説明

ワイヤーハーネス及びその製造方法

【課題】分岐部を有するワイヤーハーネスにおいて、製造工程を複雑化することなく、分岐部を適切に保護することができ、且つ、製造誤差を抑制する。
【解決手段】ワイヤーハーネス1は、不織布12aが電線11を覆った状態でホットプレスされることにより形成された直線状の保護部12を有する回路配線10と、不織布23aが電線21を覆った状態でホットプレスされることにより形成された略L字状の保護部22を有する第1分岐部枝線20及び略L字状の保護部32を有する第2分岐部枝線30とを備え、回路配線10と第1分岐部枝線20の一端側部分と第2分岐部枝線30の一端側部分により分岐元線2が構成され、第1分岐部枝線20の他端側部分と第2分岐部枝線30の他端側部分により分岐線3が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワイヤーハーネスの分岐部を保護する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤーハーネスは、車両等に搭載された各種電気機器を相互接続する配線材であり、複数の電線が各種電気機器の配設位置や配線経路に応じた態様で分岐して結束される。このようなワイヤーハーネスは、分岐元線の途中の分岐部から分岐線が分岐しており、ワイヤーハーネスの分岐部以外の部分はビニールテープ及びウレタン等で被覆され、分岐部分はビニールテープで巻回されて保護される。
【0003】
また、熱可塑性材料により構成された2枚の被覆体の間にフラット回路体を挟み込むとともに、2枚の被覆体を加熱及び圧縮することによって、プロテクタを形成する技術が、従来より知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−197038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、分岐部を有するワイヤーハーネスに特許文献1の技術を採用した場合、分岐元線の一端部から分岐部の手前までと、分岐元線の他端部から分岐部の手前までと、分岐線の一端部から分岐部の手前までについて、それぞれプロテクタを形成することになる。さらに、分岐部に対してビニールテープを巻回するため、製造工程が複雑である。
【0006】
また、分岐部から分岐線を挟んで両側に交互にビニールテープを巻き付けるクロステープ巻きでビニールテープが巻回され、さらに、プロテクタの端部にもビニールテープが巻回されるため、分岐部及びその周辺部は環状に肥大化する。ビニールテープの巻き方によって分岐部及びその周辺部のサイズが変わるため、作業者によって当該部分のサイズが大きく異なる。このため、ワイヤーハーネスの製造誤差が大きくなるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、分岐部を有するワイヤーハーネスにおいて、製造工程を複雑化することなく、分岐部を適切に保護することができ、且つ、製造誤差を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、第1の態様に係るワイヤーハーネスは、分岐元線の途中の分岐部から分岐線が分岐するワイヤーハーネスであって、不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより形成された保護部を有する回路配線と、不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより形成された保護部を有する第1分岐部枝線及び第2分岐部枝線とを備え、前記回路配線と前記第1分岐部枝線の一端側部分と第2分岐部枝線の一端側部分により前記分岐元線が構成され、前記第1分岐部枝線の他端側部分と前記第2分岐部枝線の他端側部分により前記分岐線が構成されている。
【0009】
第2の態様は、第1の態様に係るワイヤーハーネスであって、前記第1分岐部枝線と前記第2分岐部枝線は、複数種類の第1分岐部枝線及び第2分岐部枝線の中からそれぞれ選択可能とされている。
【0010】
第3の態様は、第1又は第2の態様に係るワイヤーハーネスであって、前記回路配線及び前記第1,第2分岐部枝線の保護部は、前記電線の延在方向に対して略直交する面において、それぞれ断面半円状に形成されている。
【0011】
第4の態様に係るワイヤーハーネスの製造方法は、分岐元線の途中の分岐部から分岐線が分岐するワイヤーハーネスの製造方法であって、(a)不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより保護部を有する回路配線を金型形成する工程と、(b)不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより、略直角に屈曲された保護部を有する第1分岐部枝線を金型形成する工程と、(c)前記工程(b)で使用された金型を共用し、不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより、略直角に屈曲された保護部を有する第2分岐部枝線を金型形成する工程と、(d)前記共通回路配線と前記第1分岐部枝線の一端側部分と前記第2分岐部枝線の一端側部分とを組付けて前記分岐元線を製造し、前記第1分岐部枝線の他端側部分と前記第2分岐部枝線の他端側部分とを組付けて前記分岐線を製造する工程とを備える。
【0012】
第5の態様に係るワイヤーハーネスの製造方法は、分岐元線の途中の分岐部から分岐線が分岐するワイヤーハーネスの製造方法であって、(e)不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより保護部を有する回路配線を金型形成する工程と、(f)不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより保護部を有する複数種類の第1分岐部枝線を金型形成する工程と、(g)不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより保護部を有する複数種類の第2分岐部枝線を金型形成する工程と、(h)前記複数種類の第1分岐部枝線及び第2分岐部枝線の中から1種類の第1分岐部枝線及び第2分岐部枝線を選択し、前記回路配線と、前記第1分岐部枝線の一端側部分と、前記第2分岐部枝線の一端側部分とを組付けて前記分岐元線を製造し、前記第1分岐部枝線の他端側部分と前記第2分岐部枝線の他端側部分とを組付けて前記分岐線を製造する工程とを備える。
【発明の効果】
【0013】
第1の態様に係るワイヤーハーネスによると、保護部を有する回路配線及び第1,第2分岐部枝線によって、分岐元線と分岐線が構成されるため、製造工程を複雑化することなく、保護部によりワイヤーハーネスの分岐部を適切に保護することができる。また、回路配線と第1分岐部枝線と第2分岐部枝線は、金型を使用してそれぞれ製造することができるため、ワイヤーハーネスの製造誤差を抑制することができる。
【0014】
第2の態様に係るワイヤーハーネスによると、共通回路配線と、複数種類の分岐部枝線の中から選択された第1,第2分岐部枝線とを組合せることで、種々の回路仕様に合わせたワイヤーハーネスを簡単に製造することができる。
【0015】
第3の態様に係るワイヤーハーネスによると、共通回路配線と第1分岐部枝線と第2分岐部枝線とを安定した状態で組付けることができるため、ワイヤーハーネスの品質が向上する。
【0016】
第4の態様に係るワイヤーハーネスによると、保護部を有する回路配線及び第1,第2分岐部枝線によって、分岐元線と分岐線が構成されるため、製造工程を複雑化することなく、保護部によりワイヤーハーネスの分岐部を適切に保護することができる。また、回路配線と第1分岐部枝線と第2分岐部枝線は、金型を使用してそれぞれ製造することができるため、ワイヤーハーネスの製造誤差を抑制することができる。
【0017】
第1分岐部枝線と第2分岐部枝線は同一形状であるため、金型を共用することができ、生産性を向上させることができると共に、製造コストを抑制できる。
【0018】
第5の態様に係るワイヤーハーネスによると、共通回路配線と、複数種類の分岐部枝線の中から選択された第1,第2分岐部枝線とを組合せることで、種々の回路仕様に合わせたワイヤーハーネスを簡単に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係るワイヤーハーネスを示す概略斜視図である。
【図2】同上の共通回路配線を示す概略斜視図である。
【図3】同上の第1分岐部枝線を示す概略斜視図である。
【図4】同上の第2分岐部枝線を示す概略斜視図である。
【図5】同上の共通回路配線を製造するためのホットプレス用成形型の例を示す概略斜視図である。
【図6】同上のホットプレス用成形型を用いた共通回路配線の製造工程を示す説明図である。
【図7】同上のホットプレス用成形型を用いた共通回路配線の製造工程を示す説明図である。
【図8】同上の第1,第2分岐部枝線を製造するためのホットプレス用成形型の例を示す概略斜視図である。
【図9】同上のホットプレス用成形型を用いた第1分岐部枝線の製造工程を示す説明図である。
【図10】同上のホットプレス用成形型を用いた第1分岐部枝線の製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
{実施形態}
以下、実施形態に係るワイヤーハーネス1について説明する。図1は、ワイヤーハーネス1を示す概略斜視図であり、図2は、共通回路配線10を示す概略斜視図であり、図3は、第1分岐部枝線20を示す概略斜視図であり、図4は、第2分岐部枝線30を示す概略斜視図である。
【0021】
ワイヤーハーネス1は、分岐元線2と、分岐元線2の途中の分岐部4から分岐する分岐線3とを有する。分岐元線2は、回路配線としての共通回路配線10と、第1分岐部枝線20の一端側部分と、第2分岐部枝線30の一端側部分により構成されている。分岐線3は、第1分岐部枝線20の他端側部分と第2分岐部枝線30の他端側部分により構成されている。
【0022】
共通回路配線10は、電線11と、電線11の一部を保護する保護部12とを有し、図6及び図7に示すように、保護部12は、不織布12a(不織部材)が電線を覆った状態でホットプレスされることにより形成されている。保護部12は、直線状に形成され、電線の延在方向に対して略直交する面において、断面半円状に形成されている。保護部12における断面半円状の弦に対応する面は、第1分岐部枝線20及び第2分岐部枝線30を組付け可能な平坦面13に形成されている。尚、保護部12は、分岐部4又は分岐部4以外の部位で曲げられてもよい。また、保護部12は電線11の全部を保護してもよい。
【0023】
第1分岐部枝線20は、電線21と、電線21の一部を保護し且つ略直角に屈曲された保護部22とを有し、図9及び図10に示すように、保護部22は、不織布23a(不織部材)が電線21を覆った状態でホットプレスされることにより形成されている。保護部22は、略L字状に形成され、電線21の延在方向に対して略直交する面において、L字状の内側を孤とし且つL字状の外側を弦とする断面半円状に形成されている。保護部22は、直線状の第1保護部23と、第1保護部23に対して直交方向に屈曲された第2保護部24とを有する。L字状の外側において第1保護部23に対応する面は、共通回路配線10を組付け可能な平坦面25に形成され、L字状の外側において第2保護部24に対応する面は、第2分岐部枝線30を組付け可能な平坦面26に形成されている。尚、保護部22は略L字状以外の形状、例えば、第1保護部23が曲げられたり、第2保護部24が第1保護部23に対して直交方向以外の方向に屈曲されてもよい。また、保護部22は電線の全部を保護してもよい。
【0024】
第2分岐部枝線30は、電線31と、電線31の一部を保護し且つ略直角に屈曲された保護部32とを有する。保護部32は、不織布(不織部材)が電線31を覆った状態でホットプレスされることにより形成されており、第1分岐部枝線20の保護部22と同一形状に形成されている。保護部32は、略L字状に形成され、電線31の延在方向に対して略直交する面において、L字状の内側を孤とし且つL字状の外側を弦とする断面半円状に形成されている。保護部32は、直線状の第1保護部33と、第1保護部33に対して直交方向に屈曲された第2保護部34とを有する。L字状の外側において第1保護部33に対応する面は、共通回路配線10を組付け可能な平坦面35に形成され、L字状の外側において第2保護部34に対応する面は、第2分岐部枝線30を組付け可能な平坦面36に形成されている。
【0025】
尚、第2分岐部枝線30は、第1分岐部枝線20と異なる形状であってもよく、共通回路配線10が直線状の場合、保護部22において第1保護部23に対する第2保護部24の角度と、保護部32において第1保護部33に対する第2保護部34の角度の合計が180度となる角度となるような形状であればよい。共通回路配線10が曲げられている場合は、保護部22において第1保護部23に対する第2保護部24の角度と、保護部32において第1保護部33に対する第2保護部34の角度の合計が、共通回路配線10において第1分岐部枝線20及び第2分岐部枝線30が組付けられる側の一端部分と他端部分のなす角度と一致するような形状であればよい。また、保護部32は電線31の全部を保護してもよい。さらに、第1分岐部枝線20及び第2分岐部枝線30は、電線21及び電線31の延在方向に対して略直交する面において、4分の1円状に形成されてもよい。
【0026】
電線11,21,31としては、車両等において各種電気機器間を相互接続するワイヤーハーネス1を構成するものが想定される。もっとも、保護部12,22,32による保護対象は、複数の電線11,21,31を束ねた電線束であってもよいし、1本の電線11,21,31であってもよい。
【0027】
不織布としては、加熱工程を経ることにより硬くなることが可能な不織布を用いることができる。かかる不織布として、絡み合う基本繊維と接着樹脂(バインダとも呼ばれる)とを含むものを用いることができる。接着樹脂は、基本繊維の融点よりも低い融点(例えば、110℃〜115℃)を有する樹脂である。そして、不織布を、基本繊維の融点よりも低くかつ接着樹脂の融点よりも高い加工温度に加熱することで、接着樹脂が溶融して基本繊維間に染み込む。この後、不織布が接着樹脂の融点よりも低い温度になると、基本繊維同士を結合した状態で接着樹脂が固化する。これより、不織布が加熱前の状態よりも硬くなり、加熱時の成形形状に維持されるようになる。
【0028】
接着樹脂は、粒状であっても繊維状であってもよい。芯繊維の外周に接着樹脂層を形成してバインダ繊維を構成し、これを基本繊維と絡み合わせるようにしてもよい。この場合の芯繊維としては、上記基本繊維と同材料のものを用いることができる。
【0029】
上記基本繊維としては、接着樹脂の融点で繊維状態を保ち得ればよく、樹脂繊維の他、各種繊維を用いることができる。また、接着樹脂としては、基本繊維の融点よりも低い融点を持つ熱可塑性樹脂繊維を用いることができる。基本繊維と接着樹脂の組み合わせとしては、基本繊維をPET(ポリエチレンテレフタレート)の樹脂繊維とし、接着樹脂をPETとPEI(ポリエチレンイソフタレート)の共重合樹脂とした例が挙げられる。この場合、基本繊維の融点はおよそ250℃であり、接着樹脂の融点は110℃〜150℃である。このため、不織布を110℃〜250℃の温度に加熱すると、接着樹脂が溶融し、溶融せずに繊維状を保つ基本繊維間に染み込む。そして、不織布が接着樹脂の融点よりも低い温度になると、基本繊維同士を結合した状態で接着樹脂が固化し、不織布は硬くなって加熱時の成形形状を維持する。また、不織布同士の接触部分に溶融した接着樹脂が染み込むと、その接着樹脂によって不織布同士が接合される。
【0030】
また、ホットプレスとは、加工対象物である不織布を金型間に挟み込み、加熱状態で金型に圧を加えて不織布を成型加工することをいう。保護部12,22,32を形成するのに適したホットプレスのより具体的な例については後述する。
【0031】
第1分岐部枝線20と第2分岐部枝線30は、複数種類の第1分岐部枝線20及び第2分岐部枝線30の中からそれぞれ選択可能とされている。第1分岐部枝線20としては、例えば、「AUDIOLESS」と「AUDIO 6SP(6スピーカー仕様)」と「NAVI etc(ナビゲーション仕様)」の3種類の回路仕様が設定されており、これら3種類の回路仕様の中から1種類が選択されて組付けられる。第2分岐部枝線30としては、例えば、「AUTO AC(オートエアコン仕様)」と「MANUAL AC(マニュアルエアコン仕様)」の2種類の回路仕様が設定されており、これら2種類の回路仕様の中から1種類が選択されて組付けられる。尚、第1分岐部枝線20及び第2分岐部枝線30の回路仕様としては、他の回路仕様が設定されていてもよく、さらに多種類の回路仕様が設定されていてもよい。また、共通回路配線10についても多種類の回路仕様が設定されていてもよい。
【0032】
共通回路配線10の保護部12の平坦面13の一端側部分に第1分岐部枝線20の第1保護部23(一端側部分)の平坦面25を密着させた状態で、保護部12及び第1保護部23において分岐部4よりも長手方向外側に取付けられた結束部40により、共通回路配線10と第1分岐部枝線20は固定されている。結束部40としては、例えば、ビニールテープ又は結束バンドなどが採用される。共通回路配線10の保護部12及び第1分岐部枝線20の第1保護部23における密着部分は、電線の延在方向に対して略直交する面において、断面円状に形成されている。
【0033】
共通回路配線10の保護部12の平坦面13の他端側部分に第2分岐部枝線30の第1保護部33(他端側部分)の平坦面35を密着させた状態で、保護部12及び第1保護部33において分岐部4よりも長手方向外側に取付けられた結束部41により、共通回路配線10と第2分岐部枝線30は固定されている。結束部41としては、例えば、ビニールテープ又は結束バンドなどが採用される。共通回路配線10の保護部12及び第2分岐部枝線30の第1保護部33における密着部分は、電線の延在方向に対して略直交する面において、断面円状に形成されている。
【0034】
第1分岐部枝線20の第2保護部24(他端側部分)の平坦面26と第2分岐部枝線30の第2保護部34(他端側部分)の平坦面36とを密着させた状態で、第1分岐部枝線20及び第2分岐部枝線30において分岐部4よりも長手方向外側に取付けられた結束部42により、第1分岐部枝線20と第2分岐部枝線30は固定されている。結束部42としては、例えば、ビニールテープ又は結束バンドなどが採用される。第1分岐部枝線20の第2保護部24及び第2分岐部枝線30の第2保護部34における密着部分は、電線の延在方向に対して略直交する面において、断面円状に形成されている。
【0035】
以上のように構成されたワイヤーハーネス1によると、保護部12を有する共通回路配線10と、保護部22を有する第1分岐部枝線20と、保護部32を有する第2分岐部枝線30によって、分岐元線2と分岐線3が構成されるため、製造工程を複雑化することなく、保護部12,22,32によりワイヤーハーネス1の分岐部を適切に保護することができる。また、共通回路配線10と第1分岐部枝線20と第2分岐部枝線30は、金型を使用してそれぞれ製造することができるため、ワイヤーハーネス1の製造誤差を抑制することができる。
【0036】
共通回路配線10と、複数種類の第1分岐部枝線20及び第2分岐部枝線30の中から選択された第1分岐部枝線20及び第2分岐部枝線30とを組合せることで、種々の回路仕様に合わせたワイヤーハーネス1を簡単に製造することができる。共通回路配線10と第1分岐部枝線20と第2分岐部枝線30とを安定した状態で組付けることができるため、ワイヤーハーネス1の品質が向上する。
【0037】
共通回路配線10と第1分岐部枝線20と第2分岐部枝線30とを組付けてワイヤーハーネス1を製造することにより、ノイズ干渉を発生させる電線と他の電線とが保護部12,22,32により分割され、ノイズ干渉を発生させる電線と他の電線との距離が離れるため、ノイズ干渉を抑制できる。共通回路配線10は、ワイヤーハーネス1の製造に際し、第1分岐部枝線20と第2分岐部枝線30の回路仕様と関係なしに共通に使用されるため、共通回路配線10の生産性が向上する。また、第1分岐部枝線20と第2分岐部枝線30は回路仕様に応じて異なるため、共通回路配線10とは別の製造ラインで第1分岐部枝線20と第2分岐部枝線30を製造して、共通回路配線10と第1分岐部枝線20と第2分岐部枝線30とを組付けることで、完結率の向上を図ることができる。
【0038】
<製造方法>
ワイヤーハーネス1の製造方法に係る実施形態について説明する。
【0039】
ワイヤーハーネス1は、不織布12aが電線11を覆った状態でホットプレスされることにより保護部12を有する共通回路配線10を金型形成する工程(a)と、不織布23aが電線21を覆った状態でホットプレスされることにより、略直角に屈曲された保護部22を有する第1分岐部枝線20を金型形成する工程(b)と、工程(b)で使用された金型を共用し、不織布が電線31を覆った状態でホットプレスされることにより、略直角に屈曲された保護部32を有する第2分岐部枝線30を金型形成する工程(c)と、共通回路配線10と第1分岐部枝線20の一端側部分と第2分岐部枝線30の一端側部分とを組付けて分岐元線2を製造し、第1分岐部枝線20の他端側部分と第2分岐部枝線30の他端側部分とを組付けて分岐線3を製造する工程(d)とを備える製造方法により製造することができる。
【0040】
ワイヤーハーネス1の製造方法を説明する。最初に、共通回路配線10と第1分岐部枝線20と第2分岐部枝線30を成形する。
【0041】
図5は、共通回路配線10を製造するためのホットプレス用成形型50の例を示す概略斜視図である。尚、ホットプレス用成形型50の形状は、製造する保護部の形状に応じて決定されるものであり、図5は、図2に例示する形状の保護部12を製造するのに用いられるホットプレス用成形型50が示されている。
【0042】
ホットプレス用成形型50は、下型51と、上型54とを有している。下型51は、熱伝導性に優れた金属等により形成された長尺部材であり、その一主面(上面)に下型面52が形成されている。下型面52は、概略的には、上方及び両端部に開口する断面円形状の溝53を有している。溝53の延在方向の長さは、電線11における保護対象部分(電線11における保護部12で覆うべき部分)の長さと略同一に形成されている。
【0043】
上型54は、熱伝導性に優れた金属等により形成された長尺部材であり、その一主面(下面)に凸部55が形成され、その下面が上型面56に形成されている。上型面56は、下型面52の上方開口を閉塞可能な矩形状に形成されており、当該下型面52内に配置されることにより、上型面56と下型面52との間で不織布12aを断面半円状に圧縮成形する。
【0044】
下型51及び上型54には、加熱装置としてのヒータ57(図6参照)が設けられている。ヒータ57は、下型面52及び上型面56を、基本繊維の融点よりも低く、且つ、接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱するものである。ヒータ57は、例えば、下型51及び上型54内に埋設されたものであってもよいし、下型51及び上型54の外面に熱伝達可能な形態で取付けられたものであってもよい。
【0045】
ホットプレス用成形型50を用いた共通回路配線10の製造方法を説明する。電線11を所定の配線ラインに沿って布線した後、不織布12aを電線に巻く。図6に示すように、下型51の下型面52上に、電線11と不織布12aが配設される。具体的には、電線11における不織布12aで囲繞された部分が、下型面52の溝53の延在方向に沿って載置される。
【0046】
次に、図7に示すように、下型51と上型54をヒータ57により加熱した状態で、下型51と上型54を近接移動させ、両者間に圧を加える。すると、電線11を覆った状態で不織布12aが圧縮される。これにより、断面半円状の保護部12が形成される。この後、下型51と上型54を離間移動させ、両者から共通回路配線10を取り出す。ホットプレス後の冷却は、下型51と上型54との間に存在する状態で行われてもよいし、それらの間から取り外した状態で行われてもよい。
【0047】
図8は、第1分岐部枝線20と第2分岐部枝線30を製造するためのホットプレス用成形型60の例を示す概略平面図である。尚、ホットプレス用成形型60の形状は、製造する保護部の形状に応じて決定されるものであり、図8には、図3及び図4に例示する形状の保護部22,32を製造するのに用いられるホットプレス用成形型60が示されている。以下、保護部22を製造する場合について説明する。
【0048】
ホットプレス用成形型60は、下型61と、上型64とを有している。下型61は、熱伝導性に優れた金属等により形成された長尺部材であり、その一主面(上面)に下型面62が形成されている。下型面62は、概略的には、上方及び両端部に開口する溝63を有している。溝63は平面視略L字状に形成され、溝63の延在方向の長さは、電線21における保護対象部分(電線21における保護部22で覆うべき部分)の長さと略同一に形成されている。
【0049】
上型64は、熱伝導性に優れた金属等により形成された長尺部材であり、その一主面(下面)に上型面65が形成されている。上型面65は、下型面62と連続するように配置されるとき、上型面65と下型面62とで断面半円状となるように形成されており、下型61と上型64を近接移動させることにより、上型面65と下型面62との間で不織布23aを断面半円状に圧縮成形する。
【0050】
下型61及び上型64には、加熱装置としてのヒータ66(図9参照)が設けられている。ヒータ66は、下型面62及び上型面65を、基本繊維の融点よりも低く、且つ、接着樹脂の融点よりも高い温度に加熱するものである。ヒータ66は、例えば、下型61及び上型64内に埋設されたものであってもよいし、下型61及び上型64の外面に熱伝達可能な形態で取付けられたものであってもよい。
【0051】
ホットプレス用成形型60を用いた第1分岐部枝線20の製造方法を説明する。電線21を所定の配線ラインに沿って布線した後、不織布23aを電線21に巻く。図9に示すように、下型61の下型面62上に、電線21と不織布23aが配設される。具体的には、電線21における不織布23aで囲繞された部分が、下型面62の溝63の延在方向に沿って載置される。
【0052】
次に、図10に示すように、下型61と上型64をヒータ66により加熱した状態で、下型61と上型64を近接移動させ、両者間に圧を加える。すると、電線21を覆った状態で不織布23aが圧縮される。これにより、断面半円状の保護部22が形成される。この後、下型61と上型64を離間移動させ、両者から第1分岐部枝線20を取り出す。ホットプレス後の冷却は、下型61と上型64との間に存在する状態で行われてもよいし、それらの間から取り外した状態で行われてもよい。同様の方法により、複数種類の第1分岐部枝線20を製造する。
【0053】
第2分岐部枝線30の製造方法は、第1分岐部枝線20の場合と同様であるため、具体的な製造方法については説明を省略する。
【0054】
次に、共通回路配線10と第1分岐部枝線20の一端側部分と第2分岐部枝線30の一端側部分とを組付けて分岐元線2を製造し、第1分岐部枝線20の他端側部分と第2分岐部枝線30の他端側部分とを組付けて分岐線3を製造する。例えば、複数種類の第1分岐部枝線20及び第2分岐部枝線30の中から、1種類の第1分岐部枝線20及び第2分岐部枝線30を選択し、共通回路配線10の保護部12の平坦面13の一端側部分に第1分岐部枝線20の第1保護部23の平坦面25を密着させた状態で、保護部12及び第1保護部23において分岐部4よりも長手方向外側に結束部40を取付けて、共通回路配線10と第1分岐部枝線20を組付ける。
【0055】
共通回路配線10の保護部12の平坦面13の他端側部分に第2分岐部枝線30の第1保護部33の平坦面35を密着させた状態で、保護部12及び第1保護部33において分岐部4よりも長手方向外側に結束部41を取付けて、共通回路配線10と第2分岐部枝線30を組付ける。最後に、第1分岐部枝線20の第2保護部24の平坦面26と第2分岐部枝線30の第2保護部34の平坦面36とを密着させた状態で、第1分岐部枝線20及び第2分岐部枝線30において分岐部4よりも長手方向外側に結束部42を取付けて、第1分岐部枝線20と第2分岐部枝線30を組付けることにより、ワイヤーハーネス1が製造される。
【0056】
以上のようにワイヤーハーネス1の製造方法によると、第1分岐部枝線20と第2分岐部枝線30は同一形状であるため、金型を共用することができ、生産性を向上させることができると共に、製造コストを抑制できる。また、共通回路配線10と、複数種類の第1分岐部枝線20及び第2分岐部枝線30の中から選択された第1分岐部枝線20及び第2分岐部枝線30とを組合せることで、種々の回路仕様に合わせたワイヤーハーネス1を簡単に製造することができる。
【0057】
以上のようにこの発明は詳細に説明されたが、上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0058】
1 ワイヤーハーネス
2 分岐元線
3 分岐線
4 分岐部
10 共通回路配線
12a,23a 不織布
20 第1分岐部枝線
30 第2分岐部枝線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐元線の途中の分岐部から分岐線が分岐するワイヤーハーネスであって、
不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより形成された保護部を有する回路配線と、
不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより形成された保護部を有する第1分岐部枝線及び第2分岐部枝線とを備え、
前記回路配線と、前記第1分岐部枝線の一端側部分と、第2分岐部枝線の一端側部分により前記分岐元線が構成され、前記第1分岐部枝線の他端側部分と前記第2分岐部枝線の他端側部分により前記分岐線が構成されている、ワイヤーハーネス。
【請求項2】
請求項1記載のワイヤーハーネスであって、
前記第1分岐部枝線と前記第2分岐部枝線は、複数種類の第1分岐部枝線及び第2分岐部枝線の中からそれぞれ選択可能とされているワイヤーハーネス。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のワイヤーハーネスであって、
前記回路配線及び前記第1,第2分岐部枝線の保護部は、前記電線の延在方向に対して略直交する面において、それぞれ断面半円状に形成されているワイヤーハーネス。
【請求項4】
分岐元線の途中の分岐部から分岐線が分岐するワイヤーハーネスの製造方法であって、
(a)不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより保護部を有する回路配線を金型形成する工程と、
(b)不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより、略直角に屈曲された保護部を有する第1分岐部枝線を金型形成する工程と、
(c)前記工程(b)で使用された金型を共用し、不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより、略直角に屈曲された保護部を有する第2分岐部枝線を金型形成する工程と、
(d)前記回路配線と、前記第1分岐部枝線の一端側部分と、前記第2分岐部枝線の一端側部分とを組付けて前記分岐元線を製造し、前記第1分岐部枝線の他端側部分と前記第2分岐部枝線の他端側部分とを組付けて前記分岐線を製造する工程と、
を備えるワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項5】
分岐元線の途中の分岐部から分岐線が分岐するワイヤーハーネスの製造方法であって、
(e)不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより保護部を有する回路配線を金型形成する工程と、
(f)不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより保護部を有する複数種類の第1分岐部枝線を金型形成する工程と、
(g)不織部材が電線を覆った状態でホットプレスされることにより保護部を有する複数種類の第2分岐部枝線を金型形成する工程と、
(h)前記複数種類の第1分岐部枝線及び第2分岐部枝線の中から1種類の第1分岐部枝線及び第2分岐部枝線を選択し、前記回路配線と、前記第1分岐部枝線の一端側部分と、前記第2分岐部枝線の一端側部分とを組付けて前記分岐元線を製造し、前記第1分岐部枝線の他端側部分と前記第2分岐部枝線の他端側部分とを組付けて前記分岐線を製造する工程と、
を備えるワイヤーハーネスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−65425(P2013−65425A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202747(P2011−202747)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】