説明

ワイヤカッター

【課題】ワイヤのバリおよび変形を低減しつつワイヤを切断できるワイヤカッターを提供すること。
【解決手段】ワイヤカッターに第1把持手段と第2把持手段と切断手段とを設け、切断手段によってワイヤを切断する際に、第1把持手段および第2把持手段でワイヤを把持するとともに、第1把持手段によってワイヤを切断手段から離れる方向に引っ張る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射または溶接用のワイヤを切断するためのワイヤカッターに関する。
【背景技術】
【0002】
溶射または溶接用のワイヤは、使用時または使用前に所定の長さに切断する必要がある。ワイヤを切断する装置として、一般にはニッパーが用いられている。ニッパーは2つの刃部を持ち、ワイヤを2つの刃部で挟んで切断する。このため、ニッパーによって切断されたワイヤは、その切断部分が2つの刃部によって押し潰されて、尖端形状(所謂バリ)を生じる可能性がある。さらにこの場合には、ワイヤの切断部分のなかでバリ近傍の部分が盛り上がり、ワイヤが変形する可能性がある。バリや変形が生じたワイヤを溶射機または溶接機に挿入すると、ワイヤ通路やローラー等のワイヤ送り手段がバリ部分や変形部分によって損傷するおそれがある。ワイヤ送り手段が損傷すると、ワイヤの供給速度が変動する。ワイヤの供給速度が大きく変動すると、アークやワイヤの溶融速度が不安定になり、スパッタが発生して溶射品または溶接品の品質が低下するおそれがある。さらに、ワイヤの供給速度を一定に保つために、溶射機や溶接機におけるワイヤの通路部を樹脂で構成する技術もあるが、ワイヤのバリ部分や変形部分が樹脂製の通路部を傷つけ、通路部の耐久寿命が短くなる。
【0003】
断面半円形の刃部を用いれば、ワイヤの断面が丸くなり、上述したバリの発生を低減できると考えられる(例えば、特許文献1参照)。しかしこの場合にも、ワイヤの盛り上がり変形は抑制できない問題があった。
【特許文献1】特開2004−174245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、切断時におけるバリの発生および変形を低減しつつワイヤを切断できるワイヤカッターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するワイヤカッターは、溶射または溶接用のワイヤを切断するためのワイヤカッターであって、
該ワイヤの通路となるワイヤ通路部と、
該ワイヤ通路部を挟んで配置されている複数の第1把持部を持ち、該第1把持部が互いに近接する方向に移動して該ワイヤを把持する第1把持手段と、
該ワイヤ通路部の延びる方向に沿って該第1把持手段と離間し、該ワイヤ通路部を挟んで配置されている複数の第2把持部を持ち、該第2把持部が互いに近接する方向に移動して該ワイヤを把持する第2把持手段と、
該第1把持手段と該第2把持手段との間に配置されている少なくとも一つの刃部を持ち、該刃部の少なくとも一部が該ワイヤ通路部に露出する方向に移動して該ワイヤを切断する切断手段と、
該刃部と該第1把持部と該第2把持部とを駆動する駆動手段と、を持ち、
該駆動手段は、該刃部を該ワイヤ通路部に露出する方向に移動させるときに、該第1把持部を互いに近接する方向に移動させ、かつ該第2把持部を互いに近接する方向に移動させるとともに、該第1把持部を該刃部から離れる方向に移動させ、
該切断手段が該ワイヤを切断する際に、該第1把持手段は該ワイヤを把持するとともに該切断手段から離れる方向に引っ張ることを特徴とする。
【0006】
本発明のワイヤカッターは、下記の(1)〜(4)の何れかを備えるのが好ましく、(1)〜(4)の複数を備えるのがより好ましい。
【0007】
(1)前記刃部は、前記ワイヤ通路部の延びる方向に対して略直交する方向に配置されている整え面と、前記ワイヤ通路部の延びる方向に対して傾斜する方向に配置されている送り面とを持つ片刃状をなし、該送り面を該第1把持部側に向けている。
【0008】
(2)前記ワイヤ通路部の延びる方向において、前記刃部と前記第2把持部との距離は、前記刃部と前記第1把持部との距離よりも短い。
【0009】
(3)前記駆動手段と前記第1把持部との間に介在し、前記第1把持部が前記ワイヤを所定長さ引っ張ると、前記駆動手段から前記第1把持部に伝達される駆動力を遮断または低減する過負荷防止手段を持つ。
【0010】
(4)前記過負荷防止手段は弾性体からなる。
【発明の効果】
【0011】
図19(a)に示すように、一般的なワイヤカッター(ニッパー等)は、刃部226でワイヤ209を挟んで切断する。このときワイヤ209は、図19(b)に示すように、刃部226に押されて、刃部226の前方および後方にはみ出し変形する。そして、切断後のワイヤ209には図19(c)に示すバリ210が生じたり、変形211が生じたりする。
【0012】
これに対して、本発明のワイヤカッターによると、第1把持手段と第2把持手段とによってワイヤを把持しつつ、切断手段によってワイヤを切断する。特に、ワイヤを切断する際には、第1把持手段がワイヤを引っ張る。このため切断時において、ワイヤは刃部の近傍に溜まり難い。換言すると、本発明のワイヤカッターによると、ワイヤを刃部の近傍から除去しつつワイヤを切断する。このため、本発明のワイヤカッターによるとワイヤのバリおよび変形を低減できる。
【0013】
上記(1)を備える本発明のワイヤカッターによると、送り面によってワイヤの切断部分を第1把持部方向に送り出しつつ切断する。このため、ワイヤの変形部分は刃部の近傍により一層溜まり難く、整え面側(第2把持部側)のワイヤのバリ・変形をさらに低減できる。また、刃部が片刃状をなすため、ワイヤの切断部分のなかで第2把持部側の部分は変形し難い。このため、ワイヤの変形さらに抑制できる。
【0014】
上記(2)を備える本発明のワイヤカッターによると、刃部と第2把持部とを近接させることで、第2把持部側へのワイヤのはみ出しを抑制でき、整え面側のワイヤのバリ・変形をさらに低減できる。
【0015】
上記(3)を備える本発明のワイヤカッターは、第1把持部がワイヤを所定長さ引っ張ると、駆動手段から第1把持部に伝達される駆動力を過負荷防止手段によって遮断または低減できる。このため、第1把持部からワイヤに過大な力が加わることを抑制でき、第1把持部によるワイヤの過大な変形を抑制できる。このため、上記(3)を備える本発明のワイヤカッターによると、ワイヤを切断する際に生じるワイヤの変形をさらに信頼性高く抑制できる。
【0016】
上記(4)を備える本発明のワイヤカッターによると、過負荷防止手段を単純な構造にできるため、過負荷防止手段の動作の信頼性を向上させることができ、かつ、過負荷防止手段に要するコストを低減してワイヤカッターの製造コストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施例)
【0018】
以下、本発明のワイヤカッターを例を挙げて説明する。
【0019】
(実施例1)
実施例1のワイヤカッターは、上記(1)〜(4)を備える。実施例1のワイヤカッターを模式的に表す断面図を図1に示す。実施例1のワイヤカッターにおける主要部品を模式的に表す説明図を図2〜図7に示す。
【0020】
実施例1のワイヤカッターは、基部1と、第1把持手段2と、第2把持手段3と、駆動手段4と、切断手段5と、過負荷防止手段6と、を持つ。第1把持手段2は2つの第1把持部40を持つ。第2把持手段3は2つの第2把持部60を持つ。駆動手段4は、カッターガイド50と、カッター駆動ギヤ23と、操作部22と、入力ギヤ20と、従動ギヤ21と、引っ張り駆動ギヤ24と、伝達部30とを持つ。切断手段5は2つの刃部26を持つ。過負荷防止手段は弾性体からなる。
【0021】
図1に示すように、基部1は、ケース体10と蓋体11とを持つ。ケース体10は有底の略円筒状をなし、図1中後方に開口する。図2に示すように、蓋体11は略円板状をなす。蓋体11は、ケース体10に固定されてケース体10の開口を閉じる。蓋体11とケース体10の底部とには貫通孔12、13が形成されている。ケース体10の貫通孔12と蓋体11の貫通孔13とは、直線上に配置されている。この2つの貫通孔12、13は、ワイヤ通路部の一部を構成している。すなわち、ワイヤ9は蓋体11の貫通孔13を通ってケース体10の内部中空に挿通され、ケース体10の貫通孔12を通ってワイヤカッターの前方に露出する。
【0022】
図2に示すように、蓋体11には湾曲した2つの長孔14、15が形成されている。蓋体11の中心から長孔14、15の一端部(第1端部16と呼ぶ)までの距離は、蓋体11の中心から長孔14、15の他端部(第2端部17と呼ぶ)までの距離よりも長い。蓋体11はケース体10にネジ止めされている。
【0023】
図1に示すように、入力ギヤ20および従動ギヤ21は略同形の傘歯車状をなす。入力ギヤ20および従動ギヤ21は、ケース体10の周壁に形成されている2つの貫通孔にそれぞれ軸支され、ケース体10の内部中空に露出している。入力ギヤ20には、操作部22が取り付けられている。操作部22はハンドル状をなし、ケース体10の外部に露出している。操作部22と入力ギヤ20とは同軸的に一体化され、操作部22を回転させると入力ギヤ20が回転する。入力ギヤ20には、カッター駆動ギヤ23および引っ張り駆動ギヤ24が噛み合っている。従動ギヤ21にもまた、カッター駆動ギヤ23および引っ張り駆動ギヤ24が噛み合っている。
【0024】
図1に示すように、カッター駆動ギヤ23は入力ギヤ20および従動ギヤ21の後側に隣接している。図3に示すように、カッター駆動ギヤ23は略リング状をなす。カッター駆動ギヤ23の中心部(中空部分)はワイヤ通路部の一部を構成する。カッター駆動ギヤ23の後側周縁部には、入力ギヤ20および従動ギヤ21と噛み合う歯列(図略)が形成されている。したがってカッター駆動ギヤ23は、入力ギヤ20の回転に従動して回転する。カッター駆動ギヤ23には刃保持溝25が形成されている。刃保持溝25はカッター駆動ギヤ23の中心を通る溝状をなす。刃保持溝25には、2つの刃部26が保持されている。
【0025】
2つの刃部26は、それぞれ刃先を対面させつつ、刃保持溝25に保持されている。各刃部26は、刃保持溝25に対してスライド可能である。各刃部26は、整え面27と送り面28とを持つ片刃状をなす。整え面27は、前後方向(ワイヤ通路部の延びる方向)に対して略直交する方向に配置されている。送り面28は、前後方向に対して傾斜する方向に配置されている。各刃部26は、送り面28を後述する第1把持部40側に向けている。各刃部26の後面には、突条をなす切断入力部29が形成されている。切断入力部29は、後述するカッターガイド50のガイド溝55と噛み合っている。
【0026】
引っ張り駆動ギヤ24は、入力ギヤ20および従動ギヤ21の前側に配置されている。図6に示すように、引っ張り駆動ギヤ24は略リング状をなす。引っ張り駆動ギヤ24の前側周縁部には、入力ギヤ20および従動ギヤ21と噛み合う歯列(図略)が形成されている。したがって引っ張り駆動ギヤ24は、入力ギヤ20の回転に従動して回転する。なお、従動ギヤ21は、上述したカッター駆動ギヤ23の回転および引っ張り駆動ギヤ24の回転に従動して回転する。
【0027】
引っ張り駆動ギヤ24の内周面には、略リング状をなす伝達部30が取り付けられている。引っ張り駆動ギヤ24と伝達部30との間には、弾性体からなる過負荷防止手段6が取り付けられている。
【0028】
詳しくは、引っ張り駆動ギヤ24の中心部には4つのバネ装着孔32が形成されている。各バネ装着孔32は、引っ張り駆動ギヤ24の径方向に延び、互いに等間隔で配置されている。伝達部30の外周面には、4つのボール装着孔33が形成されている。各ボール装着孔33は、略半球の孔状をなし、それぞれ対応する各バネ装着孔32と対面している。過負荷防止手段6は、弾性部34と当接部35とからなる。弾性部34はつる巻きバネからなる。当接部35は略球状をなし弾性部34の一端部に取り付けられている。弾性部34はバネ装着孔32に収容されている。当接部35はボール装着孔33に収容されている。当接部35は、弾性部34の弾性によって伝達部30に圧接している。さらに、伝達部30の内周面には、引っ張り駆動部36が形成されている。引っ張り駆動部36は、螺旋状に延びる溝状をなす。
【0029】
図1に示すように、各第1把持部40は、カム41と、把持基部42と、カム付勢部材43とを持つ。図6に示すように、カム41は、略円筒状をなすカム本体部45と、カム本体部45から延びる2つのカム軸部46とを持つ。図1に示すように、カム軸部46とカム本体部45の中心軸とは、僅かに位置ズレしている。把持基部42は中空状をなす。把持基部42は、カム軸部46を軸支するとともに、内部にカム本体部45を収容する。把持基部42の外面には、湾曲した突条をなす引っ張り入力部47が形成されている。引っ張り入力部47は、伝達部30の引っ張り駆動部36と噛み合っている。カム付勢部材43はつる巻きバネからなる。カム付勢部材43の一端部は把持基部42の内面に固定されている。カム付勢部材43の他端部は、カム41を前方に付勢している。したがって、図1中上側に位置するカム41は、カム付勢部材43によって図1中反時計回りに付勢されている。また、図1中下側に位置するカム41は、カム付勢部材43によって図1中時計回りに付勢されている。
【0030】
図4に示すように、カッターガイド50は、略半円板状をなす2つのカッターガイド分体51からなる。2つのカッターガイド分体51は、弦に相当する部分(弦部52と呼ぶ)を互いに対面させ、かつ、円弧に相当する部分(弧部53と呼ぶ)を互いに背向させている。また、各カッターガイド分体51のなかで、カッターガイド50の中心に相当する部分は、略半円状に切り欠かれている。この切り欠かれた部分には、後述する第2把持部60が取り付けられる。各カッターガイド分体51は、2つの位置決めピンによって互いに位置決めされている。また、各カッターガイド分体51は、互いに離接する方向に移動可能である。各カッターガイド分体51には、それぞれ1つのリードピン54が形成されている。図2に示すように、各リードピン54は、それぞれ、蓋体11の長孔14、15にスライド可能に挿入されている。したがって、各カッターガイド分体51は、蓋体11に取り付けられている。カッターガイド50には、略螺旋状のガイド溝55が形成されている。ガイド溝55は、2つのカッターガイド分体51にわたって形成されている。なお、図5に示すように、各カッターガイド分体51の端部におけるガイド溝55の溝幅は、他の部分におけるガイド溝55の溝幅よりも大きい。このため、刃部26の切断入力部29はガイド溝55に入り込み易く、ガイド溝55と切断入力部29とは滑らかに噛み合う。
【0031】
図4に示すように、第2把持部60は略半円柱状をなす。各第2把持部60は、各カッターガイド分体51とともに、互いに離接する方向に移動可能である。なお、前後方向における刃部26と第2把持部60との距離は、前後方向における刃部26と第1把持部40との距離よりも短い。詳しくは、前後方向における刃部26と第2把持部60との距離は0mmであり、前後方向における刃部26と第1把持部40との距離よりも短かった。
【0032】
ワイヤ通路部は、蓋体11の貫通孔13、カッターガイド分体51同士の間(すなわち第2把持部60同士の間)、カッター同士の間、カッター駆動ギヤ23の中心部、第1把持部40同士の間、および、ケース体10の貫通孔12で構成されている。
【0033】
以下、実施例1のワイヤカッターの動作を説明する。
【0034】
先ず、ワイヤカッターを図1に示す準備状態にし、ワイヤ通路部の後側から前側に向けてワイヤ9を差し込む。このとき、刃部26はワイヤ通路部の外部に配置され、刃部26の刃先はワイヤ9の表面から離間している。また、各カッターガイド分体51のリードピン54は、各長孔14、15の第1端部16側に配置されている。したがって、2つのカッターガイド分体51は互いに離間し、ワイヤ9の表面から離間している。2つの第2把持部60もまた互いに離間し、ワイヤ9の表面から離間している。2つの第1把持部40もまた互いに離間している。なお、2つの第1把持部40の2つのカム41は、カム付勢部材43に付勢され、ワイヤ9の表面に軽く弾接している。
【0035】
次いで、操作部22を図1中a方向に回転させる。すると、入力ギヤ20が回転し、入力ギヤ20と噛み合っているカッター駆動ギヤ23が回転する。カッター駆動ギヤ23に取り付けられている2つの刃部26もまた、カッター駆動ギヤ23の回転に伴って回転する。ところで各刃部26は、それぞれ、カッターガイド分体51のガイド溝55と噛み合っている。したがって、各カッターガイド分体51は刃部26の回転に伴って回転する。すると、各カッターガイド分体51のリードピン54が各長孔14、15を第1端部16から第2端部17に向けてスライドする。そして2つのカッターガイド分体51は、それぞれ各長孔14、15に案内されて、互いに近接する方向に移動する。2つの第2把持部60もまた、互いに近接する方向に移動する。したがって、2つの第2把持部60はワイヤ9の後端部を把持する。
【0036】
このとき同時に、入力ギヤ20と噛み合っている引っ張り駆動ギヤ24が回転する。すると、過負荷防止手段6を介して引っ張り駆動ギヤ24に取り付けられている伝達部30もまた、引っ張り駆動ギヤ24とともに回転する。ところで、伝達部30の引っ張り駆動部36は螺旋状に延びる。このため、引っ張り駆動部36と噛み合っている把持基部42は、引っ張り駆動部36に案内され、伝達部30の回転に伴って前方に移動する。上述したように、第1把持部40の各カム41はワイヤ9の表面に弾接しているため、2つのカム41はワイヤ9を把持した状態で、把持基部42とともに前方に移動する。したがって、このとき第1把持部40はワイヤ9を前方に引っ張る。
【0037】
さらに、このときカッター駆動ギヤ23の回転に伴って、カッター駆動ギヤ23に取り付けられている2つの刃部26もまた回転する。上述したように、各刃部26はそれぞれカッターガイド分体51のガイド溝55と噛み合っている。そして、ガイド溝55は螺旋状をなす。このため各刃部26は、カッター駆動ギヤ23の回転に伴って回転するとともに、ガイド溝55に案内されて互いに近接する方向にスライドする。したがって各刃部26は、回転しつつワイヤ9を切断する。図7に示すように、このときワイヤ9のなかで刃部26に当接した部分は、刃部26の送り面28によって前側に送り出される。また、ワイヤ9のなかで前側に送り出された部分は、第1把持手段2によって前側に引っ張られる。したがって、切断手段5によってワイヤ9を切断する際には、刃部26の後側にワイヤ9が留まることがない。よって、ワイヤ9の後側部分(第2把持手段3側の部分)における切断面は、平滑化され、バリが発生し難い。さらに、刃部26の後側にワイヤ9が留まることがないため、ワイヤ9の後側部分(第2把持手段3側の部分)は変形し難い。よって、実施例1のワイヤカッターによると、切断時におけるバリの発生および変形を低減しつつワイヤ9を切断できる。なお、ワイヤ9の前側部分(第1把持手段2側の部分)は捨てる部分であるため、その切断面にバリが生じていたり、変形していたりしても特に問題ない。
【0038】
引っ張り駆動部36の長さ分だけ把持基部42が移動すると、第1把持部40は、前方向への移動を停止し、かつ、ワイヤ9を把持した状態で引っ張り駆動ギヤ24および伝達部30とともに回転しようとする。しかしこのとき、伝達部30と引っ張り駆動ギヤ24との間には、過負荷防止手段6の弾性力を上回る大きな力が作用するために、過負荷防止手段6の弾性部34が弾性的に圧縮変形して、当接部35がボール装着孔33から外れる。したがって、このとき引っ張り駆動ギヤ24は空回りし、伝達部30の回転は停止するため、第1把持部40もまた回転しない。換言すると、このとき過負荷防止手段6は、駆動手段4(引っ張り駆動ギヤ24)から第1把持部40に伝達される駆動力を遮断する。このため、第1把持部40からワイヤ9に向けて、引っ張り方向やねじれ方向に過大な力が作用することはない。このことによっても、実施例1のワイヤカッターによると、ワイヤ9の変形を抑制できる。
【0039】
さらに、実施例1のワイヤカッターにおいては、刃部26と第2把持手段3との距離が短く、両者が近接している。このため、刃部26と第2把持手段3との間には、ワイヤ9の変形を許容し得る空間が殆どない。このことによっても、実施例1のワイヤカッターによると、ワイヤ9の後側部分の変形を抑制できる。なお、実施例1のワイヤカッターにおける第2把持部60と刃部26との距離は0mmであったが、0.5mm以下であればワイヤ9の変形を十分に抑制できる。
【0040】
(評価試験)
実施例1のワイヤカッターでワイヤを切断した。ワイヤとしては、主成分としてSiを含み、ワイヤ全体(100質量%)に対して0.07質量%のFe、1質量%のC、1質量%のMnを含む溶射ワイヤ(第1のワイヤ)、および、主成分としてCrを含み、ワイヤ全体(100質量%)に対して0.1質量%のFe、12質量%のCを含む溶射ワイヤ(第2のワイヤ)を用いた。この第1のワイヤおよび第2のワイヤは、φ1.6mmであった。
【0041】
切断されたワイヤの後側部分(第2把持手段側の部分)における切断面近傍の直径を測定し、ワイヤに変形が生じているか否かを評価した。また、この切断面を拡大写真により確認し、ワイヤにバリが生じているか否かを評価した。その結果、第1のワイヤおよび第2のワイヤは何れも殆ど変形しておらず、バリの発生もないことが確認された。
【0042】
また、切断した第1のワイヤを用いてアーク溶射をおこない、溶射時のスパッタの有無を評価した。詳しくは、φ80mm、高さ135mmのアルミニウム製スリーブの内面に、第1のワイヤを用いて0.4mmの厚さで溶射を行った。そして、溶射後に0.8mm以上の突起が生じている場合に、スパッタが発生していると評価した。0.8mm以上の突起が生じていない場合には、スパッタが発生していないと評価した。さらに、この条件で連続的にアーク溶射を行った際の、溶射機の樹脂ライナの耐久寿命を評価した。詳しくは、溶射開始直後から樹脂ライナが使用不可能になるまでの時間を計測した。この時間を樹脂ライナの耐久寿命とみなした。
【0043】
また、一般的なニッパーで切断した第1のワイヤを用いてアーク溶射をおこない、同様に、スパッタ発生の有無と、耐久寿命とを評価した。
【0044】
その結果、実施例1のワイヤカッターで切断した第1のワイヤを用いてアーク溶射をおこなった場合、スパッタの発生確率は0/200であり、耐久寿命は1000時間以上であった。一方、一般的なニッパーで切断した第1のワイヤを用いてアーク溶射をおこなった場合、スパッタの発生確率は11/200であり、耐久寿命は370時間であった。この結果から、実施例1のワイヤカッターによると、ワイヤを切断する際に生じるバリおよび変形を抑制できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1のワイヤカッターを模式的に表す断面図である。
【図2】実施例1のワイヤカッターにおける主要部品を模式的に表す説明図である。
【図3】実施例1のワイヤカッターにおける主要部品を模式的に表す説明図である。
【図4】実施例1のワイヤカッターにおける主要部品を模式的に表す説明図である。
【図5】実施例1のワイヤカッターにおける主要部品を模式的に表す説明図である。
【図6】実施例1のワイヤカッターにおける主要部品を模式的に表す説明図である。
【図7】実施例1のワイヤカッターにおける主要部品を模式的に表す説明図である。
【図8】一般的なワイヤカッターでワイヤを切断している様子を模式的に表す説明図である。
【符号の説明】
【0046】
2:第1把持手段 3:第2把持手段 4:駆動手段 5:切断手段
6:過負荷防止手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射または溶接用のワイヤを切断するためのワイヤカッターであって、
該ワイヤの通路となるワイヤ通路部と、
該ワイヤ通路部を挟んで配置されている複数の第1把持部を持ち、該第1把持部が互いに近接する方向に移動して該ワイヤを把持する第1把持手段と、
該ワイヤ通路部の延びる方向に沿って該第1把持手段と離間し、該ワイヤ通路部を挟んで配置されている複数の第2把持部を持ち、該第2把持部が互いに近接する方向に移動して該ワイヤを把持する第2把持手段と、
該第1把持手段と該第2把持手段との間に配置されている少なくとも一つの刃部を持ち、該刃部の少なくとも一部が該ワイヤ通路部に露出する方向に移動して該ワイヤを切断する切断手段と、
該刃部と該第1把持部と該第2把持部とを駆動する駆動手段と、を持ち、
該駆動手段は、該刃部を該ワイヤ通路部に露出する方向に移動させるときに、該第1把持部を互いに近接する方向に移動させ、かつ該第2把持部を互いに近接する方向に移動させるとともに、該第1把持部を該刃部から離れる方向に移動させ、
該切断手段が該ワイヤを切断する際に、該第1把持手段は該ワイヤを把持するとともに該切断手段から離れる方向に引っ張ることを特徴とするワイヤカッター。
【請求項2】
前記刃部は、前記ワイヤ通路部の延びる方向に対して略直交する方向に配置されている整え面と、前記ワイヤ通路部の延びる方向に対して傾斜する方向に配置されている送り面とを持つ片刃状をなし、該送り面を該第1把持部側に向けている請求項1に記載のワイヤカッター。
【請求項3】
前記ワイヤ通路部の延びる方向において、前記刃部と前記第2把持部との距離は、前記刃部と前記第1把持部との距離よりも短い請求項1または請求項2に記載のワイヤカッター。
【請求項4】
前記駆動手段と前記第1把持部との間に介在し、前記第1把持部が前記ワイヤを所定長さ引っ張ると、前記駆動手段から前記第1把持部に伝達される駆動力を遮断または低減する過負荷防止手段を持つ請求項1〜請求項3の何れか一つに記載のワイヤカッター。
【請求項5】
前記過負荷防止手段は弾性体からなる請求項4に記載のワイヤカッター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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