説明

レーザ処置装置

【課題】パルスレーザ光を処置対象物に照射する際に該処置対象物から周期的に発生する発光による視覚的不快感を効果的に低減することができるレーザ処置装置を提供する。
【解決手段】処置用光源11は、波長範囲400nm〜460nm(青または青紫)に含まれる波長のレーザ光である処置光(第1の光)Lを所定の繰り返し周波数で出力する。ガイド用光源12は、可視波長帯に含まれ処置光の波長より長い波長を有するガイド光(第2の光)Lを、処置光Lの出力と同じ繰り返し周波数で出力する。ガイド光Lは、処置光Lの照射タイミングと同期し且つ逆位相とされる。ガイド光Lのパワー変化は、処置光Lが被照射部位2aに照射されることに因り生じる発光Lのパワー変化を相殺する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ処置装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体などの生体組織にレーザ光を照射することにより切開や熱変性などの治療効果を生じさせるレーザ処置装置は、例えば非特許文献1,2に記載されている。非特許文献1には、波長405nmの青紫レーザ光を用いて生体軟組織を蒸散および凝固させることができることが報告されており、青紫レーザ光が医療における切開および止血の目的に適していることが示されている。非特許文献2には、波長405nmの青紫レーザ光を用いて生体硬組織のアブレーションが可能であることが報告されている。また、非特許文献2には、アブレーションの際に強い自家蛍光が発生すること、その自家蛍光のピーク波長が505nmであること、および、その自家蛍光スペクトル幅が115nmであることが報告されている。また、レーザ処置装置を用いる際に、CW(連続発振)光とパルス光とを使い分けることによって、処置の深さや広がりを調整することができる。
【非特許文献1】G. Akashi, et al. Lasers in Dentistry XII, edited by PeterRechmann, Daniel Fried, Proc. of SPIE Vol. 6137, 61370O, (2006).
【非特許文献2】H.Hatayama, et al. Lasers in Dentistry XII, edited by PeterRechmann, Daniel Fried, Proc. of SPIE Vol. 6137, 61370D, (2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
青紫レーザ光を利用するレーザ処置装置において低い繰り返し周波数で該青紫レーザ光をパルス発振させると、その青紫レーザ光が照射される処置対象物において蛍光などの発光が同一の繰り返し周波数で発生する。この周期的な発光は、術者・観察者に疲労感・不快感を生じさせ、術部の状態の確認を困難にさせるという問題があった。この問題は、ヒトが点滅を感じる上限の周波数である臨界フリッカ周波数より低い周波数で青紫レーザ光が照射される場合に顕著に生じる。臨界フリッカ周波数は、光強度に依存することが知られているが、特開2007−035452号公報では70Hzであり、特開2006−259048号公報では80Hzであり、また、特表2005−538421号公報では40〜60Hzであると記されている。
【0004】
発光による視覚的不快感に関する上記の問題を解消させるために、例えば、発光をフィルタで減衰させる方法が考えられる。しかし、非特許文献2で報告されているように、発光の波長帯域は、ピーク波長が505nmであって、帯域幅が115nmであり、可視波長帯(JISZ8120の定義では360〜830nm)の中心的部分を占めるので、発光をフィルタで減衰させると、画像全体が暗くなり、組織の状態を確認することが困難になる。それ故、フィルタで減衰させる方法には限界があり、術者・観察者の疲労感・不快感を解消するには不十分である。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、パルスレーザ光を処置対象物に照射する際に該処置対象物から周期的に発生する発光による視覚的不快感を効果的に低減することができるレーザ処置装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るレーザ処置装置は、(1) 波長範囲400nm〜460nmに含まれる波長のレーザ光である第1の光を所定の繰り返し周波数で処置対象物に照射する第1光源部と、(2)可視波長帯に含まれ第1の光の波長より長い波長を有する第2の光を、第1の光の照射タイミングと同期し且つ逆位相で発する第2光源部と、を備えることを特徴とする。本発明に係るレーザ処置装置では、第2光源部は第2の光を処置対象物に照射するのが好ましい。
【0007】
このレーザ処置装置では、第1光源部から出力される第1の光は、波長範囲400nm〜460nmに含まれる波長のレーザ光であって、所定の繰り返し周波数で処置対象物に照射される。また、第2光源部から発せされる第2の光は、可視波長帯に含まれ第1の光の波長より長い波長を有するものであって、第1の光の照射タイミングと同期し且つ逆位相で発せられる。この第2の光のパワー変化は、処置対象物に第1の光が照射されることに因り生じる蛍光等の発光のパワー変化を相殺する。これにより、ヒトの臨界フリッカ周波数(約60Hz)よりも遅い繰り返し周波数の第1の光が処置対象物に照射される場合であっても、視覚的不快感が低減され得る。
【0008】
本発明に係るレーザ処置装置は、(3) 処置対象物から発せられる光を減衰させるフィルタを更に備えるのが好ましい。或いは、本発明に係るレーザ処置装置は、(4) 処置対象物から発せられる光のパワーをモニタする受光部と、(5) この受光部によるモニタ結果に基づいて、第2光源部から発せられる第2の光のパワーを制御する制御部と、を更に備えるのも好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パルスレーザ光を処置対象物に照射する際に該処置対象物から周期的に発生する発光による視覚的不快感を効果的に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
図1は、本実施形態に係るレーザ処置装置1の構成図である。この図に示されるレーザ処置装置1は、本体部10および伝送光学系20を備え、処置対象物2の被照射部位2aに処置光を照射して、その被照射部位2aに対し切開や熱変性などの治療効果を生じさせる。
【0012】
本体部10は、処置光(第1の光)を出力する処置用光源11と、ガイド光(第2の光)を出力するガイド用光源12と、処置用光源11およびガイド用光源12それぞれの光出力動作を制御する制御部13と、処置用光源11から出力される処置光とガイド用光源12から出力されるガイド光とを合波して出力する光結合器14と、光結合器14により合波された処置光およびガイド光を集光して光ファイバ21の入射端に入射させるレンズ15とを含む。伝送光学系20は、光ファイバ21およびハンドピース22を含む。
【0013】
処置用光源11は、波長範囲400nm〜460nm(青または青紫)に含まれる波長のレーザ光である処置光(第1の光)を所定の繰り返し周波数で出力する。ガイド用光源12は、可視波長帯に含まれ処置光の波長より長い波長を有するガイド光(第2の光)を、処置光の出力と同じ繰り返し周波数で出力する。処置用光源11およびガイド用光源12それぞれは、制御部13により光出力動作が制御されて、出力光のパワーや繰り返し周波数が調整される。
【0014】
ガイド光は、例えば、波長範囲510〜830nm(緑、黄、橙または赤)のレーザ光または白色光である。ガイド光は、処置光が出射されていないときは、処置対象物2における被照射部位2aの位置または領域を指示する機能を有する。また、ガイド光は、処置光が出射されているときは、処置対象物2で生じる発光による不快感を低減する機能を有する。したがって、ガイド用光源12を設けることにより、レーザ処置装置1の複雑性を増すことなく、視覚的不快感の低減を実現することができる。
【0015】
また、ガイド光は、例えば、波長範囲620nm〜830nmのレーザ光または白色光であってもよい。処置光照射により処置対象物2で発生する発光の波長とガイド光の波長とを互いに離すことにより、フィルタ31で発光を選択的に減衰させることを可能とし、ガイド光のパワーを低く抑えて、装置の安全性を高めることができる。
【0016】
処置用光源11から出力される処置光と、ガイド用光源12から出力されるガイド光とは、光結合器14により合波された後、レンズ15により集光されて、光ファイバ21の入射端においてコアに結合される。光ファイバ21の入射端においてコアに結合された処置光およびガイド光は、光ファイバ21により導波された後、光ファイバ21の出射端に設けられたハンドピース22を経て外部へ出力される。
【0017】
ハンドピース22は、使用者が手に持って使うことができ、光ファイバ21から伝達された光を先端から出射することができる。ハンドピース22の先端にレンズを組み込むことで、処置光を所定の位置に集光するとパワー密度が向上して、切開などの処置効率が高まって好ましい。
【0018】
ハンドピース22から出射された処置光Lおよびガイド光Lは、処置対象物2の被照射部位2aに照射される。照射された処置光Lのパワーの一部が被照射部位2aにおいて吸収されることで、被照射部位2aに対し蒸散、切開、凝固、止血、加温、励起種発生などの物理化学的効果を及ぼし、その結果として病変の治癒などの生物学的効果を及ぼす。このとき、蒸散、切開などの現象に付随して可視の発光Lが生ずる。この発光Lは、被照射部位2aにおいて散乱・反射された処置光Lおよびガイド光Lとともに周囲へ伝搬する。
【0019】
レーザ処置装置1を使用する使用者は、通常は処置対象物2を目視するので、必然的にこの発光Lを目にすることとなる。さらに、レーザ処置においては処置効果の調整のために、処置光Lとしてパルス光が使用されることが多く、ヒトの臨界フリッカ周波数(約60Hz)よりも遅い繰り返し周波数のパルスが用いられる場合もある。このとき、同じく遅い繰り返し周波数で発生する可視域の発光Lが術者にとって視覚的に不快であるという問題点があった。
【0020】
そこで、本実施形態では、ガイド用光源12から出力されるガイド光Lは、可視波長帯に含まれ処置光Lの波長より長い波長を有し、図2に示されるように、処置光Lの照射タイミングと同期し且つ逆位相とされている。これにより、ガイド光Lのパワー変化は、処置光Lが被照射部位2aに照射されることに因り生じる発光Lのパワー変化を相殺するようにする。より具体的には、被照射部位2aにおける処置光Lの光パワーがアブレーション閾値を超えるタイミングでガイド光Lを減衰または消灯させる。
【0021】
術者と術野(被照射部位2a及びその周囲)との間にはフィルタ31が設けられる。また、術者はゴーグル32を装着する場合がある。術者は、フィルタ31(およびゴーグル32)を通して、処置対象物2を目視することができる。フィルタ31は、処置光Lを大部分減衰させる一方、発光Lおよびガイド光Lを部分的に減衰させる。具体的には、フィルタ31は可視の波長帯において3以上のOD(光学濃度)を有することが好ましい。また、フィルタ31は、ガイド光Lに対する減衰量より発光Lに対する減衰量を大きくすると、被照射部位2aに照射されるべきガイド光Lの必要パワーを低減でき、また、被照射部位2aの組織の発熱やシステムの消費電力を低減できるので好ましい。具体的には、ガイド光Lの波長を620〜830nmの赤色光とし、620nmよりも短波長側で減衰量が増大するフィルタ31を用いることが好ましい。
【0022】
本実施形態では、フィルタ31において処置光L以外の波長における減衰が部分的であることにより、術者は、術野を目視で確認することができ、かつ、発光Lによる眩しさを感じることが少ない。さらに、時間的に強度変調されたガイド光Lによって発光Lのパワー変化が相殺されるので、術者は、発光Lの点滅による不快感を生じることも少ない。不快感の評価は、十分に大きな標本数(例えば30以上)の術者に使用させた後に、Visual Analogue ScaleやFace Scaleなどの定量的評価方法によって定量化することが好ましい。本実施形態に係るレーザ処置装置1を用いることで、処置光Lとしての青紫レーザ光のみを備えた従来技術の装置に比べて定量的な不快感を50%以下に低減することが可能である。
【0023】
ガイド光Lの強度および強度変調度は、発光Lによる光パワー変化を完全に相殺することができるよう設定することができ、それにより術者に対する視覚的な点滅刺激を最小限とすることができる。このような変調度の調整は、フィルタ31と術者との間(例えば術者が装着するゴーグル32の内部)に受光部33を設け、その受光部33で受光される光パワー変化を最小化するように(図2(c)参照)、制御部13がガイド光Lの変調度にフィードバックすることで実現できる。
【0024】
また、術者自身が不快感を生じないような変調度を自ら設定できるように、変調度を調整する調整手段がレーザ処置装置1に設けられていることが好ましい。特に、足で操作するペダル式調整器や、ハンドピース22を持った手の指先で操作できるハンドピース組込式調整器とすると、術者が処置に集中できるので好ましい。このような目的のために、レーザ処置装置1の本体部10は、ガイド光Lの変調度を調整するための制御用ポート16を備え、この制御用ポート16に入力される制御信号に基づいて制御部13がガイド光Lの変調度を調整することが好ましい。また、ガイド光Lをオン・オフする方法でも、不快感が生じない程度に光パワー変化が低減される場合が多いので好ましい。
【0025】
また、ガイド光Lの強度および強度変調度は、発光Lによる光パワー変化を完全には相殺しなくてもよい場合がある。光パワーの平均値をP、変化幅をΔPとして、ヒトの臨界フリッカ周波数FはΔP/Pが小さいほど小さくなるが、このFが1Hz以上かつ処置光の点滅周波数以下となるようにガイド光の強度および強度変調度を調整すると、処置光照射中の点滅不快感を低減しつつ、発光の有無を術者に視覚的に認識させることが可能となる。それにより、術者は蒸散の程度についての情報を得ることができ、効果的な処置を行うことが可能となる。
【0026】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、ガイド光Lは、上記実施形態では光ファイバ21により導波されて被照射部位2aに照射されたが、これに限られることなく、被照射部位2aに照射されることなくフィルタ31に入射されてもよい。ガイド光Lは、レーザ光である必要はなく、単色光であってもよいし白色光であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係るレーザ処置装置1の構成図である。
【図2】処置光およびガイド光それぞれの出力パワー等の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1…レーザ処置装置、2…処置対象物、2a…被照射部位、10…本体部、11…処置用光源、12…ガイド用光源、13…制御部、14…光結合器、15…レンズ、16…制御信号ポート、20…伝送光学系、21…光ファイバ、22…ハンドピース、31…フィルタ、32…ゴーグル、33…受光部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長範囲400nm〜460nmに含まれる波長のレーザ光である第1の光を所定の繰り返し周波数で処置対象物に照射する第1光源部と、
可視波長帯に含まれ前記第1の光の波長より長い波長を有する第2の光を、前記第1の光の照射タイミングと同期し且つ逆位相で発する第2光源部と、
を備えることを特徴とするレーザ処置装置。
【請求項2】
前記第2光源部が前記第2の光を前記処置対象物に照射することを特徴とする請求項1記載のレーザ処置装置。
【請求項3】
前記処置対象物から発せられる光を減衰させるフィルタを更に備えることを特徴とする請求項1記載のレーザ処置装置。
【請求項4】
前記処置対象物から発せられる光のパワーをモニタする受光部と、
この受光部によるモニタ結果に基づいて、前記第2光源部から発せられる第2の光のパワーを制御する制御部と、
を更に備えることを特徴とする請求項1記載のレーザ処置装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−284293(P2008−284293A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134497(P2007−134497)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】