説明

ロール偏芯除去方法及びロール偏芯除去制御装置

【課題】非圧延時においてロール偏芯を解析するとともに、圧延時におけるロール偏芯の解析をも加味してロール偏芯を除去する。
【解決手段】非圧延時においてロール偏芯を解析してロール偏芯除去制御値Aを設定し、圧延時においては、当初は制御値Aに基づきロール偏芯除去制御を実行し、その後所定の期間を超えたときには、圧延機で測定されるバックアップロール対の回転角度、圧延荷重およびワークロール間の距離と板厚計にて測定される鋼板の板厚実績値とに基づいて、圧延しつつロール偏芯を解析してロール偏芯除去制御値Cを設定して当該設定したロール偏芯除去制御値Cを制御に反映する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックアップロール対およびワークロール対を有する圧延機において、ロール偏芯を除去する方法及びロール偏芯除去制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のロール偏芯除去方法では、非圧延時に、所定の荷重をかけてワークロール対を接触させ、キスロール状態として圧延機の運転を行ない、ワークロール対およびバックアップロール対の回転時の荷重変動をフーリエ級数展開することでロール偏芯を解析し、各周波数における振幅および位相から算出したデータに基づいて、圧下設定値の修正を実施している(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたロール偏芯除去方法では、ワークロール対を接触させたキスロール状態とする必要があるため、非圧延時のロール偏芯の解析結果に基づいたロール偏芯除去は可能なものの、圧延時におけるロール偏芯の解析結果に基づいたロール偏芯の除去はできないという問題点があった。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、非圧延時においてロール偏芯を解析するとともに、圧延時におけるロール偏芯の解析をも加味してロール偏芯を除去することのできるロール偏芯除去方法およびロール偏芯除去制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、非圧延時においてロール偏芯を解析するとともに、圧延時においては、圧延機で測定されるバックアップロール対の回転角度、圧延荷重およびワークロール問の距離と板厚計にて測定される鋼板の板厚実績値とに基づいて、圧延しつつロール偏芯を解析して所定時のロール偏芯除去制御値を設定し、当該設定したロール偏芯除去制御値を制御に反映するものである。
【0006】
すなわち、本発明のうち第一の発明は、一対のバックアップロールの問に設けられたワークロール対の間で鋼板を圧延する圧延機において前記バックアップロール対のロール偏芯を除去する方法であって、非圧延時に、前記ワークロール対を接触させたキスロール状態で前記圧延機を運転し、前記バックアップロール対を所定回転数だけ回転させて前記バックアップロール対の一回転区間毎の荷重変動をフーリエ解析するオフラインロール偏芯解析工程と、圧延時に、前記圧延機で測定される前記バックアップロール対の回転速度、圧延荷重およびロールギャップから求まる設定板厚と、板厚計で測定される鋼板の板厚実績値とに基づいて、前記バックアップロール対の一回転区間毎の設定板厚と実績板厚との誤差を随時にフーリエ解析するオンラインロール偏芯解析工程とを含み、前記圧延機が圧延を開始した直後から所定の期間は、前記オフラインロール偏芯解析工程での解析結果を用いて偏芯除去制御を行い、前記所定の期間を超えたときには前記オンラインロール偏芯解析工程での随時の解析結果を用いて偏芯除去制御を行うことを特徴とする。
【0007】
第一の発明に係るロール偏芯の解析方法によれば、非圧延時においてロール偏芯を解析するとともに、圧延時におけるロール偏芯をも随時に解析することができる。これにより、非圧延時においてロール偏芯を解析し、その結果を使用して圧延開始時からロール偏芯除去制御を実行できるため、圧延開始直後に顕著に現れるロール偏芯の影響を抑制することができる。そして、その後、圧延時において所定の期間を超えたときに、圧延時におけるロール偏芯の随時の解析結果に基づき、ロール偏芯の影響を抑制することができるため、圧延しつつロール偏芯を解析することで、バックアップロールとワークロールとの間のすべりによるロール偏芯の経時変化および非定常的な外的要因によるロール偏芯の変化にも対応することができる。
【0008】
ここで、第一の発明に係るロール偏芯の解析方法において、前記所定の期間は、前記オフライン偏芯解析工程でのフーリエ解析の結果にゲインを掛けて圧延経過とともにロール偏芯除去制御値を減衰させていき、これにより減衰したロール偏芯除去制御値が、前記オンラインロール偏芯解析工程での随時の解析結果を下回るまでの期間であることは好ましい。このような構成であれば、非圧延時におけるロール偏芯の解析結果にゲインを掛けることで、圧延開始直後の偏熱しているロールの平熱化によるロール偏芯の経時変化に追従したロール偏芯除去制御を実施することができる。
【0009】
また、第一の発明に係るロール偏芯の解析方法において、前記オンライン偏芯解析工程での随時の解析結果を用いて行なわれる偏芯除去制御において、当該オンライン偏芯解析工程での随時のフーリエ解析の結果が所定値未満であった場合に、ロール偏芯除去制御値を零とすることは好ましい。このような構成であれば、測定データのノイズ等によるロール偏芯解析縮果の悪影響を低減することができる。つまり、予め解析精度を考慮して所定の閥値を設定し、測定されるデータのノイズ等によりロール偏芯の解析結果が悪化した際に、この閥値未満のロール偏芯除去制御値となる場合には、前記制御値を零とするので、逆制御となる可能性を低減することができる。
【0010】
さらに、本発明のうち第二の発明は、一対のバックアップロールの間に設けられたワークロール対の間で鋼板を圧延する圧延機において前記バックアップロール対のロール偏芯を除去するロール偏芯除去制御装置であって、非圧延時に、前記ワークロール対を接触させたキスロール状態で前記圧延機を運転し、前記バックアップロール対を所定回転数だけ回転させて前記バックアップロール対の一回転区間毎の荷重変動をフーリエ解析するオフラインロール偏芯解析手段と、圧延時に、前記圧延機で測定される前記バックアップロール対の回転速度、圧延荷重およびロールギャップから求まる設定板厚と、板厚計で測定される鋼板の板厚実績値とに基づいて、前記バックアップロール対の一回転区間毎の設定板厚と実績板厚との誤差を随時にフーリエ解析するオンラインロール偏芯解析手段とを有し、前記圧延機が圧延を開始した直後から所定の期間は、前記オフラインロール偏芯解析手段での解析結果を用いて偏芯除去制御を行い、前記所定の期間を超えたときには前記オンラインロール偏芯解析手段での随時の解析結果を用いて偏芯除去制御を行うことを特徽とする。第二の発明の作用効果は、上記第一の発明同様である。
【発明の効果】
【0011】
上述のように、本発明によれば、非圧延時においてロール偏芯を解析するとともに、圧延時におけるロール偏芯の解析をも加味してロール偏芯を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係るロール偏芯解析方法に基づいて圧下シリンダを制御する油圧圧下制御装置(本実施形態に係るロール偏芯除去制御装置の一実施例である)を備える圧延装置の概略構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係るロール偏芯解析処理を説明するフローチャートである。
【図3】オフラインロール偏芯解析工程のフローチャートである。
【図4】オフラインロール偏芯解析工程の各解析ステップでのサブルーチンを説明するフローチャートである。
【図5】相対位相差について説明するための図である。
【図6】本実施形態に係るロール偏芯解析処理を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1に示すように、この圧延装置10は、一対の上下バックアップロールB1,B2と、この上下バックアップロール対B1,B2の間に設けられた一対の上下ワークロールW1,W2とを備え、これら上下ワークロール対W1,W2の間で被圧延材(鋼板)を圧延可能となっている。上下ワークロール対W1,W2の近傍には、板厚計T8が設けられており、この板厚計18によって、被圧延材の板厚実績値が測定可能になっている。
【0014】
圧延装置10は、上バックアップロールB1に当接するようにロードセル11を有しており、このロードセル11により圧延荷重を測定するとともに電気信号に変換することで油圧圧下制御装置(偏芯除去装置)1に伝達している。この油圧圧下制御装置1は、下バックアップロールB2に当接する圧下シリンダ12に接続されるサーボ弁13に電気的に接続されている。この構成により、油圧圧下制御装置1からの信号に基づいて前記サーボ弁13の開度を調整し、圧下シリンダ12を動作させることでロール偏芯に起因する荷重変動を抑制するようになっている。
【0015】
また、上下バックアップロールB1,B2には、それぞれパルスジェネレータPG1,PG2が設けられている。このパルスジェネレータPG1,PG2によって、上下バックアップロールB1,B2の回転角度を計測可能となっている。
また、図1に示すように、油圧圧下制御装置1は、上下バックアップロールB1,B2の偏芯解析を行う解析演算部14と、この解析演算部14に電気的に接続される制御部(PLC)15と、前記圧下シリンダ12(サーボ弁13)の制御量を演算するシリンダ位置制御演算部16と、前記制御部15における操作パネルとしての機能と、解析結果を表示する表示部としての機能とを兼ねる操作部17とを備えている。
【0016】
ここで、解析演算部14は、図2に示すロール偏芯解析処理を実行する。以下、このロール偏芯解析処理について詳しく説明する。
本実施形態に係るロール偏芯解析処理は、まず、非圧延時に、図2のステップS11にて制御値Aを設定し、圧延開始からの所定期問は、この制御値Aに基づいてロール偏芯量を制御する。制御値Aの設定については、非圧延時に上下ワークロールW1,W2を一定の力で接触させてキスロール状態とし、この状態にて荷重変動をフーリエ級数展開することでロール偏芯解析(以下、オフラインロール偏芯解析とも称す)を実行している。
【0017】
ここで、本実施形態においても特許文献1に示される方法と同様の方法を採用して制御値Aの設定を行なった。つまり、連続的にオフラインロール偏芯解析を実行するのではなく、上下バックアップロールB1,B2の回転角度差をずらしたオフラインロール偏芯解析を何回かに分けて実行することにより高い精度で偏芯除去制御を行うものである。
本実施形態に係る油圧圧下制御装置1では、制御値Aの設定を行なうにあたり、図3に示すように、3回の解析を行なっている。
【0018】
より詳しくは、本実施形態に係る油圧圧下制御装置1は、キスロール状態で圧延機10の運転を行い、上下バックアップロールB1,B2を所定回数だけ回転させ,この上下バックアップロールB1,B2の1回転区間毎にフーリエ解析を行い、前記上下バックアップロールB1,B2における第一偏芯除去制御値を設定する(図3中、第一解析ステップS1参照)。所定回数とはロール偏芯除去制御を行った際に偏芯状態が収束するまでのバックアップロールの回転数を意味し、本実施形態では五回転に設定した。すなわち、上下バックアップロールB1,B2が五回転する間が第一解析ステップS1に相当する。
【0019】
第一解析ステップS1の準備段階として、前記制御部(PLC)15は、オフラインロール偏芯解析を行う際の目標荷重検出位置から一定量開した位置となるように圧下シリンダ12を、すなわちワークロールW1,W2の間に隙間ができるようにシリンダ位置制御演算部16を介しサーボ弁13を調整する。その後、上下バックアップロールB1,B2の回転角度差を記憶すると同時に、圧下シリンダ12を一定速度で目標荷重を検知するまで閉動作させる。このとき、以降の圧下シリンダ12を閉動作させるタイミング(オフラインロール偏芯解析時)となる回転角度差を計算し記憶しておく。
【0020】
上記第一解析ステップS1が開始すると、図4に示す解析サブルーチンがスタートする。
はじめに、解析演算部14は、上下バックアップロールB1,B2の一回転区問にフーリエ解析を行い、この解析結果に基づき上下バックアップロールB1,B2の偏芯補正を行う。
そして、解析演算部14から送られた1回転目の解析結果に基づき、シリンダ位置制御演算部16がサーボ弁13の開度を調整して圧下シリンダ12を動作させることでロール偏芯に起因する荷重変動を除去する制御を行う。続いて、上下バックアップロールB1,B2における二回転区間にフーリエ解析を行う。このとき、上下バックアップロールB1,B2は、1回転目のフーリエ解析に基づく偏芯除去補正が行われた状態となっている。
【0021】
すなわち、上下バックアップロールB1,B2の二回転目以降、前回転時の解析結果制御出力に対する制御残差が解析される。したがって、解析演算部14は、ロードセル11からの圧延荷重をフーリエ級数展開することでフーリエ係数演算を行う(工程F1)。
これにより、下式(1)〜(3)を求める。
【0022】
【数1】

【0023】
【数2】

【0024】
【数3】

【0025】
f(k)は、パルスジェネレータPG1,PG2のマーカーパルス出力時の荷重を基準としたときのパルスジェネレータPG1,PG2のサンプリングパルス出力タイミング毎の荷重変動である。マーカーパルスとは、パルスジェネレータPG1,PG2が1回転する毎に1パルスを出力するものである。また、式(1)〜(3)中における、Kはサンプリングパルスカウント(0,1,2〜M−1)を示し、Mはバックアップロールの分割数(本実施形態では256分割)を示し、Nは解析次数(本実施形態では、1〜3次)を示している。
続いて、上記式(2)、(3)で示されるan、bnを用い、パルスジェネレータPG1,PG2のマーカーパルスタイミング毎に学習計算を行い、下式(4)、(5)を求める(工程F2)。
【0026】
【数4】

【0027】
【数5】

【0028】
なお、式(4)、(5)中におけるαは学習ゲイン(1+制御部15からのゲイン)である。ここで、an、bnは前回の解析結果制御出力(前回の回転数時における偏芯補正)に対する制御残差を解析したものであるため、学習計算が進行するにしたがってan、bnは理想的に零となる。続いて、制御用解析値として下式(6)に示されるf′(k)を再現する(工程F3)。
【0029】
【数6】

【0030】
ここで、「(k)を再現するに先立ち、必要に応じてパルスジェネレータPG1,PG2からのサンプリングパルスカウンタから制御出力用回転角を求めるようにしてもよい。制御出カ用回転角は、圧下シリンダ12の応答に遅れが生じる場合があり、このような応答遅れ(位相遅れ)が生じると、遅れ量を考慮して制御出カ用回転角度の位相を進めておく必要があるからである。
【0031】
以上の工程により、上バックアップロールB1における上f′(k)が得られる。また、同様の演算プロセスにより下バックアップロールB2における下f′(k)を得ることができる。これら上f′(k)、及び下f′(k)を用いて、下式(7)に示される制御出カ(ギャップ修正量)を得ることができ、この制御出力に基づいて偏芯補正が行われる(工程F4)。なお、式(7)中、βは制御ゲインである。
【0032】
【数7】

【0033】
続いて、上下バックアップロールB1,B2の三回転時にフーリエ解析を行う。このとき、上下バックアップロールB1,B2は二回転時の解析結果制御出力(偏芯補正制御)に基づいて回転する。すなわち、三回転目におけるフーリエ解析は、二回転時における解析結果制御出力(偏芯補正制御)の制御残差を解析している。同様にして、上下バックアップロールB1,B2が五回転するまで上記工程F1〜F4を繰り返し、五回転終了時における第一偏芯除去制御値F1を解析演算部14内に保持することで解析サブルーチンが終了となる。
【0034】
このようにして指定回数のフーリエ解析が終了した後、第二解析ステップを行う。図3に示すように第二解析ステップS2は、上下バックアップロールB1,B2の相対位相を180度ずらす工程S2aと、指定回数分のフーリエ解析(図4に示した工程F1〜F4)を再度行い、フーリエ係数を修正(第一偏芯除去制御値を修正して第二偏芯除去制御値を設定)する工程S2bと、を含んでいる。
【0035】
第二解析ステップS2に続いて、第三解析ステップS3を行う。図3に示すように第三解析ステップS3は、上下バックアップロールB1,B2の相対位相を更に180度ずらす工程S3aと、指定回数分のフーリエ解析(図4に示した工程F1〜F4)を再度行い、フーリエ係数を修正(第二偏芯除去制御値を修正して第三偏芯除去制御値を設定)する工程S3bとを含んでいる。
【0036】
ここで、相対位相とはフーリエ解析における次数により規定されるものである。図5中、横軸における絶対位相差とはフーリエ解析の次数に依存しない、上下バックアップロールの位相差に対応するものである。また、同図中縦軸方向は、荷重変動の大きさに対応している。なお、絶対位相とは上下バックアップロールB1,B2の実績回転角度差を意味している。
【0037】
次に、図2のステップS14における制御値Cに基づく処理であって、本実施形態に係るロール偏芯解析処理において、圧延装置10の稼働後、所定時間(図2のステップS13参照(後述する))が経過した後の偏芯を除去するオンラインロール偏芯解析工程について説明する。
上記解析演算部14は、圧延時においては、上記圧延装置10のパルスジェネレータPG1,PG2によって測定されるバックアップロール対B1,B2の回転速度、ロードセル11により測定される圧延荷重およびロールギャップから求まる設定板厚と、板厚計18で測定される被圧延材の板厚実績値とに基づいて、バックアップロール対B1,B2の一回転区間毎の設定板厚と実績板厚との誤差を随時にフーリエ解析する(オンラインロール偏芯解析工程)。なお、このオンラインロール偏芯解析工程は、上述したバックアップロール対B1,B2の一回転区間毎の荷重変動をフーリエ解析する点に替えて、バックアップロール対B1,B2の一回転区問毎の設定板厚と実績板厚との誤差を随時にフーリエ解析する点以外は、上記詳述した非圧延時におけるオフラインロール偏芯解析工程同様であるため、解析ステップの詳細については説明を省略する。
【0038】
次に、この油圧圧下制御装置1の動作(処理のフローチャート)、およびこのロール偏芯除去制御方法の作用・効果について説明する。
図2に示したように、上記構成の油圧圧下制御装置1において、解析演算部14は、オフラインロール偏芯解析工程を実行するために、まず、非圧延時において、ワークロール対を接触させてキスロール状態にし、所定の荷重をかけて圧延機を運転し、荷重変動をフーリエ級数展開してロール偏芯除去制御値A(上述したオフラインロール偏芯解析工程での解析結果)を設定する。そして、圧延開始から所定の期問までは、この制御値Aに基づいてロール偏芯除去制御を実行する(図2のステップS11からステップS13が対応)。
【0039】
ここで、図6に示すように、圧延機10が圧延を開始した直後から所定の期間Tまでは、ロール偏芯除去制御値Aに基づいて偏芯除去制御を行う。この際、本実施形態では、ロール偏芯除去制御値Aにゲインを掛け、圧延経過とともにロール偏芯除去制御値Aを減衰させた。この所定の期間Tは、前記オフライン偏芯解析工程でのフーリエ解析の結果にゲインを掛けて圧延経過とともにロール偏芯除去制御値を減衰させていき、これにより減衰したロール偏芯除去制御値が、前記オンラインロール偏芯解析工程での随時の解析結果を下回るまでの期間である。
【0040】
つまり、圧延を開始すると、ロール偏熱の影響のため、ロール偏芯量は、圧延が進むにつれて減衰する傾向にある。そこで、図2に示すように、上記ロール偏芯除去制御値Aに制御ゲインBを乗じ、ロール偏芯量の減衰に対応させている(図2のステップS12)。
圧延開始後、解析演算部14は、一本目の鋼板には上記制御値Aにてロール偏芯除去制御を実行し、N本目の鋼板には制御値A×B^(N1−1)にてロール偏芯除去制御を実行する(図6参照)。
【0041】
さらに、圧延開始から前記所定の期間Tを超えたとき(図2のステップS13でのYes)、解析演算部14は、上記制御値Aに替えて、上述したオンラインロール偏芯解析工程での随時の解析結果である、ロール偏芯除去制御値Cを用いて偏芯除去制御を行う(図2のステップS14)。つまり、圧延時の測定データによる荷重変動をフーリエ級数展開してロール偏芯の解析を随時行なってロール偏芯除去制御値Cを設定し(ステップS14)、このロール偏芯除去制御値Cの逐次更新を実施しつつロール偏芯除去制御を実行する。
【0042】
この際、本実施形態では、解析演算部14で実行されるロール偏芯除去処理において、閥値Dを設定しておき、図6に示すように、この閥値D未満の制御量の場合(ステップS15でのYes)、つまり、前記オンライン偏芯解析工程での解析結果が所定値未満であった場合には(図6の符号Lの領域)、ロール偏芯除去制御値Cを「零」として偏芯除去制御を行い(ステップS16)、そうでないときは(ステップS15でのNo)、制御値Cを用いて偏芯除去制御を行う(ステップS17)。
【0043】
このように、この油圧圧下制御装置1によれば、非圧延時においてロール偏芯を解析し、その結果を使用することで圧延開始時からロール偏芯除去制御を実行することが可能であり、これにより、圧延開始直後に顕著に現れるロール偏芯の影響を抑制することができる。また、非圧延時におけるロール偏芯の解析結果AにゲインBを掛けることで、所定の期間Tまでの間、圧延開始直後の偏熱しているロールの平熱化によるロール偏芯の経時変化に追従したロール偏芯除去制御を実施することができる。
【0044】
そして、所定の期間Tを超えた後には、圧延時においても、圧延しつつロール偏芯を解析することで、バックアップロールB1,B2とワークロールW1,W2との間のすべりによるロール偏芯の経時変化および非定常的な外的要因によるロール偏芯の変化にも対応することができる。また、ロール偏芯除去制御値Cに閥値Dを設定することで、測定データのノイズ等によるロール偏芯解析結果の悪影響を低減することができる。
以上説明したように、この油圧圧下制御装置1およびロール偏芯除去制御方法によれば、非圧延時においてロール偏芯を解析するとともに、圧延時におけるロール偏芯の解析をも加味してロール偏芯を除去することができる。
【0045】
なお、本発明に係るロール偏芯除去制御方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、オフラインロール偏芯解析においては、特許文献1に示される方法と同様の方法を採用した例で説明したが、これに限定されず、非圧延時に、ワークロール対を接触させたキスロール状態で圧延機を運転し、バックアップロール対を所定回転数だけ回転させてバックアップロール対の一回転区間毎の荷重変動をフーリエ解析するものであれば、種々の形態とすることができる。また、オンラインロール偏芯解析工程において同様である。
【符号の説明】
【0046】
1 油圧圧下制御装置
10 圧延装置
11 ロードセル
12 圧下シリンダ
13 サーボ弁
14 解析演算部
15 制御部
16 シリンダ位置制御演算部
17 操作部
18 板厚計
B1,B2 上下バックアップロール対
W1,W2 上下ワークロール対
PG1,PG2 パルスジェネレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のバックアップロールの間に設けられたワークロール対の間で鋼板を圧延する圧延機において前記バックアップロール対のロール偏芯を除去する方法であって、
非圧延時に、前記ワークロール対を接触させたキスロール状態で前記圧延機を運転し、前記バックアップロール対を所定回転数だけ回転させて前記バックアップロール対の一回転区間毎の荷重変動をフーリエ解析するオフラインロール偏芯解析工程と、圧延時に、前記圧延機で測定される前記バックアップロール対の回転速度、圧延荷重およびロールギャップから求まる設定板厚と、板厚計で測定される鋼板の板厚実績値とに基づいて、前記バックアップロール対の一回転区間毎の設定板厚と実績板厚との誤差を随時にフーリエ解析するオンラインロール偏芯解析工程とを含み、
前記圧延機が圧延を開始した直後から所定の期間は、前記オフラインロール偏芯解析工程での解析結果を用いて偏芯除去制御を行い、前記所定の期問を超えたときには前記オンラインロール偏芯解析工程での随時の解析結果を用いて偏芯除去制御を行うことを特徴とするロール偏芯除去方法。
【請求項2】
前記所定の期間は、前記オフライン偏芯解析工程でのフーリエ解析の結果にゲインを掛けて圧延経過とともにロール偏芯除去制御値を減衰させていき、これにより減衰したロール偏芯除去制御値が、前記オンラインロール偏芯解析工程での随時の解析結果を下回るまでの期間であることを特徴とする請求項1に記載のロール偏芯除去方法。
【請求項3】
前記オンライン偏芯解析工程での随時の解析結果を用いておこなわれる偏芯除去制御において、当該オンライン偏芯解析工程での随時のフーリエ解析の結果が所定値未満であった場合に、ロール偏芯除去制御値を零とすることを特徴とする請求項1または2に記載のロール偏芯除去方法。
【請求項4】
一対のバックアップロールの間に設けられたワークロール対の間で鋼板を圧延する圧延機において前記バックアップロール対のロール偏芯を除去するロール偏芯除去制御装置であって、
非圧延時に、前記ワークロール対を接触させたキスロール状態で前記圧延機を運転し、前記バックアップロール対を所定回転数だけ回転させて前記バックアップロール対の一回転区間毎の荷重変動をフーリエ解析するオフラインロール偏芯解析手段と、圧延時に、前記圧延機で測定される前記バックアップロール対の回転速度、圧延荷重およびロールギャップから求まる設定板厚と、板厚計で測定される鋼板の板厚実績値とに基づいて、前記バックアップロール対の一回転区間毎の設定板厚と実績板厚との誤差を随時にフーリエ解析するオンラインロール偏芯解析手段とを有し、
前記圧延機が圧延を開始した直後から所定の期問は、前記オフラインロール偏芯解析手段での解析結果を用いて偏芯除去制御を行い、前記所定の期間を超えたときには前記オンラインロール偏芯解析手段での随時の解析結果を用いて偏芯除去制御を行うことを特徴とするロール偏芯除去制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−91097(P2013−91097A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236272(P2011−236272)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】