公約数で割った値でもある)が30以上、さらに100以上であることが好ましい。すなわち、最内周軌道点と最外周軌道点との間を100回往復して元の軌跡に戻るからである。上記インターナルギヤ38の歯数と、上記ターゲット保持台を回転させるスパーギヤ37の歯数との最小公倍数を100以上とすることにより、ターゲット表面上に隣接して形成されるレーザー光の照射経路の間隔を狭めることができ、ターゲットを均一に消耗させることができ、ターゲットの使用歩留りを高めることができる。
【0052】
レーザー光4の照射位置としては、公転軸芯を中心としてターゲット2の有効半径から上記距離Aを引いた距離を半径とする円内にあることが好ましく、公転軸芯から最も離れた位置、すなわちこの円の円周上にあることが最適である。
【0053】
すなわち、ターゲット2に対するレーザー光4の照射位置は、公転軸芯C2を中心として、ターゲット2の有効半径から公転軸C2と自転軸C1との距離Aを差し引いた距離を半径とする円内にあることが好ましい。
【0054】
上記構成によれば、レーザー光の照射位置がターゲットから外れることがなく常にターゲット2の有効面内に存在することになり、アブレーション効率を低下させることがない。
【0055】
また、上記レーザーアブレーション装置1において、前記ターゲット2に対するレーザー光4の照射位置は、公転軸芯C2を中心として、ターゲット2の有効半径から公転軸C2と自転軸C1との距離Aを差し引いた距離を半径とする円の円周上にあることが好ましい。
【0056】
上記構成によれば、レーザー光の照射位置がターゲットから外れることがなく常にターゲットの有効面内に存在することになり、特にターゲットの有効面積全域にレーザー光照射点が及ぶため、ターゲットの利用効率が最適(最大)となる。
【0057】
図4は、本実施形態で使用する基板駆動機構の構成をより具体的に示す断面図である。基板駆動機構7はチャンバー8の底板上に立設されたスタンド61の上端部に保持固定される。上記スタンド61は、円板状部材の端部において垂直方向上方に延びるように形成され、このスタンド61は円板状部材の端部を締金具(蝶ボルト)62によって締着することによりチャンバー8の底面に固定される。
【0058】
基板保持台14等を搭載する円板状のブラケット63の端部には、上記スタンド61と同様に、ブラケット63の水平面に対して垂直方向に延び、かつその外径がスタンド61の内径よりも小さな外形を有する円筒状部材64が固定されている。そして、円筒状部材64をスタンド61の内部に挿通して、蝶ボルト65を締め付けることにより、上記ブラケット63をチャンバー8の底面に平行な任意の高さ位置に固定することができる。ブラケット63の下面側には、基板駆動機構7を駆動するための駆動モーター(真空用モーター)66が、4本のサポート67を介して下面側から取り付けられている。
【0059】
基板保持台14は、基板6を載置固定した状態で自転する自転テーブル75と、自転テーブル75を公転自在に保持する公転テーブル68とから成る。略円板状の公転テーブル68の下面中心には公転シャフト69の上端が固着されている。また公転シャフト69は、ブラケット63のほぼ中央部に位置する開口部に挿通され、その他端はカップリング70を介して駆動モーター66の出力シャフトに連接されている。公転シャフト69は、上記ブラケット63の開口部に取り付けられた略円筒状の公転ベアリングハウス71の内周面に対し、該内周面に取り付けられたベアリング72、72を介して、回転自在に取り付けられている。
【0060】
中心軸方向の内部に公転シャフト69が挿通された略円筒状のギヤボックス74を介して、固定ギヤ73がベアリングハウス71の上部に固定されている。
【0061】
略円板状の自転テーブル75の下面中心には自転シャフト76の上端が固着されている。なお、自転テーブル75の上面には任意の大きさ、形状及び個数の基板6を取り付けられるように構成されている。
【0062】
上記公転テーブル68の端部には開口部を設け、該開口部に一端面の外側に突出した鍔部を設けた円筒状の自転ベアリングハウス77を上方より挿通する一方、下方からは中空円板状の自転ベアリングハウス押エ78を取り付け、ボルト等の緊結部材によって、ベアリングハウス77が公転テーブル68に固定されている。自転シャフト76は、自転ベアリング79、79を介して自転ベアリングハウス77の円筒状内部に回転自在に取り付けられている。自転シャフト76の下端には自転ギヤ80が取り付けられており、該自転ギヤ80は上記固定ギヤ73と噛合している。
【0063】
上記公転テーブル68の開口部は、公転テーブル68の中心部付近から外周端部にかけて、半径方向に細長く切り欠いてあるので、該開口部に挿通・固定された自転ベアリングハウス77及びその円筒状内部に挿通された自転シャフト76の取り付け位置を公転テーブル68上の半径方向に自由に移動させて固定することができ、基板の大きさ等に合わせて、自転テーブル75の公転半径を自由に変えることができる。ただし、自転シャフト76の取り付け位置の移動に合わせて、固定ギヤ73と自動ギヤ80の大きさを適宜変更する必要がある。
【0064】
次に上記のように構成した基板駆動機構の作動方法について説明する。
【0065】
図4に示す構成において、駆動モーター66を左回りに回転させると、モーター66の出力軸の回転運動はカップリング70、公転シャフト69を介して公転テーブル68に伝達され、該公転テーブル68は上記モーター66と同方向に回転する。
【0066】
自転テーブル75は、公転テーブル68の回転に伴って、該公転テーブル68の軸芯C4の周りを、公転シャフト69と自転シャフトの76の距離(公転半径)Rだけ偏芯して左回りに公転する。自転テーブル75(自転シャフト76)の公転に伴って、自転シャフト76の端部に取り付けられている自転ギヤ80は、噛合している固定ギヤ73の外周面に沿って自転シャフト76の公転方向とは逆方向(右回り)に回転するので、自転テーブル75及びその上面に取り付けられた基板6は、自らは右回りに自転しながら、公転シャフト69の軸芯の周りを左回りに公転する。
【0067】
ここで図1および図4に示すように、ターゲット2からのプルームは、基板6を固定した自転テーブル75方向に対してある面積(円形)をもって放出される。そのため、プルームの面積範囲を基板6の全域で均等にカバーさせるために、基板6を自転させると共に公転させる機構は、固定ギヤ73と自転ギヤ80との組合せで示すように、各々その外周面にギヤ歯を有する1対の平歯車の組合せで構成することができる。
【0068】
なお、基板6の大きさ、自転テーブル75に載せる基板6の個数及び載せ方によっても異なるが、基板6の一部が自転テーブル75の中心(軸芯)にかかっている場合は、該自転テーブル75(自転シャフト76)の軸芯C3は、少なくとも上記プルームの放出面積内にあることが好ましい。この場合、ターゲットから形成されるプルーム内での微細化放出物の濃度分布に影響されずに、基板の全表面に亘って均一な厚さを有する膜を形成することができる。
【0069】
本実施形態に係るレーザーアブレーション装置1によれば、レーザー光4を照射されるターゲット2が自転すると共に所定範囲内を公転するように構成されているため、極めて簡単な機構で、ターゲット2が無駄に消耗せず均等な消耗が可能となり、プルームを長時間に亘って安定化できる。そのため、長時間の成膜操作を継続した場合においても、その膜質や組成が安定した成膜を得ることができる。さらに、ターゲット2から放出された微細化粒子を薄膜として堆積させる基板6が自転すると共に所定範囲内を公転するように構成されているため、プルーム内での微細化放出物の濃度分布に影響されずに、大きな基板6や複数個の基板6であっても、その全表面に亘って均一な厚さを有する膜を形成することができる。
【0070】
また、ターゲット駆動機構3において、ターゲット保持台32を回転させる自転軸C1に装着された平歯車(スパーギヤ)37と、上記自転軸C1と平行で一定距離Aをおいて配置された公転軸C2が中心となるように配置された内歯車(インターナルギヤ)38とを噛合させて連動するように構成されているため、1基の駆動モーター21によってターゲット保持台32の自転運動および公転運動を実現することができ、ターゲット駆動機構3を簡素に構成することが可能になり、運転操作も容易になる。
【0071】
さらに、基板駆動機構7において、基板保持台14を回転させる自転軸C3(自転シャフト76)に装着された第1の平歯車(自転ギヤ80)と、上記自転軸C3と平行で一定距離Rをおいて配置された公転軸C4(公転シャフト69)が中心となるように固定された第2の平歯車(固定ギヤ73)とを噛合させて連動するように構成されているために、1基の駆動モーター66によって基板保持台14の自転運動および公転運動を実現することができ、基板駆動機構7を簡素に構成することが可能になり、運転操作も容易になる等の優れた効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係るレーザーアブレーション装置によれば、レーザー光を照射されるターゲットが自転すると共に所定範囲内を公転するように構成されているため、極めて簡単な機構で、ターゲットが無駄に消耗せず均等な消耗が可能となり、プルームを長時間に亘って安定化できる。そのため、長時間の成膜操作を継続した場合においても、その膜質や組成が安定した成膜を得ることができる。さらに、ターゲットから放出された微細化粒子を薄膜として堆積させる基板が自転すると共に所定範囲内を公転するように構成した場合には、プルーム内での微細化放出物の濃度分布に影響されずに、大きな基板や複数個の基板であっても、その全表面に亘って均一な厚さを有する膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係るレーザーアブレーション装置の一実施形態の概略構成を示す断面図。
【図2】ターゲット駆動機構の構成を示す断面図。
【図3】図2に示すターゲット駆動機構の構成および作動状態を示す平面図。
【図4】基板駆動機構の構成および作動状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0074】
1 レーザーアブレーション装置
2 ターゲット
3 ターゲット駆動機構
4 パルスレーザー光
5 照射するレーザー発振装置
6 基板
7 基板駆動機構
8 チャンバー(真空容器)
9 レーザー光の導入窓
10 覗窓
11 排気口
12 緊結部材
13 緊結手段
14 基板保持台
21 真空用モーター
22 モーターマウント
23 ベース
24 シャフト(駆動軸)
25 スパーギヤ(平歯車)
26 スパーギヤ(平歯車)
27 ベアリング
28 ベアリングホルダー
29 ベアリングカバー
30 ベアリングカバー
31 スプリング
32 ターゲットホルダー(ターゲット保持台)
33 ターゲットカバー
34 シャフト(自転軸)
35a カラー
35b カラー
35c カラー
36 ベアリング
37 スパーギヤ(平歯車)
38 インターナルギヤ(内歯車)
39 インターナルギヤマウント
40 ボス
61 スタンド
62 締金具
63 ブラケット
64 円筒状部材
65 蝶ボルト
66 モーター
67 サポート67
68 公転テーブル
69 公転シャフト(公転軸)
70 カップリング
71 公転ベアリングハウス
72 ベアリング
73 固定ギヤ
74 ギヤボックス
75 自転テーブル
76 自転シャフト(自転軸)
77 自転ベアリングハウス
78 自転ベアリングハウス押え
79 自転ベアリング
80 自転ギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜構成成分を含有する円盤状のターゲットを保持するターゲット保持台と、上記ターゲットにレーザー光を照射することによりターゲット成分を原子,分子,イオンまたはクラスター状の微細化粒子として放出するレーザー発振装置と、上記ターゲットから放出された微細化粒子を薄膜として堆積させる基板を保持する基板保持台と、上記ターゲット保持台をその自転軸周りに回転自在とし、かつ自転軸と平行で所定距離をおいて配置された公転軸周りに公転自在とするターゲット駆動機構とを備えていることを特徴とするレーザーアブレーション装置。
【請求項2】
前記基板保持台をその自転軸周りに回転自在とし、かつ自転軸と平行で一定距離をおいて配置された公転軸周りに公転自在とする基板駆動機構をさらに備えていることを特徴とする請求項1記載のレーザーアブレーション装置。
【請求項3】
前記ターゲット駆動機構は、ターゲット保持台を回転させる自転軸に装着された平歯車と、上記自転軸と平行で一定距離をおいて配置された公転軸が中心となるように配置された内歯車とを噛合させて構成されていることを特徴とする請求項1記載のレーザーアブレーション装置。
【請求項4】
前記基板駆動機構は、基板保持台を回転させる自転軸に装着された第1の平歯車と、上記自転軸と平行で一定距離をおいて配置された公転軸が中心となるように固定された第2の平歯車とを噛合させて構成されていることを特徴とする請求項2記載のレーザーアブレーション装置。
【請求項5】
前記ターゲット駆動機構の公転軸と自転軸との距離が、円盤状のターゲットの有効半径以下であることを特徴とする請求項1記載のレーザーアブレーション装置。
【請求項6】
前記ターゲット駆動機構の公転軸と自転軸との距離が、ターゲットの有効半径の略2分の1であることを特徴とする請求項1記載のレーザーアブレーション装置。
【請求項7】
前記ターゲット駆動機構の公転軸が中心となるように配置された内歯車の歯数と、この内歯車に噛合して前記ターゲット保持台を回転させる自転軸に装着された平歯車の歯数との最小公倍数を上記内歯車の歯数で割った値が30以上であることを特徴とする請求項1記載のレーザーアブレーション装置。
【請求項8】
前記ターゲットに対するレーザー光の照射位置は、公転軸芯を中心として、ターゲットの有効半径から公転軸と自転軸との距離を差し引いた距離を半径とする円内にあることを特徴とする請求項1記載のレーザーアブレーション装置。
【請求項9】
前記ターゲットに対するレーザー光の照射位置は、公転軸芯を中心として、ターゲットの有効半径から公転軸と自転軸との距離を差し引いた距離を半径とする円の円周上にあることを特徴とする請求項1記載のレーザーアブレーション装置。
【請求項10】
前記基板駆動機構の自転軸は、ターゲットからの微細化放出物の放出面積内にあることを特徴とする請求項1記載のレーザーアブレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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