説明

レール敷石陥没検出装置

【課題】本発明はレールに敷設された石(バラスト)の陥没穴を迅速に検出することで、車両の転覆、脱線等の事故を未然に防止するものである。
【解決手段】本発明のレール敷石陥没検出装置は、上記の目的を達成するために、通常運行時の列車の先頭車両の前方に搭載した近赤外線照明により、レールに敷設された石(バラスト)に近赤外光を照射し、その画像を近赤外光のみを通す光学フィルタを通してラインセンサカメラで撮像し、その映像を走査方向に積算することで、バラストと陥没穴を区別し、陥没穴を自動的に検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラスト(レールに敷設された石)に発生した陥没穴を事前に検出することで、車両の転覆、脱線等の事故を未然に防止するレール敷石陥没検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1によって、従来のバラスト軌道について説明する。図1は、鉄道のレールに敷設された石(レール敷石:バラスト)の陥没の一例を示す図である。100は、バラストの陥没の一例を示す模式図である。模式図100において、2はレール、3は枕木、4は枕木3を埋め込んだ砕石や砂利からなるバラスト、5はバラスト4に発生した陥没穴である。
図1に示すようなバラスト軌道では、レール2上を走行する鉄道車両の荷重を、広くかつ均一に分散させ、振動を吸収することができる。このため、鉄道車両の振動や騒音が少ない。また、バラスト4を構成する砕石や砂利は、大きさが不均等な方が良いと考えられている。
【0003】
しかし、バラスト4が、列車の走行による荷重で消耗(摩耗、沈む、等)するため、定期的にバラスト4を構成する砕石や砂利を補充する必要がある。例えば、図1に示したような陥没穴5がバラスト4にあると、車両の転覆、脱線等の事故が発生し易くなる。このため、迅速にバラスト4に発生した陥没穴5を発見(検出)し、迅速に補充等のメンテナンスを行う必要がある。
【0004】
従来、レールに敷設された石の陥没を検出する作業は、鉄道車両に乗車している乗務員の目視により実施されるか、または保線員の定期点検中の目視により実施されている。
乗務員の目視による検出では、高速で移動している車両からの小さな陥没穴の確認は困難である。また、地震等の災害後の緊急点検時の保線員による確認においても、総レール長が百[km]にもおよぶことを考えると、陥没穴の検出を迅速にかつ正確に行うことが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−294443号公報
【特許文献2】特開2004−219214号公報
【特許文献3】特開平10−260141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来は、バラストに発生した陥没穴の迅速な検出は困難であった。
特許文献1には、軌道検測車に搭載され、軌道道床の左右の肩部のバラストの斜面に対して、複数のレーザスポットを投射し、各スポットをテレビカメラで撮像するバラスト状態検査装置が開示されている。また、特許文献2には、車両などの移動手段に搭載され、道路の路面に向けて検査項を投射し、路面で散乱した散乱光の散乱パターンをカメラで撮像する路面検査装置が開示されている。また、特許文献3には、巡回点検車に搭載して、移動しながら道路の路面に生じた陥没等の欠陥を検査する欠陥検査装置が開示されている。この特許文献3の欠陥検査装置では、巡回検査車の前方の屋根に、赤外光テレビカメラ、赤外線投光器が取り付けられている。
【0007】
上述の特許文献1乃至特許文献3には、従来の問題点の1つである、乗務員や保線員の目視に頼らない欠陥検出技術が開示されている。しかし、軌道検測車を所定の列車線に随時させることは、今日の列車運行スケジュールの過密度からして難しく、列車が運行しない真夜中等に実施するのが一般的である。
また、真夜中であるため、特許文献1および特許文献2では、可視光による照明を必要とし、軌道付近の民家に照明光が照射される恐れが大きい。勿論、民家では、照明光を照射されることを忌避するであろう。さらに、夜間に完全に列車の運行がなくなる列車線であれば良いが、主要な幹線では、夜行列車や貨物列車が一晩中走り続けている。このような列車線では、軌道検測車を使用が難しい。
また特許文献3では、赤外光であるため、軌道付近の民家に照明光が照射される光(赤外光)を民家で忌避されることはない。しかし、バラストのような不均一に散乱する被写体像について解析する技術を開示していない。
【0008】
本発明の目的は、上記のような問題に鑑み、バラストに発生した陥没穴を、迅速、容易、かつ自動的に検出するレール敷石陥没検出装置を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、検測車両を使う必要が無く、在来線等の通常運行中の列車で、迅速、容易、かつ自動的に、バラストで発生した陥没穴を検出することが可能なレール敷石陥没検出装置を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、検出作業時に、軌道付近の民家で忌避されることはないレール敷石陥没検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の目的を達成するために、本発明のレール敷石陥没検出装置は、先頭車両の走行方向の前方からレールに敷設された石(バラスト)に近赤外光を照射する先頭車両に搭載した近赤外線照明部と、前記バラストからの反射光を入射し当該入射光のうちから近赤外光のみを通す光学フィルタを備えて近赤外光の映像信号を取得するラインセンサカメラと、前記映像信号を走査方向に積算し、バラストと陥没穴とを区別し、陥没穴を検出する画像処理装置とを有するものである。
【0010】
バラストと、前記バラスト上に所定の間隔で埋設した枕木と、前記枕木に固定した左右のレールとで構成された軌道を走行する列車の先頭車両に搭載され、
所定の波長帯の近赤外光を前記バラストに照射する近赤外線照射部と、
近赤外光のみを透過する光学フィルタを備え、前記バラストから入射する光の近赤外光を受光し、映像信号に変換した画像を映像信号として取得するラインセンサカメラと、
前記映像信号から欠陥穴を検出する画像処理装置と、
前記近赤外線照射部、前記ラインセンサカメラ、および、前記画像処理装置を制御する制御部と、前記列車の位置情報を取得する位置情報取得手段若しくは速度情報を取得する速度情報取得手段とを有し、前記バラストの陥没穴を検出するレール敷石陥没検出装置であって、
前記画像処理装置は、前記ラインセンサカメラが取得した1走査線分の画像について、前記ラインセンサカメラの走査線の走査方向に1画素ずつずらした画像を画素毎に所定の画素数分積算する走査線方向積算処理部と、前記走査線方向積算処理部が積算した画像から陥没穴映像検出閾値で区別することによって前記バラストの陥没穴を検出する欠陥検出部とを有するものである。
【0011】
上記本発明のレール敷石陥没検出装置において、前記制御部は、前記位置情報若しくは前記速度情報に基づいて、前記ラインセンサカメラの走査線の走査速度を可変することを特徴とする。
【0012】
上記本発明のレール敷石陥没検出装置において、前記制御部は、前記位置情報若しくは前記速度情報に基づいて、前記ラインセンサカメラのシャッタースピードと感度を可変することを特徴とする。
【0013】
上記本発明のレール敷石陥没検出装置において、前記制御部は、前記位置情報若しくは前記速度情報に基づいて、前記画像処理装置の判定基準を可変することを特徴とする。
【0014】
上記本発明のレール敷石陥没検出装置において、前記近赤外線照射部と前記ラインセンサカメラは、前記先頭車両の前方に搭載されることを特徴とする。
【0015】
上記本発明のレール敷石陥没検出装置において、前記近赤外線照射部と前記ラインセンサカメラは、前記先頭車両の前方の左右にそれぞれ搭載されることを特徴とする。
【0016】
上記本発明のレール敷石陥没検出装置において、前記ラインセンサカメラの撮像範囲は、前記近赤外線照射部が前記バラストを照射する近赤外光の照射範囲とほぼ等しいかまたは前記照射範囲内あることを特徴とする。
【0017】
上記本発明のレール敷石陥没検出装置において、前記ラインセンサカメラの前記走査方向は、前記列車の走行方向に直交することを特徴とする。
【0018】
上記本発明のレール敷石陥没検出装置において、前記ラインセンサカメラの前記撮像範囲に、前記ラインセンサカメラが複数配置されることを特徴とする。
【0019】
上記本発明のレール敷石陥没検出装置において、前記画像処理装置は、さらに、前記ラインセンサカメラが取得した複数の走査線分の画像を、画素毎に画像枚数分積算する走行方向積算処理部と、前記走行方向積算処理部が積算した画像から非検査映像検出閾値で区別することによって非検査領域を検出する非検査領域検出処理部と、前記検出した前記非検査領域を除去する非検査領域除去部とを有し、前記欠陥検出部は、前記走査線方向積算処理部が積算した画像から前記非検査領域を除去した画像から前記バラストの陥没穴を検出することを特徴とする。
【0020】
上記本発明のレール敷石陥没検出装置において、前記画像処理装置は、さらに、欠陥穴が検出された画像と前後数秒間の画像を欠陥検出画像として記録する欠陥画像記録部を有し、前記制御部から入力された位置情報若しくは速度情報を前記欠陥検出画像と関連付けして記録することを特徴とする。
【0021】
上記本発明のレール敷石陥没検出装置において、前記画像処理装置は、前記欠陥画像記録部に、前記欠陥画像と前記判定基準を関連付けして記録することを特徴とするレール敷石陥没検出装置。
【0022】
上記本発明のレール敷石陥没検出装置において、前記画像処理装置は、前記欠陥画像記録部に、前記欠陥画像と前記シャッタースピードおよび感度を関連付けして記録することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、車両前方に取り付けられた近赤外線照明部とラインセンサカメラにより撮像された画像から、迅速、容易、かつ自動的に、バラストで発生した陥没穴を検出することが可能となる。
また、本発明によれば、検測車両を使う必要が無く、在来線等の通常運行中の列車の先頭車両に本発明のレール敷石陥没検出装置の近赤外線照明部とラインセンサカメラを搭載することによって、迅速、容易、かつ自動的に、バラストで発生した陥没穴を検出することが可能となる。
さらに、本発明によれば、検出作業を夜間に実行する場合に、バラストを撮像するための照明を軌道付近の民家で忌避されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】レールに敷設された石(バラスト)の陥没の一例を示す図である。
【図2】本発明のレール敷石陥没検出装置の一実施例を説明するための模式図である。
【図3】本発明のレール敷石陥没検出装置の一実施例を説明するための模式図である。
【図4】本発明のレール敷石陥没検出装置の一実施例の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明のレール敷石陥没検出装置によって陥没穴を検出する原理を説明するための図である。
【図6】本発明のレール敷石陥没検出装置によって非検査領域を検出する原理を説明するための図である。
【図7】バラストの陥没穴を自動的に検出する本発明のレール敷石陥没検出装置の一実施例の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、先頭車両の前方に搭載した近赤外光の照明により、バラスト(レールに敷設された石)に近赤外光を照射して、その反射光を撮像するラインセンサカメラを有する。また、ラインセンサカメラは、近赤外光のみを通す光学フィルタを備え、撮像された画像を走査方向に積算することで、バラストに発生した陥没穴を自動的に検出するものである。
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、各図の説明において、従来の技術を説明した図1を含め、同一の機能を有する構成要素には同一の参照番号を付し、重複した説明を省く。
【実施例1】
【0026】
まず、本発明のレール敷石陥没検出装置の一実施例を、図2および図3によって説明する。図2と図3は、本発明のレール敷石陥没検出装置の一実施例を説明するための模式図である。図2は、走行方向から先頭車両を見た図(正面図)である。また図3は、横方向から先頭車両を見た図(側面図)である。1は先頭車両、6は近赤外線照明部、7は光学フィルタを装着したラインセンサカメラ、8は画像処理装置、9はカメラ制御部、10は速度発振器、11は光学フィルタである。図2および図3において、近赤外線照明部6、ラインセンサカメラ7、および画像処理装置8は、本発明の一実施例のレール敷石陥没検出装置を構成し、通常運行中の列車の先頭車両1に搭載される。
【0027】
図2および図3において、速度発振器10は、所定の時間間隔で、列車の車両情報制御装置(図示しない)から速度の情報を取得する。カメラ制御部9は、所定の運用ソフトウェアに基づいて、近赤外線照明部6、近赤外ラインセンサカメラ7、および画像処理装置8を制御する。また、カメラ制御部9は、速度発振器10から現在の速度の情報を取得し、取得した速度の情報に基づいて、当該列車の出発位置からの走行距離を算出する。この走行距離情報、即ち、位置情報は、画像処理装置8に出力される。
なお、近赤外線照明部6、および光学フィルタ11を取り付けた近赤外ラインセンサカメラ7は、先頭車両1の左右それぞれに計2台ずつ搭載され、画像処理装置8、カメラ制御部9、および速度発振器10は、先頭車両1に1台搭載される。
【0028】
近赤外線照明部6から照射される近赤外光は、実線の矢印のように、先頭車両1の左右側面のバラスト4にそれぞれ照射され、破線の矢印のように反射光が近赤外ラインセンサカメラ7に入射する。近赤外ラインセンサカメラ7の撮像範囲は、近赤外線照明部6がバラスト4を照射する照射範囲とほぼ等しい領域を撮像範囲とするか、近赤外線照明部6がバラスト4を照射する照射範囲の一部を撮像範囲とする。近赤外ラインセンサカメラ7には、光学フィルタ11が装着されており、入射された反射光のうちから、所望の帯域の近赤外光のみを透過する。従って、入射された反射光のうちから、所望の帯域の近赤外光のみが近赤外ラインセンサカメラ7の撮像素子に到達する。
なお、近赤外ラインセンサカメラ7の撮像範囲の詳細の一実施例の説明は、図5および図6を用いて後述する。
【0029】
図2および図3のレール敷石陥没検出装置においては、先頭車両1に搭載された近赤外線照明部6は、可視光による線路周辺環境への影響を考慮し、可視光を照射しない。即ち、近赤外線照明部6は、バラスト4に近赤外光を照射する。
また、ラインセンサカメラ7には、例えば、650[nm]〜780[nm]程度の波長のみを透過させる光学フィルタ11を装着する。これにより、太陽光等の外光および対向車線車両のヘッドライト等の外光が撮像画像におよぼす影響を小さくする。
【0030】
図4〜図6によって、さらに、本発明のレール敷石陥没検出装置の一実施例を説明する。図4は、バラストの陥没穴を自動的に検出する本発明のレール敷石陥没検出装置の一実施例の構成を示すブロック図である。また、図5は、本発明のレール敷石陥没検出装置によって陥没穴を検出する原理を説明するための図である。図6は、本発明のレール敷石陥没検出装置によって非検査領域(枕木近辺およびレール近辺)を検出する原理を説明するための図である。
画像処理装置8において、81は画像入力部、82は走査線方向の積算処理部、83は進行(走行)方向の積算処理部、84は進行方向の枕木・レール検出処理部、85は非検査領域除去部、86は欠陥検出部、87は欠陥画像記録部である。
また、50と60は、先頭車両1の右側に搭載されたラインセンサカメラ7が撮像するバラスト4近辺を上から見た領域図、51、61、63はラインセンサカメラ7の走査線である。
【0031】
さらに、図5(a)は、領域図50と走査線51の関係を示す図であって、先頭車両1は、縦軸を上から下方向に走行する(即ち、列車の走行(進行)方向は、上から下の方向である)。また横軸は、走査線51等の走査線のサンプリング位置(例えば、n=0〜1000)を示す。このnの値は、本実施例では、ラインセンサカメラ7の有効画素数と同一である。
そして、ラインセンサカメラ7が撮像する各走査線の走査方向は、走行方向に直交する。例えば、A点の走査線51に相当する映像信号は、図5(b)の映像信号L(m,n)である(mは縦軸の座標、nは横軸の座標)。なお、この各走査線の走査方向は、線路(軌道)がカーブしていても、進行方向に直交する。
図5(b)は、ラインセンサカメラ7が撮像して取得した映像信号の積算方法を説明するための図である。即ち、映像信号L(m,n)について、走査線方向に1画素ずらした映像信号波形をnライン分積算する。即ち、映像信号L(m,n)から、L(m,n+1)、・・・、L(m,n+k)とkライン分の映像信号を作成し、映像信号L(m,n)、L(m,n+1)、・・・、L(m,n+k)を横軸n(画素)毎に積算する。
次に、図5(c)では、図5(b)の積算方法によって積算した映像信号ΣL(m,n+k)を示す。ここで、m、nおよびkは自然数で、0≦k≦n−1である。
【0032】
さらに、図6(a)は、領域図60と走査線61、63の関係を示す図であって、先頭車両1は、上から下方向に走行する(即ち、列車の進行方向は、上から下の方向である)。また横軸は、走査線51等の走査線のサンプリング位置(例えば、n=0〜1000)を示す。このnの値は、本実施例では、ラインセンサカメラ7の有効画素数と同一である。
図6(b)は、ラインセンサカメラ7が撮像した映像信号の積算方法を説明するための図である。即ち、走査線毎に撮像した映像信号L(m,n)、・・・、L(m+i,n)について、画素(横軸n)毎に積算する。
図6(c)は、図6(b)の積算方法によって積算したレベル波形ΣL(m+i,n)を示す。ここで、iは自然数である。例えば、iは0〜1000である。
【0033】
以下、陥没穴を自動的に検出する本発明のレール敷石陥没検出装置の一実施例を図4、図5、および図6によって説明する。
【0034】
図4において、近赤外線照明部6から照射される近赤外光は、実線の矢印のように、先頭車両1の左右側面のバラスト4に照射され、破線の矢印のように反射光が近赤外ラインセンサカメラ7に入射する。近赤外ラインセンサカメラ7の撮像範囲は、近赤外線照明部6からバラスト4に照射される照射範囲とほぼ等しいかまたは照射範囲内が望ましい。近赤外ラインセンサカメラ7には、光学フィルタ11が装着されている。光学フィルタ11は、所望の帯域の光成分のみを通過させる。例えば、光学フィルタ11は、650[nm]〜780[nm]の波長の光のみを透過させる。従って、近赤外ラインセンサカメラ7の撮像素子には、バラスト4から入射された反射光のうちの所望の帯域の光成分のみが到達する。そして、ラインセンサカメラ7は、光学フィルタ11を透過して入射された光を電気信号に変換して、映像信号として画像処理部8に出力する。
【0035】
画像処理部8は、ラインセンサカメラ7から入力された映像信号L(m,n)を画像入力部81を経由して、走査線方向の積算処理部82と進行方向の積算処理部83に出力する。
積算処理部82は、図5(b)に示すように、入力された映像信号L(m,n)からn方向に1画素ずつずらした映像信号をk枚作成する。そして、入力された映像信号L(m,n)と作成した映像信号L(m,n+1)、・・・、L(m,n+k)のk+1枚の映像信号を積算し、非検査領域除去部85に陥没穴の積算結果を出力する。例えば、図5(a)の走査線51に対応する映像信号L(m,n)では、陥没穴として横軸でn51〜n52が検出されることになるが、図5(c)に示すように、敷石の映像信号が平均化され、陥没穴5の部分が強調された映像信号ΣL(m,n+k)が得られる。
積算処理部82では、バラスト4の敷石の大きさと陥没穴5の大きさが異なるために、敷石の大きさが、平均で30[mm]程度で、ラインセンサカメラ7の1画素の分解能を1[mm]の場合を例にとって考える。この場合、積算処理部82は、図5(c)に示すように、k=60程度とすることで、敷石部分(バラスト4部分)の画像が積算によって平均化され、映像信号の輝度レベルが低くなる。また、積算処理部82は、図5(c)に示すように、幅が60[mm]以上の陥没穴5の部分の画像が積算によって強調され、映像信号の輝度レベルが大きくなる。
この後、積算処理部82は、陥没映像検出閾値により、レベル判定を行い、陥没穴5の有無を検出する。図5(c)では、陥没穴はn53〜n54で検出されることになる。
なお、n方向に1画素ずつずらした画像L(m,n+k)枚の画像を積算し、非検査領域除去部85に積算結果を出力する代わりに、n方向に微分して、微分値を積分して積算結果としても良い。
【0036】
なお、この積算処理部82の走査線方向の積算処理だけでは、枕木3とレール2の領域部分の映像信号の輝度レベルが高くなり、陥没穴5であると誤判定する可能性がある。この誤判定を除去するために、枕木3とレール2を非検査領域として検出し、その非検査領域をマスクする必要がある。
このマスク処理のために、図4に示した積算処理部83は、進行方向の積算処理によって実行している。
【0037】
以下、図6により、非検査領域の検出原理を説明する。
積算処理部83は、図6(b)に示すように、m方向の撮像画像L(m+i、n)枚の画像を積算する。そして、図6(c)に示すような積算結果を、枕木・レール検出処理部84に出力する。
枕木・レール検出処理部(非検査領域検出処理部)84は、入力された積算結果の映像信号について、非検査映像検出閾値以上の領域を非検査領域として検出し、非検査領域除去部85に出力する。即ち、非検査映像検出閾値により、レベル判定を行い、枕木3の領域とレール2の領域を、非検査領域として自動的に検出する。
非検査領域除去部85は、枕木・レール検出処理部84で検出された非検査領域を、走査線方向積算処理部82からの陥没穴の検出結果に対して、枕木領域のマスク処理を行い、最終的な陥没穴5を検出して、その欠陥穴を検出した画像と前後数秒間の画像を欠陥画像記録部87に出力する。欠陥画像記録部87は、検出された当該欠陥穴の画像と前後数秒間の画像を欠陥検出画像として記録する。なお、欠陥画像記録部87は、欠陥検出画像を記録する場合に、カメラ制御部9から入力された位置情報と関連付けして記録する。従って、記録された欠陥検出画像を再生する場合や、欠陥穴が検出された位置を、容易かつ迅速に特定することができ、バラスト4の欠陥穴を迅速にメンテナンスすることができる。
なお、好ましくは、iの値は、枕木3の敷設間隔Pの2倍以上とする。例えば、枕木3の敷設間隔Pを1[m]として、ラインセンサカメラ7の進行方向の分解能を[2mm]の場合に、i=1000程度とすることで、敷石(バラスト4)部分の画像が平均化され、映像信号の輝度レベルが低くなる。また、幅が300[mm]以上の枕木3の部分が積算され、この部分の映像信号の輝度レベルが強調される(横軸座標n61〜n64)。また、レール2の部分も積算され、この部分の映像信号の輝度レベルが強調される(横軸座標n62〜n63)。
【0038】
上述の図2〜図6の実施例によれば、車両前方に取り付けられた近赤外線照明部とラインセンサカメラにより撮像された画像から、迅速、容易、かつ自動的に、バラストで発生した陥没穴を検出することが可能となる。また、欠陥検出画像を記録する場合に、位置情報と関連付けして記録するため、検出された欠陥穴の位置を容易かつ迅速に特定することができる。従って、バラストの欠陥穴を迅速にメンテナンスすることができる。
また、図2〜図6の実施例によれば、検測車両を使う必要が無く、迅速、容易、かつ自動的に、バラストで発生した陥没穴を検出することが可能となる。
さらに、図2〜図6の実施例によれば、検出作業を夜間に実行する場合に、バラストを撮像するための照明を軌道付近の民家で忌避されることはない。
【0039】
なお、上述の図2および図3において、近赤外線照明部6とラインセンサカメラ7とは、列車の先頭車両の前方に搭載されている。しかし、所定の撮像範囲を照射可能および撮像可能であれば、列車の先頭車両に設けず、どの車両に搭載しても良い。また同様に、所定の撮像範囲を照射可能および撮像可能であれば、先頭車両の左右側面である必要はない。
【0040】
さらに、上述の図2および図3において、ラインセンサカメラ7の入射光軸が、バラスト4の表面に対して斜め(所定の角度)になるように設けられている。しかし、この角度は、バラスト4の表面に対して垂直でも良い。なお、エリアセンサカメラを使用する場合には、斜めに設けられると、角度方向(走行方向)に映像信号の輝度レベルに濃淡差や映像のゆがみが生じる。本発明のようにラインセンサカメラを使用することで、斜めにカメラを設けても、映像信号の輝度レベルに濃淡差や映像のゆがみが生じない。
【0041】
またさらに、図2〜図6の実施例において、位置情報を列車内の速度発振器から取得した速度の情報を用いて算出した。しかし、例えば、列車の先頭車両等、車両にGPS(Global Positioning System)受信機を搭載し、GPS受信機を用いて、位置情報を取得しても良い。また、例えば、線路上に、所定の間隔で位置情報を有するRFタグを設置しておき、列車の先頭車両にRF−ID無線通信機を搭載し、無線通信によって列車の位置情報を取得するようにしても良い。
また、線路上に地上子がある場合には、車上子でおおよその位置を検出し、地上子と地上子間の微細な距離を速度発振器、GPS受信機、若しくはRF−ID無線通信機で補正するようにして、列車の位置を取得しても良い。
【実施例2】
【0042】
上述の図2〜図6を用いた実施例1において、進行方向の画像分解能は車両の速度により異なる。例えば、ラインセンサカメラ7の走査速度を120[μs]とすると、時速[60km]で走行している車両から撮像した時の進行方向の画像分解能は2[mm]となり、速度が120[km]では4[mm]となり、列車の走行速度により、画像寸法が異なる。
これを解決するために、図2〜図6を用いた実施例2では、図4のレール敷石陥没検出装置において、カメラ制御部9は、車両の速度発振器10から、位置情報を算出する他に、車両の速度信号(速度の情報)を取得し、取得した速度信号と同期して、ラインセンサカメラ7の走査速度を制御し、画像処理装置8の演算タイミングを制御する。この結果、車両の速度により、ラインセンサカメラ7が取得した映像である物体の形状が変化することを防止することができる。従って、速度に影響されない画像を取得でき、取得した画像によって確実に欠陥穴を検出可能となる。
例えば、カメラ制御部9は、速度発振器10から列車の走行速度を検出し、列車の走行速度が時速[60km]の場合には、ラインセンサカメラ7の1ライン分の走査速度を120[μs]とし、時速[80km]の場合には、ラインセンサカメラ7の走査速度を90[μs]とし、時速[100km]の場合には、ラインセンサカメラ7の走査速度を72[μs]とし、時速[120km]の場合には、ラインセンサカメラ7の走査速度を60[μs]と可変するようにラインセンサカメラ7を制御する。
なお、画像処理装置8の欠陥画像記録部87は、欠陥検出画像を記録する場合に、カメラ制御部9から入力された位置情報と共に速度情報および走査速度を関連付けして記録する。
【0043】
従って、実施例2によれば、上述の実施例1の効果に加え、速度が増加しても検出精度が変わらず、確実に欠陥穴の検出が可能となる。
また、実施例2によれば、陥没穴として記録された欠陥検出画像と共に、位置情報および速度情報を、容易かつ迅速に特定することができ、バラスト4の欠陥穴を迅速にメンテナンスすることができる。
【0044】
またさらに、図2〜図6を用いた実施例2において、列車内の速度発振器から取得した速度の情報を利用した。またその他に、実施例1で位置情報を取得する手段として記載したGPS受信機、RF−ID無線通信機から列車の位置情報を取得するようにし、取得した位置情報と時間から速度の情報を算出するようにしても良い。
【実施例3】
【0045】
上述の図2〜図6を用いた実施例1若しくは実施例2において、陥没穴の検出に用いるkの値および陥没映像検出閾値、並びに、非検査領域の検出に用いるiの値および非検査映像検出閾値等の判定基準(kの値および陥没映像検出閾値、並びに、iの値および非検査映像検出閾値)は、固定であった。
しかし、列車の走行速度に応じて、kの値および陥没映像検出閾値、並びに、iの値および非検査映像検出閾値を可変しても良い。
例えば、図4および図5のレール敷石陥没検出装置において、カメラ制御部9は、速度発振器10から列車の走行速度を検出し、走行速度が大きいほど、kの値を小さく、かつ陥没映像検出閾値を小さく設定するように画像処理装置8を制御する。
また例えば、図4および図6のレール敷石陥没検出装置において、カメラ制御部9は、速度発振器10から列車の走行速度を検出し、走行速度が大きいほど、iの値を小さく、かつ非検査映像検出閾値を小さく設定するように画像処理装置8を制御する。
なお、画像処理装置8の欠陥画像記録部87は、実施例2と同様に欠陥検出画像を記録する場合には、カメラ制御部9から入力された位置情報と共に速度情報および判定基準を関連付けして記録する。
【0046】
従って、実施例3によれば、上述の実施例1若しくは実施例2の効果に加え、さらに速度の変化に影響されず、欠陥穴の検出が可能となる。
また、実施例3によれば、陥没穴として記録された欠陥検出画像と共に、位置情報および速度情報を、容易かつ迅速に特定することができ、バラスト4の欠陥穴を迅速にメンテナンスすることができる。
【実施例4】
【0047】
上述の図2〜図6を用いた実施例1、実施例2、若しくは実施例3において、ラインセンサカメラのシャッタースピードおよび感度は、固定であった。
しかし、列車の走行速度に応じて、シャッタースピードや感度を可変しても良い。
例えば、図4のレール敷石陥没検出装置において、カメラ制御部9は、列車の走行速度を検出し、走行速度が大きいほど、シャッタースピードを速くするように、ラインセンサカメラ7を制御する。同様に、カメラ制御部9は、列車の走行速度を検出し、走行速度が大きいほど、感度を上げるように、ラインセンサカメラ7を制御する。
なお、画像処理装置8の欠陥画像記録部87は、実施例2若しくは実施例3と同様に欠陥検出画像を記録する場合には、カメラ制御部9から入力された位置情報と共に速度情報およびシャッタースピードや感度を関連付けして記録する。
【0048】
従って、実施例4によれば、上述の実施例1、実施例2、若しくは実施例3の効果に加え、さらに速度の変化に影響されず、欠陥穴の検出が可能となる。
また、実施例4によれば、陥没穴として記録された欠陥検出画像と共に、位置情報および速度情報を、容易かつ迅速に特定することができ、バラスト4の欠陥穴を迅速にメンテナンスすることができる。
【実施例5】
【0049】
実施例5は、図2、図3、図5、および図6を用いた実施例1乃至実施例4のいずれかのレール敷石陥没検出装置において、図4のレール敷石陥没検出装置の構成に、図7に示すイベントボタンをさらに備える。図7は、バラストの陥没穴を自動的に検出する本発明のレール敷石陥没検出装置の一実施例の構成を示すブロック図である。8’は画像処理装置、12は、イベントボタンである。図7が図4の構成に対して、乗務員が押すイベントボタン12を設け、画像処理装置8が画像処理装置8’に変更となったものである。また、画像処理装置8’においては、画像入力部81の出力が、直接、欠陥画像記録部87に接続する接続線が増えている。
【0050】
図7において、画像入力部81の出力が、直接、欠陥画像記録部87に接続する接続線ができ、鉄道車両に乗車している乗務員が、走行中の目視により、レールに敷設された石の陥没を検出した場合には、直ちに、イベントボタン12を押す。
画像処理装置8’は、イベントボタン12が押されたことを検知し、イベントボタン12が押された時から、所定時間前から撮像された所定枚数の画像を欠陥画像記録部87に出力し、イベントボタン12が押されたイベント情報および位置情報と関連付けて、当該所定枚数の画像を記録させる。
【0051】
実施例5によれば、実施例1乃至実施例4のいずれかのレール敷石陥没検出装置に加え、鉄道車両に乗車している乗務員が走行中の目視によりバラストに陥没穴があるまたはその恐れがあると判断した場合に、イベントボタンを押し、ボタン押下から所定時間前から撮像された所定枚数の画像を記録する。この結果、走行中の目視により鉄道車両に乗車している乗務員の目視作業をも記録することができ、バラストの陥没穴の検出を、一層確実に行うことができる。
【符号の説明】
【0052】
1:先頭車両、 2:レール、 3:枕木、 4:バラスト、 5:陥没穴、 6:近赤外線照明部、 7:ラインセンサカメラ、 8:画像処理装置、 9:カメラ制御部、 10:速度発振器、 11:光学フィルタ、 50、60:領域図、 51、61、63:走査線、 81:画像入力部、 82、83:積算処理部、 84:枕木・レール検出処理部、 85:非検査領域除去部、 86:欠陥検出部、 87:欠陥画像記録部、 100:模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラストと、前記バラスト上に所定の間隔で埋設した枕木と、前記枕木に固定した左右のレールとで構成された軌道を走行する列車の先頭車両に搭載され、
所定の波長帯の近赤外光を前記バラストに照射する近赤外線照射部と、
近赤外光のみを透過する光学フィルタを備え、前記バラストから入射する光の近赤外光を受光し、映像信号に変換した画像を映像信号として取得するラインセンサカメラと、
前記映像信号から欠陥穴を検出する画像処理装置と、
前記近赤外線照射部、前記ラインセンサカメラ、および、前記画像処理装置を制御する制御部と、前記列車の位置情報を取得する位置情報取得手段若しくは速度情報を取得する速度情報取得手段とを有し、前記バラストの陥没穴を検出するレール敷石陥没検出装置であって、
前記画像処理装置は、前記ラインセンサカメラが取得した1走査線分の画像について、前記ラインセンサカメラの走査線の走査方向に1画素ずつずらした画像を画素毎に所定の画素数分積算する走査線方向積算処理部と、前記走査線方向積算処理部が積算した画像から陥没穴映像検出閾値で区別することによって前記バラストの陥没穴を検出する欠陥検出部とを有することを特徴とするレール敷石陥没検出装置。
【請求項2】
請求項1記載のレール敷石陥没検出装置において、前記制御部は、前記位置情報若しくは前記速度情報に基づいて、前記ラインセンサカメラの走査線の走査速度を可変することを特徴とするレール敷石陥没検出装置。
【請求項3】
請求項1記載のレール敷石陥没検出装置において、前記制御部は、前記位置情報若しくは前記速度情報に基づいて、ラインセンサカメラのシャッタースピードと感度を可変することを特徴とするレール敷石陥没検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−242252(P2012−242252A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113063(P2011−113063)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】