説明

ロボットハンド及びロボットシステム

【課題】互いに隣接する複数の指部を連動して動かすことができるとともに、複数の駆動部から得られる駆動力を1つの指部に集中させることができるロボットハンド及びロボットシステムを提供する。
【解決手段】ロボットハンド1に含まれる、中指部2−3に対応する屈筋腱部8aは、示指部2−2、中指部2−3、環指部2−4に接続されている。また、中指部2−3に対応する屈筋腱部8aは、示指部2−2、中指部2−3、環指部2−4を屈伸させる連動制御を行うサーボモータ3に接続されている。中指部2−3は、接続されているサーボモータ3が互いに異なる複数の屈筋腱部8aと接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットハンド及びロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、義手などへの応用を目指したロボットハンドの研究や開発が盛んに行われてきている。ロボットハンドには、生体信号の解析結果に基づく姿勢に位置決めすることができるものが存在する。特許文献1には、1個の駆動源から発生する動力を1個以上の差動歯車を介して2本以上の可撓部材に伝達し、各々の可撓部材を牽引することにより、2本以上の指に把持力を発生させるようにしたロボットハンドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−277175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロボットハンドで物体を握る際に、特定の指部に大きな外力が集中してかかることがある。このような場合に、この指部が複数の駆動部からの駆動力を集中して受け、大きな駆動力が得られたならば、物体をしっかり握りしめることができる。また、互いに隣接する複数の指部が連動して動くようになると、ロボットハンドの動きがより人間の手の動きに近いものとなる。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、互いに隣接する複数の指部を連動して動かすことができるとともに、複数の駆動部から得られる駆動力を1つの指部に集中させることができるロボットハンド及びロボットシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るロボットハンドは、複数の指部と、複数の接続部と、を含み、前記各接続部は、前記複数の指部のうちの隣接する複数である接続先指部群、及び、前記接続先指部群に属する指部を屈伸させる連動制御を行う駆動部に接続されており、少なくとも1つの前記指部は、接続されている前記駆動部が互いに異なる複数の接続部と接続されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係るロボットシステムは、複数の指部と、複数の接続部と、複数の駆動部と、を含み、前記各接続部は、前記複数の指部のうちの隣接する複数である接続先指部群、及び、前記接続先指部群に属する指部を屈伸させる連動制御を行う前記駆動部に接続されており、少なくとも1つの前記指部は、接続されている前記駆動部が互いに異なる複数の接続部と接続されていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、接続部が接続先指部群と駆動部とに接続されており、駆動部が接続部の接続先である隣接する複数の指部を屈伸させる連動制御を行うので、互いに隣接する複数の指部を連動して動かすことができる。また、少なくとも1つの指部は、接続されている前記駆動部が互いに異なる複数の接続部と接続されているので、この指部は複数の駆動部から駆動力を得ることができる。そのため、本発明によると、互いに隣接する複数の指部を連動して動かすことができるとともに、複数の駆動部から得られる駆動力を1つの指部に集中させることができる。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記指部には、対応する前記接続部が少なくとも1つ存在し、前記指部に対応する接続部は、当該接続部の延伸方向が、当該接続部に対応する指部の軸線に対して、中指に対応する指部に向かう向き、又は、中指に対応する指部から離れる向きにずれるよう配置されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記指部は、互いに分離されている複数の指節部から構成されており、前記指節部間はワイヤにより連結されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様では、それぞれ互いに異なる前記接続部に対応する複数のガイド部をさらに含み、前記接続部は、互いに異なる指部に接続される線状のリンク部を複数含んでおり、前記接続部に含まれる各リンク部は、当該接続部に対応するガイド部を経由して互いに異なる指部に接続されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記接続部に含まれるリンク部のうちの、当該接続部に対応する指部に接続されるリンク部の余裕長が、他の指部に接続されるリンク部の余裕長よりも短いことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記リンク部は、一端が前記駆動部に接続され、他端が前記指部に接続されていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るロボットハンドの骨格の概略的な外観の一例を示す概略外観図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るロボットハンドの骨格構造の一例を模式的に示す模式図である。
【図3A】本発明の一実施形態に係るロボットハンドの第1関節(DIP関節)及び第2関節(PIP関節)の屈曲運動を主に駆動する腱配置と腱鞘機構を掌側から見た様子の一例を示す模式図である。
【図3B】本発明の一実施形態に係るロボットハンドの第1関節(DIP関節)及び第2関節(PIP関節)の伸展運動を主に駆動する腱配置と腱鞘機構を手の甲側から見た様子の一例を示す模式図である。
【図3C】本発明の一実施形態に係るロボットハンドの第3関節(MP関節)及び第4関節(CM関節)の屈曲運動を主に駆動する腱配置と腱鞘機構を掌側から見た様子の一例を示す模式図である。
【図3D】本発明の一実施形態に係るロボットハンドの第3関節(MP関節)及び第4関節(CM関節)の伸展運動を主に駆動する腱配置と腱鞘機構を手の甲側から見た様子の一例を示す模式図である。
【図3E】本発明の一実施形態に係るロボットハンドの手首関節の屈曲運動を主に駆動する腱配置と腱鞘機構を掌側から見た様子の一例を示す模式図である。
【図3F】本発明の一実施形態に係るロボットハンドの手首関節の伸展運動を主に駆動する腱配置と腱鞘機構を手の甲側から見た様子の一例を示す模式図である。
【図4】図1に示すロボットハンドの一部を拡大して掌側から見た様子の一例を示す拡大平面概略図である。
【図5】指部の内部構造の概要の一例を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るロボットハンドとサーボモータとの接続関係の一例を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るロボットハンドの指節部間の関節が屈曲する様子の一例を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るロボットシステムの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係るロボットハンド1の骨格の概略的な外観の一例を示す概略外観図である。図1では、右手側のロボットハンド1が示されている。
【0017】
図2は、本実施形態に係るロボットハンド1の骨格構造の一例を模式的に示す模式図である。図3Aは、本実施形態に係るロボットハンド1の第1関節(DIP関節)及び第2関節(PIP関節)の屈曲運動を主に駆動する腱配置と腱鞘機構を掌側から見た様子の一例を示す模式図である。図3Bは、本実施形態に係るロボットハンド1の第1関節(DIP関節)及び第2関節(PIP関節)の伸展運動を主に駆動する腱配置と腱鞘機構を手の甲側から見た様子の一例を示す模式図である。図3Cは、本実施形態に係るロボットハンド1の第3関節(MP関節)及び第4関節(CM関節)の屈曲運動を主に駆動する腱配置と腱鞘機構を掌側から見た様子の一例を示す模式図である。図3Dは、本実施形態に係るロボットハンド1の第3関節(MP関節)及び第4関節(CM関節)の伸展運動を主に駆動する腱配置と腱鞘機構を手の甲側から見た様子の一例を示す模式図である。図3Eは、本実施形態に係るロボットハンド1の手首関節の屈曲運動を主に駆動する腱配置と腱鞘機構を掌側から見た様子の一例を示す模式図である。図3Fは、本実施形態に係るロボットハンド1の手首関節の伸展運動を主に駆動する腱配置と腱鞘機構を手の甲側から見た様子の一例を示す模式図である。
【0018】
図4は、図1に示すロボットハンド1の一部を拡大して掌側から見た様子の一例を示す拡大平面概略図である。なお、図4では、ロボットハンド1の構成のうち、図3Aに示した腱配置と腱鞘機構の一部(示指から小指にかけての部分)を抜粋して示している。図5は、指部2の内部構造の概要の一例を示す図である。図6は、本実施形態に係るロボットハンド1とサーボモータ3との接続関係の一例を示す図である。
【0019】
本実施形態に係るロボットハンド1は、様々な形状に対する物体の把持を達成するために、手指の形状と動力系を模倣したものとなっている。そして、本実施形態に係るロボットハンド1の骨格は、20関節24自由度リンク構造となっている。そして、手根骨群は、特に区別することなくまとめて1つのリンクとして構成されている。関節の駆動機構はワイヤ牽引式を採用することにより、駆動部(本実施形態では、例えば、サーボモータ3)をロボットハンド1自体からは独立させ、ロボットハンド1の先端部分の重量の軽減を図っている。本実施形態に係るロボットハンド1の骨格は、例えば、ナイロン製である。また、本実施形態に係るロボットハンド1の骨格は、例えば、粉体成型法などにより形成されている。
【0020】
本実施形態に係るロボットハンド1は、掌部4と、掌部4に接続された複数の指部2(拇指部2−1、示指部2−2、中指部2−3、環指部2−4、及び、小指部2−5)とを含んでいる。そして、本実施形態では、各指部2は、互いに分離している部材である複数の指節部5(拇指部2−1以外の指部2については、指先から順に、末節部5−1、中節部5−2、及び、基節部5−3。拇指部2−1については、指先から順に、末節部5−1、及び、基節部5−3。)を含んでいる。基節部5−3は、中手骨部6と接続されている。中手骨部6は手根骨リンク7と接続されている。拇指部2−1以外の指部2については、末節部5−1と中節部5−2の間の関節が第1関節(DIP関節)であり、中節部5−2と基節部5−3の間の関節が第2関節(PIP関節)であり、基節部5−3と中手骨部6の間の関節が第3関節(MP関節)であり、中手骨部6と手根骨リンク7の間の関節が第4関節(CM関節)である。拇指部2−1については、末節部5−1と基節部5−3の間の関節がIP関節であり、基節部5−3と中手骨部6の間の関節がMP関節であり、中手骨部6と手根骨リンク7の間の関節がCM関節である。そして、本実施形態に係るロボットハンド1では、DIP関節、PIP関節、MP関節、拇指部2−1のCM関節、手首関節が能動関節であり、拇指部2−1以外の指部2のCM関節が受動関節である。
【0021】
本実施形態に係るロボットハンド1は、指部2の屈伸運動に用いられる部材である接続部(本実施形態では、腱部8)を含んでいる。本実施形態に係るロボットハンド1では、腱部8は、線状の部材であるリンク部9を少なくとも1つ含んでいる。また、本実施形態に係るロボットハンド1の掌部4には、腱部8をガイドする腱鞘部10が接合されている。本実施形態では、腱鞘部10には、貫通孔が形成されており、腱鞘部10に形成されている貫通孔に、腱部8に含まれるリンク部9が貫通されている。そして、本実施形態では、指部2には、対応する腱鞘部10が少なくとも1つ存在する。そして、本実施形態では、指部2に対応する腱鞘部10を経由する腱部8を、この指部2に対応する腱部8と呼ぶこととする。
【0022】
図4には、指部2を屈曲させる際に主に駆動される腱部8である屈曲用腱部(以下、屈筋腱部8aと呼ぶ。)、及び、屈筋腱部8aに含まれるリンク部9が経由する屈曲用腱鞘部(以下、屈筋腱鞘部10aと呼ぶ。)が示されている。そして、示指部2−2、中指部2−3、環指部2−4、又は、小指部2−5に対応する屈筋腱鞘部10aについては、1つの屈筋腱鞘部10aに形成されている貫通孔に複数のリンク部9が貫通している。そして、これらのリンク部9それぞれの一端は、屈筋腱鞘部10aに対応する指部2又はその指部2に隣接する指部2に接続されている。
【0023】
すなわち、本実施形態に係る屈筋腱部8aは、ロボットハンド1を構成する複数の指部2のうちの隣接する複数(接続先指部群)に接続されている。指部2とリンク部9とは、留具11によって接続されている。具体的には、例えば、示指部2−2に対応する屈筋腱鞘部10aには、2つのリンク部9が経由しており、それぞれの一端は、示指部2−2に含まれる末節部5−1、及び、中指部2−3に含まれる末節部5−1に接続されている。また、中指部2−3に対応する屈筋腱鞘部10aには、3つのリンク部9が経由しており、それぞれの一端は、示指部2−2に含まれる末節部5−1、中指部2−3に含まれる末節部5−1、及び、環指部2−4に含まれる末節部5−1に接続されている。また、環指部2−4に対応する屈筋腱鞘部10aには、3つのリンク部9が経由しており、それぞれの一端は、中指部2−3に含まれる末節部5−1、環指部2−4に含まれる末節部5−1、及び、小指部2−5に含まれる末節部5−1に接続されている。また、小指部2−5に対応する屈筋腱鞘部10aには、2つのリンク部9が経由しており、それぞれの一端は、環指部2−4に含まれる末節部5−1、及び、小指部2−5に含まれる末節部5−1に接続されている。
【0024】
また、本実施形態に係るロボットハンド1では、少なくとも1つの指部2については、接続されているサーボモータ3が互いに異なる複数のリンク部9が接続されている。具体的には、例えば、示指部2−2に含まれる末節部5−1には、示指部2−2に対応する屈筋腱鞘部10aを経由するリンク部9、及び、中指部2−3に対応する屈筋腱鞘部10aを経由するリンク部9が接続されている。また、中指部2−3に含まれる末節部5−1には、示指部2−2に対応する屈筋腱鞘部10aを経由するリンク部9、中指部2−3に対応する屈筋腱鞘部10aを経由するリンク部9、及び、環指部2−4に対応する屈筋腱鞘部10aを経由するリンク部9が接続されている。また、環指部2−4に含まれる末節部5−1には、中指部2−3に対応する屈筋腱鞘部10aを経由するリンク部9、環指部2−4に対応する屈筋腱鞘部10aを経由するリンク部9、及び、小指部2−5に対応する屈筋腱鞘部10aを経由するリンク部9が接続されている。また、小指部2−5に含まれる末節部5−1には、環指部2−4に対応する屈筋腱鞘部10aを経由するリンク部9、及び、小指部2−5に対応する屈筋腱鞘部10aを経由するリンク部9が接続されている。
【0025】
本実施形態に係るロボットハンド1では、図5に示すように、各指部2に含まれる指節部5が空洞になっている。そして、1つの指部2を構成する指節部5の空洞には、少なくとも1つの超弾性ワイヤ12が貫通している。すなわち、1つの指部2を構成する指節部5の間は超弾性ワイヤ12によって連結されている。
【0026】
本実施形態に係るロボットハンド1では、図6に示すように、一端が指部2に接続されているリンク部9の他端は、腱鞘部10を経由して、サーボモータ3に接続されている。本実施形態に係るロボットハンド1では、リンク部9は、紐状部材(本実施形態では、具体的には、例えば、金属製のワイヤ9a)と、紐状部材に被せられている可撓性を有する筒状のチューブ9bと、を含んで構成されている。そして、ワイヤ9aの一端がサーボモータ3に接続されている。そして、サーボモータ3が駆動することにより、ワイヤ9aが、チューブ9bの中で他の部材と接触することなく長手方向に移動する。このように、ワイヤ9aは、長手方向に移動自在に保持されている。
【0027】
本実施形態に係るロボットハンド1では、1つの腱鞘部10を経由する腱部8に含まれる複数のリンク部9は、同一のサーボモータ3に接続される。図6の例では、中指部2−3に対応する屈筋腱鞘部10aを経由する3つのリンク部9が、1つのサーボモータ3に接続されている。また、本実施形態に係るロボットハンド1では、互いに異なる腱部8の接続先となるサーボモータ3は異なっている。
【0028】
なお、本実施形態に係るロボットハンド1では、一端が指部2に接続されている超弾性ワイヤ12の他端は、サーボモータ3に接続されている。そして、一端が同一の指部2に接続されている超弾性ワイヤ12の他端は、共通のサーボモータ3に接続されている。
【0029】
図3Aには、本実施形態に係るロボットハンド1における屈筋腱部8aや屈筋腱鞘部10aの構成が模式的に示されている。図3Aでは、同一経路を通る複数のリンク部9については1つの線により表現されている。なお、腱部8は、図4に示すように、共通のサーボモータ3に接続される複数本のリンク部9から構成されている必要はなく、例えば、1つのサーボモータ3に接続される根元部と、根元部に接続される複数の枝部と、を含む部材であっても構わない。そして、根元部から枝分かれする複数の枝部の先端が、それぞれ互いに異なる指部2に接続されていても構わない。
【0030】
図3Bには、本実施形態に係るロボットハンド1における、指部2を伸展させる際に主に駆動される腱部8である伸展用腱部(以下、伸筋腱部8bと呼ぶ。)や、伸筋腱部8bが経由する伸展用腱鞘部(以下、伸筋腱鞘部10bと呼ぶ。)の構成が模式的に示されている。図3Bに示されている腱配置及び腱鞘機構は、伸筋腱部8bが掌側からではなく手の甲側から指部2に接続されている点、及び、伸筋腱鞘部10bが、対応する指部2に対して中指部2−3から離れる向きにずらして配置(オフセットして配置)されている点を除いては、図3Aに示されている腱配置及び腱鞘機構と同様である。すなわち、伸筋腱部8bによるサーボモータ3と指部2との接続関係は、屈筋腱部8aによるサーボモータ3と指部2との接続関係と同様である。
【0031】
図3Cに示されている、ロボットハンド1の関節の屈曲運動を駆動する腱配置及び腱鞘機構は、屈筋腱部8aが指部2の末節部5−1に接続されている点、及び、屈筋腱鞘部10aの位置を除いては、図3Aに示されている、ロボットハンド1の関節の屈曲運動を駆動する腱配置及び腱鞘機構と同様である。図3Dに示されている、ロボットハンド1の関節の屈曲運動を駆動する腱配置及び腱鞘機構は、伸筋腱部8bが指部2の末節部5−1に接続されている点を除いては、図3Bに示されている腱配置及び腱鞘機構と同様である。
【0032】
図3E、及び、図3Fには、手首関節の運動を駆動する腱配置と腱鞘機構が示されている。本実施形態に係るロボットハンド1では、手首関節は、3自由度(掌背屈、撓尺屈、回内外)の運動自由度を有する。手首関節の運動には、2つの屈筋腱部8a(Fu(尺骨側)とFr(橈骨側))と、2つの伸筋腱部8b(Eu(尺骨側)とEr(橈骨側))が用いられる。そして、各腱部8をサーボモータ3で駆動することにより、手首の駆動が制御される。掌背屈(Er,Eu)−(Fr,Fu)、撓尺屈(Fr,Er)−(Fu,Eu)、回内外(Fr,Eu)−(Fu,Er)のペアをそれぞれ伸縮すると各々対応する自由度の回転が生じる。
【0033】
本実施形態に係るロボットハンド1では、バイオフィードバック技術を用いて駆動力がサーボモータ3に与えられるようになっている。そして、本実施形態に係るロボットハンド1では、1つのサーボモータ3を駆動させることにより複数の指部2を動かすことができる。すなわち、本実施形態に係るロボットハンド1では、サーボモータ3は、サーボモータ3に接続されたリンク部9の接続先の指部2を屈伸させる連動制御を行う。
【0034】
本実施形態に係るロボットハンド1では、示指部2−2、中指部2−3、環指部2−4、及び、小指部2−5については、1つの指部2に、接続されているサーボモータ3が互いに異なる複数のリンク部9が接続されている。そのため、1つの指部2に対して大きな外力が集中してかかったときなどには、複数のサーボモータ3の駆動力を1つの指部2に伝えることができる。このようにして、本実施形態に係るロボットハンド1では、例えば、大きな外力が加えられた場合でも複数のサーボモータ3から駆動力を得ることができる。
【0035】
このように、本実施形態に係るロボットハンド1では、すべての指部2にかかる外力がバランスしているときには、5自由度の制御自由度を有することとなる一方で、指部2にかかる外力にアンバランスが生じた場合には、最も外力のかかる指部2に対して複数のモータ動力を集中させることが可能となる。そのため、五指がバランスをとりながら、物体をしっかり握りしめることが可能となる。また、物体に対する面圧分布を均一化できるため、面圧を最小化でき、物体の破壊を防ぐことができる。
【0036】
本実施形態に係るロボットハンド1では、腱鞘部10に対応する指部2に隣接する指部2に接続されたリンク部9には、腱鞘部10に対応する指部2に接続されたリンク部9よりも長い余裕長(たわみ)を持たせている。すなわち、腱鞘部10に対応する指部2に隣接する指部2に接続されたリンク部9の余裕長が、腱鞘部10に対応する指部2に接続されたリンク部9の余裕長よりも長くなっている。例えば、腱鞘部10の指先側の端からリンク部9が接続される指部2上の位置までのリンク部9に沿った長さと、腱鞘部10の指先側の端からリンク部9が接続される指部2上の位置までの直線距離と、の差をリンク部余裕長と定義すると、腱鞘部10に対応する指部2に接続されたリンク部9についてのリンク部余裕長が、その指部2に隣接する指部2に接続されたリンク部9についてのリンク部余裕長よりも短くなっている。
【0037】
そのため、本実施形態に係るロボットハンド1では、中指部2−3に対応する屈筋腱鞘部10aを貫通する3つのリンク部9(それぞれの一端は示指部2−2、中指部2−3、環指部2−4に接続されている)が接続されるサーボモータ3について、ワイヤ9aを巻き取るよう駆動させると、まず、中指部2−3が屈曲し、中指部2−3が所定角度だけ屈曲した後に、示指部2−2と環指部2−4とが屈曲し始めるようになっている。同様に、本実施形態に係るロボットハンド1では、環指部2−4に対応する屈筋腱鞘部10aを貫通する3つのリンク部9(それぞれの一端は中指部2−3、環指部2−4、小指部2−5に接続されている)が接続されるサーボモータ3について、ワイヤ9aを巻き取るよう駆動させると、まず、環指部2−4が屈曲し、環指部2−4が所定角度だけ屈曲した後に、中指部2−3と小指部2−5とが屈曲し始めるようになっている。
【0038】
図7は、本実施形態に係るロボットハンド1の指節部5間の関節が屈曲する様子の一例を示す図である。図7に示すように、本実施形態に係るロボットハンド1は、指節部5が相互にはまりあう凹凸形状軸受け部を有している。また、指節部5を、超弾性ワイヤ12を用いて締結することにより、回転型の滑り軸受を構成している。本実施形態に係るロボットハンド1では、リンク部9に含まれるワイヤ9aがサーボモータ3により巻き取られ、リンク部9に含まれるチューブ9bがたわんで、リンク部9の長さが全体として短くなり、指部2に対して張力が発生する。このようにして、指部2が屈曲することとなる。
【0039】
そして、本実施形態に係るロボットハンド1では、リンク部9が、指節部5からはみ出ているため、指部2が屈曲すればするほど指部2にかかる張力の、指部2に対して垂直な方向の成分の大きさが増大することになる。このように、本実施形態に係るロボットハンド1では、サーボモータ3に与えられる駆動力が時間によらず一定であっても、指部2にかかるトルクは時間経過とともに増大することとなる。このようにして、ロボットハンド1の利用者は、物体を握りしめやすくなる。
【0040】
また、本実施形態に係るロボットハンド1では、腱鞘部10が、外力の大きさに感応してモーメントが大きくなる位置に変形移動するようになっている。そのため、腱部8に過大な張力がかかった場合には、腱鞘部10が腱部8の曲率半径を大きくし、スムーズな運動を可能とする。そのため、生体信号からさらに強く握り込むなどの指令が入力された場合に、ゆっくりではあるがじわじわと力を増大させることができる。
【0041】
本実施形態に係るロボットハンド1では、図4に示すように、屈筋腱鞘部10aが、屈筋腱鞘部10aを経由するリンク部9の延伸方向が、屈筋腱鞘部10aに対応する指部2の軸線に対して、中指部2−3に向かう向きにずらして配置(オフセットして配置)されている。そのため、サーボモータ3により屈筋腱部8aに含まれるワイヤ9aが巻き取られると、各指部2には、中指部2−3側に向かう力(モーメント)がかかることとなる。そのため、本実施形態に係るロボットハンド1では、屈筋腱鞘部10aが対応する指部2に対して中指部2−3側にずらして配置(オフセットして配置)されていないロボットハンド1よりも、指部2が閉じる際に、指部2が近づき寄り添いながら閉じることとなる。
【0042】
本実施形態に係るロボットハンド1では、指部2を屈曲させる際には、屈筋腱部8aに接続されたサーボモータ3が主に駆動することとなり、指部2を伸展させる際には、伸筋腱部8bに接続されたサーボモータ3が主に駆動することとなる。そして、本実施形態に係るロボットハンド1では、指部2が伸展する際に、サーボモータ3からワイヤ9aが繰り出されて、伸筋腱部8bに含まれるチューブ9bのたわみが解消される。そして、チューブ9bの復元力により、指部2が伸展することとなる。
【0043】
そして、本実施形態に係るロボットハンド1では、伸筋腱鞘部10bが、伸筋腱鞘部10bを経由するリンク部9の延伸方向が、伸筋腱鞘部10bに対応する指部2の軸線に対して、中指部2−3から離れる向きにずらして配置(オフセットして配置)されている。そのため、本実施形態に係るロボットハンド1では、指部2が伸展する際に、各指部2に、中指部2−3側から離れる向きの力(モーメント)がかかることとなる。そのため、本実施形態に係るロボットハンド1では、伸筋腱鞘部10bが対応する指部2に対して中指部2−3から離れるようずらして配置(オフセットして配置)されていないロボットハンド1よりも、指部2が開く際に、指部2が左右に広がりながら開くようになる。
【0044】
このように、本実施形態に係るロボットハンド1では、伸筋腱部8bが中指部2−3から離れる向きにずらして配置され、屈筋腱部8aが中指部2−3側にずらして配置されているので、指を開くときは、手指が左右に広がりながら開き、指を閉じるときには、指が近づき寄り添いながら閉じることとなる。これにより、ロボットハンド1の指先で小さなものを摘んだり、五指で細い棒を握りこんだりすることが容易になる。
【0045】
本実施形態に係るロボットハンド1では、指部2に外力が加えられた場合でも、その外力に応じた駆動力がサーボモータ3に与えられ、外力と駆動力とがつりあい、例えば、ロボットハンド1で飛んできたボールを受け取るようなことを行うことができるようになっている。しかし、短時間で強い外力が指部2に加えられた場合には、サーボモータ3の駆動が間に合わない状況となることが考えられる。本実施形態に係るロボットハンド1では、各指節部5が、互いに分離しているので、そのような状況になったとしても、指節部5同士の係合を外す(脱臼したような状況にする)ことで、急激な外力を逃がすことができる。そして、その後、超弾性ワイヤ12に接続されたサーボモータ3、屈筋腱部8aに接続されたサーボモータ3、伸筋腱部8bに接続されたサーボモータ3を駆動させることにより、本実施形態に係るロボットハンド1を元の状態(凹凸のはめ合い状態(再安定状態)(図7参照))に復帰させることができる。
【0046】
図8は、本実施形態に係るロボットシステム20の構成の一例を示す図である。図8に示すように、本実施形態に係るロボットシステム20は、上述のロボットハンド1と、複数の駆動部(本実施形態では、例えば、上述のサーボモータ3)を含んで構成されている。
【0047】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0048】
例えば、示指部2−2の基節部5−3と中指部2−3の基節部5−3の間、中指部2−3の基節部5−3と環指部2−4の基節部5−3の間、環指部2−4の基節部5−3と小指部2−5の基節部5−3の間が弾性を有する圧縮部材(例えば、ばね)によって締結されていてもよい。こうすれば、指部2を開いたときに、指部2が放射状に開きやすくなるので、手が広がる姿勢を維持することができる。また、手指の開口面積を大きくとることが可能となり、大きな物体まで握りこめることとなる。
【0049】
また、本実施形態に係るロボットハンド1の骨格の素材はナイロンに限定されない。また、リンク部9の形状は上述のものには限定されない。また、例えば、紐状部材の素材は、金属でなくてもよく、例えば、繊維などでも構わない。また、本実施形態に係るロボットハンド1を、人工肩など義手以外に応用してもよい。また、リンク部9が指部2の内部を貫通していてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 ロボットハンド、2 指部、2−1 拇指部、2−2 示指部、2−3 中指部、2−4 環指部、2−5 小指部、3 サーボモータ、4 掌部、5 指節部、5−1 末節部、5−2 中節部、5−3 基節部、6 中手骨部、7 手根骨リンク、8 腱部、8a 屈筋腱部、8b 伸筋腱部、9 リンク部、9a ワイヤ、9b チューブ、10 腱鞘部、10a 屈筋腱鞘部、10b 伸筋腱鞘部、11 留具、12 超弾性ワイヤ、20 ロボットシステム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の指部と、複数の接続部と、を含み、
前記各接続部は、前記複数の指部のうちの隣接する複数である接続先指部群、及び、前記接続先指部群に属する指部を屈伸させる連動制御を行う駆動部に接続されており、
少なくとも1つの前記指部は、接続されている前記駆動部が互いに異なる複数の接続部と接続されている、
ことを特徴とするロボットハンド。
【請求項2】
前記指部には、対応する前記接続部が少なくとも1つ存在し、
前記指部に対応する接続部は、当該接続部の延伸方向が、当該接続部に対応する指部の軸線に対して、中指に対応する指部に向かう向き、又は、中指に対応する指部から離れる向きにずれるよう配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記指部は、互いに分離されている複数の指節部から構成されており、
前記指節部間はワイヤにより連結されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のロボットハンド。
【請求項4】
それぞれ互いに異なる前記接続部に対応する複数のガイド部をさらに含み、
前記接続部は、互いに異なる指部に接続される線状のリンク部を複数含んでおり、
前記接続部に含まれる各リンク部は、当該接続部に対応するガイド部を経由して互いに異なる指部に接続される、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のロボットハンド。
【請求項5】
前記接続部に含まれるリンク部のうちの、当該接続部に対応する指部に接続されるリンク部の余裕長が、他の指部に接続されるリンク部の余裕長よりも短い、
ことを特徴とする請求項4に記載のロボットハンド。
【請求項6】
前記リンク部は、一端が前記駆動部に接続され、他端が前記指部に接続されている、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載のロボットハンド。
【請求項7】
複数の指部と、複数の接続部と、複数の駆動部と、を含み、
前記各接続部は、前記複数の指部のうちの隣接する複数である接続先指部群、及び、前記接続先指部群に属する指部を屈伸させる連動制御を行う前記駆動部に接続されており、
少なくとも1つの前記指部は、接続されている前記駆動部が互いに異なる複数の接続部と接続されている、
ことを特徴とするロボットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−245575(P2011−245575A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119237(P2010−119237)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、「脳科学研究戦略推進プログラム」日本の特長を活かした統合的研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】