説明

ワクチンと核酸

キャンピロバクター・タンパク質、特に抗原性タンパク質、例えばフラジェリン、又はその変種、あるいはそれらのいずれかの断片をコードする核酸は、キャンピロバクターによる住みつきに対して鳥類、例えばニワトリを保護することができ、そしてそれゆえ、獣医学的治療又は予防において使用されることができる。これは、ヒトの健康に対して影響を及ぼす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンピロバクター(Campylobacter)、特にキャンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)におけるコロニー形成(住みつき)に対して鳥類を保護することができるワクチン及び核酸に、並びにそれらを含む獣医薬組成物及びそれらの製造に関する。本発明は、さらに、上記処置の結果として得られた食品、及びヒト集団におけるキャンピロバクターによる感染の予防におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
キャンピロバクター種、主にキャンピロバクター・ジェジュニ(C.jejuni)、及びキャンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)は、主なヒトの腸内病原体である。C.jejuniは、毎年40,000超の報告されたケースを生じさせる英国において食品で運ばれる疾患の主要な原因である。キャンピロバクター感染は、2〜10日間のインキュベーション期間をもつ。兆候は、高熱、腹痛、及び激しい下痢を含む。
【0003】
同定された感染媒体は、汚染された飲料水及び娯楽施設の水、生の牛乳、及び調理不十分な鳥肉を含む。キャンピロバクター種は、鳥類及び鳥類に由来する製品から、ウシから、及びさまざまな野生動物から、高頻度で単離されうる。それらは、自然環境においても広く存在している。疫学的研究は、鳥肉の取扱い及び摂取(消費)が主な危険要因であることを示す。英国のブロイラー群の95%超が、この生物により全身に住みつかれており、そして群の住みつきの農場でのコントロール又は予防が、規制当局の優先事項である。
【0004】
しかしながら、生物保護(biosecurity)法を用いて群における住みつきを防ぐ試みは一般に成功していない(Newell & Fearnley, 2003, Appl. Environ. Microbiol. 69: 4343-4351)。それゆえ、有効な動物ワクチン、特に、鳥類において有効なものが、望まれる。
【0005】
生きたキャンピロバクターが住みついたニワトリが循環性及び粘膜特異的な抗体応答を作り出すことが発見された(Cawthraw et al., 1994, Avian Dis. 38: 341-9)。上記抗体がそれに対して誘導されているところの主な抗原は、フラジェリン(flagellin)であるようである。
【0006】
用語「フラジェリン(flagellin)」は、細菌の鞭毛内のフィラメントを形成するように中空シリンダーにそれ自身を配置する細菌タンパク質をいう。これらのタンパク質は、それをコードする遺伝子が生物のゲノム内に出現する順番に従って一般に命名される。したがって、フラジェリンA(又は「FlaA」)は、flaA、すなわち、ゲノム内の最初のフラジェリン遺伝子によりコードされる。FlaAは、フラジェリンBをコードするflaB遺伝子の上流に存在する。フラジェリンAは、より多量に発現される傾向がある。しかしながら、flaAとflaBの配列は、高い相同性を有し、そしてそれらは交差することができる。
【0007】
初期の研究は、生きた感染により生成された抗体応答は部分的に保護性であることを示す(Cawthraw et al., 2003, Int. J. Med. Microbiol. 293 Suppl. 35: 30)。しかしながら、この場合、明らかに、生ワクチンとして全細菌細胞を使用する着想は、許容されないであろう。なぜなら、それは、上記問題を、潜在的に悪化させるであろうからである。
【0008】
しかしながら、死んだ抗原又はサブユニット・ワクチンを使用して鳥類において保護応答を作り出すいくつかの試みは、一般に成功していない。例えば、鳥類に、フラジェリン抗原を含むワクチン製剤を投与することは抗体応答を作り出すことは判明しているが、この応答は、コロニー形成(住みつき)に対して保護性ではなかった。
【0009】
ワクチンとしてDNAを使用する着想は、最初、1990に記載された(Wolf et al., 1990, Science 247: 1465-1468)。この論文中、マウスにおける精製された細菌プラスミドDNAの直接筋肉内注射がコードされたレポーター遺伝子の発現をもたらしたことが証明された。特定の疾患に対して鳥類を免疫化するためのDNAワクチンの使用も記載されている(Oshop et al., 2002, Vet. Immunol. Immunopathol. 89: 1-12)。多くの可能性のあるDNAワクチンが、さまざまな成功度合をもって試験された。これらのワクチンの内のいくつかは、少なくとも部分的な保護を提供するようであるが、他のものは効果がないようである。
【発明の開示】
【0010】
本発明に従って、獣医学的治療又は予防において使用するための、キャンピロバクターによるコロニー形成(住みつき)に対して鳥類を保護することができる、キャンピロバクター・タンパク質をコードする又は、キャンピロバクター・タンパク質の変種をコードする核酸、あるいはそれらのいずれかの断片が、提供される。
【0011】
今日まで、DNAワクチンが、キャンピロバクターによるコロニー形成(住みつき)を低減させうることを示唆するものは存在しない。
【0012】
しかしながら、本願出願人らは、DNAワクチンの投与が、キャンピロバクター種による、特にキャンピロバクター・ジェジュニによるコロニー形成(住みつき)に対して、鳥類の如き種を保護することができることを、発見した。この保護は、検出可能な抗体応答に依存しないようである。
【0013】
本明細書中に使用するとき、表現「変種(variant)」とは、その配列内の1以上のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されているが、キャンピロバクターによる感染及び/又はコロニー形成に対して鳥類を保護する能力を、それから誘導され又は比較される配列が保持する点で、基本配列と相違するアミノ酸配列をいう。アミノ酸置換は、当該アミノ酸が、広く類似の特性をもつ異なるアミノ酸で置換される場合、「保存的」と認められる。非保存的置換は、当該アミノ酸が異なるタイプのアミノ酸で置換される場合をいう。おおまかに言えば、ポリペプチドの生物学的活性を変更しない非保存的置換はほとんど不可能である。好適には、変種は、基本配列に対して、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、そしてさらにより好ましくは少なくとも90%の同一性を有するであろう。
【0014】
この場合の同一性は、例えば、Ktuple:2、gap nenalty:4、Gap Length Penalty:12、標準PAM格付けマトリックスを使用したBLASTプログラム又はLipman−Pearsonのアルゴリズムを使用して判定されうる(Lipman & Pearson, 1985, Science 227: 1435-1441)。
【0015】
用語「その断片」とは、完全(全長)アミノ酸と同一の活性を用い、そして/又はキャンピロバクターによる感染及び/又はコロニー形成(住みつき)に対して鳥類を保護する能力を有する所定のアミノ酸配列のいずれかの部分をいう。断片は、好適には、基本配列からの少なくとも5個、そして好ましくは少なくとも10個連続したアミノ酸を含むであろう。
【0016】
好適には、核酸は、その抗原性キャンピロバクター・タンパク質又はその変種あるいはそれらのいずれかの断片をコードする。このようなタンパク質の例は、フラジェリン・ペプチジル−プロリル・シス−トランス・イソメラーゼ、外膜フィブロネクチン結合性タンパク質、多剤流出システムのタンパク質(cmeA,B又はC)、シャペロニン、細胞周辺腔タンパク質、エロンゲーション因子TU、チオレドキシン、主要外膜タンパク質、CiaBタンパク質、酵素、例えば、ホスホリパーゼA、ガンマ−グルタミル・トランスペプチダーゼ、並びにいくつかの推定タンパク質を含む。
【0017】
このようなタンパク質の特別の例は:
配列番号1で表されるFlaA、
配列番号3で表されるFlaB、
配列番号4で表されるPeb4、
配列番号5で表されるPeb3、
配列番号6で表されるPeb2、
配列番号7で表されるPeb1、
配列番号8で表されるCadF、
配列番号9,10、及び11で、それぞれ表されるCmeA,B、及びC、
配列番号12で表されるGroEL(cpn60)、
配列番号13で表されるGroES(cpn10)、
配列番号14で表されるCj0420(推定細胞周辺腔タンパク質)、
配列番号15で表されるTuf(Cj0470)、
配列番号16で表されるTrxA、
配列番号17で表されるPorA−主要外膜タンパク質、
配列番号18で表されるCiaB、
配列番号19で表されるPldA、
配列番号20で表されるCj0447(推定タンパク質)、又は
配列番号21で表されるGgtである。
【0018】
上記配列を以下の配列表において提供する。上記キャンピロバクター・ジェジュニのタンパク質をコードする遺伝子の配列は文献中に及び/又はGenbankにおいて入手可能である。
【0019】
特に、上記タンパク質はフラジェリンである。
【0020】
キャンピロバクターのフラジェリン遺伝子のヌクレオチド配列はかなり変動しうる。450位と500位の間の短い可変領域(SVR)は、保存された配列の領域に隣接される。断片は、上記保存された領域から得られる。
【0021】
好ましくは、上記核酸は、キャンピロバクター・フラジェリン配列をコードする。
フラジェリンは、鳥類に住みつくいずれかのキャンピロバクター種、例えば、キャンピロバクター・ジェジュニ(C.jejuni)、キャンピロバクター・コリ(C.coli)、又はキャンピロバクター・ラリ(Campylobacter lari)から得られうる。しかしながら、特に、上記フラジェリンは、C.jejuni又はC.coli、そして最も好ましくはC.jejuniから得られうる。
【0022】
好適なキャンピロバクターのフラジェリンは、FlaA又はFlaBを含む。特に、上記核酸は、キャンピロバクター・フラジェリンA又はその変種、あるいはこれらのいずれかの断片をコードする。
【0023】
特に好ましい核酸は、キャンピロバクター・ジェジュニ株NCTC 11168から得られうるフラジェリンAをコードし、そのアミノ酸配列を配列番号1に提供する。キャンピロバクター・ジェジュニ株NCTC 11168のフラジェリンAをコードする野生型核酸を配列番号2に示す。
【0024】
他のフラジェリン・アミノ酸配列、及び当該配列をコードする対応の遺伝子は、Nuitejen et al., 1992, Campylobacter jejuni, Current Status and Future Trends, Nachamkin et al. (Eds), American Society for Microbiology, Washington DC, USA, pp 282-296; Meinersman et al., 1997, J. Clin. Microbiol. 35: 2810-2814; 及びMeinersman & Hiett, 2000, Microbiol. 146: 2283-2290中に示される。
【0025】
好適な核酸は、配列番号2又はその修飾物を含む。
【0026】
本明細書中に使用するとき、核酸配列に関して使用される用語「修飾物(modifications)」とは、ポリヌクレオチド配列からの又はへの、1以上の核酸の置換、変更、修飾、交換、欠失、又は付加を意味する。但し、当該ポリヌクレオチドによりコードされる得られたタンパク質の配列は、基本配列によりコードされるタンパク質と同一の特性(例えば、抗原性)を示す。それゆえ、当該用語は、対立遺伝子変種を含み、そしてまた、本発明のポリヌクレオチド配列に実質的にハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む。好ましくは、このようなハイブリダイゼーションは、低〜高の間のストリンジェンシー条件下で生じる。一般的に、低ストリンジェンシー条件は、約周囲温度〜約55℃における3×SSCと定義され、そして高ストリンジェンシー条件は、約65℃における0.1×SSCとして定義される。SSCは、0.15M NaClと0.015Mクエン酸3ナトリウムを含むバッファー(pH7.0)である。例えば、3×SSCは、SSCの3倍の強さをもつ。
【0027】
典型的には、本発明のポリヌクレオチド配列と62%以上のヌクレオチドを共有し、より典型的には65%、好ましくは70%、さらにより好ましくは80%又は85%、そして特に90%、95%、98%又は99%以上の同一性が好ましい。
【0028】
同一性の度合(the degree of identity)を測定する目的で核酸配列を比較するとき、プログラム、例えば、BESTFIT及びGAP(両者とも、Wisconsin Genetics Computer Group(GCG)ソフトウェア・パッケージからのもの)が使用される。例えば、BESTFITは、2つの配列を比較し、そして最も類似するセグメントの最適アラインメントを作り出す。GAPは、それらの全長に沿って配列がアラインメントされることを可能にし、そして適宜、いずれかの配列内にスペースを挿入することにより最適なアラインメントを発見する。好適には、核酸配列の同一性を討議するとき本発明の文脈において、比較は、それらの全長に沿っての配列のアラインメントにより行われる。
【0029】
核酸の特別な例は、配列番号1又は3〜21の内のいずれかのアミノ酸配列をコードする核酸を含む。配列番号1をコードする核酸の特別な例が、配列番号2である。
【0030】
核酸は、好適には、キャンピロバクターによるコロニー形成(住みつき)に対する保護のために鳥類に投与される。この場合、鳥類は、ニワトリ、七面鳥、及び猟鳥、例えば、カモ、ウズラ等を含む。特に、鳥類種はニワトリである。
【0031】
本明細書中に使用するとき、表現「コロニー形成(住みつき)に対して鳥類を保護することができる」とは、鳥類が当該生物による住みつきに対する感受性がより低いことを意味する。これは、群内の個々の鳥が住みつかれることを防止することにより達成され(それゆえ、群の残りへの伝播に責任を負う「最初の鳥」が存在しない)。しかしながら、一旦、キャンピロバクターが群に住みつくと、ワクチン接種されていない群に比較して、住みつきレベルを、特に2×log低下程、低下させることにより効果は達成され、これは、ヒトの健康に対する危険を引き起こすであろうレベルを下廻る住みつきレベルをもたらす。
【0032】
本発明の核酸は、「naked DNA」又は「naked RNA」ワクチンとしての使用に特に好適である。したがって、それらは、例えば、好適には、インビボにおいて宿主細胞内で発現されるプラスミド内に取り込まれる。
【0033】
本発明における使用に特に好適なプラスミドの特別な例は、第三者に入手可能なpCMV−リンク・プラスミドを含む。
【0034】
したがって、本発明のさらなる局面は、獣医学的治療における使用される、キャンピロバクターによる住みつきに対して鳥類を保護することができる、キャンピロバクタータンパク質又はキャンピロバクター・タンパク質の変種あるいはそれらのいずれかの断片をコードする核酸を含むプラスミドを提供する。
【0035】
記載されるプラスミドは、好適には、ワクチンとしての投与のための医薬として許容される担体と、混合される。それゆえ、本発明の第三の局面は、獣医薬として許容される担体とともに、医薬として許容される担体、及び上記の核酸配列を含むプラスミドを含む獣医薬組成物を提供する。
【0036】
他の局面においては、本発明は、獣医薬として許容される担体とともに、医薬として許容される担体、及び上記の核酸配列を含む獣医薬組成物を提供する。
【0037】
本発明に従って、キャンピロバクターによる住みつきに対して鳥類を保護することができる、キャンピロバクター・タンパク質、又はキャンピロバクター・タンパク質の変種、あるいはそれらの内のいずれかの断片をコードする核酸を含むワクチンも提供される。このワクチンは、本明細書中に記載されるプラスミドを、代替的に又は追加的に含むことができる。このワクチンは、医薬として許容される担体、及び/又は獣医薬として許容される担体をさらに含みうる。当該ワクチンは、獣医学的治療における使用のために特に好適である。
【0038】
ワクチンは、好ましくは、無細胞、すなわち、生きた又は死んだ全細胞成分を含有しない。
DNA及び/又はRNAを含む(DNA及び/又はRNAを含むプラスミドを含む)ワクチン又は配合品は、それ自身の細胞機構が当該核酸をキャンピロバクター・タンパク質、又はその変種、あるいはそれらのいずれかの断片に翻訳する鳥類に注射されうる。上記タンパク質、変種又は断片は、MHCクラスI分子に関連して提示されることができ、そしてそれゆえ、主に体液性免疫応答を作り出す伝統的なワクチンに比較して、活発な細胞免疫応答を誘導することができる。当該ワクチンの核酸は、レトロウィルス、ワクシニア・ウィルス又はアデノウィルス・ベクターにより、又は正電荷をもつ分子、例えば、リポソーム、カルシウム塩又はデンドリマーに付着されることにより、宿主細胞内に伝達されることができる。あるいは、所望の核酸は、プラスミド内に直接挿入され、そしてnaked DNA及び/又はnaked RNAが注射される。NakedプラスミドDNAワクチンは、ウィルス・ベクターが使用されるときに生じる安全性の問題及び製造上の問題をバイパスし、そしてまた、デリバリー・ベクターに向けられる免疫応答からの合併症又は妨害を回避する。
【0039】
本発明の組成物又はワクチンにおける医薬として許容される担体は、液体又は固体であることができる。本発明の組成物は、非経口投与のために、そして特に筋肉内注射のために配合されうる。但し、他の適用手段、例えば、遺伝子銃を用いた投与も、医学文献中に記載されるように可能である。経口的にデリバリーされる配合品は好ましく、そして経卵又は局所的な配合品も好適である。
【0040】
配合品又はワクチンは、アジュバント、そして特にプラスミド・アジュバント、例えば、CpGs、サイトカイン、例えばインターロイキンをコードするDNA、CaPO4又はアジュバンタイジング脂質、例えばリポフェクチンをも含むことができる。
【0041】
使用される投与量は、処置される動物、当該動物の齢及びサイズ、及びその疾患状態に依存して変化するであろう。これらの要因は、慣用の臨床実務を用いて決定されるであろう。しかしながら、一般的に言えば、予防薬としての鳥類への投与のためには、0.25μg〜1mgの投与単位が使用されうる。
【0042】
ブースター投与が、所望により与えられうる。特に、本願出願人らは、キャンピロバクターへの暴露前の時間期間の少なくとも2倍の核酸が与えられるところの投与処方が、保護を提供するために極めて有効であることを発見した。
【0043】
本発明のさらなる局面に従えば、鳥類に、上記の核酸、発現ベクター又はワクチンを投与することを含む、キャンピロバクターによる住みつきに対して鳥類を保護する方法が提供される。
【0044】
本発明の他の局面に従えば、キャンピロバクターの住みつきの予防又は治療における使用のためのワクチンの製造における上記の核酸又は発現ベクターの使用が提供される。
【0045】
この方法で鳥類集団を処置することにより、キャンピロバクターによる感染から、当該鳥類を摂取するヒト集団を保護することが可能である。
【0046】
したがって、本発明のさらなる局面においては、食物連鎖にある鳥類集団に、本明細書に記載する核酸プラスミド、又は組成物を投与することを含む、キャンピロバクター感染からヒトを保護する方法が提供される。
【0047】
あるいは、本発明は、食物連鎖の鳥類集団内の住みつきを低減することにより、キャンピロバクターによる感染に対するヒトの集団における上記の核酸、プラスミド、又は組成物の使用を提供する。
【0048】
さらなる局面においては、本発明は、屠殺前に、本明細書中に記載される核酸、プラスミド、又は組成物で処置された鳥類を含む食品を提供する。
【0049】
本明細書中に引用する全ての文献を、それらの全体として援用する。
【0050】
本発明をより十分に理解するために、本発明に従うDNAワクチンの好ましい態様は、単なる例示であり、添付図面を参照して説明する。
【実施例】
【0051】
実験
細菌株
キャンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)株11168−O(Gaynor et al., 2004, J. Bacteriol. 186: 503-17)を、細菌DNAの源として、及び感染株として使用した。キャンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)株81−176を、感染試験のための異種株として使用した。細菌は、8% O2、7% CO2、及び85% N2の雰囲気中10%脱フィブリン化ヒツジ血液を含有する寒天プレート上42℃で一夜培養した。ワン・ショット(登録商標)TOPO F′ E.coli細胞(Invitrogen)を、クローニング反応における受容体として使用した。形質転換体を、アンピシリン(100μg/ml)を含有するLuria−Bertani(LB)寒天上で選択した。
【0052】
DNAワクチンの構築及び調製
対照プラスミドpCMV−リンクの構築は、先に記載されていた(Chambers et al., 2000, Clin. Infect. Dis. 30 Suppl. 3: S283-287)。このプラスミドは、Invitrogen(Leek, the Netherlands)からのpCDNA 3.1に基づく。プラスミドpCMV−CjflaAを、C.jejuni株11168−Oのフラジェリン(flaA)遺伝子を、pCMV−リンクの多クローニング領域内に挿入することにより構築した。flaA遺伝子を、以下のプライマー:前進:5′−ATG GGA TTT CGT ATT AAC AC−3′(配列番号22)、及び後退:5′−CTG TAG TAA TCT TAA AAC ATT TTG−3′(配列番号23)を用いて1719bp産物としてC.jejuni株11168−OからPCRにより増幅した(Wassenaar & Newell, 2000, Appl. Environ. Microbiol. 66: 1-9)。flaA PCRアンプリコンを、TOPO(登録商標)/PCRクローニング・キットを用いてpCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)ベクター(Invitrogen)内にライゲートし、そしてワン・ショット(登録商標)TOPO F′ E.coli細胞(Invitrogen)内にエレクトロポレートした。次いで、pCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標)flaAプラスミドを、精製し(Qiagen)、そして制限酵素BamHI及びXbaIで消化して、1719bp flaA遺伝子を含む1812bp産物を得た。この産物を、次いで、pCMV−リンクのBamHI及びXbaI部位内にライゲートして(図1)、8049bpのプラスミドpCMV−CjflaAを得た。このプラスミドを、ワン・ショット(登録商標)TOPO F′ E.coli細胞(Invitrogen)内にエレクトロポレートした。
【0053】
免疫化のためのプラスミドDNAを、製造者の手順に従って、エンドトキシン不含バッファー(Qiagen, Crawley, UK)を含むQIAGEN−tip 10000プラスミド抽出キットを用いて調製した。
【0054】
ワクチン接種
第1の実験において、10羽の特別な病原体フリーの(SPF)ニワトリ(Lohmann's, Germany)の3群を、別個の隔離室内で飼養した。2日齢目に、以下のように鳥を免疫化した:群1−処置なし、群2−大腿部内筋中、100μl PBS中71μg pCMV−リンクDNA、群3−大腿部筋中100μl PBS中71μg pCMV−CjflaA DNA。上記鳥が18日齢にあるとき、同様の接種物を与えた。25日齢目に、全ての鳥に、0.1ml PBS中2.2×103cfu C.jejuni株11168−Oを、経口胃管栄養法により投与した。
【0055】
先の試験は、3×103cfu株11680の経口投与により、感染から5日以内に、ニワトリにおいて最大住みつき(約109cfu/盲腸内容物1g)が達成されることが証明されている(Gaynor et al., 2004、前掲)。それゆえ、鳥は5日後に殺され、そして盲腸住みつきレベルを、先に記載されるように選択培地上での逐次希釈の培養により測定した(Wassenaar et al., 1993, J. Gen. Microbiol. 139: 1171-1175)。
【0056】
第2の実験において、SPFニワトリの一群(n=9)を、4及び18日齢目に、上記のようにであるが、57.8μg pCMV−CjflaA DNAでワクチン接種した。第2の群(n=9)は非処理であった。25日齢目に、全ての鳥に、0.1ml PBS中1.87×103cfu C.jejuni株81−176を、胃管栄養法により投与した。鳥を、5日後に殺し、そして盲腸住みつきレベルを上記のように測定した。
【0057】
結果
実験1
pCMV−リンクDNAで、pCMV−CjflaA DNAでワクチン接種され、又は非処理の鳥の群を、2.2×103cfu C.jejuni株11168−Oで感染させ、そして盲腸住みつきレベルを、5日後に測定した。結果を、以下の表1と図2に示す。図2中、個々の住みつきレベルは、盲腸内容物1g当りのcfuとして与えられる。バーは、幾何平均レベルに等しい。結果は、DNAワクチン接種が約2×log10程、住みつきのレベルを低下させうることを、はっきりと示している。pCMV−CjflaA DNAでワクチン接種された鳥は、pCMV−リンクを与えたもの(p=0.007)、及び非処理のもの(p<0.0001)よりも有意に低く住みつかれている。
【0058】
C.jejuniフラジェリンに対する循環及び粘膜抗体を検出するためにELISA技術を使用した(Cawthraw et al., 1994, Avian Dis. 38: 341-349)。上記群のいずれにおいても特異的抗体は検出されなかった。したがって、保護は、検出可能な抗体応答に依存しないようである。
【0059】
【表1】

【0060】
実験2
pCMV−CjflaA DNAでワクチン接種され又は非処理である鳥の群を、1.87×103cfu C.jejuni株81−176で感染させ、そして盲腸住みつきレベルを5日後に測定した。結果を表2と図2に示す。
【0061】
ワクチン接種群からの1羽の鳥は、検出可能なキャンピロバクターを有しておらず、そして3羽の鳥は、低いレベル(<3×103cfu/g)で住みつかれていた。幾何平均の差は、ほとんど有意であった(p=0.0503)。少なくとも9羽の内少なくとも4羽における明らかな保護にも拘らず、有意性は、実験1において見られたものと同程度に大きくなかった。これは、実験2におけるワクチン接種された群内の鳥の内の3羽が、対照鳥のいずれよりも、より重く住みつかれていることに因る。しかしながら、上記鳥における住みつきレベル(C.109cfu/g)は、多くの他の試験における上記株について見られる最大住みつきレベル(5×107〜5×109cfu/g)の正常範囲内にある。
【0062】
【表2】

【0063】
以上の結果は、キャンピロバクターの住みつきに対する有効な保護が、フラジェリンに基づくDNAワクチンを用いて達成されうることを示すものである。
【0064】
本発明を好ましい又は例示的な態様を参照して説明してきたけれども、当業者は、本発明の本質及び範囲から逸脱せずに、本発明に対するさまざまな変更及び修正が成されることができそしてそのような変更が明らかに本発明において企図されていることを理解するであろう。本明細書中に開示し、そして添付の特許請求の範囲に記載する特定の態様に関する限定は何ら意図されておらず、また推認されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本発明に従うDNAワクチンの製造において使用されるプラスミドpCMV−CjflaAの構築を示すマップである。
【図2】図2は、フラジェリン遺伝を含むか又は含まない(それぞれ、pCMV−リンクとpCMV CjflaA)プラスミドDNAワクチンで免疫化された鳥、及びワクチン接種されなかった鳥(NV)の盲腸住みつきレベル(cfu/g)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
獣医学的治療又は予防に使用されるための、キャンピロバクター(Campylobacter)タンパク質又はその変種をコードする核酸あるいはそれらのいずれかの断片であって、当該核酸は、キャンピロバクターによるコロニー形成(住みつき)に対して鳥類を保護することができる前記核酸又はその断片。
【請求項2】
前記キャンピロバクター・タンパク質は、配列番号1で表されるFlaA、配列番号3で表されるFlaB、配列番号4で表されるPeb4、配列番号5で表されるPeb3、配列番号6で表されるPeb2、配列番号7で表されるPeb1、配列番号8で表されるCadF、配列番号9,10と11でそれぞれ表されるCmeA,B又はC、配列番号12で表されるGroEL(cpn60)、配列番号13で表されるGroES(cpn10)、配列番号14で表されるCj0420(推定細胞周辺腔タンパク質)、配列番号15で表されるTuf(Cj0470)、配列番号16で表されるTrxA、配列番号17で表されるPorA−主要外膜タンパク質、配列番号18で表されるCiaB、配列番号19で表されるPldA、配列番号20で表されるCj0447(推定タンパク質)、又は配列番号21で表されるGgtから選ばれる、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
キャンピロバクターによるコロニー形成に対して鳥類を保護することができる、キャンピロバクターのフラジェリン(flagellin)、又はその変種をコードする請求項1又は2のいずれかに記載の核酸又はその断片。
【請求項4】
前記核酸は、キャンピロバクターのフラジェリン配列をコードする、請求項3に記載の核酸。
【請求項5】
前記フラジェリンは、キャンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)又はキャンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)から得られうる、請求項4に記載の核酸。
【請求項6】
前記フラジェリンは、C.jejuniから得られうる、請求項5に記載の核酸。
【請求項7】
前記キャンピロバクターのフラジェリンは、FlaA又はFlaBから選ばれる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項8】
前記キャンピロバクターのフラジェリンはFlaAである、請求項7に記載の核酸。
【請求項9】
配列番号1として図3Aに示すアミノ酸配列をコードする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項10】
配列番号2を含む、請求項1に記載の核酸。
【請求項11】
配列番号2に示す配列を有する、請求項8に記載の核酸。
【請求項12】
ニワトリの治療に使用するためのものである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の核酸を含むプラスミド。
【請求項14】
獣医学的に許容される担体とともに、請求項13に記載のプラスミドを含む獣医薬組成物。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の核酸、請求項13に記載のプラスミド、又は請求項14に記載の組成物を含むワクチン。
【請求項16】
鳥類に、請求項1〜12のいずれか1項に記載の核酸、請求項13に記載のプラスミド、又は請求項14に記載の組成物を投与することを含む、キャンピロバクターによるコロニー形成に対して鳥類を保護する方法。
【請求項17】
前記鳥類がニワトリである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
キャンピロバクターによる鳥類におけるコロニー形成を低下させるために使用されるワクチンの製造における、請求項1〜12のいずれか1項に記載の核酸、又は請求項13に記載のプラスミドの使用。
【請求項19】
キャンピロバクターからヒトを保護する方法であって、食物連鎖における鳥類集団に、請求項1〜12のいずれか1項に記載の核酸、請求項13に記載のプラスミド、請求項14に記載の組成物、又は請求項15に記載のワクチンを投与することを含む前記方法。
【請求項20】
食物連鎖の鳥類集団におけるコロニー形成を低下させることにより、キャンピロバクターによる感染に対してヒトの保護における、請求項1〜12のいずれか1項に記載の核酸、請求項13に記載のプラスミド、請求項14に記載の組成物、又は請求項15に記載のワクチンの使用。
【請求項21】
屠殺前に、請求項1〜12のいずれか1項に記載の核酸、請求項13に記載のプラスミド、請求項14に記載の組成物、又は請求項15に記載のワクチンを投与されている鳥類を含む食品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−517595(P2008−517595A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537395(P2007−537395)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【国際出願番号】PCT/GB2005/004102
【国際公開番号】WO2006/046017
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(507135032)
【Fターム(参考)】