説明

レーダ装置および受信レベルの補正方法およびプログラム

【課題】周囲温度の変化に影響されない、小型・軽量、低消費電力、高感度であるレーダ装置および受信レベルの補正方法を実現する。
【解決手段】送信機からアンテナを介して空中に放射されるべき電波の一部が受信機側に回り込んで発生する送信信号の漏れの強度に応じて受信信号のレベルを補正する受信レベル補正手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置および受信レベルの補正方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今では、小型化されたレーダ装置が、ロケット等の飛翔体、航空機、船舶、車両などの移動物体に搭載されるようなった。その目的は、これらの移動物体の誘導装置や自動操縦装置などの目となるところにある。
【0003】
このような移動物体が活動する環境を鑑みると、例えば、ロケットでは地上から超高高度までの広い範囲に及び、その周囲温度の変化は激しい。また、市街地を走行する車両においても、日中の直射日光の下を走行している場合と夜間走行の場合とではその周囲温度の変化は大きい。
【0004】
このようにレーダ装置の周囲温度が変化すると、レーダ装置内の電子回路の動作特性に影響を及ぼす場合がある。例えば、レーダ装置内の送信電力増幅器あるいは受信電力増幅器の増幅率が変化する。一般的に、周囲温度が低下するのに伴って増幅率も低下する。このような増幅率の低下は、目標物の検出精度を低下させるため回避することが望ましい。したがって、このような移動物体に搭載するレーダ装置においては、周囲温度の変化の影響を軽減するための対策が重要である。
【0005】
本発明に関連する技術におけるレーダ装置では、例えば、特許文献1に記載されているレーダ受信機のように、信号出力が周囲温度の変化に影響されないように、周囲温度が変化しても装置内部の温度は一定となるようにヒータを有しているものがある。
【0006】
【特許文献1】実開昭60−129678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたレーダ受信機には、いくつかの問題点が挙げられる。
【0008】
第一の問題点は、消費電力が大きいということである。その理由は、ヒータにより装置内部の温度を一定に保つため、大きな電力が必要になるからである。
【0009】
第二の問題点は、装置が大型になるということである。その理由は、レーダ受信機の機能としては必要の無いヒータを備えるためである。
【0010】
第三の問題点は、受信感度が低下するということである。その理由は、熱雑音は温度に比例して増大するが、ヒータにより装置内部の温度が上昇するため、ヒータが無い状態に比べて熱雑音が増大し、その分、受信感度が低下するためである。
【0011】
このように、上記第一〜第三の問題点は、いずれもレーダ受信機が周囲温度の変化の影響を無くすためのヒータを備えることに起因する。
【0012】
本発明は、このような課題を解決するために行われたものであって、周囲温度の変化に影響されない、小型・軽量、低消費電力、高感度であるレーダ装置および受信レベルの補正方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明をレーダ装置としての観点から観ると、本発明は、電波を送信する送信機と、この送信機が送信した電波を空中に放射すると共に、放射した電波の反射信号を捕らえるアンテナと、このアンテナが捕らえた反射信号を受信する受信機とを備えたレーダ装置である。
【0014】
ここで、本発明の特徴とするところは、前記送信機から前記アンテナを介して空中に放射されるべき電波の一部が前記受信機側に回り込んで発生する送信信号の漏れの強度に応じて受信信号のレベルを補正する受信レベル補正手段を備えたところにある。
【0015】
本発明を受信レベルの補正方法としての観点から観ると、本発明は、送信機が送信する電波をアンテナから放射すると共に、放射した電波の反射信号を前記アンテナで捕らえて受信機により受信するレーダ装置の受信レベルの補正方法である。
【0016】
ここで、本発明の特徴とするところは、受信レベル補正手段が、前記送信機から前記アンテナを介して空中に放射されるべき電波の一部が前記受信機側に回り込んで発生する送信信号の漏れの強度に応じて受信信号のレベルを補正するところにある。
【0017】
本発明をプログラムとしての観点から観ると、本発明は、情報処理装置にインストールすることにより、その情報処理装置に、送信機が送信する電波をアンテナから放射すると共に、放射した電波の反射信号を前記アンテナで捕らえて受信機により受信するレーダ装置の受信レベルの補正機能を実現するプログラムである。
【0018】
ここで、本発明の特徴とするところは、前記送信機から前記アンテナを介して空中に放射されるべき電波の一部が前記受信機側に回り込んで発生する送信信号の漏れの強度に応じて受信信号のレベルを補正する受信レベル補正機能を実現するところにある。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、周囲温度の変化に影響されない、小型・軽量、低消費電力、高感度であるレーダ装置および受信レベルの補正方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態のレーダ装置を図1から図5を参照して説明する。図1は、第一の実施形態のレーダ装置のブロック構成図である。図1に示すように、第一の実施形態のレーダ装置は、アンテナ1と、送受分離器2と、送信機3と、受信機4と、アナログ・デジタル(以下ではADと記す)変換器5と、レベル補正機6と、検知機7と、表示機8とを有する。
【0021】
送信機3は、電波を短いパルスに区切って送信する。送受分離器2は、送信機3から入力された送信信号をアンテナ1に出力し、アンテナ1から入力される目標物9からの反射信号を受信機4に出力する。アンテナ1は、送信信号を空中に放射して目標物9から返ってくる反射信号を捕らえる。
【0022】
受信機4は、アンテナ1が捕らえた反射信号を受信する。AD変換器5は、受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。
【0023】
レベル補正機6は、デジタル化された受信信号から送信信号の漏れ信号を選択し、その信号のレベル値と予め設定された規定値との比を求め、目標物9からの反射信号のレベル値を求めた比で割る。
【0024】
検知機7は、受信信号が予め設定された検知レベル値以上であると検知信号を出力する。表示機8は、電波を送信してから検知信号が出力されるまでの時間から目標物9までの距離を求めて表示する。
【0025】
第一の実施形態の受信レベルの補正方法は、デジタル化された受信信号から送信信号の漏れ信号を選択する工程と、送信信号の漏れ信号のレベル値と予め設定された規定値との比を求める工程と、目標物9からの反射信号のレベル値を求めた比で補正する工程とを有する。
【0026】
このように、第一の実施形態では、送信信号の漏れ信号のレベル値と規定値との比を求め、目標物9からの反射信号のレベル値を求めた比で補正する(割る)ことで送受信機の温度変化による影響を無くすことができる。
【0027】
次に、第一の実施形態についてさらに詳細に説明する。図2は、定常状態における送信信号の漏れ信号や目標物9からの反射信号が受信機4で検波された信号を示すグラフである。図3は、図2の受信信号をAD変換器5でデジタル化した信号を示すグラフである。
【0028】
図3において、レベル補正機6のデータ選択部60ではデジタル化した受信信号の中で、送信タイミングから第二サンプルのデータを送信信号の漏れ信号として選択する。図4は、データ選択部60の動作を示すフローチャートである。図4に示すように、データ選択部60は、送信機3が送出する送信タイミングパルスを用いて送信タイミングを監視する(ステップS1)。送信タイミングが到来すると(ステップS2のYes)、送信タイミングの次の信号(第二サンプルのデータ)を選択してそのレベル値を除算部62に出力する(ステップS3)。
【0029】
規定値保持部61には、予め規定値が保持されており、除算部62では、規定値との比が求められる。この場合には、送信信号の漏れ信号の値と規定値とは等しいため比は“1”となる。除算部63は、比“1”で受信信号を補正した(割った)結果、補正前と同じ値になる。
【0030】
図5は、周囲温度の変化に影響されてレベル値が定常状態の2/3に低下した場合の受信信号をAD変換器5でデジタル化した信号を示すグラフである。図5において、レベル補正機6のデータ選択部60ではデジタル化した受信信号の中で、送信タイミングから第二サンプルのデータを送信信号の漏れ信号として選択する(図4参照)。
【0031】
規定値保持部61には、予め規定値が保持されており、除算部62では、規定値との比“2/3”が求められる。除算部63は、比“2/3”で受信信号を補正した(割った)結果、目標物9からの反射信号は、3/2(=1.5)倍され、定常状態と同じく検知レベル値以上の値になる。
【0032】
従って、周囲温度の変化に影響されて受信信号のレベル値が低下しても目標物9を検知できるという効果がもたらされる。なお、受信信号のレベル値が低下する原因は、前述したように、送信機3内の送信電力増幅器あるいは受信機4内の受信電力増幅器の増幅率が、周囲温度が低下するのに伴って低下するためである。
【0033】
第一の実施形態は、送信信号の漏れ信号のレベル値と規定値との比を求め、求めた比で目標物9からの反射信号のレベル値を補正することで送受信機の温度変化による影響を無くしている。従って、周囲温度が変化しても目標物9の検出精度の低下を防ぐことができる。
【0034】
第一の実施形態では、レベル補正機6をデジタル回路で実現しているため、ヒータを用いて装置の温度を一定に保つ場合(例えば、特許文献1参照)に比べ、小型・軽量、低消費電力で高感度という効果が得られる。
【0035】
(第二の実施形態)
第一の実施形態におけるレベル補正機6に相応する回路をアナログ回路で構成することができる。そのための構成を、第二の実施形態として図6に示す。図6は、第二の実施形態のレーダ装置のブロック構成図である。第二の実施形態では、サンプル・ホールド回路12を用いて送信信号の漏れ信号が検波器11により検波された電圧値として検出される。
【0036】
図7は、サンプル・ホールド回路12の動作を示すフローチャートである。図7に示すように、サンプル・ホールド回路12は、送信機3が送出する送信タイミングパルスを用いて送信タイミングを監視する(ステップS4)。送信タイミングが到来すると(ステップS5のYes)、送信タイミングから所定時間経過後の信号を選択してその電圧値を反転増幅器13に出力する(ステップS6)。
【0037】
このようにして、送信タイミングから所定時間経過後の信号の電圧値をサンプル・ホールド回路12で捕らえ、反転増幅器13でその電圧値と規定値保持部14に保持されている規定値との差に比例した増幅率制御信号を可変利得増幅器10に出力する。この増幅制御信号を受け取った可変利得増幅器10が増幅率制御信号にしたがって増幅率を変更することにより受信信号のレベルを補正する。
【0038】
第二の実施形態によれば、第一の実施形態に比べて応答時間やレベル補正精度は劣るが、構成が簡単であるため更なる小型・軽量化の効果を奏する。
【0039】
(第三の実施形態)
第三の実施形態は、情報処理装置にインストールすることにより、その情報処理装置に、本実施形態のレーダ装置におけるレベル補正機6あるいはサンプル・ホールド回路12に相応する機能を実現するプログラムである。
【0040】
第三の実施形態のプログラムは記録媒体に記録されることにより、情報処理装置は、この記録媒体を用いて第三の実施形態のプログラムをインストールすることができる。あるいは、第三の実施形態のプログラムを保持するサーバからネットワークを介して直接情報処理装置に第三の実施形態のプログラムをインストールすることもできる。
【0041】
これにより、情報処理装置を用いて、本実施形態のレーダ装置におけるレベル補正機6あるいはサンプル・ホールド回路12に相応する機能を実現することができる。例えば、情報処理装置は、マイクロ・コンピュータ・チップなどの小型のコンピュータ装置である。なお、レベル補正機6あるいはサンプル・ホールド回路12の他にもソフトウェアによって実現可能な機能については第三の実施形態のプログラムによって実現可能な機能に加えてもよい。
【0042】
なお、第三の実施形態のプログラムは、情報処理装置によって直接実行可能なものだけでなく、ハードディスクなどにインストールすることによって実行可能となるものも含む。また、圧縮されたり、暗号化されたりしたものも含む。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の活用例としては、ロケット等の飛翔体、航空機、船舶、車両など、周囲温度の変化が激しい移動物体に搭載される誘導装置または自動操縦装置などの目として使用されるレーダ装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】第一の実施形態のレーダ装置のブロック構成図である。
【図2】第一の実施形態のレーダ装置の定常状態の受信信号を示すグラフを示す図である。
【図3】第一の実施形態のレーダ装置の定常状態の受信信号をデジタル化した信号を示すグラフを示す図である。
【図4】データ選択部の動作を示すフローチャートである。
【図5】第一の実施形態のレーダ装置の周囲温度の変化に影響されてレベルが定常状態の2/3に低下した受信信号をデジタル化した信号を示すグラフを示す図である。
【図6】第二の実施形態のレーダ装置のブロック構成図である。
【図7】サンプル・ホールド回路の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0045】
1 アンテナ
2 送受分離器
3 送信機
4 受信機
5 AD変換器
6 レベル補正機
7 検知機
8 表示機
9 目標物
10 可変利得増幅器
11 検波器
12 サンプル・ホールド回路
13 反転増幅器
14、61 規定値保持部
60 データ選択部
62、63 除算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送信する送信機と、この送信機が送信した電波を空中に放射すると共に、放射した電波の反射信号を捕らえるアンテナと、このアンテナが捕らえた反射信号を受信する受信機とを備えたレーダ装置において、
前記送信機から前記アンテナを介して空中に放射されるべき電波の一部が前記受信機側に回り込んで発生する送信信号の漏れの強度に応じて受信信号のレベルを補正する受信レベル補正手段を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記送信機の送信タイミングを基準とした所定のタイミングで前記送信信号の漏れの強度を検出するデータ選択手段を備えた請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記受信機の受信信号をデジタル変換するアナログ・デジタル変換手段を備え、
前記受信レベル補正手段は、前記アナログ・デジタル変換手段によりデジタル変換された前記送信信号の漏れの強度のレベル値と規定のレベル値との比に基づき受信信号のレベル値を補正する手段を備えた
請求項1または2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記受信機の受信信号をその強度に応じた電圧値に変換する検波手段を備え、
前記受信レベル補正手段は、前記検波手段により電圧値に変換された前記送信信号の漏れの強度の電圧値と規定の電圧値との差に基づき受信信号の増幅率を補正する手段を備えた
請求項1または2記載のレーダ装置。
【請求項5】
送信機が送信する電波をアンテナから放射すると共に、放射した電波の反射信号を前記アンテナで捕らえて受信機により受信するレーダ装置の受信レベルの補正方法において、
受信レベル補正手段が、前記送信機から前記アンテナを介して空中に放射されるべき電波の一部が前記受信機側に回り込んで発生する送信信号の漏れの強度に応じて受信信号のレベルを補正する
ことを特徴とする受信レベルの補正方法。
【請求項6】
データ選択手段が、前記送信機の送信タイミングを基準とした所定のタイミングで前記送信信号の漏れの強度を検出する請求項5記載の受信レベルの補正方法。
【請求項7】
アナログ・デジタル変換手段が、前記受信機の受信信号をデジタル変換し、
前記受信レベル補正手段が、前記アナログ・デジタル変換手段によりデジタル変換された前記送信信号の漏れの強度のレベル値と規定のレベル値との比に基づき受信信号のレベル値を補正する
請求項5または6記載の受信レベルの補正方法。
【請求項8】
検波手段が、前記受信機の受信信号をその強度に応じた電圧値に変換し、
前記受信レベル補正手段が、前記検波手段により電圧値に変換された前記送信信号の漏れの強度の電圧値と規定の電圧値との差に基づき受信信号の増幅率を補正する
請求項5または6記載の受信レベルの補正方法。
【請求項9】
情報処理装置にインストールすることにより、その情報処理装置に、
送信機が送信する電波をアンテナから放射すると共に、放射した電波の反射信号を前記アンテナで捕らえて受信機により受信するレーダ装置の受信レベルの補正機能を実現するプログラムにおいて、
前記送信機から前記アンテナを介して空中に放射されるべき電波の一部が前記受信機側に回り込んで発生する送信信号の漏れの強度に応じて受信信号のレベルを補正する受信レベル補正機能を実現することを特徴とするプログラム。
【請求項10】
前記送信機の送信タイミングを基準とした所定のタイミングで前記送信信号の漏れの強度を検出するデータ選択機能を実現する請求項9記載のプログラム。
【請求項11】
前記受信レベル補正機能として、デジタル変換された前記送信信号の漏れの強度のレベル値と規定のレベル値との比に基づき受信信号のレベル値を補正する機能を実現する請求項9または10記載のプログラム。
【請求項12】
前記受信レベル補正機能として、検波手段により電圧値に変換された前記送信信号の漏れの強度の電圧値と規定の電圧値との差に基づき受信信号の増幅率を補正する機能を実現する請求項9または10記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−175091(P2009−175091A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16460(P2008−16460)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】