説明

ワイヤハーネスのグロメット取付構造

【課題】車体パネルの貫通穴に装着するグロメットから引き出された直後のワイヤハーネスを曲げやすくする。
【解決手段】1つのワイヤハーネスを構成する電線群がグロメット挿通部位で複数の電線群に分割され、各分割電線群には予め隙間に止水剤が充填された線間止水処理部が設けられ、これら複数に分割された線間止水処理部が周方向または直線方向に配列されて前記グロメットの内部に挿通されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤハーネスのグロメット取付構造に関し、詳しくは、自動車に配索するワイヤハーネスに外装して、車体パネルの貫通穴にグロメットを装着し、該グロメットから引き出されるワイヤハーネスを曲げやすくするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のワイヤハーネス用のグロメットは、例えば、自動車のエンジンルームと車室とを仕切る車体パネルの貫通穴に通すワイヤハーネスにグロメットを取り付け、該グロメットを貫通穴に装着している。このように浸水領域のエンジンルーム側から車室へと配索するワイヤハーネスでは、グロメットを挿通する部分でワイヤハーネスを構成する電線群の隙間に止水剤を充填する防水処理がなされ、車室への浸水を防止している。
【0003】
例えば、特開2004−146254号公報では、図21に示すように、ワイヤハーネス100のグロメット取付部位を成形金型内に通して止水剤を充填して加熱硬化して止水処理部100aを設け、該止水処理部100aをグロメット110の電線保持部110a内に圧入固定している。
【0004】
前記のように、ワイヤハーネスの止水処理部では電線の隙間に充填される止水剤が硬化されているため、止水処理部100aではワイヤハーネスを曲げることが困難となる。したがって、図22に示すように、車体パネルPの貫通穴Hに装着したグロメット110から引き出された直後のワイヤハーネス100を下向き、あるいは上向きや横向きに曲げて車体パネルPに沿って配索する必要がある場合、ワイヤハーネスの曲げが困難となる。
特に、ワイヤハーネス100が大径の場合、硬化された止水処理部での急激な曲げは困難となり、無理に曲げると硬化して一体化した止水処理部にクラックが入って空隙が発生し、止水性能が低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−146254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、グロメット内部でのワイヤハーネスの止水処理部に影響を及ぼすことなく、グロメットから引き出された直後のワイヤハーネスを曲げ配索できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、1つのワイヤハーネスを構成する電線群がグロメット挿通部位で複数の電線群に分割され、各分割電線群には予め隙間に止水剤が充填された線間止水処理部が設けられ、これら複数に分割された線間止水処理部が周方向または直線方向に配列されて前記グロメットの内部に挿通されていることを特徴とするワイヤハーネスのグロメット取付構造を提供している。
【0008】
分割前の前記ワイヤハーネスの直径は、例えば、50mm以上とされ、分割後の各電線群の直径は20mm以下とされ、
前記分割した電線群の個数が3〜4とされてそれぞれ線間止水処理部が設けられ、これら複数の線間止水処理部を周方向または直線方向に配列してグロメット内に通され、かつ、該線間止水処理部の配置位置の前記グロメットには屈曲性を付与する蛇腹部が設けられていることが好ましい。
【0009】
前記のように、複数の線間止水処理部を内部に位置させる部分のグロメットに、蛇腹部を設けておくと、グロメットから出た直後のワイヤハーネスを曲げ易くできる。
分割するワイヤハーネスの直径を50mm以上とし、分割する電線群の直径を20mm以下するのは、本発明者の実験に基づく知見による。
すなわち、ワイヤハーネスの直径が50mm以上で、一括して線間止水処理した部分をグロメットに挿入した場合、グロメットから出た直後のワイヤハーネスを90度曲げすると、該ワイヤハーネスの線間止水処理部にクラックが入り空隙が発生しやすいと共に、線間止水処理部にクラックを発生させないためには曲げアールを大きくする必要があることを知見した。一方、グロメットから出たワイヤハーネスの直径を20mm以下とすると、90度の急激曲げを行っても線間止水処理部にクラックが発生せず、隙間が生じていないことを知見した。
【0010】
前記複数の線間止水処理部の間に可撓性樹脂または発泡樹脂を充填した樹脂部を設け、各線間止水処理部を位置決め保持してもよい。その場合、複数の線間止水処理部をモールドして保持部を成形している。
または、発泡樹脂や可撓性樹脂からなるスペーサを設け、該スペーサに複数の線間止水処理部の嵌合溝または貫通穴を設け、該嵌合溝または貫通穴にそれぞれ線間止水処理部を通して位置決め保持してもよい。
前記のように、複数の線間止水処理部を位置決め保持した前記樹脂部、あるいはスペーサの外周に、発泡シートを巻き付け、この状態でグロメット内に通していることが好ましい。
【0011】
例えば、複数の線間止水処理部が周方向に配列する場合、周方向に等間隔で円弧溝または貫通穴を設けた円板形状のスペーサが用いられ、各円弧溝または貫通穴にそれぞれ線間止水処理部をはめ込むことが好ましい。
【0012】
また、複数の線間止水処理部を直線方向に一列に並設して集束する場合、前記スペーサは楕円板を長軸線に沿って2分割した分割片からなり、該分割片の対向面は前記線間止水処理部に嵌合させる半円状凹部を間隔をあけて設けた歯型形状とされ、前記対向する半円状凹部に各線間止水処理部の両側部が嵌合されて挟持されることが好ましい。
前記のように、スペーサを楕円を2分割した形状とすると、直線辺を有する長円形状とした場合に比較してグロメットによる締め付け力を確実にスペーサに付与することができ、グロメットとスペーサとの間に隙間を発生させない利点がある。
前記2分割したスペーサは一端を薄肉ヒンジで連結しておいてもよい。
【0013】
また、前記スペーサを用いる代わりに、グロメットの内部に各線間止水処理部を挿通する複数の貫通穴を直列または周方向に設けた部分を設けてもよい。
さらに、前記直列または周方向に並設する貫通穴の隣接部分にスリットを設け、複数の線間止水処理部を一括してグロメット内に挿通できるようにしてもよい。
【0014】
前記複数に分割した線間止水処理部を設けたワイヤハーネスを挿通する前記グロメットは、ゴムまたはエラストマーから成形され、大径筒部と小径筒部が連続し、前記大径筒部の先端側に車体係止凹部を環状に備え、前記小径筒部に蛇腹筒部を備えた構成としている。
【0015】
あるいは、前記グロメットは車体係止凹部が環状に設けられたリング形状とされ、前記スペーサの外周に嵌合される構成としてもよい。
前記のように、グロメットを簡単な形状としてもよく、この場合、グロメット自体の製作費用の大幅削減を図ることができる。
【0016】
本発明は、自動車のエンジンルームと車室とを仕切る車体パネルの貫通穴に前記グロメットが装着され、該グロメットから引き出された直後のワイヤハーネスが前記車室側またはエンジンルーム側で曲げ配索される場合に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0017】
前述したように、本発明では、硬化処理された線間止水処理部が設けられたワイヤハーネスをグロメットに挿通して車室への防水を図る場合に、ワイヤハーネスの径が大きくなるとグロメットから引き出された直後のワイヤハーネスに急激な曲げを行うことが困難であるため、ワイヤハーネスを複数の小径の電線群に分割し、これら電線群にそれぞれ線間止水処理部を設けてグロメット内に通しているため、グロメットから出た直後のワイヤハーネスを曲げやすくすることができる。かつ、ワイヤハーネスを曲げても、線間止水処理部にクラックが生じて隙間発生を防止できるため、防水性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一実施形態を示し、(A)はグロメットをワイヤハーネスに取り付けた状態を示す正面図、(B)は(A)のA−A線断面図である。
【図2】前記グロメットの斜視図である。
【図3】ワイヤハーネスの各分割電線群に設けた線間止水処理部の断面図である。
【図4】第一実施形態で用いるスペーサの斜視図である。
【図5】(A)〜(D)はワイヤハーネスにグロメットを取り付ける工程を示す斜視図である。
【図6】グロメットから引き出されるワイヤハーネスの曲げを示す説明図である。
【図7】(A)は従来例の問題点を示す説明図、(B)は本発明の機能を示す説明図である。
【図8】(A)(B)(C)は第一実施形態の第1〜第3変形例を示す図面である。
【図9】第二実施形態を示し、(A)はグロメットにワイヤハーネスを取り付けた状態の正面図、(B)は(A)のA−A線断面図である。
【図10】(A)〜(D)は第二実施形態のワイヤハーネスにグロメットを取り付ける工程を示す斜視図である。
【図11】(A)はスペーサを長円形状とした場合の問題点を示す説明図、(B)は本発明のスペーサを楕円形状とした場合の機能を示す説明図である。
【図12】第二実施形態のスペーサの変形例を示す斜視図である。
【図13】第三実施形態を示し、(A)はグロメットにワイヤハーネスを取り付けた状態の斜視図、(B)は正面図、(C)は側面図、(D)はグロメットの形状を説明する概略図である。
【図14】第三実施形態のグロメットの斜視図である。
【図15】図13(B)のC−C線断面図である。
【図16】前記グロメットとスペーサとの係合状態を示す拡大断面図である。
【図17】(A)〜(D)は第三実施形態のワイヤハーネスにグロメットを取り付ける工程を示す斜視図である。
【図18】第四実施形態のグロメットを示し、(A)は斜視図、(B)は側面図、(C)は(B)のC−C線断面図、(D)は(B)のB−B線断面図である。
【図19】前記グロメットにワイヤハーネスを挿通した状態の要部断面図である。
【図20】(A)(B)は第四実施形態のグロメットにワイヤハーネスを取り付ける工程を示す斜視図である。
【図21】従来例を示す図面である。
【図22】従来の問題点を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図5に第一実施形態を示す。
グロメット1は自動車のエンジンルーム(X)と車室(Y)とを仕切るダッシュパネルからなる車体パネルPに穿設された貫通穴Hに挿通するワイヤハーネス2に外嵌し、貫通穴Hに取り付けられる。
【0020】
前記ワイヤハーネス2を挿通するグロメット1はゴムまたはエラストマー製で図2に示すように一体成形している。該グロメット1は小径筒部10の一端に大径筒部11が連続し、該大径筒部11の先端側の周縁に車体係止凹部12を環状に設けている。また、小径筒部10の中間部の外周に曲げ配索用の蛇腹部13を設け、かつ、該小径筒部10の先端側にテープ巻舌片14を対向して設けている。
【0021】
前記ワイヤハーネス2は多数の電線の集合体からなり、その外径は約80mmとなっている。該ワイヤハーネス2をグロメット1を貫通する部位、即ち、車体パネルPの貫通穴Hを通過する位置で、それぞれ直径約20mmの4つの分割電線群20(20A〜20D)に分割している。これら分割した4つの分割電線群20にそれぞれ予め線間止水処理を施し、線間止水処理部21(21A〜21D)を設けている。
【0022】
線間止水処理部21は、布線状態の分割電線群20を上下方向に平行に配線した状態とし、図3に示すように、これらの電線群wに止水剤23を塗布し、各電線wの表面および隣接する電線との隙間に止水剤を充填し、塗布後に電線群を丸めて防水シート24で覆って集束している。これらの線間止水処理部21では止水剤23が硬化している。
【0023】
前記4つの線間止水処理部21(21A〜21D)を位置決め保持するため、図4に示すスペーサ15を設けている。該スペーサ15は可撓性樹脂または発泡ウレタンで成形しており、90度間隔をあけて4つの円弧溝16を設けて円板形状としている。各円弧溝16は約3/4円弧形状としている。
図5(A)(B)に示すように、前記スペーサ15の各円弧溝16にそれぞれ線間止水処理部21を挿入した後に、図5(C)に示すように、その外周に発泡シート18を巻き付けて、4つに分割した線間止水処理部21をスペーサ15で位置決め保持し、かつ、発泡シート18を巻き付けて、図1(B)に示すように集束している。
【0024】
前記のように分割した線間止水処理部21をスペーサ15と発泡シート18で集束した状態で、図5(D)に示すように、ワイヤハーネス2をグロメット1に挿通し、線間止水処理部21を小径筒部10の蛇腹部13に位置させている。ワイヤハーネス2をグロメット1に挿通する際、小径筒部10を拡げ治具(図示せず)で拡大してワイヤハーネス2を挿通している。
小径筒部10から引き出された分割電線群20A〜20Dを集束した状態で、その外周面から小径筒部10の先端側の外周面にかけて粘着テープ(図示せず)を巻き付けたり、締結バンドを巻き付けて締結している。
【0025】
前記のようにワイヤハーネス2を挿通したグロメット1は図1(A)に示すように、車体パネルPの貫通穴Hを通してエンジンルーム(X)と車室(Y)とに連続配索される。其の際、グロメット1の大径筒部11の車体係止凹部12を貫通穴Hの周縁に係止している。
【0026】
このように車体パネルPに挿通したワイヤハーネス2を、図6に示すように、車室(Y)側で車体パネルPに沿って下向きに90度曲げして配索する必要がある場合、グロメット1の小径筒部10から引き出された直後のワイヤハーネス2を90度曲げしている。
その際、直径80mmのワイヤハーネス2を、直径20mmの4つの分割電線群20A〜20Dに分けているため、それぞれ線間止水処理部21A〜21Dを備えた分割電線群20A〜20Dが曲げやすくなり、硬化した線間止水処理部21A〜21Dにクラックが入って隙間が生じるのを防止できる。
【0027】
かつ、図7(A)に示す1つの大径のワイヤハーネスとする場合、曲げ部分の内周側の内回りの電線長さは短く、外周側の外回りの電線長さは長くなり、内外周の電線の必要長さに大きな差異が発生する。内周側の電線に余長を発生させないためには、外周側より電線長さを短くする必要があり、電線長さの管理が複雑となる。
一方、図7(B)に示す本実施形態では、内周側の内回りの電線と外周側の外回りの電線とで必要な電線長さの差異は小さくなり、内外で電線長さを相違させる必要がなくなるため、電線長さの管理が容易となり、かつ、余長電線を削減できる。
【0028】
図8(A)(B)(C)に第一実施形態の変形例を示す。
これらの変形例では、分割電線群20(20A〜20D)の線間止水処理部21(21A〜21D)をスペーサを用いずに位置決め保持して集束している。
図8(A)の変形例1では、線間止水処理部21を90度間隔をあけて配置した状態で、その隙間に止水剤23を充填した後に発泡シート18で包んでいる。
図8(B)の変形例2では、線間止水処理部21を90度間隔をあけて配置した状態で、金型内に配置し、熱可塑性樹脂または発泡ウレタンRを充填してモールドしている。
図8(C)の変形例3では、スペーサ15に円弧溝16を設ける代わりに、貫通穴17を設け、各貫通穴17にそれぞれ分割電線群20を挿通している。
いずれの場合も、分割電線群20をそれぞれ曲げられるようにしている。
【0029】
なお、ワイヤハーネスの分割個数は4個に限定されず、ワイヤハーネスの直径が50mm以上であれば、20mm以下の分割電線群に分けている。
【0030】
図9乃至図11に第二実施形態を示す。
第二実施形態では、1つのワイヤハーネス2を3つの分割電線群20A〜20Cに分割している。これら分割電線群20A〜20Cには第一実施形態と同様な線間止水処理部21A〜21Cを予め設けている。
前記3つに分割した分割電線群20A、20B、20Cは直列に並設し、スペーサ30で位置決め保持し、該スペーサ30の外周に発泡シート18を巻き付けて保持している。
【0031】
即ち、第一実施形態と分割電線群20の配列を代え、スペーサ30の形状を第一実施形態のスペーサ15と相違させている。
スペーサ30は、楕円を長軸中心線に沿って2分割した分割片30Aと30Bとからなり、これら分割片30Aと30Bとの対向する分割辺に沿って、線間止水処理部21A〜21Cをそれぞれ嵌合する半円状溝16A〜16Cを設け、言わば歯型形状としている。具体的には、分割片30Aに3つの半円状溝16A1〜16C1を間隔をあけて設け、分割片30Bに3つの半円状溝16A2〜16C2を間隔をあけて設け、分割片30Aと30Bの分割片を当接すると、3つの円形溝となるようにしている。
【0032】
3分割した分割電線群20A、20B、20Cを図10(A)に示すように直列に配置し、図10(B)に示すように、スペーサ30の分割片30Aと30Bの半円状溝16A〜16Cをそれぞれ嵌合し、図10(B)に示すように、分割電線群20A〜20Cをスペーサ30の分割片30Aと30Bで挟持している。図10(B)(C)に示すように、この状態で分割片30A、30Bの外周に発泡シート18を巻き付けて集束している。
【0033】
前記のように、スペーサ30と発泡シート18によって3分割した分割電線群20A〜20Cを位置決め保持した状態で、図10(D)に示すようにグロメット1に挿通し、小径筒部10の蛇腹部13内に位置させていることは第一実施形態と同様である。また、他の構成および作用効果も第一実施形態と同様である。
【0034】
前記のように、分割電線群を直列に配置して集束する場合、分割片30Aと30Bとを組み合わせて形成するスペーサ30の形状を楕円形状とし、長円としていないのは下記の理由による。
即ち、図11(A)に示すように長円形状とすると、対向する直線辺L1、L2に撓みが発生しやすくなり、スペーサ30に対してグロメット1の締付力が伝わりにくくなる。一方、図11(B)に示すように楕円形状とすると、全周に円弧の張りがでて、直線区間がなくなるため、スペーサに対するグロメット1の締付力が伝わりやすくなる。よって、グロメット1の小径筒部10内でスペーサ30をしっかりと位置決め保持することができる。
【0035】
図12に第二実施形態の変形例を示す。
変形例ではスペーサ30の分割片30Aと30Bの一端を薄肉ヒンジ部30Cを介して連結し、一体成形している。他の構成は第二実施形態のスペーサ30と同様である。
複数の分割電線群20A〜20Cを挟持する際、薄肉ヒンジ部30Cを支点として分割片30A、30Bを拡げて、分割電線群20A〜20Cを順次に挿入して位置決め保持している。
【0036】
図13乃至図17に第三実施形態を示す。
ワイヤハーネス2を分割電線群20A〜20Cに分割し、各分割電線群20A〜20Cに夫々線間止水処理部21A〜21Cを設け、楕円形状となる分割スペーサ30A、30Bで挟持する構成は第二実施形態と同様である。
該第三実施形態ではグロメット1−Aの形状を第一、第二実施形態のグロメット1と相違させている。
【0037】
ゴムまたはエラストマーで成形するグロメット1−Aは図14に示すように、車体係止凹部12を環状に設けたリング形状としたゴム部品としている。即ち、第一、第二実施形態のグロメット1の大径筒部11の大径側開口部周縁のみからなる形状としている。
グロメット1−Aは、図16に拡大して示すように、環状の周壁部50の外周面に傾斜壁51と垂直壁52に挟まれた車体係止凹部12を設け、該車体係止凹部12の底壁12aに相当する位置の周壁部50の内周面から係止突起部55を環状に突設し、該係止突起部55の内周面にシールリップ56を突設している。
【0038】
一方、スペーサ30の分割片30A、30Bの外周面には図16に示すように、前記係止突起部55が挿入係止する係止溝30Eを設けている。
また、前記係止溝30Eには係止突起部55と係止溝30Eの周壁との間にゴムリング57または発泡シートを介在させている。
【0039】
図17(A)に示すように、前記分割片30A、30Bの対向する半円状溝16A1〜16C2を設けた歯型形状の分割面で分割電線群20A〜20Cをそれぞれ挟持した後、図17(B)に示すように、ゴムリング57を分割片30A、30Bの外周の係止溝30Eに取り付けて、分割片30A、30Bで分割電線群20A〜20Cを位置決め保持する。
ついで、図17(C)に示すように、グロメット1−Aを分割片30A、30Bに外嵌し、前記係止突起部55を分割片30A、30Bの係止溝30Eに挿入してグロメット1−Aを取り付け、図17(D)に示す完成体とする。
【0040】
前記構成とすると、ワイヤハーネス2を分割片30A、30Bで挟持した後に、該スペーサ30にグロメット1−Aを外嵌して取り付けるだけであるため、従来必要とされていたグロメットの小径筒部を拡げ治具で拡げながらワイヤハーネスをグロメットに通す作業を無くすことができる。特に、ワイヤハーネスの先端がコネクタ接続されている場合、電線群をグロメットに挿通することが非常に困難であったが、本実施形態では、該問題を解消でき、グロメットの組付性を飛躍的に向上させることができる。
他の作用効果は第一、第二実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0041】
図18乃至図20に第四実施形態を示す。
第四実施形態では第一〜第三実施形態のスペーサを用いず、グロメット1−Bの小径部40の内部に3つの貫通穴44A、44B、44Cを設けている。
【0042】
グロメット1−Bは、小径筒部40と大径筒部11との間に中径筒部41を有し、該中径筒部41に蛇腹部42を設けている。
小径筒部40は図20に示すように楕円形状とし、3つの貫通穴44A、44B、44Cを長軸線に沿って直列に設けている。
【0043】
かつ、隣接する貫通穴44Aと44Bの間にスリット45Aを設けると共に、貫通穴44Bと44Cとの間にスリット45Bを設けている。このように、断面楕円形とした小径筒部40には、その中心軸線に沿ってスリット45A、45Bによって分割され、対向する分割面は第二実施形態と同様な3つの半円状溝を直列に設けた歯型形状としている。
このように、スリット45A、45Bを介して3つの貫通穴44A、44B、44Cを連通させているため、拡げ治具で一度に拡径可能とし、複数の分割電線群20A〜20Cを同時に挿通できるようにしている。
【0044】
前記グロメット1−Bに、図20(A)に示すように、分割電線群20A〜20Cが挿通される。これら分割電線群20A〜20Cの外周面には小径部40の貫通穴44A〜44Cの内周面が密着して、分割電線群20A〜20Cを締め付けている。よって、図20(B)に示す完成体では、その間に隙間が発生せず、防水性能は低下しない。
なお、スリットからなる分割線に沿った両側の歯型形状とした分割面に止水剤を塗布して、防水性能を高めてもよい。
【0045】
前記第四実施形態においても、第一〜第三実施形態と同様に大径のワイヤハーネスを複数の小径の電線群に分割して線間止水処理してグロメットに通しているため、グロメットから引き出された直後に曲げ配索を容易に行うことができ、かつ、止水性能の保持、電線の管理が容易となる。
【符号の説明】
【0046】
1 グロメット
2 ワイヤハーネス
20A〜20D 分割電線群
21A〜21D 線間止水処理部
10 小径筒部
11 大径筒部
12 車体係止凹部
13 蛇腹部
15、30 スペーサ
P 車体パネル
H 貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つのワイヤハーネスを構成する電線群がグロメット挿通部位で複数の電線群に分割され、各分割電線群には予め隙間に止水剤が充填された線間止水処理部が設けられ、これら複数に分割された線間止水処理部が周方向または直線方向に配列されて前記グロメットの内部に挿通されていることを特徴とするワイヤハーネスのグロメット取付構造。
【請求項2】
前記ワイヤハーネスの直径は50mm以上であり、分割後の各電線群の直径は20mm以下とされ、これら分割された電線群の線間止水処理部が配置される前記グロメットの部分に蛇腹部が設けられている請求項1に記載のワイヤハーネスのグロメット取付構造。
【請求項3】
前記複数の線間止水処理部の間に可撓性樹脂または発泡樹脂が充填された樹脂部が設けられ、該樹脂部で前記線間止水処理部が位置決め保持され、
または、発泡樹脂や可撓性樹脂からなるスペーサを設け、該スペーサに複数の線間止水処理部の嵌合溝または貫通穴を設け、該嵌合溝または貫通穴にそれぞれ線間止水処理部が挿通されて位置決め保持されている請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネスのグロメット取付構造。
【請求項4】
前記スペーサは楕円板を長軸線に沿って2分割した分割片からなり、該分割片の対向面は前記線間止水処理部に嵌合させる半円状凹部を間隔をあけて設けた歯型形状とされ、前記対向する半円状凹部に各線間止水処理部の両側部が嵌合されて挟持される請求項3に記載のワイヤハーネスのグロメット取付構造。
【請求項5】
前記スペーサの嵌合溝または貫通穴に線間止水処理部を嵌合した状態で、該スペーサの外周に発泡シートが巻き付けられる請求項3または4に記載のワイヤハーネスのグロメット取付構造。
【請求項6】
前記グロメットの小径筒部の内部に前記各線間止水処理部をそれぞれ挿通する複数の貫通穴が直列または周方向に設けられ、かつ、隣接する貫通穴の間にスリットが設けられている請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネスのグロメット取付構造。
【請求項7】
前記グロメットは車体係止凹部が環状に設けられたリング形状とされ、前記スペーサの外周に嵌合される請求項3または請求項4に記載のワイヤハーネスのグロメット取付構造。
【請求項8】
自動車のエンジンルームと車室とを仕切る車体パネルの貫通穴に前記グロメットが装着され、該グロメットから引き出された直後のワイヤハーネスが前記車室側またはエンジンルーム側で曲げ配索される請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のワイヤハーネスのグロメット取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−193557(P2011−193557A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55129(P2010−55129)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】