説明

ワクチンおよび医薬として使用される、改変されたインターフェロン拮抗活性を有する弱毒(−)鎖ウイルス

【課題】細胞性インターフェロン(IFN)応答に拮抗する能力が損なわれている弱毒(-)鎖RNAウイルス、ならびに該弱毒ウイルスのワクチンおよび医薬製剤の提供。
【解決手段】弱毒ウイルスを選択するためのIFN欠損系。細胞性IFN応答に拮抗するNS1遺伝子産物の能力を低下または除去するNS1遺伝子の修飾を有する弱毒インフルエンザウイルス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願に反映された研究は、一部、米国国立衛生研究所(the National Institutes of Health)の助成金によって援助されたものであって、米国政府は本発明に対する権利の一部を有する。
【0002】
本出願は、1999年1月29日に出願された出願番号60/117,683号出願、1998年11月18日に出願された出願番号60/108,832号出願、および1998年6月12日に出願された出願番号60/089,103号出願の一部継続出願であって、これらすべての出願を参照により全体として本明細書に組み入れる。
【0003】
本発明は、一般に、細胞性インターフェロン(IFN)応答に拮抗する能力が損なわれている弱毒(-)鎖RNAウイルス、ならびに該弱毒ウイルスのワクチンおよび医薬製剤における使用に関する。本発明はまた、そのような弱毒ウイルスを選択、同定および増殖するためのIFN欠損系の開発および使用に関する。
【0004】
ある特定の実施形態において、本発明は、NS1遺伝子に対して、細胞性IFN応答に拮抗するNS1遺伝子産物の能力を低下または除去するNS1遺伝子の修飾を有する弱毒インフルエンザウイルスに関する。かかる突然変異ウイルスはin vivoで複製するものの、低下した病原性を示し、それ故に生ウイルスワクチンおよび医薬製剤への使用に適している。
【背景技術】
【0005】
1 インフルエンザウイルス
エンベロープを有する(-)センスゲノム(negative-sense genome)の一本鎖RNAを含むウイルスの一群は、セグメント化されていないゲノムを有するグループ(パラミクソウイルス(Paramyxoviridae)、Rhabdoviridae、Filoviridaeおよびボルナ病ウイルス (Borna Disease Virus))またはセグメント化されたゲノムを有するもの(オルトミクソウイルス(Orthomyxoviridae)、Bunyaviridae、およびArenaviridae)に分類される。オルトミクソウイルス系統群は、下に詳述し、本明細書中の実施例において使用されているが、A、BおよびC型のインフルエンザウイルスならびにThogotoおよびDhoriウイルスおよびサケ伝染性貧血ウイルスを含む。
【0006】
インフルエンザビリオンは、一本鎖RNAゲノムを含む内部のリボ核タンパク質コア(らせんヌクレオキャプシド)、および基質タンパク質(M1)によって内側を縁取られた外側のリポタンパク質エンベロープからなる。インフルエンザAウイルスのセグメント化されたゲノムは、線状で(-)極性を有する8個の分子(インフルエンザCの場合は7個)、10個のポリペプチドをコードする一本鎖RNAからなる。上記の10個のポリペプチドは、RNA-依存RNAポリメラーゼタンパク質(PB2、PB1およびPA)およびヌクレオキャプシドを形成する核タンパク質(NP);基質膜タンパク質(M1、M2);脂質を含有するエンベロープから突き出る二表面糖タンパク質:血球凝集素(HA)およびノイラミニダーゼ(NA);非構造タンパク質(NS1)および核エクスポートタンパク質(NEP)を含む。ゲノムの転写および複製は核でおこなわれ、構築は形質膜上への出芽を介して起こる。ウイルスは混合感染の間に遺伝子の再組み合わせをすることができる。
【0007】
インフルエンザウイルスは、HAを介して細胞膜糖タンパク質および糖脂質中のシアリルオリゴ糖に吸着する。ビリオンのエンドサイトーシスの後に、細胞エンドソーム内で起こったHA分子の配座の変化が膜融合を促進することによって脱外被を誘発する。ヌクレオキャプシドが核に移入してそこでウイルスのmRNAが転写される。ウイルスのmRNAは、ウイルスのエンドヌクレアーゼがキャップ形成された5'-末端を細胞の非相同mRNAから切断し、これがウイルス転写酵素によるウイルスRNA鋳型の転写のプライマーとして働くという独特のメカニズムによって転写される。転写物は、オリゴ(U)配列がポリ(A)域の付加の信号として作用する、その鋳型の末端から15から22塩基の部位で終結する。このように生産された8個のウイルスRNA分子のうち、6個は、HA、NA、NPで表されるタンパク質およびウイルスポリメラーゼタンパク質、PB2、PB1およびPAに直接翻訳されるモノシストロニックメッセージである。他の2個の転写物はスプライシングを経て、それぞれ2つのmRNAを与え、これらが異なる読み枠に翻訳されて、M1、M2、NS1およびNEPを生産する。言い換えれば、8個のウイルスRNAセグメントは、10個のタンパク質をコードし、そのうち9個は構造、1個は非構造タンパク質である。インフルエンザウイルスの遺伝子およびそのタンパク質生産物の概要を下の表Iに示す。
【0008】
表I
インフルエンザウイルスゲノムRNAセグメントおよびコードの指定a
【0009】
【表1】

【0010】
a R.A.LambおよびP.W.Choppin(1983), Annual Review of Biochemistry, 52、467-506(非特許文献1)より採用。
b A/PR/8/34株に対して
c 生化学的および遺伝学的な方法で決定した
d ヌクレオチド配列分析およびタンパク質配列決定によって決定した

インフルエンザAウイルスゲノムは、1個の非構造、9個の構造タンパク質をコードした、8セグメントの(-)極性の一本鎖RNAを含む。非構造タンパク質NS1はインフルエンザウイルスに感染した細胞中に豊富であるが、ビリオン中には検出されていない。NS1は、感染の初期に核に、また、ウイルスサイクルの後期の回に細胞質に見いだされるリンタンパク質である(Kingら、1975, Virology 64:378(非特許文献2))。NS遺伝子に障害を有する温度感受性(ts)インフルエンザ突然変異体を用いた研究により、NS1タンパク質は、ウイルスによる宿主細胞の遺伝子発現の阻害およびウイルスタンパク質の合成の促進を可能にするメカニズムの、転写および転写後の調節物質であることが示唆された。転写後の過程を調節する他の多くのタンパク質と同様に、NS1タンパク質は特定のRNA配列および構造と相互作用する。NS1タンパク質は、vRNA、ポリA、U6snRNA、ウイルスmRNAの5'未翻訳領域およびdsRNAを含むさまざまなRNA種に結合することが報告されている(Qiuら、1995, RNA 1:304(非特許文献3); Qiuら、1994, J. Virol. 68:2425(非特許文献4); Hatada Fukuda 1992、J Gen Virol. 73:3325-9(非特許文献5))。トランスフェクトされた細胞のcDNAから得られたNS1タンパク質の発現は、いくつかの効果、すなわち、mRNAの核-細胞質輸送の阻害、前mRNAスプライシングの阻害、宿主mRNAポリアデニル化の阻害およびウイルスmRNAの翻訳の促進を伴う(Fortesら、1994, EMBO J. 13:704(非特許文献6); Enamiら、1994, J. Virol. 68:1432(非特許文献7); de la Lunaら、1995, J. Virol. 69:2427(非特許文献8); Luら、1994, Genes Dev. 8:1817(非特許文献9); Parkら、1995, J. Biol. Chem. 270, 28433(非特許文献10); Nemeroffら、1998, Mol. Cell, 1:1991(非特許文献11); Chenら、1994, EMBO J. 18:2273-83(非特許文献12))。
【0011】
2 弱毒ウイルス
不活性化ウイルスワクチンは、ウイルスの病原体を、たとえば、熱またはホルマリン処理によって、複製ができないように「殺す」ことによって製造される。不活性化ワクチンは、長期間持続する免疫を提供せず、そのため限定された防御しか与えないので、その実用性は限定される。ウイルスワクチンを製造するための別のアプローチには、弱毒生ウイルスワクチンの使用が含まれる。弱毒ウイルスは複製が可能であるが、病原性はないので、より長く持続する免疫を提供し、より大きい防御を与える。けれども、弱毒ウイルスを製造する従来の方法は、多くは温度感受性である宿主域突然変異体が単離される可能性を含んでおり、たとえば、ウイルスは非天然の宿主を通して継代し、免疫原性であるが病原性がない後代のウイルスが選択される。
【0012】
ワクチンを作る目的でインフルエンザウイルスを単離および増殖させるための従来の基質は、孵化鶏卵である。典型的にはインフルエンザウイルスを、10-11日齢の卵の中で、37℃で2-4日間増殖させる。インフルエンザAおよびBウイルスのヒト一次単離物のほとんどは胚の羊膜中においてよりよく増殖するが、2から3継代後に、ウイルスは卵の外側から入り得る尿膜腔の細胞の中で増殖することに適応するようになる(Murphy, B.R.およびR.G. Webster, 1996. Orthomyxoviruses p.1397-1445. In Fields Virology. Lippincott-Raven P.A.(非特許文献13))。
【0013】
組換えDNA技術および遺伝子工学技術は、特定の突然変異をウイルスのゲノムに意図的に組み込むことができるので、理論的には弱毒ウイルスを製造するための優れたアプローチを提供する可能性がある。けれども、ウイルスの弱毒化に必要な遺伝子の変更は知られておらず、また予測可能でもない。一般的に、組換えDNA技術をウイルスワクチンを遺伝子工学的に作るために使用する試みは、ほとんどが、ワクシニアウイルスまたはバキュロウイルスのような組換えウイルスベクターに発現された、免疫応答に関与する病原体のタンパク質サブユニットのみを含む、サブユニットワクチンの製造を目標としたものであった。最近は、組換えDNA技術は、その擬似弱毒ウイルスが天然または公知の宿主域突然変異体に見いだされる、ヘルペスウイルス欠失突然変異体またはポリオウイルスを製造する試みに利用されてきた。1990年までは、(-)鎖RNAウイルスは部位特異的操作をおこなうことが全くできなかったため、遺伝子工学に用いることができなかった。
【0014】
これまでに製造された弱毒生インフルエンザウイルスは、その中でこれらが複製する宿主におけるインターフェロン応答を抑制することができなかった。そのため、これらのウイルスは免疫原性であって病原性でないので有益であるにも関わらず、これらはワクチンを作る目的の従来の基質の中で増殖するのが困難であった。さらに、弱毒ウイルスはその毒性の特性があまりに穏やかで、宿主が以後の攻撃に対処するのに十分な免疫応答を上昇させることができない可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】R.A.LambおよびP.W.Choppin(1983), Annual Review of Biochemistry, 52、467-506
【非特許文献2】Kingら、1975, Virology 64:378
【非特許文献3】Qiuら、1995, RNA 1:304
【非特許文献4】Qiuら、1994, J. Virol. 68:2425
【非特許文献5】Hatada Fukuda 1992、J Gen Virol. 73:3325-9
【非特許文献6】Fortesら、1994, EMBO J. 13:704
【非特許文献7】Enamiら、1994, J. Virol. 68:1432
【非特許文献8】de la Lunaら、1995, J. Virol. 69:2427
【非特許文献9】Luら、1994, Genes Dev. 8:1817
【非特許文献10】Parkら、1995, J. Biol. Chem. 270, 28433
【非特許文献11】Nemeroffら、1998, Mol. Cell, 1:1991
【非特許文献12】Chenら、1994, EMBO J. 18:2273-83
【非特許文献13】Murphy, B.R.およびR.G. Webster, 1996. Orthomyxoviruses p.1397-1445. In Fields Virology. Lippincott-Raven P.A.
【発明の概要】
【0016】
本発明は、細胞性IFN応答に拮抗する能力が損なわれた弱毒化された(-)鎖RNAウイルス、並びにワクチンおよび医薬製剤における該ウイルスの使用に関する。
【0017】
IFN拮抗活性が損なわれた突然変異ウイルスは、感染性であるが弱毒化されており、in vivoで複製可能であって、亜臨床的レベルの感染をもたらすが、病原性ではない。従って、それらは生ウイルスワクチンとして理想的な候補である。さらに、弱毒化ウイルスは、in vivoにおいて他の生物学的重要性を有する強いIFN応答を誘導でき、後続の感染症を予防したり、抗腫瘍応答を誘導したりできる。従って、弱毒化ウイルスは他の感染症、危険度の高い個体における癌、および/またはIFNで治療可能な疾患の予防または治療のために医薬上使用できる。
【0018】
本発明に従って用いられる(-)鎖RNAウイルスは、セグメント化ウイルスおよび非セグメント化ウイルスの両者を含む。好ましい態様としては、限定するわけではないが、インフルエンザウイルス、呼吸シンシチアルウイルス(RSV)、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、およびパラインフルエンザウイルス(PIV)が挙げられる。本発明で用いるウイルスは、天然株、変種もしくは突然変異体;(例えば、突然変異誘発物質への暴露、継代の繰り返しおよび/または非許容的な宿主中での継代によって生じた)突然変異ウイルス;再構築ウイルス(セグメント化ウイルスゲノムの場合);および/または所望の表現型(すなわち、損なわれた細胞性IFN応答に拮抗する能力)を有する(例えば、「逆遺伝学(reverse genetics)」技術を用いて)遺伝子操作されたウイルスから選択できる。突然変異ウイルスまたは遺伝子操作されたウイルスは、IFN欠損系における分化増殖をIFN感応系の場合と比較することで選択できる。例えば、IFN欠損系では増殖するが、IFN感応系では増殖しない(またはIFN感応系ではあまり増殖しない)ウイルスを選択することができる。
【0019】
そのようにして選択された弱毒化ウイルスは、それ自身、ワクチンまたは医薬製剤中の有効成分として使用できる。あるいは、弱毒化ウイルスは、ベクターまたは組換え手法によって製造されるワクチンの「骨格」として使用できる。このために、「逆遺伝学」技術を用いて突然変異を操作または外来のエピトープを、「親」株として役立つ弱毒化ウイルス中に導入することができる。このようにして、変異株に対する免疫に合わせて、あるいは、全く異なる感染因子または疾患抗原に合わせてワクチンを設計できる。例えば、弱毒化ウイルスは、他の前もって選ばれた株の中和エピトープを発現するように設計できる。あるいは、(-)鎖RNAウイルス以外のウイルスのエピトープを弱毒化突然変異ウイルス中に組込むことができる(例えば、HIVのgp160、gp120、またはgp41)。あるいは、非ウイルス性の感染性病原体(例えば、寄生生物、細菌、真菌類)のエピトープを遺伝子操作によってウイルス中へ導入することができる。さらに別の場合には、癌ワクチンを、例えば、弱毒化ウイルス骨格中に腫瘍抗原を遺伝子操作によって導入することにより調製できる。
【0020】
セグメント化ゲノムを有するRNAウイルスが関与する特定の実施態様では、再構築技術を用いて、セグメント化RNAウイルス親株由来の弱毒化表現型(自然突然変異体、突然変異ウイルス、または遺伝子操作されたウイルス)を異なるウイルス株(野生型ウイルス、自然突然変異体、突然変異ウイルス、または遺伝子操作されたウイルス)へ導入することができる。
【0021】
宿主中で強いIFN応答を誘導する弱毒化ウイルスは、他のウイルス感染、もしくは癌などのIFNで治療可能な疾患を予防または治療するための医薬製剤に用いることもできる。このことについては、弱毒化ウイルスの向性(tropism)を改変して、ウイルスをin vivoもしくはex vivoで所望の標的器官、組織または細胞へターゲティングさせることができる。このアプローチを用いて、IFN応答を標的部位に局所的に誘導して、全身的なIFN治療の副作用を回避または最小限に抑えることができる。このために、弱毒化ウイルスを標的器官、組織または細胞のレセプターに特異的なリガンドを発現するように設計できる。
【0022】
本発明は、野生型インフルエンザウイルスのNS1がIFNアンタゴニストとして機能し、NS1がウイルスに感染した宿主細胞のIFN仲介応答を阻害するという本出願人の発見に一部基づいている。NS1活性を欠損したウイルス突然変異体は、細胞性IFN応答の強力な誘導物質であることが見出され、in vivoで弱毒化表現型を示す。すなわち、突然変異ウイルスはin vivoで複製するものの、病原性作用は低下している。本発明がどのように機能するかについては如何なる理論または説明にも拘束されることを意図しないが、本発明のウイルスの弱毒化の特徴は、おそらく、強い細胞性IFN応答を誘導する能力を有していることと、宿主IFN応答に拮抗する能力が損なわれていることに基づく。しかしながら、本発明の弱毒化ウイルスの有益な特徴は、細胞性インターフェロン応答に対する作用だけに起因するものでなくてもよい。事実、NS1が関与する他の活性の改変は、所望の弱毒化表現型に寄与し得る。
【0023】
IFN拮抗活性が損なわれている突然変異インフルエンザウイルスは、in vivoで複製して、免疫学的応答およびサイトカイン応答を誘導するのに十分な力価を生じることが示された。例えば、弱毒化インフルエンザウイルスでワクチン接種を行うと、野生型インフルエンザウイルスを続いて接種した動物のウイルス力価が低下した。弱毒化インフルエンザウイルスはまた、抗ウイルス活性および抗腫瘍活性を示した。弱毒化インフルエンザウイルスに予め感染させることによって、他の野生型インフルエンザウイルス株の複製が抑制され、他のウイルス(センダイウイルスなど)が孵化鶏卵中で重複感染した。腫瘍細胞を接種した動物へ弱毒化インフルエンザを接種すると、形成される病巣の数が低減した。インフルエンザウイルスは、CTL(細胞傷害性Tリンパ球)応答を低下させることが知られているので、弱毒化ウイルスは、癌ワクチンとして非常に魅力的な候補である。
【0024】
ウイルスのIFN拮抗活性を阻止するのではなく低下させる突然変異は、ワクチン製剤に好ましく、そのようなウイルスは、従来の培養基(substrate)および従来とは異なる培養基における増殖、並びに中間毒性(intermediate virulence)によって選択できる。特に、本出願人は、NS1のC末端切断突然変異体が、IFN欠損培養基、例えば、6および7日齢の孵化鶏卵、並びに10日齢の孵化鶏卵の尿膜、全NS1遺伝子が欠失したインフルエンザウイルス突然変異体(本明細書中で「ノックアウト」突然変異体とも呼ぶ)を増殖させないインフルエンザウイルスの従来の培養基中で複製して高力価を示すことを示した。しかしながら、NS1−C末端切断突然変異体の複製は、12日齢の孵化鶏卵中では低下する。このアプローチによって初めて、IFN拮抗活性が改変されているが、阻止されていない、そしてワクチン製造に適した培養基中で増殖可能な生弱毒化(-)鎖RNAウイルスの生成および同定が可能になった。また、このアプローチによって初めて、改変されているが阻止されていないインターフェロン拮抗活性を付与する突然変異を含むインフルエンザウイルスまたは他のウイルスの有効な選択同定系が提供された。
【0025】
本発明はまた、ワクチン製造のために一般に用いられる従来の系では増殖できない弱毒化ウイルスをIFN欠損系を用いて増殖させることに関する。本明細書中で用いる語句「IFN欠損系」は、IFNを産生しないもしくは低濃度のIFNを産生する、IFNに応答しないもしくは効率的にIFNに応答しない、および/またはIFNによって誘導される抗ウイルス遺伝子の活性を欠いている、例えば、細胞、細胞系統および動物(例えば、マウス、ニワトリ、七面鳥、ウサギ、ラットなど)の系をいう。この目的を達成するために、本出願人は、限定するわけではないが、日にちの浅い孵化鶏卵、IFN欠損細胞系統(例えば、VERO細胞またはSTAT1ノックアウトなどの遺伝子操作された細胞系統)を含む、使用可能な多数のIFN欠損系を同定または設計した。あるいは、孵化鶏卵または細胞系統を、IFN系を抑制する化合物(薬物、抗体、アンチセンス、リボザイムなど)で前処理することができる。さらに別の実施態様は、IFN系を欠損した卵、例えば、限定するわけではないが、トランスジェニックニワトリ、アヒルまたは七面鳥を含むSTAT1(-)鳥類、特にニワトリによって産生された卵の使用を含む。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】delNS1ウイルスは、卵中での野生型インフルエンザAウイルスの複製を抑制する。10日齢の孵化鶏卵に、図示されたpfuのdelNS1ウイルスを接種した。8時間後、103 pfuのWSNウイルスを卵に感染させた。37℃で2日間培養した後、尿膜腔液を採集し、MDBK細胞でのプラークアッセイによってWSNウイルスの力価を定量した。結果は、2つの卵の平均である。
【図2】孵化鶏卵中でのdelNS1ウイルスによる抗ウイルス応答の誘導。10日齢の孵化鶏卵に、PBS(未処理)または2×104 pfuのdelNS1ウイルス(delNS1処理)を接種した。8時間後、103pfuのインフルエンザA/WSN/33(H1N1)ウイルス、インフルエンザA/PR8/34(H+N1)ウイルス、インフルエンザA/X-31(H3N2)ウイルス、インフルエンザB/Lee/40ウイルス、またはセンダイウイルスを卵に感染させた。2日間培養した後、尿膜腔液を採集し、血球凝集アッセイによってウイルス力価を定量した。結果は2つの卵の平均である。
【図3】CV1細胞を、グリーン蛍光タンパク質(GFP)へ融合させたIRF-3を発現するプラスミドで形質転換した。これにより、蛍光顕微鏡による細胞内のIRF-3の局在化の判定が可能となった。場合に応じて、NS1発現プラスミドを、図示した割合でIRF-3発現プラスミドと同時トランスフェクトした。トランスフェクション24時間後の細胞に、図示したようにPR8(WT)またはdelNS1ウイルスを高感染多重度で感染させた。感染10時間後、細胞のIRF-3-GFPの局在化を蛍光顕微鏡で分析した。主に細胞質への局在化(CYT)を示す細胞と、IRF-3の細胞質および核の双方への局在化(Nuc+Cyt)を示す細胞の割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
5.発明の詳細な説明
本発明は、細胞性IFN応答に拮抗する能力が損なわれた弱毒化(-)鎖RNAウイルスの生成、選択および同定、並びにそのようなウイルスのワクチンおよび医薬製剤での使用に関する。
【0028】
ウイルスは、セグメント化または非セグメント化ゲノムを有することができ、天然株、変種もしくは突然変異体;(例えば、UV照射への暴露、突然変異誘発物質、および/または継代によって生じた)突然変異ウイルス;再構築ウイルス(セグメント化ゲノムを有するウイルスの場合);および/または遺伝子操作されたウイルスから選択できる。例えば、突然変異ウイルスは、自然変異、UV照射への暴露、化学突然変異誘発物質への暴露、非許容的宿主中での継代によって、再構築(すなわち、弱毒化セグメントウイルスと所望の抗原を有する別の株との同時感染)によって、および/または遺伝子操作によって(例えば、「逆遺伝学」を用いて)生成できる。本発明での使用のために選択されるウイルスは、IFN拮抗活性を欠損しており、弱毒化されている。すなわち、感染性があり、in vivoで複製できるものの、非病原性の亜臨床的レベルの感染をもたらす低力価しか生じない。そのような弱毒化ウイルスは、生ワクチンの理想的な候補である。
【0029】
好ましい実施態様では、本発明での使用のために選択される弱毒化ウイルスは、宿主において強いIFN応答を誘導できるはずであり(ワクチンとして用いたときに、強い免疫応答の発生に寄与する特徴)、このIFN応答は、他のウイルス感染、または危険度の高い個体における腫瘍形成、またはIFNで治療される他の疾患の予防および/または治療のための医薬製剤としてこのウイルスを有用なものにする他の生物学的重要性を有する。
【0030】
本発明は、インフルエンザウイルス変異体を用いた場合に本出願人によってなされた多数の発見および観察に一部基づいている。しかしながら、その原理は、限定するわけではないが、パラミクソウイルス(センダイウイルス、パラインフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎、ニューカッスル病ウイルス)、麻疹ウイルス(麻疹ウイルス、イヌジステンパーウイルスおよび牛疫ウイルス);肺炎ウイルス(呼吸シンシチアルウイルスおよびウシ呼吸系ウイルス(bovine respiratory virus));並びにラブドウイルス(水疱性口内炎ウイルスおよび狂犬病ウイルス)を含む他のセグメント化および非セグメント化(-)鎖RNAウイルスに同様に適用でき、推定できる。
【0031】
第1に、IFN応答は、in vivoでのウイルス感染を抑制するのに重要である。本出願人は、野生型インフルエンザウイルスA/WSN/33のIFN欠損マウス(STAT1−/−マウス)における増殖が、全器官(pan-organ)に及ぶ感染を招くことを見出した。すなわち、ウイルス感染は、IFN応答を生成する野生型マウスの場合に見られるような肺に限定されることはなかった(Garcia-Sastreら, 1998, J. Virol. 72:8550、その開示内容は全て引用により本明細書に含まれるものとする)。第2に、本出願人は、インフルエンザウイルスのNS1が、IFNアンタゴニストとして機能することを確認した。本出願人は、全NS1遺伝子を欠失したインフルエンザウイルス突然変異体(すなわち、NS1「ノックアウト」)が、IFN感応宿主細胞中で高力価まで増殖することができず、IFN欠損宿主中でのみ増殖することができることを発見した。NS1ノックアウトウイルスは、弱毒化表現型(すなわち、IFN欠損STAT1−/−マウスで致死的であるが、野生型マウスでは致死的でない)を示し、宿主細胞中でのIFN応答の強力な誘導物質であることが見出された(Gracia-Sastreら, 1998, Virology 252:324-330、その開示内容は全て引用により本明細書に含まれるものとする)。NS1ノックアウト突然変異ウイルスを予め感染させておくと、孵化鶏卵中で重複感染した野生型インフルエンザウイルスおよび他のウイルス(例えば、センダイ)の力価が低下した。別の実験では、NS1ノックアウト突然変異インフルエンザウイルスを感染させると、腫瘍細胞を接種した動物では病巣形成が低減した。このように、NS1ノックアウトインフルエンザウイルスは、興味深い生物学的特性を示した。しかしながら、NS1ノックアウト突然変異ウイルスは、ワクチン製造のための従来の系では増殖できなかったものである。この問題を解決するために、本出願人は、弱毒化ウイルスの妥当な収率での製造を可能にするIFN欠損系を使用・開発した。
【0032】
さらに、本出願人は、全NS1遺伝子を欠失していないNS1の欠失変異体を設計した。驚くべきことに、これらのNS1変異体は、「中間(intermediate)」表現型を示すことが見出され、このウイルスは、(より高い力価をもたらすIFN欠損系での増殖の方がより良好ではあるが)インフルエンザウイルスを増殖させるのに用いられる従来の宿主中でも増殖可能である。最も重要なことは、欠失突然変異体は、in vivoで弱毒化されており、強いIFN応答を誘導する。インフルエンザウイルスNS1末端切断突然変異体でワクチン接種を行うことにより、野生型ウイルスを続いて接種した動物のウイルス力価が低下し、疾患が予防された。
【0033】
本発明はまた、ワクチン目的のウイルスの単離、同定および増殖のために設計された培養基に関する。特に、インフルエンザウイルス突然変異体を効率的に増殖させるインターフェロン欠損培養基について記載する。本発明に従えば、インターフェロン欠損培養基は、インターフェロンを産生する能力またはインターフェロンに応答する能力を欠くものである。本発明の培養基は、インターフェロン欠損増殖環境を必要とする、かなり多数のウイルスの増殖に用いることができる。そのようなウイルスとしては、限定するわけではないが、パラミクソウイルス(センダイウイルス、パラインフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、ニューカッスル病ウイルス)、麻疹ウイルス(麻疹ウイルス、イヌジステンパーウイルスおよび牛疫ウイルス);肺炎ウイルス(呼吸シンシチアルウイルスおよびウシ呼吸系ウイルス);ラブドウイルス(水疱性口内炎ウイルスおよび狂犬病ウイルス)が挙げられる。
【0034】
本発明はまた、本発明の弱毒化ウイルスのヒトまたは動物のためのワクチンおよび医薬製剤での使用に関する。特に、弱毒化ウイルスは、限定するわけではないが、変種株の抗原、異なるウイルスまたは他の感染性病原体(例えば、細菌、寄生生物、真菌類)、または腫瘍特異的抗原を含む広範囲のウイルスおよび/または抗原に対するワクチンとして使用できる。別の実施態様では、ウイルス複製および腫瘍形成を抑制する弱毒化ウイルスは、感染(ウイルス性もしくは非ウイルス性の病原体)または腫瘍形成の予防または治療、あるいはIFNが治療上有益な疾患の治療のために使用できる。生弱毒化ウイルス製剤をヒト被験者または動物被験体に導入し、免疫応答または適当なサイトカイン応答を誘導するのに多くの方法を用いることができる。このような方法としては、限定するわけではないが、鼻腔内、気管内、経口、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内および皮下経路が挙げられる。好ましい実施態様では、本発明の弱毒化ウイルスは、鼻腔内送達用に製剤される。
【0035】
5.1 改変されたIFN拮抗活性をもつ突然変異体の作製
本発明によれば、低下したIFN拮抗活性を有する任意の突然変異ウイルスまたは株を選択して使うことができる。ある実施様態においては、細胞のIFN応答と拮抗する能力が損なわれている天然の突然変異体もしくは変種、または自発性突然変異体を選択することができる。他の実施様態においては、突然変異ウイルスを、ウイルスを紫外線照射または化学変異誘発物質、または多継代および/または非許容宿主中の継代のような突然変異誘発要因にさらすことによって作製することができる。識別増殖系(differential growth system)でのスクリーニングを使ってIFN拮抗機能が害われている突然変異体を選択することができる。セグメント化ゲノムをもつウイルスについては、弱毒表現型を所望の抗原を有する他の株に再構築によって移す(すなわち、弱毒ウイルスと所望の株を同時感染させ、両方の表現型を提示する再構築体を選択する)ことができる。
【0036】
他の実施様態においては、突然変異を「逆遺伝(reverse genetics)」手法を使って、インフルエンザ、RSV、NDV、VSVおよびPIVのような(-)鎖RNAウイルス中に遺伝子工学的に作製することができる。この方法で弱毒表現型を与える天然または他の突然変異を、ワクチン株中に遺伝子工学的に作製することができる。例えば、IFN拮抗活性の原因となる遺伝子(インフルエンザのNS1のような)のコード領域の欠失、挿入または置換を遺伝子工学的に作製することができる。IFN拮抗活性の原因となる遺伝子の非コード領域の欠失、置換または挿入も意図する。この目的のために、IFN拮抗活性の原因となる遺伝子の転写、複製、ポリアデニル化および/またはパッケージングの原因となるシグナルの突然変異を遺伝子工学的に作製することができる。例えば、インフルエンザにおいて、このような改変は、限定されるものでないが:インフルエンザAウイルス遺伝子非コード領域のインフルエンザBウイルス遺伝子非コード領域による置換(Musterら,1991 Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88:5177)、インフルエンザウイルス遺伝子非コード領域における塩基対交換(Fodorら, 1998, J Virol. 72:6283)、インフルエンザウイルス遺伝子プロモーター領域の突然変異(Picconeら,1993, Virus Res. 28:99;Liら, 1992, J Virol. 66:4331)、ポリアデニル化に影響を与えるインフルエンザウイルス遺伝子5'末端のウリジン残基の伸長部における置換および欠失(Luoら, 1991, J. Virol. 65:2861;Liら, J Virol. 1994, 68(2):1245-9)を含むことができる。例えば、プロモーターに対するこのような突然変異は、IFN拮抗活性の原因となる遺伝子の発現をダウンレギュレートすることができる。IFN拮抗活性の原因となる遺伝子の発現を調節しうるウイルス遺伝子の突然変異も、本発明により使うことができるウイルスの範囲内にある。
【0037】
本発明はまた、改変されたIFN拮抗活性またはIFN誘導表現型を生じないが、むしろ改変されたウイルス機能および弱毒表現型、例えば、ポリ(A)含有mRNAの核エキスポート(nuclear export)の改変された阻害、プレmRNAスプライシングの改変された阻害、dsRNAの隔離によるPKR活性化の改変された阻害、ウイルスRNAの翻訳に対する改変された効果および宿主mRNAのポリアデニル化の改変された阻害(例えば、Krug, Textbook of Influenza(インフルエンザの教科書), Nicholsonら編, 1998, 82-92およびそこに引用された参考文献を参照すること)を生じるNS1遺伝子セグメントの突然変異にも関する。
【0038】
逆遺伝技術は、ウイルスポリメラーゼによる認識および成熟ビリオンを作製するために必要なパッケージングシグナルに必須である(-)鎖ウイルスRNAの非コード領域を含有する合成組換えウイルスRNAの調製に関わる。組換えRNAを組換えDNAテンプレートから合成し、in vitroで精製ウイルスポリメラーゼ複合体を用いて再構築して組換えリボ核タンパク質(RNP)を形成し、これを使って細胞をトランスフェクトすることができる。もしウイルスポリメラーゼタンパク質がin vitroまたはin vivoのいずれでも合成RNAの転写中に存在すれば、さらに効率的なトランスフェクションが達成される。合成組換えRNPは感染性ウイルス粒子中に救出(rescue)することができる。先行技術は、それぞれ本明細書に参照によりその全文が組み入れられる、1992年11月24日に交付された米国特許第5,166,057号;1998年12月29日に交付された米国特許第5,854,037号;1996年2月20日に公開された欧州特許公開EP O702085A1;米国特許出願第09/152,845号;1997年4月3日に公開された国際特許公開PCT WO97/12032;1996年11月7日に公開されたWO96/34625;欧州特許公開EP-A780475;1999年1月21日に公開されたWO 99/02657;1998年11月26日に公開されたWO 98/53078;1998年1月22日に公開されたWO 98/02530;1999年4月1日に公開されたWO 99/15672;1998年4月2日に公開されたWO 98/13501;1997年2月20日に公開されたWO 97/06270;および1997年6月25日に公開されたEPO 780 47SA1に記載されている。
【0039】
逆遺伝手法により作製された弱毒ウイルスを、本明細書に記載したワクチンおよび製薬製剤に使うことができる。逆遺伝技術はまた、ワクチン生産に重要な他のウイルス遺伝子に追加の突然変異を遺伝子工学的に作製するために使うこともできる、すなわち、有用なワクチン株変種のエピトープを弱毒ウイルス中に遺伝子工学的に作製することができる。あるいは、他のウイルスまたは非ウイルス病原体から誘導された抗原を含む完全に外来のエピトープを、弱毒株中に遺伝子工学的に作製することができる。例えば、HIV(gp160、gp120、gp11)等の非関連ウイルスの抗原、寄生虫抗原(parasite antigen)(例えばマラリア)、細菌もしくは真菌抗原または腫瘍抗原を弱毒株中に遺伝子工学的に作製することができる。あるいは、ウイルスの向性(tropism)をin vivoで改変するエピトープを、本発明のキメラ弱毒ウイルス中に遺伝子工学的に作製することができる。
【0040】
代りの実施形態においては、逆遺伝技術と再構築技術の組合わせを使ってセグメント化RNAウイルス中の所望のエピトープを有する弱毒ウイルスを遺伝子工学的に作製することができる。例えば、弱毒ウイルス(自然選択、変異誘発によりまたは逆遺伝技術により作製した)および所望のワクチンエピトープを運ぶ株(自然選択、変異誘発によりまたは逆遺伝技術により作製した)を、セグメント化ゲノムの再構築を可能にする宿主中に同時感染させることができる。その後、弱毒表現型および所望のエピトープの両方を提示する再構築体を選択することができる。
【0041】
他の実施形態においては、突然変異させるウイルスは、DNAウイルス(例えば、ワクシニア、アデノウイルス、バキュロウイルス)または(+)鎖RNAウイルス(例えばポリオウイルス)である。このような場合、当技術分野で公知の組換えDNA技術を使うことができる(例えば、本明細書に参照によりその全文が組み入れられるPaolettiに付与された米国特許第4,769,330号、Smithに付与された米国特許第4,215,051号を参照)。
【0042】
任意のウイルスを本発明によって遺伝子工学的に作製することができ、限定されるものでないが、以下の表2に記載のファミリーを含む。
【0043】
【表2】

【0044】
好ましい実施様態においては、本発明は、NS1遺伝子産物の欠失および/または末端切断を含有する遺伝子工学的に作製されたインフルエンザウイルスに関する。インフルエンザAおよびBのNS1変異体が特に好ましい。ある手法では、NS1遺伝子産物のアミノ末端領域の部分は保持されるが、NS1遺伝子産物のC末端領域は欠失される。特定の所望の突然変異は、適当なコドンにおける核酸挿入、欠失、または突然変異により遺伝子工学的に作製することができる。特に、末端切断NS1タンパク質は、野生型NS1遺伝子産物の(N末端アミノ酸を1として)1〜60アミノ酸、1〜70アミノ酸、1〜80アミノ酸、1〜90アミノ酸、そして好ましくは90アミノ酸;1〜100アミノ酸、そして好ましくは99アミノ酸;1〜110アミノ酸;1〜120アミノ酸、または1〜130アミノ酸、そして好ましくは124アミノ酸を有する。
【0045】
本発明はまた、NS1遺伝子産物がNS1タンパク質の末端切断または修飾により改変されて、突然変異ウイルスに以下の表現型:ウイルスが6〜7日齢鶏卵のような非慣用的基質で高力価に増殖する能力、またはウイルスが宿主インターフェロン応答を誘導する能力、を与える任意の遺伝子工学的に作製されたインフルエンザウイルスに関する。インフルエンザAウイルスについては、これらは、限定されるものでないが、NS1末端切断物を有するウイルスを含む。
【0046】
本発明は、弱毒表現型を有する天然の突然変異インフルエンザウイルスAまたはB、ならびに弱毒表現型の原因となる突然変異を含有するように遺伝子工学的に作製されたインフルエンザウイルス株の使用を含む。インフルエンザAウイルスは、限定されるものでないが:124アミノ酸のNS1を有するウイルスを含む(本明細書に全文が参照により組み入れられる、Nortonら, 1987, Virology 156:204-213)。インフルエンザBウイルスは、限定されるものでないが:N末端から誘導される110アミノ酸を含有するNS1末端切断突然変異体を有するウイルス(B/201)(本明細書に全文が参照により組み入れられる、Nortonら, 1987, Virology 156:204-213)、およびN末端から誘導される89アミノ酸を含有するNS1末端切断突然変異体を有するウイルス(B/AWBY-234)(本明細書に全文が参照により組み入れられる、Tobitaら, 1990, Virology 174:314-19)を含む。本発明は、NS1/38、NS1/80、NS1/124の類似する天然の変異体(Egorovら, 1998, J. Virol. 72(8):6437-41)ならびに天然の変異体、A/Turkey/ORE/71、B/201またはB/AWBY-234の使用を包含する。本発明は、ゲノムが、天然の変異体であるNS1/80、NS1/124、A/Turkey/ORE/71、B/201またはAWBY-234に見出されるNS1遺伝子の変異と同一の変異をNS1遺伝子内に含む、遺伝子工学的に作製されたインフルエンザAまたはBウイルスを含む。ただし、本発明は、天然に存在するインフルエンザウイルス変異体である、A/Turkey/Ore/71、B/201およびAWBY-234を含まない。
【0047】
さらに他のワクチン株の抗原を発現する弱毒インフルエンザウイルスを遺伝子工学的に作製することができる(例えば、逆遺伝または再構築を使って)。あるいは、弱毒インフルエンザウイルスは、遺伝子工学的に作製されたウイルスを用いて逆遺伝または再構築を使い、完全に外来のエピトープ、例えば他の感染性病原体の抗原、腫瘍抗原、またはターゲッティング抗原を発現するように遺伝子工学的に作製することができる。NS RNAセグメントは8つのウイルスRNAの中で最も短いので、NS RNAは他のウイルス遺伝子より異種配列のより長い挿入を許容することが可能である。さらに、NS RNAセグメントは感染した細胞のタンパク質の高レベルの合成を指令し、外来抗原の挿入のための理想的なセグメントであることを示唆する。しかし、本発明によれば、インフルエンザウイルスの8つのセグメントのいずれでも異種配列の挿入のために使うことができる。例えば、表面抗原提示が所望である場合、例えばHAまたはNAのような構造タンパク質をコードするセグメントを使うことができる。
【0048】
5.2 宿主制限に基く選択システム
本発明は、天然変種、自発性変種(すなわち、ウイルス増殖中に進化する変種)、突然変異誘発天然変種、再構築体および/または遺伝子工学的に作製されたウイルスのいずれから得られたものでも、所望の表現型を有するウイルス、すなわちIFN拮抗活性が低いかまたは無いウイルスを選択する方法を包含する。このようなウイルスは、IFN欠損対IFN感応宿主系における増殖を比較する識別的増殖アッセイにより、最も良くスクリーニングすることができる。IFN欠損系対IFN感応系においてより良い増殖を示すウイルス;好ましくはIFN欠損系においてIFN感応系と比較して少なくとも1 log大きい力価まで増殖するウイルスを選択する。
【0049】
あるいは、ウイルスをIFNアッセイ系、例えば、レポーター遺伝子発現がIFN応答プロモーターにより制御される転写に基くアッセイ系を使ってスクリーニングすることができる。感染対非感染細胞中のレポーター遺伝子発現を測定して、効率的にIFN応答を誘導するがIFN応答に拮抗しないウイルスを同定することができる。しかし、好ましい実施様態においては、使用される宿主系(IFN感応対IFN欠損)が適当な選択圧力をかけるので、識別的増殖アッセイを使って所望の表現型を有するウイルスを選択する。
【0050】
例えば、ウイルスの増殖(力価により測定した)を、IFNおよびIFN応答成分を発現する様々な細胞、細胞系、または動物モデル系、対、IFNまたはIFN応答成分の欠損した細胞、細胞系、または動物モデル系について比較することができる。この目的で、VERO細胞(IFN欠損である)対MDCK細胞(IFN感応である)のような細胞系においてウイルスの増殖を比較することができる。あるいは、IFN欠損細胞系を、IFN系欠損であるように育種または遺伝子工学的に作製された動物(例えば、STAT1 -/-突然変異マウス)から誘導して確立することができる。このような細胞系におけるウイルスの増殖を、例えば、野生型動物(例えば野生型マウス)から誘導されたIFN感応細胞と比較して、測定することができる。さらに他の実施様態においては、IFN感応でありかつ野生型ウイルスの増殖を支持することが知られる細胞系を、IFN欠損であるように遺伝子操作することができる(例えば、STAT1、IRF3、PKR、等をノックアウトすることにより)。細胞系におけるウイルスの増殖に関する当業界で周知の技術を使うことができる(例えば、下記の実施例を参照)。標準IFN感応細胞系、対、遺伝子工学的に作製されたIFN欠損細胞系におけるウイルスの増殖を比較することができる。
【0051】
動物系を使うこともできる。例えば、インフルエンザについて、若齢のIFN欠損孵化卵、例えばほぼ6〜ほぼ8日齢、における増殖を、より高齢のIFN感応卵、例えばほぼ10〜12日齢、における増殖と比較することができる。この目的で、卵の感染および増殖に関する当業界で周知の技術を使うことができる(例えば、下記の実施例を参照)。あるいは、IFN欠損STAT1 -/-マウスにおける増殖を、IFN感応野生型マウスと比較することができる。さらに他の代替法では、例えば、STAT1 -/-トランスジェニック家禽(fowl)より産まれたIFN欠損孵化卵における増殖を、野生型家禽より産まれたIFN感応卵における増殖と比較することができる。
【0052】
しかし、スクリーニングのためには、一過性IFN欠損系を遺伝子工学的に作製された系の代りに使うことができる。例えば、宿主系を、IFN産生および/またIFN応答の成分を抑制する化合物(例えば、薬物、IFNに対する抗体、IFN受容体に対する抗体、PKRのインヒビター、アンチセンス分子およびリボザイム等)を用いて処理することができる。ウイルスの増殖を、IFN感応無処理対照、対、IFN欠損処理系で比較することができる。例えば、IFN感応であるより高齢の卵を、スクリーニングするウイルスによる感染に先だって、そのような薬物で前処理することができる。増殖を同齢の無処理対照卵において達成した増殖と比較する。
【0053】
本発明のスクリーニング方法は、IFN欠損環境における突然変異ウイルスの増殖の能力と比較して、IFN応答環境における突然変異ウイルスの増殖の無能力によりIFN拮抗活性が無効化された突然変異ウイルスを同定するための簡単かつ容易なスクリーニングを提供する。本発明のスクリーニング法はまた、改変されたが無効化していないIFN拮抗活性をもつ突然変異ウイルスを、IFN応答環境、例えば10日齢孵化卵またはMDCK細胞、および、IFN欠損環境、例えば6〜7日齢孵化卵またはVERO細胞の両方における突然変異ウイルスの増殖能力を測定することにより、同定するために使うことができる。例えば、10日齢卵、対、6〜7日齢卵で少なくとも1 log低い力価を示すインフルエンザウイルスは、IFN応答を抑制する能力が損なわれていると考えられるであろう。他の例では、12日齢卵(高IFN応答を提示する)、対、10日齢卵(穏かなIFN応答を提示する)において少なくとも1 log低い力価を示すインフルエンザウイルスは、IFN応答に拮抗する能力が部分的に損なわれていると考えられ、魅力あるワクチン候補と考えられるであろう。
【0054】
本発明の選択法はまた、IFN応答を誘導する突然変異ウイルスを同定することを包含する。本発明の選択法によれば、IFN応答の誘導は、突然変異ウイルスによる感染後のIFN発現またはIFNにより誘導される標的遺伝子もしくはレポーター遺伝子の発現またはIFN発現および/もしくはIFN応答に関わるトランス活性化因子の活性化のレベルをアッセイすることにより測定することができる。
【0055】
本発明の選択システムのさらに他の実施様態においては、IFN応答の誘導は、試験突然変異ウイルスによる感染後のIFN経路の成分、例えば2本鎖RNAに応答してリン酸化されるIRF-3のリン酸化状態を測定することにより決定することができる。IFN 1型に応答して、Jak1キナーゼおよびTyK2キナーゼ、IFN受容体のサブユニット、STAT1、ならびにSTAT2は、迅速にチロシンリン酸化される。従って、突然変異ウイルスがIFN応答を誘導するかどうかを決定するために、293細胞のような細胞を試験突然変異ウイルスに感染させ、感染後、細胞を溶解する。JaklキナーゼまたはTyK2キナーゼのようなIFN経路成分を、特異的なポリクローナル血清または抗体を使って感染細胞溶解物から免疫沈降させ、そしてキナーゼのチロシンリン酸化状態を抗ホスホチロシン抗体を用いて免疫ブロットアッセイにより決定する(例えば、Krishnanら, 1997, Eur. J. Biochem. 247: 298-305を参照)。突然変異ウイルスによる感染後の、IFN経路成分のいずれかのリン酸化状態の増加は、突然変異ウイルスによるIFN応答の誘導のしるしであろう。
【0056】
さらに他の実施様態においては、本発明の選択システムは、特定のDNA配列と結合する能力またはウイルス感染に応答して誘導される転写因子、例えば、IRF3、STAT1、STAT2等のトランスロケーションを測定することを包含する。特に、STAT1およびSTAT2は、IFN I型に応答して、リン酸化され細胞質から核へトランスロケーションする。特異的DNA配列と結合する能力または転写因子のトランスロケーションは、当業者に周知の技術、例えば電気移動度ゲルシフトアッセイ、細胞染色等により測定することができる。
【0057】
本発明の選択システムのさらに他の実施様態においては、IFN応答の誘導を試験突然変異ウイルスによる感染後のIFN依存転写活性化を測定して決定することができる。この実施様態においては、IFNにより誘導されることが知られている遺伝子の発現、例えば、Mx、PKR、2-5-オリゴアデニル酸合成酵素、主要組織適合性複合体(MHC)クラスI、等を、当業者が精通する技術(例えば、ノーザンブロット、ウェスタンブロット、PCR、など)により分析することができる。あるいは、ヒト胚性腎(human embryonic kidney)細胞またはヒト骨原性肉腫(human osteogenic sarcoma)細胞のような試験細胞を遺伝子操作して、一過的または構成的にルシフェラーゼレポーター遺伝子またはクロラムフェニコールトランスフェラーゼ(CAT)レポーター遺伝子のようなレポーター遺伝子を、ISG-54K遺伝子のIFN刺激プロモーターのようなインターフェロン刺激応答エレメントの制御下で発現させる(Bluyssenら, 1994, Eur. J. Biochem. 220:395-402)。細胞に試験突然変異ウイルスを感染させ、レポーター遺伝子の発現レベルを無感染細胞または野生型ウイルスにより感染した細胞のそれと比較する。試験ウイルスによる感染後のレポーター遺伝子発現レベルの増加は、試験突然変異ウイルスがIFN応答を誘導することを示すであろう。
【0058】
さらに他の実施様態においては、本発明の選択システムは、試験突然変異ウイルスが感染した細胞または卵からの抽出物がウイルス感染に対する防御活性を与え得るかどうかを決定することにより、IFN誘導を測定することを包含する。さらに特定的には、10日齢孵化鶏卵の群を試験突然変異ウイルスまたは野生型ウイルスを用いて感染する。感染後約15〜20時間に、尿膜腔液を採取して、CEF細胞のような組織培養細胞中のVSV感染に対する防御活性をもつ最高希釈を決定することにより、IFN活性を試験する。
【0059】
5.3 インターフェロン欠損増殖基質中のウイルスの増殖
本発明はまた、改変されたIFN拮抗活性を有する天然のまたは遺伝子操作された突然変異ウイルスの増殖および単離のための方法およびIFN欠損基質を包含する。弱毒突然変異ウイルスの増殖を支持するために使うことができるIFN欠損基質は、限定されるものでないが、IFN欠損している天然の細胞、細胞系、動物または孵化卵、例えば、Vero細胞、若い孵化卵;IFN欠損であるように遺伝子操作された組換え細胞または細胞系、例えば、STAT1ノックアウトマウスまたは他の同様に遺伝子操作されたトランスジェニック動物から誘導されたIFN欠損細胞系;IFN欠損であるように育種された群またはトランスジェニックトリ(例えば、STAT1ノックアウト)を含むIFN欠損トリ、特に家禽(例えば、ニワトリ、カモ、シチメンチョウ)から得られる孵化卵を含む。あるいは、宿主システム、細胞、細胞系、卵または動物を遺伝子工学的に作製して、IFN系のインヒビター、例えば、DNA結合ドメインを欠くSTAT1のようなドミナントネガティブ突然変異体、アンチセンスRNA、リボザイム、IFN産生のインヒビター、IFNシグナリングのインヒビターおよび/またはIFNにより誘導される抗ウイルス遺伝子のインヒビター、をコードするトランスジーンを発現することができる。IFN欠損であるように育種または遺伝子工学的に作製した動物は若干、免疫無防備状態であり、制御された無疾患環境で維持されるべきことが認識されなければならない。従って、育種中の雌性ニワトリ、カモ、シチメンチョウなどの群のトランスジェニックIFN欠損動物の感染媒介物への曝露リスクを制限するために、適当な対策(食餌抗生物質の使用を含む)をとらなければならない。あるいは、宿主系、例えば細胞、細胞系、卵または動物を、IFN産生および/またはIFN経路を抑制する化合物、例えば薬物、抗体、アンチセンス分子、STAT1遺伝子を標的とするリボザイム分子、および/またはIFNにより誘導される抗ウイルス遺伝子、を用いて処理することができる。
【0060】
本発明によれば、未成熟の孵化鶏卵は、自然のコースとして10日齢に達しない卵、好ましくは6〜9日齢卵;および成長条件の改変、例えばインキュベーション温度の変化;薬物を用いた処理;または発生の遅延した卵をもたらす任意の他の改変、の結果として卵のIFN系が10〜12日齢卵と比較して完全に発生していない10日齢に達しない未成熟卵を人工的に模倣した卵を包含する。
【0061】
5.3.1 天然のIFN欠損基質
ある実施様態においては、本発明は、天然のおよび遺伝子操作した突然変異ウイルスを、まだIFN系を発生していない未成熟孵化卵のような非慣用的基質で増殖することに関する。未成熟孵化卵は脆弱な状態で尿膜容積が小さいので、通常はウイルスを増殖するために使われない。本発明は、10日齢未満の孵化卵中で突然変異ウイルスを増殖すること;好ましくは8日齢孵化卵中で、そして最も好ましくは6〜8日齢卵中で突然変異ウイルスを増殖することを包含する。
【0062】
本発明はまた、天然にIFN経路を有しないかまたは欠陥のあるIFN経路を有するかまたはIFN系に欠陥、例えば野生型細胞と比較して低いIFN発現レベルを有する細胞および細胞系内で、改変されたIFN拮抗活性をもつ突然変異ウイルスを増殖しかつ単離する方法を包含する。特定の好ましい実施様態においては、本発明はVero細胞中で改変されたIFN拮抗活性を有する突然変異ウイルスを増殖する方法に関する。
【0063】
5.3.2 遺伝子工学的に作製されたIFN欠損基質
本発明は、遺伝子工学的に作製したIFN欠損基質中で、改変されたIFN拮抗活性を有する突然変異ウイルスを増殖しかつ単離する方法に関する。本発明は、IFN系に必須の遺伝子、例えば、IFNの欠損した卵に備わるSTAT1が突然変異しているトランスジェニックトリを包含する。本発明はさらに、主要ネガティブ転写因子、例えば、DNA結合ドメインを欠くSTAT1、リボザイム、アンチセンスRNA、IFN産生のインヒビター、IFNシグナリングのインヒビター、およびIFNに応答して誘導される抗ウイルス遺伝子のインヒビターを発現するトリトランスジェニックを包含する。IFN欠損トランスジェニックトリからの卵を使う利点は、通常の10日齢卵は大きなサイズであるがゆえに、より安定でかつより大きな容積のウイルスを増殖するのに使用されうることにある。さらに他の実施様態においては、細胞系はIFN欠損があるように遺伝子工学的に作製することができる。本発明は、IFN合成に必須な遺伝子、IFN経路、および/またはIFNにより誘導される抗ウイルス遺伝子、例えばSTAT1が突然変異している細胞系を包含する。
【0064】
本発明は、1つ以上のIFN経路に必須な遺伝子、例えばインターフェロン受容体、STAT1などが破壊されている、すなわち「ノックアウト」されている組換え細胞系、動物、特にトリを提供する;該組換え動物は任意の動物であることができるが、好ましい実施様態においては、トリ、例えばニワトリ、シチメンチョウ、雌ニワトリ、カモなどである(トリトランスジェニックの作製に関するレビューは、例えば、本明細書にその全文がそれぞれ参照により組み入れられる、Sang, 1994, Trends Biotechnol. 12:415;Peryyら, 1993, Transgenic Res. 2:125;Stern, C.D., 1996, Curr Top Microbiol. Immunol 212:195-206;およびShuman, 1991, Experientia 47:897を参照すること)。このような細胞系または動物は、当業界で周知の細胞または動物の染色体上の遺伝子を破壊するための任意の方法により作製することができる。このような技術は、限定されるものでないが、前核マイクロインジェクション(Hoppe & Wagner, 1989, 米国特許第4,873,191号);生殖系へのレトロウイルス介在遺伝子移送(Van der Puttenら, 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:6148-6152);胚幹細胞の遺伝子ターゲッティング(Thompsonら, 1989, Cell 56:383);胚のエレクトロポレーション(Lo, 1983, Mol Cell. Biol. 3:1803);および精子介在遺伝子移送(Lavitranoら, 1989, Cell 57:717);などを含む。このような技術のレビューについては、ゴードンのレビュー(本明細書にその全文が参照により組み入れられる、Gordon, 1989, Transgenic Animals, Intl. Rev. Cytol. 115:17)を参照すること。
【0065】
特に、STAT1ノックアウト動物は、その染色体のSTAT1遺伝子と生物学的に不活化された(好ましくは異種配列、例えば抗生物質耐性遺伝子の挿入により)外因性STAT1遺伝子との間の相同的組換えを促進することにより作製することができる。マウスゲノムの遺伝子を破壊する相同的組換え法は、例えばカペッチ(Capecchi, 1989, Science 244:1288)およびマンサワーら(Mansourら, 1988, Nature 336:348)に記載されている。
【0066】
簡単に説明すると、STAT1ゲノムクローンの全てまたは一部をノックアウト細胞または動物と同じ種由来のゲノムDNAから単離する。STAT1ゲノムクローンは、当業界で周知のゲノムクローンの単離のための任意の方法により単離することができる(例えば、Merazら, 1996, Cdll 84:431;Durbinら, 1996, Cell 84:443,およびそれらに引用された参考文献に提供されるこれらの配列のSTAT1配列から誘導されるプローブを用いてゲノムライブラリーをプローブすることにより)。ゲノムクローンを単離すると、クローンの全てまたは一部分を組換えベクター中に導入する。好ましくは、ベクター中に導入されたクローンの部分は、STAT1遺伝子のエキソンの一部分以上を含有する、すなわちSTAT1タンパク質コード配列を含有する。その後、STAT1配列に相同的でない配列、好ましくは抗生物質耐性遺伝子をコードする遺伝子のようなポジティブ選択マーカーをSTAT1遺伝子エキソン中に導入する。選択マーカーは好ましくはプロモーター、さらに好ましくは構成的プロモーターに機能しうる形で連結されている。非相同的配列を、STAT1活性を破壊するであろうSTAT1コード配列の任意の位置、例えば点突然変異または他の突然変異がSTAT1蛋白質機能を不活性化することが実証されている位置に導入する。例えば、限定されるものでないが、非相同的配列は、キナーゼドメインの全てまたは一部分を含有するSTAT1タンパク質の部分に対するコード配列(例えば、少なくともキナーゼドメインの50、100、150、200または250アミノ酸に対するヌクレオチドコード配列)中に挿入することができる。
【0067】
ポジティブ選択マーカーは、好ましくはネオマイシン耐性遺伝子(neo遺伝子)またはハイグロマイシン耐性遺伝子(hygro遺伝子)である。プロモーターは当業界で周知の任意のプロモーターであってよく;例示すると、該プロモーターはホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター(Adraら, 1987, Gene 60:65-74)、PolIIプロモーター(Sorianoら, 1991, Cdll 64:693-701)、または胚由来幹細胞で発現するために設計された合成プロモーターであるMC1プロモーター(Thomas & Capecchi, 1987, Cdll 51:503-512)であってよい。抗生物質耐性遺伝子のような選択マーカーの使用により、ターゲッティングベクターに結合した細胞の選択が可能になる(例えば、neo遺伝子産物の発現はG418耐性を与え、hygro遺伝子産物の発現はハイグロマイシン耐性を与える)。
【0068】
好ましい実施様態においては、ベクターの相同的組換えのための対向選択ステップに対するネガティブ選択マーカーは、非相同的とは逆に、STAT1ゲノムクローンインサートの外側に挿入する。例えば、そのようなネガティブ選択マーカーは、HSVチミジンキナーゼ遺伝子(HSV-tk)であり、その発現は細胞をガンシクロビル感受性にする。ネガティブ選択マーカーは、好ましくは、限定されるものでないが、PGKプロモーター、PolIIプロモーターまたはMC1プロモーターのようなプロモーターの制御下にある。
【0069】
相同的組換えが起ると、STAT1遺伝子に相同的であるベクターの部分、ならびにSTAT1遺伝子配列内の非相同的なインサートは、染色体のSTAT1遺伝子中に結合され、ベクターの残りは失われる。従って、ネガティブ選択マーカーがSTAT1遺伝子との相同性領域の外側にあるので、相同的組換えの起る細胞(またはそれらの子孫)はネガティブ選択マーカーを含有しないであろう。例えば、もしネガティブ選択マーカーがHSV-tk遺伝子であれば、相同的組換えが起った細胞はチミジンキナーゼを発現せず、ガンシクロビルに対する曝露で生存するであろう。この方法は、ネガティブ選択マーカーもSTAT1配列およびポジティブ選択マーカーと共にゲノム中に結合されるであろう非相同的組換えと比較して、相同的組換えが起った細胞の選択を可能にする。従って、非相同的組換えが起った細胞はほとんどチミジンキナーゼを発現するであろうし、ガンシクロビルに感受性があろう。
【0070】
ターゲッティングベクターが調製されると、ターゲッティングベクター中にユニークな部位がある制限酵素を用いて線状化し、線状化ベクターは胚由来の幹(ES)細胞中に(Gosslerら, 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:9065-9069)、当業界で周知の任意の方法、例えばエレクトロポレーションにより導入する。もしターゲッティングベクターがポジティブ選択マーカーおよびネガティブ、対向選択マーカーを含むのであれば、相同的組換えが起ったES細胞を選択培地中のインキュベーションによって選択することができる。例えば、もし選択マーカーがneo耐性遺伝子およびHSV-tk遺伝子であれば、細胞をG418(例えば、約300μg/ml)およびガンシクロビル(例えば2μM)にさらすことができる。
【0071】
当業界で周知の遺伝子形質決定のための任意の技術、例えば、限定されるものでないが、サザンブロット分析またはポリメラーゼ連鎖反応を使って、破壊されたSTAT1配列がES細胞のゲノムのSTAT1遺伝子中に相同的に再結合することを確認することができる。STAT1遺伝子クローンの制限酵素切断部位地図は公知でありかつSTAT1コード配列の配列は公知であるので(Merazら, 1996, Cell 84:431;Durbinら, 1996, Cell 84:443-450およびそこに引用される全ての参考文献を参照)、破壊されたおよび非破壊の対立遺伝子の両方からのDNAから作製された特定の制限酵素切断断片またはPCR増幅産物のサイズを決定することができる。従って、制限酵素切断断片またはPCR産物を、破壊されたおよび非破壊のSTAT1遺伝子の間で異なるサイズについてアッセイすることにより、相同的組換えが起ってSTAT1遺伝子を破壊したどうかを決定することができる。
【0072】
その後、破壊されたSTAT1遺伝子座をもつES細胞を胚盤胞中にマイクロインジェクションにより導入することができ、その後、胚盤胞を偽妊娠マウスの子宮中に通常の技術を使って移植することができる。移植した胚盤胞から発生する動物は破壊された対立遺伝子に対してキメラである。キメラ雄性を雌性と交雑することができ、この交雑は、対立遺伝子の生殖系伝達がある一定の被覆色(coat color)の伝達と連結するように設計することができる。対立遺伝子の生殖系伝達は、上記のように、組織サンプルから単離したゲノムDNAのサザンブロットまたはPCR分析により確証することができる。
【0073】
5.3.3 一過性IFN欠損性基質
前記細胞、細胞系、動物または卵を、IFN系を阻害する化合物で前処理することができる。本発明に従えば、IFNの合成、またはIFN系の成分の活性もしくは発現を阻害する化合物を用いて、宿主を前処理することができる。そのような化合物は、例えば、IFNの合成、またIFN、IFN受容体、IFNシグナル伝達経路中の他の標的の活性を阻害する化合物、またはIFNにより誘導された抗ウイルス遺伝子の活性を阻害する化合物である。本発明に従って用いることができる化合物の例としては、限定されるものではないが、核酸分子、抗体、ペプチド、IFN受容体のアンタゴニスト、STAT1経路の阻害剤、PKRの阻害剤などが挙げられる。本発明に従えば、核酸分子とはSTAT1などのIFN系の必須成分をコードする遺伝子を標的とするアンチセンス分子、リボザイムおよび三重らせん分子を含む。核酸分子はまた、IFN系の成分の優性ネガティブ変異体をコードするヌクレオチドをも包含する。例えば、ウイルス変異体に感染させる前に、IFN受容体のトランケートされたシグナリング不能な変異体をコードするDNAで前記細胞をトランスフェクトすることができる。
【0074】
IFN経路を阻害するために本発明に従って用いることができる優性ネガティブ変異体としては、Jak1、Tyk2のキナーゼ欠損型、またはDNA結合ドメインを欠損した転写因子STAT1およびSTAT2が挙げられる(例えば、Krishnanら、1997、Eur. J. Biochem. 247:298-305を参照されたい)。
【0075】
5.4 ワクチン製剤
本発明は、細胞性IFN応答に拮抗する能力が損なわれている、弱毒(−)鎖RNAウイルスおよび適当な賦形剤を含むワクチン製剤を包含する。該ワクチン製剤に用いられるウイルスは、天然の突然変異体もしくは変異体、突然変異させたウイルスまたは遺伝子工学的に操作したウイルスから選択することができる。セグメント化RNAウイルスの弱毒株を、再集合技術により、または逆遺伝学的手法と再集合技術の組み合わせにより作製することもできる。天然の変異体としては、自然界から単離されたウイルスならびにウイルスの増殖の間に自然発生的に生じた変異体が挙げられるが、これらは細胞性IFN応答に拮抗する能力が損なわれている。該弱毒ウイルス自体を、該ワクチン製剤中の活性成分として用いることもできる。あるいは、該弱毒ウイルスを、組換え製造されたワクチンのベクターまたは「骨格」として用いることができる。この目的のために、逆遺伝学的手法などの組換え技術(または、断片化ウイルスのためには、逆遺伝学的手法と再集合技術の組み合わせ)を用いて、突然変異を遺伝子工学的に作製したり、または外来抗原を弱毒ウイルスに導入してワクチン製剤に用いることができる。このようにして、株変異体あるいは完全に別の感染性因子もしくは疾患の抗原に対する免疫感作用にワクチンを設計することができる。
【0076】
実際には、任意の異種遺伝子配列を本発明のウイルス中へ構築してワクチンに用いることができる。好ましくは、種々のどのような病原体に対しても防御免疫応答を誘導するものであるエピトープ、または中和抗体に結合する抗原を、ウイルスにより、またはその一部として発現させる。例えば、ワクチンに用いるために本発明のウイルス中へ構築することができる異種遺伝子配列としては、限定されるものではないが、ほんの数例を挙げれば、gp120などのヒト免疫不全ウイルス(HIV)のエピトープ、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)、ヘルペスウイルスの糖タンパク質(例えば、gD、gE)、ポリオウイルスのVP1、細菌および寄生虫などの非ウイルス性病原体の抗原決定基がある。別の実施形態においては、免疫グロブリン遺伝子の全部または一部を発現させることができる。例えば、かかるエピトープを模倣した抗イディオタイプ免疫グロブリンの可変領域を本発明のウイルス中へ構築することができる。さらに別の実施形態においては、腫瘍関連抗原を発現させることができる。
【0077】
生の組換えウイルスワクチンまたは不活化組換えウイルスワクチンを製剤化することができる。生ワクチンが好ましい。何故なら、宿主における増殖は、自然の感染において生ずるのと同様の種類および量の延長された刺激をもたらし、従って実質的な長期間持続する免疫をもたらすからである。かかる生の組換えウイルスワクチン製剤の製造は、細胞培養またはニワトリ胚の尿膜におけるウイルスの増殖およびその後の精製を含む従来の方法を用いて達成することができる。
【0078】
ワクチン製剤は、NS1または類似遺伝子中に突然変異を有する、遺伝子工学的に作製された(−)鎖RNAウイルス(例えば、限定されるものではないが、下記の実施例に記載されるトランケートされたNS1インフルエンザ変異体)を含んでもよい。それらは、A型インフルエンザのA/turkey/Ore/71天然変異体、またはB型インフルエンザの天然変異体であるB/201およびB/AWBY-234などの天然変異体を用いて製剤化することもできる。生ウイルスワクチンとして製剤化した場合、用量当たり約104 pfu〜約5x106 pfuの範囲を用いるべきである。
【0079】
様々な方法を用いて上記のワクチン製剤を導入することができる。これらの方法としては、鼻腔内、気管内、経口、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内および皮下の経路が挙げられるが、これらに限定されない。ワクチンを設計する対象の病原体の自然感染経路を通ずるか、または親弱毒ウイルスの自然感染経路を通じてウイルスワクチン製剤を導入するのが好ましい。生のインフルエンザウイルスワクチン調製物を用いる場合、インフルエンザウイルスの自然感染経路を通じて該製剤を導入するのが好ましい。大量の分泌および細胞性免疫応答を誘導するインフルエンザウイルスの能力を有利に利用することができる。例えば、インフルエンザウイルスによる気道感染は、泌尿器系などにおける強力な分泌性免疫応答と共に、特定の疾患を引き起こす因子に対する付随性防御を誘導し得る。
【0080】
変化したIFNアンタゴニスト活性を有する104 〜5x106 pfuの変異体ウイルスを含む本発明のワクチンを、一回投与することができる。あるいは、変化したIFNアンタゴニスト活性を有する104 〜5x106 pfuの変異体ウイルスを含む本発明のワクチンを、2〜6ヶ月の投与間隔で2回または3回投与することができる。あるいは、変化したIFNアンタゴニスト活性を有する104 〜5x106 pfuの変異体ウイルスを含む本発明のワクチンを、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトに必要な回数だけ投与することができる。
【0081】
5.5 医薬組成物
本発明は、抗ウイルス剤もしくは抗腫瘍剤またはIFN感受性疾患に対する薬剤として用いられる変化したIFNアンタゴニスト活性を有する変異体ウイルスを含む医薬組成物を包含する。該医薬組成物は、抗ウイルス性予防薬としての有用性を有し、感染の危険のある個体またはウイルスに曝露されることが予想される個体に投与することができる。例えば、子供が、感冒に罹った数人の級友に曝される学校から家に帰ってくるという事象では、親は、本発明の抗ウイルス性医薬組成物を、自分自身、その子供、および家族の他のメンバーに投与して、ウイルス感染およびそれに続く病気を予防できるであろう。特定の感染性疾患(例えば、A型肝炎ウイルス、マラリアなど)が流行している世界の地域に旅行する人を治療することもできる。
【0082】
あるいは、該医薬組成物を用いて、例えば、癌を有する被験体または新生物もしくは癌を発生する危険性の高い被験体において、腫瘍を治療したり、腫瘍形成を予防することができる。例えば、癌を有する被験体を処置してさらなる腫瘍形成を予防することができる。あるいは、発癌物質に曝露されるか、または曝露されることが予想される被験体を処置することができる。汚染物質(例えば、アスベスト)に曝露され得る環境浄化に関与する個体を処置することもできる。あるいは、放射線に曝露される個体(例えば、高線量の放射線に曝露された被験体または発癌性の薬剤を摂取する必要がある被験体)を、曝露の前後に処置することができる。
【0083】
抗腫瘍剤としての本発明の弱毒ウイルスの使用は、IFNアンタゴニスト遺伝子に欠失がある弱毒インフルエンザウイルス変異体がマウスにおいて腫瘍形成を減少させることができるという本発明者らの発見に基づくものである。本発明の抗腫瘍特性は、少なくとも部分的にはIFNおよびIFN応答を誘導するそれらの能力に関係し得る。あるいは、本発明の弱毒ウイルスの抗腫瘍特性は、腫瘍細胞中で特異的に増殖し、腫瘍細胞を殺傷するその能力に関係し得るが、腫瘍細胞の多くはIFN系に欠陥を有することが知られている。抗腫瘍特性を担う分子機構に関わりなく、本発明の弱毒ウイルスを用いて、腫瘍を治療したり、腫瘍形成を予防することができる。
【0084】
本発明はさらに、変化したIFNアンタゴニスト表現型を有する変異体ウイルスを包含し、体内の特定の器官、組織および/または細胞を標的化し、局所的な治療効果または予防効果を誘導することができる。かかる方法の1つの利点は、本発明のIFN誘導性ウイルスは、腫瘍位置などの特定の部位を標的としており、毒性作用を有するIFNを全身的に誘導するのではなく治療効果のために部位特異的な様式でIFNを誘導するということである。
【0085】
本発明の変異IFN誘導性ウイルスを、本明細書に記載の方法を用いて遺伝子操作して、該ウイルスを特定の部位に標的化するタンパク質またはペプチドを発現させることができる。好ましい実施形態においては、該IFN誘導性ウイルスは腫瘍部位を標的とする。かかる実施形態においては、該変異体ウイルスを遺伝子操作して、腫瘍特異的抗原を認識する抗体の抗原結合部位を発現させ、従ってIFN誘導性ウイルスを腫瘍に標的化することができる。さらに別の実施形態においては、標的化される腫瘍(エストロゲン受容体を発現する乳房腫瘍または卵巣腫瘍など)がホルモン受容体を発現する場合、該IFN誘導性ウイルスを遺伝子操作して、適当なホルモンを発現させることができる。さらに別の実施形態においては、標的化される腫瘍が増殖因子、例えばVEGF、EGFまたはPDGFに対する受容体を発現する場合、該IFN誘導性ウイルスを遺伝子操作して、適当な増殖因子またはその一部を発現させることができる。従って、本発明に従えば、該IFN誘導性ウイルスを遺伝子操作して、酵素、ホルモン、増殖因子、抗原もしくは抗体などのペプチド、タンパク質を含む任意の標的遺伝子産物を発現させることができ、それらは抗ウイルス活性、抗細菌活性、抗微生物活性、または抗癌活性を必要とする部位に該ウイルスを標的化するように機能する。
【0086】
導入方法としては、限定されるものではないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、および経口経路が挙げられる。本発明の医薬組成物は、任意の好都合な経路、例えば注入またはボーラス注射、上皮または粘膜皮膚内層(例えば、経口粘膜、直腸および腸粘膜など)を通した吸収により投与することができ、また他の生物活性物質と共に投与することができる。投与は全身的または局所的であってよい。さらに、好ましい実施形態においては、本発明の医薬組成物を任意の適当な経路により肺に導入するのが望ましい。例えば、吸入器または噴霧器およびエアロゾル剤を含む製剤の使用による肺投与を用いることもできる。
【0087】
特定の実施形態においては、治療を必要とする領域に局所的に本発明の医薬組成物を投与するのが望ましい。これは、例えば、限定されるものではないが、外科手術中の局所注入、局所適用(例えば、カテーテル、座剤、または移植片を用いた注入により、外科手術後の創傷包帯と併せて行う)によって達成することができる。この移植片は、多孔性、非多孔性またはゼラチン質の材料であり、シアラスティック(sialastic)膜などの膜、または繊維を含む。1実施形態においては、投与は、悪性腫瘍または新生物性もしくは前新生物性組織の部位(または前部位)に直接注入することにより行ってもよい。
【0088】
さらに別の実施形態においては、該医薬組成物を制御放出系により送達することができる。1実施形態においては、ポンプを用いることができる(Langer、前掲;Sefton, 1987, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng.14:201; Buchwaldら、1980, Surgery 88:507; Saudekら、1989, N. Engl. J. Med. 321:574を参照されたい)。別の実施形態においては、ポリマー材料を用いることができる(Medical Applications of Controlled Release, LangerおよびWise(編), CRC Pres., Boca Raton, Florida (1974); Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance, SmolenおよびBall(編), Wiley, New York (1984); RangerおよびPeppas, 1983, J. Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23:61; Levyら、1985, Science 228:190; Duringら、1989, Ann. Neurol. 25:351 (1989); Howardら、1989, J. Neurosurg. 71:105を参照されたい)。さらに別の実施形態においては、制御放出系を該組成物の標的すなわち肺の近くに置くことができ、従って全身投与量のほんの一部だけが必要になる(例えば、Goodson, 1984, in Medical Applications of Controlled Release, 前掲, vol. 2, pp. 115-138を参照されたい)。他の制御放出系については、Langer(1990, Science 249:1527-1533)による概説中で考察されている。
【0089】
本発明の医薬組成物は、治療上有効量の弱毒ウイルスおよび製薬上許容される担体を含む。特定の実施形態において、用語「製薬上許容される」とは、連邦政府または州政府の監督機関により承認されるか、または米国薬局方もしくは他の一般的に認知されている薬局方に記載されることを意味し、動物、特にヒトに用いるものである。用語「担体」とは、希釈剤、アジュバント、賦形剤またはビヒクルを指し、該医薬組成物と共に投与される。生理食塩溶液ならびに水性デキストロースおよびグリセロール溶液も、液体担体、特に注入可能な溶液として用いることができる。適当な製薬上の賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳液、錠剤、ピル、カプセル、粉末、徐放性製剤などの形態を取ることができる。これらの組成物を座剤として製剤化することができる。経口製剤は、医薬品質のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含有することができる。適当な製薬上の担体の例は、E. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。かかる組成物は、好ましくは精製された形態の治療上有効量の治療剤と、適当量の担体とを含有し、被験体に適切に投与するための剤形を提供することができる。該製剤は、投与の様式に適合するべきである。
【0090】
特定の障害または状態の治療に有効である本発明の医薬組成物の量は、該障害または状態の性質に依存するであろうが、標準的な臨床技術によって決定することができる。さらに、場合によってはin vitroアッセイを援用して最適な用量範囲を同定することができる。また該製剤に用いる正確な用量は、投与経路および疾患または障害の重篤度にも依存するであろうが、医師の判断および各被験体の環境に応じて決定されるべきである。しかし、適当な投与用量範囲は、一般的には約104〜5x106 pfuであり、一回投与するか、または必要な回数、間隔をあけて複数回投与することができる。変化したIFNアンタゴニスト活性を有する104〜5x106 pfuの変異体ウイルスを含む本発明の医薬組成物を、鼻腔内、気管内、筋肉内、または皮下投与することができる。in vitroまたは動物モデル試験系から誘導される用量応答曲線から、有効量を推定することができる。
【実施例】
【0091】
6. 実施例:A型インフルエンザウイルスのNS1トランケーション変異体の作製および特徴づけ
【0092】
6.1 材料および方法
A/PR/8/34(PR8)型インフルエンザウイルスを、10日齢の孵化鶏卵中で37℃にて増殖させた。A型インフルエンザウイルス25A-1、すなわち寒冷地適合株A/Leningrad/134/47/57由来のNSセグメントおよびPR8ウイルス由来の残りの遺伝子を含む再集合ウイルス(Egorovら、1994, Vopr. Virusol. 39:201-205; Shawら、1996, in Options of the control of influenza III, Brown(編), Hampson Webster (Elsevier Science) pp. 433-436)を、Vero細胞中で34℃にて増殖させた。該25A-1ウイルスは、哺乳動物細胞中で温度感受性であり、NS1/99トランスフェクタントウイルスのレスキューのためのヘルパーウイルスとして用いた。1μg/mlのトリプシンを含有する最少必須培地(MEM)(Difco Laboratories, Detroit, Michigan)中で維持したVero細胞およびMDCK細胞を、インフルエンザウイルスの増殖のために用いた。Vero細胞は、NS1/99ウイルスの選択、プラーク精製および力価測定のためにも用いた。MDCK細胞は、10%の熱不活化ウシ胎児血清を含有するDMEM(ダルベッコの最少必須培地)中で維持した。Vero細胞は、ATM-V培地(Life Technologies, Grand Island, NY)中で増殖させた。
【0093】
99アミノ酸のC末端トランケート形態のNS1を含有するプラスミドpT3NS1/99を、以下のように作製した。まず、T3 RNAポリメラーゼプロモーターおよびBpuAI制限部位にフランキングしたPR8ウイルスの完全なNS遺伝子を含有するpPUC19-T3/NS PR8を、適当なプライマーを用いて、逆転写PCR(Ochmanら、1988, Genetics 120: 621-623)により増幅した。次いで、トランケートされたNS1遺伝子を含む得られたcDNAを、リン酸化し、クレノー(Klenow)処理し、自己ライゲーションさせ、大腸菌のTG1株中で増殖させた。精製後に得られた構築物を、pT3NS1/99と命名し、配列決定により確認した。PR8ウイルスのNP、PB1、PB2およびPAタンパク質の発現のためのプラスミド(pHMG-NP、pHMG-PB1、pHMG-PB2、およびpHMG-PA)については、以前に記載されている(Pleschkaら、1996, J. Virol. 70:4188-4192)。pPOLI-NS-RBを、pPOLI-CAT-RT (Pleschkaら、1996, J. Virol. 70:4188-4192)のCATオープンリーディングフレームをインフルエンザA/WSN/33(WSN)ウイルスのNS遺伝子のコード領域に由来するRT-PCR産物に置換することにより作製した。このプラスミドは、トランケートされたヒトポリメラーゼIプロモーターの制御下でWSNウイルスのNS特異的なウイルスRNAセグメントを発現する。
【0094】
NS1/99ウイルスの作製を、リボ核タンパク質(RNP)トランスフェクション(Luytjesら、1989, Cell 59:1107-1113)により実施した。該RNPは、インフルエンザ25A-1ウイルス(Enamiら、1991, J. Virol. 65:2711-2713)の精製された核タンパク質およびポリメラーゼの存在下でBpuAIにより線状化されたpT3NS1/99からのT3 RNAポリメラーゼ転写により形成されたものである。RNP複合体を、予め25A-1ウイルスに感染させたVero細胞中にトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を37℃にて18時間インキュベートし、上清を40℃にてVero細胞中で2回継代し、寒天上層培地で被覆したVero細胞中で37℃にて3回プラーク精製した。単離されたNS1/99ウイルスを、特異的プライマーを用いてRT-PCRにより分析した。野生型トランスフェクタントウイルスを以下のように作製した。35-mmディッシュ中のVero細胞を、以前に記載されたように(Pleschkaら、1996, J. Virol. 70:4188-4192)、プラスミドpHMG-NP、pHMG-PB1、pHMG-PB2、pHMG-PAおよびpPOLI-NS-RBでトランスフェクトした。トランスフェクション後2日目に、細胞を5x104 pfuのdelNS1ウイルスに感染させ、さらに2日間、37℃にてインキュベートした。細胞の上清を、MDCK細胞中で1回、孵化鶏卵中で2回継代した。トランスフェクタントウイルスを、卵中で限界希釈法によりクローニングした。精製したNS1/99トランスフェクタントウイルスに由来するゲノムRNAを、以前に記載されたように(Zhengら、1996, Virology 217:242-251)、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した。NS1/99ウイルスによるトランケートされたNS1タンパク質の発現を、NS1に対するウサギポリクローナル抗血清を用いて、標識された感染細胞抽出物を免疫沈降させることにより確認した。
【0095】
孵化鶏卵(6、10および14日齢)の尿膜腔に、約103 pfuのPR8、NS1/99またはdelNS1(NS1遺伝子全体を欠失させた)ウイルスを接種し、37℃にて2日間インキュベートし、尿膜腔液中に存在するウイルスを血球凝集(HA)アッセイにより力価測定した。
【0096】
5匹のBALB/cマウス(Taconic Farms)の群に、5x106 pfu、1.5x105 pfu、5x103 pfuの野生型A/PR/8/34(PR8)またはNS1/99ウイルスを鼻腔内接種した。接種は、適当なウイルスを適当数のプラーク形成単位で含有する50μlのMEMを用いて麻酔下で実施した。動物を毎日モニターし、極端な状態が観察された時に殺した。その後の実験で、全ての生存しているマウスを、4週間後に100LD50の用量の野生型PR8ウイルスでチャレンジした。全ての方法は実験動物の世話および使用に関するNIHガイドラインに従って行った。
【0097】
6.2 結果:NS1の欠失によるA型インフルエンザウイルスの弱毒化
本発明者らは以前に、NS1遺伝子を欠失させたA型インフルエンザウイルス(delNS1ウイルス)が、Vero細胞などのI型インターフェロン(IFN)産生に欠陥のある細胞において、約107 pfu/mlの力価まで増殖することができることを示した。しかし、このウイルスは、その複製能力に欠陥があり、またマウスにおいて疾患を引き起こす(Garcia-Sastreら、1998, Virology 252:324)。対照的に、delNS1ウイルスは、STAT1-/-マウス中で増殖し、このマウスを殺すことができた。これらの結果は、A型インフルエンザウイルスのNS1タンパク質が、I型IFNによって媒介される宿主の抗ウイルス応答の阻害に関与するビルレンス因子であることを示していた。以下の実験を行って、NS1遺伝子の一部を削除することにより、野生型ウイルスとdelNS1ウイルス間の中間のビルレンス特性を有するインフルエンザウイルスを作製することができるか否か、また、これらのウイルスのうちのいくつかがインフルエンザウイルスに対する生の弱毒化ワクチンとして用いるための最適な特性、すなわち、安定性ならびに孵化鶏卵などのワクチン調製物に適当な基質中での弱毒化、免疫原性および増殖間の適当なバランスを有するか否かを決定した。
【0098】
この仮説を検証するために、NS1遺伝子を改変したインフルエンザA/PR/8/34(PR8)ウイルスを作製して、野生型NS1タンパク質の230アミノ酸と共通の、アミノ末端の99アミノ酸のみを含有するトランケートされたNS1タンパク質の発現を検出した。このウイルス(NS1-99)は、以前に記載されたように(Garcia-Sastreら、1998, Virology 252:324)、25A-1ヘルパーウイルスを用いて、人工的に操作されたNS遺伝子をRNPトランスフェクトすることにより得られたものである。ウイルス感染細胞におけるNS1発現の分析により、NS1-99ウイルスのNS1タンパク質のトランケートされた性質が示された。
【0099】
delNS1、NS1-99および野生型PR8ウイルスの、種々の日齢の孵化鶏卵中で増殖する能力を分析した。この実験の理論は、適当な刺激のもとでI型IFNを合成し、これに応答する孵化鶏卵の能力は日齢依存的であるという事実から生じるものである。事実、IFN誘導能力および応答能力は共に、約10日齢で開始し、次いで日齢と共に指数的に増加する(Sekellickら、1990, In Vitro Cell. Dev. Biol. 26:997; SekellickおよびMarcus,1985 J. Interferon Res. 5:657)。従って、種々の日齢の卵の使用は、種々のウイルスのIFN応答を阻害する能力を試験するためのユニークな系となる。6、10および14日齢の卵に、約103 pfuのPR8、NS1-99またはdelNS1ウイルスを接種し、37℃にて2日間インキュベートし、尿膜腔液中に存在するウイルスを血球凝集(HA)アッセイによって力価測定した。表3に示すように、野生型ウイルスは6、10および14日齢の孵化鶏卵において同程度のHA力価まで増殖したが、delNS1は6日齢の卵において検出可能なHA力価まで複製したのみであった。対照的に、NS1-99ウイルスは、delNS1ウイルスと野生型ウイルスの中間の挙動を示し、14日齢の卵でなく、10日齢の卵において野生型ウイルスと同様のHA力価まで増殖することができた。
【0100】
表3:孵化鶏卵内でのウイルス複製
【0101】
【表3】

【0102】
1力価は、血球凝集活性を有する最も高い希釈の度合いを示す。
2野生型インフルエンザA/PR/8/34ウイルス3測定せず

続いてNS1-99ウイルスの弱毒化特性をマウスにおいて決定した。この目的のために、5匹のBALB/cマウスの群に、5×106pfu、1.5×105、または1.5×103pfuの野生型PR8またはNS1-99ウイルスを鼻孔内感染させた。マウスを生存に関して3週間モニターした。結果を表4に示す。NS1-99ウイルスは野生型ウイルスよりも少なくとも3log高いLD50を有していた。
【0103】
表4:NS1-99ウイルスのマウス中での弱毒化
【0104】
【表4】

【0105】
1野生型インフルエンザウイルスA/PR/8/34
【0106】
実施例7 インフルエンザBウイルス中でのNS1切断変異体の作成と特性決定
【0107】
7.1 材料と方法
実験の詳細は第6.1節のものと同様である。2つの変異体インフルエンザBウイルスである、B/610B5B/201(B/201)およびB/AWBY-234、長さ127アミノ酸、90アミノ酸(C末端が切断されたNS1タンパク質)それぞれ(Nortonら、1987 Virology 156:204;Tobitaら、1990 Virology 174:314)を、B/Yamagata/1/73(B/Yam)およびA/Aichi/2/68ウイルスを抗-A(H3N2)ウイルス抗体の存在下で含む組織培養物中で同時感染実験により誘導した。変異体インフルエンザウイルスの、様々な齢の孵化鶏卵中での増殖を、野生型281アミノ酸NS1タンパク質を有する親ウイルスB/Yamと比較した。6、10、14日齢の卵に、約103pfuのB/Yam、B/201またはB/AWBY-234ウイルスを接種し、35℃で2日間インキュベートし、尿膜腔液中に存在するウイルスをHAアッセイにより力価測定した。
【0108】
さらに、B/201ウイルスおよびB/AWBY-234ウイルスの弱毒化特性をマウスにおいて決定した。3匹のBALB/cマウスの群に、3×105pfuの野生型B/YAMまたはB/201およびB/AWBY/234変異体ウイルスを鼻腔内感染させ、これらのウイルスの複製能力を、感染後3日目に肺におけるウイルス力価を測定することにより決定した。これは、野生型B/Yamはマウスにおいて明白な病気の症状を誘導しないからである。
【0109】
7.2 結果
【0110】
表5:孵化鶏卵内でのインフルエンザBウイルスの複製
【0111】
【表5】

【0112】
変異体および野生型インフルエンザBウイルスの孵化鶏卵中での増殖の結果を表5に示すが、インフルエンザAウイルスの場合と同じように、インフルエンザBウイルスのNS1カルボキシ末端切断は、効果的なIFN応答を開始する(mount)孵化鶏卵が古くなるほど複製収量が低下する原因となっていることが示された。この発見は、インフルエンザBウイルスのNS1もまた、宿主のIFN応答の阻害に関与し、インフルエンザBウイルスのNS1遺伝子の欠失が弱毒化された表現型をもたらすことを示す。
【0113】
マウスにおける複製実験の結果を表6に示す。B/201およびB/AWBY-234ウイルス力価は約3 logの規模でB/Yamよりも低かった。このことは、インフルエンザBウイルスのNS1のカルボキシ末端ドメインの切断が、マウスにおける弱毒化された表現型の原因となっていることを示している。
【0114】
表6:マウス肺中でのインフルエンザBウイルスの複製
【0115】
【表6】

【0116】
実施例8:NS1タンパク質における欠損を有するインフルエンザAおよびBウイルスで免疫化されたマウスにおける、野生型インフルエンザウイルス感染に対する防御
切断されたNS1タンパク質を含む弱毒インフルエンザAおよびBウイルスで免疫化されたマウスが、それぞれの野生型ウイルスでのチャレンジに対して保護されるか否かを決定するために、以下の実験を行った。BALB/cマウスをA/NS1-99ウイルスによって鼻腔内経路で免疫化し、3週間後、それらに100LD50の野生型インフルエンザA/PR/8/34ウイルスを感染させた。免疫化した動物は死に対して防御されたが、全ての対照ナイーブマウスはチャレンジ後に死亡した(表7参照)。第2の実験においては、BALB/cマウスを、切断されたNS1タンパク質を発現するインフルエンザBウイルスであるB201またはB/AWBY-234によって鼻腔内経路で免疫化した。3週間後、それらを、3×105pfuの野生型インフルエンザB/Yam/1/73ウイルスでチャレンジした。このインフルエンザBウイルス株はマウスにおいては病気の症状を誘導しないので、防御の度合いはチャレンジ後3日目に肺におけるウイルス力価を測定することにより決定した。ナイーブ対照動物は肺あたり104pfu前後の力価を有していたが、ウイルスは免疫化された動物の肺においては検出されなかった(表8参照)。これらの発見は、改変されたNS1遺伝子を含有するインフルエンザAおよびインフルエンザBウイルスは、マウスにおいて免疫応答を誘導可能であり、その免疫応答は続いての野生型ウイルスのチャレンジに対して完全に防御的であることを示唆している。
【0117】
表7 100LD50の野生型インフルエンザA/PR/8/34ウイルスでチャレンジされた後の、インフルエンザA/NS1-99ウイルスで免疫化されたマウスの生存
【0118】
【表7】

【0119】
表8 インフルエンザB/201およびB/AWBY-234ウイルスで免疫化されたマウスにおける、3×105pfuの野生型インフルエンザB/Yamagata/73ウイルスでのチャレンジ後の肺の力価
【0120】
【表8】

【0121】
実施例9:DELNS1ウイルスに感染させた孵化鶏卵中でのタイプ1インターフェロンの誘導
次に、NS1遺伝子を欠失しているインフルエンザAウイルスであるdelNS1ウイルスの、孵化鶏卵におけるタイプI IFN分泌を誘導する能力を決定した。この目的のために、2個の10日齢の孵化鶏卵群に、5×103pfuのdelNS1または野生型PR8ウイルスを感染させた。37℃で18時間、ポストインキュベーションを行い、尿膜腔液を回収し、酸性pHに対して一晩透析し、感染性ウイルスを不活性化した。酸性pH処理の後、サンプルをPBSに対して透析し、CEF細胞中のVSV感染(約200pfu)に対する防御的活性を有する最も高い希釈度を測定することにより、それらのIFN活性を試験した。表9に示された結果は、NS1の不在下では、インフルエンザAウイルスはIFNの高い誘導要因であることが判明した。
【0122】
表9 卵中でのIFNの誘導
【0123】
【表9】

【0124】
実施例10:delNS1ウイルスの抗ウイルス活性
IFNアンタゴニスト(NS1)遺伝子をインフルエンザAウイルスから除去することにより、高レベルのIFNを誘導する能力を有するウイルスがもたらされ得る。その場合には、delNS1ウイルスはIFN感受性のウイルスの複製を「妨害する」であろう。この可能性を試験するために、卵において、インフルエンザA/WSN/33(WSN)ウイルス(通常インフルエンザウイルスの実験室株として使用されているウイルス)の複製を阻害するdelNS1ウイルスの能力を調べた。図1において見られるように、僅か2 pfuのdelNS1での処理により、尿膜腔液においてWSNウイルスの最終力価を1 logも減少させることが可能であった。さらに、2×104pfuのdelNS1ウイルスでの処理により、卵におけるWSN複製が事実上完全に阻止された。delNS1ウイルスはまた、卵において、他のインフルエンザAウイルス株(H1N1およびH3N2)、インフルエンザBウイルス、および他のウイルス(センダイウイルスなど)の複製を妨害することができた(図2)。
【0125】
これらの結果が得られたので、次に、マウスにおいて、delNS1ウイルスが野生型インフルエンザウイルスの複製を妨害する能力を決定した。組織培養におけるタイプI IFN処理はin vitroでのインフルエンザAウイルスの複製を防止するが、マウスのIFNでの処理はインフルエンザウイルスの複製を妨害することができない(Haller, 1981, Current Top Microbiol Immunol 92:25-52)。このことは、A2Gマウスを除く同系交配させたマウス株のほとんどにおいて当てはまる。A2Gマウス、および野生マウスの大部分の比率(約75%)が、無傷のMx1対立遺伝子を少なくとも1つ有しているが、ほとんどの実験室株はMxl -/-である(Haller, 1986, Current Top Microbiol Immunol 127:331-337)。このMx1タンパク質は、ヒトMxAタンパク質に相同性であり(Aebi, 1989, Mol. Cell. Biol. 11:5062)、強力なインフルエンザウイルス複製のインヒビターである(Haller, 1980, Nature 283:660)。このタンパク質は構成的には発現されないが、その発現はタイプI IFNによって転写レベルで誘導される。このように、A2GマウスはIFN-誘導要因としての能力を有し、インフルエンザAウイルスに対する抗ウイルス応答を刺激する(Haller, 1981, Current Top Microbiol Immunol 92:25-52)。
【0126】
8匹の4週齢A2Gマウスを、5×106pfuの非常に病原性が高いインフルエンザA/PR/8/34ウイルス単離体(Haller, 1981, Current Top Microbiol Immunol 92:25-52)に鼻腔内経路で感染させた。マウスの半数に5×106pfuのdelNS1による鼻腔内処理をPR8感染の24時間前(-24h)に受けさせた。他の4匹のマウスはPBSで処理した。体重変化と生存をモニターした。これらの結果は、delNS1処理によりA2Gマウスを、インフルエンザウイルスにより誘導される死および体重減少から防御できたことを示している。同じ処理は、Mx1 -/-マウスでは効果がなかった。このことは、ウイルス防御機構はMx1、すなわちIFNに媒介されたものであることを示していた。
実施例11:DELNS1ウイルスのマウスにおける抗腫瘍特性
タイプI IFNおよび/またはタイプI IFNの誘導要因が抗腫瘍活性を有することが示されたため(BelardelliおよびGresser、1996 Immunology Today 17:369-372;Qinら,1998, Proc. Natl. Acad. Sci. 95:14411-14416)、delNS1ウイルスによる腫瘍の処理が、腫瘍の沈静化を媒介することが考えられる。あるいは、delNS1ウイルスは、腫瘍崩壊特性を有すること、すなわち、このウイルスが腫瘍細胞(それらの腫瘍細胞の多くがIFN系においては欠損を有することが知られている)中で特異的に増殖して腫瘍細胞を殺すことが考えられる。delNS1ウイルスの抗腫瘍活性を試験するために、マウスにおける肺への転移についての腫瘍モデルにおいて、マウス癌細胞系CT26.WTを用いて以下の実験を行った(Restifoら、1998 Virology 249:89-97)。5×105個のCT26.WT細胞を静脈内経路で12匹の6週齢BALB/cマウスに注射した。マウスの半数を、接種後1、2および3日目に、106pfuのdelNS1ウイルスで24時間ごとに鼻腔内経路で処理した。腫瘍注射の12日後に、マウスを犠牲にして肺転移を計数した。表10に示される通り、delNS1処理は、マウス肺転移の有意の沈静化を媒介した。
【0127】
表10 CT26.WT腫瘍細胞を注入されたBALB/CマウスにおけるdelNS1ウイルスの抗腫瘍活性
【0128】
【表10】

【0129】
実施例12:インフルエンザウイルス感染の際のNS1タンパク質によるIRF-3のトランスロケーションの阻害
本節で記述する結果は、インフルエンザウイルスのNS1タンパク質が、ウイルスに対するタイプI IFN応答の阻害の原因となっていること、およびこのタンパク質の変異/欠失によって、感染の間にIFN応答が促進され、そのためにウイルスが弱毒化されることを示唆するものである。ウイルス感染の間のタイプI IFNの合成が、二重らせんRNA(dsRNA)によって引き起こされ得ることが知られている。IRF-3は通常、哺乳動物細胞の細胞質において不活性な形態で見られる。二重らせんRNAは転写因子IRF-3のリン酸化(活性化)を誘導し、その結果その核へのトランスロケーションが起こり、そこでタイプI IFNをコードする遺伝子を含む特定の遺伝子の転写を誘導する(Weaverら、1998, Mol. Cell. Biol. 18:1359)。インフルエンザのNS1がIRF-3に対して作用するか否かを決定するため、野生型PR8またはdelNS1インフルエンザAウイルスに感染したCV1細胞におけるIRF-3の局在化をモニターした。図3はIRF-3トランスロケーションがPR8感染細胞においては最小であること(細胞の10%よりも少ない)を示している。対照的に、delNS1感染細胞の約90%が、IRF-3の核局在化を示した。注目すべきことは、NS1をプラスミドからトランスで発現させることにより、delNS1感染細胞においてIRF-3のトランスロケーションを部分的に阻害できたことである。この結果は、インフルエンザAウイルスのNS1は、ウイルス感染細胞においてIRF-3トランスロケーションを阻害できることを示している。インフルエンザウイルスのNS1は、ウイルス感染の間に生成されたdsRNAを隔離することによってdsRNA媒介性のIRF-3の活性化を防ぎ、それによりIFN合成を阻害することが考えられる。
【0130】
本発明は、本発明の個別の態様を個々に説明するものである、記載された特定の実施形態によって範囲を限定されるものではない。また、機能的に等価ないずれの構築物やウイルスも、本発明の範囲にあるものとする。事実、本明細書において示され記述されたものに加えて、本発明の様々な変更が、これまでの記述と付属の図面から当業者には明らかとなるであろう。そのような変更は添付の特許請求の範囲内に該当するものとする。
【0131】
様々な参考文献が本明細書において引用されるが、それらの開示の全体を、参照により本明細書に組み入れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフルエンザウイルスのNS1遺伝子セグメントをコードする組換えDNAであって、該遺伝子セグメントはインフルエンザウイルスのNS1タンパク質におけるN末の90〜130のアミノ酸残基からなる切断型NS1タンパク質をコードしており、それによってNS1タンパク質のインターフェロンを拮抗する活性が損なわれている、組換えDNA。
【請求項2】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質におけるN末の90〜100のアミノ酸残基からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項1記載の組換えDNA。
【請求項3】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質におけるN末の100〜110のアミノ酸残基からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項1記載の組換えDNA。
【請求項4】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質におけるN末の110〜120のアミノ酸残基からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項1記載の組換えDNA。
【請求項5】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質におけるN末の120〜130のアミノ酸残基からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項1記載の組換えDNA。
【請求項6】
インフルエンザウイルスのNS1遺伝子セグメントをコードする組換えDNAであって、該遺伝子セグメントはインフルエンザウイルスのNS1タンパク質のアミノ酸残基1〜130、1〜124、1〜120、1〜110、1〜100、1〜99、1〜90、1〜89、1〜70または1〜60からなる切断型NS1タンパク質をコードしており[ここで、アミノ末端アミノ酸が1である]、それによってインターフェロンを拮抗する活性が損なわれている、組換えDNA。
【請求項7】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質のアミノ酸残基1〜130からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項6記載の組換えDNA。
【請求項8】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質のアミノ酸残基1〜124からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項6記載の組換えDNA。
【請求項9】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質のアミノ酸残基1〜120からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項6記載の組換えDNA。
【請求項10】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質のアミノ酸残基1〜110からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項6記載の組換えDNA。
【請求項11】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質のアミノ酸残基1〜100からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項6記載の組換えDNA。
【請求項12】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質のアミノ酸残基1〜99からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項6記載の組換えDNA。
【請求項13】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質のアミノ酸残基1〜90からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項6記載の組換えDNA。
【請求項14】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質のアミノ酸残基1〜89からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項6記載の組換えDNA。
【請求項15】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質のアミノ酸残基1〜70からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項6記載の組換えDNA。
【請求項16】
NS1遺伝子セグメントがインフルエンザウイルスのNS1タンパク質のアミノ酸残基1〜60からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、請求項6記載の組換えDNA。
【請求項17】
インフルエンザウイルスのNS1遺伝子セグメントをコードする組換えDNAであって、該遺伝子セグメントはインフルエンザウイルスのC末端が切断されたNS1タンパク質をコードしており、それによってNS1タンパク質のインターフェロンを拮抗する活性が損なわれており、NS1タンパク質が90または127アミノ酸長である、組換えDNA。
【請求項18】
インフルエンザウイルスのNS1遺伝子セグメントをコードする組換えDNAであって、該遺伝子セグメントはインフルエンザウイルスのNS1タンパク質におけるN末の60〜70のアミノ酸残基からなる切断型NS1タンパク質をコードしており、それによってNS1タンパク質のインターフェロンを拮抗する活性が損なわれている、組換えDNA。
【請求項19】
インフルエンザウイルスのNS1遺伝子セグメントをコードする組換えDNAであって、該遺伝子セグメントはインフルエンザウイルスのNS1タンパク質におけるN末の70〜80のアミノ酸残基からなる切断型NS1タンパク質をコードしており、それによってNS1タンパク質のインターフェロンを拮抗する活性が損なわれており、ただし前記切断型NS1タンパク質からアミノ酸1〜80からなるNS1タンパク質は除かれる、組換えDNA。
【請求項20】
インフルエンザウイルスのNS1遺伝子セグメントをコードする組換えDNAであって、該遺伝子セグメントはインフルエンザウイルスのNS1タンパク質におけるN末の80〜90のアミノ酸残基からなる切断型NS1タンパク質をコードしており、それによってNS1タンパク質のインターフェロンを拮抗する活性が損なわれており、ただし前記切断型NS1タンパク質からアミノ酸1〜80からなるNS1タンパク質は除かれる、組換えDNA。
【請求項21】
キメラインフルエンザウイルスのNS1遺伝子セグメントをコードする組換えDNAであって、該遺伝子セグメントはインフルエンザウイルスのアミノ酸残基1〜80からなる切断型NS1タンパク質をコードしている、組換えDNA。
【請求項22】
NS1タンパク質がインフルエンザ株NS1/99由来由来である、請求項1〜21のいずれか1項に記載の組換えDNA。
【請求項23】
NS1タンパク質がインフルエンザA/PR/8/34ウイルス由来である、請求項1〜21のいずれか1項に記載の組換えDNA。
【請求項24】
NS1遺伝子セグメントがキメラNS1遺伝子セグメントである、請求項1〜20、22および23のいずれか1項に記載の組換えDNA。
【請求項25】
NS1遺伝子セグメントが異種配列を発現する、請求項1〜24のいずれか1項に記載の組換えDNA。
【請求項26】
弱毒化インフルエンザウイルスを作製する方法であって、
(a) 請求項1〜25のいずれか1項に記載の組換えDNAを、ウイルス粒子を形成するのに必要な他のウイルスセグメントおよびウイルスタンパク質を提供する細胞に導入し、
(b) 該細胞を培養し、弱毒化ウイルスを産生させることを含む、方法。
【請求項27】
他のウイルスセグメントが異なるインフルエンザウイルス株由来である、請求項26記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−142248(P2010−142248A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29288(P2010−29288)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【分割の表示】特願2000−553136(P2000−553136)の分割
【原出願日】平成11年6月11日(1999.6.11)
【出願人】(596097464)マウント シナイ スクール オブ メディシン オブ ニューヨーク ユニバーシティー (4)
【Fターム(参考)】