説明

レーザ加工装置およびレーザ加工方法

【課題】 レーザ加工ヘッドのレーザ照射口前方に配置した保護部材に対する頻繁な清掃や交換を必要とすることなく、保護部材の破損を防止する。
【解決手段】 第2のミラー15で反射して水平方向に進行するレーザ光Lの前方に、円筒形状の保護ガラス21を配置する。保護ガラス21は、その上端を支持部材23を介して固定してあり、第2のミラー15を含む集光ヘッド7が回転する際に回転しない。保護ガラス21の外側には、レーザ光Lが通過するレーザ光通過口27aを備える保護ガラスカバー27を設け、保護ガラスカバー27は、第2のミラー15と一体であり、集光ヘッド7の回転に伴い回転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工ヘッドを円筒内に挿入しつつ相対回転させながら、円筒内面にレーザ光を照射するレーザ加工装置およびレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒内面として例えばエンジンのシリンダボア内面に対し、耐摩耗性を向上させるために、レーザ光を用いて焼き入れを行う場合がある(下記特許文献1参照)。
【0003】
また、シリンダボア内面に対し、焼き付き防止のために、レーザ光を用いて油溜まり用の微細な窪みを形成する場合もある。
【特許文献1】特開平8−157967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記したようにレーザ光により焼き入れや、微細な窪みを形成する加工を行う際には、加工点からヒュームやスパッタが発生して飛散し、これらの飛散物がレーザ加工ヘッドのレーザ照射口に設けた保護ガラスに付着する。
【0005】
保護ガラスは、レーザ照射口に固定されていてレーザ加工ヘッドと一体となって回転するので、前記した飛散物は、保護ガラスの同じ位置に付着して徐々に堆積することになり、付着部位が高温化して保護ガラスが割れたり、溶損するなどして破損を招く。
【0006】
このような不具合を防止するために、保護ガラスに対する頻繁な清掃や交換が必要となり、作業効率の低下を招く。
【0007】
そこで、本発明は、レーザ加工ヘッドのレーザ照射口前方に配置した保護部材に対する頻繁な清掃や交換を必要とすることなく、保護部材の破損を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、レーザ加工ヘッドを円筒内に挿入しつつ相対回転させながら、円筒内面にレーザ光を照射するレーザ加工装置において、前記レーザ加工ヘッドのレーザ照射方向前方を含む前記レーザ加工ヘッドの周囲を囲むように円筒形状の保護部材を設け、この保護部材は、前記レーザ光を透過するとともに、前記レーザ加工ヘッドに対し、前記円筒内面とともに相対回転することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、レーザ光を透過する円筒形状の保護部材が、レーザ加工ヘッドに対し、円筒内面とともに相対回転するので、円筒内面の加工点から発生するヒュームやスパッタが保護部材の常に同じ位置に付着するのを防止して、付着部位が高温化して保護部材が破損するのを防止でき、この結果保護部材に対する頻繁な清掃や交換が不要となり、作業効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態を示すレーザ加工装置の全体構成図である。このレーザ加工装置1は、レーザ光Lを発振するレーザ発振器3と、レーザ発振器3から発振したレーザ光Lを集光する集光レンズ5を有するレーザ加工ヘッドとしての集光ヘッド7と、集光ヘッド7を円筒内面としてのシリンダブロック9のシリンダボア内面9aに対して相対的に移動および回転させる移動機構11とをそれぞれ備えている。
【0012】
上記したレーザ加工装置1のレーザ発振器3は、シリンダボア内面9aに対し焼き入れ用として使用する場合は、波長940nm〜960nm、平均出力2.5kWの連続波を、加工速度2.5m/minで照射する。一方、シリンダボア内面9aに対し油溜まり用の微細な窪みを形成する場合は、波長1.06μm、平均出力40W、繰り返し数35KHzのパルス波を、加工速度15m/minで照射する。
【0013】
このようなレーザ光Lをレーザ発振器3から発振させ、第1のミラー13で反射させて集光ヘッド7内へと導く。
【0014】
集光ヘッド7は、シリンダブロック1のシリンダボア径よりも小さな直径を有してほぼ円筒体であり、内部には前記した集光レズ5と、集光レンズ5で集光したレーザ光Lをシリンダボア内面9aに向けて反射させる第2のミラー15と、をそれぞれ設けている。
【0015】
この集光ヘッド7は、前記した移動機構11に支持されている。移動機構11は、制御装置19に接続し、制御装置19の制御指令に基づいて、移動機構11の図示しないアクチュエータが駆動することで、集光ヘッド7をX−Y−Z軸方向に移動させるとともに、Z軸(図1中で上下方向の軸)を中心として回転させる。
【0016】
そして、上記した集光ヘッド7は、図2に拡大して示すように、第2のミラー15の周囲を囲むように、言い換えればレーザ加工ヘッドのレーザ照射方向前方を含むレーザ加工ヘッドの周囲を囲むように、円筒形状の保護部材としての透明の保護ガラス21を配置している。保護ガラス21は、レーザ光Lを透過可能であり、その上端を支持部材23の下端に固定し、支持部材23の上端を水平方向に延びる上部移動機構25の一端に連結する。上部移動機構25の他端は、図1に示すように前記した制御装置19に接続する。
【0017】
ここで、上部移動機構25は、前記した移動機構11と同期して、制御装置19の制御指令に基づいて、上部移動機構25の図示しないアクチュエータが駆動することで、支持部材23を保護ガラス21とともにX−Y−Z軸方向に移動させるが、支持部材23をZ軸(図1中で上下方向の軸)を中心として回転させることはない。
【0018】
つまり、保護ガラス21は、集光ヘッド7がZ軸を中心に回転してレーザ加工を行う際に回転せず、したがってレーザ加工ヘッドに対し、円筒内面とともに相対回転することになる。
【0019】
集光ヘッド7は、保護ガラス21のさらに外周側に、外側保護部材としての円筒形状の保護ガラスカバー27を備えている。保護ガラスカバー27は、レーザ光Lが通過するレーザ光通過口27aを備えており、その上端をヘッドハウジング29の下端に固定し、ヘッドハウジング29の上端を前記した移動機構11に連結する。したがって、保護ガラスカバー27は、集光ヘッド7に一体化した状態であって、集光ヘッド7の回転に伴い回転し、この回転時にレーザ光Lがレーザ光通過口27aを通過してシリンダボア内面9aに照射される。
【0020】
保護ガラス21と保護ガラスカバー27との間には、円筒形状のガス流路31を設けている。このガス流路31は、保護ガラスカバー27の下端に設けた円板形状の底板33で下部を閉塞し、保護ガラスカバー27の上端外周付近に設けた環状の上板35で上部を閉塞している。
【0021】
底板33上にはミラー支持台36を設け、ミラー支持台36の傾斜面に前記した第2のミラー15を固定する。
【0022】
上板35の一部位には、図2のA−A断面図である図3に示すように、ガス導入口35aを設け、ガス導入口35aは、支持部材23とヘッドハウジング29との間に形成したガス導入通路37の下端に連通する。ガス導入通路37の上端は、図示しないシールドガス供給装置に接続し、このシールドガス供給装置からガス導入通路37にシールドガスを供給する。
【0023】
ガス導入口35aの図3中で右下部分に対応する保護ガラス21と保護ガラスカバー27との間には、ガス流路31を円周方向に対して閉塞する仕切り板39を設けている。このため、ガス導入口35aからガス流路31に流入したシールドガスは、円筒形状のガス流路31を図3中で左回りに円周方向に沿って流れ、仕切り板39のガス導入口35aと反対側から、保護ガラスカバー27のレーザ光通過口27aに向けて流出する。
【0024】
上記した構成のレーザ加工装置において、レーザ発振器3から発振したレーザ光Lは、第1のミラー13で反射した後、集光ヘッド7内に侵入し、集光レンズ5を経て第2のミラー15で反射し、水平方向前方に進行する。水平方向前方に進行したレーザ光Lは、保護ガラス21を透過した後、さらに前方の保護ガラスカバー27に設けたレーザ光通過口27aを通って外部へ放射される。
【0025】
この際、集光ヘッド7をシリンダボア内に挿入しつつ、前記したZ軸を中心として図3中の矢印Bで示す右回りに回転させ、かつ図示しないシールドガス供給装置からガス導入通路37を通してガス流路31にシールドガスを供給する。ガス流路31にガス導入口35aから流入したシールドガスは、集光ヘッド7の回転方向とは逆の図3中で左回りに流れ、ガス流出口31aからレーザ光通過口27aを経て集光ヘッド7の回転方向後方に向けて流出する。
【0026】
上記のようにしてレーザ光通過口27aを通って外部へ進行するレーザ光Lを、シリンダブロック9のシリンダボア内面9aに照射し、例えば焼き入れを行うことでシリンダボア内面9aに、図4(a)に示すように螺旋状の硬化層43を形成して耐摩耗性を向上させたり、あるいは図4(b)に示すように油溜まり用の微細な窪み45を多数形成してシリンダボア内面9aの焼き付き防止を図る。
【0027】
ここで、集光ヘッド7の回転時には、ヘッドハウジング29と、その下端に設けた保護ガラスカバー27と、保護ガラスカバー27と一体の第2のミラー15とが互いに一体となって回転するが、保護ガラスカバー27の内側に配置してある保護ガラス21は支持部材23に支持された状態で回転しない。なお、集光レンズ5は、図示しない支持具を介して支持部材23に外周縁を固定している。
【0028】
このため、レーザ光Lは保護ガラス21に対して円周方向に移動しながら加工を行うことになり、したがってレーザ加工時に加工点から発生するヒュームやスパッタなどの飛散物が、保護ガラスカバー27のレーザ光通過口27aを通って保護ガラス21に向けて飛散しても、これら飛散物が保護ガラス21の常に同一位置に付着することがなくなる。
【0029】
この結果、保護ガラス21の飛散物付着部位が高温化して割れたり、あるいは溶損するなどして破損することを防止でき、保護ガラス21に対する頻繁な清掃や交換が不要となり、作業効率が向上する。
【0030】
図5は、従来の保護ガラスをレーザ加工ヘッドとともに回転させる構成での保護ガラスへの飛散物の付着量(堆積量)を示しており、レーザ加工時の時間経過とともに付着量が増大し、時間tにて保護ガラスが破損に至る。
【0031】
これに対して本実施形態では、飛散物が発生する加工点に対して保護ガラス21が相対移動するので、保護ガラス21への飛散物の堆積量が極めて少なくなり、上述したように保護ガラス21に対する頻繁な清掃や交換が不要となる。
【0032】
また、保護ガラス21の外周側に二重構造として設けている保護ガラスカバー27により、レーザ光Lの照射部位付近以外の保護ガラス21への前記した飛散物の付着を防止することができる。
【0033】
さらに、上記二重構造とした保護ガラス21と保護ガラスカバー27との間のガス流路31にシールドガスを流すことで、保護ガラス21と保護ガラスカバー27との間への前記した飛散物の侵入を防止でき、保護ガラス21への飛散物の付着を確実に防止することができる。
【0034】
また、ガス流路31に流入したシールドガスは、ガス流路31の円周方向に沿ってそのほぼ全周に流すことで整流されるので、ガス流出口31aからは大きく広がることのない高速の噴出流となり、ガス流路31内への前記した飛散物の侵入を防止する。
【0035】
このとき、ガス流出口31aから噴出するシールドガスは、集光ヘッド7の回転方向後方に指向しているので、噴出流によって吹き飛ばした飛散物は、上記回転方向後方に流れ、ガス流路31内への流入を防止することができる。また、ガス流出口31aから噴出するシールドガスにより、加工部への飛散物の付着を防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態を示すレーザ加工装置の全体構成図である。
【図2】図1のレーザ加工装置の集光ヘッド部分を拡大して示す断面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】(a)は図1のレーザ加工装置により焼き入れ加工を行った状態のシリンダボア内面を示す断面図、(b)は図1のレーザ加工装置により微細な窪みを形成した状態のシリンダボア内面を示す斜視図である。
【図5】従来の保護ガラスをレーザ加工ヘッドとともに回転させる構成での保護ガラスへの飛散物の付着量(堆積量)を時間経過とともに示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
7 集光ヘッド(レーザ加工ヘッド)
9a シリンダボア内面(円筒内面)
21 保護ガラス(保護部材)
27 保護ガラスカバー(外側保護部材)
27a レーザ光通過口
31 ガス流路
31a ガス流出口
35a ガス導入口
L レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工ヘッドを円筒内に挿入しつつ相対回転させながら、円筒内面にレーザ光を照射するレーザ加工装置において、前記レーザ加工ヘッドのレーザ照射方向前方を含む前記レーザ加工ヘッドの周囲を囲むように円筒形状の保護部材を設け、この保護部材は、前記レーザ光を透過するとともに、前記レーザ加工ヘッドに対し、前記円筒内面とともに相対回転することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記保護部材の外周側に、前記レーザ加工ヘッドから照射されるレーザ光が通過するレーザ光通過口を備えた円筒形状の外側保護部材を設け、この外側保護部材は、前記レーザ加工ヘッドとともに前記円筒内面および前記保護部材に対して相対回転することを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記保護部材と前記外側保護部材との間に、外部からシールドガスを供給するガス流路を設けたことを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記ガス流路は、その一部位に設けたガス導入口と、このガス導入口から導入した前記シールドガスを前記ガス流路の円周方向に沿って流してから外部に流出するガス流出口とをそれぞれ備えていることを特徴とする請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記ガス流出口から流出するシールドガスは、前記レーザ加工ヘッドの前記円筒内面に対する相対回転方向後方に指向していることを特徴とする請求項4に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
レーザ加工ヘッドを円筒内に挿入しつつ相対回転させながら、円筒内面にレーザ光を照射するレーザ加工方法において、前記レーザ加工ヘッドのレーザ照射方向前方を含む前記レーザ加工ヘッドの周囲を囲むように円筒形状の保護部材を設け、この保護部材を、前記レーザ加工ヘッドに対し、前記円筒内面とともに相対回転させつつ、前記レーザ光を前記保護部材に透過させて前記円筒内面に照射することを特徴とするレーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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