説明

ロールイン用油脂組成物

【課題】焼成直後から長期保管後まで、硬くカリカリした食感が持続する層状ベーカリー製品を得ることのできるロールイン用油脂組成物、該ロールイン用油脂組成物の製造方法、及び、該ロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー製品を提供すること。
【解決手段】ロールイン用油脂組成物に粉粒状ゼラチンを含有させる。該ロールイン用油脂組成物は、加熱溶解した油相中に、粉粒状ゼラチンを添加、分散後、冷却・可塑化する方法、あるいは、可塑性油脂組成物に対し、粉粒状ゼラチンを添加し、混合する方法によって製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成直後から長期保管後まで、硬くカリカリした食感が持続する層状ベーカリー製品を得ることのできるロールイン用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ロールイン用油脂組成物は、デニッシュ・ペーストリー、クロワッサン、パイ等の層状ベーカリー製品の製造に使用され、その性質が最終製品である層状ベーカリー製品の性状に大きく影響する。ロールイン用油脂組成物は、生地の間に挟み込まれ、折り畳み、圧延を繰り返し生地中に薄い油脂層を多数作り、この油脂層が小麦粉生地層の相互の付着を防止し、焼成中、生地から発生する水蒸気や炭酸ガスの発散を遮り、この結果として製品を層状に膨張させフレーキーなテクスチャーを付与する。焼成中、層状に折り込まれた油脂は、最終的に溶けて生地に吸収され、その生地は、生地中の澱粉が糊化し、蛋白質が熱変性することによって凝固し、独特の層状構造が形成される。
この層状構造の形成には、ロールイン用油脂組成物の油脂量、折り数、油脂の硬さ等が密接に関係している。
【0003】
従来、わが国においては、層状ベーカリー製品においてもソフトな食感のものが求められていたが、最近は、オーブンフレッシュベーカリーをはじめ、ホールセールにおいても、硬くカリカリした食感を呈する層状ベーカリー製品が好まれるようになってきている。
【0004】
一般的に層状ベーカリー製品に硬くカリカリした食感を付与するには焼成品の水分を減らせばよく、ベーカリー生地の水分含量を減らすか、低温長時間焼成により水分を飛ばす方法が行なわれるが、ベーカリー生地の水分含量を減らす方法では、ベーカリー生地の伸展性が悪化し、縮みが大きく、形状の安定した層状ベーカリー製品が得られないことに加え、経日的にヒキの強い食感になってしまう問題があり、低温長時間焼成により水分を飛ばす方法では、焼成に長時間を要するため製造効率が悪いことに加え、食感も脆くなり、さらには脆く損壊しやすい層状ベーカリー食品となってしまう問題があった。
【0005】
そこで、ベーカリー生地の水分調整や低温長時間焼成などに頼らずとも、硬くカリカリした食感の層状ベーカリー製品を得るためのロールイン用油脂組成物が各種開発されてきた。例えば、エタノールを含有する油中水型ロールイン用油脂組成物(例えば特許文献1参照)、システイン等の還元剤及び/又はカルボン酸を含有するロールイン用油脂組成物(例えば特許文献2参照)、モノグリセリド有機酸エステルを含有するロールイン用油脂組成物(例えば特許文献3参照)、デキストリンを含有する油中水型乳化組成物(例えば特許文献4参照)が提案されてきた。
【0006】
しかし、特許文献1に記載された方法は、単にロールイン用油脂組成物中の水を減らしたのと同等の効果しかなく、カリカリ感の向上効果は極めて弱いものであった。また、特許文献2に記載された方法は、食感が脆くなってしまう問題があった。さらに特許文献3に記載の方法は、モノグリセリド有機酸エステルは油溶性であるため、添加量あたりの食感改良効果が十分なものではなく、効果を高めるために該乳化剤の添加量を増やすと、乳化剤の風味が感じられてしまう問題があった。そして、特許文献4に記載の方法は、表面のカリカリ感は改良されるものの、内部がソフトな食感のまま残ってしまい、経日的に全体がソフトな食感となってしまう問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平10−229820号公報
【特許文献2】特開2001−045969号公報
【特許文献3】特開2000−253816号公報
【特許文献4】特開2005−034138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、焼成直後から長期保管後まで、硬くカリカリした食感が持続する層状ベーカリー製品を得ることのできるロールイン用油脂組成物、該ロールイン用油脂組成物の製造方法、及び、該ロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、ゼラチンを、ロールイン用油脂組成物の水相の増粘安定剤としてではなく、粉粒状の形態のままロールイン用油脂組成物中に存在させることで、上記問題を解決可能であることを知見した。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、粉粒状ゼラチンを含有することを特徴とするロールイン用油脂組成物を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、加熱溶解した油相中に、粉粒状ゼラチンを添加、分散後、冷却・可塑化することを特徴とするロールイン用油脂組成物の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、可塑性油脂組成物に対し、粉粒状ゼラチンを添加し、混合することを特徴とするロールイン用油脂組成物の製造方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、上記ロールイン用油脂組成物を用いた層状ベーカリー製品を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、焼成直後から長時間保管後まで、硬くカリカリした食感を有し、且つ、硬く損壊しにくい層状ベーカリー製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のロールイン用油脂組成物について詳細に説明する。
【0015】
本発明のロールイン用油脂組成物は、粉粒状ゼラチンを含有する。即ち、本発明のロールイン用油脂組成物は、ゼラチンを、水相の増粘剤やゲル化剤として含有するのではなく、粉粒状の形態のままで含有する。ここで、粉粒状とは、平均粒径が1μm〜5mmの粉末〜顆粒状のものであればよいが、好ましくは平均粒径が10μm〜1mmの粉末状、より好ましくは平均粒径が50μm〜1mmの粉末状であることが好ましい。
【0016】
上記粉粒状ゼラチンを構成するゼラチンとしては、その由来は特に制限されず、豚や牛などに由来する、食品一般に使用されるゼラチンを使用することができるが、低分子のゼラチンよりも高分子のゼラチンの方が、よりカリカリ感の強いベーカリー食品が得られる点で好ましく、その好ましい平均分子量は好ましくは10,000〜80,000、より好ましくは50,000〜80,000である。
【0017】
尚、食品一般に使用されるゼラチンの水分含量は10〜20質量%程度であるが、本発明のロールイン用油脂組成物は、上記粉粒状ゼラチンを膨潤した状態で含有するものであってもよい。ここで言う膨潤状態とは、ゼラチンを添加分散させた水を加熱溶解した後、冷却して得られる均質なゲル状態又は均質なゾル状態ではなく、粉粒状の形態を残した状態であることを指す。ゼラチンを均質なゲル状態又は均質なゾル状態で油脂組成物中に含有させる、即ち、ゼラチンを水相の増粘剤やゲル化剤として使用すると、ゼラチンを粉粒状の形態のまま使用する本発明のような、硬くカリカリした食感の層状ベーカリー食品は得られない。
【0018】
また、膨潤状態である粉粒状ゼラチンにおける、その水分含量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。水分含量が70質量%を超えると、水分が多いベーカリー生地に使用した場合、硬くカリカリした食感の層状ベーカリー食品が得られないおそれがある。
【0019】
本発明のロールイン用油脂組成物の粉粒状ゼラチン含量は、水分を除いた固形分として、好ましくは3〜20質量%、より好ましくは5〜10質量%である。粉粒状ゼラチンの含量が3質量%未満であると、水分が多いベーカリー生地に使用した場合に、硬くカリカリした食感の層状ベーカリー食品が得られないおそれがあり、20質量%を超えると、ざらついた食感の層状ベーカリー食品となるおそれがある。
【0020】
本発明のロールイン用油脂組成物における水分含量は、上記粉粒状ゼラチンに含有される水分と併せ、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。水分含量が10質量%を超えると、ロールイン用油脂組成物の保存性が悪化するおそれがあり、また、水分が多いベーカリー生地に使用した場合、硬くカリカリした食感の層状ベーカリー食品が得られないおそれもある。
【0021】
また、本発明のロールイン用油脂組成物に使用する油脂としては特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0022】
本発明のロールイン用油脂組成物における油分含量は、70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは75質量%以上95質量%以下、さらに好ましくは80質量%以上95質量%以下である。油分含量が70質量%未満であると、ロールイン用油脂組成物としての良好な伸展性が得られないおそれがあり、結果として良好な層状構造が得られないおそれがある。
【0023】
本発明のロールイン用油脂組成物に含有させることができるその他の成分としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル・グリセリン有機酸脂肪酸エステル・ソルビタン脂肪酸エステル・ショ糖脂肪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステル・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル・プロピレングリコール脂肪酸エステル・ステアロイル乳酸カルシウム・ステアロイル乳酸ナトリウム・ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド・レシチン・リゾレシチン等の乳化剤、カラギーナン・アルギン酸類・ペクチン・キサンタンガム・結晶セルロース・カルボキシメチルセルロース・寒天・グルコマンナン・澱粉・化工澱粉等の増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸・乳酸・グルコン酸等の酸味料、牛乳・れん乳・脱脂粉乳・ホエーパウダー・バター・クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・発酵乳等の乳や乳製品、ホエー蛋白・カゼイン等の乳蛋白、糖類や糖アルコール類、ステビア・アスパルテーム等の甘味料、β―カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0024】
本発明のロールイン用油脂組成物において、上記その他の成分の使用量は、それらの成分の使用目的等に応じて適宜選択することができ、特に制限されるものではないが、好ましくはロールイン用油脂組成物中に合計で50質量%以下とする。
【0025】
本発明のロールイン用油脂組成物は、その形状に関して、シート状、ブロック状、円柱状、直方体等の形状としてもよい。各々の形状についての好ましいサイズは、シート状:縦50〜1000mm、横50〜1000mm、厚さ1〜50mm、ブロック状:縦50〜1000mm、横50〜1000mm、厚さ50〜500mm、円柱状:直径1〜25mm、長さ5〜100mm、直方体:縦5〜50mm、横5〜50mm、高さ5〜100mmである。
【0026】
以下に、本発明のロールイン用油脂組成物の製造方法について、その好ましい実施形態に基づき説明する。
【0027】
好ましい第1の製造方法としては、加熱溶解した油相中に、粉粒状ゼラチンを添加、分散後、必要に応じ殺菌した後、冷却・可塑化させることにより、上述した本発明のロールイン用油脂組成物を製造する方法を挙げることができる。
【0028】
尚、上記第1の製造方法において、膨潤状態の粉粒状ゼラチンを含むロールイン用油脂組成物を得る場合は、予め予備水和工程を経て膨潤状態とした粉粒状ゼラチンを使用してもよいが、予備水和工程を経ることなく、未膨潤状態の粉粒状ゼラチンを、加熱溶解した油相中に添加し、混合した後に、水相を添加して予備乳化し、更に必要に応じ殺菌した後、冷却・可塑化させることにより製造する方法に拠ることが、粉粒状ゼラチンをロールイン用油脂組成物中に均等に分散可能な点、及び、より良好な食感が得られる点で好ましい。
【0029】
また、好ましい第2の製造方法としては、マーガリン、ショートニング、ラード等の可塑性油脂組成物に対し、粉粒状ゼラチンを添加し、混合することにより、上述した本発明のロールイン用油脂組成物を製造する方法を挙げることができる。
【0030】
上記第2の製造方法においては、粉粒状ゼラチンの添加、混合は、可塑性油脂組成物を加温・調温して、やや流動性を生じる温度としてから行ってもよく、また、可塑性油脂組成物製造ラインの、冷却・可塑化させる工程に連続して添加工程を設け、やや流動性を有する温度となってから行ってもよい。
【0031】
尚、上記第2の製造方法において、膨潤状態の粉粒状ゼラチンを含むロールイン用油脂組成物を得る場合は、予め予備水和工程を経て膨潤状態とした粉粒状ゼラチンを使用してもよいが、予備水和工程を経ることなく、未膨潤状態の粉粒状のゼラチンを、水相を含有する可塑性油脂組成物に対して添加し、混合する方法に拠ることが、粉粒状ゼラチンをロールイン用油脂組成物中に均等に分散可能な点、及び、より良好な食感が得られる点で好ましい。
【0032】
本発明の製造方法においては、上記殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
また、上記冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等の油脂組成物製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
さらに、本発明のロールイン用油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させても、させなくても構わない。
【0033】
以下に、本発明の層状ベーカリー製品について説明する。
本発明の層状ベーカリー製品は、上述した本発明のロールイン用油脂組成物を使用して得られる、デニッシュ・ペーストリー、クロワッサン、パイ等の、積層状の外観を呈し、硬くカリカリした食感を有するベーカリー食品である。
【0034】
本発明の層状ベーカリー製品における上記ロールイン用油脂組成物の使用量は、ベーカリー生地に使用する穀粉類100質量部に対し、好ましくは30〜130質量部、より好ましくは50〜100質量部である。
【0035】
また、本発明の層状ベーカリー製品の層数は、目的とする製品により異なるものであり、特に限定されるものではないが、好ましくは9〜144層、より好ましくは16〜64層である。また、この層状ベーカリー製品は、さらに、チョココーティングや、グレーズ、バタークリーム、マヨネーズなどをサンド、トッピングするなどの装飾を施してもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等制限されるものではない。
【0037】
〔実施例1〕
パームステアリンのランダムエステル交換油と、パームオレインのランダムエステル交換油とを、20/80の重量比で配合した混合油95質量%を融解し、レシチン0.5質量%及びグリセリンモノステアリン酸エステル0.5質量%、香料0.1質量%、ミックストコフェロール0.01質量%を溶解混合した油相中に、粉粒状ゼラチン(平均粒径50μm・水分含量13質量%)4質量%を添加、分散させた油相を、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、水分含量が0.5質量%である、厚さ10mm、幅230mm、長さ450mmのシート状のロールイン用油脂組成物1を得た。
【0038】
〔実施例2〕
パームステアリンのランダムエステル交換油と、パームオレインのランダムエステル交換油とを、20/80の重量比で配合した混合油95質量%を融解し、レシチン0.5質量%及びグリセリンモノステアリン酸エステル0.5質量%、香料0.1質量%、ミックストコフェロール0.01質量%を溶解混合した油相を、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、20℃まで冷却したところで、粉粒状ゼラチン(平均粒径50μm・水分含量13質量%)4質量%を添加、混合し、水分含量が0.5質量%である、厚さ10mm、幅230mm、長さ450mmのシート状のロールイン用油脂組成物2を得た。
【0039】
〔実施例3〕
実施例1で使用した粉粒状ゼラチン4質量%に代えて、水6重量%に粉粒状ゼラチン4質量%を添加して20分膨潤させた粉粒状ゼラチン(平均粒径200μm・水分含量60質量%)10質量%を使用し、混合油を95質量%から89質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、水分含量が6質量%である、厚さ10mm、幅230mm、長さ450mmのシート状のロールイン用油脂組成物3を得た。
【0040】
〔実施例4〕
実施例2で使用した粉粒状ゼラチン4質量%に代えて、水6質量%に粉粒状ゼラチン4質量%を添加して20分膨潤させた粉粒状ゼラチン(平均粒径200μm・水分含量60質量%)10質量%を使用し、混合油を95質量%から89質量%に変更した以外は実施例2と同様にして、水分含量が6質量%である、厚さ10mm、幅230mm、長さ450mmのシート状のロールイン用油脂組成物4を得た。
【0041】
〔実施例5〕
パームステアリンのランダムエステル交換油と、パームオレインのランダムエステル交換油とを、20/80の重量比で配合した混合油89質量%を融解し、レシチン0.5質量%及びグリセリンモノステアリン酸エステル0.5質量%、香料0.1質量%、ミックストコフェロール0.01質量%を溶解混合した油相中に、粉粒状ゼラチン(平均粒径50μm・水分含量13質量%)4質量%を添加、分散させた油相に、水6質量%を添加して、混合・乳化した予備乳化物を、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、水分含量が6.5質量%である、厚さ10mm、幅230mm、長さ450mmのシート状のロールイン用油脂組成物5を得た。
【0042】
〔実施例6〕
パームステアリンのランダムエステル交換油と、パームオレインのランダムエステル交換油とを、20/80の重量比で配合した混合油89質量%を融解し、レシチン0.5質量%及びグリセリンモノステアリン酸エステル0.5質量%、香料0.1質量%、ミックストコフェロール0.01質量%を溶解混合した油相に、水6質量%を添加して、混合・乳化した予備乳化物を、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、20℃まで冷却したところで、粉粒状ゼラチン(平均粒径50μm・水分含量13質量%)4質量%を添加、混合し、水分含量が6.5質量%である、厚さ10mm、幅230mm、長さ450mmのシート状のロールイン用油脂組成物6を得た。
【0043】
〔比較例1〕
実施例1で使用した粉粒状ゼラチンを無添加とし、混合油を95質量%から99質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、水分を含有しない、厚さ10mm、幅230mm、長さ450mmのシート状のロールイン用油脂組成物7を得た。
【0044】
〔比較例2〕
実施例1で使用した粉粒状ゼラチン4質量%に代えてキサンタンガム(平均粒径50μm・水分含量12質量%)0.5質量%を使用し、混合油を95質量%から98.5質量%に変更した以外は実施例1と同様にして、水分含量が0.6質量%である、厚さ10mm、幅230mm、長さ450mmのシート状のロールイン用油脂組成物8を得た。
【0045】
〔比較例3〕
パームステアリンのランダムエステル交換油と、パームオレインのランダムエステル交換油とを、20/80の重量比で配合した混合油78質量%を融解し、レシチン0.5質量%及びグリセリンモノステアリン酸エステル0.5質量%、香料0.1質量%、ミックストコフェロール0.01質量%を溶解混合した油相に、粉粒状ゼラチン(平均粒径50μm・水分含量13質量%)4質量%を水17質量%に添加後60℃に加温して完全に溶解して均質化した水相21質量%を添加、予備乳化後、−30℃/分の冷却速度で急冷可塑化し、水分含量が17.5質量%である、厚さ10mm、幅230mm、長さ450mmの板状の厚さ10mm、幅230mm、長さ450mmのシート状のロールイン用油脂組成物9を得た。
【0046】
(ベーカリー試験)
実施例1〜6及び比較例1〜3で得られたロールイン用油脂組成物1〜9を用いて、下記配合と製法によりパイをそれぞれ製造し、ロールイン時の作業性(油脂伸展性)、焼成したパイの食感を下記評価基準により比較評価した。その結果を下記表1に示した。
【0047】
<パイの配合>
強力粉 70 質量部
薄力粉 30 質量部
食塩 1.3質量部
砂糖 2 質量部
脱脂粉乳 3 質量部
練り込み油脂(マーガリン) 5 質量部
水 54 質量部
ロールイン用油脂組成物 80 質量部
【0048】
<パイの製法>
ロールイン用油脂組成物以外の原料を竪型ミキサーにて低速2分及び中速3分ミキシングした後、5℃の冷蔵庫内で生地を一晩リタードした。この生地にロールイン用油脂組成物をのせ、定法によりロールイン(3つ折3回)し、3mmまで圧延し、ピケローラーでピケをうった後、成型(縦20mm×横30mm×厚さ3mm)し、焼成した。
【0049】
<ロールイン時の油脂伸展性の評価基準>
◎ :コシがあり、非常に良好である
○ :良好である
△ :若干油脂切れが起こるか、生地に練込まれる傾向があり、やや不良である
× :油脂切れが起こるか、生地に練込まれ、不良である
【0050】
<パイの食感(カリカリ感)の評価基準>
◎+ :硬く、カリカリ感が極めて優れている
◎ :硬く、カリカリ感が優れている
◎− :硬く、カリカリ感が良好である
〇+ :カリカリ感が良好である
〇− :やや脆いが、カリカリ感が良好である
△ :ソフトでややヒキのある食感である
× :ソフトでヒキのある食感である
×× :ソフトでヒキの強い食感である
【0051】
【表1】

【0052】
上記表1からわかるように、粉粒状ゼラチンを含有する実施例1〜6のロールイン用油脂組成物を使用して得られたパイは、油脂伸展性、並びに焼成1時間後及び焼成3日後の食感(カリカリ感)が共に大変良好であった。
特に、実施例1と実施例2、実施例3と実施例4、実施例5と実施例6をそれぞれ比較するとわかるように、可塑性油脂組成物に対し、粉粒状ゼラチンを添加し、混合して得られたロールイン用油脂組成物を使用して得られたパイは、油相中に粉粒状ゼラチンを添加、分散して得られたロールイン用油脂組成物を使用して得られたパイに比べ、よりカリカリ感が良好であった。
これに対し、ゼラチンを含有しない比較例1のロールイン用油脂組成物を使用して得られたパイは、焼成1時間後の食感もソフトでカリカリ感に乏しく、焼成3日後になると、ヒキが強い食感になってしまっていた。
また、粉粒状ゼラチンに代えて増粘多糖類を使用した比較例2のロールイン用油脂組成物を使用して得られたパイは、ソフトでヒキのある食感であり、カリカリ感は乏しかった。
また、粉粒状ゼラチンではなく、水相の増粘安定剤としてゼラチンを使用した比較例3のロールイン用油脂組成物を使用して得られたパイは、油脂伸展性が悪く、また、焼成1時間後、焼成3日後の食感は、ソフトでややヒキのある食感であり、カリカリ感は乏しかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉粒状ゼラチンを含有することを特徴とするロールイン用油脂組成物。
【請求項2】
粉粒状ゼラチンの水分含量が70質量%以下であることを特徴とする請求項1記載のロールイン用油脂組成物。
【請求項3】
加熱溶解した油相中に、粉粒状ゼラチンを添加、分散後、冷却・可塑化することを特徴とするロールイン用油脂組成物の製造方法。
【請求項4】
可塑性油脂組成物に対し、粉粒状ゼラチンを添加し、混合することを特徴とするロールイン用油脂組成物の製造方法。
【請求項5】
粉粒状ゼラチンを、予備水和工程を経ることなく、又は予備水和工程を経て膨潤状態とした後に、添加することを特徴とする請求項3又は4記載のロールイン用油脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載のロールイン用油脂組成物を使用したことを特徴とする層状ベーカリー製品。


【公開番号】特開2007−124910(P2007−124910A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317970(P2005−317970)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】