説明

ローラ式ヘミング加工装置

【課題】ヘミング装置1において、クランプに替わる固定手段により被ヘミング材2を下型4に固定することができるようにして、クランプ固定に伴う各種の短所を解消する。
【解決手段】ヘミング装置1によれば、下型4の載置面12には被ヘミング材2の周縁3に沿うように複数の開口部15が設けられている。そして、開口部15には、被ヘミング材2を下方に向けて吸引する吸引具16が配されている。これにより、従来のクランプに替わり、吸引具16により被ヘミング材2を下型4に固定することができる。このため、固定手段としての吸引具16が存在する周縁部位をローラが通過する際に、吸引具16による固定を解除する必要がなくなるので、従来のクランプ固定に伴う各種の短所を解消することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアパネルやフードパネル等の周縁をヘミング加工するローラ式ヘミング加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のドアパネルやフードパネルのような板状部材を被ヘミング材とし、この被ヘミング材の周縁(以下、被ヘミング材周縁と略して呼ぶことがある)をヘミング加工するローラ式ヘミング加工装置(以下、ヘミング装置と略して呼ぶことがある)が公知となっている。
【0003】
従来のヘミング装置は、被ヘミング材が載置される下型と、下型に載置された被ヘミング材の周縁を転圧して折り曲げるローラと、被ヘミング材周縁を下型に固定する固定手段とを備え、下型は、被ヘミング材の下面に面接触する載置面を有する。また、ローラは、例えば、ロボットアームの先端に装着され、ロボットアームの動作が制御されてローラの移動軌跡が制御される。
【0004】
そして、被ヘミング材は、下型の載置面上に載置され、外周側から複数のロケータに当接されるとともに上方からプレッシャパッドにより当接されて位置決めされる。さらに、被ヘミング材の位置決め後、被ヘミング材周縁は、固定手段としての複数のクランプにより載置面に強固に固定されてから、ローラの転圧を受けてヘミング加工される(例えば、特許文献1〜3参照)。また、ローラによる転圧は、複数回の予備曲げと、最終的な本曲げとに分けて行われる。
【0005】
ところで、複数のクランプは、被ヘミング材周縁に略均等に配され、各々のクランプのアーム先端部は、被ヘミング材周縁の外周側から振り込まれて周縁端を上方で越えて被ヘミング材周縁の上面に圧接する。このため、ヘミング加工時には、クランプのアーム等とローラやロボットアームとの立体的干渉を避ける必要があり、クランプによる固定部位では、ローラ等が通過するたびにクランプによる固定解除および再固定が繰り返される。
【0006】
そして、被ヘミング材の位置決め工程におけるロケータの動作およびプレッシャパッドの動作、被ヘミング材周縁の転圧曲げ工程におけるローラの移動軌跡、ならびにクランプによる固定解除および再固定は、全て自動化されている。すなわち、ヘミング装置は、周知のマイクロコンピュータを含む制御手段を備えており、載置面上に投入された被ヘミング材を、予めプログラミングされた制御プログラムに従って自動的に加工するように設けられている。そして、制御プログラムは、ロケータ、プレッシャパッド、ローラおよびクランプ等が協調して動作するようにプログラミングされている。
【0007】
しかし、被ヘミング材周縁においてクランプのアーム先端が圧接する部位は、クランプによる固定が解除されて下型の載置面から浮き上がった状態でローラの転圧を受ける。このため、ヘミング加工の更なる精度向上には、このような転圧時の浮き上がりを防止する必要がある。
【0008】
また、加工サイクルの短縮化に対する要求が強く、この加工サイクル短縮の観点からクランプによる固定解除および再固定を見直す要請が高い。すなわち、クランプによる固定解除および再固定は、制御手段からの固定解除および再固定のための制御信号の出力、およびクランプのアクチュエータによるこれらの制御信号の入力を待って実行される。このため、ローラの移動速度を大きくすることができず、加工サイクルは長いものとなっている。
【0009】
また、ヘミング加工の制御プログラムの構築においてプログラミング作業の時間短縮の要請が高まっており、クランプによる固定解除および再固定を制御プログラムに組み込む煩雑さを緩和する要求が高い。すなわち、ローラとクランプとが立体的に干渉しないで協調して動作するように制御プログラムを組み立てる必要があり、このような協調を確実に支障なく実現するために、クランプによる固定解除および再固定を制御プログラムに組み込む作業は煩雑なものとなっている。
【0010】
さらに、クランプは、固定解除および再固定が繰り返されることから、回転の軸受け部における摩耗が進行しやすい。このため、軸受け部には、特殊な素材を用いたり、ブッシュを挿入したりする等、耐久性を高める様々な工夫が施されているので、クランプは高コストになっている。
以上のような事情の下で、ローラ式ヘミング加工装置ではクランプに替わる別の固定手段が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−23763号公報
【特許文献2】特開平6−297046号公報
【特許文献3】特開平8−197149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、ローラ式ヘミング加工装置において、クランプに替わる固定手段により被ヘミング材を下型に固定することができるようにして、クランプ固定に伴う各種の短所(ローラ通過時の浮き上がり、加工サイクルの長時間化、プログラミング作業の煩雑さ、および固定手段の早期摩耗等)を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載のローラ式ヘミング加工装置は、板状の被ヘミング材が載置される下型と、下型に載置された被ヘミング材の周縁を転圧して折り曲げるローラとを備える。また、下型は、被ヘミング材の下面に面接触する載置面を有し、載置面には、各々に吸引具が配される複数の開口部が設けられている。そして、複数の開口部は、被ヘミング材が載置面に載置されたときに、被ヘミング材により上方が覆われるとともに被ヘミング材の周縁に沿うように設けられ、被ヘミング材は、吸引具により下方に吸引される。
【0014】
これにより、被ヘミング材を複数の吸引具により下方に吸引することで下型に固定することができるので、クランプに替わる固定手段として吸引具を利用することができる。
また、固定手段としての吸引具が被ヘミング材周縁の下側に配されるので、固定手段(吸引具)とローラやロボットアームとが立体的に干渉しなくなる。このため、固定手段としての吸引具が存在する部位をローラが通過する際に吸引具による固定を解除する必要がなくなり、ローラの移動速度を大きくすることができる。
【0015】
さらに、複数の開口部は被ヘミング材周縁に沿うように設けられているため、複数の吸引具は被ヘミング材周縁に沿って分散配置され、被ヘミング材の全周縁は、複数の吸引具により均等に下方に吸引されて偏りなく強固に下型に固定される。このため、吸引具による固定が解除されない限り、被ヘミング材の全周縁は、偏りなく極めて強固に載置面に固定され続ける。
【0016】
以上により、クランプに替わる固定手段として吸引具を利用することができるとともに、ローラの移動軌跡に関わらず固定手段(吸引具)による固定を解除する必要がなくなり、ローラの移動速度を大きくすることができる。さらに、吸引具による固定を解除しない限り、被ヘミング材の全周縁を偏りなく極めて強固に載置面に固定し続けることができる。
この結果、クランプ固定に伴う各種の短所(ローラ通過時の浮き上がり、加工サイクルの長時間化、プログラミング作業の煩雑さ、および固定手段の早期摩耗等)を解消することができる。
【0017】
さらに、固定手段の早期摩耗の解消に関して、固定手段に吸引具を採用することから、従来のクランプのように回転の軸受け部が不要となって軸受け部の耐久性を高めるための工夫も不要となる。このため、固定手段の低コスト化を達成できる。
【0018】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載のローラ式ヘミング加工装置によれば、吸引具は、被ヘミング材の下面に吸着するパッドを有するバキュームパッドである。
これにより、吸引具として安価な汎用品であるバキュームパッドを用いることができるので、固定手段の更なる低コスト化を達成できる。
【0019】
〔請求項3の手段〕
請求項3に記載のローラ式ヘミング加工装置によれば、開口部の開口周縁は、パッドが被ヘミング材の下面に吸着したときに、パッドを保持してパッドが横方向にずれるのを阻止できるように設けられている。
これにより、パッドは、吸着に適したゴム等の高弾性の素材により設けられていても、自身の弾性により変形したり横方向にずれたりしなくなる。このため、パッドに吸着された被ヘミング材は、ローラにより周縁が転圧されても横方向にずれなくなるので、ヘミング加工の精度がさらに向上する。
【0020】
〔請求項4の手段〕
請求項4に記載のローラ式ヘミング加工装置は、ローラを複数備え、複数のローラを、各々、保持する複数のロボットアームを備える。そして、複数のロボットアームは、各々、保持するローラが被ヘミング材の周縁上の異なる部位に着地して転圧を開始するように制御される。
ローラの移動軌跡に関わらず固定手段(吸引具)による固定を解除する必要がなくなることから、複数のローラによって被ヘミング材周縁の異なる部位を同時に転圧する複数部位同時転圧のプログラミングが簡易になる。このため、複数部位同時転圧によりヘミング加工を行うようにすることで、加工サイクルを更に短縮することができる。
【0021】
〔請求項5の手段〕
請求項5に記載のローラ式ヘミング加工装置は、載置面上の被ヘミング材の周縁に外周側から当接して、被ヘミング材の位置決めをする複数のロケータを備え、載置面の外周側に、ローラが被ヘミング材の周縁を転圧する際に転がりながら接触するガイド面を形成している。そして、ロケータは、被ヘミング材の周縁をローラにより転圧する際に、自身の上端縁がガイド面と同一面をなすように、かつ、被ヘミング材の位置決めをする際に、自身の上端縁がガイド面よりも上方に突出するように制御される。
【0022】
これにより、ローラは、ガイド面上を転がりながら被ヘミング材周縁を転圧して折り曲げることができる。このため、転圧中のローラの回転や移動が安定するので、ヘミング加工を更に高精度に行うことができる。
また、ロケータによりヘミング加工前の被ヘミング材の位置決めを確実に行うことができるとともに、位置決め後に不要となるロケータをローラの移動軌跡から後退させ、ローラを円滑に移動させることができる。
【0023】
〔請求項6の手段〕
請求項6に記載のローラ式ヘミング加工装置によれば、ローラは、被ヘミング材の周縁を転圧するための円筒状の転圧面、および、ローラの回転軸に対し、転圧面よりも外周側に鍔状に膨出してガイド面上を転がるフランジ部を有する。また、フランジ部は、転圧面を有するローラ本体に対して着脱自在となるように設けられている。
【0024】
これにより、フランジ部とガイド面との当接を維持することによって、ローラを移動軌跡に従って正確に移動させることができるとともに、フランジ部のガイド面に対する傾斜角度を安定的に可変して被ヘミング材周縁の曲げ角度を高精度に調整することができる。また、被ヘミング材周縁を適度な丸みを有するようにヘミング加工することができる。
【0025】
さらに、フランジ部をローラ本体に対して着脱自在に設けることで、転圧面に対するフランジ部の膨出量を可変することができる。このため、被ヘミング材周縁の厚さ等に応じてフランジ部の膨出量を可変することで、被ヘミング材周縁のヘミング加工を最適に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ローラ式ヘミング加工装置の全体図である(実施例1)。
【図2】(a)は下型の平面図であり、(b)は下型に被ヘミング材を位置決めした状態を示す平面図である(実施例1)。
【図3】下型への吸引具の組み込み、および、ロケータの動作を示す断面図である(実施例1)。
【図4】吸引具の要部を示す片側断面図である(実施例1)。
【図5】ローラによる被ヘミング材の周縁の転圧を示す断面図である(実施例1)。
【図6】ローラ式ヘミング加工装置の要部全体図である(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
第1の実施形態のローラ式ヘミング加工装置は、板状の被ヘミング材が載置される下型と、下型に載置された被ヘミング材の周縁を転圧して折り曲げるローラとを備える。また、下型は、被ヘミング材の下面に面接触する載置面を有し、載置面には、各々に吸引具が配される複数の開口部が設けられている。そして、複数の開口部は、被ヘミング材が載置面に載置されたときに、被ヘミング材により上方が覆われるとともに被ヘミング材の周縁に沿うように設けられ、被ヘミング材は、吸引具により下方に吸引される。
【0028】
また、吸引具は、被ヘミング材の下面に吸着するパッドを有するバキュームパッドであり、開口部の開口周縁は、パッドが被ヘミング材の下面に吸着したときに、パッドを保持してパッドが横方向にずれるのを阻止できるように設けられている。
【0029】
また、ローラ式ヘミング加工装置は、載置面上の被ヘミング材の周縁に外周側から当接して、被ヘミング材の位置決めをする複数のロケータを備え、載置面の外周側に、ローラが被ヘミング材の周縁を転圧する際に転がりながら接触するガイド面を形成している。そして、ロケータは、被ヘミング材の周縁をローラにより転圧する際に、自身の上端縁がガイド面と同一面をなすように、かつ、被ヘミング材の位置決めをする際に、自身の上端縁がガイド面よりも上方に突出するように制御される。
【0030】
さらに、ローラは、被ヘミング材の周縁を転圧するための円筒状の転圧面、および、ローラの回転軸に対し、転圧面よりも外周側に鍔状に膨出してガイド面上を転がるフランジ部を有する。また、フランジ部は、転圧面を有するローラ本体に対して着脱自在となるように設けられている。
【0031】
第2の実施形態のローラ式ヘミング加工装置は、ローラを複数備え、複数のローラを、各々、保持する複数のロボットアームを備える。そして、複数のロボットアームは、各々、保持するローラが被ヘミング材の周縁上の異なる部位に着地して転圧を開始するように制御される。
【実施例】
【0032】
〔実施例1の構成〕
実施例1のローラ式ヘミング加工装置1(以下、ヘミング装置1と呼ぶ)の構成を、図1を用いて説明する。
ヘミング装置1は、車両のドアパネルやフードパネルのような板状部材を被ヘミング材2とし、その周縁3を折り曲げ加工(ヘミング加工)するものである。
【0033】
ヘミング装置1は、被ヘミング材2が載置される下型4と、被ヘミング材2の周縁3を転圧して折り曲げるローラ5と、ローラ5を保持するロボットアーム6と、ロボットアーム6等の動作を制御する制御手段7とを備える。
ここで、ロボットアーム6の先端には、ローラ5を回転自在に支持するローラ支持部9が設けられている。そして、ローラ支持部9内には、例えば、コイルスプリング、油圧シリンダまたはサーボモータのように、ローラ5から周縁3に作用する転圧力を調節することができる転圧力調節手段(図示せず)が内蔵されている。
【0034】
下型4は、被ヘミング材2の下面11に面接触する載置面12を有する。ここで、載置面12は下面11の形状に合わせて設けられ、通常、被ヘミング材2の一形態に対して1つの下型4が設けられる。
【0035】
制御手段7は、制御機能および演算機能を有するCPU、ROMやRAMのような各種の記憶装置、入力装置、および出力装置を有する周知のマイクロコンピュータを含むように構成されている。そして、制御手段7から出力される制御信号に基づいてモータ、エアシリンダ等のアクチュエータ13が動作することで、ロボットアーム6の動作が制御されてローラ5の軌跡が三次元的に制御される。
【0036】
〔実施例1の特徴〕
実施例1のヘミング装置1の特徴を、図面に基づいて説明する。
実施例1のヘミング装置1によれば、図2に示すように、下型4の載置面12には複数の開口部15が設けられている。そして、全ての開口部15は、被ヘミング材2が載置面12に載置されたときに、被ヘミング材2により上方が覆われるとともに被ヘミング材2の周縁3に沿うように設けられている。また、各々の開口部15には吸引具16が配され、被ヘミング材2は、吸引具16により下方に吸引される。
【0037】
吸引具16は、例えば、図3、図4に示すように、被ヘミング材2の下面11に吸着するゴム製のパッド17、吸引通路19を形成する金属製のパイプ20等を有するバキュームパッドである。そして、吸引具16は、真空発生装置22の作動により吸引通路19を介してパッド17の内面と下面11との間に形成される空間を減圧することで被ヘミング材2を下方に吸引する。
【0038】
ここで、複数の開口部15は被ヘミング材2の周縁3に沿うように設けられているため(図2参照)、複数の吸引具16は周縁3に沿って分散配置され、周縁3の全周は、真空発生装置22の作動によって複数の吸引具16により均等に下方に吸引されて偏りなく強固に下型4に固定される。このため、吸引具16による固定が解除されない限り、周縁3の全周は、偏りなく極めて強固に載置面12に固定され続ける。
【0039】
以上により、被ヘミング材2を複数の吸引具16により下方に吸引することで下型4に固定することができるので、各々の吸引具16を、被ヘミング材2を下型4に固定する固定手段として機能させることができる。
【0040】
なお、パイプ20の外周面には雄ネジが設けられており、下型4には吸引具16を取り付けるための取付板27が設けられている。そして、吸引具16は、パイプ20の雄ネジにナット28、29を螺合させてナット28、29により取付板27を挟み込むことで下型4に取り付けられている。
また、パッド17の形状は、例えば、内周および外周がベローズをなすとともに、吸着縁30が平面視で円形をなす。このため、パッド17は、下面11の被吸着部位が様々な曲面状であっても柔軟に変形して吸着することができる(図3参照)。
【0041】
また、パッド17の外周ベローズの最下周面31は略円錐テーパ状に設けられている。また、開口部15の載置面12側の開口周縁32は、載置面12から下方に窪んでおり、最下周面31に面接触することができるように円錐テーパ状に設けられている(図4参照)。これにより、パッド17が被ヘミング材2の下面11に吸着したときに、最下周面31は開口周縁32にテーパ状に面接触して密着する。このため、パッド17は、ゴムのような高弾性の素材により設けられていても、開口周縁32により強固に保持されるので、自身の弾性により変形したり横方向にずれたりしなくなる。
【0042】
また、ヘミング装置1は、被ヘミング材2の周縁3に外周側から当接して被ヘミング材2の横方向の位置決めをする複数のロケータ35、上方から被ヘミング材2に当接して被ヘミング材2の上下方向の位置決めをするプレッシャパッド36を備える(図2、図3参照)。そして、ロケータ35およびプレッシャパッド36による位置決め後、真空発生装置22が作動して吸引具16により被ヘミング材2の周縁3が強固に載置面12に固定される。
【0043】
なお、プレッシャパッド36には、下方に突出するピン37が装備されており、ピン37が被ヘミング材2のピン穴38に挿入されることで、被ヘミング材2に対するプレッシャパッド36の相対配置が定まる。
【0044】
また、ヘミング装置1は、図2、図5に示すように、載置面12の外周側に、ローラ5が被ヘミング材2の周縁3を転圧する際に転がりながら接触するガイド面40を有する。ここで、ローラ5は、被ヘミング材2の周縁3を転圧するための円筒状の転圧面41、および、ローラ5の回転軸に対して転圧面41よりも外周側に鍔状に膨出するフランジ部42を有する。そして、ローラ5は、フランジ部42がガイド面40上を転がることで、ガイド面40上を転がるとともに周縁3を転圧する。
【0045】
また、フランジ部42は、転圧面41を有するローラ本体43に対して着脱自在となるように設けられている。すなわち、ローラ5は、例えば、円筒状のローラ本体43に、円板状のフランジ部42がネジ等により締結されて設けられている。
【0046】
また、ロケータ35は、被ヘミング材2の位置決めをする際に、自身の上端縁44がガイド面40よりも上方に突出するように制御され(図3参照)、被ヘミング材2の周縁3をローラ5により転圧する際に、自身の上端縁44がガイド面40と同一面をなすように制御される。すなわち、ロケータ35は、制御手段7からの指令に応じて動作するエアシリンダ等のアクチュエータ45を有し、アクチュエータ45の動作に応じて上端縁44を上方に突出させたり、下方に後退させたりする。
【0047】
なお、上端縁44の下側には、上端縁44が下方に後退したときに下型4に係合する係合縁46が設けられている。そして、係合縁46が下型4に係合することで、上端縁44は、フランジ部42の通過により下方に向かって押圧されても下方に後退せず、ガイド面40と同一面を維持することができる。
【0048】
〔実施例1の加工工程〕
実施例1のヘミング装置1による被ヘミング材2の加工工程を説明する。
被ヘミング材2の加工工程は、主に、被ヘミング材2を載置面12上において位置決めする位置決め工程と、位置決めされた被ヘミング材2の周縁3を転圧してヘミング加工する転圧曲げ工程とを含んでなる。
【0049】
また、被ヘミング材2の加工工程は、載置面12上への被ヘミング材2の投入、および載置面12上からの被ヘミング材2の取出しを含めて全工程が自動化されており、制御手段7からの指令により、ロボットアーム6のアクチュエータ13、真空発生装置22、ロケータ35のアクチュエータ45、およびプレッシャパッド36のアクチュエータ(図示せず)等が動作することで実行される。なお、載置面12上への被ヘミング材2の投入、および載置面12上からの被ヘミング材2の取出しは、作業員の手作業により行うようにしてもよい。
【0050】
位置決め工程は、主に、ロケータ35およびプレッシャパッド36により実行される。すなわち、載置面12上に被ヘミング材2が投入されると、ロケータ35の上端縁44が上方に突出して被ヘミング材2が横方向に位置決めされる。さらに、プレッシャパッド36が上方から被ヘミング材2に当接して被ヘミング材2が上下方向に位置決めされる。
【0051】
転圧曲げ工程は、主に吸引具16とローラ5により実行される。すなわち、被ヘミング材2の位置決めが終了すると、真空発生装置22が動作して被ヘミング材2の周縁3が吸引具16により載置面12に強固に固定される。また、ロケータ35の上端縁44が下方に後退してガイド面40と同一面になる。
【0052】
そして、ローラ5の転圧面41が被ヘミング材2の周縁3に着地するように、かつ、フランジ部42がガイド面40に着地するようにロボットアーム6が動作する。そして、ロボットアーム6は、ローラ5が所定の移動軌跡に従って移動するように制御される。この間、フランジ部42はガイド面40上を転がり、転圧面41は周縁3に対して曲げ作用を及ぼしながら転がって、周縁3のヘミング加工を行う。
【0053】
〔実施例1の効果〕
実施例1のヘミング装置1によれば、下型4の載置面12には複数の開口部15が設けられ、各々の開口部15に吸引具16が配されている。そして、全ての開口部15は、被ヘミング材2が載置面12に載置されたときに、被ヘミング材2により上方が覆われるとともに被ヘミング材2の周縁3に沿うように設けられ、被ヘミング材2は、吸引具16により下方に吸引される。
【0054】
これにより、被ヘミング材2を吸引具16により下方に吸引することで下型4に固定することができるので、クランプに替わる固定手段として吸引具16を利用することができる。
また、固定手段としての吸引具16が周縁3の下側に配されるので、固定手段(吸引具16)とローラ5やロボットアーム6とが立体的に干渉しなくなる。このため、固定手段としての吸引具16が存在する部位をローラ5が通過する際に吸引具16による固定を解除する必要がなくなり、ローラ5の移動速度を大きくすることができる。
【0055】
さらに、全ての開口部15は被ヘミング材2の周縁3に沿うように設けられているため、吸引具16は周縁3に沿って分散配置され、周縁3の全周は、吸引具16により均等に下方に吸引されて偏りなく強固に下型4に固定される。このため、吸引具16による固定が解除されない限り、周縁3は偏りなく極めて強固に載置面12に固定され続ける。
【0056】
以上により、クランプに替わる固定手段として吸引具16を利用することができるとともに、ローラ5の移動軌跡に関わらず固定手段(吸引具16)による固定を解除する必要がなくなり、ローラ5の移動速度を大きくすることができる。さらに、吸引具16による固定を解除しない限り、被ヘミング材2の周縁3を偏りなく極めて強固に載置面12に固定し続けることができる。
【0057】
この結果、クランプ固定に伴う各種の短所(ローラ5の通過時の浮き上がり、加工サイクルの長時間化、プログラミング作業の煩雑さ、および固定手段の早期摩耗等)を解消することができる。
【0058】
さらに、固定手段の早期摩耗の解消に関して、固定手段に吸引具16を採用することから、従来のクランプのように回転の軸受け部が不要となって軸受け部の耐久性を高めるための工夫も不要となる。このため、固定手段の低コスト化を達成できる。
【0059】
また、吸引具16は、被ヘミング材2の下面11に吸着するパッド17を有するバキュームパッドである。
これにより、吸引具16として安価な汎用品であるバキュームパッドを用いることができるので、固定手段の更なる低コスト化を達成できる。
【0060】
また、開口部15の開口周縁32は、パッド17が被ヘミング材2の下面11に吸着したときに、パッド17を保持してパッド17が横方向にずれるのを阻止できるように設けられている。
これにより、パッド17は、吸着に適したゴム等の高弾性の素材により設けられていても、自身の弾性により変形したり横方向にずれたりしなくなる。このため、パッド17に吸着された被ヘミング材2は、ローラ5により周縁3が転圧されても横方向にずれなくなるので、ヘミング加工の精度をさらに向上することができる。
【0061】
ヘミング装置1は、載置面12の外周側に、ローラ5が被ヘミング材2の周縁3を転圧する際に転がりながら接触するガイド面40を形成している。
これにより、転圧中のローラ5の回転や移動が安定するので、ヘミング加工を更に高精度に行うことができる。
【0062】
また、ヘミング装置1は、載置面12上の被ヘミング材2の周縁3に外周側から当接して、被ヘミング材2の位置決めをする複数のロケータ35を備える。そして、ロケータ35は、被ヘミング材2の周縁3をローラ5により転圧する際に、自身の上端縁44がガイド面40と同一面をなすように、かつ、被ヘミング材2の位置決めをする際に、自身の上端縁44がガイド面40よりも上方に突出するように制御される。
【0063】
これにより、ヘミング加工前の被ヘミング材2の位置決めを確実に行うことができるとともに、位置決め後に不要となるロケータ35をローラ5の移動軌跡から後退させ、ローラ5を円滑に移動させることができる。
【0064】
また、ローラ5は、被ヘミング材2の周縁3を転圧するための円筒状の転圧面41、および、ローラ5の回転軸に対して転圧面41よりも外周側に鍔状に膨出するフランジ部42を有し、フランジ部42がガイド面40上を転がる。
【0065】
これにより、フランジ部42とガイド面40との当接を維持することによって、ローラ5を移動軌跡に従って正確に移動させることができるとともに、フランジ部42のガイド面40に対する傾斜角度を安定的に可変して被ヘミング材2の周縁3の曲げ角度を高精度に調整することができる。さらに、周縁3を適度な丸みを有するようにヘミング加工することができる。
【0066】
また、フランジ部42は、転圧面41を有するローラ本体43に対して着脱自在となるように設けられている。
これにより、転圧面41に対するフランジ部42の膨出量を可変することができる。このため、被ヘミング材2の周縁3の厚さ等に応じてフランジ部42の膨出量を可変することで、周縁3のヘミング加工を最適に行うことができる。
【0067】
〔実施例2〕
実施例2のヘミング装置1は、図6に示すように、複数のロボットアーム6を備え、各々のロボットアーム6が先端にローラ支持部9を有してローラ5を保持する。そして、複数のロボットアーム6は、各々、保持するローラ5が被ヘミング材2の周縁3上の異なる部位に着地して転圧を開始するように制御される。
【0068】
吸引具16により下方から被ヘミング材2の周縁3を載置面12に固定できることから、ローラ5の移動軌跡に関わらず吸引具16による固定を解除する必要がなくなる。これにより、複数のローラ5によって周縁3の異なる部位を同時に転圧する複数部位同時転圧のプログラミングが簡易になる。このため、ヘミング装置1に複数のロボットアーム6を装備して各々のロボットアーム6にローラ5を保持させ、複数部位同時転圧によりヘミング加工を行うようにすることで、加工サイクルを更に短縮することができる。
【0069】
〔変形例〕
実施例のヘミング装置1によれば、パッド17の形状は、内周および外周がベローズをなすとともに、吸着縁30が平面視で円形をなしていたが、パッド17の形状については、「被ヘミング材2の周縁3の全周が強固に載置面12に固定される」、および「ローラ5による転圧中でも被ヘミング材2が横方向にずれない」という作用効果を奏する限り、実施例の態様に限定することなく種々の態様を採用することができる。
【0070】
また、開口周縁32についても、「ローラ5による転圧中でも被ヘミング材2が横方向にずれない」という作用効果を奏する限り、実施例の態様に限定することなく種々の態様を採用することができる。
【0071】
実施例のヘミング装置1によれば、吸引具16はバキュームパッドであったが、「クランプ固定に伴う各種の短所(ローラ5の通過時の浮き上がり、加工サイクルの長時間化、プログラミング作業の煩雑さ、および固定手段の早期摩耗等)を解消することができる」という作用効果を奏する限り、実施例の態様に限定することなく種々の態様を採用することができる。
【0072】
例えば、磁石を含むように吸引具16を構成し、磁石の吸引力により被ヘミング材2を吸引するようにしてもよい。さらに、真空による吸引力、磁石による吸引力以外の吸引力を発揮する機器、部材等を吸引具16に採用してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 ヘミング装置(ローラ式ヘミング加工装置)
2 被ヘミング材
3 周縁
4 下型
5 ローラ
6 ロボットアーム
11 下面
12 載置面
15 開口部
16 吸引具
17 パッド
32 開口周縁
35 ロケータ
40 ガイド面
41 転圧面
42 フランジ部
43 ローラ本体
44 上端縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の被ヘミング材が載置される下型と、この下型に載置された前記被ヘミング材の周縁を転圧して折り曲げるローラとを備えるローラ式ヘミング加工装置において、
前記下型は、前記被ヘミング材の下面に面接触する載置面を有し、
この載置面には、各々に吸引具が配される複数の開口部が設けられ、
この複数の開口部は、前記被ヘミング材が前記載置面に載置されたときに、前記被ヘミング材により上方が覆われるとともに前記被ヘミング材の周縁に沿うように設けられ、
前記被ヘミング材は、前記吸引具により下方に吸引されることを特徴とするローラ式ヘミング加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のローラ式ヘミング加工装置において、
前記吸引具は、前記被ヘミング材の下面に吸着するパッドを有するバキュームパッドであることを特徴とするローラ式ヘミング加工装置。
【請求項3】
請求項2に記載のローラ式ヘミング加工装置において、
前記開口部の開口周縁は、前記パッドが前記被ヘミング材の下面に吸着したときに、前記パッドを保持して前記パッドが横方向にずれるのを阻止できるように設けられていることを特徴とするローラ式ヘミング加工装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の内のいずれか1つに記載のローラ式ヘミング加工装置において、
前記ローラを複数備え、
複数の前記ローラを、各々、保持する複数のロボットアームを備え、
この複数のロボットアームは、各々、保持する前記ローラが前記被ヘミング材の周縁上の異なる部位に着地して転圧を開始するように制御されることを特徴とするローラ式ヘミング加工装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の内のいずれか1つに記載のローラ式ヘミング加工装置において、
前記載置面上の前記被ヘミング材の周縁に外周側から当接して、前記被ヘミング材の位置決めをする複数のロケータを備え、
前記載置面の外周側に、前記ローラが前記被ヘミング材の周縁を転圧する際に転がりながら接触するガイド面を形成し、
前記ロケータは、前記被ヘミング材の周縁を前記ローラにより転圧する際に、自身の上端縁が前記ガイド面と同一面をなすように、かつ、前記被ヘミング材の位置決めをする際に、自身の上端縁が前記ガイド面よりも上方に突出するように制御されることを特徴とするローラ式ヘミング加工装置。
【請求項6】
請求項5に記載のローラ式ヘミング加工装置において、
前記ローラは、前記被ヘミング材の周縁を転圧するための円筒状の転圧面、および、前記ローラの回転軸に対し、前記転圧面よりも外周側に鍔状に膨出して前記ガイド面上を転がるフランジ部を有し、
このフランジ部は、前記転圧面を有するローラ本体に対して着脱自在となるように設けられていることを特徴とするローラ式ヘミング加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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