説明

レーザー顕微鏡

【課題】標本面における照射位置と照射角度をそれぞれ独立して制御するレーザー顕微鏡の技術を提供することを課題とする。
【解決手段】レーザー顕微鏡1は、レーザー光を射出するレーザー光源16と、標本11にレーザー光を照射する対物レンズ10と、対物レンズ10の瞳共役面にレーザー光を集光させる集光レンズ22と、レーザー光を光軸と直交する方向に平行に移動させる平行平板23と、レーザー光を標本11に照射する照射位置を移動させて標本11を走査する走査手段24と、平行平板23を回転させて、レーザー光が平行に移動するシフト量を制御する制御装置26と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー顕微鏡に関し、特に、走査手段で標本を走査するレーザー顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
生体分野で使用されるレーザー顕微鏡の一構成として、標本上にレーザー光を集光させて標本を励起する励起手段と、対物レンズの瞳面に励起手段からのレーザー光とは異なる波長のレーザー光を集光させて標本上の一定の領域にレーザー光を平行光として照射する光刺激手段と、を含む構成が知られている。
【0003】
このような構成を有するレーザー顕微鏡は、励起手段と光刺激手段のそれぞれに走査手段を設けることで、励起位置と光刺激位置とを独立して制御することができる。これにより、標本上の任意の部位に光刺激を与えながら標本をイメージングしてその反応を観察することができる。
このようなレーザー顕微鏡は、例えば、特許文献1で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−288321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したレーザー顕微鏡の光刺激手段には、走査範囲内の各照射位置において、一定の照射角度で入射するおよそ均一な強度分布を有するレーザー光を照射する機能が求められている。
【0006】
顕微鏡では、対物レンズの瞳位置と光学的に共役な位置(以降、瞳共役位置と記す。)で光を偏向させることで、標本に照射する光の照射角度を変更することなく、標本に照射する光の照射位置を変更することができるため、走査手段は、対物レンズの瞳共役位置に配置されることが望ましい。
【0007】
しかしながら、現在、標本を2次元的に走査する走査手段の構成として最も一般的な構成は、X方向に標本を走査するためのガルバノミラーとY方向に標本を走査するためのガルバノミラーとを含む構成であり、特許文献1に開示されるレーザー顕微鏡の走査手段の構成も同様である。
【0008】
このような構成を有する走査手段(以降、近接ガルバノミラーユニットと記す。)では、両方のガルバノミラーを同時に対物レンズの瞳共役位置に配置することは物理的に不可能であるため、両方のガルバノミラーを互いに比較的近接して配置し、且つ、そのおよそ中間に対物レンズの瞳共役位置が位置するように構成される。
【0009】
従って、近接ガルバノミラーユニットを用いた場合、それぞれのガルバノミラーによる光の偏向位置と対物レンズの瞳共役位置とは完全には一致していないため、光の照射位置を変更すると、標本に照射する光の照射角度も変化してしまう。つまり、標本面における照射位置と照射角度をそれぞれ独立して制御することができない。
以上のような実情を踏まえ、本発明では、標本面における照射位置と照射角度をそれぞれ独立して制御するレーザー顕微鏡の技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、レーザー光を射出するレーザー光源と、標本に前記レーザー光を照射する対物レンズと、前記対物レンズの瞳面と共役な瞳共役面に前記レーザー光を集光させる集光レンズと、前記レーザー光を前記標本に照射する照射位置を移動させて、前記標本を走査する走査手段と、前記レーザー光を光軸と直交する方向に平行に移動させるシフト手段と、前記シフト手段を駆動させて、前記レーザー光が平行に移動するシフト量を制御するシフト制御手段と、を含むレーザー顕微鏡を提供する。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載のレーザー顕微鏡において、前記走査手段は、光軸と直交する第1の方向に前記標本を走査する第1の走査手段と、光軸と直交し且つ前記第1の方向と直交する第2の方向に前記標本を走査する第2の走査手段と、を含み、前記シフト制御手段は、前記照射位置に応じて、前記シフト量を制御するレーザー顕微鏡を提供する。
【0012】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載のレーザー顕微鏡において、前記シフト制御手段は、前記照射位置によらず、前記レーザー光が前記標本を一定の照射角度で照射するように、前記シフト量を制御するレーザー顕微鏡を提供する。
【0013】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載のレーザー顕微鏡において、前記第1の走査手段は、光軸と直交する第1の回転軸周りに回転する第1のミラーであり、前記第2の走査手段は、光軸と直交し且つ前記第1の回転軸と直交する第2の回転軸周りに回転する第2のミラーであり、前記第1のミラーと第2のミラーの間に、前記瞳共役面が位置するレーザー顕微鏡を提供する。
【0014】
本発明の第5の態様は、第3の態様に記載のレーザー顕微鏡において、前記シフト制御手段は、前記レーザー光の前記瞳面における集光位置が光軸上に位置するように、前記シフト量を制御するレーザー顕微鏡を提供する。
【0015】
本発明の第6の態様は、第3の態様に記載のレーザー顕微鏡において、前記シフト制御手段は、前記レーザー光の前記瞳面における集光位置が光軸から逸れた位置に位置するように、前記シフト量を制御するレーザー顕微鏡を提供する。
【0016】
本発明の第7の態様は、第3の態様に記載のレーザー顕微鏡において、前記シフト制御手段は、前記対物レンズの倍率に応じて、前記シフト量を制御するレーザー顕微鏡を提供する。
【0017】
本発明の第8の態様は、第3の態様に記載のレーザー顕微鏡において、前記シフト制御手段は、前記レーザー光の波長に応じて、前記シフト量を制御するレーザー顕微鏡を提供する。
【0018】
本発明の第9の態様は、第3の態様に記載のレーザー顕微鏡において、前記シフト手段は、前記レーザー光が透過する平行平板であり、前記シフト制御手段は、前記シフト手段を光軸と直交する回転軸回りに回転させるレーザー顕微鏡を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、標本面における照射位置と照射角度をそれぞれ独立して制御するレーザー顕微鏡の技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1に係るレーザー顕微鏡の構成を例示した図である。
【図2】図1に例示されるレーザー顕微鏡に含まれるガルバノミラーの動作による瞳共役面における刺激光の集光位置の変化について説明するための図である。
【図3】図1に例示されるレーザー顕微鏡に含まれる対物レンズの瞳面における刺激光の集光位置の変動について説明するための図である。
【図4】図1に例示されるレーザー顕微鏡に含まれる平行平板による刺激光の平行移動について説明するための図である。
【図5】回転制御された平行平板を介して図1に例示されるレーザー顕微鏡に含まれるガルバノミラーに入射する刺激光の集光位置について例示した図である。
【図6】実施例1に係るレーザー顕微鏡に含まれるシフト手段の変形例を示した図である。
【図7】実施例1に係るレーザー顕微鏡に含まれるシフト手段の他の変形例を示した図である。
【図8】実施例2に係るレーザー顕微鏡の構成の一部を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0021】
図1は、本実施例に係るレーザー顕微鏡の構成を例示した図である。図1に例示されるレーザー顕微鏡1は、それぞれ独立に動作する観察用の走査手段5と刺激用の走査手段24とを含むことで、標本11上の任意の部位に光刺激を与えながら標本11をイメージングしてその反応を観察することができる、いわゆるツインスキャンと呼ばれる構成を有している。また、レーザー顕微鏡1は、刺激光路上に、走査手段24に加えて、刺激光を光軸と直交する方向に平行に移動させるシフト手段である平行平板23を含んでいる。これにより、レーザー顕微鏡1は、制御装置26が平行平板23及び走査手段24を制御することで、標本11に対して刺激光を照射する照射位置と照射角度をそれぞれ独立して制御することができる。
図1を参照しながら、レーザー顕微鏡1の構成について具体的に説明する。
レーザー顕微鏡1は、観察用の励起手段を含む観察手段と、光刺激手段と、制御装置26とを含んでいる。
【0022】
観察手段は、標本11を励起する励起光(レーザー光)を射出するレーザー光源2と、シャッター3と、励起光を反射し蛍光を透過するダイクロイックミラー4と、励起光の集光位置を標本11上で移動させて標本11を走査する走査手段5と、結像レンズ8と組み合わせて対物レンズ10の瞳を走査手段5に投影する瞳投影レンズ6と、励起光及び蛍光を透過し刺激光を反射するダイクロイックミラー7と、蛍光を集光させて中間像を形成する結像レンズ8と、ミラー9と、励起光を標本面上に集光させる対物レンズ10と、蛍光を共焦点絞り13上に集光させる共焦点レンズ12と、対物レンズ10の前側焦点位置(標本11)と光学的に共役な位置にピンホールが形成された共焦点絞り13と、励起光を遮断するバリアフィルタ14と、バリアフィルタ14を通過した蛍光を検出する光検出器15を含んでいる。
【0023】
走査手段5は、標本面における励起光の集光位置を光軸と直交するX方向に移動させてX方向に標本11を走査するガルバノミラー5aと、標本面における励起光の集光位置を光軸及びX方向と直交するY方向に移動させてY方向に標本11を走査するガルバノミラー5bと、を含み、ガルバノミラー5a及びガルバノミラー5bは、そのおよそ中間に対物レンズ10の瞳面10Pと光学的に共役な瞳共役面が形成されるように、配置されている。
【0024】
光刺激手段は、標本11を刺激する刺激光(レーザー光)を射出するレーザー光源16と、シャッター17と、ミラー18と、レンズ19及びレンズ20からなり刺激光のビーム径を変更するビーム径変更光学系と、対物レンズ10の前側焦点面(標本面)と光学的に共役な面に配置された開口径が可変な視野絞り21と、対物レンズ10の瞳面10Pと共役な瞳共役面に刺激光を集光させる集光レンズ22と、刺激光を光軸と直交する方向に平行に移動させる平行平板23と、刺激光を標本11に照射する照射位置を移動させて標本11を走査する走査手段24と、結像レンズ8と組み合わせて対物レンズ10の瞳を走査手段5に投影する瞳投影レンズ25と、ダイクロイックミラー7と、結像レンズ8と、ミラー9と、標本11に刺激光を照射する対物レンズ10と、を含んでいる。なお、ダイクロイックミラー7、結像レンズ8、ミラー9、及び、対物レンズ10は、観察手段と共有されている。
【0025】
走査手段24は、標本面における刺激光の照射位置を光軸と直交するX方向に移動させてX方向に標本11を走査するガルバノミラー24aと、標本面における刺激光の照射位置を光軸及びX方向と直交するY方向に移動させてY方向に標本11を走査するガルバノミラー24bと、を含み、ガルバノミラー24a及びガルバノミラー24bは、そのおよそ中間に対物レンズ10の瞳面10Pと光学的に共役な瞳共役面が形成されるように、配置されている。ガルバノミラー24a、ガルバノミラー24bは、例えば、それぞれY軸周り、X軸周りに回転する。
【0026】
シフト手段である平行平板23は、刺激光が透過する平行平板であって、刺激光が入射する入射面を光軸と直交するXY平面に対して任意の角度に傾けることができる。即ち、平行平板23は、X軸周りにもY軸周りにも回転可能に構成されている。
【0027】
制御装置26は、レーザー光源2、走査手段5、光検出器15、レーザー光源16、平行平板23、及び、走査手段24に接続されていて、レーザー光源2やレーザー光源16の発光波長の制御、走査手段5及び走査手段24への走査信号の送信、平行平板23の回転制御、光検出器15からの電気信号の受信などを行う。
図1を参照しながら、レーザー顕微鏡1全体の動作について概説する。
【0028】
レーザー光源2から平行光として射出された励起光は、シャッター3を通過して入射するダイクロイックミラー4で反射されて、走査手段5に入射する。制御装置26からの走査信号により制御された走査手段5は、ガルバノミラー5a、ガルバノミラー5bでそれぞれ光軸と直交するX方向、Y方向に励起光を偏向する。走査手段5から瞳投影レンズ6へ入射した励起光は、瞳投影レンズ6で収斂されて、収斂光または発散光としてダイクロイックミラー7を透過し、発散光として結像レンズ8に入射する。励起光は、結像レンズ8で再び平行光に変換されて、ミラー9を介して入射する対物レンズ10により標本11上に集光される。励起光が集光した標本11の集光位置では、標本11に含まれる蛍光物質が励起されて蛍光を発する。なお、標本面上における集光位置は、走査手段5でのX方向、Y方向への偏向量を制御することで、X方向、Y方向に任意に移動させることができる。
【0029】
標本11から生じた蛍光は、対物レンズ10により平行光に変換されて、励起光と同じ光路を反対向きに進行する。即ち、ミラー9、結像レンズ8、ダイクロイックミラー7、瞳投影レンズ6、及び、走査手段5を介してダイクロイックミラー4に入射する。ダイクロイックミラー4に入射した蛍光は、ダイクロイックミラー4を透過し、共焦点レンズ12により標本面(対物レンズ10の前側焦点面)と共役な面に配置された共焦点絞り13に集光する。焦点位置から生じた蛍光は、共焦点絞り13に形成されたピンホールを通過し、さらにバリアフィルタ14を通過して、光検出器15で検出される。
【0030】
光検出器15は、検出した蛍光を電気信号に変換して、制御装置26へ送信する。制御装置26は、光検出器15からの電気信号と走査手段5へ送信した走査信号とから、標本11の画像を生成し、不図示の表示装置に表示する。
【0031】
一方、レーザー光源16から平行光として射出された刺激光は、シャッター17を通過して入射するミラー18で反射され、レンズ19及びレンズ20からなるビーム径変更光学系に入射する。ビーム径変更光学系によりビーム径が調整された刺激光は、平行光として視野絞り21に入射する。
【0032】
可変絞りである視野絞り21は標本面と光学的に共役な面に配置されている。このため、視野絞り21の開口径を調整し視野絞り21を通過する刺激光のビーム径を調整することで、標本面における刺激光のビーム径を規定して標本11に照射する刺激光の照射範囲を制御することができる。また、刺激光の強度はガウス分布を有しているが、視野絞り21でガウス分布の裾野部分(刺激光の光束の周辺部分)を遮断し、比較的な均一な強度分布を有するガウス分布の中心部分(刺激光の光束の中心部分)を選択的に透過させる。これにより、標本11に照射される刺激光の強度分布の不均一が抑制されて、標本11を比較的均一な強度で照射することができる。
【0033】
視野絞り21を通過した刺激光は、集光レンズ22により収斂光に変換されて、収斂光として入射した平行平板23を透過する。平行平板23を透過した刺激光は、平行平板23で、平行平板23の屈折率と平行平板23への入射角により定まる量だけ光軸と直交する方向に平行移動し、収斂光束として走査手段24に入射する。なお、平行平板23で刺激光が光軸に対して平行移動する量(以降、シフト量と記す。)は、平行平板23を駆動する制御装置26により制御される。
【0034】
制御装置26からの走査信号により制御された走査手段24は、ガルバノミラー24a、ガルバノミラー24bでそれぞれ光軸と直交するX方向、Y方向に刺激光を偏向する。走査手段24で偏向され、発散光として瞳投影レンズ25へ入射した刺激光は、瞳投影レンズ25で平行光に変換されて、ダイクロイックミラー7に照射される。ダイクロイックミラー7に入射した刺激光はダイクロイックミラー7で反射され、結像レンズ8によりミラー9を介して対物レンズ10の瞳面10Pに集光する。瞳面10Pに集光した刺激光は、対物レンズ10により再び平行光に変換されて標本11に照射される。なお、標本面上における刺激光の照射位置は、走査手段24でのX方向、Y方向への偏向量を制御することで、X方向、Y方向に任意に移動させることができる。
【0035】
図2は、ガルバノミラー24aの動作による瞳共役面における刺激光の集光位置の変化について説明するための図であり、図2(a)、図2(b)は、それぞれガルバノミラー24aの反射面が光軸に対して異なる角度で傾斜している状態における刺激光の集光位置を示している。図3は、対物レンズ10の瞳面10Pにおける刺激光の集光位置の変動について説明するための図である。図4は、平行平板23による刺激光の平行移動について説明するための図である。図5は、回転制御された平行平板23を介してガルバノミラー24aに入射する刺激光の集光位置について例示した図である。
【0036】
図2から図5を参照しながら、標本面における刺激光の照射位置と照射角度をそれぞれ独立して制御するための平行平板23及び走査手段24の制御について、詳細に説明する。
【0037】
まず、平行平板23が光軸に対して所定の角度で固定されている場合について説明する。
走査手段24は、図2に例示されるように、ガルバノミラー24aとガルバノミラー24bの中間に瞳共役面24Pが形成されるように構成されている。このため、走査手段24では、図2(a)及び図2(b)に例示されるように、ガルバノミラー24aの反射面が光軸に対して所定の角度αで傾斜している状態で、刺激光が瞳共役面24Pの光軸上(即ち、瞳共役位置CP)に集光する場合、ガルバノミラー24aの反射面が異なる角度βで傾斜している状態では、刺激光は瞳共役面24Pの光軸から逸れた位置P1(以降、集光位置と記す。)に集光する。
【0038】
なお、刺激光が瞳共役位置CPに集光する状態(以降、基準状態と記す。)からのガルバノミラー24aの回転角(=α‐β)の2倍の角度を角度θ1とすると、刺激光の軸上の主光線は、ガルバノミラー24aにより光軸に対して角度θ1だけ傾斜した方向に反射される。このため、瞳共役位置CPと位置P1との距離h1は、ガルバノミラー24aによる刺激光の偏向位置と瞳共役面24Pとの距離をDとすると、D・tanθ1として算出される。
【0039】
瞳共役面24Pにおける瞳共役位置CPからの刺激光の集光位置のズレ(距離h1)は、対物レンズ10の瞳面10Pに引き継がれる。このため、図3の破線で示されるように、刺激光は瞳面10Pにおいても、距離h1に瞳投影レンズ25及び結像レンズ8からなる瞳投影光学系の投影倍率を乗じて算出される距離h2だけ光軸(瞳位置PP)から逸れた位置P2に集光する。このため、刺激光は標本面に垂直に入射せずに、標本面に対して照射角度θ2で入射する。ここで、図3の実線は、瞳共役位置CPに集光した場合における刺激光を示していて、刺激光が標本面に垂直に入射している様子が示されている。
【0040】
この照射角度θ2は、瞳面10Pにおける集光位置(位置P2)が光軸から離れるほど大きくなる。つまり、ガルバノミラー24aの基準状態からの回転量が大きくなるほど、標本面における照射角度が大きくなる。従って、平行平板23が固定されている場合には、制御装置26が走査手段24に走査信号を送信して標本面における刺激光の照射位置を変更すると、その照射位置に応じて、標本面における刺激光の照射角度が変化する。
【0041】
次に、制御装置26が平行平板23の回転を走査手段24の動作に応じて制御する場合について説明する。
刺激光は平行平板23を通過することで光軸と直交する方向に平行移動するが、そのシフト量は、図4に例示されるように、刺激光の入射角によって変化する。これを踏まえて、本実施例に係るレーザー顕微鏡1では、制御装置26が、図5に例示されるように、瞳共役面24Pにおける刺激光の集光位置が瞳共役位置CPに一致するように、ガルバノミラー24aの回転量に応じて平行平板23を回転させて、シフト量を制御する。これにより、瞳面10Pにおける集光位置も瞳位置PPに一致することになることになる。
【0042】
制御装置26が上述した制御を行うことにより、ガルバノミラー24aの回転量に応じて、瞳位置PPに入射する軸上の主光線の角度が変化して標本面における照射位置が変化するが、刺激光は回転量によらず瞳位置PPに集光するため、標本面における照射角度は標本11に垂直に維持される。
【0043】
従って、本実施例に係るレーザー顕微鏡1によれば、制御装置26が、ガルバノミラーの基準状態からの回転量、即ち、標本面における照射位置に応じて、平行平板23を回転させてシフト量を制御することにより、照射位置によらず刺激光が標本11を一定の照射角度で照射することができる。
【0044】
なお、説明を簡略するために、ガルバノミラー24aのみが動作する場合について上述したが、ガルバノミラー24bが動作する場合にも同様の方法を適用することができる。ガルバノミラー24bが動作すると、刺激光が瞳共役位置CPに集光している場合であっても、ガルバノミラー24bの基準状態からの回転により、刺激光が瞳位置PPから逸れた位置に集光することがある。このズレについても、平行平板23を回転させることで補償することができる。具体的には、制御装置26は、ガルバノミラー24aの回転に応じて、平行平板23のY軸周りの回転量を制御してX方向のシフト量を制御し、ガルバノミラー24bの回転に応じて、平行平板23のX軸周りの回転量を制御してY方向のシフト量を制御すればよい。
【0045】
また、レーザー顕微鏡1は、X軸周り、Y軸周りの両方に回転する平行平板23の代わりに、X軸周り、Y軸周りにそれぞれ回転する2枚の平行平板を含んでもよい。
【0046】
また、レーザー顕微鏡1は、刺激光の入射角を変更することでシフト量を変化させる平行平板23の代わりに、図6に例示されるような、2枚のミラー(ミラー27a、ミラー27b)からなるシフト手段27を含んでもよい。ミラー27bが刺激光の入射方向に沿って移動することで、その移動量だけ刺激光を平行移動させることができる。
【0047】
また、レーザー顕微鏡1は、刺激光の入射角を変更することでシフト量を変化させる平行平板23の代わりに、図7に例示されるような、4枚のミラー(ミラー28a、ミラー28b、ミラー28c、ミラー28d)からなるシフト手段28を含んでもよい。シフト手段28bへ入射する刺激光の入射方向に沿って、ミラー28bとミラー28cが一体となって移動し、且つ、ミラー28dがミラー28b及びミラー28cの移動した向きと同じ向きにミラー28b(ミラー28c)の移動量の2倍の量だけ移動することで、ミラー28dの移動量だけ刺激光を平行移動させることができる。シフト手段28によれば、刺激光の光路長を変更することなく、刺激光を平行移動させることができる点で、シフト手段27よりも好ましい。
【0048】
また、レーザー顕微鏡1では、色収差に起因して、レーザー光源16から射出される刺激光の波長が異なると、瞳面10Pにおける刺激光の集光位置も変化する。このため、制御装置26は、照射位置と刺激光の波長に応じて、シフト量を制御することが望ましい。
【実施例2】
【0049】
図8は、本実施例に係るレーザー顕微鏡の構成の一部を例示した図である。図8に例示されるレーザー顕微鏡は、標本33に臨界角以上の角度でレーザー光を照射することで、全反射面からしみ出すエバネッセント光により標本33を励起する全反射照明蛍光顕微鏡(以降、TIRF顕微鏡と記す。)である。
【0050】
TIRF顕微鏡29は、臨界角以上の所定の照射角度で標本33を照射するために、結像レンズ30及びミラー31を介して入射するレーザー光を対物レンズ32の瞳面32Pの光軸から逸れた位置P3に集光させる点が、実施例1に係るレーザー顕微鏡1と異なっている。その他の点については、実施例1に係るレーザー顕微鏡1と同様である。
【0051】
TIRF顕微鏡29では、実施例1に係るレーザー顕微鏡1と同様に、不図示の制御装置が、走査手段の駆動、即ち、標本面における照射位置に応じて、シフト手段によってシフト量を制御することにより、レーザー光の瞳面32Pにおける集光位置を光軸からずれた位置P3に維持することができる。
従って、本実施例に係るTIRF顕微鏡29によっても、照射位置によらずレーザー光を一定の照射角度で標本33に照射することができる。
【0052】
なお、TIRF顕微鏡29の制御装置でも、実施例1に係るレーザー顕微鏡1の制御装置26と同様に、照射位置に加えてレーザー光の波長に応じて、シフト量を制御することが望ましい。
【0053】
また、TIRF顕微鏡29では、上述したようにレーザー光を瞳面32Pにおける光軸から逸れた位置に集光させるが、対物レンズによっては瞳径が異なるので対物レンズ32の瞳の周辺または外側にレーザー光が集光すると、ケラレが生じて標本33に照射されるレーザー光の光量や強度分布の均一性が低下することがある。このため、TIRF顕微鏡29の制御装置は、照射位置に加えて対物レンズの瞳径に応じて、シフト量を制御することが望ましい。
また、照射角度を一定にしながら観察倍率を変更する場合には、対物レンズの倍率の変更に応じて、シフト量を制御することが望ましい。
【0054】
以上、実施例1及び実施例2では、制御装置が、走査手段を駆動させて標本面における照射位置を変更し、且つ、シフト手段を駆動させて走査手段の駆動による標本面における照射角度の変化を補償して照射角度を一定に維持する構成を例示したが、制御装置による制御は、このような制御に限られない。制御装置は、走査手段の駆動による照射角度の変化を補償するのではなく、照射角度を積極的に変化させてもよい。これにより、照射位置によらずレーザー光を任意の照射角度で標本に照射してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1・・・レーザー顕微鏡
2、16・・・レーザー光源
3、17・・・シャッター
4、6、・・・ダイクロイックミラー
5、24・・・走査手段
5a、5b、24a、24b・・・ガルバノミラー
6、25・・・瞳投影レンズ
8、30・・・結像レンズ
9、18、27a、27b、28a、28b、28c、28d、31・・・ミラー
10、32・・・対物レンズ
10P、32P・・・瞳面
11、33・・・標本
12・・・共焦点レンズ
13・・・共焦点絞り
14・・・バリアフィルタ
15・・・光検出器
19、20・・・レンズ
21・・・視野絞り
22・・・集光レンズ
23・・・平行平板
24P・・・瞳共役面
26・・・制御装置
27、28・・・シフト手段
29・・・TIRF顕微鏡
CP・・・瞳共役位置
PP・・・瞳位置
P1、P2、P3・・・位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を射出するレーザー光源と、
標本に前記レーザー光を照射する対物レンズと、
前記対物レンズの瞳面と共役な瞳共役面に前記レーザー光を集光させる集光レンズと、
前記レーザー光を前記標本に照射する照射位置を移動させて、前記標本を走査する走査手段と、
前記レーザー光を光軸と直交する方向に平行に移動させるシフト手段と、
前記シフト手段を駆動させて、前記レーザー光が平行に移動するシフト量を制御するシフト制御手段と、を含む
ことを特徴とするレーザー顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザー顕微鏡において、
前記走査手段は、
光軸と直交する第1の方向に前記標本を走査する第1の走査手段と、
光軸と直交し且つ前記第1の方向と直交する第2の方向に前記標本を走査する第2の走査手段と、を含み、
前記シフト制御手段は、前記照射位置に応じて、前記シフト量を制御する
ことを特徴とするレーザー顕微鏡。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザー顕微鏡において、
前記シフト制御手段は、前記照射位置によらず、前記レーザー光が前記標本を一定の照射角度で照射するように、前記シフト量を制御する
ことを特徴とするレーザー顕微鏡。
【請求項4】
請求項3に記載のレーザー顕微鏡において、
前記第1の走査手段は、光軸と直交する第1の回転軸周りに回転する第1のミラーであり、
前記第2の走査手段は、光軸と直交し且つ前記第1の回転軸と直交する第2の回転軸周りに回転する第2のミラーであり、
前記第1のミラーと第2のミラーの間に、前記瞳共役面が位置する
ことを特徴とするレーザー顕微鏡。
【請求項5】
請求項3に記載のレーザー顕微鏡において、
前記シフト制御手段は、前記レーザー光の前記瞳面における集光位置が光軸上に位置するように、前記シフト量を制御する
ことを特徴とするレーザー顕微鏡。
【請求項6】
請求項3に記載のレーザー顕微鏡において、
前記シフト制御手段は、前記レーザー光の前記瞳面における集光位置が光軸から逸れた位置に位置するように、前記シフト量を制御する
ことを特徴とするレーザー顕微鏡。
【請求項7】
請求項3に記載のレーザー顕微鏡において、
前記シフト制御手段は、前記対物レンズの倍率に応じて、前記シフト量を制御する
ことを特徴とするレーザー顕微鏡。
【請求項8】
請求項3に記載のレーザー顕微鏡において、
前記シフト制御手段は、前記レーザー光の波長に応じて、前記シフト量を制御する
ことを特徴とするレーザー顕微鏡。
【請求項9】
請求項3に記載のレーザー顕微鏡において、
前記シフト手段は、前記レーザー光が透過する平行平板であり、
前記シフト制御手段は、前記シフト手段を光軸と直交する回転軸回りに回転させる
ことを特徴とするレーザー顕微鏡。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図8】
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