説明

ワイヤ状電極の刺入・微動・保持装置

【課題】神経活動電位の記録又は神経細胞の刺激に用いる非常に細いワイヤ状の電極の先端を神経組織の目的部位に容易に送達させることができる装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のワイヤ状電極微動装置10は、少なくとも1つのワイヤ状の電極11と、内側シース管12と、外側シース管13とを少なくとも備える。ワイヤ状電極11は、内側シース管12の内側に、電極11の先端を含む一部分が内側シース管12の一端の開口14から突出して電極突出部分11’を形成するように固定配置されている。更に、内側シース管12の開口14が形成された一端を含む一部分は、外側シース管13の内側に、内側シース管12の長手方向に摺動可能に挿入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのワイヤ状の電極を神経組織に刺入するための装置(電極微動装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
脳機能解明のために自由行動中の動物において単一神経活動の記録が行われる。脳などの神経組織中における活動電位を記録するための電極としてはワイヤ状の電極が使用される。神経組織中での活動電位の変化を記録するためにはワイヤ状の電極の先端を目的の部位に送達すること、更に好ましくは、電極移動の途中で記録できるようになった神経活動電位を安定して長期間連続的に記録することが望まれる。
【0003】
ワイヤ状電極の先端を脳内で微動させるための装置は従来から存在する。しかしながら従来の電極微動装置ではワイヤ状電極を保護する覆いがないために、ワイヤを脳の深部へ刺入する際にはポリエチレングリコールなどで固め、それが溶解する前に神経組織内に刺入する必要があった。また、電極移動の途中で記録できるようになった神経活動電位を安定して長期間連続的に記録できる装置は従来存在しない。また従来の装置は振動に対して弱く、動物が頭を激しく振っただけで、もしくは固形餌を噛んだだけで神経活動の記録が停止してしまうという問題があった。
本発明に関連する特許文献として特許文献1、2及び3を提示する。
【0004】
【特許文献1】特開2001−231759号公報
【特許文献2】特表平10−503105号公報
【特許文献3】特表2005−516697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、神経活動電位の記録又は神経細胞の刺激に用いる非常に細いワイヤ状の電極の先端を神経組織の目的部位に容易に送達させることができる装置を提供することを目的とする。
【0006】
本発明はまた、電極移動の途中で記録できるようになった神経活動電位を安定して長期間連続的に記録することが可能な電極の微動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは驚くべきことに以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
(1)ワイヤ状の電極を神経組織に刺入するための装置であって、少なくとも1つのワイヤ状の電極と、内側シース管と、外側シース管とを少なくとも備え、前記少なくとも1つのワイヤ状の電極は、前記内側シース管の内側に、前記電極の先端を含む一部分が前記内側シース管の一端の開口から突出して電極突出部分を形成するように固定配置されており、前記内側シース管の前記開口が形成された一端を含む一部分は、前記外側シース管の内側に、長手方向に摺動可能に挿入されており、前記内側シース管は前記外側シース管の内側において、前記電極突出部分の全体が前記外側シース管の内側に収容される位置と、前記電極突出部分の一部又は全部が前記外側シース管の一端の開口から突出される位置との間を摺動可能であることを特徴とする前記装置。
【0008】
(2)前記内側シース管の前記外側シース管に対する位置を自在に調整するための位置調整手段を更に含む(1)記載の装置。
【0009】
(3)前記位置調整手段は、前記内側シース管の、前記外側シース管に挿入されない部分の外壁に、前記内側シース管の長手方向に対して垂直に立設された第一支持板と、前記外側シース管の外壁に、前記外側シース管の長手方向に対して垂直に立設された、前記第一支持板と対向配置される第二支持板と、前記第一支持板及び前記第二支持板の一方の、前記第一支持板及び前記第一支持板及び前記第二支持板のうち前記螺子軸の先端側に位置する支持板である螺子軸先端側支持板の、前記螺子軸に対応する位置に開けられた、前記螺子軸と同数の、それぞれに前記螺子軸の1本が移動自在に挿入された貫通孔と、前記螺子軸の先端側の、前記貫通孔から突出した部分に螺合された位置決め用ナットと、前記螺子軸先端側支持板を前記位置決め用ナットに向けて付勢し前記位置決め用ナットに圧接させる付勢手段とを備えることを特徴とする、(2)記載の装置。
【0010】
(4)前記螺子軸を2本備え、前記螺子軸先端側支持板と、前記内側シース管及び前記外側シース管のうち前記螺子軸先端側支持板が外壁上に設けられた管とはそれぞれ撓み性を有しており、前記2本の螺子軸上にそれぞれ螺合された位置決め用ナットの前記螺子軸先端側支持板に当接する端部の位置を、螺子軸の長手方向に関して互いに異なる位置となるように調整することにより、撓み性を有する前記螺子軸先端側支持板と前記管とを撓曲させ、撓曲した前記螺子軸先端側支持板及び前記管が元の形状に戻ろうとする復元力により、前記内側シース管の外壁の一部と前記外側シース管の内壁の一部とが相互に圧接され、前記内側シース管が前記外側シース管に対して固定されるように構成されていることを特徴とする、(3)記載の装置。
【0011】
(5)前記付勢手段が、前記螺子軸の、前記第一支持板と前記第二支持板との間の部分の軸周りに圧縮して配置され、前記螺子軸先端側支持板を螺子軸の先端方向に付勢する伸長バネにより構成されることを特徴とする、(3)又は(4)記載の装置。
【0012】
(6)前記螺子軸が、前記第二支持板の、前記第一支持板に対向する側に垂直に固定配置されていることを特徴とする、(3)〜(5)のいずれかに記載の装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の装置によれば、神経活動電位の記録又は神経細胞の刺激に用いる非常に細いワイヤ状の電極の先端を神経組織の目的部位に、電極を損傷させることなく送達させることができる。
【0014】
更に本発明の装置の、位置調整手段を備えた実施形態によれば、神経組織内での電極移動の途中で記録できるようになった神経活動電位を安定して連続的に記録することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る装置の一実施形態の構造及び機能を図1に基づいて説明する。
【0016】
本発明に係る、ワイヤ状電極を神経組織に刺入するための電極微動装置10は、少なくとも1つ(図1に示す例では8本)のワイヤ状の電極11と、内側シース管12と、外側シース管13とを少なくとも備える。外側シース管13の内周面と内側シース管12の外周面とは摺動自在に当接している。少なくとも1つのワイヤ状の電極11は、内側シース管12の内側に、電極11の先端を含む一部分が内側シース管12の一端の開口14から突出して電極突出部分11’を形成するように固定配置されている。更に、内側シース管12の開口14が形成された一端を含む一部分は、外側シース管13の内側に、長手方向に往復動可能に挿入されている。そして、内側シース管12は外側シース管13の内側において、電極突出部分11’の全体が外側シース管13の内側に収容される位置(例えば図1(b))と、電極突出部分11’の一部又は全部が外側シース管13の一端の開口15から突出される位置(例えば図1(a))との間を摺動可能である。このような構成により、電極11を神経組織内の目的部位の近傍にまで近づける際には外側シース管13により電極11を保護し、なおかつ、神経組織内の目的部位において電極突出部分11’を露出させ神経活動の記録又は神経細胞の刺激を行うことが可能となる。
【0017】
すなわち本発明によれば、脳表から深いところにある神経細胞集団を標的にする場合でも、その近くまで電極の損傷もしくは屈曲の危険がなく進めることが可能となる。
【0018】
ワイヤ状電極を複数本用いる場合には、先端の配置は目的に応じて適宜決定することができる。例えば、複数のワイヤ状電極のうち少なくとも一つの先端が、他のワイヤ状電極の先端と比較して、ワイヤ状電極の集合体の軸方向の異なる位置に配置されていてもよいし、複数のワイヤ状電極の先端が、ワイヤ状電極の集合体の軸方向の同一位置に配置されていてもよい。更に、隣接するワイヤ状電極の先端の側面間に間隙が生じるように各先端が配置されていてもよいし、隣接するワイヤ状電極の先端の側面同士が互いに密接するように各先端が配置されていてもよい。図1に示すように、複数本のワイヤ状電極の突出部分11’を、内側シース管12の開口14を基点として互いに異なる方向に、外郭の最大径が外側シース管の内径よりも大きくなるように末広がり状に屈曲させると、内側シース管12を外側シース管13に対して摺動させることにより電極の先端間の距離を変動させることが可能となる。
【0019】
ワイヤ状電極としては例えば、導電性を有する線状芯材と、該線状芯材の外周を被覆する絶縁性の被覆層とから構成され、先端部において線状芯材が外部と接触可能に形成されたものが挙げられる。線状芯材を構成する材料は導電性材料であるかぎり特に限定されないが、典型的には、ニクロム、タングステン、ステンレス、プラチナイリジウム等が例示できる。線状芯材の太さとしては例えば5〜80μmが例示できる。線状芯材の長さは測定部位等に応じて適宜変更でき、典型的には数10cm程度、例えば10〜20cmである。被覆層を構成する材料は絶縁性材料であるかぎり特に限定されないが、エポキシ樹脂等の樹脂を使用することが好ましい。被覆層の厚さは、3〜20μmであることが好ましい。ワイヤ状電極の本数は適宜決定できる。
【0020】
図1の構成を更に詳細に説明する。内側シース管12は一方の端に開口14を有する中空の管状部材である。外側シース管13は一方の端に開口15を有する中空の管状部材である。外側シース管13の内周面と内側シース管12の外周面とは摺動自在に当接している。外側シース管13の長さは、内側シース管12よりも短い。内側シース管12は、その開口14側部分が、外側シース管13内に、開口14と開口15とが同一方向に向き、かつ、長手方向に摺動可能となるように挿入されている。内側シース管12の、内側シース管12の開口14とは異なる端の側の部分の側壁には、内側シース管12の内部空間と外部とを連絡する側壁開口16が形成されている。複数本のワイヤ状電極11はその先端が開口14から突出し(突出した部分を「電極突出部分11’」と呼ぶ)、他端(以下、「電極後端部分11’’」と呼ぶ)が側壁開口16から外部に現れるように、内側シース管12の内部空間内に固定して配置される。このとき、ワイヤ状電極を複数用いる実施形態では、ワイヤ状電極11はそれぞれの電極突出部分11’が、開口14の開口方向に対して90°未満の角度の範囲内で異なる方向を向くように、内側シース管12の開口14の近傍で屈曲されていることが好ましい。ワイヤ状電極11は、側壁開口16から接着剤17を注入することにより内側シース管12に固定される。
【0021】
更に、ワイヤ状電極11と重なるため図示していないが、内側シース管12の内部に開口14からも接着剤が注入され、ワイヤ状電極11は開口14の近傍においても内側シース管12に固定される。外側シース管13の開口15側端(外側シース管先端)が内側シース管12の開口14側端(内側シース管先端)よりも、内側シース管長手方向に関し先端側に位置する場合であって、内側シース管先端から外側シース管先端までの距離Lがワイヤ状電極突出部分11’の長さよりも小さい場合には、電極突出部分11’の先端からの一部は外部に露出する。外側シース管先端と内側シース管先端とが内側シース管長手方向に関し同一位置に位置する場合、または、外側シース管先端が内側シース管先端よりも、内側シース管長手方向に関し後端側に位置する場合には、電極突出部分11’の全体が外部に露出する。図1(a)では、外側シース管先端と内側シース管先端とが内側シース管長手方向に関し同一位置に位置する場合を示す。図1(b)では、外側シース管先端が内側シース管先端よりも、内側シース管長手方向に関し先端側に位置する場合であって、距離Lが突出部分11’の長さと同一である場合を示す。このとき、ワイヤ状電極突出部分11’は外側シース管13の内部に格納され、外部には露出しない。
【0022】
図1及び2に示す実施形態では内側シース管12の側壁開口16を通して電極後端部分11’’が外部に導かれているがこれには限定されない。他の実施形態では、内側シース管12の開口14側の端部とは反対の端部の開口を通じて電極後端部分11’’が外部に導かれる。当該他の実施形態では電極後端部分11’’が通る開口から内側シース管12内に接着剤を注入してワイヤ状電極を固定することができる。
【0023】
本発明の装置は、内側シース管12の外側シース管13に対する位置を自在に調整するための位置調整手段を更に含むことが好ましい。位置調整手段を備えることによりワイヤ状電極を神経組織内で微動させることが可能となる。またワイヤ状電極11が刺入される長さを微調整することが容易となる。
【0024】
当該位置調整手段を含む本発明の更に好ましい実施形態の構成及び機能を図2に基づき説明する。更に図2(a)の装置の上面図を図3(a)に、図2(a)の装置の下面図を図3(b)にそれぞれ示す。
【0025】
本発明における位置調整手段は、内側シース管12の、外側シース管13に挿入されない部分の外壁に、内側シース管12の長手方向に対して垂直に立設された第一支持板21と、外側シース管13の外壁に、外側シース管13の長手方向に対して垂直に立設された、第一支持板21と対向配置される第二支持板22と、第一支持板21及び第二支持板22の一方(図2、3では第二支持板22)の、第一支持板21及び第二支持板22の他方に対向する側に垂直に固定配置された少なくとも1本(図2、3では2本)の螺子軸23と、前記第一支持板及び前記第二支持板のうち前記螺子軸の先端側に位置する支持板である螺子軸先端側支持板(図2、3では第一支持板21)の、螺子軸23に対応する位置に開けられた螺子軸23と同数の、それぞれに螺子軸23の1本が移動自在に挿入された貫通孔と、螺子軸23の先端側の、前記貫通孔から突出した部分に螺合された位置決め用ナット27と、前記螺子軸先端側支持板を前記位置決め用ナット27に向けて付勢し圧接させる付勢手段と、を備える。
【0026】
前記付勢手段は好ましくは、螺子軸23の、第一支持板21と第二支持板22との間の部分の軸周りに圧縮して配置され、他方の第一又は第二支持板を螺子軸23の先端方向に付勢する伸長バネ26により構成される。
【0027】
好ましくは、螺子軸23は図2及び3に示すように2本であり、螺子軸先端側支持板は撓み性を有する。2本の螺子軸23,23のうちの一方に螺合された位置決め用ナット27だけを移動させたときには、電極突出部分11’は位置決め用ナット27の移動距離の半分の距離しか移動しない。従って電極の移動距離の微調整が可能となる。螺子軸23の溝のピッチを狭くすることは困難であるが、2本の螺子軸23,23を設け、なおかつ螺子軸先端側支持板を撓み性のある素材で構成すれば、螺子軸23の溝のピッチを半分にすることと同等の効果が得られるのである。螺子軸23を2本備えた実施形態においては更に、螺子軸先端側支持板のみならず、内側シース管12及び外側シース管13のうち螺子軸先端側支持板が外壁上に設けられた管(図2では内側シース管12)は撓み性を有していることが好ましい。このとき2本の螺子軸上の位置決め用ナット27,27の螺子軸先端側支持板に当接する端部の位置を、螺子軸の長手方向に関して互いに異なる位置となるように調整することにより、螺子軸先端側支持板と、撓み性を有する管とをそれぞれ撓曲させ、撓曲した螺子軸先端側支持板及び管が元の形状に戻ろうとする復元力により、内側シース管12の外壁の一部と外側シース管13の内壁の一部とが相互に圧接され、内側シース管12が外側シース管13に対して固定される。
【0028】
図4(c)は、螺子軸先端側支持板である第一支持板21と内側シース管12とをそれぞれ撓曲させ、内側シース管12の軸を外側シース管13の軸に対して若干傾斜させることで内側シース管12を固定する例を示す。なお図4(c)では理解し易いように、内側シース管12のうち、螺子軸先端側支持板よりも、外側シース管に挿入されない端の側の部分(撓曲しない部分)の軸と外側シース管13の軸とのなす角度を誇張して描写しているが、実際には当該角度が0.5〜5°程度の範囲となるようにすることが好ましい。この結果、電極微動装置が固定された実験動物が激しく運動した場合や、電極微動装置の一部が壁に衝突した場合であっても測定される神経活動の記録が失われにくい。螺子軸先端側支持板の変形率は、該螺子軸先端側支持板が設けられた撓み性を有する管の変形率よりも小さいことが好ましい。撓み性を有する螺子軸先端側支持板と該螺子軸先端側支持板が設けられた撓み性を有する管とは、位置決め用ナット27,27の螺子軸先端側支持板に当接する端部の位置を、螺子軸の長手方向に関して互いに同じ位置としたとき、それぞれが有する復元力により元の形状に戻ることができる。
【0029】
位置決め用ナット27は動物の動きなどによる振動による緩みを防止するためにナイロンロック付のナットであることが好ましい。
【0030】
螺子軸23は、第二支持板22の、第一支持板21に対向する側に垂直に固定配置されていることが好ましい。
【0031】
螺子軸23の固定方法は特に限定されないが、例えば図2,3に示すように、螺子軸23の基部に拡径された螺子頭部28が形成されている場合には、第一支持板21又は第二支持板22の一方に形成された、螺子頭部28よりも径が小さく螺子軸23よりも径が大きい挿通孔に螺子軸23を通し、更に螺子軸23の先端側から螺子頭部固定用ナット24を螺合し締め付けることにより、螺子軸23を固定することができる。
【0032】
図2,3には、2本の螺子軸23,23が第二支持板22上に固定された本発明の好ましい実施形態を示す。図2,3に基づいて本発明を更に詳細に説明する。第一支持板21および第二支持板22にはそれぞれ螺子軸貫通孔(図示せず)が2つ、第一支持板21と第二支持板22とを対向させたときに対向する位置に形成されている。2本の螺子軸23,23は、それぞれ頭部28,28が第二支持板22側、軸先端部が第一支持板21側になるよう平行に配置される。螺子頭部28,28は、螺子頭部固定用ナット24,24を第二支持板22側に締め付けることにより、第二支持板22に固定される。螺子軸23,23の、螺子頭部固定用ナット24,24よりも先端側には更に、後述する伸長バネ26,26の一端を支持するバネ支持用ナット25,25が螺合されている。バネ支持用ナット25,25の螺子軸先端側の面と、第一支持板21の螺子頭部側の面との間には伸長バネ26,26が圧縮して配置されている。伸長バネ26,26はそれぞれ、第一支持板21を螺子軸先端方向に付勢している。螺子軸23,23の第一支持板21よりも先端側には位置決め用ナット27,27が螺合されている。位置決め用ナット27,27を締め付け方向に回すことにより第一支持板21に固定された内側シース管12を、外側シース管13の先端方向に送り出すことができる。一方、位置決め用ナット27,27を緩め方向に回すことにより内側シース管12を逆方向に後退させることができる。図2(a)は、位置決め用ナット27,27を緩めた状態の図であり、このとき、ワイヤ状電極突出部分11’は全て外側シース管13内に格納されている。図2(a)における先端の内部構造は図1(b)に対応する。図2(b)は、位置決め用ナット27,27を締め付けた状態の図であり、このとき、ワイヤ状電極の突出部分11’は外側シース管13の開口15を通じて外部に露出している。図2(b)における先端の内部構造は図1(a)に対応する。
【0033】
このようにして、位置決め用ナット27,27の締め付け位置を適宜調整することにより、ワイヤ状電極の突出部分11’の外側シース管13からの突出長さを自在に調整することができる。更に、バネ支持用ナット25,25の螺子軸23,23上での位置を調整することにより、伸長バネ26,26による付勢力の大きさと、ワイヤ状電極突出部分11’の突出長さとの関係を自在に調整することができる。なお、図1及び2には図示を省略したが、電極後端部分11’’は電位変化を記録するための装置に電気的に接続される。
【0034】
次に図4を参照して本発明の装置を用いて脳組織内にワイヤ状電極先端部分11’を送達させる手順の概略を説明する。図4(a)に示すように、まず実験動物を麻酔させ、頭蓋骨40の一部分に孔41を開ける。次いで、図4(b)に示すように、本発明の電極微動装置10の外側シース管13を、ワイヤ状電極先端部分11’が格納された状態で脳組織42の所定の位置まで刺入する。更に電極微動装置10をアクリルレジン等の接着剤43により頭蓋骨40に固定する。アクリルレジンのように骨との接着性のない接着剤を使用する場合にはアンカーボルト44,44を頭蓋骨40に取り付けることにより接着を補助する。図4に示すように、電極の先端が所望の標的部位に到達したときに伸長バネ26,26の付勢力が最大になるように、バネ支持用ナット25,25の位置を適宜調整することができる。次いで、図4(c)に示すように、実験動物の回復後にワイヤ状電極突出部分11’を脳組織42内の所望の位置に送り出し、神経活動の記録を行う。
【実施例】
【0035】
本実施例では、図2及び3に示す装置を製造し、図4に示す手順でラットの脳内における神経活動電位を記録した。内側シース管12としてステンレス鋼製の外径0.6mm、内径0.3mmの管を使用し、外側シース管13としてステンレス鋼製の外径0.9mm、内径0.6mmの管を使用した。ワイヤ状電極11としては、下記の手順で得られたワイヤ状電極(直径40μmのニクロム線の周囲を厚さ12μmのエポキシ被膜により覆い、先端部に後述する処理を施したもの)を8本使用した。ワイヤ状電極の突出部分11’の長さは7mmとした。本実施例に用いた装置では、ワイヤ状電極の突出部分11’が外側シース管13の開口15から送り出される突出長さ(移動距離)が3mm程度までであれば、突出部分11’の束は放射状には広がらない。それ以上移動させると徐々に広がっていく。
【0036】
まず、外側シース管13の内部にワイヤ状電極11を完全に格納した状態(すなわち図2(a)の状態)で、ラットの脳内に外側シース管13の先端を挿入した。具体的には、ラットをペントバルビタール(50mg/kg)で麻酔し脳定位装置に固定して Bregma より2mm後方、正中より0.5mm右の頭蓋骨に約2mmの孔を開け脳表より5.5mmの深さまで外側シース管13の先端を刺入し、刺入した状態でアクリルレジンにより固定した。外側シース管13の先端は視床下部室傍核の上方2mmに位置するようにした。麻酔から覚醒する前に記録用の前置アンプを電極後端部分11’’にコネクターを介して接続した。
【0037】
ラットの十分な回復を待って、約3日以降より2つの位置決め用ナット27,27を交互に締め付け方向に回しながらワイヤ状電極先端を送り出して移動させ、目的の部位に近づけながら記録を行った。ワイヤ状電極先端が3mm移動したところを終点とした。
【0038】
本発明の電極による測定結果の一例を図5に示す。図5は、一定以上の振幅をもつ活動電位を切り出し、電極毎(#1〜#8)に重ね合わせたものである。
【0039】
本発明の電極では8本のうち6〜7本の電極において最大で1.5mVの振幅の活動が記録できた。図5に示した例では#3及び#7において同時に約1mVの活動が記録できた。#3及び#7以外の6本についても100〜200マイクロボルトの活動が複数記録できた。また、8本の電極を同時に脳内で3mm移動させる間に、#3及び#7以外の電極でも1mV級の活動が記録された。移動中はそれぞれの電極において、振幅は変化するものの途切れなく神経活動が記録された。
【0040】
なお本実験で用いたワイヤ状電極は次の手順で作製した。
1.電極の作成
1.1.エポキシ被膜の作成
直径40μmのニクロム線を15センチに切り、最下部に重りを付け垂直に吊るした。それにエポキシを含ませたブラシを当て、必要な長さを下方向に移動させてからブラシを離した。同様の操作を方向を180度変えてもう一度行った。室温で5分程度乾燥させてからオーブンに入れて100℃で20分間、更に180℃で30分間加温した。この操作(塗布〜加温)を10回反復した。こうして得られたエポキシ被膜の厚さは12μmであった。一端をハサミで切断し、第一次電極を作成した。
【0041】
1.2.機械的研磨
小型モーターシャフトの先端に固着されたダイアモンドパウダーを高速回転させ、上記1.1で得られた第一次電極の先端を接触させた。小型モータと電極の立体位置関係を少しずつずらすことにより先端がテーパー状となった第二次電極を得た。
【0042】
1.3.電解
1.2で得られた第二次電極の先端部と、対極としての銀線とを共に食塩水等に浸し、定電流装置のプラス側を第二次電極に、マイナス側を銀線にそれぞれ接続し、通電を行った。通電は、5マイクロアンペアで12分間行った。こうして得られた本発明の電極の先端には、110マイクロメータの深さを有するキャビティ(空洞)が形成された。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例で作成し使用した、複数本(8本)のワイヤ状電極を備えた電極微動装置の先端部分の断面模式図である。
【図2】実施例で作成し使用した、複数本(8本)のワイヤ状電極を備え、ワイヤ状電極の突出長さを自在に調整するための位置調整手段を含む電極微動装置の斜視図である。
【図3】図2(a)に示す装置の上面図及び下面図を示す。
【図4】本発明の電極微動装置を用いて脳内の活動電位を測定する手順を示す。
【図5】本発明の電極を8本組み合わせたときの神経活動電位の記録結果を電極毎に示す。
【符号の説明】
【0044】
10・・・電極微動装置
11・・・ワイヤ状電極
11’・・・ワイヤ状電極突出部分
11’’・・・電極後端部分
12・・・内側シース管
13・・・外側シース管
14・・・内側シース管の開口
15・・・外側シース管の開口
16・・・内側シース管の側壁開口
17・・・接着剤
21・・・第一支持板(螺子軸先端側支持板)
22・・・第二支持板
23・・・螺子軸
24・・・螺子頭部固定用ナット
25・・・バネ支持用ナット
26・・・伸長バネ
27・・・位置決め用ナット
28・・・螺子頭部
40・・・頭蓋骨
41・・・孔
42・・・脳組織
43・・・接着剤
44・・・アンカーボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ状の電極を神経組織に刺入するための装置であって、
少なくとも1つのワイヤ状の電極と、内側シース管と、外側シース管とを少なくとも備え、
前記少なくとも1つのワイヤ状の電極は、前記内側シース管の内側に、前記電極の先端を含む一部分が前記内側シース管の一端の開口から突出して電極突出部分を形成するように固定配置されており、
前記内側シース管の前記開口が形成された一端を含む一部分は、前記外側シース管の内側に、長手方向に摺動可能に挿入されており、
前記内側シース管は前記外側シース管の内側において、前記電極突出部分の全体が前記外側シース管の内側に収容される位置と、前記電極突出部分の一部又は全部が前記外側シース管の一端の開口から突出される位置との間を摺動可能である
ことを特徴とする前記装置。
【請求項2】
前記内側シース管の前記外側シース管に対する位置を自在に調整するための位置調整手段を更に含む請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記位置調整手段は、
前記内側シース管の、前記外側シース管に挿入されない部分の外壁に、前記内側シース管の長手方向に対して垂直に立設された第一支持板と、
前記外側シース管の外壁に、前記外側シース管の長手方向に対して垂直に立設された、前記第一支持板と対向配置される第二支持板と、
前記第一支持板及び前記第二支持板の一方の、前記第一支持板及び前記第二支持板の他方に対向する側に垂直に固定配置された少なくとも1本の螺子軸と、
前記第一支持板及び前記第二支持板のうち前記螺子軸の先端側に位置する支持板である螺子軸先端側支持板の、前記螺子軸に対応する位置に開けられた、前記螺子軸と同数の、それぞれに前記螺子軸の1本が移動自在に挿入された貫通孔と、
前記螺子軸の先端側の、前記貫通孔から突出した部分に螺合された位置決め用ナットと、
前記螺子軸先端側支持板を前記位置決め用ナットに向けて付勢し前記位置決め用ナットに圧接させる付勢手段と
を備えることを特徴とする、請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記螺子軸を2本備え、
前記螺子軸先端側支持板と、前記内側シース管及び前記外側シース管のうち前記螺子軸先端側支持板が外壁上に設けられた管とはそれぞれ撓み性を有しており、
前記2本の螺子軸上にそれぞれ螺合された位置決め用ナットの前記螺子軸先端側支持板に当接する端部の位置を、螺子軸の長手方向に関して互いに異なる位置となるように調整することにより、撓み性を有する前記螺子軸先端側支持板と前記管とを撓曲させ、撓曲した前記螺子軸先端側支持板及び前記管が元の形状に戻ろうとする復元力により、前記内側シース管の外壁の一部と前記外側シース管の内壁の一部とが相互に圧接され、前記内側シース管が前記外側シース管に対して固定されるように構成されていることを特徴とする、請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記付勢手段が、前記螺子軸の、前記第一支持板と前記第二支持板との間の部分の軸周りに圧縮して配置され、前記螺子軸先端側支持板を螺子軸の先端方向に付勢する伸長バネにより構成されることを特徴とする、請求項3又は4記載の装置。
【請求項6】
前記螺子軸が、前記第二支持板の、前記第一支持板に対向する側に垂直に固定配置されていることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−88821(P2010−88821A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264539(P2008−264539)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】