説明

ロボットの回転関節用配線装置

【課題】組立前或いは組立時の作業によってフレキシブルプリント配線板に形成された断線検出用信号線が損傷を受け難くする。
【解決手段】フレキシブルプリント配線板(FPC板)14には、サーボモータへ電源を供給する4本の電源線31aと、サーボモータとロボット制御装置との間で信号を送受する2本の制御用信号線31bと、2本の断線検出用信号線31cとが設けられている。断線検出用信号線31cは、厚さが電源線31a、制御用信号線31bと同一で、幅が電源線31a、制御用信号線31bの線幅よりも狭く設定され、且つ、FPC板14の幅方向についての断線検出用信号線31cの配列位置は、断線検出用信号線31cとFPC板14の幅方向の外縁との間に、少なくとも1本の制御用信号線31bが存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの回転関節によって結合された2部材間での配線に用いるもので、特に、フレキシブルプリント配線板を用いたロボットの回転関節用配線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用のロボットは、ベースに複数のアームを回転関節によって順次結合して構成され、アームの先端である手首部には、通常、ハンドなどのエンドエフェクタが装着される。このような産業用のロボットでは、アームやエンドエフェクタなどの駆動源をなすモータに電源を供給したり、駆動源とロボットコントローラとの間で制御用信号を送受したりするケーブルが配線される。この場合の配線方式として、ケーブルをベースやアームの内部に通す内部配線方式と、ロボットの外面に沿って配線する外部配線方式とがある。
上記の2つの配線方式のいずれを採用するにせよ、回転関節部分では、2つの部材(ベースとアーム、アームとアーム、アームと手首部など)の相対回転を阻害しないような配線構造とする必要がある。
【0003】
特許文献1には、内部配線方式を採用した場合の回転関節部分の配線構造が開示されている。これは、ケーブルを回転関節の回転中心に通し、2つの部材の相対回転をケーブルの捩れによって吸収する構成である。
特許文献2には、外部配線方式を採用した場合の回転関節部分の配線構造が開示されている。この特許文献2では、配線パターンを形成したフレキシブルシートを使用しており、このフレキシブルシートを円弧状に弛ませて、相対回転する2つの部材間に跨るように、円弧状に弛ませた状態で固定し、2つの部材の相対回転をフレキシブルシートの円弧状の弛み部分で吸収するようにしている。
【0004】
なお、ロボットの回転関節部分ではないが、特許文献3には、自動車のステアリングホイール側と車体側とを電気的に接続するためのスパイラルケーブル装置が開示されている。このスパイラルケーブル装置は、円筒状の外筒と、この外筒の内側に当該外筒と相対回転可能に設けられた内筒とを備えたケースの内部に、帯状の長いフレキシブルフラットケーブルを、内筒の外周囲に巻回した状態にして収納して構成されたもので、フレキシブルフラットケーブルの一端は内筒から外部に導出され、他端は外筒から外部に導出されている。
【0005】
また、特許文献4には、液晶表示装置ではあるが、フレキシブルプリント回路基板を用いた場合、配線の断線を早い段階で検知するために、フレキシブルプリント回路基板に断線検出用信号線を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−143186号公報
【特許文献2】特開平1−153290号公報
【特許文献3】特開2003−324835号公報
【特許文献4】特開2008−15287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、2つの部材の相対回転をケーブルの捩れによって吸収する構成であるから、回転関節の回転中心を通す部分が短いと、ケーブルの単位長さ当たりの捻り量が多くなるので、断線などを早期に生じ易くなる。このため、回転関節の回転中心を通る部分を長くしなければならず、ケーブル配線のために必要とするスペースを回転関節の回転軸方向に広く取らねばならなくなる。これは、特に多くの部品を密に配置している小型ロボットにあっては、回転関節部分の大型化を招き、大変不利である。
【0008】
特許文献2では、2つの部材が相対回転すると、フレキシブルシートが屈伸するけれども、その屈伸は常に同じ部分で行われ易く、やはり、フレキシブルシートが早期に疲労して破損する恐れがある。
特許文献3に開示されたスパイラルケーブル装置は、フレキシブルフラットケーブルの内筒に対する巻き付き巻き戻しによってステアリングホイールの回転を吸収する構造であるので、ケーブルの捻りを利用する構造に比べて、装置の回転軸線方向の厚さを薄くできると共に、ケーブルの屈伸を伴うものに比べてフレキシブルフラットケーブルの寿命も長くなる。
【0009】
しかしながら、自動車のステアリングホイールは、人が回転操作するものであるから、その回転速度は遅いし、また、回転操作時間も長くはない。これに対し、ロボットのアームは、高速回転し、その回転速度はステアリングホイールの比ではない。しかも、産業用ロボットの運転時間は長く、24時間連続で運転されることもあり得る。特許文献3のスパイラルケーブル装置は、自動車のステアリングホイールの回転を吸収するためのもので、高速回転および長時間回転を予想していないから、ロボットの高速旋回するアームなどの回転関節部分にそのまま転用することは不可能である。特に、フレキシブルフラットケーブルは、アームの高速回転により過酷な使用状態となり、屈伸はしないけれども、長期使用に際しては配線にマイクロクラックが入り、断線する可能性があるため、フレキシブルフラットケーブルに細い断線検出用信号線を設け、電源線などの断線を予知する必要がある。
【0010】
この場合、細い断線検出用信号線を、特許文献4に示されているように、フレキシブルフラットケーブル(以下、フレキシブルプリント配線板)の外縁近くに形成したのでは、フレキシブルプリント配線板を単体で扱う際、或いは、フレキシブルプリント配線板をスパイラルケーブル装置のケース内に組み込む際、そのフレキシブルプリント配線板を他部材に当ててしまったり、また、作業台の上にフレキシブルプリント配線板を伸ばしたり、作業台上で載置場所を変える際に作業台と擦れたりした場合、フレキシブルプリント配線板の外縁が一番損傷を受け易く、断線検出用信号線が使用前にダメージを受けてしまい、断線検出用信号線の断線時期が異常に早まるといった不具合を生ずることが予想される。
【0011】
本発明は上記の事情を考慮してなされたもので、その目的は、自動車用のスパイラルケーブル装置と原理的に同様な装置を使用してロボットの回転関節部分の配線装置とする場合、組立前或いは組立時の作業によってフレキシブルプリント配線板に形成された断線検出用信号線が損傷を受け難くすることができるロボット関節用配線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、配線ケース内に、フレキシブルプリント配線板を芯部材の外周に巻くように収納し、このフレキシブルプリント配線板の一端側および他端側を、配線ケースの構成部品であって互いに相対回転可能な筒状の筐体と前記芯部材とからそれぞれ導出するので、フレキシブルプリント配線板の早期疲労を防止しながら、配線装置が回転関節部分の回転軸方向に占めるスペース幅を狭くすることができる。
【0013】
しかも、フレキシブルプリント配線板に形成する複数の導電線は、少なくともアクチュエータへ電源を供給する複数の電源線またはアクチュエータの複数の制御用信号線と、複数の断線検出用信号線とし、断線検出用信号線は、厚さが前記電源線または制御用信号線と同一で、幅が電源線または制御用信号線のうちの最も幅狭も線幅よりも狭く設定され、且つ、フレキシブルプリント配線板の幅方向についての断線検出用信号線の配列位置は、断線検出用信号線とフレキシブルプリント配線板の幅方向の外縁との間に、少なくとも1本の電源線または制御用信号線が存在するように、フレキシブルプリント配線板の幅方向中央側に定めたので、フレキシブルプリント配線板の外縁近くには、線幅の広い電源線または制御用信号線が位置していることとなる。このため、フレキシブルプリント配線板を配線ケース内に組み込んだ時、その組み込み終了までの間にフレキシブルプリント配線板の外縁がダメージを受けたとしても、その外縁のダメージの影響が断線検出用信号線まで及び難くなる。そして、フレキシブルプリント配線板を配線ケース内に組み込んだ後は、フレキシブルプリント配線板に形成された各種の導電線は、厚みが同一であることから、均等に損傷が生じてゆくので、一番線幅の細い断線検出用信号線が一番早く断線し、他の線の断線が近いことを予報する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すもので、(a)は導電線の配列状態を示すために導電線に斜線を付して示すFPC板の部分的な拡大平面図、(b)はFPC板の断面図
【図2】回転関節構造と共に示す回転関節用配線装置の横断面図
【図3】外カバーを取り外して図2のA−A線の矢印方向から見た側面図
【図4】回転関節用配線装置の縦断面図
【図5】回転関節用配線装置の分解斜視図
【図6】産業用ロボットの斜視図
【図7】本発明の第2の実施形態を示す図1相当図
【図8】本発明の第3の実施形態を示す図4相当図
【図9】図8のB−B線に沿う断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の第1の実施形態を図1〜図6を参照しながら説明する。図6に示す産業用ロボット1は、例えば6軸の垂直多関節型のものとして構成され、床に設置されるベース2と、このベース2に水平方向に旋回可能に支持されたショルダ部3と、このショルダ部3に上下方向に旋回可能に支持された下アーム4と、この下アーム4に上下方向に旋回可能に支持された後上アーム5と、この後上アーム5に捻り回転可能に支持された前上アーム6と、この前上アーム6に上下方向に旋回可能に支持された手首7と、この手首7に捻り回転可能に支持されたフランジ8とを備えている。そして、アーム先端であるフランジ8には、ハンドなどのエンドエフェクト(図示せず)が取り付けられるようになっている。エンドエフェクタとしては、ハンドの他に、視覚検査装置のカメラなどが考えられる。ここで、視覚検査装置とは、ワークの所望の検査ポイントをカメラで撮影してその撮影画像情報をロボットコントローラに送信し、ロボットコントローラが受信した撮影画像信号をディスプレイに表示するというもので、ディスプレイに表示されたカメラの撮影画像を目で見て組立や加工などの良否を検査するものである。
【0016】
上記のショルダ部3はベース2に、下アーム4はショルダ部3に、後上アーム5は下アーム4に、前上アーム6は後上アーム5に、手首7は前上アーム6に、フランジ8は手首7に、それぞれ回転関節によって回転可能に支持されている。図2は、これら各部の回転関節構造のうち、手首7の前上アーム6に対する回転関節構造を示している。この図2において、前上アーム6は、アーム基枠9を複数の外カバー10により覆って構成されている。この前上アーム6のアーム基枠9の先端部分には、軸穴9aが形成されている。これに対し、手首7側には筒状の軸部7aが突設されている。この軸部7aは、前上アーム6のアーム基枠9の軸穴9aに嵌合され、クロスローラベアリング11により相対回転可能に支持されている。手首7はこのような回転関節構造によって前上アーム6に上下方向に旋回可能に支持されているが、ショルダ部3、下アーム4、後上アーム5、前上アーム6、フランジ8といった他のロボット要素の回転関節も同様の構造である。
【0017】
上記の旋回可能或は捻り回転可能なロボット要素であるショルダ部3、下アーム4、後上アーム5、前上アーム6、手首7、フランジ8は、それぞれアクチュエータ、例えばサーボモータ(図示せず)を駆動源としている。これらのサーボモータに電源を供給したり、或は、ロボットコントローラからサーボモータの駆動回路に制御信号を送信したり、サーボモータのロータリエンコーダからロボットコントローラに回転検知信号を送信したりするために、ベース2から先端の手首7に至るまでのロボット内部には、ケーブル(図示せず)が通されている。
【0018】
また、フランジ8に取り付けられるエンドエフェクタがハンドであれば、当該ハンドのアクチュエータであるサーボモータに電源を供給したり、ハンドのサーボモータとロボットコントローラとの間で制御信号や回転検知信号を送受したりするためのケーブルがロボット内部に通される。エンドエフェクタが視覚検査装置のカメラである場合には、カメラに電源を供給したり、カメラからの撮影画像信号をロボットコントローラに送信したりするためのケーブルがロボット内部に通される。
【0019】
このロボット内部にケーブルを通す配線のうち、回転関節部分を通す配線には、図2〜図5に示す回転関節用配線装置12が用いられる。この図2〜図5の回転関節用配線装置12は手首7の回転関節のものであるが、他の回転関節に用いられる配線装置も同様の構成のものである。回転関節用配線装置12は、配線ケース13内に帯状の長尺なフレキシブルプリント配線板14を収納してなる。この実施形態の場合、フレキシブルプリント配線板14は一枚ではなく、複数枚重ねられてフレキシブルプリント配線板群となっている。なお、以下では、フレキシブルプリント配線板14を、FPC板14と称することとする。
【0020】
回転関節用配線装置12の配線ケース13は、透明プラスチック製の両端面が開放された円筒状の筐体15と、中心部に円形の芯部材16を一体に有した透明プラスチック製の第1の円板17と、同じく透明プラスチック製の第2の円板18とから構成されている。
【0021】
第1の円板17および第2の円板18は、筐体15の両側の開放面を塞ぐためのもので、第1の円板17は、筐体15の内側に嵌合する円形嵌合突部17aを有し、第2の円板18は、筐体15の外側に嵌合する環状嵌合リブ18aを有している。第2の円板18は、第1の円板17の芯部材16にねじ19によって固定されて第1の円板17と一体化される。この一体化された第1の円板17と第2の円板18とは、中心に芯部材16を有したリール20を構成する。
【0022】
第1の円板17と第2の円板18を一体化してリール20を構成する際、第1の円板17と第2の円板18との間に筐体15を配することにより、筐体15がリール20に対して相対回転可能に組み付けられ、前記配線ケース13として構成される。この場合、円形嵌合突部17aおよび環状嵌合リブ18aが筐体15と嵌合することにより、筐体15とリール20との心ずれ方向の動きが規制される。
【0023】
配線ケース13に組み立てられた状態で、芯部材16は筐体15内の中心部に位置する。この芯部材16には、円弧状の保持溝16aが形成されており、この保持溝16a内に止め具21が嵌着されている。一方、筐体15には、その内周面から外周面に向かって円弧を描くようにしてスリット15aが形成されている。このスリット15aは、筐体15の外周面において所定幅で開口している。
【0024】
そして、配線ケース13内に収納された前記FPC板14の一端部は、上記止め具21の内側に挿入保持され、他端部は、筐体15のスリット15a内に挿入されている。このスリット15a内に挿入されたFPC板14の他端部は、筐体15の外周面におけるスリット15aの開放口を塞ぐようにして当該筐体15に固定された押え具22によってスリット15a内面に押圧されている。このようにして両端部が筐体15と芯部材16に取り付けられたFPC板14は、芯部材16の外周に所要回数スパイラル状に緩く巻かれた状態となっている。
【0025】
前記FPC板14は、図5に示すように、両端部に互いに逆方向に直角に延びる延長部14a,14bを有している。このFPC板14の延長部14a,14bの先端部には、それぞれ接続端子23および24が取り付けられている。そして、芯部材16に保持されたFPC板14の一方の延長部14aは、第2の円板18にその外周から中心部にかけて直線状に形成されたスリット18bを通して外方へ導出されている。また、筐体15のスリット15aに保持されたFPC板14の他端側の延長部14bは、スリット15aのうち第1の円板17による閉鎖から除かれた部分を通して外方へと導出されている。
【0026】
FPC板14を収納した配線ケース13は、筐体15をアルミなどの金属製の保持筒25に取り付けた上で、図2に示すように、筐体15およびリール20の相対回転の中心を、手首7および前上アーム6の相対回転の中心に一致させるようにして回転関節部分に配置されている。そして、保持筒25のフランジ25aが例えば手首7の軸部7aにねじ26によって固定されている。これにより、筐体15が保持筒25を介して手首7(ロボットの相対回転する一方の部材)に取り付けられる。
【0027】
筐体15が手首7の軸部7aに固定された配線ケース13は、前上アーム6のアーム基枠9にねじ27によって固定された取り付け枠28の筒状収納部28a内に収納されている。この筒状収納部28aの端部には、図3に示すように、例えばT型の連結枠28bが形成されており、この連結枠28bが第2の円板18と共にねじ29によって芯部材16に固定されている。これにより、リール20(芯部材16)が連結枠28bを介して前上アーム6(ロボットの相対回転する他方の部材)に取り付けられる。なお、連結枠28bには、第2の円板18のスリット18bから外方に導出されたFPC板14の延長部14aを通すためのスリット28cが形成されている。そして、前記外カバー10が取り付け枠28を覆うようにしてアーム基枠9および取り付け枠28にねじ30によって固定される。
【0028】
配線ケース13の第2の円板18から導出されたFPC板14の一方の延長部14aは前上アーム6内に収納され、その接続端子23が前上アーム6内の所定部位に固定される。そして、この接続端子23に前上アーム6内に配線された図示しないケーブルが接続端子を介して接続される。また、配線ケース13の筐体15から第1の円板17側に導出された他方の延長部14bは手首7内に収納され、その接続端子24が手首7内の所定部位に固定される。そして、この接続端子24に前上アーム6内に配線された図示しないケーブルが接続端子を介して接続される。
【0029】
以上のようにして前上アーム6内に配線されたケーブルと、手首7内に配線されたケーブルとが回転関節用配線装置12を介して接続される。この回転関節用配線装置12において、手首7が前上アーム6に対して相対回転すると、その相対回転の方向により、FPC板14は、芯部材16に巻き付き或は巻き戻されるように両端間において曲がるように撓み、或は曲がりが伸ばされるようになり、これによって、筐体15とリール20ひいては手首7と前上アーム6の相対回転を吸収する。このため、配線ケース13がFPC板14をスパイラル状に収容できる程度の比較的小型のもので済むので、狭いスペースでも配設可能で、余分なスペースの余りない小型ロボットに対しても、大型化を招来せず、或は大型化を伴っても僅かに大きくするだけで済むようになる。
【0030】
ところで、FPC板14は、図1に示すように、複数本の導電線31を形成したプラスチック製フィルム、例えばポリイミドフィルム32に、絶縁被覆のためのポリイミドフィルム33を接着剤34により接着して構成され、可撓性を有する。
【0031】
上記導電線31は、複数本(4本)の電源線31a、複数本(2本)の制御用信号線31b、複数本(2本)の断線検出用信号線31cからなる。電源線31aは、サーボモータなどに電源を供給するための導電線で、制御用信号線31bは、サーボモータの制御のために当該サーボモータと信号を送受するための導電線であり、断線検出用信号線31cは、長期使用により、電源線31aや制御用信号線31bにマイクロクラックが入り、断線に至る恐れがあるので、その断線を予知するためのものである。2本の断線検出用信号線31cは、最先端で互いに接続されており、基端がロボットコントローラの断線検知回路に接続されている。そして、断線検出用信号線31cが断線すると、その抵抗値が大きく(無限大)上昇するため、断線検知回路がこの抵抗値変化により断線検出用信号線31cの断線を検知する構成である。
【0032】
上記電源線31a、制御用信号線31b、断線検出用信号線31cは、いずれも厚さtが同一である。幅寸法については、電源線31aと制御用信号線31bはw1と同一で、断線検出用信号線31cは、電源線31aおよび制御用信号線31bよりも幅狭のw2である。
【0033】
電源線31a、制御用信号線31b、断線検出用信号線31cの配列は、FPC板14の一方の外縁(図示右縁)から、1本の制御用信号線31b、2本の断線検出用信号線31c、一本の制御用信号線31b、4本の電源線31aという順に並び設けられている。このように断線検出用信号線31cは、FPC板14の外縁との間に、少なくとも1本の制御用信号線31bまたは少なくとも1本の電源線31aが存在するように、FPC板14の中央側に位置して設けられているものである。
【0034】
このようなFPC板14であれば、FPC板14を配線ケース13内に組み込む作業によって断線検出用信号線31cがダメージを受けて損傷することを極力防止できる。この断線検出用信号線31cの損傷防止の理解のために、FPC板14がどのようにして配線ケース13内に組み込まれるかについて、その手順の一例を説明する。即ち、まず、複数枚のFPC板14を重ね合わせて両端部分を互いに接着する。そして、延長部14a.14bに接続端子23,24を接続する。
【0035】
次いで、このFPC板14の一端部、即ち延長部14aが直角方向に延長されている部分を止め具21の内側に挿入し、止め具21を第1の円板17の芯部材16の保持溝16aに嵌着する。そして、FPC板14を第1の円板17の芯部材16の外周に巻き付け、第1の円板17を、円形嵌合突部17aを筐体15の一方の端部の内側に嵌め込むようにして、筐体15の一方の端部に配設する。次いで、FPC板14の他端部、即ち延長部14bが直角方向に延長されている部分を筐体15のスリット15a内に差し込む。そして、押え具22を筐体15に取り付けてFPC板14の他端部を固定する。
【0036】
その後、第2の円板18を、環状嵌合リブ18aを筐体15の他方の端部外側に嵌合するようにして、筐体15の他方の端部に配設する。このとき、FPC板14の延長部14aを、スリット18b内に対し第2の円板18の外周面における開口側から中心部に向かって差し入れるようにしながら、第2の円板18を筐体15の他方の端部に配設するものである。その後、第2の円板18をねじ19により芯部材16に固定する。なお、複数枚のFPC板14には油を塗布して低摩擦とすることが好ましい。
【0037】
このようにしてFPC板14は配線ケース13内に組み込まれるが、それまでに、FPC板14は色々な取り扱われ方をする。例えば、作業台の上で擦られたり、他部材に当ててしまったりする。また、FPC板14を止め具21に取り付けたり、筐体15のスリット15a内に挿入したりする際にも、FPC板14に筐体15、芯部材16、第1の円板17、第2の円板18、止め具22を当てたり擦ったりしてダメージを与えたることがある。
【0038】
このような場合、一番損傷を受けるのは、FPC板14の外縁である。このため、仮に断線検出用信号線31cが他の電源線31aや制御用信号線31bよりもFPC板14の外縁側に存在すると、FPC板14の外縁に受けたダメージの影響が直ちに細い断線検出用信号線31cに及び、断線検出用信号線31cにマイクロクラックが入ったりする。
【0039】
これに対し、本実施形態では、断線検出用信号線31cとFPC板14の外縁との間には、少なくとも1本の幅の広い制御用信号線31bが存在しているので、FPC板14の外縁に与えられたダメージが中央側の断線検出用信号線31cに及び難くなる。勿論、FPC板14の外縁のダメージは、最も外縁に近い制御用信号線31bに影響を与えるが、制御用信号線31bは幅広でその影響は小さい。
【0040】
電源線31a、制御用信号線31b、断線検出用信号線31cは、厚さtがいずれも同じであることから、実使用後は、均等にマイクロクラックが発生してゆくようになる。このため、最も細い断線検出用信号線31cが信号線31や制御用信号線31bに先んじて断線を生ずる。この断線は断線検知回路によって検知され、使用者に他の電源線31a、制御用信号線31bもまもなく断線するであろうことを報知する。
【0041】
このように本実施形態では、配線ケース13の組み立て前或は組み立て時の作業によってFPC板14の外縁がダメージを受けても、最も線幅の狭い断線検出用信号線31cがそのダメージの影響を極力受けないようにしたので、ロボット動作が高速で行われ、しかも、ロボット動作が長時間連続して行われるという事情があっても、断線検出用信号線31cが電源線31a、制御用信号線31bの断線とは無関係に、異常に早い時期に断線してしまうことを防止でき、従って、断線検出用信号線31cの断線によって電源線31aや制御用信号線31bの断線時期を適正に予報することができる。
【0042】
図7は本発明の第2の実施形態を示す。これは、断線検出用信号線31cを、FPC板14の幅方向中央部に配列し、その両側に電源線31aおよび制御用信号線31bを対象配置したものである。このように構成しても、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0043】
図8および図9は本発明の第3の実施形態を示す。この実施形態が上述の第1の実施形態と相違するところは、配線ケース13内に、ローラ列を有する摺動補助器35を回転運動可能に設け、この摺動補助器35の内側と外側とでFPC板14の巻き方向が逆方向となるようにしたところにある。
【0044】
即ち、摺動補助器35は、例えば第2の円板18に形成した円形のレール溝36に沿って円運動可能に設けたC字状の回転板37と、この回転板37に回転自在に設けられた複数のローラ38とからなる。配線ケース13内のFPC板14は、摺動補助器35の内側において芯部材16の周りに巻かれた後、摺動補助器35の内側から外側に出されて摺動補助器35の外側において芯部材16の周りに逆方向に巻かれている。
【0045】
この実施形態では、筐体15がリール20に対し、矢印L方向に相対回転する場合には、FPC板14が摺動補助器35を引っ張るようにして同方向に回転させながら、摺動補助器35の外側の部分においては当該摺動補助器35に巻き付き、摺動補助器35の内側の部分においては芯部材16に対して巻き戻されるようになる。筐体15がリール20に対し、矢印Lとは反対方向に相対回転する場合には、FPC板14の巻き方向が変化する折り返し部14bが回転板37に立設された受け柱37aに当接して当該受け柱37aを押すように作用する。このため、FPC板14は、摺動補助器35を矢印Lとは反対方向に回転させながら、摺動補助器35の外側の部分においては当該摺動補助器35から巻き戻され、摺動補助器35の内側の部分においては芯部材16に対して巻き付けられるようになる。このようにFPC板14は、巻き付き巻き戻し動作する際、摺動補助器35のローラ38に接して当該ローラ38を回転させながら動作するので、FPC板14どうしが互いに接して摩耗するという不具合の発生を極力防止することができ、より高速回転、長時間回転に耐え得るものとすることができる。
【0046】
なお、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されるものではなく、以下のような拡張或は変更が可能である。
電源線31aと制御用信号線31bとは線幅が異なっていても良い。この場合、断線検出用信号線31cの線幅は、電源線31aと制御用信号線31bのうち、線幅の狭い側の線よりも更に狭くする。
【0047】
FPC板14に配列する導電線は、電源線31aと断線検出用信号線31cとの組み合わせ、制御用信号線31bと断線検出用信号線31cとの組み合わせであっても良い。他の用途の導電線が含まれていても良い。
【0048】
FPC板14の両端部に延長部14a,14bを設けず、FPC板14の両端部を配線ケース13から僅かに外方に導出氏、この両端部に接続端子23,24を接続して当該接続端子23,24を第1の円板17、第2の円板18に取り付ける構成としても良い。
【符号の説明】
【0049】
図面中、6は前上アーム、7は手首、9はアーム基枠、10は外カバー、12は回転関節用配線装置、13は配線ケース、14はフレキシブルプリント配線板、15は筐体、16は芯部材、17は第1の円板、18は第2の円板、28は取り付け枠、31は導電線、31aは電源線、31bは制御用信号線、31cは断線検出用信号線、35は摺動補助器を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットの相対回転する一方の部材と他方の部材との間での配線を行うものであって、
筒状の筐体内に芯部材を前記筐体に対して相対回転可能に配設して構成され、前記筐体が前記ロボットの相対回転する一方の部材に取り付けられ、前記芯部材が前記ロボットの相対回転する他方の部材に取り付けられる配線ケースと、
複数の導電線を絶縁被覆してなり、前記ケース内に前記芯部材の外周囲に巻くようにして収納され、一端側が前記筐体から前記ロボットの相対回転する一方の部材内に導出され他端が前記芯部材から前記ロボットの相対回転する他方の部材内に導出されるフレキシブルプリント配線板を備え、
前記フレキシブルプリント配線板の複数の導電線は、少なくともアクチュエータへ電源を供給する複数の電源線またはアクチュエータの複数の制御用信号線と、複数の断線検出用信号線からなり、
前記断線検出用信号線は、厚さが前記電源線または前記制御用信号線と同一で、幅が前記電源線または前記制御用信号線のうちの最も幅狭も線幅よりも狭く設定され、
且つ、前記フレキシブルプリント配線板の幅方向についての前記断線検出用信号線の配列位置は、前記断線検出用信号線と前記フレキシブルプリント配線板の幅方向の外縁との間に、少なくとも1本の前記電源線または前記制御用信号線が存在するように、前記フレキシブルプリント配線板の幅方向中央側に定められていることを特徴とするロボット関節用配線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−214528(P2010−214528A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64479(P2009−64479)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】