説明

ローラクランプおよびそれを備えた輸液装置

【課題】 自然滴下による輸液投与ができ、輸液装置に組み込んでフリーフロー防止機構を設ける場合にも適したローラクランプおよびそれを備えた輸液装置を提供すること。
【解決手段】 ローラクランプRCを、底部11と底部11の両縁部から互いに対向して延びる側壁部12,13を備えたクランプ本体10と、側壁部12等の対向する面に形成されたガイド溝16,17と、流量調節ローラ20で構成した。ガイド溝16等は、底部11との間隔が一方から他方に向って徐々に狭くなるようして延びる調節用ガイド溝部16a等と、調節用ガイド溝部16a等の一方の端部から底部11側に向かって延びる停止用ガイド溝部16b等と、停止用ガイド溝部16b等の端部に設けられた係合凹部16c等で構成した。そして、流量調節ローラ20は、ガイド溝16等に支持された支持軸部22と、支持軸部22の軸方向の中心側に設けられたローラ部21で構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブ内を流れる薬液や血液等の液体の流量を調節したり液体の流れを停止したりするためのローラクランプおよびそれを備えた輸液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、患者に対して薬液や血液等の液体を、チューブを備えた輸液ラインまたは輸血ラインを用いて供給することが行われている。このような場合に、チューブ内を流れる液体の流量を適正量に調節するための流量調節器が用いられており、この流量調節器の中に、ローラを用いたローラクランプや、ローラクランプを備えた輸液装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この輸液装置は、開閉可能なドアとポンプ機構を備えた装置本体に、先端側にローラクランプ(ローラクレンメ)が取り付けられた輸液チューブを設置して使用するように構成されている。そして、ローラクランプはローラの位置を変更することにより輸液チューブの開閉状態を調節できる機構を備えたもので構成されている。また、ポンプ機構はフィンガーとバックプレート部材とを備えた蠕動式のポンプで構成されており、フィンガーの蠕動により輸液する。さらに、この輸液装置には、フリーフロー防止用のクランプが備わっており、このクランプは、ドアが開いたときに輸液チューブを閉塞し、ドアが閉じたときには輸液チューブの閉塞を解除した状態に維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−115916号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、前述した従来の輸液装置が備えるローラクランプは、通常ローラクランプだけで使用されるものと同じタイプのローラクランプである。このため、このローラクランプを輸液装置に組み付けて、さらにフリーフロー防止機構を設ける場合には、自然滴下による輸液投与では使用しないフリーフロー防止機構用のクランプも必要になり部品点数が多くなる。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、その目的は、自然滴下によって輸液投与を行うローラクランプとして使用できるとともに、輸液装置に組み込んでフリーフロー防止機構を設ける場合にも適したローラクランプおよびそれを備えた輸液装置を提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載において、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係るローラクランプの構成上の特徴は、チューブ(T)内を流れる液体の流量を調節したりその液体の流れを停止したりするローラクランプ(RC)において、一方から他方に延びる底部(11)と、底部の長手方向に沿った両縁部から互いに対向して延びる一対の側壁部(12,13)とを備えたクランプ本体(10)と、一対の側壁部の対向する面に形成され、底部との間隔が一方から他方に向って徐々に狭くなるようして底部の長手方向に沿って延びる調節用ガイド溝部(16a,17a)と、調節用ガイド溝部の一方の端部から底部側に向かって延びる停止用ガイド溝部(16b)と、一対の停止用ガイド溝部における底部側の端部から一対の側壁部の他方に向かって延びる係合凹部(16c,17c)とからそれぞれなる一対のガイド溝(16,17)と、一対の側壁部に掛け渡され両端部が一対のガイド溝に移動可能に支持された支持軸部(22)と、支持軸部の軸方向の中心側に設けられ、支持軸部とともに一対のガイド溝に沿って移動することにより底部との間隔を変更するローラ部(21)とからなる流量調節ローラ(20)とを備えたことにある。
【0008】
本発明に係るローラクランプでは、チューブの中間部に設置されるクランプ本体が、一方から他方に延びる底部と、底部の長手方向に沿った両縁部から互いに対向して延びる一対の側壁部とを備えている。この場合、一対の側壁部は、底部に直交する方向に延びていることが好ましい。そして、流量調節ローラが移動する経路となる一対のガイド溝を、一対の側壁部の対向する面に形成している。また、一対のガイド溝を、底部との間隔が一方から他方に向って徐々に狭くなるようして底部の長手方向に沿って延びる一対の調節用ガイド溝部と、一対の調節用ガイド溝部の一方の端部から底部側に向かって延びる一対の停止用ガイド溝部と、一対の停止用ガイド溝部における底部側の端部から一対の側壁部の他方に向かって延びる係合凹部とで構成している。
【0009】
このため、このローラクランプを用いて、自然滴下による輸液投与を行う場合には、流量調節ローラを一対の調節用ガイド溝部に沿って移動させ所定の位置に停止させることにより、チューブ内を移動する液体の流量を任意の流量にすることができる。また、ローラクランプを輸液装置に組み込んで用いる場合には、輸液装置の装置本体に、流量調節ローラを押圧して一対の停止用ガイド溝部内に押し込む機構と、その押圧を解除する機構とを設けることによって、フリーフロー防止機構を構成することができる。
【0010】
この場合、フリーフロー防止機構は、流量調節ローラを一対の停止用ガイド溝部に沿って移動させることができるだけのもので構成できるため簡単な構造のものですむ。また、一対の停止用ガイド溝部における底部側の端部からは一対の側壁部の他方に向かって延びる係合凹部が形成されている。このため、流量調節ローラの底部側への押圧を解除してもチューブを全閉にした状態を維持できる。この場合、流量調節ローラを一対の調節用ガイド溝部に戻す際には手操作を行う。
【0011】
また、本発明に係るローラクランプの他の構成上の特徴は、チューブを底部の長手方向に沿わせてクランプ本体内を挿通させた状態で、支持軸部を一対の調節用ガイド溝部の一方の端部に位置させたときにはチューブが全開し、支持軸部を、一対の調節用ガイド溝部の他方の端部または一対の停止用ガイド溝部の底部側の端部に位置させたときにはチューブが流量調節ローラによって底部に押圧されて全閉するようにしたことにある。
【0012】
これによると、流量調節ローラを一対の調節用ガイド溝部の一端と他端との間で移動させることにより、チューブの開き具合を全開の状態と全閉の状態との間で徐々に変更することができる。また、同様に、流量調節ローラを一対の停止用ガイド溝部における一対の調節用ガイド溝部側の端部と底部側の端部との間で移動させることにより、チューブの開き具合を全開の状態と全閉の状態との間で変更することができるが、この場合の流量調節ローラの移動距離はチューブの直径程度であるため短くなる。このため、チューブを全開の状態から全閉の状態に短時間で変化させることができる。
【0013】
また、本発明に係るローラクランプのさらに他の構成上の特徴は、一対の側壁部におけるそれぞれ調節用ガイド溝部と係合凹部との間の部分を弾性変形可能な可撓片(16d,17d)で構成し、支持軸部を一対の調節用ガイド溝部の一方の端部側に位置させた状態から流量調節ローラを底部側に押圧すると、可撓片が撓んで支持軸部が係合凹部内に入るようにしたことにある。これによると、支持軸部を係合凹部に係合させる操作がスムーズになる。
【0014】
また、本発明に係るローラクランプを備えた輸液装置の構成上の特徴は、前述したローラクランプを備えた輸液装置(30)であって、チューブを一方から他方に延ばした状態でローラクランプが設置される設置部(32)と、設置部におけるローラクランプが設置される面(32a)を開閉する蓋部(33)とを備えた装置本体と、設置部と蓋部との対向する面に設けられ、チューブが当接するプレート部(34b)と、押圧する位置を変更しながらチューブをプレート部に順次押圧することによりチューブ内に液体を流す複数のフィンガーを備えたフィンガー部(34a)とからなるポンプ(34)と、蓋部の開閉状態に連動して作動し、蓋部が開いた状態のときに一対の停止用ガイド溝部の上部側に位置する流量調節ローラを底部側に押圧してチューブを全閉させ、蓋部が閉じた状態のときに流量調節ローラの押圧を解除する連動操作部(35)と、底部の他方の端部側に位置してチューブを閉塞している流量調節ローラを底部の一方の端部側に移動させてチューブを開かせるローラ駆動部(36)とを備えたことにある。
【0015】
本発明に係る輸液装置を使用する場合には、ローラクランプの流量調節ローラを一対の調節用ガイド溝部の一方側に位置させてチューブが開いた状態にしてポンプを作動させることにより、チューブ内の液体を一方から他方に移動させることができる。この場合、蓋部を閉じたときに、流量調節ローラが一対の調節用ガイド溝部の他方側に位置してチューブが閉じた状態になっていれば、ローラ駆動部を作動させて流量調節ローラを一対の調節用ガイド溝部の一方側に移動させる。これによって、輸液装置は、輸液が可能な状態になる。
【0016】
また、輸液操作が終了してポンプを停止させるとともに、蓋部を開けたときには、連動操作部の作動により、流量調節ローラが一対の停止用ガイド溝部の底部側に押圧されてチューブが全閉した状態になる。これによって、輸液装置の作動停止時に、チューブ内を液体が流れることが防止される。この連動操作部としては、例えば、棒体やカムのような部材を回転させたり直線上を往復移動させたりすることによって流量調節ローラに対して進退させる機構を用いることができる。そして、再度、蓋部を閉じたときには連動操作部による流量調節ローラの押圧が解除される。この場合、連動操作部における流量調節ローラを押圧する部分は、例えば、モータの作動により前進し、モータの作動が停止したときにモータの作動によって収縮していたばねの復元力等を利用して押圧前の位置に戻るようにすることができる。
【0017】
また、本発明に係るローラクランプを備えた輸液装置の他の構成上の特徴は、蓋部が開いた状態のときに連動操作部による流量調節ローラの押圧を解除する解除操作部(35d)を備えたことにある。これによると、必要に応じて解除操作部を操作することにより、蓋部を開いた状態で装置本体に対するローラクランプの着脱操作等の各種の操作を行える。また、解除操作部の操作によって流量調節ローラの押圧を解除した場合には、つぎに蓋部を開ける操作が行われるまでその状態が継続されるようにしてもよいし、解除操作部の操作を停止したときに解除操作部が操作前の状態に復帰して、再度、連動操作部によって流量調節ローラが停止用ガイド溝部の底部側に押圧されてチューブが全閉した状態になるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るローラクランプを示した平面図である。
【図2】ローラクランプの正面図である。
【図3】図1の3−3断面図である。
【図4】図2の4−4断面図である。
【図5】ローラクランプを備えた輸液装置の蓋部を開いた状態を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係るローラクランプを図面を用いて詳しく説明する。図1および図2は、同実施形態に係るローラクランプRCを示しており、このローラクランプRCは、チューブT内を流れる薬液や血液等の液体の流量を調節したりその流れを停止したりするために用いられるものである。すなわち、ローラクランプRCは、略樋状に形成されたクランプ本体10と、クランプ本体10に対してチューブTを押圧してチューブT内を流れる液体の流量を調節したりその流れを停止したりする流量調節ローラ20とで構成されている。
【0020】
クランプ本体10は、細長い板状の底部11の長手方向に沿った両縁部から側壁部12,13をそれぞれ立ち上げ、底部11の長手方向に直交する一方の縁部から前壁部14を立ち上げるとともに他方の縁部から後壁部15を立ち上げて略樋状に形成されている。図2に示したように、クランプ本体10の開口を上方に向けるとともに開口縁部が水平になるようにしたときに、底部11は、一方から他方に向かって登り傾斜になる傾斜部で構成されている。なお、本発明においては、前壁部14側を一方、後壁部15側を他方とする。底部11の上面(内面)は、図3に示したように、他方側部分が長く緩やかな傾斜面11aで構成され、傾斜面11aの一方側の部分が短く傾斜が急な傾斜面11bで構成されている。そして、傾斜面11bの一方側の部分が短い水平面11cで構成されている。水平面11cは、傾斜面11bよりも長くなっている。
【0021】
側壁部12,13は、底部11を挟んで対称に形成されており、ともに上端縁部が同一面上に位置するように真っ直ぐに形成されている。側壁部12,13の対向する内面には、図4に示したように一対のガイド溝16,17が形成されている。ガイド溝16は、図3に示したように、側壁部12の上端縁部から一定距離を保って、側壁部12の一方の端部近傍から他方の端部近傍に向かって延びる調節用ガイド溝部16aと、調節用ガイド溝部16aの一方の端部から調節用ガイド溝部16aに直交して底部11の水平面11c側に延びる停止用ガイド溝部16bと、停止用ガイド溝部16bの先端から他方に延びる長さの短い係合凹部16cとで構成されている。
【0022】
調節用ガイド溝部16aと傾斜面11a,11bとの間の長さは、それぞれ傾斜面11aの一方側の端部から他方に行くにしたがって徐々に短くなっている。また、調節用ガイド溝部16aと傾斜面11aとの他方の端部間の長さは、係合凹部16cと水平面11cとの間の長さと略同じになっている。側壁部12における調節用ガイド溝部16a、停止用ガイド溝部16bおよび係合凹部16cで囲まれた部分の一方側部分は、側壁部12の他の部分から切り離され弾性変形が可能になった可撓片16dで構成されており、この可撓片16dは力が加わることにより上下に撓む。
【0023】
なお、図4に、一部しか図示していないが、側壁部13に形成されたガイド溝17も調節用ガイド溝部17a、停止用ガイド溝部および係合凹部17cとで構成されており、ガイド溝16と対向する位置に、ガイド溝16と対称の形状で形成されている。そして、側壁部13における調節用ガイド溝部17a、停止用ガイド溝部および係合凹部17cで囲まれた部分には可撓片16dと同様の可撓片17dが形成されている。また、クランプ本体10の前壁部14の下部側には、チューブTを外部から内部に通すための挿通穴14aが形成され、後壁部15の下部側には、チューブTを内部から外部に通すための挿通穴15aが形成されている。
【0024】
流量調節ローラ20は、厚みが側壁部12,13間の間隔よりもやや小さな円板状のローラ部21と、ローラ部21の中心軸に沿ってローラ部21の両側に突出する支持軸部22とで構成されている。そして、ローラ部21の周面には、軸方向に延びる滑り止め用の突条23が円周方向に沿って複数形成されている。また、支持軸部22の直径は、ガイド溝16,17の上下方向の幅よりも小さく設定され、停止用ガイド溝部16bともう一方の図示していない停止用ガイド溝部(以下、停止用ガイド溝部16b等と記す。)との前後方向の幅よりも僅かに大きく設定されている。
【0025】
したがって、流量調節ローラ20は、クランプ本体10内で僅かな幅で上下移動可能な状態でクランプ本体10の一方側と他方側との間を移動することができる。さらに、クランプ本体10の一方側で停止用ガイド溝部16b等の長さ分上下に移動することができる。流量調節ローラ20が停止用ガイド溝部16b等に沿って上下に移動する際、支持軸部22は、可撓片16d,17dを撓ませながら停止用ガイド溝部16b等内を移動する。また、チューブTは、挿通穴14a,15aを挿通して、ローラ部21と底部11との間に位置するように設置される。
【0026】
このように構成されたローラクランプRCを使用する場合には、まず、チューブTの上流端を、薬液が収容された容器(図示せず)に接続し、チューブTの下流端を患者の体に留置される留置針やカテーテル等に接続する。つぎに、容器からチューブT内に薬液を流し、チューブT内の空気を外部に放出させたのちに、流量調節ローラ20をクランプ本体10の他端側に位置させて薬液の流れを停止させる。その状態で、患者の体における所定の部位に穿刺部材を穿刺して、流量調節ローラ20をクランプ本体10の一端側に徐々に移動させ、チューブT内を流れる薬液の流量が適正量になるようにする。これによって、容器から患者の体内に、設定された一定流量の薬液が供給される。
【0027】
また、チューブT内を流れる薬液の流量を変更する場合には、流量調節ローラ20を一方または他方に徐々に移動させ、流量が変更しようとする流量になったところで流量調節ローラ20を停止させる。この場合の停止は、支持軸部22と調節用ガイド溝部16a,17aの壁面との摩擦およびローラ部21とチューブTとの摩擦によって維持される。そして、患者への薬液の供給量が設定値になると、流量調節ローラ20をクランプ本体10の他端側に移動させてチューブTを閉塞し、留置針やカテーテル等との接続を解除してチューブTを患者から取り外す。
【0028】
この場合、流量調節ローラ20がクランプ本体10の一方側に位置していれば、流量調節ローラ20を底部11側に押圧して可撓片16d,17dを撓ませることにより、支持軸部22を係合凹部16c,17cに係合させてチューブTを閉塞してもよい。これによると、流量調節ローラ20を移動させる距離が短いため素早い操作が可能になるとともに、チューブTを閉塞した状態をより確実に維持できる。以上のように、本実施形態に係るローラクランプRCでは、クランプ本体10に対する流量調節ローラ20の位置を変更することによって、チューブT内を流れる薬液の流量を適正に調節できる。このため、チューブTに設定量の薬液を安定して流すことができる。
【0029】
次に、ローラクランプRCが組み込まれた輸液装置について説明する。図5は、輸液装置30の概略図を示しており、この輸液装置30は装置本体31に、ローラクランプRCとチューブTとを組み込んで構成されている。なお、本実施形態では一方を上方とし、他方を下方としている。装置本体31は、四角箱状の設置部32と、設置部32の右側(図5の状態での右側)の縁部に回転可能に連結された四角箱状の蓋部33とで構成されている。そして、蓋部33は、設置部32の右側の縁部に設けられた回転連結部(図示せず)を中心に回転することにより設置部32の設置面32aを開閉する。設置部32の設置面32aにおける上部には、ローラクランプRCを設置するための設置用凹部32bが形成されており、ローラクランプRCは、側壁部12を露出させ、前壁部14を上方に位置させた状態で設置用凹部32b内に設置されている。
【0030】
また、設置用凹部32bの下方には、ポンプ34の一方を構成する複数のフィンガーからなるフィンガー部34aが設けられている。そして、蓋部33におけるフィンガー部34aに対応する部分(蓋部33を閉じたときにフィンガー部34aに対向する部分)には、プレート部34bが設けられており、フィンガー部34aとプレート部34bとで蠕動式のポンプ34が構成されている。ポンプ34は、フィンガー部34aの各フィンガーをプレート部34bに対して進退させることによってチューブTを押圧して閉塞させたり、その押圧を解除してチューブTを開いたりする。そして、ポンプ34は、フィンガー部34aの各フィンガーに連続した蠕動運動をさせることによってチューブTの押し潰し位置を順次移動させてチューブT内の液体を移動させる。
【0031】
また、設置部32における設置用凹部32bの右側部の上部に対応する部分には、連動操作部35が設けられている。この連動操作部35は、設置部32の内部に設けられた軸部35aと、軸部35aを中心として回転することにより設置用凹部32bの内部に進退可能になったカム35bと、軸部35aを回転させるモータ35cと、軸部35aに設けられカム35bを後退位置に付勢するばね部材(図示せず)と、設置面32aの右上の角部近傍に設置されたスイッチ35dとを備えている。スイッチ35dは、蓋部33が開いたときにオン状態になり、蓋部33が閉じたときに蓋部33によって押されてオフ状態になる。
【0032】
そして、スイッチ35dがオン状態のときにモータ35cが作動して軸部35aを回転させ、これによって、カム35bの先端部が設置用凹部32bの内部に向かって突出する。また、スイッチ35dがオフ状態のときにモータ35cの作動が停止して、ばね部材の付勢力によって、カム35bの先端部が設置用凹部32bの内部から後退して図5の状態になる。
【0033】
また、設置部32の内部における設置用凹部32bの右側部でカム35bの下方には、ローラ駆動部36が設けられている。ローラ駆動部36は、平行して上下に配置された一対の回転支持軸36a,36bと、両回転支持軸36a,36bに掛け渡された無端ベルト36cとで構成されている。一対の回転支持軸36a,36bのうちの回転支持軸36aは駆動軸で構成され、回転支持軸36bは回転自在になっている。回転支持軸36aは、図5の時計回り方向および反時計回り方向のどちらにも回転でき、無端ベルト36cは回転支持軸36aの回転方向にしたがって移動する。そして、回転支持軸36bは無端ベルト36cに追従して回転支持軸36aと同じ方向に回転する。無端ベルト36cは、ローラクランプRCaの流量調節ローラ20に接触しており、無端ベルト36cの移動によって流量調節ローラ20は上下に移動する。
【0034】
また、蓋部33の表面(図示せず)には、ポンプ34およびローラ駆動部36をそれぞれ作動させるための作動開始ボタン、ポンプ34およびローラ駆動部36のそれぞれの作動を停止させるための停止ボタン、ポンプ34およびローラ駆動部36のそれぞれの作動速度調節するための調節用ボタン等、各種の操作子や、液体の供給量や供給速度等を示す各種の表示部が設けられている。そして、ローラクランプRCは、前述したように設置用凹部32b内に設置され、ローラクランプRCが取り付けられたチューブTは、設置部32の設置面32aに上下方向に沿わせた状態で設置されている。また、チューブTにおけるローラクランプRCの下部から突出する部分はポンプ34の中央部分を通るように配置されている。
【0035】
このように構成された輸液装置30を使用する場合には、図5に示したように、蓋部33を開いた状態で、前述したローラクランプRCだけを使用する場合と同様、まず、チューブTの上流端を、薬液が収容された容器に接続し、チューブTの下流端を患者の体に留置される留置針やカテーテル等に接続する。この場合、流量調節ローラ20をクランプ本体10の他端側(図5の状態では下部側)に位置させてチューブTを閉塞させた状態にしておく。このとき、スイッチ35dはオン状態になってモータ35cが作動することによりカム35bの先端部が設置用凹部32bの内部に向かって突出しているが、その位置には流量調節ローラ20は位置していないため、カム35bの先端部は何も押圧せず設置用凹部32bの内部側に位置しただけの状態になる。
【0036】
つぎに、蓋部33を閉じて、スイッチ35dをオフ状態にし、モータ35cの作動を停止させる。これによって、ばね部材の付勢力によりカム35bの先端部は設置用凹部32bから後退する。ついで、ローラ駆動部36を作動させて、流量調節ローラ20をクランプ本体10の一端側(図5の状態では上部側)に移動させる。その状態で、患者の体における所定の部位に留置された留置針やカテーテル等に接続したのちに、ポンプ34を作動させる。これによって、容器から患者の体内に、設定された一定流量の薬液が供給される。
【0037】
なお、輸液流量と輸液予定量とは操作子の操作により予め設定しておく。また、チューブT内を流れる薬液の流量を変更する場合には、蓋部33の表面に設けられた調節用ボタンを操作してポンプ34の作動速度を変更する。そして、患者への薬液の供給量が設定値になると、ポンプ34の作動が自動的に停止する。この場合、停止ボタンを操作してポンプ34の作動を停止させることもできる。これによって、ポンプ34による薬液の供給が終了する。ついで、蓋部33を開ける。これによって、連動操作部35のスイッチ35dがオンになり、カム35bの先端部が設置用凹部32b内に突出して、流量調節ローラ20を底部11側に押圧する。
【0038】
この結果、流量調節ローラ20の支持軸部22が停止用ガイド溝部16b等における底部11側の端部に向かって移動する。このとき、ローラ部21がチューブTを底部11の水平面11cに押し付けて閉塞させ、これによって、チューブT内を薬液が流れることが防止される。このとき、流量調節ローラ20の支持軸部22は係合凹部16c,17cに係合した状態に維持される。この状態で、留置針やカテーテル等との接続を解除してチューブTを患者から取り外す。
【0039】
そして、装置本体31からローラクランプRCを取り外す等の操作を行う場合には、手でスイッチ35dを押してスイッチ35dをオフ状態にすることにより、カム35bの先端部を設置用凹部32bから後退させる。すなわち、連動操作部35の一部を構成するスイッチ35dは、本発明に係る解除操作部としての機能も備えている。このように、輸液装置30を用いた場合には、ポンプ34の作動によって、チューブTに設定量の薬液を安定して流すことができる。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る輸液装置30では、ポンプ34を作動させることにより、チューブTを介して液体を患者の体に供給することができる。また、輸液操作が終了してポンプ34を停止させるとともに、蓋部33を開けたときには、連動操作部35の作動により、流量調節ローラ20が底部11側に押圧されてチューブTが全閉される。これによって、輸液装置30の作動停止時に、不意に、チューブT内を液体が流れることが防止される。また、蓋部33を開けたときに、必要に応じてスイッチ35dを押すことにより、連動操作部35による流量調節ローラ20の押圧を解除することができるため、蓋部33を開いた状態で装置本体31に対するローラクランプRCの着脱操作等の種々の操作を行える。さらに、ローラクランプRCが装置本体31内に収容されているため、輸液装置30の作動中にローラクランプRCを誤動作することが防止される。
【0041】
また、本発明に係るローラクランプおよびそれを備えた輸液装置は、前述した実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、可撓片16d,17dの上部における対向する部分をそれぞれ外部側から内部側に向かって下り傾斜になった傾斜面で構成することもできる。これによると、支持軸部22の調節用ガイド溝部16a,17aから係合凹部16c,17cへの移動がスムーズになる。また、前述した連動操作部35に代えて、棒部材を直線上で往復移動させることによって流量調節ローラ20に対して進退させる機構を用いてもよいし、それ以外の機構を用いてもよい。さらに、フィンガー部34aを蓋部33に設けて、プレート部34bを設置部32に設けてもよい。
【0042】
また、解除操作部としてスイッチ35dを用いるのではなく、別途、設置面32aの表面に軸部35aに連結された解除レバーを設けてもよい。この解除レバーとしては、蓋部33が開いているときに手動により操作され、カム35bの先端部を設置用凹部32bから後退させることのできる構成を備えたものにすることができる。この解除レバーは、カム35bの先端部を設置用凹部32bから後退させるときには、独立して操作され、カム35bの先端部を設置用凹部32b内に前進させるときには、蓋部33が開く動作に連動して作動するようにすることが好ましい。
【0043】
すなわち、解除レバーの操作は、蓋部33が一旦閉じたのちに再度開き、スイッチ35dがオン状態になってカム35bの先端部が、設置用凹部32b内に向かって突出するときに解除されるようにする。さらに、前述した実施形態では、液体を薬液としたが、この液体としては、患者に供給する医療用の液体であれば何でもよく、例えば、栄養剤や血液でもよい。また、本発明に係るローラクランプおよび輸液装置は、前述した部分以外の部分の構成についても、本発明の技術的範囲で適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0044】
10…クランプ本体、11…底部、12,13…側壁部、16,17…ガイド溝、16a,17a…調節用ガイド溝部、16b…停止用ガイド溝部、16c,17c…係合凹部、16d,17d…可撓片、20…流量調節ローラ、21…ローラ部、22…支持軸部、30…輸液装置、31…装置本体、32…設置部、32a…設置面、32b…設置用凹部、33…蓋部、34…ポンプ、34a…フィンガー部、34b…プレート部、35…連動操作部、35d…スイッチ、36…ローラ駆動部、RC…ローラクランプ、T…チューブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ内を流れる液体の流量を調節したりその液体の流れを停止したりするローラクランプにおいて、
一方から他方に延びる底部と、前記底部の長手方向に沿った両縁部から互いに対向して延びる一対の側壁部とを備えたクランプ本体と、
前記一対の側壁部の対向する面に形成され、前記底部との間隔が一方から他方に向って徐々に狭くなるようして前記底部の長手方向に沿って延びる調節用ガイド溝部と、前記調節用ガイド溝部の一方の端部から前記底部側に向かって延びる停止用ガイド溝部と、前記一対の停止用ガイド溝部における前記底部側の端部から前記一対の側壁部の他方に向かって延びる係合凹部とからそれぞれなる一対のガイド溝と、
前記一対の側壁部に掛け渡され両端部が前記一対のガイド溝に移動可能に支持された支持軸部と、前記支持軸部の軸方向の中心側に設けられ、前記支持軸部とともに前記一対のガイド溝に沿って移動することにより前記底部との間隔を変更するローラ部とからなる流量調節ローラと
を備えたことを特徴とするローラクランプ。
【請求項2】
前記チューブを前記底部の長手方向に沿わせて前記クランプ本体内を挿通させた状態で、前記支持軸部を前記一対の調節用ガイド溝部の一方の端部に位置させたときには前記チューブが全開し、前記支持軸部を、前記一対の調節用ガイド溝部の他方の端部または前記一対の停止用ガイド溝部の前記底部側の端部に位置させたときには前記チューブが前記流量調節ローラによって前記底部に押圧されて全閉するようにした請求項1に記載のローラクランプ。
【請求項3】
前記一対の側壁部におけるそれぞれ前記調節用ガイド溝部と前記係合凹部との間の部分を弾性変形可能な可撓片で構成し、前記支持軸部を前記一対の調節用ガイド溝部の一方の端部側に位置させた状態から前記流量調節ローラを前記底部側に押圧すると、前記可撓片が撓んで前記支持軸部が前記係合凹部内に入るようにした請求項1または2に記載のローラクランプ。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちのいずれか一つに記載のローラクランプを備えた輸液装置であって、
前記チューブを一方から他方に延ばした状態で前記ローラクランプが設置される設置部と、前記設置部における前記ローラクランプが設置される面を開閉する蓋部とを備えた装置本体と、
前記設置部と前記蓋部との対向する面に設けられ、前記チューブが当接するプレート部と、押圧する位置を変更しながら前記チューブを前記プレート部に順次押圧することにより前記チューブ内に液体を流す複数のフィンガーを備えたフィンガー部とからなるポンプと、
前記蓋部の開閉状態に連動して作動し、前記蓋部が開いた状態のときに前記一対の停止用ガイド溝部の上部側に位置する前記流量調節ローラを前記底部側に押圧して前記チューブを全閉させ、前記蓋部が閉じた状態のときに前記流量調節ローラの押圧を解除する連動操作部と、
前記底部の他方の端部側に位置して前記チューブを閉塞している前記流量調節ローラを前記底部の一方の端部側に移動させて前記チューブを開かせるローラ駆動部と
を備えたことを特徴とする輸液装置。
【請求項5】
前記蓋部が開いた状態のときに前記連動操作部による前記流量調節ローラの押圧を解除する解除操作部を備えた請求項4に記載の輸液装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−45133(P2012−45133A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189099(P2010−189099)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000228888)日本コヴィディエン株式会社 (170)
【Fターム(参考)】