説明

ロングアークキセノンフラッシュランプ

【課題】 熱破壊を解決するためにランプ構造・材料を最適化して、管長が2m以上であって、10ms幅以上の発光パルスを100万回繰り返し発光することが可能なロングアークキセノンフラッシュランプを提供することにある。
【解決手段】 管長が2m以上のロングアークキセノンフラッシュランプの電極1、2は、表面積が100mm以上、体積が100mm以上であって、内部に多くのエミッタ材を含浸可能なポーラスチップ電極で構成され、前記ランプの発光管8と電極1、2に一端が接続され他端が発光管8外に引き出される電極棒3、4間を封着するために設けられた電極封着部5、6が、発光管8と電極棒3、4の略中間の熱膨張係数を有する部材で構成され、10msecパルス幅の発光光で100万回以上の繰り返し発光が可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロングアークキセノンフラッシュランプに係り、特に、太陽電池パネルの製造ラインにおける高速計測に使用される長寿命化されたロングアークキセノンフラッシュランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、輸入された管長2mのロングアークキセノンフラッシュランプの入力可能エネルギーは、最大73.5Jである。また、国産のロングアークキセノンフラッシュランプは、管長が最長1.5m程度であり、入力可能なエネルギーは、1000Jが限界であった。
【特許文献1】特開平10−130035公報
【特許文献2】特開平11−29340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
太陽電池パネルの製造ラインにおいて、太陽電池IV特性の高速計測の際、太陽電池パネルはフラッシュランプによって数十cmの短距離から照射される。その際、フラッシュランプに求められる条件は、(1)太陽電池パネルの寸法から要求されるランプ長として、2m以上の管長が必要である。(2)太陽電池のIV特性の測定所要時間から要求される発光パルス長として10ms幅が必要である。(3)ラインタクトから24時間稼動で、ランプ交換周期を半年から1年とすると、ランプ寿命として100万回以上の繰り返し発光が必要である。そして、上記(1)と(2)の条件である、2mの管長で10msの発光パルス幅を実現するためには、ロングアークキセノンフラッシュランプへの入力エネルギーは3000Jが必要であることが実験から分かっている。
【0004】
ところで、上述のごとく、輸入可能なロングアークキセノンフラッシュランプは、管長が2mの場合、入力可能エネルギーは最大で73.5Jであり、3000Jの入力には遠く及ばない。つまり、10msの発光パルス幅は得られない。また、3000Jの入力可能なフラッシュランプもあるが、管長が最長0.5mであり、太陽電池製造ラインで使用するには短かすぎる。また、仮に、従来のフラッシュランプに3000Jという高エネルギーを入力すると、従来のランプ構造では、すぐにフラッシュランプは熱破壊を引き起こし、到底100万回の繰り返し発光を行うことはできない。
【0005】
従来のキセノンフラッシュランプが熱破壊を引き起こす原因には2つあると考えられている。第1は、はキセノンフラッシュランプの陰極周辺部の黒化によるものである。通常、陰極には、放電しやすいように、エミッタ材が含浸又は塗布(焼き付け)されているが、その量には電極のサイズと構造により限界がある。エミッタ材は、発光回数が重なると徐々に欠乏し、これが進むと、電極の母材であるタングステンの蒸発が始まって、陰極周辺のガラス管内壁が黒化してしまう。黒化した部分は熱吸収が高く、最終的には内部より編み目状にクラックが発生する原因となる。この黒化を防ぐためには、電極のサイズと構造を工夫し、エミッタ材の量を増やす必要がある。第2は、電極封着部の熱膨張係数の差によりキセノンフラッシュランプの電極封着ガラスにクラックが生じることである。クラックの原因は、電極の発光時の瞬間的温度上昇や長時間にわたる温度上昇の際に、発光管ガラスと電極との熱膨張係数の差から、発光管ガラスと電極との間の電極封着ガラスに徐々に応力が蓄積されるために、電極封着ガラスにクラックが生ずることにある。この熱膨張によるクラックを防止するためには、電極封着部分の構造を工夫し、熱膨張係数の差を緩和する必要がある。
【0006】
本発明の目的は、上記の問題点に鑑みて、フラッシュランプの熱破壊を解決するためにランプ構造・材料を最適化して、管長が2m以上であって、10ms幅以上の発光パルスを100万回繰り返し発光することが可能なロングアークキセノンフラッシュランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような手段を採用した。
第1の手段は、管長が2m以上のロングアークキセノンフラッシュランプにおいて、該ロングアークキセノンフラッシュランプの電極を構成するタングステン電極は、その表面積が100mm以上及びその体積が100mm以上であって、内部に多くのエミッタ材を含浸可能なポーラスチップ電極で構成され、前記ロングアークキセノンフラッシュランプの発光管と前記タングステン電極に一端が接続され他端が前記発光管外に引き出される電極棒間を封着するために設けられた電極封着部が、前記発光管と前記電極棒の略中間の熱膨張係数を有する部材で構成され、10msecパルス幅の発光光で100万回以上の繰り返し発光が可能であることを特徴とするロングアークキセノンフラッシュランプである。
第2の手段は、第1の手段において、前記発光管の材質が石英ガラスで構成され、かつ管径がφ10以上であり、前記部材が中間ガラスで構成されていることを特徴とするロングアークキセノンフラッシュランプである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のロングアークキセノンフラッシュランプは、パルス型ソーラシミュレータ光源として、太陽電池パネルのIV特性の高速計測に適用することができ、今後大幅に生産増加が見込まれる太陽電池パネルの出荷時に必須の高速計測に極めて多大に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一実施形態を図1ないし図3を用いて説明する。
図1は、本実施形態の発明に係るロングアークキセノンフラッシュランプの構成を示す正面図である。
同図において、1は材質がタングステンからなる陰極、2は材質がタングステンからなる陽極、3は材質がタングステンからなり一端が陰極1に接続され他端が発光管8の外部に伸びる電極棒、4は材質がタングステンからなり一端が陽極2に接続され他端が発光管8の外部に伸びる電極棒、5は材質がガラスからなり発光管8の一端と電極棒3とを封着する電極封着部、6は材質がガラスからなり発光管8の他端と電極棒4とを封着する電極封着部、7はトリガー電極、8は材質が石英ガラスからなり、管長2m以上の発光管である。
【0010】
本発明は、先にも述べたように、ロングアークキセノンフラッシュランプの熱破壊を解決するためには、(1)陰極1周辺部の黒化対策と(2)電極封着部5,6の熱膨張係数差の緩和構造を採用することにより、ランプの熱破壊を最小限に抑えようとするものである。
まず、(1)陰極1周辺の黒化対策としては、第1に、陰極1をポーラスチップ電極を採用したことである。一般に、フラッシュランプは、フラッシュランプの出力パワーにより、焼結電極(低パワー用放電管用)、タングステンポーラス電極(中、大パワー放電管用)、及びタングステンチップ電極(大、(特殊)パワー放電管用)の3種類の電極構造が使い分けられている。しかし、タングステンポーラス電極を使用した試作ランプでは、サイズ・構造面から、エミッタ材が少なく、放電によってエミッタ不足による黒化が早期に発生したため、前述の熱破壊の大きな原因となるため、採用できない。本発明では、タングステン陰極1として、サイズ・構造面からエミッタ量を多く含浸出来るポーラスチップ電極を採用した。この電極構造の試作ランプは、繰り返し発光回数を増やせる上、陰極母材の蒸発により発生する周辺の黒化を遅らせることができる。
【0011】
第2に、陰極1及び陽極2の電極サイズを拡大し、陰極1及び陽極2の表面積を100mm以上、体積を100mm以上としたことである。このように構成することにより、エミッタ量が増加し、100万回発光に必要な電子放出が可能になる共に、熱破壊対策としては、陰極1が受けるイオン衝撃による温度上昇を抑制することができる。また、エミッタ欠乏による電極温度の上昇の抑制と、電極周辺の内壁を黒化進行前の白濁の状態に維持することができる。さらに、隣接する電極封着部5、6における熱応力にクラックを防止することができる。
【0012】
また、(2)電極封着部5、6の熱膨張係数差の緩和し、電極封着部5、6の損傷を最小に抑える繋ぎの構造として段継ぎ法を採用した。図2はロングアークキセノンフラッシュランプの電極封着部5、6付近の構成を示す図である。同図に示すように、本発明では、ロングアークキセノンフラッシュランプの発光管8を構成する石英ガラスとタングステン電極棒3、4との間を繋ぐ電極封着部5、6を構成する中間ガラスとして、例えば、熱膨張係数6×10−7/℃の石英ガラス及び熱膨張係数48×10−7/℃のタングステン電極棒3,4に対して、10〜25×10−7/℃の熱膨張係数を有する中間ガラスを採用した。
【0013】
上記の3つの熱破壊対策を施したφ8及びφ13の2種類の管径を有するロングアークキセノンフラッシュランプの初期特性と寿命を比較検討した。φ8のロングアークキセノンフラッシュランプは、管径が小さいために、フラッシュ発光に失敗し、連続放電現象が発生した。これを放置すると、過熱による破損につながる。即ち、2mの長管ランプにおいては、φ8の管径は細過ぎることが分った。φ13のロングアークキセノンフラッシュランプについては、連続放電現象の発生は見られず、正常なフラッシュ発光が起こった。これは管径拡大でロングアークキセノンフラッシュランプのアークインピーダンスが下がり、ランプ電圧が短時間で降下し放電アークが消えるためである。
【0014】
図3は、上記のφ13のロングアークキセノンフラッシュランプを4ケ月に亘って行った100万回の発光試験における光出力と最低発光電圧の変化を示すグラフである。
同図に示すように、光出力と最低発光電圧の値は100万回の発光時点で初期値の95%の値を保っており、本発明のロングアークキセノンフラッシュランプの長寿命化に成功したことが確認された。また、100万回の発光時点で、電極周辺に黒化は見られず、白濁にとどまっていた。これは電極のエミッタ成分が蒸発しきっておらず、未だ残っていることを意味している。
なお、別に作成したφ10のロングアークキセノンフラッシュランプについても同様の結果が得られている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るロングアークキセノンフラッシュランプの構成を示す正面図である。
【図2】ロングアークキセノンフラッシュランプの電極封着部5、6付近の構成を示す図である。
【図3】φ13のロングアークキセノンフラッシュランプを4ケ月に亘って行った100万回の発光試験における光出力と最低発光電圧の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0016】
1 陰極
2 陽極
3 電極棒
4 電極棒
5 電極封着部
6 電極封着部
7 トリガー電極
8 発光管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管長が2m以上のロングアークキセノンフラッシュランプにおいて、該ロングアークキセノンフラッシュランプの電極を構成するタングステン電極は、その表面積が100mm以上及びその体積が100mm以上であって、内部に多くのエミッタ材を含浸可能なポーラスチップ電極で構成され、前記ロングアークキセノンフラッシュランプの発光管と前記タングステン電極に一端が接続され他端が前記発光管外に引き出される電極棒間を封着するために設けられた電極封着部が、前記発光管と前記電極棒の略中間の熱膨張係数を有する部材で構成され、10msecパルス幅の発光光で100万回以上の繰り返し発光が可能であることを特徴とするロングアークキセノンフラッシュランプ。
【請求項2】
前記発光管の材質が石英ガラスで構成され、かつ管径がφ10以上であり、前記部材が中間ガラスで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のロングアークキセノンフラッシュランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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