説明

ワイヤハーネス用外装材の製造方法

【課題】ワイヤハーネスの外装材として用いられる熱収縮ネットシートの製造方法を提供する。
【解決手段】熱収縮チューブの素材となる樹脂を用いて、サイジング機で、縦線と横線とを交点で加圧熱融着したネット状のシートを成形し、ついで、成形した前記シートを電子線照射で架橋または化学架橋し、ついで、前記シートを加熱しながら、シートの幅方向の両側を夫々把持して幅方向に所要延伸倍率で引き伸ばしながら搬送し、ついで冷却して前記引き伸ばした状態で冷却固定して熱収縮ネットシートとしていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤハーネス用外装材の製造方法に関し、詳しくは、ワイヤハーネスを構成する電線群に巻き付ける熱収縮ネットシートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に配索されるワイヤハーネスの電線群の結束、保護および外部干渉材による干渉防止のために、電線群に粘着テープを巻き付けたり、コルゲートチューブや丸チューブ等のチューブに電線群を通している。
これらのテープおよびチューブからなる外装材としては、従来、テープは塩化ビニルテープが汎用され、コルゲートチューブとしてはポリプロピレン等が用いられ、いずれも樹脂で形成されている。また、熱収縮チューブも近時汎用されている。
【0003】
この種の熱収縮チューブは、所要の樹脂材料を混練して押出成形機に投入し、チューブとして押出成形し、成形されたチューブに電子線を照射して架橋し、該架橋後に加熱しながらチューブ内に圧力空気を送りこんで膨張させ、その後に冷却固定して製造されている。(特開2006−104395号公報参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−104395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の丸チューブ状の熱収縮チューブは、ワイヤハーネスを構成する電線群を挿通した後、熱収縮温度で加熱すると、チューブが収縮して縮径し、内部の電線群を密に集束すると共に、電線群の外周面に密着する。よって、防水性が要求される箇所ではワイヤハーネスの外装材として好適に用いられている。
【0006】
しかしながら、防水性が要求されず、電線群の結束機能が主として求められる場合、丸チューブ形状である必要はなく、チューブ形状であると樹脂量が増え、重量増加およびコスト高になる。かつ、丸チューブ形状であると柔軟性が損なわれ、ワイヤハーネスを急激に曲げ配索しにくい等の問題がある。
また、チューブであるため、電線群をチューブの一端から中空部に挿入して他端から引き出す必要があり、電線群が長い場合にはチューブへの電線群の通し作業が容易でなく、作業性が悪い問題がある。
【0007】
前記熱収縮チューブを熱収縮性を有するネット状シートとすると、樹脂目付量を減少でき、その結果、軽量化およびコスト低下を図ることが出来る。かつ、柔軟性も確保することができるうえ、チューブではなくシートとすると、電線群の側方からシートを巻き付けることができ電線群への取付作業性がよくなる。
しかしながら、熱収縮性を有するネットシートは提供されていない。よって、本発明は、ワイヤハーネス用外装材として好適に用いることができる新規な熱収縮ネットシートを生産性よく簡単に製造できる製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、熱収縮チューブの素材となる樹脂を用いて、サイジング機で、縦線と横線とを交点で加圧熱融着したネット状のシートを成形し、
ついで、成形した前記シートを電子線照射で架橋または化学架橋し、
ついで、前記シートを加熱しながら、シートの幅方向の両側を夫々把持して幅方向に所要延伸倍率で引き伸ばしながら搬送し、
ついで、冷却して前記引き伸ばした状態で冷却固定して熱収縮ネットシートとしていることを特徴とするワイヤハーネス用外装材の製造方法を提供している。
【0009】
前記のように、熱収縮ネットシートは幅方向には引き伸ばし、長さ方向は引き伸ばさないことが好ましい。これにより、ワイヤハーネスに熱収縮ネットシートをすし巻き状に巻き付け、熱収縮温度で加熱すると、長さは収縮せず、ワイヤハーネスの電線同士を集束する巻き付け方向に収縮して電線群の外周面に密着させることができる。
【0010】
前記素材となる樹脂は、難燃性のポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニルから選択される1種以上である。
前記樹脂は熱収縮チューブの素材として汎用されている樹脂であり、自動車等の車両に配索するワイヤハーネスの外装材とするため、難燃性樹脂としている。
さらに、シリカ、カーボンブラック等の補強材を配合し、耐摩耗性を高めることが好ましい。
また、架橋促進剤として、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアネート等の多官能性モノマーを配合することが好ましい。
【0011】
前記サイジング機のダイスに樹脂を通してネット状のシートを成形する際、縦横線の交点を加熱加圧しているため、縦横線が面接触すると共に、一方側線から他方側線へ、あるいは互いに相手方線中に入り込むように融着しているため、交点での結合力を高めることができ、引っ張り力や引き裂き力が負荷されても交点で剥がれが生じないようにすることができる。よって、ネットシートに引っ張り力や引き裂き力が負荷されても交点で縦横線の結合が剥がれることはなく、目崩れが発生せず、形状保持力が強く外装材としての信頼性が高いものとなる。
このように、縦線と横線とは編まずに交点で上下に重ねられ、該縦線と横線のいずれか一方または両方が、断面積の40%〜50%が溶融されて相手方の繊維中に埋設された状態で互いに融着され、裁断端でほつれ止めされている。
【0012】
前記ネット状シートに熱収縮性を付与する工程は従来の熱収縮チューブの製造工程と同様の工程で、電子線照射で架橋または化学架橋し、加熱しながらネットシートを幅方向にのみ引っ張って、言わば一軸延伸を行い、最後に冷却固定して熱収縮ネットシートとして製造している。
【0013】
ネットシートの縦横線で囲まれる各空孔の形状は、正方形、長方形、ひし形、六角形、あるいは真円、楕円、長円のいずれかの円形とされている。
前記空孔の形状は、要求される伸縮性および強度によって調整される。
即ち、空孔の大きさは、伸縮性の要求度が高い場合にはネットを粗くして各空孔を大きくし、強度および耐摩耗性の要求度が高い場合にはネットを細かくして各空孔を小さくしている。空孔の形状は、伸びやすくするには菱形状とされ、伸びにくくするには正方形や長方形としている。
【0014】
さらに、前記縦線と横線としてそれぞれ大径線と小径線とを設け、複数本の前記小径線を前記大径線で挟んだ状態で引き揃え、大径線で囲まれた空孔に小径線のネット状部を配置した構成としてもよい。
さらに、ネット状外装材の長さ方向の両端を空孔を設けないセルベージ付きの形状として、該ネット状外装材の長さ方向の両端とワイヤハーネスの電線群とのテープ巻きを容易な形状としてもよい。
【0015】
本発明は、前記製造方法で製造された熱収縮ネットシートからなるワイヤハーネス用外装材を提供している。
該ワイヤハーネス用外装材の熱収縮ネットシートは、ワイヤハーネスを構成する電線群の外周に被せて巻き付けた後に熱収縮温度で加熱して、前記電線群を集束すると共に該電線群の外周に密着させるものである。
【0016】
本発明の熱収縮ネットシートからなるワイヤハーネス用外装材は、従来用いられている樹脂シートと比較して樹脂目付量を半減以下に減少でき、その結果、ワイヤハーネス用外装材の軽量化を図ることが出来ると共に、熱収縮チューブと比較してコスト低減をはかることができる。
【発明の効果】
【0017】
前述したように、本発明によれば、ワイヤハーネス用外装材とする熱収縮ネットシートを簡単に製造することができる。かつ、ネットは縦横線を交点で融着し、さらに、一方または両方が相手方の線中に埋設されるように融着されているため、強固に固定されている。よって、ネットシートからなる外装材に引っ張り力や引き裂き力が負荷されても交点で縦横線の結合が剥がれることはなく、目崩れが発生せず、形状保持力が強いワイヤハーネス外装材とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明で製造される熱収縮ネットシートを示し、(A)は熱収縮前の平面図、(B)は熱収縮後の平面図である。
【図2】前記熱収縮ネットシートをワイヤハーネスに外装する工程を示す図面である。
【図3】(A)は熱収縮ネットシートの縦線および横線となる樹脂線材を示す斜視図、(B)は縦線と横線とを重ねている状態を示す斜視図、(C)は縦横線の交点の拡大図である。
【図4】(A)はネットシート製造装置の該略図、(B)はサイジング機のダイセットの斜視図、(C)はネットシートが成形される工程の説明図である。
【図5】(A)はネットシートを引き伸ばし固定する工程を示す概略図、(B)は(A)のB−B矢視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図5に実施形態を示す。
【0020】
第一実施形態で製造するワイヤハーネス用の外装材は、図1に示す熱収縮ネットシート1からなる。図1(A)に示す熱収縮ネットシート1は所要の熱収縮温度以上で加熱すると、図1(B)に示すように幅方向Dが所要の収縮率で収縮する熱収縮性を有するネットシートである。本実施形態のネットシートの収縮率は40%以上としている。
【0021】
前記熱収縮ネットシート1は、図1(A)に示す幅方向Dを引き伸ばした状態で、図2に示すように、ワイヤハーネスW/Hを構成する多数の電線15の外周面にすし巻きで巻き付け、巻き付け後に熱収縮温度で加熱して図1(B)に示すように熱収縮ネットシート1を収縮し、電線群15を隙間なく集束すると共に、集束した電線群の外周面に密着させるものとしている。
【0022】
熱収縮ネットシート1は、難燃性のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデンから選択される樹脂に、シリカ、カーボン等の補強剤を所要割合で配合し、さらに、架橋促進剤として、トリアリルシアヌレートまたはトリアリルイソシアネートから選択される多官能性モノマーを所要割合で配合した樹脂組成物からなる。
【0023】
前記樹脂組成物からなる難燃性樹脂線材10で縦線2および横線3を図3(A)に示すように断面楕円形状に形成し、これら縦横線2、3を交点4で融着し、縦横線2、3で囲まれた四角形状の空孔5を設けたネット状としている。
【0024】
前記縦線2と横線3とは編まずに、図3(B)に示すように、縦線2を上側、横線3を下側に配置し、交点4で上下に重ねて融着している。
該交点4では、図3(C)に示すように、上下の断面楕円形状の縦線2と横線3とが面接触し、かつ、下側の横線3の断面積の40〜50%の部分3mを上側の縦線2中に入り込ませる状態で融着している。
前記縦横線2、3の各長径は0.35mm〜0.5mmとし、該縦横線2、3より形成する熱収縮ネットシート1の厚みを0.4〜0.8mmとしている。
【0025】
前記構成とした熱収縮ネットシート1の製造方法を説明する。
概略的には、まず、サイジング機のダイセットを用いてネット状シートを成形し、該ネットシートに電子線を照射して形状記憶させ、ついで、ネットシートを加熱しながら幅方向に引っ張って搬送し、引っ張った状態で冷却固定している。
以下に製造工程を詳述する。
【0026】
まず、図4(A)(B)(C)に示すサイジング機30でネット状のシートを成形する。
前記難燃性のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデンから選択される樹脂に、シリカ、カーボン等の補強剤を所要割合で配合し、さらに、トリアリルシアヌレートまたはトリアリルイソシアネートから選択される多官能性モノマーを所要割合で配合してホッパー25に投入する。なお、本実施形態ではポリフッ化ビニリデンを主成分として用いている。
【0027】
ホッパー25で撹拌混合し、該撹拌混合した混合物をスクリューコンベヤ26で混練りしながら図4(B)(C)に示すダイセット27へ搬送し、混練物をダイセット27で難燃性樹脂線材10からなるネット状のシートとして成形する。
【0028】
前記ダイセット27は、アウトダイス27aとインダイス27bとからなる。アウトダイス27aとインダイス27bとをモータ29で逆方向に回転し、図4(C)に示すように、アウトダイス27aの孔27ahとインダイス27bの孔27bhがかさなる部分27cで縦線2と横線3とが重なる交差部(交点)が形成され、アウトダイス27aの孔とインダイス27bの孔とが離れることで格子形状(本実施形態では菱目)が形成される。
【0029】
前記ダイセット27から押し出し成形される際に、縦線2と横線3とは加熱加圧され、これら縦横線2、3とが溶着する。かつ、縦横線2、3の交点4では、加圧加熱されるため、交点4では前記図3(C)に示すように縦横線2、3が相手方繊維に入り込んだ状態で熱融着される。
ついで、ネット状のシート40は冷却槽31へと搬送され、延伸ローラ32で熱延伸され、延伸後、延伸槽33へ搬送され、その後、シート40はコイル41に巻回される。
【0030】
前記のようにネット状のシート40とした後、電子線を照射して架橋し、原形状を記憶させる。電子線の照射量と照射時間は樹脂組成物に応じて調整している。
【0031】
ついで、図5に示すように、加熱ヒータ50を設置した加熱炉51内にシート40を連続搬入して加熱する。
加熱したシート40を延伸機45に連続挿入する。延伸機45において、コイル41から引き出されるネット状のシート40の幅方向の両端を、一対のコンベヤ46A、46Bの上流端で各チェインに設けたクランプ47A、47Bで把持し、該コンベヤ46A、46Bを下流に向けて互いに離反する方向へ若干上向きに傾斜させて移動させることにより、シート40の幅を次第に広げるように引っ張って延伸する。下流端でクランプ47A、47Bの把持を外してコンベヤ46A、46Bを上流側へと循環させている。
【0032】
コンベヤ46A、46Bの下流端でシート40を幅方向に40%以上拡げた後に、クランプ47A、47Bから開放されたシート40を、冷却炉48(または冷却槽)に通して、シート40を幅方向に引っ張られた図1(A)に示す形態で冷却固定し、熱収縮ネットシート1とする。
【0033】
前記工程で熱収縮ネットシート1を比較的簡単に製造することができる。
製造された熱収縮のネットシート1は、難燃性樹脂より形成しているため、自動車のエンジンルームに配索するワイヤハーネスの外装材としても用いることができる。
かつ、該熱収縮ネットシート1は、縦横線2、3の交点4では、図3(C)に示すように、縦横線2、3が断面楕円形状に変形し、互いに相手方線中に入り込んだ状態で熱融着されているため、縦横線の外周面を溶着しただけの場合と比較して剥がれにくくなり、引張強度および引き裂き強度を備えたものとなり、目崩れが発生せず、信頼性の高いものとなる。また、縦横線2、3が互いに強固に固着されているため、各縦横線2、3の裁断端でほつれが生じることはない。
【0034】
しかも、従来の熱収縮チューブはチューブ形状であるため電線をチューブ内に通す必要があり作業性が悪い問題があるが、シート状としているため、電線群の外周に巻き付けるだけでよく、ワイヤハーネスに簡単に外装できる。さらに、従来用いられているシートはワイヤハーネスに巻き付けた後にテープ巻き固定する必要があったが、熱収縮ネットシートとしているため、所要温度で加熱するだけでワイヤハーネスにネットシートを密着固定することができる。
また、ネット状としているため、樹脂目付量を減少でき、丸チューブやネット状でないシートと比較して重量を半減以上に低減できる。特に、自動車に配索する多数本のワイヤハーネスの外装材として用いると、自動車の重量軽減にも寄与でき、燃費を向上させることができる。かつ、樹脂目付量の減少により、丸チューブからなる熱収縮チューブと比較して製造コストの低下を図ることもできる。
さらに、ネットシートとしているため、ネットでないシートより柔軟性がよく、ワイヤハーネスを急角度で屈曲する場合にも追従させることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 熱収縮ネットシート
2 縦線
3 横線
4 交点
5 空孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮チューブの素材となる樹脂を用いて、サイジング機で、縦線と横線とを交点で加圧熱融着したネット状のシートを成形し、
ついで、成形した前記シートを電子線照射で架橋または化学架橋し、
ついで、前記シートを加熱しながら、シートの幅方向の両側を夫々把持して幅方向に所要延伸倍率で引き伸ばしながら搬送し、
ついで、冷却して前記引き伸ばした状態で冷却固定して熱収縮ネットシートとしていることを特徴とするワイヤハーネス用外装材の製造方法。
【請求項2】
前記素材となる樹脂は、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニルから選択される請求項1に記載のワイヤハーネス用外装材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の製造方法で製造された熱収縮ネットシートからなるワイヤハーネス用外装材。
【請求項4】
ワイヤハーネスを構成する電線群の外周に被せて巻き付けた後に熱収縮温度で加熱して、前記電線群を集束すると共に該電線群の外周に密着させるものである請求項3に記載のワイヤハーネス用外装材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−234576(P2011−234576A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104380(P2010−104380)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】