説明

ワクチン

【課題】癌抗原と共に使用するための新規なアジュバント製剤の提供。
【解決手段】異種融合パートナーに結合したMAGE抗原、異種融合パートナーに結合したプロスターゼ抗原、プロスターゼの少なくとも20個の連続したアミノ酸を含むプロスターゼ断片、突然変異プロスターゼ、P501S、クリプト(Cripto)、Her 2 neu膜貫通ドメインの実質的部分を欠くHer 2 neu誘導体よりなる群から選ばれる癌抗原と、サポニンを含むアジュバント組成物とを、免疫刺激性オリゴヌクレオチドと共に含んでなる免疫原性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌抗原またはその誘導体と、免疫刺激性オリゴヌクレオチドおよびサポニンを含む組合せアジュバント組成物との組合せを含む新規製剤に関する。
該抗原は、好ましくは、Her 2 neu誘導体または前立腺抗原であり、したがって、本発明の製剤は、そのような抗原を発現するヒトの治療および予防において有用である。好ましい実施形態においては、該アジュバント組成物は更にリポ多糖を含む。
【背景技術】
【0002】
財政的および人的資源の莫大な投資にもかかわらず、癌は依然として主要死亡原因の1つである。例えば、癌は、35歳〜74歳の女性における主要死亡原因である。乳癌は、女性において最も多い悪性疾患であり、乳癌の発生頻度は増加しつつある。9人中1人の女性が該疾患と診断されると見積もられている。乳癌を治療するための標準的なアプローチは、手術、放射線および化学療法の組合せに集中している。これらのアプローチは、ある悪性疾患においては幾つかの劇的な成功を収めている。しかし、乳癌は、ある病期以降に診断された場合には、治療不能であることがほとんどである。早期診断および治療のための代替的アプローチが必要とされている。
【0003】
非メチル化CpGジヌクレオチド(「CpG」)を含有する免疫刺激性オリゴヌクレオチドは、全身経路および粘膜経路の両方で投与する場合のアジュバントとして当技術分野において公知である(WO96/02555,EP 468520,Davisら,J.Immunol,1998,160(2):870−876;McCluskieおよびDavis,J.Immunol.,1998,161(9):4463−6)。CpGは、DNA中に存在するシトシン−グアノシンジヌクレオチドモチーフの略語である。歴史的には、BCGのDNA画分が抗腫瘍効果を奏しうることが観察されている。更なる研究において、BCG遺伝子配列に由来する合成オリゴヌクレオチドが(in vitroおよびin vivoの両方において)免疫刺激効果を誘導しうることが示された。これらの研究の著者らは、中心的CGモチーフを含む特定のパリンドローム配列がこの活性を担うと結論づけた。その後、Kriegによる刊行物(Nature 374,p546 1995)において、免疫刺激におけるCGモチーフの中心的役割が明らかにされた。CGモチーフは特定の配列環境中になければならないこと、およびそのような配列は細菌DNAにおいては一般的であるが脊椎動物DNAにおいては稀であることを、詳細な分析が示している。免疫刺激性配列は、しばしば、プリン、プリン、C、G、ピリミジン、ピリミジンであるが(ここで、該ジヌクレオチドCGモチーフはメチル化されていない)、他の非メチル化CpG配列も免疫刺激性であることが公知であり、本発明で使用することが可能である。
【0004】
それらの6ヌクレオチドの特定の組合せには、パリンドローム配列が存在する。これらのモチーフのいくつかは、1つのモチーフの反復または異なるモチーフの組合せのいずれかとして、同じオリゴヌクレオチド中に存在しうる。これらの免疫刺激性配列を含有するオリゴヌクレオチドの1以上の存在は、ナチュラルキラー細胞(これはインターフェロンγを産生し、細胞溶解活性を有する)およびマクロファージを含む種々の免疫サブセットを刺激しうる(Wooldrigeら Vol 89(no.8),1977)。しかし、現在、このコンセンサス配列を含まない他の非メチル化CpG含有配列も免疫調節性であることが示されている。
【0005】
CpGは、ワクチン中に製剤化された場合には、一般には、遊離抗原と共に遊離溶解状態で投与されるか(WO96/02555;McCluskieおよびDavis,前掲)、または共有結合で抗原にコンジュゲートされるか(WO98/16247)、または水酸化アルミニウムのような担体と共に製剤化される((肝炎表面抗原)Davisら,前掲;Brazolot−Millanら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1998,95(26),15553−8)。
【特許文献1】WO96/02555
【特許文献2】EP 468520
【特許文献3】WO98/16247
【非特許文献1】Davisら,J.Immunol,1998,160(2):870−876
【非特許文献2】McCluskieおよびDavis,J.Immunol.,1998,161(9):4463−6
【非特許文献3】Nature 374,p546 1995
【非特許文献4】Wooldrigeら Vol 89(no.8),1977
【非特許文献5】Brazolot−Millanら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1998,95(26),15553−8
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアジュバント組合せ物は、好ましい実施形態において、腸内細菌リポ多糖由来のアジュバントを少なくとも1種含む。
【0007】
腸内細菌LPSは免疫系の強力な刺激物質であるが、アジュバントにおけるLPSの使用はその毒性作用により制限されることが古くから知られている。コア炭水化物基および還元末端グルコサミンからのホスフェートを除去することにより得られるLPSの無毒性誘導体であるモノホスホリルリピドA(MPL)が、Ribiら(1986,Immunology and Immunopharmacology of bacterial endotoxins,Plenum Publ.Corp.,NY,p407−419)により記載されており、これは以下の構造を有する。
【化1】

【0008】
MPLの更なる解毒形態が、二糖骨格の3位からアシル鎖を除去することにより得られ、3−O−脱アシル化モノホスホリルリピドA(3D−MPL)と称される。それは、GB 2122204Bに教示されている方法により精製し製造することが可能であり、その文献はジホスホリルリピドAおよびその3−O−脱アシル化形態の製造も開示している。3D−MPLの好ましい形態は、直径0.2μm未満の小さな粒径を有する乳剤の形態をしており、その製造方法はWO94/21292に開示されている。モノホスホリルリピドAと界面活性剤とを含む水性製剤がWO98/43670A2に記載されている。
【0009】
本発明のアジュバント組合せ物中に配合される細菌リポ多糖由来のアジュバントは、細菌源から精製し加工することが可能であり、あるいはそれは合成物であってもよい。例えば、精製されたモノホスホリルリピドAはRibiら 1986(前掲)に記載されており、サルモネラ種(Salmonella sp.)由来の3−O−脱アシル化モノホスホリルまたはジホスホリルリピドAはGB 2220211および米国特許第4912094号に記載されている。他の精製および合成リポ多糖も、WO98/01139;米国特許第6,005,099号およびEP 0729473 B1;Hilgersら,1986,Int.Arch.Allergy.Immunol.,79(4):392−6;Hilgersら,1987,Immunology,60(1):141−6;およびEP 0549074 B1に記載されている。特に好ましい細菌リポ多糖アジュバントは、米国特許第6,005,099号およびEP 0729473 B1に記載の3D−MPLおよびβ(1−6)グルコサミン二糖である。
【0010】
したがって、本発明で使用しうるLPS誘導体は、LPSまたはMPLまたは3D−MPLと構造において類似した免疫刺激物質である。本発明のもう1つの態様においては、該LPS誘導体は、MPLの前記構造の副次的部分であるアシル化単糖でありうる。
【0011】
好ましい二糖アジュバントは、以下の式で表される精製されたまたは合成のリピドAである。
【化2】

上記式中、Rは、HまたはPOでありうる;Rはアシル鎖またはβ−ヒドロキシミリストイル、または式:
【化3】

を有する3−アシルオキシアシル残基でありうる。
【0012】
3D−MPLとバラ科キラヤ(Quillaja Saponaria molina)の樹皮に由来するサポニンアジュバントとの組合せが、EP 0761231 Bに記載されている。WO95/17210は、免疫刺激物質QS21と共に、場合により3D−MPLと共に、配合されたスクアレン、α−トコフェロールおよびポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(TWEEN80)に基づくアジュバント乳剤系を開示している。
【0013】
サポニンは全身投与用のワクチン中のアジュバントとして公知である。個々のサポニンのアジュバント活性および溶血活性が、当技術分野において詳細に研究されている(Lacaille−DuboisおよびWagner,前掲)。例えば、Quil A(南米産樹木バラ科キラヤの樹皮に由来する)およびその画分が、米国特許第5,057,540号および「ワクチンアジュバントとしてのサポニン(Saponins as vaccine adjuvants)」,Kensil,C.R.,Crit Rev Ther Drug Carrier Syst,1996,12(1−2);1−55およびEP 0362279 B1に記載されている。
【0014】
Quil Aの画分を含む免疫刺激性複合体(Immune Stimulating Complexes:ISCOMs)と称される粒状構造物は溶血性であり、ワクチンの製造において使用されている(Morein,B.,EP 0109942 B1)。これらの構造物はアジュバント活性を有することが報告されている(EP 0109942 B1;WO96/11711)。
【0015】
溶血性サポニンQS21およびQS17(Quil AのHPLC精製画分)は強力な全身性アジュバントとして記載されており、それらの製造方法は米国特許第5,057,540号およびEP 0362279 B1に開示されている。また、これらの文献には、全身性ワクチン用の強力なアジュバントとして作用するQS7(Quil Aの非溶血性画分)の使用が記載されている。さらに、QS21の使用がKensilら(1991,J.Immunology vol 146,431−437)に記載されている。QS21とポリソルベートまたはシクロデキストリンとの組合せも公知である(WO99/10008)。QS21およびQS7のようなQuil A画分を含む粒状アジュバント系がWO96/33739およびWO96/11711に記載されている。
【0016】
全身ワクチン接種の研究において使用されている他のサポニンには、ジプソフィラ(Gypsophila)およびサポナリア(Saponaria)のような他の植物種に由来するものが含まれる(Bomfordら,Vaccine,10(9):572−577,1992)。
【0017】
また、サポニンは、粘膜適用ワクチンの研究において使用されていることが公知であり、これは、免疫応答の誘導において、ばらつきのある成功を収めている。Quil−Aサポニンは、抗原が鼻腔内投与された場合には、免疫応答の誘導に対して効果を示さないことが既に示されている(Gizurarsonら 1994,Vaccine Research 3,23−29)。一方、他の著者はこのアジュバントを成功裏に使用している(Maharajら,Can.J.Microbiol.,1986,32(5):414−20;ChavaliおよびCampbell,Immunobiology,174(3):347−59)。Quil Aサポニンを含むISCOMsは、胃内および鼻腔内ワクチン製剤において使用されており、アジュバント活性を示している(McI Mowatら,1991,Immunology,72,317−322;McI MowatおよびDonachie,Immunology Today,12,383−385)。
【0018】
また、QuilAの無毒性画分であるQS21が経口または鼻腔内アジュバントとして記載されている(Suminoら,J.Virol.,1998,72(6):4931−9;WO98/56415)。
【0019】
サポニンは、Lacaille−Dubois,MおよびWagner H.1996,A review of the biological and pharmacological activities of saponins.Phytomedicine vol 2 pp 363−386に教示されている。サポニンは、植物および海洋動物界に広く分布するステロイドまたはトリテルペン配糖体である。サポニンは、振とうすると泡を発生する水中コロイド溶液を形成する点およびコレステロールを沈殿させる点で注目される。サポニンが細胞膜付近に存在する場合には、それは該膜中に孔様構造体を形成し、この構造体が該膜を破裂させる。赤血球の溶血がこの現象の一例であるが、これは、すべてではないにしても、ある種のサポニンの特性の1つである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、免疫刺激性オリゴヌクレオチド(CpG)とサポニンと場合により使用しうるリポ多糖の組合せが非常に強力なアジュバントであるという驚くべき知見に関する。したがって、サポニンと免疫刺激性オリゴヌクレオチドと場合により使用しうるリポ多糖を、癌抗原またはその誘導体と組み合わせて含むワクチン組合せ物を提供する。好ましい実施形態においては、アジュバント製剤は、サポニン(好ましくはQS21)、免疫刺激性オリゴヌクレオチドおよび3D−MPLを含む。
【0021】
好ましくは、本発明のワクチンは更に担体を含みうる。本発明の好ましい形態においては、該アジュバントおよびワクチン組成物中のオリゴヌクレオチドは、抗原特異的免疫応答の誘導において、組み合わされたサポニン/リポ多糖と相乗的に作用して、腫瘍退縮の増強をもたらすものである。該製剤は、通常はTh1タイプの免疫系に関連した免疫応答の誘導において効力がある。したがって、該アジュバント組合せ物は、疾患の免疫予防だけでなく、癌のような疾患の免疫療法にも適している。
【0022】
前記製剤は抗腫瘍抗原を含有し、癌の免疫療法的治療に有用である。例えば、該アジュバント製剤は、例えば前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、膵臓癌、腎臓癌または悪性黒色腫などに対する腫瘍拒絶抗原とともに使用される。かかる抗原の例として、MAGE1、MAGE3およびMAGE4または他のMAGE抗原、例えば、WO99/40188に開示されているもの、PRAME、BAGE、Lage(NY Eos 1としても公知である)SAGEおよびHAGE(WO99/53061)またはGAGE(RobbinsおよびKawakami,1996,Current Opinions in Immunology 8,pp 628−636;Van den Eyndeら,International Journal of Clinical & Laboratory Research(1997年に提出);Correaleら(1997),Journal of the National Cancer Institute 89,p293)が挙げられる。実際のところ、これらの抗原は、黒色腫、肺癌、肉腫および膀胱癌のような広範な腫瘍型において発現される。
【0023】
本発明で使用するMAGE抗原は、発現エンハンサーまたは免疫学的融合パートナーとの融合タンパク質として発現されうる。本発明の1つの実施形態においては、該誘導体は、異種のパートナー(好ましくはMAGE3)に結合したMAGEタンパク質ファミリーからの抗原を含む融合タンパク質である。該タンパク質は、化学的にコンジュゲートされうるが、好ましくは、発現系において非融合タンパク質と比較して増加したレベルの産生を可能にする組換え融合タンパク質として発現される。したがって、融合パートナーは、Tヘルパーエピトープ、好ましくは、ヒトにより認識されるTヘルパーエピトープを提供するのを補助したり(免疫学的融合パートナー)、あるいは天然組換えタンパク質より高い収率で該タンパク質を発現するのを補助しうる(発現エンハンサー(発現増強体))。好ましくは、融合パートナーは、免疫学的融合パートナーと発現増強パートナーの両方とする。
【0024】
本発明の好ましい形態においては、免疫学的融合パートナーは、グラム陰性菌ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenza)Bの表面タンパク質であるプロテインDに由来する(WO91/18926)。好ましくは、プロテインD誘導体は、該タンパク質の最初の約1/3、特に、最初のN末端の約100〜110アミノ酸を含む。好ましくは、プロテインD誘導体はリピド化される。好ましくは、リポプロテインD融合パートナーの最初の109残基をN末端側に付加して、該ワクチン候補抗原に追加の外因性T細胞エピトープを提供し、大腸菌(E.coli)内での発現レベルを高めるようにする(したがって、発現エンハンサーとしても機能する)。リピド尾部は、抗原提示細胞への抗原の最適な提示を保証する。
【0025】
他の融合パートナーには、インフルエンザウイルス由来の非構造タンパク質NS1(赤血球凝集素)が含まれる。典型的には、N末端の81アミノ酸が使用されるが、Tヘルパーエピトープを含む限り、異なる断片も使用することが可能である。
【0026】
もう1つの実施形態においては、免疫学的融合パートナーはLYTAとして公知のタンパク質である。好ましくは、この分子のC末端部分を使用する。Lytaは、N−アセチル−L−アラニンアミダーゼ、アミダーゼLYTA(lytA遺伝子によりコードされる)(Gene,43(1986) p.265−272)(ペプチドグリカン骨格中の特定の結合を特異的に分解する自己分解酵素)を合成する肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)に由来する。LYTAタンパク質のC末端ドメインは、コリンまたは幾つかのコリン類似体(例えば、DEAE)に対する親和性に寄与する。この特性は、融合タンパク質の発現に有用な大腸菌(E.coli)C−LYTA発現プラスミドの開発に利用されている。アミノ末端にC−LYTA断片を含有するハイブリッドタンパク質の精製が既に記載されている(Biotechnology:10,(1992) p.795−798)。本発明で用いるとおり、好ましい実施形態では、残基178から始まるC末端に見出されるLyta分子の反復部分を利用する。特に好ましい形態は、残基188〜305を組み入れるものである。
【0027】
前記の免疫学的融合パートナーは、発現を補助する点でも有利である。特に、そのような融合体は、天然組換えMAGEタンパク質より高い収率で発現される。そのような構築物はWO99/40188に開示されている。
【0028】
他の腫瘍特異的抗原も、本発明のアジュバントと共に使用するのに適しており、それらには、腫瘍特異的ガングリオシド、例えばGM2およびGM3、または担体タンパク質とのそれらのコンジュゲートが含まれるが、これらに限定されるものではない。あるいは該抗原は、自己ペプチドホルモン、例えば、多数の癌の治療または免疫抑制において有用である短い10アミノ酸長のペプチドである全長性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH,WO95/20600)でありうる。
【0029】
更なる好ましい実施形態においては、他の前立腺抗原、例えば、前立腺特異的抗原(PSA)、PAP、PSCA(PNAS 95(4) 1735−1740 1998)、PSMAが使用され、また、好ましい実施形態ではプロスターゼ(Prostase)として公知の抗原が使用される。
【0030】
プロスターゼは、保存されたセリンプロテアーゼ触媒三つ組残基H−D−Sと潜在的な分泌機能を示すアミノ末端のプレプロペプチド配列とを有する、254アミノ酸長の前立腺特異的セリンプロテアーゼ(トリプシン様)である(P.Nelson,Lu Gan,C.Ferguson,P.Moss,R.Gelinas,L.Hood & K.Wand,「発現が前立腺に限定されているアンドロゲン調節セリンプロテアーゼであるプロスターゼの分子クローニングおよび特性決定(Molecular cloning and characterisation of prostase, an androgen−regulated serine protease with prostate restricted expression)」, Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1999)96,3114−3119)。推定グリコシル化部位が記載されている。推定される構造は他の公知のセリンプロテアーゼに酷似しており、このことは、成熟ポリペプチドが単一ドメインにフォールディングされることを示している。成熟タンパク質は224アミノ酸長であり、1つのA2エピトープが天然でプロセシングされることが示されている。
【0031】
プロスターゼのヌクレオチド配列および推定ポリペプチド配列およびホモログは、Fergusonら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1999,96,3114−3119)および国際特許出願番号WO98/12302(そしてまた、特許が付与された対応する米国特許第5,955,306号)、WO98/20117(そしてまた、特許が付与された対応する米国特許第5,840,871号および米国特許第5,786,148号)(前立腺特異的カリクレイン)およびWO00/04149(P703P)に開示されている。
【0032】
本発明は、プロスターゼタンパク質ならびにその断片およびホモログに基づくプロスターゼタンパク質融合体(「誘導体」)を含む製剤を提供する。そのような誘導体は、前立腺癌の治療に適した治療用ワクチン製剤中での使用に適している。典型的には、該断片は、前記の特許および特許出願に開示されている少なくとも20、好ましくは50、より好ましくは100個の連続したアミノ酸を含有する。
【0033】
1つの実施形態においては、突然変異プロスターゼ抗原を提供し、ここで、該突然変異は該タンパク質の活性部位中に存在する。該プロスターゼ抗原誘導体またはその断片およびホモログは、そのプロテアーゼ生物活性を実質的に減少させるよう又は好ましくは除去するよう、該タンパク質の活性部位中に突然変異を有する。好ましい突然変異は、該セリンプロテアーゼのヒスチジンおよびアスパラギン酸触媒残基の置換を含む。好ましい実施形態においては、プロスターゼは、プロスターゼ配列の活性部位中、例えば残基71にヒスチジン−アラニン突然変異を含有する(Fergusonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1999,96,3114−3119)。例えばWO00/041949に開示されている相同タンパク質中の対応する突然変異が特に意図される。例えば、この突然変異はP703Pでは43位に対応する。この突然変異は、該タンパク質の触媒効率(酵素比活性で表される)の著しい低下を招きうる。好ましくは、触媒効率が少なくとも10分の1、より好ましくは少なくとも10分の1に低下する。ヒスチジン−アラニン突然変異を受けたタンパク質を以後*(星印)で示すこととする。
【0034】
1つの実施形態においては、プロスターゼは、突然変異型であろうとなかろうと、腫瘍関連プロスターゼまたはその断片もしくはホモログと、融合パートナーとして作用するタンパク質の一部または異種タンパク質とを含む融合タンパク質の一部である。該タンパク質および該融合パートナーは化学的にコンジュゲートされうるが、好ましくは、異種発現系内で組換え融合タンパク質として発現される。
【0035】
本発明の好ましい実施形態においては、Tヘルパーエピトープの提供を補助しうる免疫学的融合パートナーに結合したプロスターゼ融合タンパク質またはその断片もしくはホモログを提供する。したがって、融合パートナーは、外来タンパク質またはペプチドに特異的な多数のT細胞による活性化シグナルの分泌と関連したバイスタンダー(第三者)ヘルパー効果を介して作用し、それにより、非融合タンパク質と比較して、プロスターゼ成分に対する免疫の誘導を増強しうる。
好ましくは、異種パートナーは、大多数のヒトのT細胞によって認識されるように選択される。
【0036】
もう1つの実施形態においては、本発明は、発現エンハンサーとして作用する融合パートナーに結合したプロスターゼタンパク質またはその断片もしくはホモログを提供する。したがって、融合パートナーは、異種系内でのプロスターゼの発現を補助して、発現系において天然組換えタンパク質と比較して増加したレベルの産生を可能にしうる。
【0037】
好ましくは、融合パートナーは、免疫学的融合パートナーおよび発現エンハンサーパートナー(発現増強パートナー)の両方である。したがって、本発明は、融合パートナーに結合した突然変異腫瘍特異的プロスターゼまたはその断片を含む融合タンパク質を提供する。好ましくは、融合パートナーは、免疫学的融合パートナーおよび発現エンハンサーパートナーの両方として作用する。したがって、本発明の好ましい形態においては、融合パートナーは、インフルエンザウイルス由来の非構造タンパク質NS1(赤血球凝集素)またはその断片である。典型的には、N末端の81アミノ酸が使用されるが、Tヘルパーエピトープを含む限り、異なる断片も使用することが可能である(C.Hackett,D.Horowitz,M.Wysocka & S.Dillon,1992,J.Gen.Virology,73,1339−1343)。NS1が免疫学的融合パートナーである場合には、それは、より高い発現率の達成をそれが可能にするという追加的な利点を有する。特に、そのような融合体は、天然組換えプロスターゼタンパク質より高い収率で発現される。
【0038】
最も好ましい実施形態においては、融合タンパク質は、カルボキシ末端5−226アミノ酸に融合したNS1非構造タンパク質のN末端81アミノ酸を含む。別の発現パートナーには、例えば、プロテインDおよびその断片、ならびにC−Lyta(MAGE抗原とともに利用されるもの)が含まれる。
【0039】
もう1つの好ましい前立腺抗原は、P501S(WO98/37814の配列番号113)として公知である。その免疫原性断片および部分は、前記の特許出願に開示されている少なくとも20、好ましくは50、より好ましくは100個の連続したアミノ酸を含む。例えば、PS108(WO98/50567)を参照されたい。
【0040】
他の前立腺特異的抗原は、WO98/37418およびWO/004149から公知である。もう1つは、STEAP(PNAS 96 14523 145287−12 1999)である。
【0041】
本発明において有用な他の腫瘍関連抗原には、Plu−1(J Biol.Chem 274(22)15633−15645,1999)、HASH−1、HasH−2、クリプト(Cripto)(Salomonら Bioessays 199,21 61−70,米国特許第5654140号)、クリプチン(Criptin)(米国特許第5981215号)が含まれる。さらに、癌治療用のワクチンに特に適した抗原には、チロシナーゼおよびサービビン(survivin)も含まれる。
【0042】
Muc1のようなムチン由来ペプチドに関しては、例えば、米国特許第5744,144号、米国特許第5827,666号、WO8805054、米国特許4,963,484号を参照されたい。特に、SM3抗体(米国特許第6054438号)により認識される、Muc1ペプチドの少なくとも1つの反復単位、好ましくは少なくとも2つのそのような反復単位を含むMuc1由来ペプチドが意図される。他のムチン由来ペプチドには、Muc5由来のペプチドが含まれる。
【0043】
本発明は、乳癌抗原、例えばHer 2 neu、マンマグロビン(mammaglobin)(米国特許第5668267号)またはWO/0052165、WO99/33869、WO99/19479、WO98/45328に開示されているものとの組合せにおいても有用である。Her 2 neu抗原は、とりわけ、米国特許第5,801,005号に開示されている。好ましくは、Her 2 neuは、全細胞外ドメイン(およそアミノ酸1−645を含む)またはその断片、および全細胞内ドメイン(C末端のおよそ580アミノ酸)の少なくとも免疫原性部分を含む。特に、該細胞内部分はリン酸化ドメインまたはその断片を含むべきである。そのような構築物はWO00/44899に開示されている。特に好ましい構築物はECD PDとして公知であり、もう1つはECD ΔPDとして公知である。WO00/44899を参照されたい。
【0044】
本発明で用いるHer 2 neuは、ラット、マウスまたはヒトに由来するものでありうる。
【0045】
Her 2 neu抗原は、機能性膜貫通ドメインを欠く全Her 2 neu抗原またはその一部でありうる。好ましい部分は細胞外ドメインを含む。より好ましい実施形態においては、WO00/44899(これを参照により本明細書に組み入れることとする)に開示されているような、細胞内ドメインの一部に結合した細胞外ドメインを含む融合タンパク質を提供する。
【0046】
本発明は、Her 2 neu癌遺伝子発現のタンパク質産物に対する免疫をモジュレートする、好ましくは誘起または増強しうる、温血動物における悪性疾患などに対する製剤に関する。この場合、悪性疾患を伴う増幅されたHer 2 neu遺伝子は、該遺伝子のタンパク質発現産物が該腫瘍上に存在することを必要としない。例えば、該遺伝子の過剰発現は腫瘍形成の開始および初期段階に関与しうるが、その後、該タンパク質発現は減弱されるか又は存在しないことがある。本発明は、Her 2 neu陽性腫瘍の定着を予防したり、既存のHer 2 neu陽性腫瘍の退縮を誘発することに加えて、Her 2 neu陽性腫瘍からHer 2 neu陰性腫瘍へ変換するのに有効な免疫応答を惹起または増強するために使用することができる。
【0047】
本明細書の全体にわたり以下の略語を使用する。「ECD」は細胞外ドメインを意味し、「ICD」は細胞内ドメインを意味し、「PD」は細胞内ドメイン内に存在するリン酸化ドメイン(すなわち、リン酸化されるドメイン)を意味し、「ΔPD」はリン酸化ドメイン内に存在するリン酸化ドメインの断片を意味し、「KD」は細胞内ドメイン内に存在するキナーゼドメインを意味する。Her 2 neu遺伝子の発現産物は、本明細書では、「Her 2 neuタンパク質」と称されるが、「p185」または「c−erbB2」としても知られており、そのようにも称される。
【0048】
「Her 2 neu ECD−ICD融合タンパク質」は、本明細書では「ECD−ICD」または「ECD−ICD融合タンパク質」とも称され、Her 2 neuタンパク質の細胞外ドメイン(またはその断片)と細胞内ドメイン(またはその断片)とを含む融合タンパク質(またはその断片)を意味する。これらは、本発明において使用する好ましい抗原に相当する。本明細書で用いるECD−ICD融合タンパク質は、Her 2 neu膜貫通ドメインの実質的部分を含まず、好ましくは、Her 2 neu膜貫通ドメインのいずれをも含まない。
【0049】
「Her 2 neu ECD−ICD融合タンパク質」および「Her 2 neu ECD−PD融合タンパク質」なる用語、ならびにそれらの関連用語はまた、以下のものを意味すると理解される:そられの断片、それらのホモログおよびそれらの機能的等価体(「変異体」と総称される)、例えば、本発明の好ましい実施形態においては、それらの1以上のアミノ酸が、(i)Her 2 neuタンパク質と比較して免疫応答の惹起または増強を高めるか、あるいは(ii)Her 2 neuタンパク質と比較して免疫応答の惹起または増強に実質的に影響を及ぼさないか、のいずれかであるもの(例えば、変異体は、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞による応答を促進するか、あるいは抗体産生を促進する)。Her 2 neu ECD−ICD融合タンパク質およびHer 2 neu ECD−PD融合タンパク質の典型的な断片、ホモログおよび機能的等価体を含めて、変異体の非限定的な具体例は、本明細書により詳しく記載されている。変異体は、天然ポリペプチド成分を含む融合タンパク質と「実質的に同一」または「実質的に類似」していることがあるが、免疫応答を促進する能力を保有するものである。
【0050】
Her 2 neu PDは、268アミノ酸長であり、細胞内に存在し、タンパク質チロシンキナーゼによりリン酸化されうる。この領域は、他のチロシンキナーゼ受容体の対応部分と同一性を全く共有しない。したがって、このドメインの特異性および独自性は、それを、腫瘍ワクチンとしての使用に特に好ましいものとする。しかし、細菌細胞および哺乳類細胞内でのこのドメインのみの発現は問題がある。例えば、生じるPDタンパク質は非常に不安定であり、大規模生産には適さない。したがって、1つの実施形態においては、本発明は、好ましくは、Her 2 neu細胞外ドメインの全部または一部と細胞内ドメインまたはリン酸化ドメインの全部または一部とを含む融合体を使用する。本発明のECD−ICD融合タンパク質およびECD−PD融合タンパク質は可溶性であり、分泌され、培地中で安定である。
【0051】
本発明のワクチンは、腫瘍関連抗原の発現(例えば、Her 2 neuの発現)により特徴づけられる、あらゆる癌に対して有用であろう。細胞外ドメインまたはその変異体との融合タンパク質として、細胞内ドメインもしくはリン酸化ドメインまたはそれらの変異体の発現の増強を可能にすることに加えて、ECD−ICDおよびECD−PD融合タンパク質は、改良されたワクチン製剤を提供する。
【0052】
したがって、本発明は、アジュバント組成物(該アジュバントはサポニンと免疫刺激性オリゴヌクレオチドを含む)および膜貫通ドメインを欠くHer 2 neu抗原を含むワクチン製剤を提供する。Her 2 neu分子は、ラット、マウス、ヒトのもの又はそれらのハイブリッドでありうる。好ましくは、該her 2分子は、該細胞外ドメインの実質的全部を含む。実質的全部とは、100アミノ酸以下、好ましくは75アミノ酸未満、より好ましくは50アミノ酸未満が該細胞外ドメインから欠失していることを意味する。全細胞外ドメインが存在することが好ましい。本発明のヒトHer 2 neu構築物における細胞外ドメインは、好ましくは、N末端の600アミノ酸、より好ましくはN末端の630アミノ酸、より好ましくは約650アミノ酸の実質的全部を含む。ヒトICDはアミノ酸676からVal 1255まで伸長する。リン酸化ドメインはICDのN末端部分に位置する。本発明で使用する構築物は、リン酸化ドメインを含むが機能性膜貫通ドメインを含まないことが好ましい。好ましくは、膜貫通ドメインは完全に欠失されている。
【0053】
本発明での使用に特に適した構築物はWO/0044899に開示されている。
【0054】
Her 2 neu抗原は、リポソームまたは水中油型乳剤担体と一緒に3D−MPC、QS21およびCpGオリゴヌクレオチドにより製剤化されていることが、好ましい実施形態である。そのような製剤は、体液性応答および細胞性応答の両方を引き出す。QS21と3D−MPLのみを含むアジュバント製剤と比較して、本発明の製剤は、好都合なことに、マウスにおいてより強力なTH1応答を示した。CpGのみの製剤は顕著な細胞性免疫応答を引き出さなかった。
【0055】
前記製剤は、腫瘍を支持する機構(例えば、血管新生、腫瘍侵襲)に関連した抗原、例えば、tie2、VEGFを含有していてもよい。
【0056】
本発明のアジュバントまたはワクチンで使用するのに好ましいオリゴヌクレオチドは、好ましくは3個以上、より好ましくは6個以上のヌクレオチドにより分離された2つ以上のジヌクレオチドCpGモチーフを含有する。本発明のオリゴヌクレオチドは、典型的にはデオキシヌクレオチドである。好ましい実施形態においては、該オリゴヌクレオチド中のヌクレオチド間は、ホスホロジチオエート、より好ましくはホスホロチオエート結合であるが、ホスホジエステルや他のヌクレオチド間結合も本発明の範囲内であり、混合ヌクレオチド間結合を有するオリゴヌクレオチドも含まれる。ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドまたはホスホロジチオエートの製造方法は、米国特許第5,666,153号、米国特許第5,278,302号およびWO95/26204に記載されている。
【0057】
好ましいオリゴヌクレオチドの具体例は以下の配列を有する。これらの配列は、好ましくは、ホスホロチオエート修飾ヌクレオチド間結合を含有する。
オリゴ1(配列番号1):TCC ATG ACG TTC CTG ACG TT(CpG 1826)、
オリゴ2(配列番号2):TCT CCC AGC GTG CGC CAT (CpG 1758)、
オリゴ3(配列番号3):ACC GAT GAC GTC GCC GGT GAC GGC ACC ACG、
オリゴ4(配列番号4):TCG TCG TTT TGT CGT TTT GTC GTT (CpG 2006)、
オリゴ5(配列番号5): TCC ATG ACG TTC CTG ATG CT (CpG 1668)。
【0058】
別のCpGオリゴヌクレオチドは上記の好ましい配列を含みうるが、ただし、それらは重要でない欠失または付加を有するものである。本発明で使用するCpGオリゴヌクレオチドは、当技術分野で公知の方法(例えば、EP 468520)により合成することができる。簡便には、そのようなオリゴヌクレオチドは、自動シンセサイザーを使用して合成することが可能である。それらは、典型的には、10〜50塩基長である。
【0059】
本発明で使用するオリゴヌクレオチドは、典型的には、デオキシヌクレオチドである。好ましい実施形態においては、該オリゴヌクレオチド中のヌクレオチド間結合はホスホロジチオエート、より好ましくはホスホロチオエート結合であるが、ホスホジエステルも本発明の範囲内である。種々のヌクレオチド間結合(例えば、混合ホスホロチオエート、ホスホジエステル)を含むオリゴヌクレオチドも意図される。該オリゴヌクレオチドを安定化する他のヌクレオチド間結合を使用することが可能である。
【0060】
本発明のアジュバント組合せ物中で使用しうるサポニンには、米国特許第5,057,540号および「ワクチンアジュバントとしてのサポニン(Saponins as vaccine adjuvants)」,Kensil,C.R.,Crit Rev Ther Drug Carrier Syst,1996,12(1−2);1−55およびEP 0362279 B1に記載されているQuil Aと称されるバラ科キラヤ(Quillaja Saponaria Molina)の樹皮に由来するもの及びその画分が含まれる。Quil Aの特に好ましい画分は、QS21、QS7およびQS17である。
【0061】
β−エスシン(β-escin)は、本発明のアジュバント組成物において使用するのに好適なもう1つの溶血性サポニンである。エスシンは、樹木マロニエ(Lat:Aesculus hippocastanum)の種子中に見出されるサポニンの混合物としてMerckインデックス(第12版、エントリー3737)に記載されている。その単離は、クロマトグラフィーおよび精製によるもの(Fiedler,Arzneimittel−Forsch.4,213(1953))並びにイオン交換樹脂によるもの(Erbringら,米国特許第3,238,190号)が記載されている。エスシンの画分が精製されており、生物学的に活性であることが示されている(Yoshikawa Mら(Chem Pharm Bull(Tokyo)1996 Aug;44(8):1454−1464))。β−エスシンはエスシン(aescin)としても知られている。
【0062】
本発明において使用するもう1つの好ましい溶血性サポニンはジギトニンである。ジギトニンは、キツネノテブクロ(Digitalis purpurea)の種子に由来するサポニンとしてMerckインデックス(第12版、エントリー3204)に記載されており、Gisvoldら,J.Am.Pharm.Assoc.,1934,23,664およびRuhenstroth−Bauer,Physiol.Chem.,1955,301,621に記載の方法に従い精製される。その用途は、コレステロール測定のための臨床用試薬として記載されている。
【0063】
本発明のアジュバント組合せ物は更に担体を含むことが可能であり、サポニンまたはCpGまたはリポ多糖は、該組合せ物のアジュバント活性を増強する粒状担体と会合しうる。特に好ましい全身性ワクチンは、例えば、担体分子を含む。
【0064】
本発明のアジュバント組合せ物において使用するCpGは遊離溶解状態にあることが可能であり、また、粒状担体、例えば無機塩(アルミニウムまたはカルシウム塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない)、リポソーム、ISCOMs、乳剤(水中油型、油中水型、水中油中水型)、重合体(例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリホスファジン、ポリアミノ酸、アルギネート、キトサン)または微粒子と複合体を形成させることが可能である。好ましくは、該担体は陽イオン性である。本発明のワクチンは更に、CpG−担体複合体と会合しうる又はCpG−担体複合体と会合し得ない抗原を含む。この場合、該抗原は遊離懸濁状態にあっても、また、別の担体と会合していてもよい。
【0065】
本発明のサポニン形成部分は、ミセルの形態で分離していることが可能であり、あるいはコレステロールおよび脂質と共に製剤化される場合にはISCOMs(EP 0109942 B1)またはリポソーム(WO96/33739)のような大きな秩序だった構造体の形態をとることが可能であり、あるいは水中油型乳剤(WO95/17210)の形態をとることも可能である。サポニンは、好ましくは、水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウムのような金属塩と会合することが可能である(WO98/15287)。あるいは、サポニンはキトサンのような粒状担体と会合していてもよい。サポニンは粉末のような乾燥状態にあってもよい。ワクチン接種を受ける者の粘膜表面に投与される形態の最終製剤は、溶血性の性質を有することが好ましい。サポニンは、直接的結合により又は同じ粒状担体分子との同時相互作用により、該抗原と物理的に会合することも会合しないことも可能である(GB9822712.7;WO98/16247)。
【0066】
本発明のアジュバントまたはワクチン中のCpGおよびサポニンおよびリポ多糖は、それら自体が分離していること又は会合していることが可能である。例えば、CpGおよびサポニンは遊離懸濁状態にあってもよいし、あるいは担体、より好ましくは粒状担体(例えば水酸化アルミニウム)を介して、又は陽イオン性リポソームもしくはISCOMsにより会合していてもよい。
【0067】
本発明の好ましいアジュバント組合せ物は、水中油型乳剤またはDQを含む群から選ばれる粒状担体およびQS21と共に、2つの隣接CGモチーフ間に少なくとも3個、好ましくは少なくとも6個のヌクレオチドを含有する1以上のCpGオリゴヌクレオチドを含んでなる。リポ多糖はジまたはモノホスホリル脂質誘導体、好ましくは3脱−O−アシル化されたもの、特に3脱−O−アシル化モノホスホリルリピドAであることが好ましい。最も好ましくは、アジュバント組合せ物は、水中油型乳剤またはDQを含む群から選ばれる粒状担体およびQS21と混合されたCpG2006(配列番号4)またはCpG1758(配列番号2)またはCpG1826(配列番号1)を含む。したがって、特に好ましいワクチンは、例えば、そのようなアジュバント組合せ物および抗原を含む。本発明の好ましいワクチンは、全身経路で個体に投与した後に全身性免疫応答を生起させるために使用される。
【0068】
本発明のアジュバント組合せ物は、油を基剤とする乳剤を含みうる。油乳剤アジュバントは、例えば、フロイント完全および不完全鉱油乳剤アジュバントに関する研究を含めて、久しく知られている。それ以来、これらの強力ではあるが反応原性(reactogenic)であるアジュバント製剤に代わる安定でかつ十分許容される製剤を設計するために多大な研究が行われてきた。
【0069】
多数の単相または多相乳剤系が記載されている。水中油型乳剤アジュバント自体がアジュバント組成物として有用であると提起されており(EP 0399843B)、水中油型乳剤と他の活性薬剤との組合せも、ワクチン用のアジュバントとして記載されている(WO95/17210;WO98/56414;WO99/12565;WO99/11241)。他の油乳剤アジュバント、例えば、油中水型乳剤(米国特許第5,422,109号;EP 0480982 B2)および水中油中水型乳剤(米国特許第5,424,067号;EP 0480981 B)も記載されている。
【0070】
本発明において使用する油乳剤アジュバントは天然物または合成物であってよく、無機物または有機物であってもよい。無機および有機の油の例は当業者には容易に理解されるであろう。
【0071】
水中油型組成物がヒトへの投与に適したものとなるためには、該乳剤系の油相が代謝可能な油を含むことが好ましい。代謝可能な油なる用語の定義は当技術分野でよく知られている。代謝可能は、「代謝により変換されうること」と定義することができる(Dorland’s Illustrated Medical Dictionary,W.B.Sanders Company,第25版(1974))。油は、レシピエントにとって毒性でなく代謝により変換されうるどのような植物油、魚油、動物油または合成油であってもよい。堅果(例えば、ラッカセイ油)、種子および穀物が、一般的な植物油の供給源である。合成油も本発明の一部であり、それらにはNEOBEE(登録商標)のような市販の油が含まれうる。スクアレン(2,6,10,15,19,23−ヘキサメチル−2,6,10,14,18,22−テトラコサヘキサエン)は、鮫肝油中に大量に、そしてオリーブ油、小麦胚芽油、米糠油および酵母中により少量で存在する不飽和油であり、本発明で使用するのに特に好ましい油である。スクアレンは、コレステロールの生合成における中間体であるため、代謝可能な油である(Merckインデックス,第10版、エントリー番号8619)。
【0072】
特に好ましい油乳剤は水中油型乳剤、特に水中スクアレン型乳剤である。
【0073】
また、本発明の最も好ましい油乳剤アジュバントは、酸化防止剤を含み、それは、好ましくは、油状のα−トコフェロール(ビタミンE、EP 0382271 B1)である。
【0074】
WO95/17210およびWO99/11241は、所望により免疫刺激剤QS21および/または3D−MPLにより製剤化されうる、スクアレン、α−トコフェロールおよびTWEEN 80に基づく乳剤アジュバントを開示している。WO99/12565は、油相中へのステロールの添加によるこれらのスクアレン乳剤に対する改良を開示している。また、乳剤を安定化するために、トリカプリリン(C27H50O6)のようなトリグリセリドを油相に加えることが可能である(WO98/56414)。
【0075】
安定な水中油型乳剤中に存在する油滴のサイズは、光子相関分光法により測定して、好ましくは1ミクロン未満であり、実質的に直径30〜600nm、好ましくは実質的に直径約30〜500nm、最も好ましくは実質的に直径150〜500nmの範囲内、特に直径約150nmでありうる。これに関しては、油滴数の80%が、それらの好ましい範囲内にあるべきであり、より好ましくは、油滴数の90%以上、最も好ましくは95%以上が、その定められたサイズ範囲内にある。本発明の油乳剤中に存在する成分の量は、通常は、2〜10%の油(例えば、スクアレン)、存在する場合には2〜10%のα−トコフェロールおよび0.3〜3%の界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)の範囲内である。好ましくは、油:α−トコフェロールの比は1以下である。なぜなら、これがより安定した乳剤を与えるからである。また、Span 85を約1%のレベルで存在させることも可能である。いくつかの場合には、本発明のワクチンは安定化剤を更に含有することが有利でありうる。
【0076】
水中油型乳剤の製造方法は当業者によく知られている。一般には、該方法は、油相をPBS/TWEEN80(商標)溶液のような界面活性剤と混合し、次いでホモジナイザーを使用してホモジナイズすることを含むが、当業者には、該混合物を注射針に2回通過させる方法が小容量の液体をホモジナイズするのに適していることが明らかであろう。同様に、マイクロフルイダイザー(microfluidiser)(M110Sマイクロフルイディクス装置、6バールの最大入力圧(約850バールの出力圧)で2分間にわたり最大で50回の通過)内での乳化方法が、より小さい又はより大きな容積の乳剤を製造するために、当業者により応用されうるであろう。この応用は、必要とされる大きさの油滴の調製物が得られるまで、生じた乳剤の測定を含むルーチンの実験操作を行うことにより達成されるであろう。
【0077】
本発明のアジュバント組合せ物は、全身性アジュバントまたは粘膜アジュバントの両方として使用することができる。本発明の特定の形態においては、全身または非経口経路(例えば、筋肉内、皮内、経皮、皮下、腹腔内または静脈内投与)により投与される全身性ワクチンを提供する。好ましい投与経路は、経皮経路、例えば皮膚パッチによるものである。
【0078】
本発明の全身性ワクチン製剤は、筋肉内、腹腔内、皮内、経皮、静脈内または皮下投与により該ワクチンを投与することにより、疾患に罹患しやすい又は罹患した哺乳動物を防御または治療するために使用することができる。ワクチン製剤の全身投与の方法は、通常のシリンジおよび針、または固形ワクチンのバリスティック(ballistic)送達のために設計された装置(WO99/27961)、または無針加圧液噴射装置(米国特許第4,596,556号;米国特許第5,993,412号)、または経皮パッチ(WO97/48440;WO98/28037)を含みうる。また、本発明は、皮膚に適用される抗原(経皮送達、WO98/20734;WO98/28037)の免疫原性を増強するために使用することができる。それゆえに、本発明は、本発明のワクチンまたはアジュバント組成物を予め充填した全身投与用の送達装置を提供する。したがって、個体における免疫応答の誘導方法であって、抗原および免疫刺激性オリゴヌクレオチド、サポニンおよび担体を含むワクチンを個体に投与することを含んでなり、該ワクチンを非経口または全身経路により投与することを特徴とする方法を提供する。免疫応答の好ましい誘導方法は、Quil A由来のサポニン(例えばQS21)および担体(例えば、水中油型乳剤、コレステロール含有リポソームまたはミョウバン)と共にワクチン(例えば、Her 2 neu誘導体に対するもの
)を投与することを含む。
【0079】
あるいは、本発明のワクチン製剤は、該ワクチンを粘膜経路、例えば経口/食事性または鼻腔内経路により投与することにより、疾患に罹患しやすい又は罹患した哺乳動物を防御または治療するために使用することができる。その他の粘膜経路としては、膣内および直腸内経路が挙げられる。好ましい粘膜投与経路は、鼻腔内ワクチン接種と称される鼻経路によるものである。鼻腔内ワクチン接種の方法は当技術分野でよく知られており、それらには、免疫しようとする個体の鼻咽腔内への該ワクチンの液滴、スプレーまたは乾燥粉末形態の投与が含まれる。
噴霧化またはエーロゾル化ワクチン製剤も本発明の一部を形成する。腸内製剤、例えば、経口投与用の胃抵抗性カプセルおよび顆粒、直腸または膣投与用の坐剤も、本発明の一部を形成する。
【0080】
本発明のアジュバント組合せ物は、全身ワクチン接種の代わりに粘膜ワクチン接種を用いるための、ヒトへの適用に適した種類の粘膜アジュバントに相当する。本発明の好ましい形態においては、免疫刺激性オリゴヌクレオチドと組み合わせた純粋なサポニン、例えばQuil Aまたはその誘導体(QS21を含む)、エスシン、ジギトニンまたはジプソフィラ(Gypsophila)もしくはキノア(Chenopodium quinoa)サポニンを、全身免疫応答を得るために抗原の粘膜投与用のアジュバントとして使用することができる。
【0081】
本発明のアジュバント組合せ物はワクチン製剤中で使用され、ワクチンは全身または粘膜経路により投与されうる。好ましくは、ワクチンを粘膜投与に使用する場合には、該アジュバント組合せ物は溶血性サポニンを含む。
【0082】
粘膜投与の場合、好ましくは、本発明の組成物は溶血性サポニンを含む。本発明の定義の範囲内の溶血性サポニンまたはサポニン調製物は、以下のアッセイを参考にして判定されうる。
1.モルモットからの新鮮な血液を卓上遠心機中でリン酸緩衝食塩水(PBS)で3回洗浄する。もとの容積に再懸濁させた後、該血液をPBSで更に10倍希釈する。
2.50μlのこの血液懸濁液を、界面活性剤またはサポニンの2倍希釈物を含有する800μlのPBSに加える。
3.8時間後、溶血を視覚的に又は上清の光学濃度の測定により評価する。570nmで光を吸収する赤色上清の存在は溶血の存在を示す。
4.結果は、溶血がもはや生じなくなった最初のサポニン希釈濃度として表される。
【0083】
本発明の目的において、サポニンアジュバント製剤は、それが0.1%未満の濃度で赤血球を溶解すれば、溶血性である。評価基準の手段として、QuilA、QS21、QS7、ジギトニンおよびβ−エスシンの実質的に純粋なサンプルはすべて、このアッセイにおける定義では溶血性サポニンといえる。そのような生物学的アッセイにもともと見られる実験的ばらつきの範囲内で、本発明のサポニンは、好ましくは、約0.5〜0.00001%、より好ましくは0.05〜0.00001%、より一層好ましくは0.005〜0.00001%、最も好ましくは0.001〜0.0004%の溶血活性を有する。理想的には、該サポニンはQS21に類似した溶血活性(すなわち、10倍の差異内)をもつべきである。
【0084】
本発明のワクチンは経口経路によっても投与することができる。そのような場合、医薬上許容される賦形剤はアルカリ性バッファー、または腸溶カプセルもしくは微小顆粒を含みうる。本発明のワクチンは膣内経路によっても投与することができる。そのような場合、医薬上許容される賦形剤はまた、乳化剤、CARBOPOL(登録商標)のような重合体、および膣内クリーム剤や坐剤の他の公知安定剤を含みうる。本発明のワクチンは直腸内経路によっても投与することができる。そのような場合、該賦形剤はまた、直腸内坐剤を形成するための当技術分野で公知のロウおよび重合体を含みうる。
【0085】
本発明のアジュバント組合せ物中に2つ以上のサポニン(例えば、QS21、QS7、QuilA、β−エスシンまたはジギトニンを含む群の少なくとも2つの組合せ)を含む製剤も、本発明の一部を形成する。また、本発明の組成物は、2つ以上の免疫刺激性オリゴヌクレオチドの組合せを含みうる。
【0086】
あるいは、該製剤は、キトサンまたは他のポリ陽イオン性重合体、ポリ乳酸およびポリ乳酸−コ−グリコリド粒子、ポリ−N−アセチルグルコサミン系重合体マトリックス、多糖または化学修飾多糖から構成される粒子、リポソームおよび脂質ベースの粒子、グリセロールモノエステルから構成される粒子などから構成されるワクチンビヒクルと組み合わせることが可能である。サポニンはまた、リポソームまたはISCOMsのような粒状構造体を形成するためにコレステロールの存在下で製剤化することができる。さらに、サポニンは、非粒状溶液または懸濁液において、あるいは小ラメラリポソームまたはISCOMのような粒状構造体において、ポリオキシエチレンエーテルまたはエステルと共に製剤化することができる。サポニンはまた、粘度を増加させるためのCarbopol(登録商標)のような添加剤と共に製剤化することが可能であり、また、ラクトースのような粉末賦形剤と共に乾燥粉末形態として製剤化することも可能である。
【0087】
特に好ましいアジュバントは、本明細書に記載のCpGオリゴヌクレオチドと組み合わせた、3D−MPLとQS21との組合せ(EP 0671948 B1)、3D−MPLとQS21とを含む水中油型乳剤(WO95/17210、WO98/56414)、または他の担体と共に製剤化された3D−MPL(EP 0689454 B1)である。本発明のアジュバントまたはワクチン中のCpGまたは免疫刺激性オリゴヌクレオチドの量は、一般には少量であるが、ワクチン製剤に応じて、1〜1000μg/1回量、好ましくは1〜500μg/1回量、より好ましくは1〜100μg/1回量の範囲内でありうる。
【0088】
本発明のアジュバント中で使用するサポニンの量は、1〜1000μg/1回量、好ましくは1〜500μg/1回量、より好ましくは1〜250μg/1回量、最も好ましくは1〜100μg/1回量の範囲内でありうる。したがって、CpG:サポニン(w/w)の比は1:1000〜1000:1の範囲内であり、典型的には1:100〜100:1の範囲内、好ましくは1:10〜1:1または1:1〜10:1の範囲内、最も好ましくは1:1、4:1または10:1となろう。
【0089】
本発明の製剤は、予防目的および治療目的の両方に使用することができる。したがって、癌、特に乳癌および前立腺癌の予防および治療用のワクチンの製造における、サポニン、リポ多糖およびCpG分子の組合せ物の使用を提供する。したがって、本発明は、感染症または癌、またはアレルギー、または自己免疫疾患に罹患しやすい又は罹患した哺乳動物の治療方法を提供する。本発明のもう1つの態様においては、医薬として使用するための、本明細書に記載のリポ多糖、サポニンおよびCpGを含むワクチンまたはアジュバント組合せ物を提供する。ワクチン製剤は、一般には、New Trends and Developments in Vaccines,Vollerら編,University Park Press,Baltimore,Maryland,U.S.A.1978に記載されている。
【0090】
したがって、本発明は、前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌、肺癌、膵臓癌、腎臓癌、卵巣癌または黒色腫を含む群から選ばれる疾患に罹患することから個体を予防するための方法であって、実質的に本明細書に記載のとおりの組成物を該個体に全身経路により投与することを含む方法を提供する。
【0091】
あるいは、本発明は、抗原と溶血性サポニンとを含む粘膜ワクチン組成物を提供する。したがって、疾患に罹患しやすい又は罹患した個体の治療方法であって、実質的に本明細書に記載のとおりの組成物を該個体の粘膜表面に投与することを含む方法を提供する。
【0092】
さらに、哺乳動物において全身性の抗原特異的な免疫応答を引き出す方法であって、抗原と溶血性サポニンとを含む組成物を哺乳動物の粘膜表面に投与することを含む方法を記載する。さらに、サポニンを選択し、CpG分子を選択し、それらを抗原と共に混合することを含む、ワクチンまたはアジュバントの製造方法を提供する。
【0093】
本発明の組合せ物に使用するのに適した医薬上許容される賦形剤の例として、水、リン酸緩衝食塩水、等張緩衝溶液が挙げられる。
【実施例】
【0094】
実施例1
・ECD−PDは、WO00/44899に記載の方法に従いCHO細胞において産生させた。この製剤はマウスおよびウサギにおいて試験した。
・製剤をいくつかの対照と比較した。
【0095】
SBAS1+SBAS7:
ECD−PDは、CpGオリゴヌクレオチド2006、3D−MPL、QS21(リポソーム中)と共に製剤化した。
【0096】
SBAS1製剤
リポソーム中のQS21および該リポソームに会合した3D−MPLを含み、EP 0822831に記載の方法に従い製造した。
【0097】
SBAS1+SBAS7製剤
前記の製剤に、CpGオリゴヌクレオチド2006を加えた。使用前に、抗原を該アジュバント製剤に混合した。
【0098】
SBAS7+SBAS2に基づく製剤(マウス)
1回量50μlのワクチンの場合には、ECD−PDタンパク質(25μg)を10倍濃縮PBS(pH6.8)およびHO中で希釈した後、SB62を含む水中油型乳剤(この乳剤は5%スクアレン、5%トコフェロール、2.0%tween80を含み、粒径が180nmであった)を連続的に加えた。
【0099】
乳剤SB62(2倍濃縮物)の調製
Tween80をリン酸緩衝食塩水(PBS)に溶解して、PBS中の2%溶液を得る。100mlの2倍濃縮乳剤を得るために、5gのDLαトコフェロールおよび5mlのスクアレンをボルテックスして十分に混合する。90mlのPBS/Tween溶液を加え、十分に混合する。ついで、得られた乳剤をシリンジに通し、最後に、M11OSマイクロフルイディクス装置を使用することによりマイクロフルイダイズする。得られた油滴は約180nmのサイズを有する。
次いで3D−MPL(10μg)、QS21(10μg)、50μgのCpG ODN2006を加え、30分後、保存剤として50μg/mlのチメロサールを加えた。すべてのインキュベーションは、攪拌しながら室温で行った。
【0100】
CpGオリゴヌクレオチドを添加しないこと以外は前記のとおりに、SBAS2製剤を調製した。
【0101】
SBAS7はCpGオリゴヌクレオチド2006である。
【0102】
SBAS7+SBAS2に基づく製剤(ウサギ)
1回量500μlのワクチンの場合には、ECD−PDタンパク質(100μg)を10倍濃縮PBS(pH6.8)およびHO中で希釈した後、SB62(250μl)、3D−MPL(100μg)、QS21(100μg)および500μgのCpG ODN2006を連続的に加え、30分後に、保存剤として50μg/mlkチメロサールを加えた。すべてのインキュベーションは、攪拌しながら室温で行った。
【0103】
実施例2: 腫瘍チャレンジ実験
F1(C57×Balb c)マウスの群(1群につき8匹)に、0−14−28−42日目に、ヒト用量の10分の1(25μg)の抗原を注射し、56日目にHer2を発現するTC1細胞(皮下投与される約2 10e6 TCl Her2細胞/動物)で該マウスをチャレンジした。
【0104】
該動物脾臓の1/2のTCl細胞を56日目に集め、該動物から採血した。
【0105】
図1に示すとおり、3D−MPL/QS21製剤へのCpGオリゴヌクレオチドの添加は腫瘍退縮を相乗的に増強し、これらの製剤のみがマウスにおいて完全な腫瘍退縮を引き起こした。
【0106】
実施例3: ウサギにおける種々のアジュバント中のECD−PDの免疫原性
1群4匹のウサギ6群を、AS02、AS01、AS05、AS06(ミョウバン上に吸収されたCpG2006)、AS07およびAS02B+AS07中の100μgのECD−PDでそれぞれ0、21および42日目に免疫した。
【0107】
3回目の投与から14日後(「14postIII」)、血清学を分析した。
表1は、高力価抗体応答の生起において、本発明の製剤が試験した他の製剤より優れていたことを示している。
【表1】

【0108】
実施例4: 成体アカゲザルにおけるHer 2 neu,ECD−PDの免疫原性
成体アカゲザルを、以下の種々のアジュバント製剤中のECD−PDで免疫した。
AS02 B 水中油型乳剤中のQS21、3D−MPL
AS01 リポソーム中のQS21、3D−MPL
AS05 リポソーム中のQS21
AS06 CpG2006ミョウバン
AS07 CpG2006
AS02B+ AS07 詳細は実施例1を参照。
【0109】
ワクチン接種は、本発明の製剤(AS02+AS07)においては、より高い抗体応答を惹起した。図2を参照されたい。
【0110】
更なる分析は、抗体応答がポリクローナル性であることを示し、Iter 2 neu分子を過剰発現するヒト乳癌細胞系(SKBR3)のin vitro増殖に対して抑制活性を示している。Her 2 neuを発現する腫瘍を治療するためのモノクローナル抗体であるヘルセプチン(Herceptin)は、この細胞系の増殖を抑制することができる。
【0111】
このように、該製剤での能動的ワクチン接種の後に産生された抗体は機能的であることが認められた。
【0112】
実施例5: ECD−PD抗原でのマウスの免疫感作
この実験は、リン酸化ドメインに結合したHer 2 neuの細胞外ドメインの融合体(ECD−PD)である抗原(WO00/44899に記載の方法に従いCHO細胞において産生させたもの)を用いて、ある範囲のアジュバント製剤を検討するために計画したものである。
【表2】

【0113】
上記グループにおいて使用したトコール含有水中油型乳剤においては、D,L−トコフェロール(CAS番号10191−41−0;化学名:(2RS,4’RS,8’RS)−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4’,8’,12’−トリメチル−トリデシル)−6−クロマノール))(これはROCHE(商標)から市販されている)を使用した。トコールは、存在する場合には、2.5容量%のスクアレンと共にそれを2.5容量%含む水中油型乳剤中に存在した。両方の油を混合し、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80(商標))を加えた後、マイクロフルイダイゼーション(microfluidisation)(M110Sマイクロフルイディクス装置、6バールの最大入力圧(約850バールの出力圧)で2分間にわたり最大で50回の通過(WO95/17210に記載))を行った。したがって、グループ3、6および9は、水性QS21、3D−MPLまたはCpGを添加した前記トコール乳剤に基づいていた。
【0114】
QS21および3D−MPLは、前記ワクチングループのいずれかに存在する場合には、5μg/1回量で加え、CpG(オリゴ4(配列番号4):TCG TCG TTT TGT CGT TTT GTC GTT)は50μgの用量で加えた。
【0115】
グループ2、5、10で使用したアジュバントは、EP 0822831 B1(その内容を参照により本明細書に組み入れることとする)に記載の技法に従い調製した。グループ11は、リポソームの膜中に3D−MPLを含んでいた。
簡単に説明すると、3D−MPL、ジオレオイルホスファチジルコリンおよびコレステロールを一緒に混合し、単ラメラリポソームにマイクロフルイダイズした(EP 0822831 B1に記載のとおり−QS21を省いた)。
【0116】
グループ4、7および8で使用したアジュバントは、水性懸濁液または溶液の形態であった。
【0117】
ワクチン接種方法
B6F1マウスの群に、14日間隔で4回(50μlずつの容量)筋肉内にワクチン接種した。4回目のワクチン接種から14日後、Her 2 neuを発現する2×10個のTCl腫瘍細胞で該マウスを皮下チャレンジした。
【0118】
Her 2 neu−TCl腫瘍細胞系は、Her 2 neuをコードするレトロウイルスベクターによるTCl細胞のトランスダクションにより作製した。ブラストシジンによる選択期間の後、耐性クローンを単離し、Her 2 neuの発現に関してFACSによりスクリーニングした。最高のHer 2 neu発現を示すクローンを選択し、2×10個のチャレンジ量が、野生型TCl細胞と類似した増殖速度を有し、しかも対照動物に対して100%の比率で腫瘍を発生させることを確認した。
【0119】
個々の腫瘍のサイズを週2回測定し、グループの平均として表した。
【0120】
結果
図3は、グループ1、2、4、5および6に関する腫瘍増殖の結果を示す。図4は、グループ1、5、6、7および11に関する腫瘍増殖の結果を示す。図5は、グループ1、5、6、8、9および10に関する腫瘍増殖の結果を示す。腫瘍の完全な退縮を引き起こした唯一のワクチンは、免疫刺激性オリゴヌクレオチドとサポニンとの両方を含有するワクチンであった。
【0121】
図6および7は、5μg/mlの免疫原(ECD−PD)または細胞外ドメイン(ECD)または細胞内ドメイン(ICD)またはHer 2 neuと共にインキュベートした後のin vitroでの脾細胞のリンパ増殖を示す。
【0122】
図8および9は、ELISAで測定した総Igにより表される免疫原(ECD−PD)に対する体液性免疫応答(図8)、またはこれらの応答におけるIgGアイソタイプ分布(図9)を示す。
【0123】
結論
3回の注射の後、抗体の誘導は以下のとおりであった。
AS02B+AS07A > AS01B > AS02B = AS06 = AS05 > AS07A。
【0124】
総括
試験したアジュバント(AS1、AS2、AS7)は、同様の効果を有する。
しかし、AS1とAS2またはAS2とAS7の組合せが、より有効なアジュバントである。全分子ECD−PDに対してだけでなく、各部分(ECDおよびICD)に対しても組合せアジュバントを投与した動物において、4回のワクチン接種後に、CMIが明らかに示されている。本発明の製剤は、腫瘍の退縮を引き起こすのに非常に有効である。
【0125】
実施例6: P703P抗原でのマウスの免疫感作
この実験は、抗原プロスターゼ(Fergusonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1999,96,3114−3119)とインフルエンザウイルス由来のNS1のN末端1−81断片との融合体(P703P−NS1)である抗原を用いて、ある範囲のアジュバント製剤を検討するために計画したものである。
【表3】

【0126】
上記グループにおいて使用したトコール含有水中油型乳剤においては、D,L,α−トコフェロール(CAS番号10191−41−0;化学名:(2RS,4’RS,8’RS)−2,5,7,8−テトラメチル−2−(4’,8’,12’−トリメチル−トリデシル)−6−クロマノール))(これはROCHE(商標)から市販されている)を使用した。トコールは、存在する場合には、2.5容量%のスクアレンと共にそれを2.5容量%含む水中油型乳剤中に存在した。両方の油を混合し、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween80(商標))を加えた後、マイクロフルイダイゼーション(M110Sマイクロフルイディクス、6バールの最大入力圧(約850バールの出力圧)で2分間にわたり最大で50回の通過(WO95/17210に記載))を行った。したがって、グループ5および6は、水性QS21、3D−MPLおよび/またはCpGを添加した前記トコール乳剤に基づいていた。
【0127】
QS21および3D−MPLは、前記ワクチングループのいずれかに存在する場合には5μg/1回量で加え、CpG(オリゴ4(配列番号4):TCG TCG TTT TGT CGT TTT GTC GTT)は50μgの用量で加えた。
【0128】
グループ3および4で使用したアジュバントは、EP 0822831 B1(その内容を参照により本明細書に組み入れることとする)に記載の技法に従い調製した。
【0129】
ワクチン接種方法
B6F1マウスのグループに、14日間隔で4回(50μlずつの容量)筋肉内にワクチン接種した。
【0130】
結果
図10および11は、3μg/mlの免疫原(NS1−P703P)またはピキア発現P703P(15μg/ml)または非特異的NS1−OspA融合タンパク質と共にin vitroでインキュベートした後の、2回目のワクチン接種の後および4回目のワクチン接種から14日後の脾細胞のin vitroリンパ増殖を示す。
【0131】
図12および13は、中点力価ELISAで測定したときの総Igで表される免疫原(NS1−P703P)に対する体液性免疫応答(図12)、またはこれらの応答におけるIgGアイソタイプ分布(図13)を示す。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】3D−MPL/QS21製剤へのCpGオリゴヌクレオチドの添加が腫瘍退縮を相乗的に増強することを示した図である。
【図2】アカゲザルを種々のアジュバント製剤中のECD−PDで免疫したときの抗体応答を示した図である。
【図3】ECD−PD抗原でマウスを免疫したときの、グループ1、2、4、5および6で使用したアジュバントに関する腫瘍増殖の結果を示した図である。
【図4】ECD−PD抗原でマウスを免疫したときの、グループ1、5、6、7および11で使用したアジュバントに関する腫瘍増殖の結果を示した図である。
【図5】ECD−PD抗原でマウスを免疫したときの、グループ1、5、6、8、9および10で使用したアジュバントに関する腫瘍増殖の結果を示した図である。
【図6】免疫原(ECD−PD)または細胞外ドメイン(ECD)または細胞内ドメイン(ICD)と共にインキュベートした後で腫瘍チャレンジ前のin vitroでの脾細胞のリンパ増殖を示す。
【図7】免疫原(ECD−PD)または細胞外ドメイン(ECD)または細胞内ドメイン(ICD)と共にインキュベートした後で腫瘍チャレンジ後のin vitroでの脾細胞のリンパ増殖を示す。
【図8】ELISAで測定したときの総Igで表される免疫原(ECD−PD)に対する体液性免疫応答を示した図である。
【図9】図8に示す免疫応答におけるIgGアイソタイプ分布を示した図である。
【図10】免疫原(NS1−P703P)またはピキア発現P703P(15μg/ml)または非特異的NS1−OspA融合タンパク質と共にin vitroでインキュベートした後の、2回目のワクチン接種後の脾細胞のin vitroリンパ増殖を示す。
【図11】免疫原(NS1−P703P)またはピキア発現P703P(15μg/ml)または非特異的NS1−OspA融合タンパク質と共にin vitroでインキュベートした後の、4回目のワクチン接種の14日後の脾細胞のin vitroリンパ増殖を示す。
【図12】中点力価ELISAで測定したときの総Igで表される免疫原(ピキア発現P703P)に対する体液性免疫応答を示した図である。
【図13】中点力価ELISAで測定したときの総Igで表される免疫原(NS1−P703P)に対する体液性免疫応答を示した図である。
【図14】図13に示す免疫応答におけるIgGアイソタイプ分布を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種融合パートナーに結合したMAGE抗原、異種融合パートナーに結合したプロスターゼ抗原、プロスターゼの少なくとも20個の連続したアミノ酸を含むプロスターゼ断片、突然変異プロスターゼ、
P501S、
クリプト(Cripto)、
Her 2 neu膜貫通ドメインの実質的部分を欠くHer 2 neu誘導体よりなる群から選ばれる癌抗原と、サポニンを含むアジュバント組成物とを、免疫刺激性オリゴヌクレオチドと共に含んでなる免疫原性組成物。
【請求項2】
リポ多糖を更に含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
サポニンがQS21である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
リポ多糖が、
i モノホスホリルリピドA
ii 3−O−脱アシル化モノホスホリルリピドA
iii ジホスホリルリピドA
よりなる群から選ばれる、請求項2または3記載の組成物。
【請求項5】
免疫刺激性オリゴヌクレオチドが少なくとも2つのCpGモチーフを含有する、請求項1〜4のいずれか1項記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
免疫刺激性オリゴヌクレオチドが、
配列番号1 − TCC ATG ACG TTC CTG ACG TT(CpG 1826)、
配列番号2 − TCT CCC AGC GTG CGC CAT(CpG 1758)、
配列番号3 − ACC GAT GAC GTC GCC GGT GAC GGC ACC ACG、
配列番号4 − TCG TCG TTT TGT CGT TTT GTC GTT(CpG 2006)、
配列番号5 − TCC ATG ACG TTC CTG ATG CT(CpG 1668)
よりなる群から選ばれる、請求項1〜5のいずれか1項記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
サポニンがISCOMsまたはリポソームを形成するように製剤化されている、請求項1〜6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
サポニンが水中油型乳剤中に存在する、請求項1〜6のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
Her 2 neuの細胞外ドメインの実質的に全部を含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
Her 2 neu分子が機能的な膜貫通ドメインを欠く、請求項8記載の組成物。
【請求項11】
Her 2 neuのリン酸化ドメインを更に含む、請求項1〜10のいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載の組成物の安全かつ有効な量を投与することを含んでなる、Her 2 neuまたは前立腺特異的/腫瘍抗原を発現する癌に罹患した又は罹患しやすい患者の治療方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項記載の組成物の安全かつ有効な量を投与することを含んでなる、MAGE、プロスターゼ、P501Sまたはクリプト(Cripto)のいずれかを発現する癌に罹患した又は罹患しやすい患者の治療方法。
【請求項14】
サポニンと、免疫刺激性オリゴヌクレオチドと、
異種融合パートナーに結合したMAGE抗原、
異種融合パートナーに結合したプロスターゼ抗原、プロスターゼの少なくとも20個の連続したアミノ酸を含むプロスターゼ断片、突然変異プロスターゼ、
P501S、
クリプト(Cripto)、
Her 2 neu膜貫通ドメインの実質的部分を欠くHer 2 neu誘導体よりなる群から選ばれる抗原と、の組合せ物の、腫瘍の治療または予防用の医薬の製造における使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−285487(P2008−285487A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126888(P2008−126888)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【分割の表示】特願2002−535687(P2002−535687)の分割
【原出願日】平成13年10月16日(2001.10.16)
【出願人】(305060279)グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム (169)
【Fターム(参考)】