説明

ワイヤ錠

【課題】自転車や手荷物等を支持構造物に繋止するためのワイヤ錠の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、フック部を有し、このフック部の開閉を制御する錠本体と、可撓性を有する直線状のワイヤ本体とを備えるワイヤ錠であって、ワイヤ本体の一端にループ部が形成され、他端に錠本体が連結され、錠本体がループ部に挿通可能であることを特徴とするワイヤ錠である。この錠本体のフック部がワイヤ本体に掛止可能であるとよい。また、この錠本体が施錠及び解錠を制御する複数個のダイヤルを備えるとよい。また、ワイヤ本体の外接円における直径が2mm以上6mm以下であること、ワイヤ本体が形状記憶特性を有さない弾性体であること、ワイヤ本体の可撓度が900以上1500以下であること、ワイヤ本体の外周に合成樹脂が被覆されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車や手荷物等を、街路樹等の支持構造物に繋止するためのワイヤ錠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自転車やレジャー用品(キャンプ用品、サーフボード等)、手荷物品などを一時的に放置する場合に、これらの物品を盗難から保護する必要がある。特に、自転車においては、盗難防止の手段としてワイヤ錠が広く普及している。このワイヤ錠は、複数の鋼線を撚り合わせたワイヤと、このワイヤの両端部を鍵やダイヤル等により開閉する錠本体とを備えるものが一般的であり、このようなワイヤを自転車の前輪や後輪等に巻き付けて車輪の回転を規制したり、自転車の一部分と街路樹等の支持構造物とをワイヤで一体的に捲回し、錠本体により固定することで、自転車の運転や持ち去りによる盗難を防止することができる。
【0003】
このような自転車用のワイヤ錠としては、例えば、(1)屈曲可能かつ引張りに対する剛性が高い長尺部材であるワイヤと、このワイヤの一端部に設けられた施錠杵と、他端部に設けられた錠本体とから形成されており、施錠時には施錠杵と錠本体とが係止状態に維持されて全体がループ状に形成される二輪車用錠において、錠本体の鍵孔形成面及び施錠杵と錠本体との係止箇所以外の部分が、軟質ゴム等により被覆されていることを特徴とする二輪車用錠が開発されている(特開2008−57197号公報参照)。また、(2)可撓性のあるワイヤロープの一端に接続された錠本体と、このワイヤロープの他端に設けられ、錠本体と係脱自在に係合する係合部とを備えたワイヤ錠が開発されている(特開2005−67412号公報参照)。このワイヤ錠のワイヤロープの周囲には、可撓性のある細いワイヤがコイル状に巻き付けられている。この細いワイヤは、両端部にループ部を有し、このループ部にワイヤロープが挿通可能であることを特徴とするものである。
【0004】
しかしながら、(1)特開2008−57197号公報に開示の二輪車用錠は、ワイヤ自体は屈曲可能であるものの剛性が高く、所望の方向に自在に屈曲・変形させることが困難であり、取扱いが困難となる不都合がある。また、このワイヤの形状が単純なループ状であり、また、ワイヤの長さもある程度制限されることから、自転車各部への取り付け箇所や取り付けパターンが単純化し、その結果、ワイヤの1カ所を切断するのみでロックを解除でき、さらには自転車ごと持ち去られ盗難されるという不都合がある。また、(2)特開2005−67412号公報に開示のワイヤ錠は、ワイヤロープの周囲にコイル状に巻き付けられた可撓性のある細いワイヤを展開して構造物に巻き付けることで自転車を構造物に繋止することができるが、ワイヤ錠の構造が複雑化し、自転車と支持構造物との繋止及び離脱作業が容易ではなくなるという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−57197号公報
【特許文献2】特開2005−67412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、これらの不都合に鑑みてなされたものであり、シンプルな構造により一対の施錠対象物の連結及びその解除を容易かつ確実に実現することができ、さらに、軽量・コンパクトで持ち運びに便利なデザイン性の高いワイヤ錠の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、
フック部を有し、このフック部の開閉を制御する錠本体と、可撓性を有する直線状のワイヤ本体とを備えるワイヤ錠であって、
上記ワイヤ本体の一端にループ部が形成され、他端に錠本体が連結され、
上記錠本体がループ部に挿通可能であることを特徴とするワイヤ錠である。
【0008】
当該ワイヤ錠は、錠本体とワイヤ本体とから主として構成されるものであり、ワイヤ本体の一端に錠本体が連結され、他端にループ部が形成されるというスマートかつシンプルな構造を有する。このワイヤ本体は、可撓性を有する直線状の部材であることから、柔軟性が高く、容易に曲げ、捻ることができ、施錠対象物への捲回・固定や未使用時における収納・コンパクト化などの取扱いにおいて、極めて高い利便性を発揮することができる。
【0009】
具体的には、フック部を有する当該錠本体は、ワイヤ本体のループ部に挿通可能であることから、一対の施錠対象物の一方にワイヤ本体を捲回させた後、ワイヤ本体のループ部に錠本体を一体的に挿通させ、次いで錠本体を施錠対象物の他方に捲回させた後にワイヤ本体にフック部を掛止させる等の種々の手段により、当該ワイヤ錠と一対の施錠対象物とを容易かつ確実に捲着・固定することができる。
【0010】
通常のワイヤ錠は、ワイヤ本体の長さの約半分以下の距離にある一対の施錠対象物しか連結することができないが、当該ワイヤ錠は、上述の連結方法によると、ワイヤ本体の長さを有効に利用し、比較的離れた距離にある一対の施錠対象物を連結することができる。さらに、当該ワイヤ錠は、ワイヤ本体のループ部から比較的小さく捲回し、最後に錠本体をループ部に挿通することで、コンパクトに纏めることができ、収納性、持ち運び性等が向上する。
【0011】
上述したように、上記錠本体のフック部は、ワイヤ本体に掛止可能であるとよい。この錠本体のフック部がワイヤ本体に掛止可能であることで、ワイヤ本体を施錠対象物に捲着した状態において、錠本体をワイヤ本体の任意の箇所に掛止し、当該ワイヤ錠と一対の施錠対象物とを確実に捲着できると共に、その捲着パターンの複雑化を図ることができる。
【0012】
上記錠本体は、施錠及び解錠を制御する複数個のダイヤルを備えるとよい。この錠本体が施錠及び解錠を制御する複数個のダイヤルを備えることで、鍵や鍵穴を用意する必要がなく、錠本体のみで施錠及び解錠を制御できることから、ワイヤ錠の取扱い及び利便性が向上する。また、上記錠本体がダイヤル式であることで、錠本体を構成する部材の縮小化を図り、錠本体の小型化・コンパクト化を実現することができ、その結果、錠本体をワイヤ本体のループ部へ容易かつスムーズに挿通することができる。
【0013】
上記ワイヤ本体は、複数の鋼線を撚り合わせてなる芯線と、芯線の外周に螺旋状に捲回されるストランドと、この芯線とストランドとの間に挟入される間質材とを有し、上記ワイヤ本体の外接円における直径が2mm以上6mm以下であるとよい。このワイヤ本体の芯線とストランドとの間に間質材が挟入され、外接円における直径が上記範囲に調整されることで、ワイヤ本体の柔軟性が向上し、ワイヤ本体の捲着作業が容易になると共に、不使用時における収納のコンパクト化を効果的に実現することができる。
【0014】
上記ワイヤ本体は、形状記憶特性を有さない弾性体であるとよい。このワイヤ本体が形状記憶特性を有さない弾性体であることで、ワイヤ本体に屈曲・撚回等の負荷を加えて変形させた場合であっても、かかる負荷を解除すると、変形時の形状を記憶することなく元の形状に容易に復元することができ、取扱いの利便性をより一層向上することができる。
【0015】
上記ワイヤ本体の可撓度としては、900以上1500以下が好ましい。このワイヤ本体の可撓度を上記範囲とすることで、ワイヤ本体の柔軟性や曲げやすさをより一層向上することができ、その結果、取扱いの簡便性を著しく向上することができる。
【0016】
上記ワイヤ本体の外周に合成樹脂が被覆されているとよい。このワイヤ本体の外周に合成樹脂が被覆されていることで、ワイヤ本体の柔軟性及び取扱い容易性を確保しつつ、良好な耐久性、防水性及び防錆性をバランス良く付与することができる。
【0017】
上記ワイヤ錠は、自転車用ワイヤ錠として好適に使用され得る。自転車は、特に盗難がされやすく、その構造や形状も複雑であることから、上記ワイヤ錠を自転車の盗難防止用具として用いることで、ワイヤ本体を自転車及び電柱等の施錠対象物に対して容易かつ確実に捲着・固定することができる。また、このような自転車用ワイヤ錠のワイヤ本体の捲着回数や捲着箇所を調整し、捲着パターンを複雑化することで盗難防止効果をさらに向上することができる。
【0018】
ここで、「ワイヤ本体の外接円における直径」とは、JISG−3525に規定されている「実際径の測定」に準拠した値である。「形状記憶特性」とは、ワイヤ本体を屈曲・撚回等して変形させた場合に、その変形した形状を継続的に維持する特性を意味する。「可撓度」とは、ワイヤロープの可撓性を定量的に表示するための尺度であり、ワイヤロープと等径の丸鋼棒の曲げ特性とワイヤロープの曲げ特性との比を意味する。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明のワイヤ錠は、スマートかつシンプルな構造を有し、簡単な作業により、一対の施錠対象物を様々な捲着パターンで固定・繋止することができる。また、本発明のワイヤ錠は、未使用時においてコンパクトに纏めて持ち運ぶことが容易となることから、特に、自転車、レジャー用品、手荷物品等の盗難防止のために広く好適に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るワイヤ錠の一実施形態を示す側面図である。
【図2】図1のワイヤ錠の錠本体の内部構造を一方の側面から見た側面図である。
【図3】図1のワイヤ錠の錠本体の内部構造を他方の側面から見た側面図である。
【図4】図1のワイヤ錠のワイヤ本体の模式的断面図である。
【図5】図1のワイヤ錠を一対の施錠対象物に捲着・固定した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、適宜図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳説する。
【0022】
図1のワイヤ錠1は、錠本体2及びワイヤ本体3を備える。
【0023】
錠本体2は、ワイヤ本体3に掛止することで、施錠対象物と、施錠対象物に捲回したワイヤ本体3とを一体的に固定するための部材である。この錠本体2は、ボディ部4と、フック部5と、フック部5の開閉を制御するゲート部6と、フック部5及びゲート部6の施錠及び解錠を調整する施錠・解錠制御機構7と、ワイヤ本体3との連結部8とを主として備える。なお、ボディ部4は、後述するダイヤル15の表面に記された番号を確認するための切欠部分(窓)を有する。
【0024】
フック部5は、ボディ部4から一体的に延出・湾曲する部材であり、ワイヤ本体3に掛止することができる。このフック部5の先端凸部9(図示せず)がゲート部6の先端凹部10(図示せず)にスライドして嵌合することで、フック部5及びゲート部6が互いに連結して閉止し、その結果、掛止されたワイヤ本体3が錠本体2から離脱することを防ぐことができる。
【0025】
ゲート部6は、図2及び図3に示す通り、その一部がボディ部4の内部に埋設されており、ピン11を回転軸として上下に揺動する。このゲート部6の揺動は、ボディ部4内部においてピン11に捲着されるバネ弾性体12の弾性運動と連動する。このようなゲート部6の揺動及びピン11の弾性運動の連動により、ゲート部6の一部を押圧すると、ゲート部6がピン11を回転軸としてボディ部4内部に沈降し、押圧を解除するとボディ部4内部より跳ね上がり、ゲート部6の先端凹部10がフック部5の先端凸部9に嵌合する。また、ゲート部6には、後述するように、ゲート6の揺動を阻止するためのストッパ13が一体的に形成されている。なお、ピン11の素材としては、特に限定されるものではなく、例えば形状記憶合金などの金属等が挙げられる。
【0026】
施錠・解錠制御機構7は、フック部5及びゲート部6の閉止・開放を制御することで、錠本体2の施錠及び解錠を調整する。具体的には、フック部5及びゲート部6が連結し閉止した状態を維持するのが施錠制御であり、フック部5及びゲート部6が自在に開閉可能な状態を維持するのが解錠制御である。この施錠・解錠制御機構7の種類としては、特に限定されないが、複数個のダイヤルを備えるダイヤル式であることが好ましい。かかる施錠・解錠制御機構7がダイヤル式の施錠・解錠制御機構であることにより、鍵や鍵穴を用意する必要がなく、施錠・解錠の取扱い及び利便性が向上する。
【0027】
上記ダイヤル式の施錠・解錠制御機構7の構造を詳説すると、ダイヤル式の施錠・解錠制御機構7は、図2及び図3に示す通り、軸部14、ダイヤル15、設定カム16、圧接用スプリング17、暗証番号設定キャップ18、ロックプレート19及びリターンスプリング(図示せず)を主として有する。さらに、ロックプレート19は、凸状カム部20及びストッパ21を備える。
【0028】
軸部14は、ダイヤル15、設定カム16、圧接用スプリング17及び暗証番号設定キャップ18を嵌合・配設させるための基礎となる部材である。この軸部14は、略円柱状の形状を有し、ボディ部4内部において等間隔に3本突設されている。
【0029】
ダイヤル15は、中心部に軸部14を挿通するための中心孔が設けられており、かかる中心孔に軸部14が挿通することで回転可能となる円盤状の部材である。このダイヤル15には、表面側に0番から9番までの数字が同心円状かつ等間隔に記されている。一方、ダイヤル15の裏面側には、上記中心孔と同心円状に円形の凹部(図示せず)が形成されており、この凹部内には上記数字0番から9番に対応する10個の球面状突起(図示せず)が形成されている。また、後述する通り、ダイヤル15の中心孔は、暗証番号設定キャップ18を挿通可能な大きさに調整されている。
【0030】
設定カム16は、ダイヤル15の裏面側の円形凹部に遊嵌する径を有する円盤状の部材である。この設定カム16には、中心部に軸部14を挿通するための中心孔と、ダイヤル15裏面の球面状突起と合致する位置に配設される10個の球面状凹部(図示せず)と、ロックプレート19の凸状カム部20に遊嵌する形状の切欠部とがそれぞれ形成されている。また、後述する通り、設定カム16の中心孔は、暗証番号設定キャップ18を挿通できない大きさに調整されている。
【0031】
圧接用スプリング17は、軸部14に嵌合するものであり、設定カム16の中心孔を挿通することなく設定カム16を裏面側から押圧するコイル状の部材である。この圧接用スプリング17は、軸部14に嵌合した状態において、設定カム16の裏面に弾接し、設定カム16の表面をダイヤル15の裏面凹部に圧接させることで、上記ダイヤル15裏面凹部の球面状突起を設定カム16表面の球面状凹部に遊嵌することができる。このように、ダイヤル15裏面凹部の球面状突起が設定カム16表面の球面状凹部に遊嵌した状態で、ダイヤル15及び設定カム16は、軸部14を中心に一体的に回転することができる。
【0032】
暗証番号設定キャップ18は、一端が開放し、他端が閉塞する略円筒状の部材であり、軸部14にダイヤル15、設定カム16及び圧接用スプリング17が嵌合している状態において、さらにダイヤル15の上部から軸部14に嵌合するものである。暗証番号設定キャップ18は、ダイヤル15の中心孔を挿通可能であるが、設定カム16の中心孔を挿通することはできない。その結果、暗証番号設定キャップ18を押圧すると、暗証番号設定キャップ18が設定カム16の表面を圧接し、ダイヤル15裏面凹部の球面状突起と設定カム16表面の球面状凹部との遊嵌を解除することができる。
【0033】
ロックプレート19及びリターンスプリングは、ボディ部4内部において、設定カム16と略同一高さの位置に配置される部材である。ロックプレート19は、上記3個のダイヤル15の配列方向にシフト移動可能であり、リターンスプリングを介してダイヤル15の配列方向に沿った方向に付勢される。このリターンスプリングは、一端がロックプレート19に弾接し、他端がボディ部4内部の壁面に弾接することで、ダイヤル15の配列方向への付勢力を発揮することができる。
【0034】
上記ロックプレート19には、ダイヤル15の配列方向に突出する凸状カム部20が一体的に形成されている。この凸状カム部20は、設定カム16の切欠部内に遊挿可能な相似形状を有している。また、ロックプレート19には、図3に示す通り、ダイヤル15の配列方向と直交する方向にストッパ21が一体的に形成されている。
【0035】
このように、錠本体2は、錠本体2を構成する各部材がコンパクトかつ一体的に構成されており、錠本体2のサイズの大幅な縮小化を実現することができる。その結果、錠本体2は、後述するように、ワイヤ本体3のループ部22を容易かつスムーズに挿通することができる。なお、錠本体2を構成する上記部材の素材としては、特に限定されるものではなく、例えば鉄などの金属やセラミックス等が挙げられる。
【0036】
連結部8は、錠本体2とワイヤ本体3とを連結するための部分である。かかる連結部8は、ボディ部4において、ゲート部6及び施錠・解錠制御機構7の機能を阻害しない任意の箇所に連結穴を穿設して形成される。この連結部8にワイヤ本体3を挿通・繋着することで、錠本体2とワイヤ本体3とを強固に連結することができる。なお、この連結部8において挿通・繋着されたワイヤ本体3は、後述するループ部22と同様のループ構造を採用することができる。
【0037】
ワイヤ本体3は、可撓性を有する直線状のワイヤであり、一対の施錠対象物を捲回・繋止するための部材である。このワイヤ本体3の一端には上述した錠本体2が連結され、他端にはループ部22が形成される。このワイヤ本体3の構造を詳説すると、図4に示す通り、ワイヤ本体3は、複数の鋼線23から構成される1本の芯線24と、複数の鋼線23から構成される6本のストランド25と、芯線24とストランド25との間に挟入される間質材26とを有する。
【0038】
ループ部22は、街路樹や電柱等の施錠対象物に捲回したワイヤ本体3を挿通するための部分である。かかるループ部22の構造を詳説すると、長手方向に延伸するワイヤ本体3の一端が屈折・湾曲し、このワイヤ本体3の先端部がワイヤ本体3に固定されることでループが形成される。このループ部22は、錠本体2及びワイヤ本体3を一体的に挿通させることができるため、ワイヤ本体3の施錠対象物への捲着・離脱操作が容易となる。なお、このループ部22の中空部分の面積については、特に限定されず、錠本体2が挿通可能である程度の面積であればよい。
【0039】
上述したループ部22を形成する際のワイヤ本体3の先端部とワイヤ本体3との固定手段については、特に限定されず、例えばワイヤ本体3の先端部とワイヤ本体3との接触部分をアルミ等の金属素管によりプレス・被覆し、この金属の周囲を更に合成樹脂等で被覆することが挙げられる。このように、ワイヤ本体3の先端部とワイヤ本体3との接触部分を金属及び合成樹脂で被覆することで、ループ部22の強度及び耐久性を向上させ、ループ部22におけるループの解除や破損を効果的に防止することができる。
【0040】
鋼線23は、芯線24及びストランド25を構成する最小単位の素線である。この鋼線23の素材としては、特に限定されず、例えばピアノ鋼線、硬鋼線、PC硬鋼線、オイルテンパー鋼線、亜鉛メッキ鋼線、ステンレス鋼線、チタン鋼線、チタン合金鋼線等が挙げられ、中でも、許容応力が高く、繰り返し荷重に対する高い耐久力を有するピアノ鋼線であることが好ましい。
【0041】
芯線24は、鋼線23を複数撚り合わせて形成される。この芯線24の撚り合わせの構造については、特に限定されず、例えば1本の鋼線23に6本の鋼線23を撚り合わせるとよい。このように、1本の鋼線23に6本の鋼線23を撚り合わせることで、芯線24の引張強度及び柔軟性をバランス良く発揮することができる。
【0042】
ストランド25は、鋼線23を複数撚り合わせて形成され、芯線24の外周に螺旋状に捲回される。かかるストランド25の撚り合わせの構造については、特に限定されず、上述した芯線24の場合と同様に、1本の鋼線23に6本の鋼線23を撚り合わせてストランド25の柔軟性を向上することができる。また、1本の鋼線23に6本の鋼線を撚り合わせつつ、その周囲に更に9本の鋼線23を撚り合わせて2層構造とすることもできる。このように、ストランド25を構成する鋼線23を2層構造とすることで、ストランド25の柔軟性及び非自転性をバランス良く発揮することができる。また、芯線24に捲回されるストランド25の数は、特に限定されないが、ワイヤ本体3に良好な柔軟性及び耐衝撃性を付与するためには、6ストランドであることが好ましい。
【0043】
なお、芯線24及びストランド25を鋼線23のみから撚り合わせることも可能であるが、鋼線23の種類として、鋼線以外の繊維、例えば炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維等を1種単独又は2種以上を併用して撚り合わせることもできる。
【0044】
間質材26は、芯線24と、この芯線24の外周に捲回されるストランド25との間に挟入され、ワイヤ本体3に良好な柔軟性を付与する部材である。この間質材26の素材としては、例えば天然繊維、合成繊維、天然繊維又は合成繊維に潤滑油を含浸させたもの、熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0045】
上記天然繊維としては、例えばコットン、シルク、羊毛、麻、パルプ等が挙げられる。上記合成繊維としては、例えばナイロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリスチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ウレタン繊維、アクリル繊維、エチレン酢酸ビニル繊維等が挙げられる。中でも、柔軟性及び耐久性をバランス良く発揮することができるポリエチレン繊維を採用することが好ましい。また、潤滑油としては、例えば鉱物性、動物性、植物性のものを1種単独又は2種以上併用して使用することができる。
【0046】
上記熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。中でも、良好な柔軟性を発揮すると共に、入手容易であり低コスト化を図ることができるポリエチレンを採用することが好ましい。
【0047】
ワイヤ本体3の外接円における直径としては、2mm以上6mm以下が好ましく、2.5mm以上3.5mm以下がより好ましい。このワイヤ本体3の外接円における直径を上記範囲とすることで、ワイヤ本体3の柔軟性が向上し、ワイヤ本体3の捲回や変形が容易となる。また、ワイヤ本体3の柔軟性が向上することで、ワイヤ錠1の不使用時においてワイヤ本体3を捲き纏め、コンパクト化を容易に実現することができる。なお、このワイヤ本体3の外接円における直径が2mm未満であると、ワイヤ本体3の柔軟性は向上するものの引張強度や耐久性が著しく低下するため好ましくない。また、ワイヤ本体3の外接円における直径が6mmを超えると、ワイヤ本体3の柔軟性が低下し、取扱いの簡便性が低下すると共に、ワイヤ本体3が大型化し、コンパクト化を図ることが困難となるため好ましくない。
【0048】
上記ワイヤ本体3は、形状記憶特性を有さない弾性体である。このように、ワイヤ本体3は、形状記憶特性を有さず、かつ弾性体であることから、ワイヤ本体3に屈曲・撚回等の負荷を加えて変形させた場合でも、かかる負荷を解除すると、新たに外部から負荷を加えるなど特段の事情がない限り、変形時の形状を記憶することなく元の形状(長手方向に伸長する直線状の形状)に容易に復元することができる。その結果、ワイヤ本体3は、三次元におけるあらゆる方向に対して自在に屈曲・撚回等することができ、表面形状が複雑で凹凸の多い施錠対象物(自転車、街路樹等)に対し容易に捲着することができる。
【0049】
上記ワイヤ本体3の可撓度(flexibility number)としては、900以上1500以下が好ましく、1200以上1400以下がより好ましい。このワイヤ本体3の可撓度は、ワイヤロープの曲げやすさを表す尺度である。かかる可撓度をF、鋼棒の縦弾性係数をE、ワイヤロープの曲げ剛性弾性係数をE、ワイヤロープと同一外径の丸棒の断面二次モーメントをI、ワイヤロープの断面二次モーメントをIとすると、可撓度Fは、下記数式(1)により算出される。このようにして算出されるワイヤロープの可撓度Fは、丸鋼棒の可撓度F=1を基準として定量的に示すことができ、Fの値が大きいワイヤロープほど曲げやすいことを意味する。このワイヤ本体3の可撓度を上記範囲とすることで、ワイヤ本体3の柔軟性や曲げやすさを向上することができ、取扱いの簡便性を著しく向上することができる。このワイヤ本体3の可撓度が900未満であると、ワイヤ本体3の柔軟性・曲げやすさが低下し、取扱いの簡便性が低下するため好ましくない。また、ワイヤ本体3の可撓度が1500を超えるとワイヤ本体3が過度に柔軟となり、曲げ応力による破損・破断が生じやすくなるため好ましくない。
F=(E*I)/(E*I)・・・数(1)
【0050】
上記ワイヤ本体3の長さは、特に限定されるものではない。例えば、ワイヤ本体3の長さは、3m以上5m以下とすることができる。このワイヤ本体の長さを3m以上5m以下とすることで、施錠対象物の形状が大きく複雑である場合でも、ワイヤ本体3を十分に捲回・捲着することができる。また、ワイヤ本体3の長さを、1.5m以上2m以下とすることもできる。このワイヤ本体3の長さを1.5m以上2m以下とすることで、未使用時における巻回によるコンパクト化を容易に実現することができる。なお、ワイヤ本体3の長さは、連結部8及びループ部22を含まない部分の長さを意味する。
【0051】
上記ワイヤ本体3の外周を合成樹脂層27で被覆するとよい。このように、ワイヤ本体3の外周に合成樹脂が被覆されていることで、ワイヤ本体3の柔軟性及び取扱い容易性を確保しつつ、良好な耐久性、防水性及び防錆性をバランス良く付与することができる。
【0052】
上記合成樹脂層27の素材としては、特に限定されず、例えばポリウレタン、ナイロンエラストマー、ポリエーテルブロックアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリスチレン、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂、酢酸ビニル等を1種単独又は2種以上併用して使用することができる。中でも、良好な柔軟性を発揮すると共に入手が容易であるポリ塩化ビニルを採用することが好ましい。なお、合成樹脂層27の色彩としては、特に限定されず、意匠的な効果及び防犯強化の面を考慮し、蛍光色等の視覚的に目立つ色彩が好ましい。
【0053】
次に、ワイヤ錠1の使用方法について説明する。
【0054】
<錠本体2の施錠・解錠方法>
上述のボディ部4の窓には、3個のダイヤル15の数字の組合せが表示されており、この数字の組合せが、以下に詳説する暗証コード(初期コード、開放コード)に相当する。錠本体2における暗証コードの設定前(初期状態)において、初期コードは「000」に設定されている。この初期状態において、3つの設定カム16の切欠部は同一方向に向いており、これらの切欠部と凸状カム部20とが全て遊嵌することで、ゲート部6のストッパ13とロックプレート19のストッパ21とが衝突しない状態を維持している。また、この初期状態において、ダイヤル15裏面凹部の球面状突起と設定カム16表面の球面状凹部とが遊嵌した状態を維持している。
【0055】
上記初期状態において、施錠・解錠制御機構7の暗証番号設定キャップ18を押圧すると、ダイヤル15は回転可能であるものの、設定カム16の回転が阻止される。この暗証番号設定キャップ18を押圧したままの状態でダイヤル15を回転操作すると、ダイヤル15の球面状突起が設定カム16の球面状凹部から離脱し、ダイヤル15のみが設定カム16を残したまま回転する。このようなダイヤル15の回転操作により、初期コード「000」から任意の開放コード(例えば「329」)を設定した後、その操作を止めて暗証番号設定キャップ18の押圧を解除すると、圧接用スプリング17の付勢力により、ダイヤル15の球面状突起と設定カム16の球面状凹部とが再び遊嵌し、ダイヤル15と設定カム16とが一体化する。従って、開放コードが設定された状態において、3つのダイヤル15を開放コードに合わせると、設定カム16の切欠部は同一方向を向き、これらの切欠部と凸状カム部20とが全て遊嵌する。なお、この状態において、ダイヤル15を再び「000」に合わせても、設定カム16の切欠部が全て同一方向に向くことはない。
【0056】
上述の通り、3つのダイヤル15を開放コードに合わせると、設定カム16の切欠部は同一方向に向き、これらの切欠部と凸状カム部20とが全て遊嵌することから、ゲート部6のストッパ13とロックプレート19のストッパ21とが衝突することはなく、その結果、ゲート部6の一部を押圧すると、ゲート部6は、ピン11を回転軸としてボディ部4内部に揺動し、ゲート部6とフック部5との連結が解除される。従って、ゲート6の一部を押圧してゲート部6とフック部5とに隙間を生じさせ、かかる隙間にワイヤ本体3を挿入させることで、錠本体2のワイヤ本体3への掛止が実現する。
【0057】
一方、3つのダイヤル15をランダムに回転させて開放コードを解除すると、設定カム16の切欠部及びロックプレート19の凸状カム部20における全部又は一部の遊嵌が解除され、その結果、ロックプレート19の凸状カム部20が設定カム16の切欠部を超えて乗り上げる。すると、リターンスプリングの付勢力によりロックプレート19がシフト移動し、ゲート部6のストッパ13とロックプレート19のストッパ21とが衝突することから、ゲート部6の揺動が不可能となり、フック部5及びゲート部6が連結された状態(施錠状態)を維持することができる。
【0058】
<ワイヤ錠1の施錠対象物及び支持構造物への捲着方法>
図5に示す通り、電柱、街路樹、柵、ガードレール等の施錠対象物Pに対し、ワイヤ本体3を捲回しつつ、ループ部22に錠本体2及びワイヤ本体3を一体的に挿通し、施錠対象物とワイヤ本体3とを捲着する。次いで、かかるワイヤ本体3を自転車等の施錠対象物Qに対しても捲回し、錠本体2をワイヤ本体3に掛止して錠本体2を上述の方法により施錠する。このように、ワイヤ錠1の取扱いは単純かつ簡便なものであり、一対の施錠対象物P及びQを容易かつ確実に捲着、固定、繋止することができ、その結果、施錠対象物Qの盗難を効果的に防止することができる。なお、この捲着手段については、ワイヤ本体3の長さが、例えば3m以上5m以下程度であれば、施錠対象物に対して何重にも捲着させることや、錠本体2をループ部22に掛止して比較的大型の施錠対象物を一体的に捲着することができる。
【0059】
なお、本発明のワイヤ錠は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明のワイヤ錠は自転車用ワイヤ錠として好適に使用され得る。自転車は、一般的に移動性や利便性が高く、屋外において使用し駐輪するものであるから、盗難が非常に容易である。従って、本発明を自転車用ワイヤ錠として使用すると、自転車の複雑な構造によらずワイヤを捲回して自転車を効果的に捲着・固定することができる。また、自転車用ワイヤ錠のワイヤを自転車に対して何重にも複雑に捲回させることで、その捲着パターンが複雑であればあるほど捲着の解除が困難となり、その結果、盗難防止効果をさらに向上することができる。なお、自転車用ワイヤ錠は、自転車のサドル座裏面にブリッジ状に配設されるサドルレールに捲着・固定することも可能であり、サドルを取り外して持ち去ることによる盗難をも効果的に防止することができる。さらに、本発明のワイヤ錠は、自転車用ワイヤ錠としての用途に限らず、例えば自動車、バイク、レジャー用品、キャンプ用品等の用途に対しても広く好適に使用され得る。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明のワイヤ錠は、スマートかつシンプルな構造を有することから、ワイヤ錠を構成する部品の種類や数量を大幅に削減することができると共に、特殊な部材を準備することなく容易に製造することができるため、大量生産や低コスト化を実現することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 ワイヤ錠
2 錠本体
3 ワイヤ本体
4 ボディ部
5 フック部
6 ゲート部
7 施錠・解錠制御機構
8 連結部
11 ピン
12 バネ弾性体
13 ストッパ
14 軸部
15 ダイヤル
16 設定カム
17 圧接用スプリング
18 暗証番号設定キャップ
19 ロックプレート
20 凸状カム部
21 ストッパ
22 ループ部
23 鋼線
24 芯線
25 ストランド
26 間質材
27 合成樹脂層
P 施錠対象物
Q 施錠対象物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フック部を有し、このフック部の開閉を制御する錠本体と、可撓性を有する直線状のワイヤ本体とを備えるワイヤ錠であって、
上記ワイヤ本体の一端にループ部が形成され、他端に錠本体が連結され、
上記錠本体がループ部に挿通可能であることを特徴とするワイヤ錠。
【請求項2】
上記錠本体のフック部がワイヤ本体に掛止可能である請求項1に記載のワイヤ錠。
【請求項3】
上記錠本体が施錠及び解錠を制御する複数個のダイヤルを備える請求項1又は請求項2に記載のワイヤ錠。
【請求項4】
上記ワイヤ本体が、
複数の鋼線を撚り合わせてなる芯線と、
芯線の外周に螺旋状に捲回されるストランドと、
この芯線とストランドとの間に挟入される間質材とを有し、
上記ワイヤ本体の外接円における直径が2mm以上6mm以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載のワイヤ錠。
【請求項5】
上記ワイヤ本体が形状記憶特性を有さない弾性体である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のワイヤ錠。
【請求項6】
上記ワイヤ本体の可撓度が900以上1500以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のワイヤ錠。
【請求項7】
上記ワイヤ本体の外周に合成樹脂が被覆されている請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のワイヤ錠。
【請求項8】
自転車用ワイヤ錠である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のワイヤ錠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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