説明

ロックボルト構造体及びその引張耐力試験方法

【課題】繊維強化樹脂製のロックボルト構造体の引張耐力を破損することなく容易に試験することができるロックボルト構造体の引張耐力試験方法を提供する。
【解決手段】本ロックボルト構造体1は、外周面に螺旋状の山部22を具備するロックボルト2と、ロックボルトに螺合するナット3と、ロックボルトに挿通されるプレートと、4を備え、ナットは、ロックボルトがねじ込まれる螺合孔31と、螺合孔と同一軸であり且つ螺合孔の一端面側が細くなるテーパ面321を具備し、プレートに挿入される挿入部32とを備え、プレートは、ロックボルトを挿通し、且つナットの挿入部が挿入され且つテーパ面と接するテーパ形状の挿通孔42を備えることを特徴とする。本ロックボルト構造体は施工後も施工面から著しく突出することがなく、作業時に引っ掛かる等の問題が生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面や法面等の施工面の補強に用いられるロックボルト構造体及びその引張耐力試験方法に関する。更に詳しくは、本発明は、繊維強化樹脂製であり、鋼製ロックボルトと同様の取扱いによる施工が可能であって、且つ施工後も十分な引張耐力を備え、施工面から著しく突出することがなく作業性に優れるロックボルト構造体に関する。また、繊維強化樹脂製のロックボルト構造体の引張耐力を破損することなく容易に試験することができるロックボルト構造体の引張耐力試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル、ダム及び護岸等の壁面や法面等の施工面の開削工事及び補修工事をするために、支保部材であるロックボルトを用いて補強する新オーストリアトンネルメソッド(NATMともいう)等の施工方法が知られている。このような施工方法は図7に例示するように、外周面がねじ切りされた棒状のロックボルト92を施工面8に埋め込み、次いで、岩盤等から露出するロックボルト92の頭部に貫通孔を設けられているプレート94を通し、その後、該頭部にナット93を締め付けてプレート94を固定する。
このようなロックボルト92、ナット93及びプレート94からなるロックボルト構造体91は、通常全て鋼材からなり、プレート94に180kN程度の引張力が加わっても、各部材92、93、94が破損することがない。
【0003】
しかし、鋼材からなるロックボルト構造体は、経年劣化並びに、火山及び温泉地帯等の酸性土壌等に起因する腐食が生じて、引張強度が減少したり破損したりすることで支保機能が欠如することがある。
また、ロックボルト構造体が設けられているまま施工面を掘削する場合は、掘削刃がロックボルト構造体と接触して大きく摩耗する。更に、ロックボルト構造体は鋼製であるため重量物であり、運搬時や施工時の作業性が悪い。また、鋼材を製造する際のCO排出量が多いため地球温暖化を促進させる一因となる。
【0004】
上記問題を解決するために、鋼材の代わりにガラス繊維強化樹脂(GRP、GFRPともいう)を用いたロックボルトが提案されている(例えば、特許文献1及び2を参照。)。このようなGRPロックボルトは、棒状体の周面に螺旋状の凸部を設けた螺合可能な形状であり、鋼製ロックボルトと同様に用いることができる。また、鋼製ロックボルトと比較して腐食しにくく、上記掘削刃に接触しても掘削刃を摩耗させることなく切断可能であり、且つ製造時のCO排出量が少ないため地球温暖化の促進抑制を図ることができるという特長を備える。更に、絶縁体であるためロックボルトを介して誘導電流及び迷走電流が流れたり、ノイズ等が伝達されたりすることがなく、これらに起因する障害を起こすことがない。
【0005】
【特許文献1】特開平07−217628号公報
【特許文献2】特開平11−280397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、GRPロックボルトは、断面方向の圧縮、曲げ及びせん断等の強度が鋼製ロックボルトよりも脆弱であり、ナットの軸長を大幅に長くしないと十分な強度が得られなかった。このため、ナット軸長が鋼製ロックボルトより大幅に長いために、施工後の施工面から著しく突出し、作業時に頻繁に引っ掛かる等の作業性に支障が生じる等利用が難しい問題があった。また、吹付けコンクリート面に施工する場合は、二次覆工時に施工する防水シートで覆うことがあるが、ナット等が防水シートに接触して破損するため好ましくない。
【0007】
更に、鋼製ロックボルトの引張耐力の測定は、鋼製ロックボルトの両端をそれぞれ把持した状態で固定するチャックを用いて把持し、各チャックが離れるように引っ張ることで測定している。しかし、GRPロックボルトは、把持に対して脆弱であるため適切な引張強度の測定ができなかった。このため、GRPロックボルトの端とチャックとを接着固定する等、煩雑であり且つ再利用ができない作業を行っていた。
【0008】
本発明は、上記の従来の問題を解決するものであり、繊維強化樹脂製であり、鋼製ロックボルトと同様の取扱いによる施工が可能であって、且つ施工後も十分な引張耐力を備え、施工面から大きく突出することがなく作業性に優れるロックボルト構造体を提供することを目的とする。また、繊維強化樹脂製のロックボルト構造体の引張耐力を破損することなく容易に試験することができるロックボルト構造体の引張耐力試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下通りである。
1.外周面に螺旋状の山部を具備するロックボルトと、該ロックボルトに螺合するナットと、該ロックボルトに挿通されるプレートと、を備えるロックボルト構造体であって、上記ロックボルトは熱硬化性樹脂を含浸後硬化させた繊維強化樹脂製であり、上記ナットは熱硬化性樹脂を含浸後硬化させた繊維強化樹脂製であり、上記ロックボルトがねじ込まれる螺合孔と、該螺合孔と同一軸であり且つ該螺合孔の一端面側が細くなるテーパ面を具備し、上記プレートに挿入される挿入部とを備え、上記プレートは熱硬化性樹脂を含浸後硬化させた繊維強化樹脂製であり、上記ロックボルトを挿通し、且つ上記ナットの上記挿入部が挿入され且つ上記テーパ面と接するテーパ形状の挿通孔を備えることを特徴とするロックボルト構造体。
2.上記プレートは、板状のプレート本体と、該プレート本体の中央部に形成され、上記ナット側に盛り上がり、且つ中心に上記挿通孔を具備する把持部とを備える上記1.記載のロックボルト構造体。
3.上記ナットの挿入部は、上記先端側から上記ロックボルトの軸方向に沿って切り込まれているスリットを備える上記2.記載のロックボルト構造体。
4.上記ロックボルトは、上記熱硬化性樹脂を含浸し且つ長さ方向に連続する棒状の長繊維状繊維物の表面に、糸状繊維物を外周軸方向で間隔をおいて螺旋状に一体的に巻き付けて締め上げ、該締め上げた糸状繊維物部が螺旋状の凹状溝部を形成させ且つ隣合う該凹状溝部の間隔の間が凸状の上記山部を形成させ、その後該熱硬化性樹脂を硬化させて作製される上記3.記載のロックボルト構造体。
5.上記長繊維状繊維物がガラス繊維である上記4.記載のロックボルト構造体。
6.上記プレート及び上記ナットはガラス繊維強化樹脂製である上記3.乃至上記5.のいずれかに記載のロックボルト構造体。
7.引張耐力が180kN以上である上記3.乃至6のいずれかに記載のロックボルト構造体。
8.上記ロックボルトは、中実体又は中空体である上記3.乃至7のいずれかに記載のロックボルト構造体。
9.繊維強化樹脂製のロックボルトと、該ロックボルトに螺合するナットと、該ロックボルトに挿通されるプレートと、からなるロックボルト構造体のロックボルト構造体引張耐力試験方法であって、上記ロックボルトを挿通する挿通孔を備え且つ上記プレートより大きな装着板、並びに該装着板に設けられる引張部材を具備するプレート支持治具と、上記ロックボルト構造体のロックボルトと螺合する螺合孔を備えるロックボルト支持治具とを備え、試験対象のロックボルト構造体のロックボルトを上記プレート支持治具に挿通し、且つ上記ロックボルト支持治具と螺合させ、次いで、上記プレート支持治具及び上記ロックボルト支持治具を把持して引張り、該引張りにより上記ロックボルト構造体が破損したときの引張力を引張耐力とすることを特徴とするロックボルト構造体引張耐力試験方法。
10.上記ロックボルト構造体は上記1.乃至8のいずれかに記載のロックボルト構造体である上記8.記載のロックボルト構造体引張耐力試験方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のロックボルト構造体によれば、構造体に組み立てたロックボルト、ナット及びプレートが繊維強化樹脂であるため、鋼製ロックボルトと比較して腐食しにくく、上記掘削刃に接触しても掘削刃を摩耗させることなく切断可能であり、且つ製造時のCO排出量が少ないため地球温暖化の促進抑制を図ることができる。更に、絶縁体であるためロックボルトを介して誘導電流及び迷走電流が流れたり、ノイズ等が伝達されたりすることがなく、これらに起因する障害を起こすことがない。
また、鋼製ロックボルトと同様に、プレート及びナットを用いた施工方法を用いることができる。更に、ナットの挿入部がプレートの挿通孔に挿入可能であるためナットがロックボルトを把持する長さを長くしても、ナット全体の長さが鋼製のロックボルト構造体と比べて多少長い程度の長さにすることができるため、施工後も施工面から著しく突出することがなく、作業時に引っ掛かる等の作業性の問題が生じない。
【0011】
また、プレートがプレート本体と把持部とを備える場合は、プレートの全体の厚みを増すことがなく、必要な強度を備えることができるため、運搬、保管及び施工時に取り扱いやすくすることができる。
更に、ナットの挿入部にスリットを備える場合は、挿入部の先端側がしなりやすくなるため、ナットの挿入部をプレートに挿入したときに先端側がロックボルト側に押しつけられて、ナットとロックボルトとが接触する面積をより増すことができるため、より短い軸長で把持してもナット及びロックボルトの一部分に力が集中して破損することなく強固にロックボルトを把持することができる。
また、ロックボルトが棒状長繊維状繊維に糸状繊維物を巻き付けて山部を形成して作製される場合は、支保部材に必要な引張耐力を得ることができる。
更に、棒状長繊維状繊維がガラス繊維である場合は、より強固な引張耐力を得ることができる。
また、プレート及びナットがガラス繊維強化樹脂製である場合は、強固な引張耐力を得ることができる。
更に、引張耐力が180kN以上である場合は、通常の鋼製ロックボルト構造体と同様の強度を備え、鋼製ロックボルト構造体と同様の用途に適用することが容易となる。
また、ロックボルトが、中実体又は中空体である場合は、本ロックボルト構造体を中実体である通常の鋼製ロックボルトと同様の施工を行うことができるし、薬液を注入する施工方法に中空体のロックボルトを用いたロックボルト構造体を用いることができる。
【0012】
本ロックボルト構造体引張耐力試験方法によれば、把持強度が鋼製よりも脆弱である繊維強化樹脂製のロックボルトであっても、施工後の状態により近い状態で試験することができ、必要な引張耐力を試験することができる。また、従来のロックボルトのみの引張耐力試験方法とは異なり、ロックボルト構造体として試験を行うため、より施工後の実体に近い条件で必要な引張耐力を試験することができる。
【0013】
更に、試験対象のロックボルト構造体が本発明のロックボルト構造体である場合は、試験によって破損することなく引張耐力を試験することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1〜6を参照しながら本発明のロックボルト構造体及びその引張耐力試験方法を詳しく説明する。
1.ロックボルト構造体
本発明のロックボルト構造体は、ロックボルトと、ロックボルトに螺合するナットと、ロックボルトに挿通されるプレートと、を組み上げてなることを特徴とする。また、ロックボルト、ナット及びプレートは、熱硬化性樹脂を含浸後硬化させた繊維強化樹脂製である。
上記「熱硬化性樹脂」は、繊維強化樹脂に用いられるものであれば任意に選択することができ、例えば、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド樹脂及びフェノール樹脂等を挙げることができる。また、上記「繊維強化樹脂」に用いる繊維も任意に選択することができ、例えば、ガラス繊維、炭素繊維及びケプラー繊維等を挙げることができる。
【0015】
上記「ロックボルト」の形状は、図2に例示するように、雄ネジとして用いることができる螺旋状の山部22が周面に設けられており、ナットと螺合可能な棒状体であれば特に問わない。特に鋼製ロックボルトと同じピッチの山部とした場合は、ナットを回すとき等において鋼製ロックボルトと同じ施工性が得られるため好ましくすることができる。また、ロックボルトの先端形状は用途に応じて任意に選択でき、例えば鋭端形(例えば図2に例示する先端21を参照。)及び平坦等を挙げることができる。また、薬剤等を注入したり地下水を流出させたりするための孔等を設けることができる。更に、ロックボルトは、中実体及び中空体のいずれであってもよい。特に中空体の場合は、中空の部分に薬液を満たして先端に設けた孔から地中に放出させることができる。また、棒状及び鍔状等の任意形状の突起、並びに任意形状の孔を具備していてもよい。
ロックボルトの直径は、任意に選択することができる。この例として鋼製ロックボルトの直径と同じ22mm及び25mmを挙げることができる。
【0016】
ロックボルトの製造方法は特に問わず、通常知られている構造を選択することができる。この一例として、熱硬化性樹脂を含浸し且つ長さ方向に連続する棒状の長繊維状繊維物の表面に、糸状繊維物を外周軸方向で間隔をおいて螺旋状に一体的に巻き付けて締め上げ、締め上げた糸状繊維物部が螺旋状の凹状溝部を形成させ且つ隣合う凹状溝部の間隔の間が凸状の山部を形成させ、その後熱硬化性樹脂を硬化させて作製することを挙げることができる。
上記「棒状の長繊維状繊維物」は、熱硬化性樹脂により棒状に硬化した長繊維の繊維物である。この長繊維は、上記の繊維強化樹脂として挙げた繊維を任意に選択することができる。このうち、ガラス繊維が特に好ましい。
上記「糸状繊維物」は、長繊維状繊維物に巻き付けて締め上げることによって凹状の溝部と凸状の山部とを形成するために用いられる繊維であり、例えば、ビニロン、テトロン、ケプラー、ナイロン、ガラスヤーン及びガラスロービング等を例示することができる。
【0017】
上記「ナット」の形状は、ロックボルトと螺合する螺合孔と、螺合孔と同一の軸線状であり且つ螺合孔の一端面側が細くなるテーパ面を具備し、プレートの挿通孔に挿入可能な略円筒形状の挿入部を備えていればよく、レンチ等の工具で回すための面、棒状及び鍔状等の任意形状の突起、並びに任意形状の孔等を具備していてもよい。また、挿入部の長さは、ロックボルト構造体に構成したときにプレートに全て挿入される長さであってもよいし、一部がプレートから露出する長さであってもよい。
このようなテーパ面の挿入部は、プレートの挿通孔に挿入されて嵌め込まれているときに、挿入孔のテーパにより軸心側に押しつけられ、ロックボルトの把持をより強固にする。
挿入部のテーパの角度、即ち図3(a)に例示する螺合孔31の軸線方向に対する傾斜度θは、任意に選択することができ、例えば10〜20°(特に好ましくは11〜19°、更に好ましくは12〜18°)とすることができる。このような範囲の傾斜度θとすることによって、ロックボルト構造体が破損することがなく強固に把持することができる。
【0018】
更に、ナットの挿入部は、図3に例示するように、先端側からロックボルトの軸方向に沿って切り込まれたスリット322を備えることができる。スリット数は、1つのみでもよいし、2以上でもよい。またスリットの数が2以上の場合は、周面に沿って等間隔に設けることができる。
ナットの螺合孔の長さは、施工時及び施工後ロックボルト及びナットが破損しない程度の力で把持可能な長さとすることができる。このような長さとして、30〜100mm(特に好ましくは40〜90mm、より好ましくは40〜85mm)を挙げることができる。100mmを越えると、施工後の施工面からの突出長さが特に長くなり、作業時に頻繁に引っ掛かる等の作業性に支障が生じ、利用が難しくなるため好ましくない。また、吹付けコンクリート面に施工する場合は、二次覆工時に施工する防水シートで覆うことがあるが、ナットが防水シートに接触して破損するため好ましくない。
【0019】
上記「プレート」は、ロックボルトを挿通し、且つナットの挿入部のテーパ面と接するテーパ形状の挿通孔を備える。このようなテーパ形状の挿通孔は、挿入されたナットの挿入部をロックボルトの軸心方向に押圧することができる。
また、プレートは、板状のプレート本体と、プレート本体の中央部に形成され、ナット側に盛り上がり、且つ中心に挿通孔を具備する把持部とを備えることができる。プレート本体の形状は特に問わず、円板状でもよいし、角板状でもよい。特に円板状の場合は、角がないため角部に接触してけが等をすることがなく取扱いが容易である。また、把持部の形状も特に問わず、円筒状及び角柱状等とすることができる。更に、把持部を明確に備えず、プレート全体が厚みのある円板状とすることもできる。また、リブを周設して強度を確保することができる。
プレートの挿通孔の長さは、施工時及び施工後ロックボルト及びナットが破損しない程度の力で把持可能な長さとすることができる。このような長さとして、30〜80mm(特に好ましくは40〜60mm、より好ましくは40〜50mm)を挙げることができる。80mmを越えると、施工後の施工面からの突出長さが特に長くなり、作業時に頻繁に引っ掛かる等の作業性に支障が生じ、利用が難しくなるからである。
【0020】
プレート及びナットは任意の製造方法により作成することができ、例えば、いずれも短繊維、長繊維及び織布の少なくとも一種から選択して既存の成形方法を用いて成形した成形物に熱硬化性樹脂を含浸後硬化させて作製することを挙げることができる。このように作製される場合は、支保部材に必要な引張耐力を得ることができる。
また、この短繊維、長繊維及び織布は、上記の繊維強化樹脂として挙げた繊維を任意に選択することができる。このうち、ガラス繊維が特に好ましい。このように繊維がガラス繊維である場合は、より強固な引張耐力を得ることができる。
【0021】
本ロックボルト構造体の引張耐力は、180kN以上が好ましい。通常の鋼製ロックボルトの引張耐力が120kN以上又は176kNであり、通常の施工で必要な強度であるからである。
本ロックボルト構造体を用いて施工面を補強する施工方法は、鋼製ロックボルトを用いた通常の施工方法と同様にして行うことができる。例えば、新オーストリアトンネルメソッド等の施工方法によって行うことができる。
【0022】
2.ロックボルト構造体の引張耐力試験方法
本発明のロックボルト構造体の引張耐力試験方法は、上記ロックボルト構造体のロックボルト構造体引張耐力試験方法であって、ロックボルトを挿通する装着孔を備え且つプレートより大きな装着板、並びに該装着板に設けられる引張部材を具備するプレート支持治具と、上記ロックボルト構造体のロックボルトと螺合する螺合孔を備えるロックボルト支持治具とを備え、試験対象のロックボルト構造体のロックボルトをプレート支持治具に挿通し、且つロックボルト支持治具と螺合させ、次いで、プレート支持治具及びロックボルト支持治具を把持して引張り、引張りによりロックボルト構造体が破損したときの引張力を引張耐力とすることを特徴とする。
本引張耐力試験方法は、本発明のロックボルト構造体に対して特に好適に適用することができるが、これに限られず、他の繊維強化樹脂製ロックボルト及びその構造体の引張耐力試験に用いることができる。
【0023】
上記「プレート支持治具」は、ロックボルト構造体を組み立てた状態で、プレート及びナットを介してロックボルトを引張試験機によって引張るための治具である。このプレート支持治具を構成する装着板及び引張部材の形状及び材質は特に問わない。この例として、中央にロックボルトの径より大きな装着孔が設けられて且つプレートより大きな金属板からなる装着板と、装着板の外周に沿って設けられ、且つ装着板の装着孔と同軸上に位置して引張試験機の引張シャフトと接続する接続部を具備する引張部材とからなるプレート支持治具を挙げることができる。
【0024】
上記「ロックボルト支持治具」は、通常施工面に埋め込まれた状態となるロックボルトの先端側を支持して引張試験機によって引っ張るための治具である。このロックボルト支持治具の形状及び材質は特に問わない。この例として、ロックボルトの山部と同じピッチであり螺合可能な雌ネジを具備する螺合孔が設けられた治具本体と、ロックボルトと同軸上に位置して引張試験機の引張シャフトと接続する接続部とを備えるロックボルト支持治具を挙げることができる。
プレート支持治具及びロックボルト支持治具は、引張耐力が少なくとも180kNで破損しないことが好ましい。また、ロックボルト支持治具は、前記引張耐力において、ロックボルトの周面を破損しないようにロックボルトとの接触面積を確保することが必要である。この例として雌ネジ部分の長さを180mm以上とすることを挙げることができる。
【実施例】
【0025】
以下、図面に基づき本実施例のロックボルト構造体及びその引張耐力試験方法を具体的に説明する。
1.ロックボルト構造体の構成
本実施例1のロックボルト構造体1は図1に示すようにロックボルト2と、ロックボルト2に螺合するナット3と、ロックボルト2に挿通されるプレート4と、からなる。
ロックボルト2は、図2に示すように直径が鋼製ロックボルトの一種と同じ25mmであって中実の長尺棒状体であり、山岳トンネルの壁面や法面等の施工面に埋め込まれる鋭端形の先端21と、雄ネジとして機能する周面に設けられた螺旋状の山部22とを備える。
このようなロックボルト2は、熱硬化性樹脂を含浸し且つ長さ方向に連続する棒状であって、長繊維でガラス繊維の長繊維状繊維物の表面に、ビニロン等の糸状繊維物を外周軸方向で間隔をおいて螺旋状に一体的に巻き付けて締め上げて、螺旋状の溝部と山部22を形成させ、その後熱硬化性樹脂を硬化させて作製した。このように作製したロックボルト2は、約1kN/mm程度の引張耐力が得られた。
尚、本ロックボルト2は上記製造方法に限られず、他の製造方法によって作製することができる。
【0026】
ナット3は、長繊維を用いて既存の成形方法を用いて成形したガラス繊維強化樹脂製であり、図3に示すように長さが約80mmの略円筒形状であり、内周にロックボルト2のピッチと同じピッチで雌ネジが形成されている貫通孔である螺合孔31と、螺合孔31の軸方向に対する傾斜角θが約15°である円錐面状のテーパ面321を備える長さが約45mmの挿入部32と、挿入部32の端面から螺合孔31の軸方向に沿って切り込まれた2本のスリット322と、レンチ等の工具で締め付けできるよう正6角形状に周面が面取されている頭部33と、を備える。
【0027】
プレート4は、短繊維、長繊維及びガラス織布を既存の成形方法を用いて成形したガラス繊維強化樹脂製であり、図4に示すように通常の鋼製プレートと略同じ大きさとなる直径約170mmの円板状のプレート本体41と、プレート本体41の中央部に位置し、プレート本体41の施工面との接触面411の反対側の面が盛り上がるように設けられ且つ中心に挿通孔42を具備する円筒状の把持部43と、把持部43の周面とプレート本体41との間であって放射状に設けられる複数のリブ44とを備える。また、挿通孔42は、ナット3のテーパ面321全面と接触するように軸心からの傾斜角θがナット3のテーパ面321の傾斜角θと同じである円錐面状のテーパ面431が設けられている。
【0028】
このようなロックボルト構造体1は次の手順で施工される。始めに、図5に示すように3〜4mのロックボルト2を任意の手段により壁面である施工面8下に埋設する。次いで、プレート4の挿通孔42にロックボルト2を挿通して接触面411が施工面8に接触するようにプレート4を配設する。その後、ナット3の挿入部がプレート4の挿通孔42に挿入されるようにナット3をロックボルト2にねじ込み、適切なトルクになるまで工具で頭部33を回してナット3を固定する。
このとき、ナット3の挿入部32が挿通孔42内に挿入され、くさびのようにテーパ面321が挿通孔42のテーパ面431によりロックボルト2に押しつけられることにより、ロックボルト2を強固に把持する。また、スリット322によって挿入部32がより柔軟にしなうことができ、テーパ面321と挿通孔42との接触面積、並びに螺合孔31とロックボルト2の山部22との接触面積を大きくすることができるため、容易に破損することなく強固に壁面等を保持することができる。
また、本ロックボルト構造体1を用いて施工したとき、図5(b)に示すナット3及びプレート4の施工面8からの突出長Hは、約85mmであり、鋼製のプレート及びナットを用いたときの突出長である約45mmよりも突出しているが、著しく突出していないためその後の作業時に支障が出ることがない。
更に、本ロックボルト構造体1は通常の鋼製ロックボルト構造体の1/4程度の質量であるため、軽量で取扱いが容易であり、且つ製造時のCO排出量が少ないため地球温暖化の促進抑制を図ることができる。
【0029】
2.ロックボルト構造体引張耐力試験方法
本実施例のロックボルト構造体1の引張耐力を次に示す試験方法で試験した。
本試験方法は、図6に示すように、ロックボルト構造体1のプレート4を支持するプレート支持治具5と、ロックボルト構造体1のロックボルト2を支持するロックボルト支持治具6とを用い、プレート支持治具5及びロックボルト支持治具6を引張試験機の引張シャフト71、72で引っ張ることによって測定される。
【0030】
プレート支持治具5は金属製であり、図6に示すように中心に装着孔511を備える装着板51と、引張シャフト71と接続する接続部523を中心に設ける引張板522、並びに装着板51及び引張板522を連結する4つの連結棒521からなる引張部材52とからなる。
ロックボルト支持治具6は金属製であり、円筒形で軸心にロックボルト2と螺合可能な雌ネジを切った螺合孔62を具備する治具本体61と、治具本体61と引張シャフト72とを接続する接続部63とを備える。
【0031】
このような治具5、6をロックボルト2に挿着し、次いで、引張試験機の引張シャフト71、72にそれぞれプレート支持治具5の接続部523及びロックボルト支持治具6の接続部63を設け、その後、引張シャフト71、72が互いに離れるように引張試験機を動作させることにより引張耐力試験を行った。
その結果、引張荷重が180kNのときでも、ロックボルト構造体1が破損することがなかった。また、引張耐力試験後、ロックボルト2をロックボルト支持治具6から取り外し、山部22を目視で確認したが、削れている等の破損は見られなかった。
【0032】
尚、本発明においては、前記実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した態様とすることができる。例えば、図3に示す本実施例のナット3は、頭部33も挿入部32と同じ傾斜のテーパを備えているがこれに限られず、テーパを備えなくてもよい。
また、プレート4は、把持部43が突出する円板状であるがこれに限られず、角板であってもよいし、全体に厚みのある板状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明のロックボルト構造体を説明するためにプレートを切断した側面図である。
【図2】本発明のロックボルト構造体を構成するロックボルトを説明するための側面図である。
【図3】本発明のロックボルト構造体を構成するナットを説明するための(a)側面図及び(b)正面図である。
【図4】本発明のロックボルト構造体を構成するプレートを説明するための(a)正面図、(b)背面図及び(c)縦断面図である。
【図5】本発明のロックボルト構造体を用いた例を説明するための模式図であって、(a)トンネル内にロックボルト構造体を設けた状態の断面図、及び(b)(a)における1つのロックボルト構造体を拡大した部分断面図である。
【図6】本発明のロックボルト構造体を本発明のロックボルト構造体引張耐力試験方法により試験することを説明するための模式断面側面図である。
【図7】従来のロックボルト構造体を壁面に設けた例を説明するための模式断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1;ロックボルト構造体、2;ロックボルト、21;先端、22;山部、3;ナット、31;螺合孔、32;挿入部、321;テーパ面、322;スリット、33;頭部、4;プレート、41;プレート本体、411;接触面、42;挿通孔、43;把持部、44;リブ、5;プレート支持治具、51;装着板、511;装着孔、52;部材、521;連結棒、522;引張板、523;接続部、6;ロックボルト支持治具、61;治具本体、62;螺合孔、63;接続部、71、72;引張シャフト、8;施工面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状の山部を具備するロックボルトと、該ロックボルトに螺合するナットと、該ロックボルトに挿通されるプレートと、を備えるロックボルト構造体であって、
上記ロックボルトは熱硬化性樹脂を含浸後硬化させた繊維強化樹脂製であり、
上記ナットは熱硬化性樹脂を含浸後硬化させた繊維強化樹脂製であり、上記ロックボルトがねじ込まれる螺合孔と、該螺合孔と同一軸であり且つ該螺合孔の一端面側が細くなるテーパ面を具備し、上記プレートに挿入される挿入部とを備え、
上記プレートは熱硬化性樹脂を含浸後硬化させた繊維強化樹脂製であり、上記ロックボルトを挿通し、且つ上記ナットの上記挿入部が挿入され且つ上記テーパ面と接するテーパ形状の挿通孔を備えることを特徴とするロックボルト構造体。
【請求項2】
上記プレートは、板状のプレート本体と、該プレート本体の中央部に形成され、上記ナット側に盛り上がり、且つ中心に上記挿通孔を具備する把持部とを備える請求項1記載のロックボルト構造体。
【請求項3】
上記ナットの挿入部は、上記先端側から上記ロックボルトの軸方向に沿って切り込まれているスリットを備える請求項2記載のロックボルト構造体。
【請求項4】
上記ロックボルトは、上記熱硬化性樹脂を含浸し且つ長さ方向に連続する棒状の長繊維状繊維物の表面に、糸状繊維物を外周軸方向で間隔をおいて螺旋状に一体的に巻き付けて締め上げ、該締め上げた糸状繊維物部が螺旋状の凹状溝部を形成させ且つ隣合う該凹状溝部の間隔の間が凸状の上記山部を形成させ、その後該熱硬化性樹脂を硬化させて作製される請求項3記載のロックボルト構造体。
【請求項5】
上記長繊維状繊維物がガラス繊維である請求項4記載のロックボルト構造体。
【請求項6】
上記プレート及び上記ナットはガラス繊維強化樹脂製である請求項3乃至5のいずれか1項に記載のロックボルト構造体。
【請求項7】
引張耐力が180kN以上である請求項3乃至6のいずれか1項に記載のロックボルト構造体。
【請求項8】
上記ロックボルトは、中実体又は中空体である請求項3乃至7のいずれか1項に記載のロックボルト構造体。
【請求項9】
繊維強化樹脂製のロックボルトと、該ロックボルトに螺合するナットと、該ロックボルトに挿通されるプレートと、からなるロックボルト構造体のロックボルト構造体引張耐力試験方法であって、
上記ロックボルトを挿通する挿通孔を備え且つ上記プレートより大きな装着板、並びに該装着板に設けられる引張部材を具備するプレート支持治具と、上記ロックボルト構造体のロックボルトと螺合する螺合孔を備えるロックボルト支持治具とを備え、
試験対象のロックボルト構造体のロックボルトを上記プレート支持治具に挿通し、且つ上記ロックボルト支持治具と螺合させ、
次いで、上記プレート支持治具及び上記ロックボルト支持治具を把持して引張り、該引張りにより上記ロックボルト構造体が破損したときの引張力を引張耐力とすることを特徴とするロックボルト構造体引張耐力試験方法。
【請求項10】
上記ロックボルト構造体は請求項1乃至8のいずれか1項に記載のロックボルト構造体である請求項8に記載のロックボルト構造体引張耐力試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−293196(P2009−293196A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145045(P2008−145045)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(591140813)株式会社カテックス (11)
【出願人】(508164976)ファイレップ リバー テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【氏名又は名称原語表記】FiReP Rebar Technology Gesellschaft mit beschrankter Haftung
【住所又は居所原語表記】Kreferder Strasse 85 D−40549 Duesseldorf Germany