説明

レーザ増感層インキ、レーザマーキング用記録体およびレーザマーキング方法

【課題】本発明の目的は、非接触、高速マーキングという特徴を有するレーザマーキング方法において、特殊なレーザ増感剤を用いなくても、より低いレーザ照射エネルギーで、鮮明にマーキングできるレーザ増感層インキ、それを用いたレーザマーキング用記録体およびレーザマーキング方法を提供することにある。
【解決手段】本発明者は、鋭意検討した結果、支持体と着色層の間にレーザ増感剤を含有する増感層を形成させた記録体において、増感層に二酸化チタンおよびニトロセルロースを含有させると、エネルギーの低いレーザでも着色層を破壊でき、鮮明にマーキングできることを見出し、本発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザマーキング方法におけるレーザ増感層インキおよびそれを用いたレーザマーキング用記録体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に表層を破壊するレーザマーキング方法は、基材の表面に任意のパターンのレーザ光を照射し、基材の表層等を蒸発・飛散により破壊させ、露出した下地と非破壊部分との明度や色相の差、或は破壊部分の凹凸による光の乱反射により得られたコントラストを利用し、視認性を得るマーキング方法である。 表面の細かな凹凸による光の乱反射に比較して、例えば、包装紙や紙ラベルの上に印刷された着色インキ層をレーザ光により破壊し、露出した下地の紙の白さと非破壊部分の着色インキとの明度、色相差を用いる方法は視認性が高く、簡便で有効とされていた。
【0003】
しかしながら、この方法は、着色層を蒸発或は飛散させるのに高いレーザエネルギーを必要とするため、より低いエネルギーのレーザでマーキングできるレーザマーキング用記録体が検討されてきた。 例えば、特許文献1には、コーディオライトおよび/または雲母を含有する非結晶性熱可塑性樹脂からなる成形品が低エネルギーのレーザでマーキング可能であると記載されている。
【0004】
さらに、特許文献2には、支持体と着色層との間に、レーザ光を熱に変換するレーザ増感剤を含有する増感層を形成し、レーザ増感剤として合成雲母、コージェライトまたはカオリンを使用することによって、弱いレーザ光でも効率よく着色層を破壊、マーキングできる記録体が開示されている。 しかしながら、この増感層には合成雲母、コージェライトまたはカオリンといった特殊な増感剤を添加しなければならず、これらを混合分散するための操作も必要とされ、また、レーザにより着色層を破壊したとき、特に低エネルギーのレーザでは、その外観や印字部の視認性が不十分であった。
【0005】
【特許文献1】特開平4−267191号公報
【特許文献2】特開平9−286169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、かかる現状に鑑み、非接触、高速マーキングという特徴を有するレーザマーキング方法において、特殊なレーザ増感剤を用いなくても、より低いレーザ照射エネルギーで、鮮明にマーキングできるレーザ増感層インキ、それを用いたレーザマーキング用記録体およびレーザマーキング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、支持体と着色層の間にレーザ増感剤を含有する増感層を形成させた記録体において、増感層に二酸化チタンおよびニトロセルロースを含有させると、エネルギーの低いレーザでも着色層を破壊でき、鮮明にマーキングできることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、請求項1の発明は、二酸化チタンとニトロセルロースとを含有することを特徴とするレーザ増感層インキである。
【0009】
また、請求項2の発明は、前記二酸化チタンの平均粒子径が0.1〜0.3μmであることを特徴とする請求項1記載のレーザ増感層インキである。
【0010】
また、請求項3の発明は、支持体と着色層との間に、請求項1または2記載のレーザ増感層インキからなるレーザ増感層を形成したことを特徴とするレーザマーキング用記録体である。
【0011】
また、請求項4の発明は、前記着色層の膜厚が0.1〜10μmであることを特徴とする請求項3記載のレーザマーキング用記録体である。
【0012】
また、請求項5の発明は、前記支持体が普通紙、樹脂コート紙またはアルミ蒸着紙であることを特徴とする請求項3または4記載のレーザマーキング用記録体である。
【0013】
また、請求項6の発明は、請求項3から5の何れかに記載のレーザマーキング用記録体に対して、レーザ光を照射することにより、前記着色層を破壊してマーキングすることを特徴とするレーザマーキング方法である。
【0014】
また、請求項7の発明は、前記レーザ光が炭酸ガスレーザであることを特徴とする請求項6記載のレーザマーキング方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低エネルギーのレーザ光で着色層が破壊できるため、高速でかつ広い範囲のレーザマーキングが可能で、かつ、低エネルギーのレーザでも鮮明なマーキングが可能なレーザ増感層インキ、それを用いた記録体および記録方法を提供できる。 また、本発明のレーザ増感層インキおよび記録体は汎用的な材料を用いているので低コストでの製造が可能となる。 従って、本発明のレーザ増感層インキおよび記録体は、特に、品名、ロット番号、コード、賞味期限等の印字を必要とするラベル、銘板、カード、容器等のオンラインマーキングに好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。 なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0017】
本発明のレーザマーキング用記録体は、支持体と着色層との間に、増感剤として二酸化チタンおよび樹脂成分としてニトロセルロースを含有するレーザ増感層インキからなるレーザ増感層を形成したことを特徴とする。
【0018】
本発明で用いるレーザ増感層インキに用いられる増感剤は、二酸化チタンである。 二酸化チタンはレーザ光、特に低エネルギーのレーザとして汎用的に用いられる炭酸ガスレーザを効率的に吸収し、かつ着色力および隠蔽力が大きいことから好適である。 二酸化チタンの粒子径は、平均で0.1〜0.3μmが好ましく用いられる。 0.1μm未満の粒子径では隠蔽性が低下し、0.3μmを超えると分散性が低下するため好ましくない。 この二酸化チタンは、ルチル型、アナターゼ型等の結晶形は問わないが、表面の光触媒活性を抑制するため表面処理されていのが好ましい。 この表面処理剤としては、ポリオール、シリカ、シロキサン、アルミナ等が挙げられるが、光触媒活性が抑制される限り、これらに限定されるものではなく、また複数での表面処理も可能である。
なお、粒子径は、レーザ式粒度分布測定機(例えば、日機装株式会社製マイクロトラック)を用いて測定した値である。
【0019】
また、レーザ増感層インキには、樹脂成分としてニトロセルロースが用いられる。 この樹脂成分には、ニトロセルロースを主成分として、他に例えばポリアミド系樹脂、ポリブチラール系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン系樹脂、石油系樹脂、塩化ゴム系樹脂、環化ゴム系樹脂、アルキッド系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂等から選ばれる1種類以上の樹脂を用いることができる。
【0020】
このレーザ増感層インキに、前記二酸化チタンと前記ニトロセルロースとを併用することによって、本発明のレーザマーキング記録体は低エネルギーのレーザでマーキングが可能になり、印字部(着色層がレーザで破壊されて増感層が現れた部分)と着色層とのコントラストも大きくなるため鮮明なマーキングとなる。
【0021】
レーザ増感層の塗膜厚は、乾燥後で0.1〜10g/mまたは0.1〜10μm、好ましくは0.5〜5g/mまたは0.5〜5μmである。 レーザ増感層の乾燥塗膜中の増感剤の含有率は、塗工できる範囲で多い方がよく、5〜90wt%、好ましくは、20〜50wt%がよい。 また、レーザ増感層には、必要に応じ、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、マグネシア、硫酸バリウム、酸化亜鉛等の充填剤、顔料や染料等の着色剤を加えることができる。
【0022】
本発明の着色層は、樹脂成分に、顔料や染料等の着色剤が粒子状に分散、或は溶解している。 樹脂成分としては、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリブチラール系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ニトロセルロース系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン系樹脂、石油系樹脂、塩化ゴム系樹脂、環化ゴム系樹脂、アルキッド系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。
【0023】
着色層に用いる着色剤、充填剤は、化学組成、構造、色等で、特に限定されるものではなく、一般に使用される染顔料、蛍光染料、体質顔料、有機微粒子、中空粒子、金属粉、金属コート粒子等が挙げられるが、中でもレーザ光の透過性が高いものが好ましく、着色剤の乾燥塗膜中の含有率は、必要な色相、色濃度が得られる範囲で少ない方がよく、0.1〜50wt%が好ましい。
【0024】
着色層の塗膜厚は、低いエネルギー密度でも破壊され易くするためにも、着色層からの飛散量を少なくするためにも、必要な色相が得られる範囲で薄い塗膜厚がよく、乾燥後で0.1〜10g/mまたは0.1〜10μm、好ましくは、0.5〜5g/mまたは0.5〜5μmがよい。
【0025】
本発明の支持体としては、特に限定されるものではなく、適宜使用される用途により要求される耐久性、意匠性等から選択されるが、普通紙、アート紙、コート紙、アルミ蒸着紙や塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、金属等材質のシート、合成紙、またはラミネート紙等が使用できる。 立体物であっても構わない。
【0026】
また、支持体の平滑性や支持体とレーザ増感層との密着性を高める為、レーザ増感層と支持体の間に、ニトロセルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、ふっ素系樹脂等の各種ポリマーを主成分とする樹脂や充填剤を含有したアンダーコート層を形成しても良い。
【0027】
本発明のレーザマーキング用記録体の耐久性を高める、或は外力による損傷を抑制する為に、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン−ビニルアセテート系樹脂、エチレン−エチルアクリレート系樹脂、アセテートニトロセルロース系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、ふっ素系樹脂等を主成分とする樹脂やこれら樹脂に充填剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、撥水剤、撥油剤等の助剤を加えたオーバーコート層を着色層の上に用いることができる。
【0028】
オーバーコート層への紫外線吸収剤や酸化防止剤の添加は、表示体の光や熱による劣化を抑制し、表示体の長期保存性を高める。
【0029】
オーバーコート層に用いる樹脂種は、アクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂またはポリアミド系樹脂の1種または2種以上を用いるのが好ましい。 また、着色層の蒸発、飛散による破壊の妨げにならないように、樹脂の熱分解温度が低い方がよく、450℃以下、好ましくは350℃以下がよい。 オーバーコート層の膜厚も着色層の蒸発、飛散による破壊に影響を与えるので、好ましくは15μm以下がよい。
【0030】
支持体上にレーザ増感層、着色層およびオーバーコート層を形成する方法としては、特殊な方法は必要ではなく、従来からある塗工による方法が利用でき、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、エアーナイフコーティング、ブレードコーティング等の塗工方法が挙げられる。
【0031】
レーザ増感層および着色層の塗工液には、分散剤、粘度調整剤、充填剤、レベリング剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色剤、感熱用増感剤、防腐剤等に分類される助剤を添加することができる。
【0032】
本発明の記録体に印字するには、本発明のレーザマーキング用記録体にレーザ光を照射してマーキングすればよく、レーザ装置としては、出力が0.2ジュール/cm・パルス以上、好ましくは0.3ジュール/cm・パルス以上のエネルギーを照射表面に与えられるパルス型レーザ、或は出力0.5W以上の出力を有する走査型レーザが好ましく、例えば炭酸ガスレーザ、一酸化炭素レーザ、半導体レーザ、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)レーザ等が挙げられ、なかでもTransversely
Excited Atomospheric Pressure(TEA)型炭酸ガスレーザが高速で且つ1パルスで広い領域に照射できる為、多くの情報が高速にマーキング可能になり、特に好ましい。
【実施例】
【0033】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。なお、例中の部及び%は重量基準である。
【0034】
<レーザ増感層インキ>
配合1: 二酸化チタン30部(石原産業(株)製
CR-50)、ニトロセルロース20部(仏SNPE社製 HIG
1/16)
配合2: 二酸化チタン15部(石原産業(株)製 CR-50)、酸化亜鉛15部(堺化学(株)製 ナノファイン50LP)、ニトロセルロース20部(仏SNPE社製 HIG 1/16)
配合3: 酸化亜鉛30部(堺化学(株)製 ナノファイン50LP)、ニトロセルロース20部(仏SNPE社製 HIG 1/16)
配合4: 二酸化チタン30部(石原産業(株)製 CR-50)、アクリル系樹脂20部(双研化学(株)製 サーモラックEF32−3)
配合5: 二酸化チタン15部(石原産業(株)製 CR-50)、酸化亜鉛15部(堺化学(株)製 ナノファイン50LP)、アクリル系樹脂20部
配合6: NEWMAC VESTA610白100部(ポリアミド系白インキ 東京インキ(株)製)、合成雲母17部(コープケミカル(株)製 ソマシフ SIME)
希釈溶剤:CN116溶剤(酢酸エチル/イソプロピルアルコール=6/4)

上記の各配合をセラミックビーズと共にペイントコンディショナーで2時間振とうして分散させて各レーザ増感層インキを調製した。
【0035】
<着色層インキ>
NEWMAC VESTA910墨(ポリアミド系墨インキ 東京インキ(株)製)
希釈溶剤:PA403溶剤(トルエン/イソプロピルアルコール/酢酸エチル=6/3/1)
【0036】
<オーバーコート層インキ>
KROPニス130B(ニトロセルロース系OPニス 東京インキ(株)製)
希釈溶剤:TS31溶剤(酢酸エチル)
【0037】
上記の各インキを#3ザーンカップ法粘度測定において18±1秒になるように希釈溶剤を添加して印刷粘度に調整した後、支持体である凸版印刷用原紙上に、レーザ増感層インキ(版深度30μm)、着色層インキ(版深度35μm)、オーバーコート層インキ(版深度30μm)の順にグラビア印刷を行なって、記録体を作製した。この記録体に炭酸ガスレーザ(キーエンス社製M
L ― G 9 3 0 0 )を使用し、レーザパワー50%、走査速度4800mm/sでレーザによる印字記録を行い、以下の基準で評価した。
【0038】
<評価方法>
印字効果: レーザ照射部分と非レーザ照射部分との明度差を色彩色度計(ミノルタ製CR−241)で測定し、明度差が50以上を○、40〜50未満を△、40未満を×として評価した。
仕上がり: ラベル全体としての仕上がり性の評価になる。印刷構成での発色性、光沢などの外観を、良好○、中程度△、悪い×の3段階で評価した。
これらの評価結果を表1に記載した。
【0039】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタンとニトロセルロースとを含有することを特徴とするレーザ増感層インキ。
【請求項2】
前記二酸化チタンの平均粒子径が0.1〜0.3μmであることを特徴とする請求項1記載のレーザ増感層インキ。
【請求項3】
支持体と着色層との間に、請求項1または2記載のレーザ増感層インキからなるレーザ増感層を形成したことを特徴とするレーザマーキング用記録体。
【請求項4】
前記着色層の膜厚が0.1〜10μmであることを特徴とする請求項3記載のレーザマーキング用記録体。
【請求項5】
前記支持体が普通紙、樹脂コート紙またはアルミ蒸着紙であることを特徴とする請求項3または4記載のレーザマーキング用記録体。
【請求項6】
請求項3から5の何れかに記載のレーザマーキング用記録体に対して、レーザ光を照射することにより、前記着色層を破壊してマーキングすることを特徴とするレーザマーキング方法。
【請求項7】
前記レーザ光が炭酸ガスレーザであることを特徴とする請求項6記載のレーザマーキング方法。