説明

レーザー分光分析装置およびそれを用いたレーザー分光分析方法

【目的】微小で凹凸のある分析箇所の位置を高精度に特定して分光分析できるレーザー分光分析装置およびそれを用いたレーザー分光分析方法を提供する。
【解決手段】試料ステージ11に載せた試料1には、電子銃2から発せられた走査電子線が偏向コイル3によって向きを調整されて照射され、発生した二次電子を二次電子検出器4によって捕獲する。同時に、レーザー光源5から発したレーザー光13が試料1に照射され、そこから発生した各種波長のレーザー光よりストークスラマン光のみをアイリス7、フィルタ8によって選択的に分光器9に入射し、光電子倍増管10によって計測する。本発明の顕微ラマン分光分析装置は走査電子顕微鏡の機能を有しているので分析箇所の特定を高精度に行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、面積が微小で凹凸の大きな分析箇所でも、分析箇所の位置を高精度に特定して分析できる顕微ラマン分光分析装置などのレーザー分光分析装置およびそれを用いたレーザー分光分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー分光分析装置の一つである顕微ラマン分光分析装置は、物質の構造解析や半導体素子の故障解析などに多用させる分光分析装置である。顕微ラマン分光分析装置はμmオーダーの大きさの分析箇所の分析を行なうことが出来る。
図3は、顕微ラマン分光分析装置の要部構成図である。この顕微ラマン分光分析装置は、試料ステージ51、対物レンズ53、ビームスプリッタ54、レーザー光源55、ハーフミラー57、遮光フィルタ58、分光器59、ネオンランプ60、レンズ61および可視光光源63を格納したTVカメラ62で構成される。
【0003】
試料ステージ51に試料52を載せ、TVカメラ62に格納された可視光光源63からレンズ61、ハーフミラー57、ビームスプリッタ54、対物レンズ53を通して試料52に可視光を照射し、その反射光を対物レンズ53、ビームスプリッタ54、ハーフミラー57およびレンズ61を通してTVカメラ62で受け、対物レンズ53で試料52に照射される可視光の焦点を合わせた後、試料ステージ51を移動して試料52の分析箇所(分析対象となる異物などがある箇所)の位置を特定する。可視光の光軸とレーザー光の光軸は合致しており、試料面に対して共に垂直な方向にある。そのため、可視光で分析箇所を特定すれば、レーザー光でも分析箇所が特定される。
【0004】
つぎに、レーザー光源55からレーザー光56をビームスプリッタ54、対物レンズ53を通して試料52の分析箇所に照射し、試料52からの反射光(ラマン散乱光)を対物レンズ53、ビームスプリッタ54、ハーフミラー57および遮光フィルタ58を通して分光器59に入力し、ラマン分光分析を行なう。
尚、TVカメラ62に格納された可視光光源63、レンズ61、ハーフミラー57、ビームスプリッタ54および対物レンズ53で光学顕微鏡による観測系が構成される。
【0005】
特許文献1および特許文献2には、ラマン分光分析機能を組み込んだ電子顕微鏡が記載されており、同一試料で電子線による解析とレーザー光によるラマン分光分析が行なえることが開示されている。
また、特許文献3において、試料を動かさずに試料を走査して分光分析し、2次元または3次元の分析マップを作ることができる装置および方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−514747号公報
【特許文献2】特表2004−538470号公報
【特許文献3】特表2004−526962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図3に示す顕微ラマン分光分析装置は、レーザー光の照射箇所の位置の特定を光学顕微鏡によって行なうため、分析箇所が微小で凹凸が大きい場合には、光学顕微鏡の分解能や焦点深度の浅さなどによって、分析箇所の位置を精度良く特定してレーザー光を分析箇所に照射することが困難であった。
また、特許文献1、特許文献2および特許文献3では、電子顕微鏡を用いて、分析箇所を特定して分光分析することについては触れられていない。
【0008】
この発明の目的は、前記の課題を解決して、微小で凹凸のある分析箇所の位置を高精度に特定して分光分析できるレーザー分光分析装置およびそれを用いたレーザー分光分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、特許請求の範囲の請求項1の発明によれば、1つの試料ステージに対し、電子銃および二次電子検出器と、出力を可変できるレーザー光源および分光器の両方を備えたレーザー分光分析装置において、高出力の前記レーザー光で前記電子銃から出射される電子線と前記レーザー光の焦点を一致させるためのマーキングを試料の分析箇所から離れた箇所に形成し、低出力の前記レーザー光で前記分析箇所の分光分析を行うレーザー分光分析装置とする。
【0010】
また、特許請求項の範囲の請求項2の発明によれば、請求項1の発明において、前記レーザー光源および前記分光器の位置を、これらの周囲に配したピエゾ素子によって移動させるとよい。
また、特許請求範囲の請求項3の発明によれば、1つの試料ステージに対し、電子銃および二次電子検出器と、出力を可変できるレーザー光源および分光器の両方を備えたレーザー分光分析装置を用いた分光分析方法において、前記レーザー光の出力を上げて試料の分析箇所から離れた箇所に溶融痕を付けてマーキングを形成する工程と、前記電子銃から出射された電子線の焦点を前記マーキングに合わせて、前記電子線の焦点と前記レーザー光の焦点を一致させる工程と、前記電子線の焦点を前記分析箇所に合わせる工程と、前記レーザー光の出力を小さくして該レーザー光を前記分析箇所に照射してレーザー分光分析を行う工程と、を含むレーザー分光分析方法とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、面積が微小で凹凸の大きな分析箇所から離れた箇所にレーザー光を照射して溶融痕でマーキングし、このマーキング位置に走査電子顕微鏡の焦点を合わせ、その後で、分析箇所を走査型電子顕微鏡で特定することで、走査電子顕微鏡の分解能でレーザー照射位置を高精度に特定して分光分析することができるレーザー分光分析装置およびそれを用いたレーザー分光分析方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の一実施例のレーザー分光分析装置の要部構成図である。
【図2】本発明の顕微ラマン分光分析装置を用いた分光分析方法であり、(a)〜(e)は工程順に示した分析方法の工程図である。
【図3】顕微ラマン分光分析装置の要部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のレーザー分光分析装置は、レーザー分析装置としての機能のほかに、分析箇所の位置を高精度に特定するための走査電子顕微鏡としての機能も合わせて具備している。
実施の形態を以下の実施例で説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、この発明の一実施例のレーザー分光分析装置の要部構成図である。ここではレーザー分光分析装置として顕微ラマン分光分析装置を例に取り上げて説明する。
この顕微ラマン分光分析装置は、試料ステージ11、電子銃2、偏向コイル3、二次電子検出器4、レーザー光源5、レーザー光源5を微動させるピエゾ素子6、レーザー光13を絞るアイリス7(光学絞り)、フィルタ8、分光器9および光電子倍増管10で構成される。図1に示すように電子線12の線軸14とレーザー光13の光軸15は一致していない。これらの線軸14、光軸15は試料面に対して斜めになっている。
【0015】
試料ステージ11に載せた試料1には、電子銃2から発せられた走査電子線が偏向コイル3によって向きを調整されて照射され、発生した二次電子を二次電子検出器4によって捕獲する。
同時に、レーザー光源5から発したレーザー光13が試料1に照射され、そこから発生した各種波長のレーザー光よりストークスラマン光のみをアイリス7、フィルタ8によって選択的に分光器9に入射し、光電子倍増管10によって計測する。レーザー光源5および分光器9は周囲に配したピエゾ素子6によって位置の調整が行なわれる。本発明の顕微ラマン分光分析装置は分析箇所の特定を高精度に行なえるように走査電子顕微鏡の機能を具備している。
【0016】
図2は、本発明の顕微ラマン分光分析装置を用いた分光分析方法であり、同図(a)〜同図(e)は工程順に示した分析方法の工程図である。
先ず、同図(a)において、試料1の分析箇所21と離れた箇所にレーザー光13の焦点16がくるように、レーザー光源5をピエゾ素子6で移動させる。
つぎに、同図(b)において、レーザー光源5の出力を上げて、試料に高パワーのレーザー光13aを照射して溶融痕を付けることでマーキング17をする。このマーキング17は試料1を取り替える都度に行なう。
【0017】
つぎに、同図(c)において、走査電子顕微鏡の電子銃2から出射される電子線12の焦点18の位置とマーキング17の位置のズレを把握する。このズレの把握は、例えば、マーキング17の位置情報と電子線12の焦点16の位置情報を図示しないコンピュータに入力して試料1の表面に座標軸を設定し数値化する。
つぎに、同図(d)において、この数値化されたズレに基づいて、電子銃2から出射される電子線12の線軸14を偏向コイル3により移動させて、マーキング17の位置に電子線12の焦点18を合わせる。
【0018】
つぎに、同図(e)において、電子線12の焦点16とレーザー光13の焦点18(集光された照射点)が合った状態で、図示しない試料ステージ11を移動させて試料1の分析箇所21を走査電子顕微鏡で特定し、レーザー光源5の出力を低く設定した後、分析箇所21に低パワーのレーザー光13を照射してラマン分光分析を行なう。尚、図2では説明上、電子線12の線軸14が試料1の表面に対して斜めに描かれているが実際は殆ど垂直である。
【0019】
この顕微ラマン分光分析では、走査電子顕微鏡像で分析箇所21の位置を特定するため、サブミクロンの微小な面積で段差が数μmある大きな凹凸の分析箇所21であっても、焦点深度の深い電子顕微鏡を用いるために、その分析箇所21の位置を精度良く特定できる。
そのため、分析箇所21にレーザー光13が精度良く照射されることになり、精度の高いラマン分光分析ができる。また、走査電子顕微鏡像により、レーザー光13の照射前後での分析箇所21の形状変化などの分析も付随的に可能となる。
【0020】
尚、本発明は、顕微ラマン分光分析装置の他に、第2高調波を用いて分光分析する第2高調波分光分析装置、周波数の異なる光源を2本試料に同時に照射して分光分析する和周波分光分析装置および光路長差を用いて分光分析する時間分解分光分析装置などのレーザー分光分析装置にも適用できる。その具体的な分光分析装置と分析方法についてはここでは説明を省略する。
【符号の説明】
【0021】
1 試料
2 電子銃
3 偏向コイル
4 二次電子検出器
5 レーザー光源
6 ピエゾ素子
7 アイリス
8 フィルタ
9 分光器
10 光電子倍増管
11 試料ステージ
12 電子線
13 レーザー光(低パワー)
13a レーザー光(高パワー)
14 線軸
15 光軸
16、18 焦点
17 マーキング
21 分析箇所


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの試料ステージに対し、電子銃および二次電子検出器と、出力を可変できるレーザー光源および分光器の両方を備えたレーザー分光分析装置において、
高出力の前記レーザー光で前記電子銃から出射される電子線と前記レーザー光の焦点を一致させるためのマーキングを試料の分析箇所から離れた箇所に形成し、低出力の前記レーザー光で前記分析箇所の分光分析を行うことを特徴としたレーザー分光分析装置。
【請求項2】
前記レーザー光源および前記分光器の位置を、これらの周囲に配したピエゾ素子によって移動させることを特徴とした請求項1に記載のレーザー分光分析装置。
【請求項3】
1つの試料ステージに対し、電子銃および二次電子検出器と、出力を可変できるレーザー光源および分光器の両方を備えたレーザー分光分析装置を用いた分光分析方法において、
前記レーザー光の出力を上げて試料の分析箇所から離れた箇所に溶融痕を付けてマーキングを形成する工程と、
前記電子銃から出射された電子線の焦点を前記マーキングに合わせて、前記電子線の焦点と前記レーザー光の焦点を一致させる工程と、
前記電子線の焦点を前記分析箇所に合わせる工程と、
前記レーザー光の出力を小さくして該レーザー光を前記分析箇所に照射してレーザー分光分析を行う工程と、
を含むことを特徴とするレーザー分光分析方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−190595(P2010−190595A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32420(P2009−32420)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】