説明

ワイヤハーネスの配索構造

【課題】並列した複数のフラット電線からなるワイヤハーネスのフラット電線幅方向への屈曲を省スペースで行える。
【解決手段】複数の芯線11aを並列した導体11または断面長方形の導体を樹脂12で被覆したフラット電線10を複数並列して車両に配線するワイヤハーネス13の配索構造であって、該ワイヤハーネス13を前記フラット電線10の幅方向に屈曲させて配線する領域14では、前記並列したフラット電線10を1本ずつ45〜90度捩じって積層状態で屈曲させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数のフラット電線を並設したワイヤハーネスの配索構造に関し、詳しくは、複数のフラット電線を並設するワイヤハーネスを屈折することなく三次元方向に屈曲して配索が行えるようにするものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車のインバータとモータなどの機器間を接続するワイヤハーネスとして、例えば、特開2001−136632号公報(特許文献1)で、複数の丸電線2を集束し、その外周にシールド手段である筒状の金属編組体3aやコルゲートチューブ等の外装材3bを取り付けたワイヤハーネス1が提供されている(図7参照)。
一方、図8に示すような、前記丸電線2の芯線と同様に多数本の金属素線を集束した芯線6aを複数本並列して帯状の導体6を形成し、該導体6を樹脂7で被覆したフラットケーブル(以下、フラット電線と称す)5は、定格の電流値に対して導体断面積を小さく設定できるため、コストや重量を低減でき、良好な放熱効果が得られる。そこで、前記図7に示す丸電線2に代えて、前記フラット電線5を複数並列し、その外周に金属編組体8aや扁平なコルゲートチューブ8bを取り付けたワイヤハーネス4を機器間に配索することは、前記コストおよび重量低減と放熱効果の点から有利であると共に、配索スペースの高さを低くしたい場合に有効である。
【0003】
しかしながら、丸電線2は上下左右のいずれの方向にも屈曲させやすいが、前記フラット電線5は電線の屈曲に方向性があり、図9(A)に示すように、フラット電線5の厚さ方向(短径方向)Bには屈曲させやすい一方、芯線を並列させたフラット電線5の幅方向(長径方向)Aには屈曲させにくいという特性を有している。したがって、図9(B)に示すように、複数のフラット電線5を並列したワイヤハーネス4をフラット電線5の幅方向(A方向)に屈曲させて配索する必要がある時、ワイヤハーネス4の全体を幅方向に立ち上げるような姿勢で屈曲させなければならず、並列する複数本分のフラット電線幅より大きな高さを有する配索スペースが必要となる。よって、配索スペースが限られた領域では、並列した複数のフラット電線からなるワイヤハーネスをフラット電線幅方向に屈曲配線できないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−136632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、幅方向に並列した複数のフラット電線からなるワイヤハーネスを、該幅方向への屈曲が省スペースで行えることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、複数の芯線を並列して長方形状とした導体または断面長方形の導体を樹脂で被覆したフラット電線を互いに複数並列して車両に配線するワイヤハーネスの配索構造であって、
前記並列する複数のフラット電線を長さ方向と直交する幅方向に屈曲させる領域では互いに連結固定せず、各フラット電線をそれぞれ45〜90度捩じって幅方向に積層状態で屈曲させていることを特徴とするワイヤハーネスの配索構造を提供している。
【0007】
本発明では、前記ワイヤハーネスの積層屈曲領域を挟む両側の並列領域には、複数のフラット電線を並列保持する並列クランプを取り付けておくことが好ましい。これにより、各フラット電線の幅方向(導体の断面において長径方向)に捩じりを容易に行うことができる。あるいは、各フラット電線を屈曲させて前記積層屈曲領域を形成する間は並列固定治具で両側を固定しておくことが好ましい。このように、両側を並列状態に連結固定しておき、幅方向に屈曲する領域では各フラット電線を連結せずにバラバラの状態とし、並列するフラット電線をそれぞれ独立して捩じることができるようにしている。よって、並列した複数のフラット電線を1本ずつ捩じって積層状態で屈曲させることにより、前記屈曲配線する領域におけるワイヤハーネスの高さを大幅に低減することができる。即ち、1本のフラット電線を幅方向に屈曲配線するときの高さと同程度とすることができるため、高さ方向に十分な配索スペースがなくても、並列した複数本のフラット電線からなるワイヤハーネスをフラット電線の幅方向に滑らかに屈曲配線することが可能となる。
【0008】
また、前記のように各フラット電線を45〜90度捩じることで、前記ワイヤハーネスのフラット電線幅方向への屈曲が積層状態のフラット電線の電線厚さ方向への屈曲に変えられ、小さな曲率半径で滑らかに屈曲配線することができる。捩じり角を45〜90度としているのは、捩じり角度が45度未満であると、前記ワイヤハーネスをフラット電線幅方向に屈曲させることが困難になる一方、90度を越える捩じり角で捩じらなくても、捩じり方向を変えて90度以下の捩じり角で捩じることで同一姿勢とすることが可能であるため、捩じり角の最大値を90度に設定している。
【0009】
前記フラット電線を1本ずつ捩じって積層状態で屈曲させる積層屈曲領域に、前記各フラット電線をそれぞれ挟持する挟持片を間隔をあけて突設した樹脂製または金属製の積層クランプを取り付け、該積層クランプの隣接する挟持片で積層状態の各フラット電線を保持していることが好ましい。
【0010】
例えば、2本のフラット電線を並列したワイヤハーネスの場合、3個の挟持片を間隔をあけて突設した断面E字状の積層クランプを前記積層屈曲領域に取り付け、該積層クランプの隣接する挟持片で挟まれた2つの空間に、積層状態の前記2本のフラット電線をそれぞれ挿入、保持させることが好ましい。並列するフラット電線の本数が増えれば、その本数に応じて前記積層クランプに突設する挟持片を増やすことで対応できる。
【0011】
前記のように、積層クランプによって積層状態の各フラット電線を保持することによって各フラット電線の捩じり角度を固定しワイヤハーネスの電線幅方向への屈曲を安定化させると共に、前記積層クランプの各挟持片がスペーサの役割を果たし、放熱の妨げとなるフラット電線同士の接触を防止することもできる。
【0012】
3本の前記フラット電線を並列したワイヤハーネスでハイブリッド自動車または電気自動車のインバータとモータを接続するものとし、前記積層クランプを取り付けたワイヤハーネスの積層屈曲領域は、両側に連続するフラット電線の並列領域と共に金属編組体で被覆され、さらに樹脂製のプロテクタで外装されていることが好ましい。
【0013】
インバータとモータとを接続する3本の電源ケーブルは通電電流値が大きくなるため、放熱性の高いフラット電線を並列させたワイヤハーネスで接続する方が通電可能な電流値を増やすことができるため好ましい。前記のように、両側に連続する並列領域と共に、前記積層クランプを取り付けた積層屈曲領域に金属編組体を被せ、さらに樹脂製のプロテクタで外装することにより、外界からの電磁ノイズに対するシールド性を高め、前記屈曲積層領域のワイヤハーネスを外部干渉から適切に保護すると共に該領域の配線経路を確実に規制することができる。
【0014】
例えば、幅が8〜15mm、厚さが3〜5mmの3本のフラット電線を並列した本発明のワイヤーネスでは、積層屈曲領域を外装する前記プロテクタの高さを20〜30mmと低背化することができ、よって、配索スペースの小型化が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
前述したように、本発明によれば、複数のフラット電線を並列したワイヤハーネスをフラット電線の幅方向に屈曲配線する領域において、並列した複数のフラット電線を1本ずつ捩じって積層状態で屈曲させているため、前記屈曲配線する領域(積層屈曲領域)のワイヤハーネスの高さを大幅に低減することができる。即ち、前記構成によれば、1本のフラット電線を電線幅方向に屈曲配線するときの高さと同程度とすることができるため、高さ方向に十分な配索スペースがなくても、並列した複数本のフラット電線からなるワイヤハーネスをフラット電線の幅方向に屈曲配線することが可能となる。また、前記のように、各フラット電線を45〜90度捩じることで、前記ワイヤハーネスのフラット電線幅方向への屈曲が積層状態のフラット電線の電線厚さ方向への屈曲に変えられ、小さな曲率半径で滑らかに屈曲配線することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)は第1実施形態のワイヤハーネスの積層屈曲領域における配線状態を示す分解斜視図、(B)は(A)のC−C線断面図である。
【図2】図1の積層屈曲領域に積層クランプを取り付けた状態を示す斜視図である。
【図3】(A)は図2の積層屈曲領域に両側の並列領域と共に金属編組チューブを被せ、さらにプロテクタを外装した状態を示す斜視図、(B)は(A)の断面図である。
【図4】第2実施形態を示し、(A)は斜視図、(B)は(A)のA−A線断面図、(C)は(A)のB−B線断面図である。
【図5】第3実施形態を示す斜視図である。
【図6】第4実施形態を示す断面図である。
【図7】従来例を示す図である。
【図8】従来例を示す図である。
【図9】(A)(B)は従来例の問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図3に第1実施形態を示す。
第1実施形態では、図1(B)に示すように、7本の芯線11aを並列して長方形状とした導体11を樹脂12で被覆したフラット電線10(幅15mm、厚さ3.5mm)を3本並列してワイヤハーネス13を形成し、ハイブリッド自動車(図示せず)のインバータとモータとの間を該ワイヤハーネス13で接続している。
【0018】
前記ワイヤハーネス13をフラット電線10の幅方向(A方向)に屈曲させて配線する領域では、図1(A)に示すようにフラット電線10を1本ずつ90度捩じって積層状態で屈曲させている。前記フラット電線10を1本ずつ捩じって積層状態で屈曲させる積層屈曲領域14の両側の並列領域15には、3本のフラット電線10を並列保持する並列クランプ16を取り付け、積層屈曲領域14には、図2に示すように各々捩じった3本のフラット電線10を積層保持する積層クランプ17を取り付けている。
【0019】
積層クランプ17は樹脂製とし、図1(A)に示すように、基板部17aの長さ方向に沿って4個の挟持片17bを基板部17aから所定間隔をあけて突設している。積層クランプ17の基板部17aの長さ方向を積層屈曲領域14の長さ方向に合わせるように差し込み、積層クランプ17の隣接する挟持片17bで挟まれた3つの空間に、積層状態の3枚のフラット電線10をそれぞれ挿入、保持させることにより、積層クランプ17を積層屈曲領域14に取り付けている。なお、本実施形態では積層クランプ17を樹脂製としているが、金属製としてもよい。
【0020】
図3(A)、(B)に示すように、両側に連続する並列領域15と共に、前記積層クランプ17を取り付けた積層屈曲領域14に金属編組チューブ19を被せ、さらに、前記金属編組チューブ(金属編組体)19を被せた積層屈曲領域14および両端の並列領域15の一部に、これらの外形に合わせて形成した断面矩形状の絶縁樹脂製のプロテクタ18を外装している。本実施形態では、積層屈曲領域14を外装するプロテクタ18の高さHを25mmとすることができ、従来のように、フラット電線10を並列し扁平コルゲートチューブで外装したワイヤハーネス13全体を、幅方向に立ち上げるような姿勢で電線幅方向に屈曲させたときの高さ(50mm)の半分の高さまで低減することができる。
【0021】
前記のように、並列した3本のフラット電線10からなるワイヤハーネス13をフラット電線10の幅方向(A方向)に屈曲配線する領域において、並列した3本のフラット電線10を1本ずつ捩じって積層状態で屈曲させているため、屈曲配線する領域(積層屈曲領域14)のワイヤハーネス13の高さを大幅に低減することができる。よって、高さ方向に十分な配索スペースがなくても、並列した3本のフラット電線10からなるワイヤハーネス13をフラット電線10の幅方向に屈曲配線することができる。また、前記のように、各フラット電線10を90度捩じることで、ワイヤハーネス13のフラット電線幅方向への屈曲が積層状態のフラット電線10の電線厚さ方向への屈曲に変えられ、小さな曲率半径で滑らかに屈曲配線することができる。
【0022】
なお、前記積層屈曲領域14を挟む並列領域15は並列クランプ16で3本のフラット電線10を並列固定しているが、積層屈曲領域14を形成する時に並列領域15を並列固定治具で固定しておき、前記積層屈曲領域14を形成した後に積層クランプで積層状態を保持した後に、前記並列固定治具を取り外して、プロテクタ18に収容して形状保持してもよい。
【0023】
図4(A)〜(C)に第2実施形態を示す。
第1実施形態では外装材としてプロテクタ18を用いているが、該2実施形態では、プロテクタにかえてゴム製のコルゲートチューブ(言わば蛇腹管)を用いている。即ち、ワイヤハーネスの並列領域15−積層屈曲領域14−並列領域15に金属編組チューブ19を被せた後、その外周に扁平コルゲートチューブ25を被せている。該コルゲートチューブ25は形状変形しない樹脂成形品ではなく、形状変形するゴム製の蛇腹管とし、ワイヤハーネス13の並列領域15と積層屈曲領域14での外形変形に対応して外形変形できるものとしている。
なお、前記のように外形が変形可能であれば軟質樹脂製としてもよい。
【0024】
図5に第3実施形態を示す。
第3実施形態では、積層屈曲領域14において、フラット電線10を1本ずつ50度捩じって積層状態で屈曲させている点以外は第1実施形態と同様としている。
【0025】
第3実施形態においても、第1実施形態と同様、積層屈曲領域14のワイヤハーネス13の高さを大幅に低減することができると共に、捩じり角を90度未満の50度とすることによって、積層屈曲領域14において、ワイヤハーネス13を三次元的に屈曲配線することができる。即ち、フラット電線10の幅方向(A方向)の屈曲と、フラット電線10の導体の短径方向となる厚さ方向[図1(B)および図5に示すB方向]の屈曲とを組み合わせた三次元的な屈曲が可能となる。
【0026】
なお、前記第1〜第3実施形態では並列するフラット電線10の本数を3本としているが、2本以上、例えば6本等もよい。
【0027】
図6に第4実施形態を示す。
第4実施形態では、各フラット電線10の導体20は断面長方形とした1つの導体21で形成している。該1つの導体21は多数本の金属素線を集束して形成したもの、帯状の金属箔を集積して形成したもの、厚肉金属板で形成した導体のいずれでもよい。
【符号の説明】
【0028】
10 フラット電線
11、20、21 導体
11a 芯線
12 樹脂
13 ワイヤハーネス
14 積層屈曲領域
15 並列領域
16 並列クランプ
17 積層クランプ
17a 基板部
17b 挟持片
18 プロテクタ
19 金属編組チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の芯線を並列して長方形状とした導体または断面長方形の導体を樹脂で被覆したフラット電線を互いに複数並列して車両に配線するワイヤハーネスの配索構造であって、
前記並列する複数のフラット電線を長さ方向と直交する幅方向に屈曲させる領域では互いに連結固定せず、各フラット電線をそれぞれ45〜90度捩じって幅方向に積層状態で屈曲させていることを特徴とするワイヤハーネスの配索構造。
【請求項2】
前記フラット電線を1本ずつ捩じって積層状態で屈曲させる積層屈曲領域に、各フラット電線を挟持できる挟持片を間隔をあけて突設した樹脂製または金属製の積層クランプを取り付け、該積層クランプの隣接する挟持片で積層状態の各フラット電線を保持している請求項1に記載のワイヤハーネスの配索構造。
【請求項3】
3本の前記フラット電線を並列したワイヤハーネスでハイブリッド自動車または電気自動車のインバータとモータを接続するものとし、前記積層クランプを取り付けたワイヤハーネスの積層屈曲領域は、両側に連続するフラット電線の並列領域と共に金属編組体で被覆され、さらに樹脂製のプロテクタで外装されている請求項2に記載のワイヤハーネスの配索構造。
【請求項4】
幅が8〜15mm、厚さが3〜5mmの前記3本のフラット電線を並列したワイヤーネスにおいて、前記積層屈曲領域を外装する前記プロテクタの高さを20〜30mmとしている請求項3に記載のワイヤハーネスの配索構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−125079(P2012−125079A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274896(P2010−274896)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】