説明

レーザ穿孔方法

【課題】レーザ光によって溶融した溶融金属による形成しようとする細長い微細径の貫通孔の閉塞を解消できるレーザ穿孔方法を提供する。
【解決手段】金属部材(鋳造用金型30)の上方からレーザ光Sを照射して貫通孔(ガス抜き孔47)を形成するレーザ穿孔方法であって、予め、レーザ光Sが金属部材を通過して射出されるレーザ射出側(キャビティ面38)を隔房99によって密閉し該隔房内にガスGを供給し、その圧力を金属部材のレーザ入射側の圧力より高くするレーザ射出側加圧工程と、レーザ入射側にレーザ光Sを照射するレーザ光照射工程と、照射されたレーザ光が貫通孔を形成して金属部材から射出されるときレーザ射出側に形成されるレーザ射出側開口部(キャビティ面開口部77)を通って貫通孔にガスを吹き込むガス流生成工程と、を含み、照射されたレーザ光によって溶融された金属部材の溶融金属Mがレーザ射出側開口部を閉塞することを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ穿孔方法に関する。詳しくは、金属部材に細長い微細径の孔を形成するレーザ穿孔方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カムシャフト等の金属部品は、一般に鋳造用金型のキャビティに溶湯を充填して製造されるが、鋳造のときキャビティ内に残っているガス、及び溶湯から発生するガスを除去するために鋳造用金型のキャビティ面の各所にガス抜き連通路としてキャビティ外部と連通したガス抜き用の細孔、またはスリットを設ける、または多孔性部材を配置することが公知である(特許文献1及び2参照)。
【0003】
ここで、鋳造用金型に設けるガス抜き連通路は、ガスを抜き溶湯を止める必要があるが、金型にスリットを設ける方式、及び多孔性部材を配置する方式は、いずれもそのための追加構成部品が必要になる。この追加構成部品はそれぞれのガス抜き連通路に必要であり、通常鋳造用金型は多数のガス抜き連通路を必要とするため、鋳造用金型を形成する部品点数が大幅に増加する。また、異材であるため、熱膨張率の差から鋳造用金型内部に応力が発生し鋳造用金型寿命に影響を与える場合もある。
一方、鋳造用金型に細孔を設ける方式は、追加構成部品が不要であり、簡単な構造で形成できる。しかしながら、鋳造用金型に細孔を設ける方式は構造的に簡単ではあるが、金属部材に細長い微細径の孔を正確に加工形成することは容易ではない。
【0004】
金属部材に細長い微細径の孔を形成する方式としては、マイクロドリルを用いた微小深穴加工、微細放電加工機を用いた微細穴加工が公知であるが、マイクロドリルを用いた微小深穴加工においては、要求される微小孔がしばしばドリル加工の最少径限界を超え、また最少径限界近くでは刃先の摩耗による孔径の変化を抑えるため加工に非常な時間を掛ける必要がある。また、放電加工においても、要求される微小孔がしばしば加工の最少径限界を超え、同様に最少径限界近くでは加工に非常な時間を掛ける必要がある。
【0005】
また、金属部材に細長い微細径の孔を形成する方式としては、レーザ光(ファイバーレーザ、YAGレーザ、CO2レーザ、又はUV個体レーザ)を用いたレーザ穿孔方法が公知である。また、レーザ穿孔方法において、レーザを用いて加工対象物に形成した貫通孔からレーザ穿孔によって発生する溶融物等の加工残渣を効率的に排出する技術が提案されている(特許文献3及び4参照)。
【0006】
しかしながら、レーザ穿孔方法を用いて金属部材に細長い微細径の孔を形成する場合に発生しやすい、レーザ光によって溶融した溶融金属による貫通孔の閉塞に関するものは見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公平5−270号公報(実願昭62−120636号)
【特許文献2】特開昭2002−113550号公報(特願2000−309687号)
【特許文献3】特開昭59−47084号公報(特願昭57−157116号)
【特許文献4】特開平8−155670号公報(特願平6−300769号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消し、レーザ穿孔方法を用いて金属部材に細長い微細径の孔を形成する場合に発生しやすいレーザ光によって溶融した溶融金属による貫通孔の閉塞を解消できるレーザ穿孔方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 金属部材(例えば、後述の鋳造用金型30、固定型32)の上方からレーザ光(例えば後述のレーザ光S)を照射して当該金属部材に貫通孔(例えば、後述のガス抜き孔41、43、45、47(47a、47b、47c、47d、47e))を形成するレーザ穿孔方法であって、予め、レーザ光が金属部材を通過して金属部材から射出される金属部材のレーザ射出側(例えば、後述のキャビティ面38、第1乃至第4の環状溝部40乃至46、閉鎖空間C)を隔房(例えば、後述の隔房99)によって密閉し該隔房内にガス(例えば、後述のガスG)を供給することにより、金属部材のレーザ射出側の圧力を金属部材のレーザ入射側(例えば、導管底面102(102a、102b、102c、102d、102e))の圧力より高くするレーザ射出側加圧工程と、
金属部材のレーザ入射側にレーザ光を照射するレーザ光照射工程と、
照射されたレーザ光が貫通孔を形成して金属部材から射出されるとき金属部材のレーザ射出側に形成されるレーザ射出側開口部(例えば、レーザ射出側開口部114e、キャビティ面開口部77(77a、77b、77c、77d、77e))を通って貫通孔にガスを吹き込むガス流生成工程と、を含み、照射されたレーザ光によって溶融された金属部材の溶融金属(例えば、後述の溶融金属M)がレーザ射出側開口部を閉塞することを防止するレーザ穿孔方法。
【0010】
(1)のレーザ穿孔方法によれば、あらかじめ、レーザ光が金属部材を通過して金属部材から射出される金属部材のレーザ射出側を隔房によって密閉し該隔房内にガスを供給することにより、金属部材のレーザ射出側の圧力を金属部材のレーザ入射側の圧力より高くしておく。
次に、レーザ光照射によって入射したレーザ光が貫通孔を形成して金属部材から射出されるときレーザ射出側にレーザ射出側開口部が形成されるが、照射されたレーザ光によって溶融された金属部材の溶融金属がその重量によって貫通孔の内部壁面を下向きに移動し、一旦形成されたレーザ射出側開口部を閉塞しようとする。
【0011】
ここで、金属部材のレーザ射出側の圧力は金属部材のレーザ入射側の圧力より高くされているため、一旦金属部材のレーザ射出側にレーザ射出側開口部が形成され貫通孔が形成されると、隔房内のガスはレーザ射出側開口部を通って貫通孔に吹き込まれ、この貫通孔に吹き込まれる上向きのガス流によって、溶融された金属部材である貫通孔内の溶融金属をその重量に抗して逆流させ貫通孔のレーザ入射側開口部から排出する。
【0012】
従って、このガス流によって、照射されたレーザ光によって溶融された金属部材の溶融金属が貫通孔を閉塞することを防止できる。また、レーザ射出側開口部は、一旦形成された後このガス流がなければ溶融金属によってその内径が縮小する(更には閉塞する)ところを、このガス流により溶融金属を押し返しその内径を拡大しようとする反作用を与えて、その両者のバランスによってその内径が定まるものであるため、レーザ射出側開口部の内径の意図しない拡大を抑制することができる。
【0013】
また、(1)のレーザ穿孔方法は、金属部材が、軽合金または鉄系部品を鋳造するための鋳造金型のキャビティ面であり、且つ金属部材の材料が銅、銅合金または鋼であり、更に貫通孔がガス抜き孔であってよい。
【0014】
(2) (1)のレーザ穿孔方法であって、貫通孔は、レーザ射出側開口部に向かってその内径が小さくなり、レーザ射出側開口部の内径は、ガスの圧力及び/または流量を制御することによって所望の値とするレーザ穿孔方法。
【0015】
(2)のレーザ穿孔方法によれば、貫通孔はレーザ射出側開口部に向かってその内径が小さくなっているためレーザ射出側開口部の内径が最も小さく、従って貫通孔に吹き込まれるガス流の流速はレーザ射出側開口部で最も速く、溶融金属を吹き飛ばす、または押し返す作用は最も強い。一方照射されたレーザ光によって溶融された金属部材の溶融金属は重力によって最下部のレーザ射出側開口部に集まりレーザ射出側開口部を閉塞しようとしている。従って、最も閉塞しやすい部分に、最も溶融金属を吹き飛ばす、または押し返す作用を与えることができるので、レーザ射出側開口部の内径を効果的に調整することができる。
【0016】
レーザ射出側開口部は、このガス流がなければ溶融金属によってその内径が縮小するところを、このガス流により溶融金属を押し返しその内径を拡大しようとする反作用を与えて、その両者のバランスによってその内径が定まるものであるため、吹き込まれるガス流の圧力及び/または流量を制御することによってレーザ射出側開口部の内径を所望の値とすることができる。
【0017】
(3) (1)または(2)に記載のレーザ穿孔方法であって、レーザ射出側開口部の内径(φD)が0.2mm以下であるとき、貫通孔の長さ(L)のレーザ射出側開口部の内径に対する比(L/φD)が15以上であるレーザ穿孔方法。
【0018】
(3)のレーザ穿孔方法によれば、形成しようとする貫通孔のレーザ射出側開口部の内径(φD)に対して十分な貫通孔の長さ(L)があるため、レーザ照射によって金属部材に開口部が生じたとたんに、一気に溶融金属が吹き込まれたガスによって貫通孔のレーザ照射側に吹き飛ばされることがなく、生成されるガス流によってレーザ射出側開口部の内径(φD)が0.2mm以下の微細孔を形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、レーザ穿孔方法を用いて金属部材に細長い微細径の孔を形成する場合に発生しやすいレーザによって溶融した溶融金属による貫通孔の閉塞を解消できるレーザ穿孔方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザ穿孔方法によって製造した鋳造用金型の要部を示す部分断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。(a)は全体を示し、(b)は1つの貫通孔の細部を示す。
【図3】本発明の実施形態に係るレーザ穿孔方法に用いるレーザ穿孔装置の概要斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係るレーザ穿孔方法を説明する概要斜視図である。
【図5】本発明の実施形態に係るレーザ穿孔方法の動作を示す模式図である。
【図6】本発明の実施形態に係るレーザ穿孔方法の動作を示す模式図である。(a)は1つの貫通孔の全体を示し、(b)は貫通孔のレーザ射出側開口部の近傍を示す。
【図7】本発明の実施形態に係るレーザ穿孔方法に関するレーザ射出側の圧力とレーザ射出側開口部(キャビティ面開口部)の内径との関係を示す模式図である。
【図8】本発明の実施形態に係るレーザ穿孔方法に用いるレーザ穿孔装置を構成するレーザ装置の出力パターンを示す模式図である。
【図9】本発明の実施形態に係るレーザ穿孔方法に用いるレーザ穿孔装置を構成するレーザ光射出光学ユニット及び撮像デバイスの概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図1乃至7に基づき説明する。
【0022】
図1及び2は、本発明の実施形態に係るレーザ穿孔方法によって製造した鋳造用金型30を示す。図1は、鋳造用金型30の要部を示す側面視の部分断面図であり、図2は、図1のA−A断面図である。(a)は全体を示し、(b)は1つの貫通孔の細部を示す。この鋳造用金型30は、カムシャフト等の鉄製部品の製造に好適なものである。鋳造用金型30は、固定型32及び可動型34を型締めすることによってキャビティ面38を形成し、このキャビティ面38で、カムシャフトのように小径部と大径部とが混在する異径棒状材を鋳造するものである。
【0023】
この鋳造用金型30は、クイックキャスティング用のものであり、金型冷却回路(図示省略)と協働させることによりキャビティ面38を強冷できるように、熱伝導性が高い銅製、または銅合金製、または鋼製であることが好ましい。中子36は、鋳造する異径棒状材を中空に形成するためのものである。
図1において、TOP方向は天側を示し、BOTTOM方向は地側を示す。従って、鋳造用金型30において、ワークである異径棒状材は垂直方向に伸びる体勢で形成される。
【0024】
この鋳造用金型30は、型締めすることにより、異径棒状材の複数の大径部を囲う第1乃至第4の部位(以下、「環状溝部」)40、42、44、及び46をキャビティ面38に備える。鋳造用金型30は、これら第1乃至第4の環状溝部40乃至46のうちの最上段の第4の環状溝部46にその上コーナ部において開口するキャビティ面開口部77を有し、そのキャビティ面開口部77から、固定型32及び可動型34のそれぞれにおいて、水平に伸びるガス抜き孔47を備える。キャビティ面開口部77及びガス抜き孔47は、この実施形態では固定型32及び可動型34のそれぞれにおいて、5個のキャビティ面開口部77a、77b、77c、77d、77e(図1では切断面上の77cのみを図示する)、及び5個のガス抜き孔47a、47b、47c、47d、47e(図1では切断面上の47cのみを図示する)から構成されているが、ワークである異径棒状材の形状、材質、鋳造条件等により、適宜増減してよい。
【0025】
ガス抜き孔47(ガス抜き孔47a、47b、47c、47d、47e)の一端を構成するキャビティ面開口部77(キャビティ面開口部77a、77b、77c、77d、77e)は、所定の内径φDを有する。ガス抜き孔47(ガス抜き孔47a、47b、47c、47d、47e)は、いずれも所定の長さLを有する細長い微細径の貫通孔であり、その他端は、固定型32及び可動型34にそれぞれに形成された導管67(導管67a、67b、67c、67d、67e)の底面である導管底面102(導管底面102a、102b、102c、102d、102e)に、導管底面開口部87(導管底面開口部87a、87b、87c、87d、87e)において開口している。導管67(導管67a、67b、67c、67d、67e)は、固定型32及び可動型34のキャビティ面38の反対側である外面37、39のそれぞれに開口部68(開口部68a、68b、68c、68d、68e)を有する円柱状の有底孔である。
【0026】
また、導管67(導管67a、67b、67c、67d、67e)は、ガス抜き孔47(ガス抜き孔47a、47b、47c、47d、47e)がそれぞれ所定の長さLになるように、それぞれその深さを設定されている。ガス抜き孔47(ガス抜き孔47a、47b、47c、47d、47e)は、導管67(導管67a、67b、67c、67d、67e)と同軸に形成されていることが好ましい。また、ガス抜き孔47a、47b、47c、47d、47e、及び導管67a、67b、67c、67d、67eは、お互いに平行になるように形成されていることが好ましい。
【0027】
また、鋳造用金型30は、固定型カバー31に第1のエア通路50を、可動型カバー33に第2のエア通路52をそれぞれ備え、固定型カバー31を固定型32に、可動型カバー33を可動型34にそれぞれ固定することにより、これら第1、第2のエア通路50、52を導管67(導管67a、67b、67c、67d、67e)に連通させている。この状態では、第4の環状溝部46は、ガス抜き孔47(固定型32及び可動型34のそれぞれのガス抜き孔47a、47b、47c、47d、47e)を介して第1、第2のエア通路50、52と連通している。
【0028】
また、鋳造用金型30は、固定型32及び可動型34のそれぞれにおいて、同様に第1乃至第3の環状溝部40、42、44の上コーナ部に開口する所定の内径φDを有するキャビティ面開口部71、73、75を一端とするガス抜き孔41、43、45を備える。ガス抜き孔41、43、45は、いずれも所定の長さLを有する細長い微細径の貫通孔であり、それぞれ他端は導管61、63、65に、導管底面開口部81、83、85において開口している。同様に、ガス抜き孔41、43、45は、導管61、63、65と同軸に形成されていることが好ましい。また、同様に、キャビティ面開口部71、73、75、ガス抜き孔41、43、45、導管底面開口部81、83、85、導管61、63、65は、同様に、それぞれ複数のキャビティ面開口部、ガス抜き孔、キャビティ面開口部、導管より構成される。例えば、キャビティ面開口部71は、キャビティ面開口部71a、71b、71c、71d、71eより構成されていてよい。
これらのガス抜き孔41、43、45は、それぞれ導管61、63、65を介して同様に第1、第2のエア通路50、52に連通されている。従って、第1の環状溝部40は、ガス抜き孔41を介して、第2の環状溝部42は、ガス抜き孔43を介して、第3の環状溝部44は、ガス抜き孔45を介して、それぞれ第1、第2のエア通路50、52と連通している。
【0029】
第1、第2のエア通路50、52は、それぞれ第1、第2の流路54、55に接続され、この第1、第2の流路54、55は第3の流路56を介して流路切換弁57に接続されている。この流路切換弁57の一方のポートは、真空ポンプ58を接続され、流路切換弁57の他方のポートはコンプレッサ59に接続されている。流路切換弁57を制御して真空ポンプ58を第3流路56に連通し、この状態で真空ポンプ58を駆動することにより、第1乃至第4の環状溝部40、42、44、46から脱気することができる。一方、流路切換弁57を制御してコンプレッサ59を第3流路56に連通し、この状態でコンプレッサ59を駆動することにより、第1乃至第4の環状溝部40、42、44、46にエアを吹き出すことができる。
【0030】
次に、鋳造用金型30の操作について説明する。
型締めの後、鋳造を行うときは、流路切換弁57を制御して真空ポンプ58を第3流路56に連通し、真空ポンプ58を駆動することにより、第1乃至第4の環状溝部40、42、44、46から脱気する。
キャビティ38の下方から図示しない溶湯が供給されるとき、第1乃至第4の環状溝部40、42、44、46の上コーナ部に残留エアが溜まり易いが、真空ポンプ58を駆動して第1、第2のエア通路50、52及びガス抜き孔41、43、45、47及びキャビティ面開口部71、73、75、77を介して第1乃至第4の環状溝部40、42、44、46の上コーナ部から残留エアを逃がすことができる。これにより、第1乃至第4の環状溝部40、42、44、46の上コーナ部にも溶湯を確実に進入させることができる。
【0031】
鋳造用金型30を型開きし、ワークである異径棒状材(図示しない)を取り除いた後、流路切換弁57を制御してコンプレッサ59を第3流路56に連通し、コンプレッサ59を駆動することにより、第1乃至第4の環状溝部40、42、44、46の上コーナ部に開口しているキャビティ面開口部71、73、75、77からエアを吹き出す。これにより、キャビティ面開口部71、73、75、77に付着した溶湯を除去することができる。
【0032】
ここで、ガス抜き孔41、43、45、47は、前述の通り細長い微細径の貫通孔であるが、第1乃至第4の環状溝部40、42、44、46に開口しているキャビティ面開口部71、73、75、77の内径φDは、ガスを確実に抜くと同時にガス抜き孔41、43、45、47への溶湯の侵入を確実に防ぐ必要があるため、0.2mm以下であることが好ましく、0.1mm程度であることが更に好ましい。ガス抜き孔41、43、45、47のキャビティ面開口部71、73、75、77以外の部分の内径φD1は、キャビティ面開口部71、73、75、77の内径φDより大きくてもよい。
【0033】
ガス抜き孔41、43、45、47の長さLは、キャビティ面開口部の内径φDが0.2mm以下である貫通孔を形成するための工程上の理由(後述する)により、長さLのキャビティ面開口部の内径φDに対する比(L/φD)が15以上であることが好ましく、長さLは5mm程度であることが更に好ましい。
【0034】
次に、本発明の実施形態に係るレーザ穿孔方法によって鋳造用金型30を製造するレーザ穿孔装置90につき説明する。図3は、レーザ穿孔装置90の概要斜視図である。
レーザ穿孔装置90は、穿孔のためのレーザ光を形成するためのレーザ装置25、レーザ装置25と光ファイバ伝送光学系24によって接続されレーザ光を照射するためのレーザ光射出光学ユニット20、レーザ光射出光学ユニット20に取り付けられたレーザ光による穿孔の状況をモニターする撮像デバイス23、レーザ光射出光学ユニット20を所定の位置に移動させるロボット装置R、鋳造用金型30のキャビティ面38を密閉し内部に閉鎖空間C(図4参照)を形成する隔房99、閉鎖空間CにガスGを供給し閉鎖空間Cの圧力を高めるポンプP、閉鎖空間Cの圧力を計測する圧力計98、これらを制御する制御装置Tを備える。
【0035】
レーザ装置25は、レーザ穿孔のためのレーザ光を生成するための装置である。レーザ装置25は、制御装置Tの指令により、連続、好ましくはパルス状のレーザ光を生成し、金属を溶接・溶断に適した領域(高エネルギー)のレーザ光として調整するものであり、例えば、YAG−SHGレーザを使用し、レーザ出力は30wクラスであってよい。
レーザには、微細加工に適した高ピーク出力のもの(金属を昇華させる領域を利用)があるが、これらはエネルギーが小さく深孔加工が困難である。従って、溶接・溶断に適した領域である低ピーク出力であるが高エネルギーのレーザを用いる。この領域を使用すれば深孔加工が可能であるが、集光性が悪く最小集光径が0.2mm程度であり、微細加工性は本来高くない。
【0036】
レーザ装置25は、ランプ劣化やYAGロッドの熱レンズ効果によるレーザ出力変動要因に対してレーザ出力を安定化するためランプ投入エネルギーをリアルタイムで自動補正する機能を有することが好ましい。
レーザ装置25は、制御装置Tの指令に基づきレーザ出力を除々に変化させるフェードインやフェードアウト機能を備えていてよい。例えば、図8に示すように、レーザ装置25は、時間t1から時間t2でレーザ出力をゼロから定格出力まで所定の傾きで立ち上げ、時間t2から時間t3まで定格出力を維持し、時間t3から時間t4までレーザ出力を急激に低下させ、時間t4から時間t5までレーザ出力を所定の緩い傾きでフェードアウトさせる等、その出力パターンを自由に設定できる。また、例えば、出力低下を開始する時間t3は、固定値でなく、後述するようにレーザ穿孔の状況をモニターして、その測定値に基づき時間t3を決定し、出力低下を開始するように設定することもできる。
【0037】
図9は、レーザ光射出光学ユニット20及び撮像デバイス23の概要を示す。レーザ光射出光学ユニット20は、レーザ装置25と光ファイバ伝送光学系24によって接続されている。従って、レーザ装置25によって生成されたレーザ光は、光ファイバ伝送光学系24によってレーザ光射出光学ユニット20に伝達される。レーザ光射出光学ユニット20は、その内部にレーザ光を90度曲げるための反射ミラー21を備える。また、レーザ光射出光学ユニット20は、その先端部に集光レンズ22を備え、反射ミラー21によって反射されたレーザ光を集光レンズ22によって小径高エネルギー化し、小径高エネルギー化されたレーザ光Sを穿孔しようとする加工部分に照射できる。
集光レンズ22は、可動式のものであってよく、制御装置Tの指令に基づきサーボ機構からなる集光レンズ調整装置26によって移動され、レーザ光Sの焦点距離、及びレーザ光径を変えることができる。集光レンズ22の焦点距離は、3cmから15cm程度の間で調整できることが好ましい。上述の通り、レーザ装置25で生成されるレーザ光の性格上、焦点における最小集光径は0.2mm以上であり、形成しようとする連通孔の内径より大きい。
【0038】
レーザ光射出光学ユニット20は、反射ミラー21に対して集光レンズ22と反対側に、フィルタ11及び観察用顕微鏡10を備え、光学的に集光レンズ22の側から、集光レンズ22、反射ミラー21、フィルタ11、観察用顕微鏡10の順に配置される。更に、レーザ光射出光学ユニット20には、撮像デバイス23が、観察用顕微鏡10の画像を取得するように配置され、制御装置Tはこの画像によりレーザ光Sの照射による穿孔の状況をモニターできる。撮像デバイス23は、CCDイメージセンサ、またはCMOSセンサであってよく、その画像信号を無線、または有線の信号伝達経路により制御装置Tに伝達できる。
【0039】
図3に示すように、ロボット装置Rは、その先端に取り付けられたレーザ光射出光学ユニット20を上昇または下降させたり、水平移動させたり、斜め移動させたりして、レーザ光射出光学ユニット20の位置を移動させるための手段である。例えば、ロボット装置Rは、アーム部とサーボ機構からなる6個のひねり可動部を備えた回転軸CL1、CL2、CL3、CL4、CL5、CL6を有する自由度6の多関節型アーム式ロボットであってよい。また、レーザ光射出光学ユニット20は、回転軸CL7を軸に自由回転可能である。
【0040】
レーザ光射出光学ユニット20は、ロボット装置Rの動きによって、回転軸CL7を垂直に維持した状態で、X軸Y軸Z軸各方向の移動を組み合わせた移動が可能である。このようなロボット装置Rによって、あらかじめ複数の穿孔しようとする位置を制御装置Tに記憶させておき、鋳造用金型30をセットした後は、制御装置Tからの移動制御信号によって所定の移動軌跡に沿ってレーザ光射出光学ユニット20を移動させ、自動的に穿孔を行うことが可能になる。また、個々の穿孔位置は、制御装置Tにあらかじめ記憶させた位置情報に加えて、ロボット装置Rの先端に設けられたカメラ装置からの画像情報により補正されるものであることが好ましい。
【0041】
隔房99は、その上面99aに開口部を有する空間C1を有し、キャビティ面38を下側にセットされた鋳造用金型30のキャビティ面38を上面99aによって密閉し、キャビティ面38側の空間C2とともに内部に閉鎖空間C(C=空間C1+空間C2)を形成することができる(図4参照)。また、閉鎖空間Cは、後述する鋳造用金型30のレーザ射出側からレーザ入射側へのガス流Bによってその内部の圧力が変動しないだけの十分な容積を有するものであるとともに、ポンプPによる応答性のよい内部圧力調整が可能である容積範囲内であることが好ましい(図6参照)。
【0042】
ポンプPは、隔房99に接続されていて、制御装置Tの指令によって、隔房99と鋳造用金型30との間に形成された閉鎖空間CにガスGを供給し閉鎖空間C内の圧力を高めることができる。また、ポンプPは、後述の圧力計98の信号に基づき閉鎖空間C内の圧力を所定の圧力に維持することができる。ガスGは、空気であってよい。
【0043】
圧力計98は、閉鎖空間Cの圧力を計測するものであり、閉鎖空間Cの圧力に基づく信号を制御装置Tに伝達できる。圧力計98は、隔房99に配置されていてもよいが、鋳造用金型30の側に取り付けるものであってもよい。
【0044】
制御装置Tは、レーザ穿孔装置90の動作を制御するものであり、ロボット装置Rからのレーザ光射出光学ユニット20の位置に関する信号、撮像デバイス23からの穿孔の状況に関する信号、集光レンズ調整装置26からの集光レンズ22の位置に関する信号、圧力計98からの閉鎖空間Cの圧力に関する信号を受信し、あらかじめ記憶された制御データに基づきロボット装置Rを制御することによってレーザ光射出光学ユニット20の位置を、レーザ装置25を制御することによってレーザ光Sの出力及び出力パターンを、集光レンズ調整装置26を制御することによってレーザ光Sの焦点距離、及びレーザ光径を、ポンプPを制御することによって閉鎖空間Cの圧力を、それぞれ制御することができる。
【0045】
次に、図4乃至6を用いて、本発明の実施形態に係るレーザ穿孔方法によって鋳造用金型30を製造する工程を説明する。図4は、本発明の実施形態に係るレーザ穿孔方法を示す部分概要斜視図であり、一例として固定型32にガス抜き孔47(ガス抜き孔47a、47b、47c、47d、47e)を形成する工程を示しているが、ガス抜き孔45、43、41の場合、または可動型34の場合の工程でも同様である。図5及び6は、本発明の実施形態に係るレーザ穿孔方法の動作を示す模式図であり、一例としてガス抜き孔47eの場合を示しているが、ガス抜き孔47a、47b、47c、47dの場合、ガス抜き孔45、43、41の場合、可動型34の場合も同様である。
【0046】
先ず、「導管形成工程」につき説明する。
鋳造用金型30の固定型32に対して、キャビティ面38の反対側である外面37の側から、形成しようとするガス抜き孔47(ガス抜き孔47a、47b、47c、47d、47e)に対応した位置に、円柱形状の下孔である導管67(導管67a、67b、67c、67d、67e)を形成する。導管67(導管67a、67b、67c、67d、67e)は、外面37に開口部68(開口部68a、68b、68c、68d、68e)を有し、その深さは、形成しようとするそれぞれのガス抜き孔47(ガス抜き孔47a、47b、47c、47d、47e)が所定の長さLを有する、すなわち、形成しようとするキャビティ面開口部77(キャビティ面開口部77a、77b、77c、77d、77e)と導管底面開口部87(導管底面開口部87a、87b、87c、87d、87e)との距離がそれぞれ所定の長さLになるように形成される。従って、導管底面102(導管底面102a、102b、102c、102d、102e)における固定型32(すなわち、レーザ穿孔の対象である金属部材)のキャビティ面38までの厚みは、距離Lに等しい。
【0047】
導管67(導管67a、67b、67c、67d、67e)は、形成しようとするガス抜き孔47(ガス抜き孔47a、47b、47c、47d、47e)と同軸が好ましく、またお互いに平行であることが好ましい。導管67(導管67a、67b、67c、67d、67e)の内径は、それぞれの導管底面102(導管底面102a、102b、102c、102d、102e)にレーザ穿孔によりガス抜き孔47(ガス抜き孔47a、47b、47c、47d、47e)を形成するために必要な内径に形成されている。(図5、6参照)また、導管67(導管67a、67b、67c、67d、67e)は、ドリルによって形成すればよく、その導管底面102(導管底面102a、102b、102c、102d、102e)は、平面であっても、すり鉢状であってもよい。
【0048】
次に「レーザ射出側加圧工程」につき説明する。
先ず、固定型32をそのキャビティ面38(第4の環状溝部46を含む)が下向きに、外面37が上向きになるようにセットする。ここで、外面37は水平であることが好ましい。次に、固定型32に対して隔房99を取り付け、そのキャビティ面38を上面99aによって密閉する。これは、先ず隔房99を配置しその上面に、固定型32をそのキャビティ面38(第4の環状溝部46を含む)が下向きに、外面37が上向きになるように載置するものであってもよい。隔房99は、その内部に空間C1を有し、キャビティ面38で囲まれた空間C2とともに閉鎖空間C(C=空間C1+空間C2)を形成する。
【0049】
次に、制御装置Tの指令によって、隔房99に接続されたポンプPによって、隔房99と固定型32との間に形成された閉鎖空間CにガスGを供給し閉鎖空間C内の圧力を高め、圧力計98の信号に基づき閉鎖空間C内の圧力を所定の圧力に維持する。ここで、ガスGは、空気であってよい。
【0050】
ここで、後述のようにガス抜き孔47(ガス抜き孔47a、47b、47c、47d、47e)を形成するためのレーザ穿孔は、上側である導管67(導管67a、67b、67c、67d、67e)の側から下側である閉鎖空間Cに向けて行われるので、レーザ光は貫通孔が形成されたとき貫通孔を通過して閉鎖空間Cに射出する。従って、レーザ穿孔の対象である金属部材(ここでは固定型32が相当)に対して、上側がレーザ入射側(ここでは、導管底面102(導管底面102a、102b、102c、102d、102e)が相当)、下側がレーザ射出側(ここでは、後述のキャビティ面38、第1乃至第4の環状溝部40乃至46、閉鎖空間Cが相当)であり、閉鎖空間C内の圧力を外部の圧力に対して所定の高圧に維持することは、レーザ穿孔の対象である金属部材のレーザ射出側の圧力を反対側のレーザ入射側の圧力に対して所定の高圧に維持することになる。
【0051】
次に、「レーザ光照射工程」につき説明する。
ロボット装置Rの先端に取り付けられたレーザ光射出光学ユニット20は、ロボット装置Rがあらかじめ記憶された制御データに基づき制御されることにより、所定の位置、例えば「直前にガス抜き孔47dの穿孔が終了し、次にガス抜き孔47eを穿孔する」場合であれば、軌跡LMに沿って導管67dの真上から導管67eの真上のX軸Y軸方向位置に移動する。同時に、レーザ光射出光学ユニット20のZ軸方向位置は、レーザ光射出光学ユニット20が他部位と干渉しないで導管67eの導管底面102eに最も接近できるように設定される。これは、制御装置Tに記憶されている鋳造用金型30の形状情報から可能である。
【0052】
また、レーザ光射出光学ユニット20は、ロボット装置Rの先端に設けられたカメラ装置からの導管67eの画像情報によりそのレーザ光Sの照射軸が導管底面102eの中心に一致する位置に補正されることが好ましい。レーザ光射出光学ユニット20は、ガス抜き孔47eの穿孔のための狙い位置に到着するとその位置で停止される。
【0053】
次に、ガス抜き孔47eの穿孔につき説明する。レーザ装置25は、レーザ光射出光学ユニット20が狙い位置に到着すると、制御装置Tの指令により、前述の通り金属を溶接・溶断に適した領域の連続、好ましくはパルス状のレーザ光を生成する。レーザ光の立ち上がりは、加工を精度良く行うために、例えば図7に示すように、レーザ出力をゼロから定格出力まで所定の傾きで立ち上げるものであることが好ましい。レーザ装置25がレーザ光を生成すると、レーザ光射出光学ユニット20は、導管67eの導管底面102eの中心に向けてレーザ光Sを照射する。レーザ光Sを照射された導管底面102eの中心表面は、溶融し始める。
【0054】
このときレーザ光Sの焦点は、形成しようとするガス抜き孔47eのキャビティ面開口部77e、すなわち、レーザ射出側の近傍に設定されていることが好ましい。レーザ光Sの焦点がレーザ射出側であるガス抜き孔47eのキャビティ面開口部77eの近傍に固定されていても、レーザ光Sは、焦点位置より距離L(前述の通り5mm程度)だけ集光レンズ22に近い導管底面102eの位置でも十分小径高エネルギー化されていて導管底面102eを溶融させる。
【0055】
導管底面102eの溶融が進むと導管底面102eには開口部104eを有する円錐状凹部107eが形成され、図5に示す通り、円錐状凹部107eは、レーザ光Sの照射によって徐々にその深さを増大する。円錐状凹部107eの開口部104eは、形成しようとするガス抜き孔47eの導管底面開口部87eより小径であり、円錐状凹部107eの溶融壁面101eは、形成しようとするガス抜き孔47eより小径である。溶融壁面101eは、照射されているレーザ光Sの形状に対応した、開口部104eから底部103に向かって小径になる略円錐形状に形成されている。
溶融壁面101eは、溶融金属Mで覆われているが、溶融金属Mは重力によって底部103eに向かって移動し底部103eに溶融金属Mの溜まりを形成する。
【0056】
レーザ光Sの焦点は、レーザ射出側であるキャビティ面開口部77eの近傍に固定されているのでなく、集光レンズ調整装置26を制御して集光レンズ22の位置を移動させることによって、レーザ光Sの導管底面102eへの照射開始時点では導管底面102eに合わせ、円錐状凹部107eの深さが増大するのに合わせてキャビティ面開口部77eに近づけるように穿孔の工程の間に移動させてもよい。
【0057】
次に、「ガス流生成工程」につき説明する。
図6(a)に示すように、円錐状凹部107eは、レーザ光Sの照射によって溶融が進行し更にその深さを増大させ、ある時点でレーザ射出側の第4の環状溝部46(キャビティ面38)に貫通する。一旦円錐状凹部107e(後述の通り、ガス抜き孔47eに形成される)がレーザ射出側に貫通すると、そこに貫通によって形成されたレーザ射出側開口部114eから閉鎖空間Cに蓄積されていたガスGが勢いよく流入し始める。ガスGによるガス流Bは、円錐状凹部107eをレーザ射出側開口部114eから開口部104eに向かって流れ込み、底部103eに溜まっている溶融金属Mを吹き飛ばし開口部104eから排出する。このとき以降も、レーザ光Sは依然照射されているので、円錐状凹部107eの溶融壁面101eは溶融の進行によって徐々に拡大し、この溶融によって生じた溶融金属Mは同様にガスGによるガス流Bによって吹き飛ばされ開口部104eから排出される。従って、溶融金属Mがレーザ射出側開口部114eを閉塞することはない。
【0058】
図6(b)は、このときのレーザ射出側開口部114eの近傍を示し、レーザ射出側開口部114e近傍に溜まった少量の溶融金属Mがその重力W(下向きの力)と吹き込まれるガス流Bから受ける風圧(上向きの力)とのバランスによって環状に保持されており、吹き込まれるガス流Bの強さに応じた開口径を維持する「安定状態」になっている。尚、残りの溶融金属Mはガス流Bによって吹き飛ばされ開口部104eから排出されている。また、円錐状凹部107eの溶融壁面101eは、ガス流Bの風圧によってその断面が実質的に円形の平滑面に形成される。
【0059】
撮像デバイス23は、その取得画像によりレーザ射出側開口部114eの内径の大きさを観測している。制御装置Tは、撮像デバイス23の取得画像から(具体的には、例えば、上記開口径が所定の範囲内であることを確認)、またはレーザ光Sの照射時間から溶融金属Mが「安定状態」に入ったものとし、レーザ光Sの照射を停止する。レーザ光Sの照射の停止は、直ちにオフにするものでもよいが、仕上げ精度向上のため、例えば、図7のようなフェードアウト機能を用いてオフにすることが好ましい。具体的には、時間t3からレーザ出力を一旦急激に低下させ、その後時間t4から時間t5まで所定の緩い傾きで低下させてもよい。
【0060】
レーザ光Sの照射を停止すると、円錐状凹部107eの溶融壁面101e及びレーザ射出側開口部114eは、ガス流Bにより冷却固化され、ガス抜き孔47eの穿孔が終了する。ここで、穿孔終了後、レーザ射出側開口部114eはキャビティ面開口部77eに、円錐状凹部107eの溶融壁面101eはガス抜き孔47eに、それぞれ対応する。
【0061】
図7に示すように、所定の穿孔条件(例えば、鋳造用金型の材料、ガス抜き孔の長さL)において、レーザ射出側の圧力(閉鎖空間Cの圧力)が大きく、その結果ガス流Bの流量が大きいほど、穿孔されたレーザ射出側開口部114e(すなわち、キャビティ面開口部77e)の内径φDは、より大きくなるという正の相関関係を示す。これは、レーザ光Sの照射中の「安定状態」において、レーザ射出側開口部114e(すなわち、キャビティ面開口部77e)は、このガス流Bがなければ溶融金属Mによってその内径が縮小するところを、このガス流Bにより溶融金属Mを押し返しその内径を拡大しようとする反作用を与えて、その両者のバランスによってその内径が定まるものであり、「安定状態」における内径は固化後のレーザ射出側開口部114e(すなわち、キャビティ面開口部77e)の内径φDと強い相関関係があるためと考えられる。
【0062】
吹き込まれるガス流の圧力及び/または流量を制御することによってレーザ射出側開口部の内径を所望の値とすることができる。
従って、レーザ射出側の圧力(閉鎖空間Cの圧力)を制御することによりガス流Bの流量を制御し、穿孔されたレーザ射出側開口部114e(キャビティ面開口部77e)の内径φDを制御することが可能である。
【0063】
また、形成される貫通孔(ガス抜き孔47e)はレーザ射出側開口部114e(キャビティ面開口部77e)に向かってその内径φD1が小さくなっているためレーザ射出側開口部114e(キャビティ面開口部77e)の内径φDが最も小さく、従って貫通孔に吹き込まれるガス流Bの流速はレーザ射出側開口部114e(キャビティ面開口部77e)で最も速く、溶融金属Mを吹き飛ばす、または押し返す作用は最も強い。一方照射されたレーザ光によって溶融された金属部材の溶融金属Mは重力によって最下部のレーザ射出側開口部114e(キャビティ面開口部77e)に集まりレーザ射出側開口部114e(キャビティ面開口部77e)を閉塞しようとしている。従って、最も閉塞しやすい部分に、最も溶融金属Mを吹き飛ばす、または押し返す作用を与えることができるので、レーザ射出側開口部114e(キャビティ面開口部77e)の内径φDを効果的に調整することができる。
【0064】
また、言うまでもなく、形成される貫通孔(ガス抜き孔47e)において、レーザ射出側開口部114e(キャビティ面開口部77e)の内径φDの精度が重要である。他の部分の内径φD1は、余り精度を要求されない。
【0065】
ガス抜き孔47eの穿孔が終了すると、同様に、ロボット装置Rの先端に設けられたレーザ光射出光学ユニット20が、あらかじめ記憶された次の穿孔箇所(例えば、ガス抜き孔47b)に向かって移動し導管67b真上の狙い位置に到着するとその位置で停止され、レーザ穿孔装置90は、「レーザ光照射工程」及び「ガス流生成工程」を行う。以降、同様に「レーザ光照射工程」及び「ガス流生成工程」を繰り返すことができる。
【0066】
以下、本実施形態の効果を実証するための実験につき説明する。
加工対象として鋳造型の典型的な材料である銅製鋳造型を試料として用いて、本実施形態を用いて、複数種類のレーザ射出側開口部(すなわち、キャビティ面開口部)の内径φD、複数種類のガス抜き孔の長さL(すなわち、加工すべき金属部材の厚み)のそれぞれの細長い連通孔の穿孔を行い、その成否を確認する実験を行った。
【0067】
実験は、レーザ射出側開口部の内径φDとして0.2mm、0.1mm、0.05mmの3種類、ガス抜き孔の長さLとして2.5mm、5.0mm、7.5mmの3種類とし、これらの9通りの組み合わせに関する「複数の細長い連通孔」の自動穿孔に関する実験を行った。その結果、9通り全ての組み合わせにおいて、問題なく設定通りのガス抜き孔を形成できることが確認された。
【0068】
また、最も微細径φD=0.05mmに関して、連通孔の長さL(すなわち、加工すべき金属部材の厚み)を小さくしてみたが、長さL=0.75mmでは、問題なく内径φD=0.05mmの連通孔を形成できたが、更に厚みを減少させて長さL=0.7mmとすると、内径φD=0.05mmの連通孔は形成できず、内径φD=0.06mmの連通孔が限度であった。
連通孔の形状としては、レーザ射出側開口部(キャビティ面開口部)に向かってその内径が小さくなり、レーザ射出側開口部の内径φDが最も小さいものであった。
【0069】
従って、本実施形態によれば、鋳造用金型に対して、所定の位置の0.2mm以下の所望の内径(例えば、0.1mmφ)であって長さ5mm程度の多数の細長い微細径の孔(ガス抜き孔)を、精度よく且つ効率的に形成することができる。
【0070】
本発明のレーザ穿孔方法は、鋳造用金型を対象とするものに限定されるものではなく、他の多様な金属部材に対しても同様に適用できる。また、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
30 鋳造用金型(金属部材)
38 キャビティ面(金属部材のレーザ射出側)
40 第1の環状溝部(金属部材のレーザ射出側)
41、43、45、47(47a、47b、47c、47d、47e) ガス抜き孔(連通孔)
42 第2の環状溝部(金属部材のレーザ射出側)
44 第3の環状溝部(金属部材のレーザ射出側)
46 第4の環状溝部(金属部材のレーザ射出側)
77(77a、77b、77c、77d、77e) キャビティ面開口部(レーザ射出側開口部)
99 隔房
102(102a、102b、102c、102d、102e) 導管底面(金属部材のレーザ入射側)
114e レーザ射出側開口部(レーザ射出側開口部)
C 閉鎖空間(金属部材のレーザ射出側)
G ガス
L 貫通孔の長さ
M 溶融金属
S レーザ光
φD レーザ射出側開口部の内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材の上方からレーザ光を照射して当該金属部材に貫通孔を形成するレーザ穿孔方法であって、
予め、レーザ光が前記金属部材を通過して前記金属部材から射出される前記金属部材のレーザ射出側を隔房によって密閉し該隔房内にガスを供給することにより、前記金属部材の前記レーザ射出側の圧力を前記金属部材のレーザ入射側の圧力より高くするレーザ射出側加圧工程と、
前記金属部材の前記レーザ入射側にレーザ光を照射するレーザ光照射工程と、
照射されたレーザ光が貫通孔を形成して前記金属部材から射出されるとき前記金属部材の前記レーザ射出側に形成されるレーザ射出側開口部を通って前記貫通孔に前記ガスを吹き込むガス流生成工程と、を含み、前記照射されたレーザ光によって溶融された前記金属部材の溶融金属が前記レーザ射出側開口部を閉塞することを防止するレーザ穿孔方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ穿孔方法であって、
前記貫通孔は、前記レーザ射出側開口部に向かってその内径が小さくなり、
前記レーザ射出側開口部の内径は、前記ガスの圧力及び/または流量を制御することによって所望の値とするレーザ穿孔方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のレーザ穿孔方法であって、
前記レーザ射出側開口部の内径(φD)が0.2mm以下であるとき、前記貫通孔の長さ(L)の前記レーザ射出側開口部の前記内径に対する比(L/φD)が15以上であるレーザ穿孔方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−206791(P2011−206791A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75098(P2010−75098)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】