説明

レーザーイオン化ガス検出装置およびレーザーイオン化ガス分析方法

【課題】レーザーイオン化によるガスの検出の精度を高める。
【解決手段】レーザー透過窓7を通して光反応セル4に入射するレーザー光6によりイオン化した測定対象ガス分子をイオン検出器9で検出し、質量分析を行うレーザーイオン化ガス検出装置に、キャピラリカラム1、仕事関数が大きい物質からなるイオン加速電極8、所定の範囲から外れたレーザー光6およびその散乱光を遮る散乱光除去バッフル11、光反応セル4などを加熱するヒーター12、レーザー透過窓7に不活性ガスを吹き付けるためのノズル18を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーイオン化ガス検出装置およびレーザーイオン化ガス分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)を含むダイオキシン類などに代表されるように、有機ハロゲン化合物には微量で高い毒性を示すものが多種類に存在しており、これらの物質の種類を区別してリアルタイムで高感度に分析する手法の確立が望まれている。一般に、有機ハロゲン化合物のような高分子の環境汚染物質の気中濃度は、長時間のガスサンプリングによって溶媒中に濃縮された試料溶液を、分離、精製した後に、ガスクロマトグラムで分析する方法で測定されている。
【0003】
しかし、この手法では、サンプリングから分析結果を得るまでに数時間から数十時間を要し、リアルタイムで気中濃度を監視できない。このため、PCB分解無害化処理施設や、ごみ焼却炉などで発生しているPCBやダイオキシン類の濃度を管理するためのモニタリング手法としては不十分である。
【0004】
近年、非特許文献1および非特許文献2などに開示されているように、イオン化質量分析法が開発されている。高分子有機化合物の分子ビームにレーザー光を照射して対象分子をイオン化し、そのイオンを質量分析することにより、実験室レベルでは、ガス中の物質の同定や定量が高感度にリアルタイムで実現可能となってきている。
【0005】
特許文献1には、真空容器に導入したダイオキシンを含む試料ガスにレーザー光を照射してイオン化し、そのイオンを検出する方法が開示されている。さらに、レーザー光の波長を変化させることにより、分子量が同じ異性体をも区別できることが示されている。特許文献2には、十字型の真空容器に試料ガスを導入し、十字の交差部分で試料ガスにレーザー光を照射してイオン化し、質量分析する方法が開示されている。
【特許文献1】特許第2941763号公報
【特許文献2】特許第2807201号公報
【非特許文献1】Vladilen. S. Letokhov著、"Laser Photoionization Spectroscopy"、Academic Press, Inc.、1987年、p.100-p.103
【非特許文献2】濱口宏夫、他4名編著、「レーザー分光計測の基礎と応用」、アイピーシー、1992年、p.647-p.649
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分子および原子を高感度にリアルタイム分析する手法として開発されたイオン化質量分析法は、真空中に導入した分子ビームに対してレーザー光や電子ビームを照射するイオン化工程と、飛行時間型分析法(Time of Flight Mass Spectroscopy: TOF-MS)等を用いた質量分析工程とを組み合わせたものである。従来のイオン化質量分析装置は、分析試料ガス中の微量の測定対象分子をレーザー光によってイオン化する際に、多量に共存する非対象分子もイオン化してしまい、測定される光イオン化質量スペクトル信号のS/N比(信号とノイズの比)が良くないという課題がある。
【0007】
また、低濃度の高分子化合物の試料を測定する場合には、前回までの測定で分析装置に導入した測定対象が装置内部に残存し、残存する測定対象分子の一部がイオン化してしまうという課題がある。さらに、測定を重ねると、レーザー光を装置内部に導入する窓の装置内部側に、測定対象試料がレーザー光による光反応で薄膜を形成し、徐々に窓に曇りが生じてレーザー光を減衰させてしまうという課題がある。
【0008】
さらにまた、分析試料ガス中の測定対象分子について、同質量数の異性体を区別するためには、異性体毎に異なる光吸収波長に応じて光イオン化レーザーの波長を変化させる必要がある。このため、一台のレーザーで複数の異性体を同時に測定することはできず、複数台のレーザーが必要となり、分析装置システムが複雑になるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、レーザーイオン化によるガスの検出において、非測定対象分子のイオン化を低減すること、測定対象試料の残存による測定誤差を低減すること、レーザー光を導入する窓の曇りを低減すること、レーザー光の波長を変化させずに異性体をも区別できるようにすること、の少なくとも一つを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、容器と、試料ガスを前記容器の内部に導入するガス導入手段と、導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、前記レーザー光の光子1個あたりのエネルギーよりも仕事関数が大きい物質からなる表面を具備するイオン加速電極と、前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、前記容器内のガスを排気する排気手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、容器と、試料ガスを前記容器の内部に導入するガス導入手段と、導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、内部の物質の仕事関数よりも仕事関数が大きい物質からなる表面を具備するイオン加速電極と、前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、前記容器内のガスを排気する排気手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、容器と、試料ガスを前記容器の内部に導入するガス導入手段と、導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、所定の光路範囲から外れた前記レーザー光および前記レーザー光の散乱光を遮る遮光手段と、イオン加速電極と、前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、前記容器内のガスを排気する排気手段と、を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、容器と、試料ガスを前記容器の内部に導入するガス導入手段と、導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、イオン加速電極と、前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、前記容器の内部の少なくとも一部を加熱する加熱手段と、前記容器内のガスを排気する排気手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、容器と、試料ガスを前記容器の内部に導入するガス導入手段と、導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、イオン加速電極と、前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、前記容器の内部の少なくとも一部を洗浄する洗浄手段と、前記容器内のガスを排気する排気手段と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、容器と、試料ガスを前記容器の内部に導入するガス導入手段と、導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、イオン加速電極と、前記測定対象ガス分子よりも前記レーザー光によりイオン化されにくいガスを、前記レーザー光が透過する物質の表面に吹き付けるガス導入手段と、前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、前記容器内のガスを排気する排気手段と、を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、容器と、温度制御可能なキャピラリカラムを備えた、試料ガスを前記容器の内部に導入する試料ガス導入手段と、導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、イオン加速電極と、前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、前記容器内のガスを排気する排気手段と、を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス分析方法において、試料ガスを容器の内部に導入するガス導入工程と、前記ガス導入工程で導入された試料ガスの一部にレーザー光を照射する照射工程と、前記照射工程でレーザー光によりイオン化されたイオンを電気的に加速するイオン加速工程と、前記イオン加速工程で加速されたイオンを検出する検出工程と、前記容器を加熱する加熱工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス分析方法において、試料ガスを容器の内部に導入するガス導入工程と、前記ガス導入工程で導入された試料ガスの一部にレーザー光を照射する照射工程と、前記照射工程でレーザー光によりイオン化されたイオンを電気的に加速するイオン加速工程と、前記イオン加速工程で加速されたイオンを検出する検出工程と、前記容器の内部に残留した試料ガスを洗浄する洗浄工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス分析方法において、所定の期間、試料ガスをキャピラリカラムに取り入れるガス収集工程と、前記ガス収集工程で取り入れられた試料ガスを容器の内部に導入するガス導入工程と、前記ガス導入工程で導入された試料ガスの一部にレーザー光を照射する照射工程と、前記照射工程でレーザー光によりイオン化されたイオンを電気的に加速するイオン加速工程と、前記イオン加速工程で加速されたイオンを検出する検出工程と、試料ガスが前記キャピラリカラムを通過するのに要する時間、および、イオン化からイオンが検出されるまでに要する時間に基づいて試料ガスの成分およびその割合を求めるデータ処理工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、レーザーイオン化によるガスの検出において、非測定対象分子のイオン化を低減すること、測定対象試料の残存による測定誤差を低減すること、レーザー光を導入する窓の曇りを低減すること、レーザー光の波長を変化させずに異性体をも区別できるようにすること、の少なくとも一つが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係るレーザーイオン化ガス検出装置の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
図1および図2は、レーザーイオン化ガス検出装置の断面図である。
【0023】
レーザーイオン化ガス検出装置は、互いに軸が垂直な第一の円筒41と第二の円筒42が接合部43で交わっていて、その内部が一つの空間を形成している光反応セル4を有している。
【0024】
光反応セル4を形成する第一の円筒41の両端にはレーザー透過窓7が取り付けられている。レーザー光6はレーザー導入窓7から光反応セル4に入射し、第一の円筒41の軸に沿って進む。また、第一の円筒41の軸方向中央にはパルスバルブ3が取り付けられていて、レーザー光6が通過する位置に試料ガスのパルス分子ビーム5が放出されるようになっている。さらに、試料ガスのパルス分子ビーム5がレーザー光6に照射される位置をはさんで、一対のメッシュ状のイオン加速電極8が取り付けられている。
【0025】
また、このレーザー光6が通過する光路を囲むように、散乱光除去バッフル11が取り付けられている。散乱光除去バッフル11は、イオン加速電極8とレーザー透過窓7の間に複数配置されている。散乱光除去バッフル11は、たとえば中央にレーザー光6のビーム径よりも大きな貫通孔がある円錐状の板であり、レーザー透過窓7から試料ガスのパルス分子ビーム5がレーザー光6に照射される位置に向かって凹になるように配設されている。また、第一の円筒41の内部には、レーザー透過窓7の近傍にノズル18が取り付けられており、このノズル18は配管17を介して不活性ガスボンベ16に接続している。
【0026】
第二の円筒42は、イオン加速電極8を内包するように、第一の円筒41の軸方向中央の接合部43で接合している。第二の円筒42の一端にはイオン検出器9が取り付けられている。イオン検出器9が出力する信号は、データ処理器22に送られる。
【0027】
また、レーザーイオン化ガス検出装置は、開閉可能な試料ガス導入口20およびキャピラリカラム1を有している。キャピラリカラム1は、試料ガス導入配管2およびパルスバルブ3を介して、光反応セル4の接合部43に接続している。
【0028】
光反応セル4、試料ガス導入口20、キャピラリカラム1、試料ガス導入配管2およびパルスバルブ3の外側には、これらを加熱するヒーター12が取り付けられている。また、試料ガス導入配管2の途中には、洗浄溶液容器13が洗浄溶液導入配管14を介して接続されている。洗浄溶液導入配管14の途中には、バルブ15が挿入されている。
【0029】
次に、このレーザーイオン化ガス検出装置を用いた、測定対象ガスの検出方法を説明する。
【0030】
試料ガスはガス導入口20から入り、キャピラリカラム1を経由した後、試料ガス導入配管2を介して、パルスバルブ3により真空排気された光反応セル4の接合部43にパルス的に導入される。キャピラリカラム1の温度の昇降時間制御を行うことで、試料ガスに含まれる異性体に応じて、キャピラリカラム1の通過時間には数分から数十分の時間差が生じる。
【0031】
このパルスバルブ3から光反応セル4に導入された試料ガスは、試料ガスのパルス分子ビーム5となって光反応セル4に導入される。試料ガスのパルス分子ビーム5は、レーザー透過窓7を通って光反応セル4に入ったレーザー光6が照射され、測定対象のガス分子は選択的にイオン化される。レーザー光6は、たとえばパルス発振レーザーであり、測定対象ガスに応じて、波長、波長幅、パルスエネルギー、パルス幅等を適正化することにより、測定対象ガス分子を選択的にイオン化することができる。
【0032】
イオン化された測定対象ガス分子は、イオン加速電極8によりつくられた電場によって、第二の円筒42の内部でイオン検出器9の方向に加速され、イオン検出器9によって検出される。イオン検出器9が出力する信号は、データ処理器22に送られ、飛行時間型分析法による光イオン化質量スペクトルが得られる。この光イオン化質量スペクトルのピーク質量数と信号強度から、分子を同定するとともに定量する。
【0033】
また、レーザー波長が一定の場合に、飛行時間型分析法だけでは、測定対象分子の種類や異性体を区別しにくいことがある。本実施形態では、キャピラリカラム1を用いることにより、測定対象分子の種類や異性体ごとに光反応セル4に到達する時間がことなることを利用して、測定対象分子の種類や異性体を区別している。
【0034】
試料ガス導入口20を短時間開いて試料ガスをキャピラリカラム1に導入した後、試料ガス導入口20を閉じる。試料ガスはその種類に応じてキャピラリカラム1を通過する時間が異なり、データ処理器22は、この通過時間および光イオン化質量スペクトルに基づいて測定対象分子の種類や異性体を区別するようになっている。このように、キャピラリカラム1を用いることにより、レーザー光の波長を変化させること無く、一台のレーザーで複数の異性体を同時に測定することができるようになる。
【0035】
なお、測定対象分子に応じて、キャピラリカラム1の長さを適正化しておくことが好ましい。この長さは、たとえば0〜数十m程度の範囲にある。分析試料ガスが微量のダイオキシン類を含む空気であって、Nd:YAGレーザーの4倍波(出力波長266nm)の光照射でイオン化して異性体区別をする場合には、ガスクロマトグラフィー質量分析装置用の有機ハロゲン化物質分離用キャピラリカラムを用いるとよい。また、キャピラリカラム1を加熱するヒーター12は、温度の昇降時間制御が可能であることが好ましい。
【0036】
また、レーザー光6およびその散乱光10は、イオン加速電極8に到達して、電極材の光電効果による電子を生成させる可能性がある。この電子は非測定対象の分子を電子衝撃イオン化する場合がある。レーザー光6は、測定対象分子を選択的にイオン化することができるが、電子衝撃イオン化では、測定対象分子以外の試料ガス中不純物や真空中残存炭素化合物等も非選択的にイオン化されてしまう。
【0037】
そこで、イオン加速電極8に、仕事関数の大きい物質を用いることで、電子生成量を低減し、電子衝撃イオン化を抑制している。仕事関数とは、固体表面から1個の電子を取り出すために必要なエネルギーである。イオン加速電極8に用いる物質は、レーザー光6の光子1個あたりのエネルギーよりも仕事関数が大きい物質が好ましいが、光子1個あたりのエネルギーよりも小さいものであっても、なるべく仕事関数が大きい物質を選択したほうがよい。また、イオン加速電極8の電極基板の表面に仕事関数が大きい物質でメッキ処理を施してもよい。
【0038】
実験により求められている金属の仕事関数の例として、Zn、Cr、Fe、Cu、Niのそれぞれの仕事関数は、4.33eV、4.44eV、4.60eV、5.02eV、5.22eVであることが公開されている。波長266nmの光子の場合、そのエネルギーは4.66eVであるため、この光子がCuまたはNiの金属表面に照射されることにより、光電効果が起きて光電子が放出されることは起こりえない。よって、波長が266nmのレーザー光を用いる場合は、CuまたはNiを電極材料あるいは電極メッキ材料とすることが好ましい。
【0039】
Zn、Cr、Feの場合には、波長266nmの光子によって光電効果が生じ、光電子が放出される。このため、Zn、Cr、Feは電極材料あるいは電極メッキ材料としては、CuおよびNiに比べると好ましくない。しかしながら、光電効果で放出される光電子の運動エネルギーは、光子のエネルギーと仕事関数の差で決まり、Zn、Cr、Feの順で小さくなる。したがって、Zn、Cr、Feの順で、光電子が非測定対象分子を電子衝撃イオン化する効果も小さくなることから、これら3種類の金属の中では、Feが電極材料あるいは電極メッキ材料として好ましい。
【0040】
たとえば、分析試料ガスとして微量のPCB類を含む空気を、Nd:YAGレーザーの4倍波(出力波長266nm)の光照射でイオン化する場合には、Niの電極を用いるか、ステンレス鋼の電極表面上にNiメッキを施したものを用いるとよい。
【0041】
このようなイオン加速電極8を用いることにより、試料ガス中に多量に共存する物質や光反応セル4に残存した炭素化合物等の非選択的イオン化が低減される。この結果、イオン化される分子の大部分は、レーザー光6によって直接イオン化される微量の測定対象分子であるPCB類となり、測定されるPCB類の光イオン化質量スペクトル信号のS/N比を向上させることができる。
【0042】
また、レーザー光6の光軸を囲むように取り付けられた散乱光除去バッフル11により、レーザー光6の散乱光10はイオン加速電極8に到達しにくくなっている。さらに、散乱光10の経路を幾何学的に制限するだけでなく、散乱光除去バッフル11を黒色にすることで、1回の散乱における散乱光量を低減させる効果もある。散乱光除去バッフル11は、たとえばSUS等の金属材料からなる板材を用い、さらに遮光効果を十分に得るために表面に黒色アルマイト加工などを施すのが好適である。また、散乱光除去バッフル11は、単一でもよいが、複数個用いると効果は向上する。また、バッフルの穴径は、レーザー光6のビーム径より大きいことを条件として、小さいほどよい。
【0043】
散乱光除去バッフル11のような遮光手段を用いることにより、イオン加速電極8の光電効果による電子生成量を低減し、非対象分子を電子衝撃イオン化するプロセスを抑制することができる。
【0044】
ヒーター12は、測定対象分子を、その融点以上に加熱できるようになっている。たとえば、分析試料ガスがPCB類、ダイオキシン類を含む空気の場合には、10℃〜300℃程度に制御できるようにすればよい。さらに、光反応セル4の表面全体、パルスバルブ3、試料ガス導入配管2、キャピラリカラム1の各部位を独立に加熱制御可能であると好ましい。
【0045】
また、測定を重ねることにより、測定対象ガス分子がレーザーイオン化ガス検出装置の内部に付着などして残存すると、その後の測定において、以前の測定で残存した分子をイオン化してしまい、正確な測定ができない可能性がある。そこで、光反応セル4には、真空ポンプ21を取り付けており、光反応セル4中の試料ガス等を装置の外部に排出できるようになっている。さらに、装置の内面に吸着等によって残存した物質を取り除くために、加熱手段と洗浄手段を有している。
【0046】
加熱手段であるヒーター12によって、測定対象分子の融点以上に温度を制御することで、測定対象分子が装置内部表面において吸着する量が低減され、装置内部表面に吸着していた測定対象分子がイオン化され、イオン検出器9に到達する量が抑制される。このため、以前の測定によって装置内部に残存した物質に起因する測定誤差が小さくなる。
【0047】
洗浄手段として、洗浄溶液容器13、洗浄溶液導入配管14およびバルブ15が取り付けられている。レーザーイオン化ガス検出装置の洗浄を行う場合、一時的に、洗浄溶液を洗浄溶液容器13から洗浄溶液導入配管14、バルブ15、試料ガス導入配管2およびパルスバルブ3を介して、光反応セル4に導入し、その後、真空排気する。この洗浄を数回繰り返し行ってもよい。装置内部表面に吸着した物質は、気化した洗浄溶液の蒸気もしくは洗浄溶液そのものに溶解し、光反応セル4の外部に排出される。このような洗浄手段により、レーザーイオン化ガス検出装置内部の付着分子を、短時間で強制的にクリーニングすることができる。このため、従来の装置において顕著であった、以前の測定によって装置内部に残存した物質に起因する測定誤差を低減させることができる。
【0048】
なお、洗浄溶液としては、有機ハロゲン化合物を測定対象分子とした場合には、測定対象分子の溶解度が高くて揮発性が高いものが好ましく、へキサン、アセトン、メチルアルコールなどの有機溶剤を用いるとよい。
【0049】
また、測定を重ねると、レーザー光導入窓7の分析装置内部側には、光反応で薄膜が徐々に形成され、窓に曇りが生じてレーザー光を減衰させてしまう可能性がある。そこで、本実施形態では、不活性ガスボンベ16に蓄えておいた不活性ガス19を、配管17を介してノズル18からレーザー透過窓7の分析装置側の表面に吹き付けるようにしている。不活性ガス19により、試料ガスそのものや光反応セル4に残存する物質のガスがレーザー透過窓7に接触する量が低減し、レーザー透過窓7の曇りが低減される。不活性ガスとしては、光反応性が低くイオン化エネルギーの高いものが好ましく、Ar、Kr、Xe、N等の不活性ガスを用いるとよい。
【0050】
なお、以上の説明は単なる例示であり、本発明は上述の実施形態に限定されず、様々な形態で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る一実施形態のレーザーイオン化ガス検出装置の断面図であって、図2のB−B矢視断面図である。
【図2】本発明に係る一実施形態のレーザーイオン化ガス検出装置の断面図であって、図1のA−A矢視断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1…キャピラリカラム、2…試料ガス導入配管、3…パルスバルブ、4…光反応セル、5…試料ガスのパルス分子ビーム、6…レーザー光、7…レーザー透過窓、8…イオン加速電極、9…イオン検出器、10…散乱光、11…散乱光除去バッフル、12…ヒーター、13…洗浄溶液容器、14…洗浄溶液導入配管、15…バルブ、16…不活性ガスボンベ、17…配管、18…ノズル、19…不活性ガス、20…ガス導入口、21…真空ポンプ、22…データ処理器、41…第一の円筒、42…第二の円筒、43…接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、
容器と、
試料ガスを前記容器の内部に導入するガス導入手段と、
導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、
前記レーザー光の光子1個あたりのエネルギーよりも仕事関数が大きい物質からなる表面を具備するイオン加速電極と、
前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、
前記容器内のガスを排気する排気手段と、
を有することを特徴とするレーザーイオン化ガス検出装置。
【請求項2】
分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、
容器と、
試料ガスを前記容器の内部に導入するガス導入手段と、
導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、
内部の物質の仕事関数よりも仕事関数が大きい物質からなる表面を具備するイオン加速電極と、
前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、
前記容器内のガスを排気する排気手段と、
を有することを特徴とするレーザーイオン化ガス検出装置。
【請求項3】
分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、
容器と、
試料ガスを前記容器の内部に導入するガス導入手段と、
導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、
所定の光路範囲から外れた前記レーザー光および前記レーザー光の散乱光を遮る遮光手段と、
イオン加速電極と、
前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、
前記容器内のガスを排気する排気手段と、
を有することを特徴とするレーザーイオン化ガス検出装置。
【請求項4】
前記遮光手段は、前記レーザー光の光路を囲む遮光板であることを特徴とする請求項3記載のレーザーイオン化ガス検出装置。
【請求項5】
前記遮光板は、前記レーザー光が前記測定対象ガス分子に照射される領域に対して凹で、中央に前記レーザー光よりも大きな貫通孔があいた円錐形状をしていることを特徴とする請求項4記載のレーザーイオン化ガス検出装置。
【請求項6】
分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、
容器と、
試料ガスを前記容器の内部に導入するガス導入手段と、
導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、
イオン加速電極と、
前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、
前記容器の内部の少なくとも一部を加熱する加熱手段と、
前記容器内のガスを排気する排気手段と、
を有することを特徴とするレーザーイオン化ガス検出装置。
【請求項7】
分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、
容器と、
試料ガスを前記容器の内部に導入するガス導入手段と、
導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、
イオン加速電極と、
前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、
前記容器の内部の少なくとも一部を洗浄する洗浄手段と、
前記容器内のガスを排気する排気手段と、
を有することを特徴とするレーザーイオン化ガス検出装置。
【請求項8】
分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、
容器と、
試料ガスを前記容器の内部に導入するガス導入手段と、
導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、
イオン加速電極と、
前記測定対象ガス分子よりも前記レーザー光によりイオン化されにくいガスを、前記レーザー光が透過する物質の表面に吹き付けるガス導入手段と、
前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、
前記容器内のガスを排気する排気手段と、
を有することを特徴とするレーザーイオン化ガス検出装置。
【請求項9】
分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス検出装置において、
容器と、
温度制御可能なキャピラリカラムを備えた、試料ガスを前記容器の内部に導入する試料ガス導入手段と、
導入された試料ガスの少なくとも一部にレーザー光を照射するレーザー光照射手段と、
イオン加速電極と、
前記試料ガスの分子のうち、前記レーザー光でイオン化され、前記イオン加速電極で加速されたイオンを検出するイオン検出器と、
前記容器内のガスを排気する排気手段と、
を有することを特徴とするレーザーイオン化ガス検出装置。
【請求項10】
試料ガスが前記キャピラリカラムを通過する時間およびイオン化した測定対象ガス分子の飛行時間に基づいて、前記イオン検出器で検出したガス分子を同定するデータ処理器、
を有することを特徴とする請求項9記載のレーザーイオン化ガス検出装置。
【請求項11】
分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス分析方法において、
試料ガスを容器の内部に導入するガス導入工程と、
前記ガス導入工程で導入された試料ガスの一部にレーザー光を照射する照射工程と、
前記照射工程でレーザー光によりイオン化されたイオンを電気的に加速するイオン加速工程と、
前記イオン加速工程で加速されたイオンを検出する検出工程と、
前記容器を加熱する加熱工程と、
を有することを特徴とするレーザーイオン化ガス分析方法。
【請求項12】
分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス分析方法において、
試料ガスを容器の内部に導入するガス導入工程と、
前記ガス導入工程で導入された試料ガスの一部にレーザー光を照射する照射工程と、
前記照射工程でレーザー光によりイオン化されたイオンを電気的に加速するイオン加速工程と、
前記イオン加速工程で加速されたイオンを検出する検出工程と、
前記容器の内部に残留した試料ガスを洗浄する洗浄工程と、
を有することを特徴とするレーザーイオン化ガス分析方法。
【請求項13】
前記洗浄工程は、有機溶剤を残留した試料ガスに接触させ、気化した前記有機溶剤を取り除くものであることを特徴とする請求項12記載のレーザーイオン化ガス分析方法。
【請求項14】
分子をレーザー光でイオン化して検出するレーザーイオン化ガス分析方法において、
所定の期間、試料ガスをキャピラリカラムに取り入れるガス収集工程と、
前記ガス収集工程で取り入れられた試料ガスを容器の内部に導入するガス導入工程と、
前記ガス導入工程で導入された試料ガスの一部にレーザー光を照射する照射工程と、
前記照射工程でレーザー光によりイオン化されたイオンを電気的に加速するイオン加速工程と、
前記イオン加速工程で加速されたイオンを検出する検出工程と、
試料ガスが前記キャピラリカラムを通過するのに要する時間、および、イオン化からイオンが検出されるまでに要する時間に基づいて試料ガスの成分およびその割合を求めるデータ処理工程と、
を有することを特徴とするレーザーイオン化ガス分析方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate