説明

レーザ発振装置およびレーザ発振方法

【課題】エネルギー効率を悪化させず、かつ、放電管の寿命が短くなることなく、放電管における放電を確実に起こさせること。
【解決手段】レーザ発振装置は、レーザ媒質20と、レーザ媒質20に励起光Eを照射する放電管1と、放電管1へ電力を供給する電源10と、を備えている。電源10は、放電管1にパルス状のプリパルス電力を印加した後、放電管1にプリパルス電力よりも大きな加工電力を印加して励起光Eを発生させ、レーザ媒質20からレーザ光Lを発振させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電管から発生された励起光によってレーザ光を発振させるレーザ発振装置およびレーザ発振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来一般的に広く用いられているレーザ発振装置は、放電管(ランプ)やレーザダイオードといった励起光源と、レーザ媒質とを備えている。そして、励起光源からの励起光をレーザ媒質に照射することによって、レーザ媒質からレーザ光を発振させている。
【0003】
励起源として放電管を用いる際には、印加されるパルス状の加工電力(入力エネルギー)が小さい場合や、パルス幅が短い場合には、放電管における放電が不安定になり、放電管から励起光が発生しない(不点灯現象、または、ミストリガなどと呼ばれている)、あるいは、必要なエネルギー(光量)を出せないことなどが生じる。このため、安定な状態でレーザ媒質からレーザ光を発振させることができず、最終的にはレーザ発振装置としての安定性を維持することが困難となる。
【0004】
従来のレーザ発振装置では、シンマー電源から微少電流(シンマー電流)を流し、ランプをグロー放電状態にすることが行われている(特許文献1参照)。また、別の態様では、レーザ媒質からのレーザ光の発振を不安定にさせないように、放電管に印加される加工電力(入力エネルギー)を大きくすることによって励起光の発光を安定させる方法もとられている。なおこの場合には、必要とするレーザ出力とするために、レーザ発振装置の外部に設けたアッテネータで、被処理体上の加工点におけるレーザ光のエネルギーを減衰させて制御される。
【特許文献1】特開昭56−012789号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようにシンマー電流を流した場合であっても、レーザ出力を放電管(ランプ)の励起光の光量(発光時間積)によって制御しようとすると、放電管に入力するエネルギー(電力時間積)が小さいときに発光ミスが生じることがある。
【0006】
また、放電管に印加される加工電力を大きくする方法では、エネルギー効率が悪化するため電力消費量が増加してランニングコストが上昇してしまうし、放電管に印加される電力(入力エネルギー)が大きくなるので、放電管の寿命が短くなってしまう。
【0007】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、エネルギー効率を悪化させず、かつ、放電管の寿命が短くなることなく、放電管における放電を確実に起こさせることができるレーザ発振装置およびレーザ発振方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるレーザ発振装置は、
レーザ媒質と、
前記レーザ媒質に励起光を照射する放電管と、
前記放電管へ電力を供給する電源と、を備え、
前記電源が、前記放電管にパルス状のプリパルス電力を印加した後、該放電管に該プリパルス電力よりも大きな加工電力を印加して励起光を発生させ、前記レーザ媒質からレーザ光を発振させる。
【0009】
このような構成により、エネルギー効率を悪化させず、かつ、放電管の寿命が短くなることなく、放電管における放電を確実に起こさせることができる。
【0010】
本発明によるレーザ発振装置において、
前記電源は、前記放電管に前記プリパルス電力を複数回、印加することが好ましい。
【0011】
このような構成により、放電管における放電をより確実に起こさせることができる。
【0012】
本発明によるレーザ発振装置において、
前記電源から前記放電管に印加される前記プリパルス電力のうち最後に印加されるプリパルス電力の大きさは、他のプリパルス電力の大きさよりも小さくなっていることが好ましい。
【0013】
このような構成により、プリパルス電力に起因する励起光により、レーザ媒質から誤ってレーザ光が発振されることを防止することができる。
【0014】
本発明によるレーザ発振装置において、
前記放電管に流れる電流を観察する電流観察部をさらに備え、
前記プリパルス電力は、前記電流観察部からの情報に基づいて、その大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つが調整されることが好ましい。
【0015】
このような構成により、放電管における放電をより確実に起こさせることができる。
【0016】
本発明によるレーザ発振装置において、
被処理体がレーザ加工されている加工状態において、前記電源から前記放電管に次回以降に印加されるプリパルス電力は、前記電流観察部からの情報に基づいて、その大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つが調整されることが好ましい。
【0017】
このような構成により、放電管における放電をより確実に起こさせることができる。
【0018】
本発明によるレーザ発振装置において、
前記電源を制御する制御部をさらに備え、
当該制御部は、前記電流観察部から前記放電管に電流が流れたという情報を受けた後に、前記電源によって前記放電管に加工電力を印加させることが好ましい。
【0019】
このような構成により、放電管における放電をさらに確実に起こさせることができる。
【0020】
本発明によるレーザ発振装置において、
前記電源を制御する制御部をさらに備え、
当該制御部は、被処理体がレーザ加工されていない非加工状態のときに、前記電流観察部からの情報に基づいて、前記プリパルス電力の大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つを調整することが好ましい。
【0021】
このような構成により、放電管における放電をより確実に起こさせることができる。
【0022】
本発明によるレーザ発振装置において、
前記制御部は、定期的に非加工状態を作りだし、当該非加工状態のときに、前記電流観察部からの情報に基づいて、前記プリパルス電力の大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つを調整することが好ましい。
【0023】
このような構成により、放電管における放電をさらに確実に起こさせることができる。
【0024】
本発明によるレーザ発振装置において、
前記レーザ媒質から発振されるレーザ光を観察するレーザ観察部をさらに備え、
前記プリパルス電力は、前記レーザ観察部からの情報にも基づいて、その大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つが調整されることが好ましい。
【0025】
このような構成により、放電管における放電をより確実に起こさせることができる。
【0026】
本発明によるレーザ発振方法は、
レーザ媒質と、該レーザ媒質に励起光を照射する放電管と、該放電管へ電力を供給する電源と、を備えたレーザ発振装置を用いたレーザ発振方法において、
前記電源によって、前記放電管にパルス状のプリパルス電力を印加するプリパルス工程と、
前記電源によって、前記放電管に前記プリパルス電力よりも大きな加工電力を印加して励起光を発生させる励起光発生工程と、
前記励起光を受けた前記レーザ媒質からレーザ光が発振されるレーザ光発振工程と、
を備えている。
【0027】
このような方法により、エネルギー効率を悪化させず、かつ、放電管の寿命が短くなることなく、放電管における放電を確実に起こさせることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、放電管にパルス状のプリパルス電力を印加した後、該放電管に該プリパルス電力よりも大きな加工電力を印加するので、エネルギー効率を悪化させず、かつ、放電管の寿命が短くなることなく、放電管における放電を確実に起こさせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
第1の実施の形態
以下、本発明に係るレーザ発振装置およびレーザ発振方法の第1の実施の形態について、図面を参照して説明する。ここで、図1および図2は本発明の第1の実施の形態を示す図である。
【0030】
レーザ発振装置は、ガラス基板などの被処理体(図示せず)にレーザ光Lを照射してレーザ加工するために用いられる。このようなレーザ加工としては、例えば、溶接、切断、マーキング、パターニングなどを挙げることができる。
【0031】
このようなレーザ発振装置は、図1に示すように、レーザ媒質20と、レーザ媒質20に励起光Eを照射する放電管1と、放電管1へ電圧(電力)を供給する電圧源(電源)10と、を備えている。このうち、電圧源10は、放電管1にパルス状のプリパルス電圧(プリパルス電力)を印加した後、この放電管1に、プリパルス電圧よりも大きな加工電圧を印加して励起光Eを発生させるようになっている(図2参照)。
【0032】
ここで、プリパルス電圧のパルス幅(電圧が印加されている時間)d1および加工電圧のパルス幅d2は、0.01ms〜1msほどであり、プリパルス電圧が印加されてから加工電圧が印加されるまでの時間Dは、0.01〜1msほどであり、通常は0.1msほどである(図2参照)。
【0033】
なお、図2は、レーザ発振装置の放電管1に流れる電流を、時間を横軸にとって示したグラフ図である。そして、この図2において、プリパルス電圧に対応して放電管1を流れる電流はプリパルス電流Pとして示され、加工電圧に対応して放電管1を流れる電流は加工電流Mとして示されている。
【0034】
また、プリパルス電圧の大きさは、プリパルス電圧が印加されて放電管1から励起光Eが発生した場合でも、当該励起光Eによってレーザ媒質20からレーザ光Lが発振されない程度の大きさであるか、または、レーザ媒質20からレーザ光Lが例え発振されたとしても、当該レーザ光Lによっては被処理体が加工されない程度の大きさからなっている。なお、このようなプリパルス電圧の大きさは、典型的には、加工電圧の大きさの1%〜50%程度の大きさからなっている。
【0035】
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について述べる。
【0036】
まず、電圧源10によって、放電管1にパルス幅d1のプリパルス電圧が一回印加されて、放電管1にプリパルス電流Pが流れる(プリパルス工程)(図1および図2参照)。
【0037】
そして、プリパルス電圧が印加されてから時間Dが経過した後、電圧源10によって、放電管1にパルス幅d2のプリパルス電圧よりも大きな加工電圧が印加されて、放電管1に加工電流Mが流れる。この結果、放電管1から励起光Eが照射される(励起光発生工程)(図1および図2参照)。
【0038】
本実施の形態では、図2に示すように、励起光発生工程に先だって、プリパルス工程でプリパルス電圧を放電管1に印加しているので、放電管1における放電を確実に起こさせることができる。そして、本実施の形態によれば、放電管1に印加される加工電圧(入力エネルギー)を特に大きくする必要がないので、放電管1に印加される加工電圧(入力エネルギー)を大きくする従来技術と比較して、エネルギー効率良く、かつ、放電管1に過剰な負担をかけることなく、放電管1における放電を確実に起こさせることができる。
【0039】
上述のように放電管1から励起光Eが照射されると、励起光Eを受けたレーザ媒質20から、レーザ光Lが発振される(レーザ光発振工程)。そして、このレーザ光Lによって、ガラス基板などからなる被処理体が処理される。
【0040】
ここで、本実施の形態によれば、上述のように放電管1における放電を確実に起こさせることができるので、安定な状態でレーザ媒質20からレーザ発振させることができる。このため、レーザ発振装置としての安定性を維持することができる。
【0041】
第2の実施の形態
次に、図3および図4により、本発明の第2の実施の形態について説明する。図3および図4に示す第2の実施の形態は、電圧源10が、放電管1にプリパルス電圧を一回だけ印加するのではなく、プリパルス電圧を複数回(本実施の形態では3回)印加するものであり、その他の構成は図1および図2に示す第1の実施の形態と略同一である。
【0042】
図3および図4に示す第2の実施の形態において、図1および図2に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0043】
図3に示すように、本実施の形態では、電圧源10によって、プリパルス電圧が複数回印加されて、放電管1にプリパルス電流Pが流れる(図1参照)。このため、放電管1における放電をより確実に起こさせることができ、より安定な状態でレーザ媒質20からレーザ発振させることができる。この結果、レーザ発振装置としての安定性をより確実に維持することができる。
【0044】
なお、本発明者が実際に実験したところによると、第1の実施の形態の態様において、プリパルス電圧のパルス幅を大きくした場合よりも、本実施の形態のように、プリパルス電圧を複数回印加した場合の方が、加工電圧を印加した場合に放電管1から励起光Eが発生しない確率を、格段に小さくすることができた。
【0045】
ところで、本実施の形態の変形例として、最後に印加するプリパルス電圧の大きさを、他のプリパルス電圧(前2回のプリパルス電圧)の大きさよりも小さくしてもよい(図4参照)。このとき、図4に示すように、最後に印加するプリパルス電圧に対応するプリパルス電流Pの大きさは、他のプリパルス電圧(前2回のプリパルス電圧)に対応するプリパルス電流Pの大きさよりも小さくなっている。なお、このように最後に印加されるプリパルス電圧の大きさは、典型的には、他のプリパルス電圧の大きさに対して、概ね80%以下の大きさになっている。
【0046】
このように最後に印加するプリパルス電圧の大きさを、他のプリパルス電圧の大きさよりも小さくすることによって、最後のプリパルス電圧に起因する励起光Eにより、レーザ媒質20から誤ってレーザ光Lが発振されることを防止することができる。
【0047】
すなわち、プリパルス電圧を印加する際に放電管1がわずかに放電して励起光Eが発生することによって、レーザ媒質20にエネルギーが蓄積されることがある。そして、このような場合では、プリパルス電圧を繰り返し印加しているうちに、プリパルス電圧に起因する放電管1の放電によって、レーザ媒質20からレーザ光Lが誤って発振されることがある。このため、本変形例のように、最後に印加するプリパルス電圧の大きさを、他のプリパルス電圧の大きさよりも小さくすることによって、このようなレーザ光Lの誤発振を防止することができる。
【0048】
第3の実施の形態
次に、図5により、本発明の第3の実施の形態について説明する。図5に示す第3の実施の形態は、放電管1に流れる電流を観察する電流観察部30と、当該電流観察部30からの情報に基づいて、電圧源10を制御する制御部50と、をさらに備えたものであり、その他の構成は図3および図4に示す第2の実施の形態と略同一である。
【0049】
図5に示す第3の実施の形態において、図3および図4に示す第2の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0050】
図5において、制御部50は、電流観察部30からの情報に基づいて、電圧源10が放電管1に印加するプリパルス電圧の大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つを調整する。より具体的には、制御部50は、電流観察部30からの情報に基づいて、被処理体がレーザ加工されている加工状態において、電圧源10が放電管1に次回印加するプリパルス電圧の大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つを調整する。
【0051】
このため、本実施の形態によれば、具体的な状況に応じて、プリパルス電圧を調整することができるので、放電管1における放電をより確実に起こさせることができる。この結果、より安定な状態でレーザ媒質20からレーザ発振させることができ、レーザ発振装置としての安定性をより確実に維持することができる。
【0052】
なお、上記では、制御部50によって、電圧源10が放電管1に次に印加するプリパルス電圧を調整する態様を用いて説明したが、これに限られることなく、制御部50は、次々回以降に電圧源10から放電管1に印加されるプリパルス電圧を調整してもよい。
【0053】
また、上記では、図3および図4に示す第2の実施の形態を基準として、当該第2の実施の形態を変形した態様を用いて説明したが、これに限られることなく、図1および図2に示す第1の実施の形態を基準としてもよい。
【0054】
第3の実施の形態の変形例
次に、図6により、本発明の第3の実施の形態の変形例について説明する。図6に示す変形例は、制御部50が、電流観察部30からの情報に基づいて、電圧源10が放電管1に印加するプリパルス電圧の大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つを調整する代わりに、制御部50が、電流観察部30からの情報に基づいて放電管1に電流が流れたことを確認した後に、電圧源10によって放電管1に加工電圧を印加させるものであり、その他の構成は図5に示す第3の実施の形態と略同一である。
【0055】
図6に示す第3の実施の形態の変形例において、図5に示す第3の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0056】
本変形例によれば、制御部50は、電流観察部30からの情報に基づいて放電管1にプリパルス電流Pが流れたことを確認した後に、電圧源10によって放電管1に加工電圧を印加させる(図6参照)。このため、放電管1における放電をさらに確実に起こさせることができる。
【0057】
すなわち、電圧源10が放電管1にプリパルス電圧を印加した場合であっても、加工電圧を印加した際に放電管1における放電が起こらないこともある(このとき、プリパルス電圧を印加した際に、放電管1にはプリパルス電流Pが流れていない)。これに対して、本変形例では、電流観察部30によって放電管1に電流が流れたことを確認することで、放電管1が放電可能な状態であることを確認してから、加工電圧を印加する。なお、図6において波線で示したものは、プリパルス電圧を印加したものの、放電管1にプリパルス電流Pが流れなかった状態を示している。
【0058】
このため、本変形例によれば、放電管1における放電をさらに確実に起こさせることができ、さらに安定な状態でレーザ媒質20からレーザ発振させることができる。この結果、レーザ発振装置としての安定性をさらに確実に維持することができる。
【0059】
第4の実施の形態
次に、図7(a)(b)を参照として、本発明の第4の実施の形態について説明する。第4の実施の形態は、制御部50が、被処理体がレーザ加工されている加工状態において、電圧源10が放電管1に次回印加するプリパルス電圧を調整する代わりに、被処理体がレーザ加工されていない非加工状態のときに、電圧源10が放電管1に印加するプリパルス電圧を調整するものであり、その他の構成は図5に示す第3の実施の形態と略同一である。なお、この非加工状態においては、レーザ媒質20と被処理体との間に配置されたシャッター(図示せず)が閉じられており、レーザ媒質20から発振されるレーザ光Lによって被処理体が加工されないようになっている。
【0060】
図7(a)(b)は、プリパルス数を横軸にとり、放電管1に流れる電流を縦軸にとったグラフ図である。このような図7(a)(b)において、黒丸(●)で示した条件は、加工電圧を加えた場合であっても放電管1が放電しなかった条件であり、白丸(○)で示した条件は、加工電圧を加えると確実に放電管1が放電した条件である。また、バツ(×)で示した条件は、プリパルス電圧が大きすぎて、プリパルス電圧による放電管1の放電で、レーザ媒質20からレーザ光Lが発振されてしまった条件を示している。
【0061】
そして、図7(a)はある状況におけるグラフ図であり、図7(b)は図7(a)と異なる状況(放電管1が劣化した場合、レーザ加工条件を変えた場合、周辺環境が変化した場合など)におけるグラフ図である。
【0062】
このような図7(a)(b)に示すように、放電管1の劣化、レーザ加工条件の変化、周辺環境の変化などの状況が変わることにより、最適なプリパルス電圧の条件が変わることがある。
【0063】
このため、本実施の形態のように、被処理体がレーザ加工されていない非加工状態のとき(レーザ発振装置のウォームアップ時間や、レーザ発振装置の稼動時間の合間や、レーザ発振装置のメンテナンス時間など)に、プリパルス電圧の大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つを調整することによって、状況に応じて変化する最適なプリパルス電圧の条件を追随することができる。
【0064】
従って、本実施の形態によれば、放電管1における放電をより確実に起こさせることができ、より安定な状態でレーザ媒質20からレーザ発振させることができる。この結果、レーザ発振装置としての安定性をより確実に維持することができる。
【0065】
なお、制御部50は、定期的に非加工状態を作りだすようにしてもよい。このように定期的に非加工状態を作りだすことによって、定期的に、電圧源10が放電管1に印加するプリパルス電圧を調整することができる。このため、放電管1における放電をさらに確実に起こさせることができる。
【0066】
第5の実施の形態
次に、図8により、本発明の第5の実施の形態について説明する。図8に示す第5の実施の形態は、レーザ媒質20から発振されるレーザ光Lを観察するレーザ光観察部35と、当該レーザ光観察部35からの情報に基づいて、電圧源10を制御する制御部50と、をさらに備えたものであり、その他の構成は図3および図4に示す第2の実施の形態と略同一である。
【0067】
図8に示す第5の実施の形態において、図3および図4に示す第2の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0068】
図8において、制御部50は、レーザ光観察部35からの情報に基づいて、電圧源10が放電管1に印加するプリパルス電圧の大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つを調整する。より具体的には、制御部50は、レーザ光観察部35から得られるレーザ光Lに関する情報に基づいて、被処理体がレーザ加工されている加工状態において、電圧源10が放電管1に次回印加するプリパルス電圧の大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つを調整する。
【0069】
このため、本実施の形態によれば、具体的な状況に応じて、プリパルス電圧を調整することができるので、放電管1における放電をより確実に起こさせることができる。この結果、より安定な状態でレーザ媒質20からレーザ発振させることができ、レーザ発振装置としての安定性をより確実に維持することができる。
【0070】
具体的な状況に応じた対応としては、例えば、レーザ媒質20からレーザ発振しなかった場合には、被処理体に対するレーザ発振装置の相対的な移動を停止させた後、プリパルス電圧の大きさを大きくしたり、プリパルス電圧の回数を多くしたり、プリパルス電圧のパルス幅を長くしたり、パルス間隔を短くしたりして、調整した後、電圧源10から放電管1に再度加工電圧を印加する。
【0071】
逆に、プリパルス電圧によって、レーザ媒質20から予期せぬレーザ発振が生じてしまった場合には、プリパルス電圧の大きさを小さくしたり、プリパルス電圧の回数を少なくしたり、プリパルス電圧のパルス幅を短くしたり、プリパルス電圧のパルス間隔を長くしたりして、調整した後、電圧源10から放電管1に再度加工電圧を印加する。
【0072】
なお、上記では、制御部50によって、電圧源10が放電管1に次に印加するプリパルス電圧を調整する態様を用いて説明したが、これに限られることなく、制御部50は、次々回以降に電圧源10から放電管1に印加されるプリパルス電圧を調整してもよい。
【0073】
また、上記では、図3および図4に示す第2の実施の形態を基準として、当該第2の実施の形態を変形した態様を用いて説明したが、これに限られることなく、図1および図2に示す第1の実施の形態を基準としてもよい。
【0074】
さらに、上記では、制御部50が、被処理体がレーザ加工されている加工状態において、電圧源10が放電管1に次回印加するプリパルス電圧を調整する態様を用いて説明したが、これに限られることなく、第4の実施の形態で示したように、被処理体がレーザ加工されていない非加工状態のときに、電圧源10が放電管1に印加するプリパルス電圧を調整するようにしてもよい。
【0075】
このように被処理体がレーザ加工されていない非加工状態のときにプリパルス電圧を調整する場合には、制御部50が定期的に非加工状態を作りだすようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるレーザ発振装置の構成を示す概略図。
【図2】本発明の第1の実施の形態によるレーザ発振装置の放電管に流れる電流を、時間を横軸にとって示したグラフ図。
【図3】本発明の第2の実施の形態によるレーザ発振装置の放電管に流れる電流を、時間を横軸にとって示したグラフ図。
【図4】本発明の第2の実施の形態の変形例によるレーザ発振装置の放電管に流れる電流を、時間を横軸にとって示したグラフ図。
【図5】本発明の第3の実施の形態によるレーザ発振装置の構成を示す概略図。
【図6】本発明の第3の実施の形態の変形例によるレーザ発振装置の放電管に流れる電流を、時間を横軸にとって示したグラフ図。
【図7】プリパルス数を横軸にとり、放電管に流れる電流を縦軸にとったグラフ図。
【図8】本発明の第5の実施の形態によるレーザ発振装置の構成を示す概略図。
【符号の説明】
【0077】
1 放電管
10 電圧源
20 レーザ媒質
30 電流観察部
35 レーザ光観察部
50 制御部
E 励起光
L レーザ光
M 加工電流
P プリパルス電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ媒質と、
前記レーザ媒質に励起光を照射する放電管と、
前記放電管へ電力を供給する電源と、を備え、
前記電源は、前記放電管にパルス状のプリパルス電力を印加した後、該放電管に該プリパルス電力よりも大きな加工電力を印加して励起光を発生させ、前記レーザ媒質からレーザ光を発振させることを特徴とするレーザ発振装置。
【請求項2】
前記電源は、前記放電管に前記プリパルス電力を複数回、印加することを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振装置。
【請求項3】
前記電源から前記放電管に印加される前記プリパルス電力のうち最後に印加されるプリパルス電力の大きさは、他のプリパルス電力の大きさよりも小さくなっていることを特徴とする請求項2に記載のレーザ発振装置。
【請求項4】
前記放電管に流れる電流を観察する電流観察部をさらに備え、
前記プリパルス電力は、前記電流観察部からの情報に基づいて、その大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つが調整されることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振装置。
【請求項5】
被処理体がレーザ加工されている加工状態において、前記電源から前記放電管に次回以降に印加されるプリパルス電力は、前記電流観察部からの情報に基づいて、その大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つが調整されることを特徴とする請求項4に記載のレーザ発振装置。
【請求項6】
前記電源を制御する制御部をさらに備え、
当該制御部は、前記電流観察部から前記放電管に電流が流れたという情報を受けた後に、前記電源によって前記放電管に加工電力を印加させることを特徴とする請求項4に記載のレーザ発振装置。
【請求項7】
前記電源を制御する制御部をさらに備え、
当該制御部は、被処理体がレーザ加工されていない非加工状態のときに、前記電流観察部からの情報に基づいて、前記プリパルス電力の大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つを調整することを特徴とする請求項4に記載のレーザ発振装置。
【請求項8】
前記制御部は、定期的に非加工状態を作りだし、当該非加工状態のときに、前記電流観察部からの情報に基づいて、前記プリパルス電力の大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つを調整することを特徴とする請求項7記載のレーザ発振装置。
【請求項9】
前記レーザ媒質から発振されるレーザ光を観察するレーザ観察部をさらに備え、
前記プリパルス電力は、前記レーザ観察部からの情報にも基づいて、その大きさ、回数、パルス幅およびパルス間隔のうちの少なくとも1つが調整されることを特徴とする請求項1に記載のレーザ発振装置。
【請求項10】
レーザ媒質と、該レーザ媒質に励起光を照射する放電管と、該放電管へ電力を供給する電源と、を備えたレーザ発振装置を用いたレーザ発振方法において、
前記電源によって、前記放電管にパルス状のプリパルス電力を印加するプリパルス工程と、
前記電源によって、前記放電管に前記プリパルス電力よりも大きな加工電力を印加して励起光を発生させる励起光発生工程と、
前記励起光を受けた前記レーザ媒質からレーザ光が発振されるレーザ光発振工程と、
を備えたことを特徴とするレーザ発振方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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