説明

ワイヤハーネスの配索構造

【課題】 プロテクタを要することなく各電線束にテープ巻き固定された基板を連結してクリップにより車体に係止固定可能とするワイヤハーネスの配索構造を提供する。
【解決手段】 ワイヤハーネスの電線束11a、11b、11cにそれぞれテープ巻き固定される基板12a、12b、12cを備えている。これら基板12a、12b、12cは係合部18を介して並列状態で連結され、基板12a、12b、12cの少なくとも1つに突設した車体係止用クリップ14を車体13の係止孔13aに係合することで電線束11a、11b、11cを車体に沿って並列状態で配索するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスの配索構造に関し、詳しくは簡易な構造により狭いスペースへのワイヤハーネスの配索を可能とするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用のワイヤハーネスは車体の所要経路に沿って配索され、特に狭い間隔のスペースに配索する場合は、図8に示すように、ワイヤハーネスを構成する複数の電線束Wを並列配置するようにしている。この場合、各電線束Wが固定されていないと車両走行中の振動等により車体に衝突して騒音を発生したり電線束Wが損傷するおそれがあるため、樹脂製からなる箱形状のプロテクタ1内に各電線Wを収めた状態で車体2に固定するようにしている。
このようなプロテクタを使用するワイヤハーネスの配索構造としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。
【特許文献1】特開平11−55822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のようなプロテクタ1は、合成樹脂により所要形状に成形された別部品として車種毎に供給する必要があり、また同一車種においてもグレードに応じたシステム構成により電線束Wの数が異なれば更に多くの種類を必要とすることからコスト高になるという問題があった。
更に、ワイヤハーネスの組立て時においては、プロテクタ1を所要位置に正確に取り付けなければならないため、組立て作業板上でのレイアウト設定に手間を要すると共に、プロテクタ1内への電線束Wの組み込み作業および電線束Wとの固定作業にも手間を要し、作業コストの点においてもコスト高になるという問題があった。
【0004】
本発明は上記した問題に鑑みてなされたもので、ワイヤハーネスを構成する複数の電線束を車体に固定するに際し、プロテクタを要することなく各電線束にテープ巻き固定された基板を連結してクリップにより車体に係止固定可能とするワイヤハーネスの配索構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明では、下流側に分岐されるワイヤハーネスの電線束にそれぞれテープ巻き固定される基板を備え、これら基板に設けられた係合部が互いに係合されて並列状態で連結され、上記基板のうち少なくとも1つの基板には車体係止用クリップが突設され、複数の電線束を並列状態で連結して前記車体係止用クリップを介して車体に係止される構成としているワイヤハーネスの配索構造を提供している。
【0006】
上記構成によれば、分岐した各電線束にテープ巻き固定した基板を係合部を介して係合操作するのみで各電線束を並列状態に簡易に連結することができる。そして、基板の少なくとも1つに突設した車体係止用クリップによって車体に係止することで並列状態で固定された複数の電線束を一括して車体の所要位置に配索固定することができる。
【0007】
具体的には、前記電線束にそれぞれテープ巻き固定される基板は、長さ方向に沿った側面から突設した係止爪からなる雄係合部と、基板に穿設された係合穴からなる雌係合部を備え、該雌雄係合部が係合された状態で並設される基板同士が当接され、かつ、前記基板の長さ方向の両側にテープ巻用の凹部が設けられ、該基板と電線束とに巻き付けられるテープが前記基板の凹部内に収容される構成としている。
【0008】
このようにすれば、各基板には連結すべき相手側の基板に係合する係止爪からなる雄係合部と、相手側の係合爪を受け入れる係合穴からなる雌係合部がそれぞれ備えられているので、各基板を互いに係合することで並列状態で連鎖状に連結することができる。また、電線束に基板を固定するテープは、基板に設けた凹部に収容することができるため、テープの厚みによって隣接する基板同士の当接を妨げることがなく、また基板を位置ずれすることなく確実に電線束の所要位置に固定することができる。
【0009】
上記雄係合部をなす係合爪は一側面の両端部に相手側の雌係合部に対し上面側から係合するように突設させ、他側面の中央部には相手側の雌係合部に下面側から係合するように突設するようにするのが好ましい。
このように構成すれば、隣接する基板同士を当接させて雄係合部と雌係合部とを係合させたとき、両基板は上下方向から互いの係合爪が挟みつけるようにして相手側の雌係合部に係合するため、基板に平行な横方向のみでなく上下方向に対しても位置ずれすることなく確実に連結固定することができる。
【0010】
また、前記車体係止用クリップは別体で成形されていると共に基板固定部が設けられている一方、前記電線束にテープ巻き固定される各基板には前記基板固定部が嵌合固定される固定穴が設けられ、前記並列状態で連結された基板のうちの任意の基板の固定穴に前記車体係止用クリップが固定されるようにしてもよい。
【0011】
このようにすれば、電線束に固定すべき基板は共通の部品として利用することができると共に、車体への固定部位となる基板に対しては、別体の車体係止用クリップを固定穴に嵌合固定しておくことで容易に対応することができる。
なお、固定穴に対する車体係止用クリップの固定は、例えば基板固定部として基板の固定穴の裏面に係止可能な鍔部を有する形状とし、これを固定穴に無理入れすることで嵌合固定することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上の説明より明らかなように、本発明のワイヤハーネスの配索構造によれば、複数の電線束を並列状態で車体に固定するために、プロテクタ等の別部品に収容することなく、各電線束にテープ巻き固定される基板と、車体係止用クリップによる簡易な構成によって各電線束を固定することができる。よって、プロテクタを用いる場合に比し、コストダウンを図ることができる。また、各基板は任意の枚数を連鎖状に連結できるので、連結すべき電線束の数の増減にも容易に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1〜図6は、本発明におけるワイヤハーネスの配索構造の第1実施形態を示し、本配索構造はワイヤハーネスW/Hの下流側で分岐された電線束11a、11b、11cと、各電線束11a、11b、11cにテープTで巻き付け固定された基板12a、12b、12cと、所要位置の基板12bに突設されて車体13の係止孔13aに係止可能な車体係止用クリップ14とから構成している。
【0014】
基板12a、12b、12cは、図2(A)〜(C)に示すように、長方形状の樹脂成形品からなり、電線束11a、11b、11cの外面に長さ方向に沿って配置固定すると共に、隣接する電線束11a、11b、11c同士を連結するために、電線束11a、11b、11cに略対応する幅寸法としている。
【0015】
上記基板12a、12b、12cの長さ方向の両側には幅方向の両端部にテープTの巻き付け用の凹部15を形成している。凹部15の切り込み深さは、基板12a、12b、12cを電線束11a、11b、11cに固定する際に巻き付けるテープTが収容されて、基板12a、12b、12cの幅方向両端面から突出しない充分な深さ寸法としている。凹部15の切り込み深さをこのように設定することで、各基板12a、12b、12cを幅方向に連結する際、テープTが邪魔にならず各基板12a、12b、12cの端面同士の当接を可能としている。
【0016】
また、基板12a、12b、12cの幅方向両側面には、各基板12a、12b、12cを並列配置した状態で連結固定するための雄係合部16と雌係合部17とからなる係合部18を形成している。
雄係合部16は各基板12a、12b、12cにおける一側中央の上面側の1箇所と、他側の両側方下面側の2箇所からそれぞれ幅方向外方へ向かって突出すると共に、先端内面側に係止爪16aを形成している。
また、雌係合部17は、各基板12a、12b、12cを並列配置したとき隣接する相手側の係止爪16aを受け入れて係合可能な対応位置に形成した係合穴17aから構成している。
【0017】
即ち、各基板12a、12b、12cを側面間で当接するようにして並列配置したとき、基板12aの一側上面側の係止爪16aが相手側の基板12bの他側中央に設けた係合穴17aに上面側から係合し、かつ基板12bの他側下面側の係止爪16aが基板12aの一側に設けた係合穴17aに下面側から係合する。このような係合状態よって、基板12a、12bは幅方向および、これに垂直な上下方向の移動が規制される。
【0018】
並列配置すべき基板12a、12b、12cのうち、少なくとも1つ、例えば基板12bには、図3に示すように、車体13の係止孔13aに係止するための車体係止用クリップ14を一体突設している。
【0019】
上記車体係止用クリップ14は、基板12bの表面に一体突設した筒部14aと、この筒部14aの先端から両側基部側へ向けて広がり状に延出した一対の係止羽根14bからなり、係止羽根14bの先端外面には係止段部14cを形成している。上記筒部14aは車体13の係止孔13aに挿通可能なように係止孔13aの内径より若干小径に設定し、係止羽根14bは片持ち梁状で、通常の広がり状態で係止孔13aの周囲に係止段部14cによって係止する一方、筒部14aの中心方向へ弾性変形することで、係止孔13aとの係止状態が解除されるようになっている。
【0020】
次に、ワイヤハーネスW/Hの各電線束11a、11b、11cを並列配置した状態で車体13に配索固定する工程について説明する。
まず、図4(A)(B)に示すように、ワイヤハーネスW/Hの下流側に分岐された各電線束11a、11b、11cの外面に基板12a、12b、12cを長さ方向に沿って配置する。
ついで、テープTにより基板12a、12b、12cと電線束11a、11b、11cとを一括して巻き付け固定する。このとき、テープTは基板12a、12b、12cの両端部の凹部15内に収容することで、テープTが基板の端面から突出して後の連結時の障害となるのを防止している。
なお、本実施形態では、各基板12a、12b、12cを連結したとき中央に位置する基板12bに車体係止用クリップ14が一体突設されたものを採用している。
【0021】
このようにして、各電線束11a、11b、11cにそれぞれ基板12a、12b、12cをテープ巻き固定した後、図5(A)〜(C)に示すように、各基板12a、12b、12cを並列配置して対向する端面同士を当接することで連結する。連結過程では、先ず図5(A)に示すように基板12aの一側下面側から突設した雄係合部16が相手側の基板12bの他側下縁部に押圧されて外方へ弾性変形し、続いて図5(B)に示すように基板12a、12bが完全当接したとき雄係合部16が弾性復帰することで係止爪16aが相手側の雌係合部17である係合穴17aに嵌合係止される。
【0022】
なお、このとき、基板12bの他側両側に突設した雄係合部16が上面側から相手側基板12aの係合穴17aに対し同時に係合するため、側面同士が当接された基板12a、12bは幅方向および、これに垂直な上下方向への移動が規制されて確実に連結固定された状態となる。
同様に基板12bに対し基板12cを並列配置して連結することで、基板12a、12b、12cが一体化され、図6に示すように、各基板12a、12b、12cに固定された電線束11a、11b、11cを並列状態で保持することができる。
【0023】
上記のように連結された基板12a、12b、12cにより並列配置された電線束11a、11b、11cは、図1に示すように中央の基板12bに突設された車体係止用クリップ14を車体13の係止孔13aに挿入係止することで、車体13に沿ったワイヤハーネスW/Hの配索を行うことができる。
【0024】
本発明によるワイヤハーネスの配索構造は、例えば狭い取付スペースとなるドアハーネスや、エンジンルームハーネス等の配索に対し効果的に利用することができる。
【0025】
図7(A)(B)は第2実施形態を示し、各基板22を共通部品として共用化できるようにしたものである。
即ち、第1実施形態では、基部のみの基板12a、12cは同一形状の部品として共用できるが、車体係止用クリップ14を有する基板12bは別部品となっていた。第2実施形態の基板22は、凹部25、雄係合部26、雌係合部27の各構成は第1実施形態と同様であるが、中央部に固定穴22aを形成して、別体で成形される車体係止用クリップ24を固定可能としている。
【0026】
車体係止用クリップ24は第1実施形態と同様の係止機能である筒部24a、係止羽根24b、係止段部24cを備えており、筒部24aの下端部を延長して基板22の固定穴22aに嵌合する基板固定部24dを設けている。この基板固定部24bは、例えば固定穴22aより若干大径で固定穴22aを通して嵌合した後、固定穴22aの裏側周囲に係合可能な鍔部24eを備えている。これにより、車体係止用クリップ14は連結される任意の基板22における固定穴22aに係合固定することで、複数並列状態で連結された基板22を車体13の係止孔13aに対し車体係止用クリップ24を介して係止固定することができる。
各基板22の連結工程等のその他の構成は第1実施形態と同様のため、その説明を省略する。
【0027】
上記各実施形態では、基板の雄係合部を片側1箇所、他側側を2箇所とし、雌係合部をこれに対応する位置に設けた構成としているが、雄雌係合部は、基板のサイズに応じてその係合個所を増減してもよい。
また、車体係止用クリップの位置個数は、上記実施形態では1箇所に設ける設定としたが、複数箇所に設ける設定としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のワイヤハーネスの配索構造を示す一部切欠斜視図である。
【図2】(A)は基板の斜視図、(B)はX−X断面図、(C)はY−Y断面図である。
【図3】車体係止用クリップを備えた基板の斜視図である。
【図4】(A)はワイヤハーネスの電線束に基板を固定した状態の斜視図、(B)は(A)の一部拡大図である。
【図5】(A)〜(C)は電線束に固定した各基板を並列配置して連結する工程を示す図である。
【図6】連結された基板により並列配置した電線束を示す斜視図である。
【図7】(A)は第2実施形態における基板と車体係止用クリップの分解斜視図、(B)はZ−Z断面図である。
【図8】従来例のワイヤハーネスの配索構造を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
11a、11b、11c 電線束
12a、12b、12c 基板
13 車体
13a 係止孔
14 車体係止用クリップ
15 凹部
16 雄係合部
16a 係止爪
17 雌係合部
17a 係合穴
18 係合部
22 基板
22a 固定穴
24 車体係止用クリップ
24d 基板固定部
T テープ
W/H ワイヤハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下流側に分岐されるワイヤハーネスの電線束にそれぞれテープ巻き固定される基板を備え、これら基板に設けられた係合部が互いに係合されて並列状態で連結され、上記基板のうち少なくとも1つの基板には車体係止用クリップが突設され、複数の電線束を並列状態で連結して前記車体係止用クリップを介して車体に係止される構成としているワイヤハーネスの配索構造。
【請求項2】
前記電線束にそれぞれテープ巻き固定される基板は、長さ方向に沿った側面から突設した係止爪からなる雄係合部と、基板に穿設された係合穴からなる雌係合部を備え、該雌雄係合部が係合された状態で並設される基板同士が当接され、かつ、前記基板の長さ方向の両側にテープ巻用の凹部が設けられ、該基板と電線束とに巻き付けられるテープが前記基板の凹部内に収容される構成としている請求項1に記載のワイヤハーネスの配索構造。
【請求項3】
前記車体係止用クリップは別体で成形されていると共に基板固定部が設けられている一方、前記電線束にテープ巻き固定される各基板には前記基板固定部が嵌合固定される固定穴が設けられ、前記並列状態で連結された基板のうちの任意の基板の固定穴に前記車体係止用クリップが固定されている請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネスの配索構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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