説明

レーダ信号処理装置、レーダ装置、及びレーダ信号処理プログラム

【課題】高価なハードウェアや複雑なシステムを必要とせず、簡単な信号処理で分解能の改善を実現したレーダ信号処理装置を提供する。
【解決手段】レーダ信号処理装置13は、方位方向に連続する受信データ系列に対してフィルタ処理を行うフィルタ処理部26を備える。フィルタ処理部26は、前記フィルタ処理の演算に用いる受信データの振幅値の大小関係に基づいてフィルタ係数を変化させながら、前記フィルタ処理を行う。増減判定部28は、フィルタ処理部26において前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値の変化傾向を判定する。フィルタ係数・タップ数決定部25は、前記判定結果に基づいて前記フィルタ係数を決定する。そして、フィルタ処理部26は、フィルタ係数・タップ数決定部25が決定したフィルタ係数を用いて、前記フィルタ処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置において、受信した信号に対して行う信号処理に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶用レーダの中でも、特にレドームタイプなどの安価型の小型レーダにおいては、アンテナ長が短いため水平ビーム幅が大きくなり、方位方向の分解能が低いという課題がある。方位方向の分解能が低い場合、レーダ画面上ではターゲットが方位方向で実際の大きさ以上に伸びて表示されるため、2つの並んだターゲットが重なって1つに見えるなど、レーダ画面上におけるターゲットの視認性が悪化するという問題がある。
【0003】
方位分解能を改善する手法は、フェイズドアレイアンテナやMUSIC法など様々な手法が考案されているものの、何れもアンテナ等のハードウェアが高価になりシステムも複雑化する点がネックとなって、安価な小型レーダへ採用することは難しいのが現状である。
【0004】
一方、受信した信号に対する信号処理方法を改良することで、レーダ画面上でのターゲットの視認性を向上させる手法も各種提案されている。例えば特許文献1は、原信号をローパスフィルタに通すことで、レーダ映像を拡大し、レーダ映像の観測を容易にしたレーダ映像処理装置を開示している。このように信号処理方法を改良する手法は、アンテナの性能自体を向上させる手法(フェイズドアレイアンテナやMUSIC法など)に比べて低コストで実現できるため、小型(安価型)のレーダに適用し易いと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−38997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1の構成は方位方向にレーダ映像を拡大するものであるから、方位方向に2つ並んだターゲットが重なって1つに見えてしまうという問題を解決することはできない。即ち、特許文献1の構成では、小型レーダの方位分解能を向上させるという効果は期待できない。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、高価なハードウェアや複雑なシステムを必要とせず、簡単な信号処理で分解能の改善を実現したレーダ信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のレーダ信号処理装置が提供される。即ち、このレーダ信号処理装置は、複数の受信データからなる受信データ系列に対してフィルタ処理を行うフィルタ処理部を備える。前記フィルタ処理部は、前記フィルタ処理の演算に用いる受信データの振幅値の大小関係に基づいてフィルタ係数を変化させながら、前記フィルタ処理を行う。
【0010】
このように、受信データ系列の振幅値の大小関係に応じてフィルタ係数を変更することで、例えば、振幅値が増減している領域と、それ以外の領域(例えば極大値を示す領域)と、でフィルタ係数を変えるという処理が可能になる。これにより、受信データから得られるエコーの形状を、所望に応じて変形させることができるので、レーダ映像上でのエコー像の視認性を向上させることができる。また、複雑なシステムを必要とせず、GPSやジャイロコンパスによる位置・方位情報も必要としないので、安価かつ簡単にレーダ信号処理装置を構成することができる。
【0011】
上記のレーダ信号処理装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、このレーダ信号処理装置は、前記フィルタ処理の演算に用いる受信データの振幅値の変化傾向に基づいて、前記フィルタ係数を決定するフィルタ係数決定部を備える。前記フィルタ処理部は、前記フィルタ係数決定部が決定したフィルタ係数を用いて、処理対象の受信データ系列に対する前記フィルタ処理を行う。
【0012】
このように、処理対象の受信データ系列に含まれる受信データの振幅値の変化傾向に基づいてフィルタ係数を変更することにより、例えば、受信データ系列が増加傾向を示す場合、減少傾向を示す場合、それ以外の場合(例えば受信データの振幅値が極値を示している場合)でフィルタの効果を変えることができる。
【0013】
上記のレーダ信号処理装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が増加傾向及び減少傾向の何れも示さない場合、前記フィルタ係数決定部は、前記フィルタ処理部の中央タップに入力された受信データの振幅値を当該フィルタ処理部が出力するように、前記フィルタ係数を決定する。
【0014】
これにより、受信データ系列の極大値及び極小値を、フィルタ処理の前後で変化させないようにすることができる。従って、受信データから得らえるエコーをレーダ映像上に表示したときに、表示すべきエコー像がフィルタ処理によって消えてしまったり、表示すべきでないエコー像がフィルタ処理によって出現してしまったりすることを防止できる。
【0015】
上記のレーダ信号処理装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が増加傾向を示している場合、前記フィルタ係数決定部は、前記フィルタ処理部の中央タップの受信データよりも古い受信データに基づいた移動平均を当該フィルタ処理部が出力するように、前記フィルタ係数を決定する。前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が減少傾向を示している場合、前記フィルタ係数決定部は、前記中央タップの受信データよりも新しい受信データに基づいた移動平均を前記フィルタ処理部が出力するように、前記フィルタ係数を決定する。
【0016】
これにより、受信データから得られるエコーの形状を、フィルタ処理によって小さくすることができる。これにより、隣接する複数の物体のエコー像が重なりにくくなり、エコー像の識別性が向上する。
【0017】
上記のレーダ信号処理装置は、以下のように構成することもできる。即ち、前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が減少傾向を示している場合、前記フィルタ係数決定部は、前記フィルタ処理部の中央タップの受信データよりも古い受信データに基づいた移動平均を当該フィルタ処理部が出力するように、前記フィルタ係数を決定する。前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が増加傾向を示している場合、前記フィルタ係数決定部は、前記中央タップの受信データよりも新しい受信データに基づいた移動平均を前記フィルタ処理部が出力するように、前記フィルタ係数を決定する。
【0018】
これにより、受信データから得られるエコーの形状を、フィルタ処理によって大きくすることができる。
【0019】
前記フィルタ処理部に入力される受信データ系列は、方位方向に連続する受信データからなることが好ましい。
【0020】
このように、方位方向に連続する受信データに対してフィルタ処理を施すことで、当該受信データから得らえるエコーの形状を方位方向で適宜調整できるので、例えば方位方向の分解能を向上させることができる。
【0021】
上記のレーダ信号処理装置において、前記フィルタ処理部は、自装置から、前記受信データに対応した物標までの距離に応じて、前記フィルタ処理の処理内容を変更することが好ましい。
【0022】
これによれば、受信データから得られるエコーの形状を、自装置からの距離に応じて適宜調整することができる。
【0023】
前記フィルタ処理部に入力される受信データ系列は、距離方向に連続する受信データからなっていても良い。
【0024】
このように、距離方向に連続する受信データに対してフィルタ処理を施すことで、当該受信データから得られるエコーの形状を距離方向で適宜調整できるので、例えば距離方向の分解能を向上させることができる。
【0025】
上記のレーダ信号処理装置は、レーダ装置の使用条件に基づいて、前記フィルタ処理部のタップ数を決定するタップ数決定部を備えることが好ましい。
【0026】
このように、使用条件に基づいてタップ数を変更することにより、使用条件が変更された場合であっても、フィルタ処理の効果を一定に保つことができる。
【0027】
本発明の第2の観点によれば、上記のレーダ信号処理装置と、レーダアンテナと、表示装置と、を備えたレーダ装置が提供される。前記表示装置は、前記レーダ信号処理装置において前記フィルタ処理部によってフィルタ処理された受信データに基づいて、レーダ映像を表示する。
【0028】
このレーダ装置によれば、フィルタ処理部によってピーク形状が調整された受信データ系列に基づいてレーダ映像を表示することができるので、レーダ映像の視認性を向上させることができる。
【0029】
本発明の第3の観点によれば、以下のレーダ信号処理プログラムが提供される。即ち、このレーダ信号処理プログラムは、コンピュータを、複数の受信データからなる受信データ系列に対してフィルタ処理を行うフィルタ処理手段として機能させる。前記フィルタ処理手段は、前記フィルタ処理の演算に用いる受信データの振幅値の大小関係に基づいてフィルタ係数を変化させながら、前記フィルタ処理を行う。
【0030】
このように、受信データ系列の振幅値の大小関係に応じてフィルタ係数を変更することで、例えば、振幅値が増減している領域と、それ以外の領域(例えば極大値を示す領域)と、でフィルタ係数を変えるという処理が可能になる。これにより、受信データから得られるエコーの形状を、所望に応じて変形させることができるので、レーダ映像上でのエコー像の視認性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーダ信号処理プログラムによるフィルタ処理の効果を説明する図。
【図2】中央タップの受信データが最小値を示す場合のフィルタ処理を説明する図。
【図3】受信データが増加傾向を示す場合のフィルタ処理を説明する図。
【図4】受信データが減少傾向を示す場合のフィルタ処理を説明する図。
【図5】受信データが増加傾向も減少傾向も示さない場合のフィルタ処理を説明する図。
【図6】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図。
【図7】レーダ装置において受信データ系列が取得される様子を説明する図。
【図8】変形例に係るレーダ装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
まず、本発明の一実施形態に係るレーダ信号処理プログラムのアルゴリズム(以下、レーダ信号処理アルゴリズム)の目的と効果について簡単に説明する。このアルゴリズムは、レーダ装置の分解能を向上させることを目的として、受信データの系列にフィルタ処理を施すものである。
【0033】
周知のように、レーダ装置は、アンテナから電波を送波し、エコー(反射波)を受信することで周囲の物標を検知するものである。レーダ装置は、アンテナで受信したエコー信号をサンプリングしてデジタルの受信データを生成する。
【0034】
例えば2つの物体が近接して存在しているとき、レーダ装置においては、図1(a)のように2つのピークを有する受信データの系列(受信データ系列)が得られる。図1のグラフにおいて、縦軸は振幅値(エコーの信号レベル)、横軸は方位である。所定の閾値以上の振幅値を示す受信データをレーダ映像上にプロットしていくことにより、図1(a)の下側に示すようなエコー像を得ることができる。なお図1のグラフにおいて、右側の受信データほど新しい受信データである。
【0035】
ここで、レーダ装置の分解能が不十分な場合、図1(a)の下側に示すように、隣接する2つの物体からのエコー像がひとかたまりにつながって表示装置に表示されてしまう場合がある。この場合、表示装置に表示されたエコー像を見たレーダ装置のオペレータは、当該エコー像を、1つの物体からのエコーだと勘違いしてしまう可能性がある。もちろんアンテナの性能を改善して分解能を向上させれば上記問題を解決することができるが、アンテナの性能を改善しようとするとハードウェアが高価になるとともに、システムが複雑化するという問題がある。
【0036】
そこで、得られた受信データ系列(図1(a))に対してフィルタ処理を施すことにより、図1(b)のように受信データ系列のピークの幅を細らせるのが本発明のレーダ信号処理アルゴリズムの目的とするものである。このようにピークの幅を細らせることができれば、図1(b)の下側に示すように、表示装置に表示されるエコー像が小さくなり、隣接する物標のエコー像同士が重ならなくなるので、隣接する複数のエコー像を表示装置上で明確に見分けることができるようになる。
【0037】
ここで重要なのは、フィルタ処理の前後で、受信データ系列のグラフのピークの極大値や極小値が変化しないことである。即ち、仮に、上記フィルタ処理によってピークの極大値や極小値が変化してしまうと、表示されるべきエコー像がレーダ映像から消えてしまったり、表示されるべきでないエコー像(ノイズなど)がレーダ映像に出現してしまったりすることが発生し得る。そこで、受信データ系列のグラフのピークの極大値や極小値は変化させず、ピークの幅のみを細くすることが重要となる。
【0038】
次に、本実施形態のレーダ信号処理アルゴリズムについて詳細に説明する。
【0039】
前述のように、このレーダ信号処理アルゴリズムは、受信データ系列に対してフィルタ処理を施すものである。このフィルタは、FIRフィルタとして構成される。以下、FIRフィルタのタップ数を5とした場合について説明するが、フィルタのタップ数は5に限らない。入力信号をx、フィルタ係数をam、出力信号をyとすると、このフィルタの差分方程式は、
y[n]=(a0x[n−2]+a1x[n−1]+a2x[n]+a3x[n+1]+a4x[n+2])
で表すことができる。なお、この5つの入力信号のうち、x[n−2]が最も古く、x[n+2]が最も新しいものとする。
【0040】
上記FIRフィルタは受信データ系列に対して適用されるので、個々の入力信号xは、受信データ系列に含まれている個々の受信データの振幅値を示している。このアルゴリズムは一種の適応フィルタ処理であり、フィルタ処理の演算に用いられる5つの受信データの振幅値(x[n−2]〜x[n+2])の大小関係に基づいて、各タップのフィルタ係数を変更することに特徴がある。
【0041】
以下、フィルタ係数の決定方法について説明する。このレーダ信号処理アルゴリズムでは、フィルタ処理の演算に用いられる5つの受信データの振幅値(x[n−2]〜x[n+2])の変化傾向(増加傾向にあるのか、減少傾向にあるのか、或るいは増加傾向も減少傾向も示さないのか)を判定して、当該判定結果に基づいて前記フィルタ係数を決定する。
【0042】
まず、このレーダ信号処理アルゴリズムでは、フィルタ処理の演算に用いられる5つの受信データの振幅値(x[n−2]〜x[n+2])が、以下の条件1を満たしているか否かを判定する。
条件1:
フィルタ処理の演算に用いられる5つの受信データの振幅値x[n−2]〜x[n+2]の中で、中央タップの受信データの振幅値x[n]が最小値を示すこと。
【0043】
例えば図2に示すような5つの受信データに対してフィルタ処理を行う場合、上記条件1が成立している。なお、このように中央タップの受信データの振幅値x[n]が最小値を示す場合、フィルタ処理の演算に用いられる5つの受信データの振幅値x[n−2]〜x[n+2]は、全体として増加傾向も減少傾向も示さないと言うことができる。
【0044】
条件1が成立している場合(受信データが増加傾向も減少傾向も示さない場合)、このレーダ信号処理アルゴリズムでは、中央タップの受信データの振幅値x[n]をそのまま出力信号y[n]として出力するようにフィルタ係数を決定する。具体的には、条件1が成立している場合、フィルタ係数は(a0=0,a1=0,a2=1,a3=0,a4=0)とされる。この場合、フィルタの出力信号y[n]は、
y[n]=x[n]
となる。
【0045】
条件1が成立していない場合、このレーダ信号処理アルゴリズムでは、フィルタ処理の演算に用いられる5つの受信データの振幅値(x[n−2]〜x[n+2])が、以下の条件2を満たしているか否かを判定する。
条件2:
条件1が成立しておらず、
かつ、フィルタ処理の演算に用いられる5つの受信データの振幅値(x[n−2]〜x[n+2])の中で、最新の受信データの振幅値x[n+2]が最大値を示し、
かつ、x[n+1]≧x[n]であること。
【0046】
例えば図3に示すような5つの受信データに対してフィルタ処理を行う場合、上記条件2が成立している。なお、条件2が成立する場合、x[n]は最小値ではないことから、
x[n−1]≦x[n]≦x[n+1]≦x[n+2]
又は、
x[n−2]≦x[n]≦x[n+1]≦x[n+2]
の少なくとも何れか一方が成り経つ。以上のことから、条件2が成立する場合は、フィルタ処理の演算に用いられる5つの受信データの振幅値(x[n−2]〜x[n+2])は全体として増加傾向にあると言うことができる。
【0047】
このように条件2が成立している場合(受信データが増加傾向にあると判定された場合)、このレーダ信号処理アルゴリズムでは、中央タップの受信データの振幅値x[n]と、それよりも古い受信データの振幅値(x[n−1]及びx[n−2])と、の移動平均を出力信号y[n]として出力するようにフィルタ係数を決定する。具体的には、条件2が成立している場合、フィルタ係数は、(a0=1/3,a1=1/3,a2=1/3,a3=0,a4=0)とする。この場合、フィルタの出力信号y[n]は、
y[n]={x[n−2]+x[n−1]+x[n]}/3
となる。
【0048】
条件1及び条件2が成立していない場合、このレーダ信号処理アルゴリズムでは、フィルタ処理の演算に用いられる5つの受信データの振幅値(x[n−2]〜x[n+2])が、以下の条件3を満たしているか否かを判定する。
条件3:
条件1及び条件2が成立しておらず、
かつ、フィルタ処理の演算に用いられる5つの受信データの振幅値(x[n−2]〜x[n+2])の中で、一番古い受信データの振幅値x[n−2]が最大値を示し、
かつ、x[n−1]≧x[n]であること。
【0049】
例えば図4に示すような5つの受信データに対してフィルタ処理を行う場合、上記条件3が成立している。なお、条件3が成立する場合、x[n]は最小値ではないことから、
x[n−2]≧x[n−1]≧x[n]≧x[n+1]
又は、
x[n−2]≧x[n−1]≧x[n]≧x[n+2]
の少なくとも何れか一方が成り経つ。以上のことから、条件3が成立する場合は、フィルタ処理の演算に用いられる5つの受信データの振幅値(x[n−2]〜x[n+2])は、全体として減少傾向にあると言うことができる。
【0050】
このように条件3が成立している場合(受信データが減少傾向にあると判定された場合)、このレーダ信号処理アルゴリズムでは、中央タップの受信データの振幅値x[n]と、それよりも新しい受信データの振幅値(x[n+1]及びx[n+2])と、の移動平均を出力信号y[n]として出力するようにフィルタ係数を決定する。具体的には、条件2が成立している場合、フィルタ係数は、(a0=0,a1=0,a2=1/3,a3=1/3,a4=1/3)とされる。この場合、フィルタの出力信号y[n]は、
y[n]={x[n]+x[n+1]+x[n+2]}/3
となる。
【0051】
条件1から条件3の何れも成立していない場合(例えば図5のような場合)、フィルタ処理の演算に用いられる5つの受信データの振幅値(x[n−2]〜x[n+2])は、全体として増加傾向も減少傾向も示していないと言うことができる。この場合、このレーダ信号処理アルゴリズムでは、条件1が成立している場合と同様に、中央タップの受信データの振幅値x[n]をそのまま出力信号y[n]として出力するようにフィルタ係数を決定する。具体的には、条件1から条件3の何れも成立していない場合、フィルタ係数は(a0=0,a1=0,a2=1,a3=0,a4=0)とされる。この場合、フィルタの出力信号y[n]は、
y[n]=x[n]
となる。
【0052】
以上をまとめると、このレーダ信号処理アルゴリズムでは、受信データ系列が増加傾向又は減少傾向にあると判定された場合は一種の移動平均フィルタ処理が行われ、それ以外の場合には、中央タップの受信データの振幅値x[n]がそのまま出力される。
【0053】
ここで、前述のように、受信データ系列が増加傾向にあると判定されたとき(条件2が成立しているとき)には、中央タップの受信データの振幅値x[n]と、当該中央タップの受信データよりも古い受信データの振幅値(x[n−2]及びx[n−1])を用いた移動平均フィルタ処理が行われる。このように、中央タップよりも古いデータを用いた移動平均を出力することになるので、条件2が成立している場合、フィルタの出力信号y[n]は、中央タップの受信データの振幅値x[n]よりも遅延した信号となる。増加傾向にある入力信号に対して遅延した出力信号y[n]となるのであるから、当該出力信号y[n]は、図3の右側に示すように、入力信号である受信データ系列のグラフの下側(ピークの内側)に入り易くなる。
【0054】
また、前述のように、受信データ系列が減少傾向にあると判定されたとき(条件3が成立しているとき)には、中央タップの受信データの振幅値x[n]と、当該中央タップの受信データよりも新しい受信データの振幅値(x[n+2]及びx[n+1])を用いた移動平均処理が行われる。このように、中央タップよりも新しいデータを用いた移動平均を出力することになるので、条件3が成立している場合、フィルタの出力信号y[n]は、中央タップの受信データの振幅値x[n]よりも先行した信号となる。減少傾向にある信号に対して先行した出力信号y[n]となるのであるから、当該出力信号y[n]は、図4の右側に示すように、入力信号である受信データ系列のグラフの下側(ピークの内側)に入り易くなる。
【0055】
以上のように、本発明のレーダ信号処理アルゴリズムによれば、入力信号(受信データ系列)のピークの内側に入った出力信号y[n]を得ることができる。この結果、図1に示すように、元の入力信号に比べて、ピークの幅を狭くすることができる。これにより、レーダ映像に表示されるエコー像を小さくすることができる結果、隣接する複数の物標のエコー像同士が重なり合って1つに見えてしまうことを防止できる。即ち、上記レーダ信号処理アルゴリズムに基づいてレーダ装置の受信データ系列にフィルタ処理を行うことで、レーダ装置の分解能を向上させることができる。
【0056】
しかも、上記のレーダ信号処理アルゴリズムでは、入力信号(受信データ系列)が増加傾向も減少傾向も示していないと判定された場合は、元の入力信号をそのまま出力信号としている。従って、フィルタへの入力信号の極大値や極小値はそのまま出力される。即ち、受信データ系列のグラフのピークの極大値や極小値を保ったまま、ピークの拡がりだけを小さくした出力信号を得ることができる。従って、必要なエコー像を消してしまったり、不要なエコー像(ノイズなど)が表示されてしまったりすることを防止できる。
【0057】
次に、本発明の一実施形態に係るレーダ装置について説明する。このレーダ装置10は、船舶用のレーダ装置として構成されている。図6に示すように、このレーダ装置10は、アンテナ11と、送受信部12と、レーダ信号処理装置13と、表示装置14と、を備えている。
【0058】
アンテナ11は、所定の角速度で回転しながら電波の送受信を行う公知の構成である。
【0059】
送受信部12は、アンテナ11からパルス状の電波を繰り返し送波させるとともに、アンテナ11が受信したエコー信号を検波、サンプリングしてデジタルの受信データに変換する。パルス状電波を送信する合間にエコー信号を受信する動作を、スイープと呼ぶ。一回のスイープにより、距離方向で連続する複数の受信データからなる受信データ系列が取得される。この様子を、図7に模式的に示す。図7の例では、S0が最新のスイープを示し、S-1,S-2……が過去のスイープを示している。
【0060】
送受信部12でサンプリングされた受信データは、レーダ信号処理装置13に対して順次出力される。
【0061】
ところで前述のように、安価な小型レーダにおいては、方位方向の分解能が悪いという課題があった。そこで、本実施形態のレーダ信号処理装置13は、方位方向に連続する受信データからなる受信データ系列(方位方向の受信データ系列)に対して、前述のレーダ信号処理アルゴリズムによるフィルタ処理を適用することにより、方位方向の分解能を向上させるように構成されている。
【0062】
レーダ信号処理装置13は、図略のCPU、ROM、RAM等のハードウェアと、前記ROMに記録されたレーダ信号処理プログラム等のソフトウェアと、からなるコンピュータとして構成されている。そして、前記ハードウェアと前記ソフトウェアとが協働することにより、レーダ信号処理装置13を、受信信号処理部21、方位分解能向上処理部22、画像形成部23等として機能させることができるように構成されている。
【0063】
受信信号処理部21は、送受信部12から入力された受信データに対して、ノイズ除去、干渉除去などの信号処理を行う。
【0064】
方位分解能向上処理部22は、本発明のレーダ信号処理アルゴリズムによるフィルタ処理を、方位方向の受信データ系列に対して適用することにより、方位方向の分解能を向上させる。
【0065】
画像形成部23は、方位分解能向上処理部22の出力結果に基づいてレーダ映像を形成して、表示装置14に出力する。
【0066】
次に、方位分解能向上処理部22における具体的な処理について説明する。
【0067】
方位分解能向上処理部22は、過去スイープ蓄積部24と、フィルタ係数・タップ数決定部25と、フィルタ処理部(フィルタ処理手段)26と、アンテナ角度補正部27と、を備えている。
【0068】
過去スイープ蓄積部24には、過去の数スイープ分の受信データが蓄積される。
【0069】
フィルタ処理部(フィルタ処理手段)26は、受信信号処理部21から最新の受信データを取得すると、当該最新の受信データに方位方向で連続する受信データからなる受信データ系列を処理対象として前述のフィルタ処理を行う。例えば図7に示すように、最新のスイープS0において最新の受信データd1が得られた場合、この最新の受信データd1を含む方位方向で連続した複数の受信データからなる受信データ系列が、フィルタ処理部26における処理対象となる。
【0070】
なお、本実施形態ではフィルタ処理のタップ数を5としているので、最新の受信データを含む方位方向に連続した5つの受信データ(d1,d2,d3,d4,d5)の振幅値が、フィルタへの入力信号となる。フィルタ処理部26は、最新の受信データd1に方位方向で連続する過去4つの受信データ(d2,d3,d4,d5)を、過去スイープ蓄積部24から取得する。この場合、前述のFIRフィルタの差分方程式において、x[n+2]=d1,x[n+1]=d2,x[n]=d3,x[n−1]=d4,x[n−2]=d5となる。
【0071】
フィルタ係数・タップ数決定部25は、フィルタ処理部26でフィルタ処理の演算に用いる5つの受信データ(前述の場合は受信データd1,d2,d3,d4,d5)を取得して、当該受信データの振幅値の大小関係に基づいてフィルタ係数を決定する。より具体的には、フィルタ係数・タップ数決定部25は、5つの受信データの振幅値が全体として増加傾向にある(条件2が成立する場合)か、減少傾向にある(条件3が成立する場合)か、或いは増加傾向も減少傾向も示さないか、を判定する増減判定部28を有している。この判定処理は、レーダ信号処理アルゴリズムの説明において触れた通りであるから省略する。
【0072】
フィルタ係数・タップ数決定部25は、上記判定結果に基づいてフィルタ係数を決定し、当該フィルタ係数をフィルタ処理部26に出力する。なお、上記判定結果に基づいたフィルタ係数の決定方法の詳細は、レーダ信号処理アルゴリズムの説明で触れた通りであるから、説明は省略する。
【0073】
フィルタ処理部26は、フィルタ係数・タップ数決定部25で決定されたフィルタ係数を用いて、フィルタ処理を行う。なお、フィルタ処理の詳細は、レーダ信号処理アルゴリズムの説明において触れた通りであるから省略する。以上の処理により、方位方向の受信データ系列のグラフのピーク幅を細くした出力信号が得られるので、方位方向での分解能を向上させることができるのである。
【0074】
ところで、5つの受信データ(図7の場合は受信データd1,d2,d3,d4,d5)の振幅値が全体として増加傾向も減少傾向も示さない場合、フィルタ処理部26は、中央タップの受信データ(図7の場合は受信データd3)の振幅値をそのまま出力することになる。この中央タップの受信データは、最新の受信データ(図7の場合はd1)に対して、2スイープ相当遅延している。従って、このままでは、画像形成部23において、2スイープ分だけ方位方向にズレたレーダ映像が生成されてしまう。そこで本実施形態では、アンテナ角度補正部27において、2スイープ分だけ遅らせるように補正したアンテナ角度を、画像形成部23に出力している。画像形成部23においては、上記のように補正されたアンテナ角度と、フィルタ処理部26からの出力信号と、を用いてレーダ映像を形成する。これにより、画像形成部23において、上記フィルタ処理の遅延を補正したレーダ映像を形成することができる。
【0075】
なお、レーダ装置10は、そのアンテナの種類により水平ビーム幅も異なるため、方位分解能もアンテナの種類ごとに異なる。従って、水平ビーム幅の違いに応じて、上記フィルタの効き具合を調整することができれば好適である。また、アンテナの種類が同じであっても、スイープ間隔(送信パルスの送信周期)が異なれば、方位方向での角度ステップが異なるので、上記フィルタ処理を行ったときのレーダ映像上での効果が変わってしまう。従って、水平ビーム幅やスイープ間隔のような使用条件に応じて、フィルタの効果を調整できれば好適である。
【0076】
そこで本実施形態において、フィルタ係数・タップ数決定部25は、レーダ装置10の使用条件に応じてタップ数を決定して、フィルタ処理部26に出力するように構成されている。フィルタのタップ数を変更することにより、移動平均を求める際に利用する受信データの範囲が変化するので、フィルタの効果を調整することができるのである。フィルタ処理部26は、フィルタ係数・タップ数決定部25で決定されたタップ数を用いて、フィルタ処理を行う。
【0077】
例えば、ビーム幅が広いほど方位分解能が悪くなるので、ビーム幅が広いほどフィルタ処理の効果が大きくなる(ピークを細らせる効果が強くなる)ことが好ましい。そこで、フィルタ係数・タップ数決定部25は、ビーム幅が広いほど、タップ数を多くするように構成されている。即ち、タップ数を多くすれば、上記フィルタ処理で移動平均を求める際に利用する受信データの範囲が広くなるので、フィルタ処理の効果がより大きくなるのである。
【0078】
また例えば、スイープ間隔が狭くなるほど(送信パルスの送信周期が短いほど)、単位角度あたりに含まれる方位方向の受信データの数が多くなる。そこで、フィルタ係数・タップ数決定部25は、スイープ間隔が狭いほど、タップ数を多くするように構成されている。これによれば、スイープ間隔にかかわらず、レーダ映像上におけるエコー像の見えかたを一定に保つことができる。
【0079】
以上で説明したように、本実施形態のレーダ信号処理装置13は、複数の受信データからなる受信データ系列に対してフィルタ処理を行うフィルタ処理部26を備える。フィルタ処理部26は、前記フィルタ処理の演算に用いる受信データの振幅値の大小関係に基づいてフィルタ係数を変化させながら、前記フィルタ処理を行う。
【0080】
また、本実施形態のレーダ信号処理プログラムは、レーダ信号処理装置13を、複数の受信データからなる受信データ系列に対してフィルタ処理を行うフィルタ処理部26として機能させる。
【0081】
このように、受信データ系列の振幅値の大小関係に応じてフィルタ係数を変更することで、振幅値が増減している領域と、それ以外の領域(例えば極大値を示す領域)と、でフィルタ係数を変えるという処理が可能になる。これにより、受信データから得られるエコーの形状を、所望に応じて変形させることができるので、レーダ映像上でのエコー像の視認性を向上させることができる。また、複雑なシステムを必要とせず、GPSやジャイロコンパスによる位置・方位情報も必要としないので、安価かつ簡単にレーダ信号処理装置13を構成することができる。
【0082】
また本実施形態のレーダ信号処理装置13は、フィルタ係数・タップ数決定部25を備えている。フィルタ係数・タップ数決定部25は、前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値の変化傾向に基づいて、フィルタ係数を決定する。フィルタ処理部26は、フィルタ係数・タップ数決定部25が決定したフィルタ係数を用いて、処理対象の受信データ系列に対する前記フィルタ処理を行う。
【0083】
このように、処理対象の受信データ系列に含まれる受信データの振幅値の変化傾向に基づいてフィルタ係数を変更することにより、例えば、受信データ系列が増加傾向を示す場合、減少傾向を示す場合、それ以外の場合(例えば受信データの振幅値が極値を示している場合)でフィルタの効果を変えることができる。
【0084】
また本実施形態のレーダ信号処理装置13は、以下のように構成されている。即ち、前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が増加傾向及び減少傾向の何れも示さない場合、フィルタ係数・タップ数決定部25は、フィルタ処理部26の中央タップに入力された受信データの振幅値を当該フィルタ処理部26が出力するように、前記フィルタ係数を決定する。
【0085】
これにより、受信データ系列の極大値及び極小値を、フィルタ処理の前後で変化させないようにすることができる。従って、受信データから得らえるエコーをレーダ映像上に表示したときに、表示すべきエコー像がフィルタ処理によって消えてしまったり、表示すべきでないエコー像がフィルタ処理によって出現してしまったりすることを防止できる。
【0086】
また本実施形態のレーダ信号処理装置13は、以下のように構成されている。即ち、前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が増加傾向を示している場合、フィルタ係数・タップ数決定部25は、フィルタ処理部26の中央タップの受信データよりも古い受信データに基づいた移動平均を当該フィルタ処理部26が出力するように、前記フィルタ係数を決定する。前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が減少傾向を示している場合、フィルタ係数・タップ数決定部25は、前記中央タップの受信データよりも新しい受信データに基づいた移動平均をフィルタ処理部26が出力するように、前記フィルタ係数を決定する。
【0087】
これにより、受信データから得らえるエコーの形状を、フィルタ処理によって小さくすることができる。これにより、隣接する複数の物体のエコー像が重なりにくくなり、エコー像の識別性が向上する。
【0088】
また、本実施形態のレーダ信号処理装置13において、フィルタ処理部26に入力される受信データ系列は、方位方向に連続する受信データからなる。
【0089】
このように、方位方向に連続する受信データに対してフィルタ処理を施すことで、当該受信データから得らえるエコーの形状を方位方向で適宜調整できるので、方位方向での分解能を向上させることができる。
【0090】
また、本実施形態のレーダ信号処理装置13は、レーダ装置10の使用条件に基づいて、フィルタ処理部26のタップ数を決定するフィルタ係数・タップ数決定部25を備えている。
【0091】
このように、使用条件に基づいてタップ数を変更することにより、使用条件が変更された場合であっても、フィルタ処理の効果を一定に保つことができる。
【0092】
また、本実施形態のレーダ装置は、レーダ信号処理装置13と、アンテナ11と、表示装置14と、を備えている。表示装置14は、レーダ信号処理装置13においてフィルタ処理部26によってフィルタ処理された受信データに基づいて、レーダ映像を表示する。
【0093】
このレーダ装置10によれば、フィルタ処理部26によってピーク形状が調整された受信データ系列に基づいてレーダ映像を表示することができるので、レーダ映像の視認性を向上させることができる。
【0094】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。この変形例は、図8に示すように、フィルタ処理部26の出力信号に対して、オフセット値を加算するように構成されている。このオフセット値は、フィルタ処理部26においてフィルタ処理の演算に用いられる受信データの大小関係に基づいて、フィルタ係数・タップ数決定部25によって決定される。
【0095】
例えば、受信データが増加傾向にある場合や減少傾向にある場合には、オフセット値をマイナスの値にすることにより、フィルタ処理部26からの出力信号の値を更に小さくして画像形成部23に出力することができる。これにより、信号のピークの幅をより一層細くすることができるので、方位分解能を更に向上させることができる。また、受信データが増加傾向も減少傾向も示さない場合は、オフセット値をゼロとする。これによれば、ピークの極大値や極小値が変化してしまうことを防止できる。
【0096】
次に、上記実施形態の別の変形例について説明する。レーダ装置10の表示装置14においては、アンテナ11から近い物標のエコー像は小さく表示され、遠い物標のエコー像は大きく表示される傾向がある。そこで、近い物標と遠い物標でエコー像の見かけの大きさを同程度にするために、近い物標のエコー像を拡大するという処理が行われる場合がある。
【0097】
このようにエコー像を拡大するという処理に本発明のレーダ信号処理アルゴリズムを利用することができる。即ち、条件2が成立したときの処理と、条件3が成立したときの処理を入れ替えることにより、ピーク幅を太らせた出力信号を得ることができる。
【0098】
より具体的には、条件2が成立したとき(受信データが増加傾向にあると判定されたとき)には、中央タップの受信データよりも新しい受信データを用いた移動平均を算出するように、フィルタ係数を決定する。一方、条件3が成立したとき(受信データが減少傾向にあると判定されたとき)には、中央タップの受信データよりも古い受信データを用いた移動平均を算出するように、フィルタ係数を決定する。これによれば、フィルタの出力信号y[n]は、元の入力信号である受信データ系列のグラフの上(ピークの外側)に出易くなるので、ピーク幅を太らせた出力信号となる。このように、本発明のレーダ信号処理アルゴリズムは、フィルタ係数を適宜選択することにより、ピークの幅を太らせる処理にも適用することができる。
【0099】
そして、アンテナ11から近い位置からのエコーに対応した受信データに対してのみ、上記のピークを太らせる処理を施すことにより、近い物標のエコー像を拡大して表示することができる。これにより、アンテナ11に近い物標のエコー像と遠い物標のエコー像の見かけの大きさを揃えることができるので、レーダ映像上でのエコー像の視認性が向上する。このように、アンテナ11から物標までの距離に応じて、フィルタ処理部26によるフィルタ処理の処理内容を変更しても良い。
【0100】
なお、レーダ装置上での物標の大きさは、アンテナ11からの距離のみならず、送信パルス信号の送信出力によっても異なる。そこで、送信出力に応じてフィルタ係数を変更するように構成しても良い。
【0101】
上記のように、レーダ信号処理装置13は、以下のように構成しても良い。即ち、前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が減少傾向を示している場合、フィルタ係数・タップ数決定部25は、フィルタ処理部26の中央タップの受信データよりも古い受信データに基づいた移動平均を当該フィルタ処理部26が出力するように、前記フィルタ係数を決定する。前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が増加傾向を示している場合、フィルタ係数・タップ数決定部25は、前記中央タップの受信データよりも新しい受信データに基づいた移動平均をフィルタ処理部26が出力するように、前記フィルタ係数を決定する。
【0102】
これにより、受信データから得られるエコーの形状を、フィルタ処理によって大きくすることができる。
【0103】
また以上で説明したように、フィルタ処理部26は、自装置から、前記受信データに対応した物標までの距離に応じて、フィルタ処理の処理内容を変更するように構成されていても良い。
【0104】
これによれば、受信データから得られるエコーの形状を、距離に応じて適宜調整することができる。
【0105】
次に、上記実施形態の別の変形例について説明する。上記実施形態においては、方位方向で連続する受信データに対してフィルタ処理を行っているが、距離方向で連続する受信データに対して上記フィルタ処理を行っても良い。距離方向での分解能を向上させたい場合もあるからである。
【0106】
このように、フィルタ処理部26に入力される受信データ系列は、距離方向に連続する受信データからなっていても良い。距離方向に連続する受信データに対してフィルタ処理を施すことで、当該受信データから得られるエコーの形状を距離方向で適宜調整できるので、例えば距離方向の分解能を向上させることができる。
【0107】
以上に本発明の好適な実施形態、及びその変形例について説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0108】
本発明のレーダ装置10は、船舶用のレーダ装置に限らず、他の種類のレーダ装置にも適用することができる。
【0109】
レーダ信号処理装置13は、ハードウェアとソフトウェアとから構成されるとして説明したが、レーダ信号処理装置13の機能の一部又は全部を、専用のハードウェアで実現しても良い。
【0110】
フィルタ処理部26の出力信号に対してオフセット値を加算する変形例について説明したが、フィルタ処理部26によるFIRフィルタ処理を省略して、受信信号処理部21が出力する受信データに対してオフセット値を直接加算する構成であっても良い。この場合、オフセット値を加算する処理自体を、本発明におけるフィルタ処理として把握することができる。このオフセット値は、受信データの振幅値の大小関係に基づいて決定されるので、当該オフセット値を本発明のフィルタ係数として把握することも可能である。
【0111】
受信データの振幅値の増減を判定する方法は一例であり、上記の方法に限らない。フィルタ処理によって値を変更しても良い部分(振幅値が増減している部分)と、値を変更すべきでない部分(ピークの極大値や極小値など)と、を判別することができれば良いのであり、上記以外にも適宜の判別方法を用いることができる。
【符号の説明】
【0112】
10 レーダ装置
11 アンテナ
13 レーダ信号処理装置
14 表示装置
25 フィルタ係数・タップ数決定部
26 フィルタ処理部
28 増減判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の受信データからなる受信データ系列に対してフィルタ処理を行うフィルタ処理部を備えたレーダ信号処理装置であって、
前記フィルタ処理部は、前記フィルタ処理の演算に用いる受信データの振幅値の大小関係に基づいてフィルタ係数を変化させながら、前記フィルタ処理を行うことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ信号処理装置であって、
前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値の変化傾向に基づいて、前記フィルタ係数を決定するフィルタ係数決定部を備え、
前記フィルタ処理部は、前記フィルタ係数決定部が決定したフィルタ係数を用いて、処理対象の受信データ系列に対する前記フィルタ処理を行うことを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載のレーダ信号処理装置であって、
前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が増加傾向及び減少傾向の何れも示さない場合、前記フィルタ係数決定部は、前記フィルタ処理部の中央タップに入力された受信データの振幅値を当該フィルタ処理部が出力するように、前記フィルタ係数を決定することを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のレーダ信号処理装置であって、
前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が増加傾向を示している場合、前記フィルタ係数決定部は、前記フィルタ処理部の中央タップの受信データよりも古い受信データに基づいた移動平均を当該フィルタ処理部が出力するように、前記フィルタ係数を決定し、
前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が減少傾向を示している場合、前記フィルタ係数決定部は、前記中央タップの受信データよりも新しい受信データに基づいた移動平均を前記フィルタ処理部が出力するように、前記フィルタ係数を決定することを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項5】
請求項2又は3に記載のレーダ信号処理装置であって、
前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が減少傾向を示している場合、前記フィルタ係数決定部は、前記フィルタ処理部の中央タップの受信データよりも古い受信データに基づいた移動平均を当該フィルタ処理部が出力するように、前記フィルタ係数を決定し、
前記フィルタ処理の演算に用いられる受信データの振幅値が増加傾向を示している場合、前記フィルタ係数決定部は、前記中央タップの受信データよりも新しい受信データに基づいた移動平均を前記フィルタ処理部が出力するように、前記フィルタ係数を決定することを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載のレーダ信号処理装置であって、
前記フィルタ処理部に入力される受信データ系列は、方位方向に連続する受信データからなることを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載のレーダ信号処理装置であって、
前記フィルタ処理部は、自装置から、前記受信データに対応した物標までの距離に応じて、前記フィルタ処理の処理内容を変更することを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項8】
請求項1から5までの何れか一項に記載のレーダ信号処理装置であって、
前記フィルタ処理部に入力される受信データ系列は、距離方向に連続する受信データからなることを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載のレーダ信号処理装置であって、
レーダ装置の使用条件に基づいて、前記フィルタ処理部のタップ数を決定するタップ数決定部を備えることを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項10】
請求項1から9までの何れか一項に記載のレーダ信号処理装置と、
アンテナと、
前記レーダ信号処理装置において前記フィルタ処理部によってフィルタ処理された受信データに基づいて、レーダ映像を表示する表示装置と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項11】
コンピュータを、複数の受信データからなる受信データ系列に対してフィルタ処理を行うフィルタ処理手段として機能させるレーダ信号処理プログラムであって、
前記フィルタ処理手段は、前記フィルタ処理の演算に用いる受信データの振幅値の大小関係に基づいてフィルタ係数を変化させながら、前記フィルタ処理を行うことを特徴とするレーダ信号処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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