説明

レーザー溶接方法

【課題】 スポット径が細いレーザービームを照射して板厚の厚い被溶接材を溶接する際に、溶融接合部からの破断を避け、母材破断を発生させるほどに高い接合強度を発揮させることができるレーザー溶接方法の提供。
【解決手段】 最小板厚がレーザービームのスポット径を超える被溶接材を2枚重ね合わせて溶接する際、レーザー溶接の溶接開始点から溶接終了点に至る溶接軌跡に沿ってレーザービームを前記被溶接材に照射し、被溶接材の最小板厚以上の幅を有する溶接ビードを描く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ね合わせた2枚の被溶接材を、高接合強度でレーザー溶接する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、重ね合わせた2枚の板材を接合する方法として抵抗スポット溶接法が、自動車分野等で多用されている。抵抗スポット溶接法は、薄板溶接時の変形防止が可能であるばかりでなく、生産性にも優れるために使いやすい技術ではある。しかし、電極を被溶接材の両面から加圧する必要があるため、狭隘な場所での適用は困難である。
そこで、狭隘な箇所での使用が可能なレーザー溶接法が採用されるようになっている。
【0003】
レーザー溶接は、レーザー発振器から伝送されたレーザービームを集光ビーム等の集光光学系を用いて微小スポットに集光させ、片面から照射して被溶接材を溶融させて溶接する接合方法である。
自動車分野でも、インストルメントパネル等が取り付けられるリインホースメントのパイプと取付部材とを接合する際に利用することが、特許文献1で紹介されている。
【特許文献1】特開2004−98122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のレーザー溶接法は、重ね合わせ部を有する2つの被溶接材の前記重ね合わせ部にレーザービームを照射して溶接する際、溶接開始点から溶接終了点に至る溶接軌跡に沿って、かつ当該溶接軌跡が前記溶接終了点に至るまでに折り返され、しかも前記溶接開始点と前記溶接終了点とが重なることなく、前記被溶接材に加わる外力による応力集中が生じない箇所を前記溶接終了点としてレーザービームを照射し、溶接しようとするものである。溶接軌跡は、結果的にC型ないし結合点のない楕円形状となっている。
【0005】
ところで、2枚の被溶接材を重ね合わせ、レーザー溶接、或いは抵抗スポット溶接により継手溶接する際、溶接部の溶融接合部の面積が同じであれば、いずれの方法によっても接合強度は同じになる。
通常、抵抗スポット溶接法では電極当接面全体が溶融接合部になるのに対して、レーザー溶接法ではレーザービームの照射軌跡のみが溶融接合部になる。このため、特許文献1で提案された技術では、C型ないし楕円状軌跡を形成されているため、内部が溶融接合されていない状態の溶接部が得られていることになる。
したがって、溶接部の面積が同じである場合、レーザー溶接法を採用すると、抵抗スポット溶接法を採用したときと比較して低い接合強度しか得られない。逆の表現をすると、レーザー溶接法を採用して所要の接合強度を得ようとすると、広い溶接部を確保しなければならず、非効率であるばかりでなく被溶接材に及ぼす熱影響範囲を広げて変形を生じさせる原因にもなる。
【0006】
また、溶接した2枚の被溶接材を引張破断させたときの破断状態を観察すると、抵抗スポット溶接法を採用したものにあっては、溶接部に作用される引張せん断荷重がナゲットより外側の打痕外周に集中してその部分から破断(いわゆる母材破断)している。これに対して、レーザー溶接法を採用したものにあっては、レーザービームを照射して溶接した溶融接合部の幅が被溶接材の板厚よりも広い場合にはいわゆる母材破断となっているが、溶融接合部の幅が被溶接材の板厚よりも狭い場合には溶融接合部破断を起こしている。レーザービームのスポット径よりも被溶接材の板厚が厚いと、溶融接合部の幅が母材破断を発生させるに足る幅でないために溶融接合部破断を起こしているものと推測される。スポット径が細いレーザービームを照射して板厚の厚い被溶接材を溶接しようとすると、溶融接合部が破断しやすく、所要の接合強度を発揮することができない溶接接合状態しか得られないことになる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、スポット径が細いレーザービームを照射して板厚の厚い被溶接材を溶接する際に、狭い面積の溶接部であっても、溶融接合部からの破断を避け、母材破断を発生させるほどに高い接合強度を発現するレーザー溶接方法を提供することを目的とする。
そして、本発明のレーザー溶接方法は、その目的を達成するため、最小板厚がレーザービームのスポット径を超える被溶接材を2枚重ね合わせて溶接する際、レーザー溶接の溶接開始点から溶接終了点に至る溶接軌跡に沿ってレーザービームを前記被溶接材に照射し、被溶接材の最小板厚以上の幅を有する溶接ビードを描くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明で提供されるレーザー溶接方法によると、照射されたレーザービームの照射軌跡全域が溶融接合部となり、その幅は被溶接材の最小板厚よりも広くなっている。このため、溶接部に引張せん断荷重が作用されても、溶融接合部破断を発生させることなく、母材部から破断することになる。
したがって、狭い面積の溶接部であっても、高い接合強度を発現する溶接部を得ることができ、自動車部材等の溶接接合作業をより簡便に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者等は、スポット径が細いレーザービームを照射して板厚の厚い被溶接材を溶接する際に、狭い面積の溶接部であっても、十分な溶融接合部面積を確保し、母材破断を生じさせる溶接方法について種々検討を重ねてきた。
その結果、レーザービームを照射して溶接する際、レーザー溶接の溶接開始点から溶接終了点に至る溶接軌跡に沿ってレーザービームを前記被溶接材に照射し、被溶接材の最小板厚以上の幅を有する溶融接合部、すなわち溶接ビードを描くことが効果的であることを見出したものである。
以下に検討過程を含め、本発明の詳細を説明する。
【0010】
まず、スポット径が細いレーザービームを照射して板厚の厚い被溶接材を溶接する際の溶融接合部幅を広げることの有用性を確認するために、次のような予備実験を行った。
すなわち、図1に示すように、幅30mm×長さ100mm×板厚1.2mmの冷延鋼板を重ね代30mmで重ね合わせ、重ね合わせ部の中央に表1に示す条件でレーザービーム照射を行って2枚の板材を重ね合わせ継手溶接した。この際、図2に示すような3種類の溶接ビードを描いた。
【0011】
いずれの溶接ビードも円形であるが、(a)は円形を一本のレーザービーム軌跡で描いたものであり、溶融接合幅は0.8mmであった。また、(b)はレーザービーム軌跡をスパイラル状に描いたもので、円形内が全領域にわたって溶融接合された状態である。さらに、(c)は溶接ビードを円形の内側に一本増やしたものであり、溶融接合部幅は1.6mmであった。
これらの溶融接合幅が異なる状態で、種々の円形外径に溶接したサンプルを作製し、JIS Z3136の「抵抗スポット及びプロジェクション溶接継手のせん断試験に対する試験片寸法及び試験方法」に準拠し、上記サンプルを長手方向に5mm/分の速度で引っ張る引張せん断試験を行って、各サンプルの接合強度を比較した。
【0012】

【0013】
図2の(a)と(b)の溶接ビード形状での接合強度を比較した結果を図3に示す。
接合強度は、溶接ビードの円形外径を大きくするほど高くなっているが、図2(b)の溶接ビードのように円形内が全て溶融されている状態、すなわち溶融接合部幅が板厚以上になっている場合の方が、(a)の溶接ビードのように円形状態、すなわち溶融接合部幅が板厚に満たない場合よりも高くなっている。
また破断状態を観察すると、溶融接合部幅が板厚以上になっている場合(図2(b)の状態)は母材破断であったが、溶融接合部幅が板厚未満の場合(図2の(a)の状態)は溶融接合部破断であった。
【0014】
さらに、図2(c)で示した形状の溶接ビードを描いたサンプルについても同じ引っ張りせん断試験を行った。
その結果、接合強度及び破断状態とも、図3の溶融接合部幅が板厚以上の場合(図中の●プロット)とほとんど同じで、溶融接合部幅が板厚未満の場合よりも高くなっていた。
ところで、上記溶接試験では、0.6mmのビームスポット径となるレーザービームを照射して0.8mmの溶融接合部を得ているが、レーザー溶接の際、ビームスポット径よりも僅かに広い溶融接合部が得られる。
【0015】
上記結果と合わせて検討すると、最小板厚がレーザービームのスポット径を超える被溶接材を2枚重ね合わせて溶接する際に、被溶接材の最小板厚以上の幅を有する溶融接合部、すなわち溶接ビードを描けば、溶融接合部破断を発生させることなく、母材部から破断する溶接接合部を得ることができることがわかる。
スポット径の細いレーザービームを用いて幅の広い溶融接合部を得るには、溶接開始点から溶接終了点に至るまで、レーザービームをその軌跡が折り返されてS字を繰り返して描くように、或いは螺旋を描くように照射すればよい。照射方法に制限はない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】レーザー溶接法を適用して2枚の板材を重ね合わせ継手溶接する態様を説明する図
【図2】レーザービームの照射軌跡の違いによって異なる溶接ビードの形態を説明する図
【図3】円形溶接ビードの径と接合強度の関係を示した図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最小板厚がレーザービームのスポット径を超える被溶接材を2枚重ね合わせて溶接する際、レーザー溶接の溶接開始点から溶接終了点に至る溶接軌跡に沿ってレーザービームを前記被溶接材に照射し、被溶接材の最小板厚以上の幅を有する溶接ビードを描くことを特徴とするレーザー溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−888(P2007−888A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182211(P2005−182211)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】