説明

ワサビ栽培プラント

【課題】本発明は、従来にない作用効果を発揮する画期的なワサビ栽培プラントを提供することを目的とする。
【解決手段】ワサビ1を栽培するためのワサビ栽培プラントであって、土壌地域2に複数設けた栽培領域3夫々の上方を覆い体4で覆って構成したハウス栽培部5を有し、この各ハウス栽培部5に、栽培用水Wを散水する散水部7を設けるとともに、この散水部7から散水された栽培用水Wを前記ハウス栽培部5の外部に排水する排水部8を設け、隣接する前記ハウス栽培部5のうち一のハウス栽培部5の排水部8と他のハウス栽培部5の散水部7とを連設して、一のハウス栽培部5の排水部8から他のハウス栽培部5の散水部7に栽培用水Wを供給するように構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワサビを栽培するワサビ栽培プラントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ワサビの栽培は、清流が流れる山間地に形成した所謂ワサビ田で行われるのが一般的とされてきたが、近年、ワサビの生産量を増やすべく、例えば特開2008−212104号に開示されるようなワサビ栽培プラント(以下、従来例という。)が種々提案されている。
【0003】
この従来例は、ハウス内の床上に礫状物から成る培地が適宜厚さに堆積された通気性及び通水性のある畝と、該培地に向けて上方から栽培用水を潅水する潅水管と、培地内に配設された複数本の暗渠と、水を加圧供給するポンプとを具備する構造である。
【0004】
この従来例は、それまで行われていたワサビ田での栽培に比し、山間地等の限られた地域のみの生産でなく、また、自然の沢に形成することで起こり得る増水による崩壊や病気の原因となる濁流が栽培地域に流入するなどの影響を受けずに安定した環境下で生産することができる為、生産量の増加が望め、しかも、通水性及び通気性を有する培地の構成から豊富な酸素を吸収させることができて約半分の期間で栽培することができ、この点においても生産量の増加が望めるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−212104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人は、前述したハウスタイプのワサビ栽培プラントについて更なる研究開発を進めた結果、従来にない作用効果を発揮する画期的なワサビ栽培プラントを開発した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0008】
ワサビ1を栽培するためのワサビ栽培プラントであって、土壌地域2に複数設けた栽培領域3夫々の上方を覆い体4で覆って構成したハウス栽培部5を有し、この各ハウス栽培部5に、栽培用水Wを散水する散水部7を設けるとともに、この散水部7から散水された栽培用水Wを前記ハウス栽培部5の外部に排水する排水部8を設け、隣接する前記ハウス栽培部5のうち一のハウス栽培部5の排水部8と他のハウス栽培部5の散水部7とを連設して、一のハウス栽培部5の排水部8から他のハウス栽培部5の散水部7に栽培用水Wを供給するように構成し、前記散水部7として、前記排水部8に連設され周面に散水孔7aが多数形成された散水管7Aを、前記栽培領域3に形成される作土部10の上方所定高さ位置に横設した構成の散水部7を採用し、前記作土部10として、前記栽培領域3内に作土用石11を配して構成することで、前記散水部7から散水された栽培用水Wが流下通過する通水性があり且つこの流下通過する栽培用水Wが前記作土用石11に触れて冷却される水冷却性がある作土部10を採用し、この作土部10内に周面に集水孔8aが形成され前記排水部8を構成する排水管8Aを設けたことを特徴とするワサビ栽培プラントに係るものである。
【0009】
また、ワサビ1を栽培するためのワサビ栽培プラントであって、土壌地域2に上下段に複数設けた栽培領域3夫々の上方を覆い体4で覆って構成したハウス栽培部5を有し、この各ハウス栽培部5に、栽培用水Wを散水する散水部7を設けるとともに、この散水部7から散水された栽培用水Wを前記ハウス栽培部5の外部に排水する排水部8を設け、隣接する上下段の前記ハウス栽培部5のうち上段の前記ハウス栽培部5の排水部8と下段の前記ハウス栽培部5の散水部7とを連設して、上段の前記ハウス栽培部5の排水部8から下段の前記ハウス栽培部5の散水部7に栽培用水Wを供給するように構成し、前記散水部7として、前記排水部8に連設され周面に散水孔7aが多数形成された散水管7Aを、前記栽培領域3に形成される作土部10の上方所定高さ位置に横設した構成の散水部7を採用し、前記作土部10として、前記栽培領域3内に作土用石11を配して構成することで、前記散水部7から散水された栽培用水Wが流下通過する通水性があり且つこの流下通過する栽培用水Wが前記作土用石11に触れて冷却される水冷却性がある作土部10を採用し、この作土部10内に周面に集水孔8aが形成され前記排水部8を構成する排水管8Aを設けたことを特徴とするワサビ栽培プラントに係るものである。
【0010】
また、前記散水管7A及び前記排水管8Aは、上流側に比し下流側程低くなる傾斜状態に配設されて管内を栽培用水Wが自然流下するように構成されていることを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載のワサビ栽培プラントに係るものである。
【0011】
また、前記散水管7A及び前記排水管8Aは、上流側に比し下流側程低くなる傾斜状態に配設されて管内を栽培用水Wが自然流下するように構成され、隣接する上下段の前記ハウス栽培部5のうち上段の前記ハウス栽培部5の排水管8Aと下段の前記ハウス栽培部5の散水管7とを連設して、上段の前記ハウス栽培部5の排水部8から下段の前記ハウス栽培部5の散水部7に栽培用水Wを自然流下させて供給するように構成されていることを特徴とする請求項2記載のワサビ栽培プラントに係るものである。
【0012】
また、前記散水管7Aは、前記作土部10の表面近傍に位置する前記ワサビ1の根元部1Aに灌水し得る前記作土部10の上方約10cm〜20cmの高さ位置に横設されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のワサビ栽培プラントに係るものである。
【0013】
また、前記栽培領域3は、土壌を掘削して形成した凹状部3aの内面に防水シート12を敷設して構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のワサビ栽培プラントに係るものである。
【0014】
また、前記作土部10は、前記作土用石11の平均粒径が異なる石層を上下に積層して構成され、下層程前記作土用石11の平均粒径が大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のワサビ栽培プラントに係るものである。
【0015】
また、前記排水管8Aは該排水管8Aの径よりも大きな作土用石11に覆われた状態で前記作土部10内に設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のワサビ栽培プラントに係るものである。
【0016】
また、前記栽培用水Wがプラント内を流れる際の下流側に位置するハウス栽培部5の排水部8から上流側に位置するハウス栽培部5の散水部7に栽培用水Wを返送する返水部を具備することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のワサビ栽培プラントに係るものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上述のように構成したから、少ない水量でも極めて良好なワサビの栽培環境が得られ、簡易且つ確実に生産量を増加させることができるなど従来にない作用効果を発揮する画期的なワサビ栽培プラントとなる。
【0018】
また、請求項2記載の発明においては、前述した請求項1記載の発明の作用効果に加え、高低差を利用して栽培用水の流れを得ることができ、大掛かりな動力は必要がなくコスト安になるなど従来にない作用効果を発揮する画期的なワサビ栽培プラントとなる。
【0019】
また、請求項3,4記載の発明においては、高低差を利用して栽培用水の流れを得ることができ、大掛かりな動力は必要がなくコスト安になるなど従来にない作用効果を発揮する画期的なワサビ栽培プラントとなる。
【0020】
また、請求項5記載の発明においては、確実にワサビの栽培に必要な量の水を供給することができ、しかも、確実にワサビ周辺の気温をワサビの栽培に適した温度に保つことができる、極めて良好なワサビの栽培環境が得られるなど従来にない作用効果を発揮する画期的なワサビ栽培プラントとなる。
【0021】
また、請求項6記載の発明においては、何ら大掛かりな構造でなく簡易構造からプラント自体がコスト安にして量産性に秀れるなど従来にない作用効果を発揮する画期的なワサビ栽培プラントとなる。
【0022】
また、請求項7記載の発明においては、確実に通水性及び水冷却性を有して極めて良好なワサビの栽培環境が得られるなど従来にない作用効果を発揮する画期的なワサビ栽培プラントとなる。
【0023】
また、請求項8記載の発明においては、排水管に集まる栽培用水を確実且つ効率良く冷却することができるなど従来にない作用効果を発揮する画期的なワサビ栽培プラントとなる。
【0024】
また、請求項9記載の発明においては、より少ない水量でも極めて良好なワサビの栽培環境が得られるなど従来にない作用効果を発揮する画期的なワサビ栽培プラントとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施例の説明正面図である。
【図2】本実施例に係る要部の説明正面図である。
【図3】本実施例に係る要部の説明平面図である。
【図4】本実施例に係る要部の説明断面図である。
【図5】本実施例に係るワサビ栽培プラントの実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0027】
一のワサビ栽培部5の散水部7に供給された栽培用水Wは、作土部10に散水されて該作土部10を流下通過した後、排水部8から外部に排水され、隣接する他のワサビ栽培部5の散水部7に供給される。この隣接する他のワサビ栽培部5の散水部7に供給された栽培用水Wは、作土部10に散水されて該作土部10を流下通過した後、排水部8から外部に排水される。
【0028】
このように隣接するワサビ栽培部5同士間において栽培用水Wの受け渡しが行われ、つまり、本発明に係るワサビ栽培プラントに供給される栽培用水Wは複数のワサビ栽培部5で順に利用される。
【0029】
以上のように、栽培用水Wが隣接するハウス栽培部5で順に利用される効率の良い構造であり、少ない水量でもワサビの栽培が可能となり、ワサビ栽培の場所が山間部などに限定されることがなく、しかも、プラント内を水が動く構造であるから、栽培用水Wが停滞することで起こり得る問題(雑菌が発生したり水腐れするなどの問題)が生じることはなく、且つ、病気の原因となる濁流の流入も防止できるから、清浄で酸素が豊富な栽培用水Wを確保することができ、よって、ワサビの栽培に適した環境が得られることになる。
【0030】
ところで、本発明は、前述した従来例をはじめ、ワサビのハウス栽培で最も問題とされる水温上昇の問題を確実に解消することができる。ワサビの栽培には一般的に水温10〜20℃くらいが適温とされるが、特に夏場にはハウス内の気温が上昇し、これに伴い栽培用水Wが高温になるとワサビ1が病気にかかり生産量が著しく低下してしまう。
【0031】
具体的には、散水部7からの散水は、作土部10の上方所定高さ位置に横設された散水管7Aの周面に多数形成された散水孔7aから行われ、よって、散水管7Aの高さ位置を低く設定すれば、散水部7から散水後の可及的に早い段階で低温のまま栽培用水Wを直ちにワサビ1に与えることができる。散水された後に栽培用水Wは作土部10に吸収されることになり、高さ位置が低い程栽培用水Wが暖かい空気に触れる時間が少なく、栽培用水Wの高温化が抑制されることになる。
【0032】
しかも、作土部10の表面から上方所定高さ位置に横設された散水管7Aに多数形成された散水孔7aから散水する構成とすることで、作土部10の表面から上方位置には散水による保冷効果により保冷空間が形成され、よって、ワサビ1周辺の気温も栽培に適した温度に保つことができる。実際に試したところ、散水部7からの散水により作土部10との間に保冷空間が形成され冷却効果が発揮されることを確認している。
【0033】
そして更に、散水部7から散水された栽培用水Wは作土部10を流下通過する際、作土用石11に触れて冷却される。
【0034】
具体的には、作土用石11は、仮に夏場であっても気温が下がる夜間において冷却されることになり、よって、日中に気温が上昇しても流下通過する栽培用水Wを十分に冷却することができる。この作土用石11の冷却効果は、気温の高い昼間においては栽培用水Wと触れる(熱交換する)こともあり徐々に冷却効果が低下するが、夜間に冷却されて再び冷却効果は復活する。
【0035】
しかも、この水冷却性がある作土部10に排水部8の排水管8Aが設けられており、この排水管8Aも作土部10によって保冷された状態であり、排水管8A内を通過する栽培用水Wを冷却する効果を発揮する。
【0036】
以上のように、本発明は、前述した構成から、従来においてワサビ1のハウス栽培で極めて困難とされてきた水温の上昇によるワサビ1の生産量の低下の問題を確実に解消でき、しかも、特別な冷却設備を設けるなどの大掛かりな構造ではなく、簡易な構造で確実に実現することができる。従って、前述した従来例に比し、コスト安にして生産量を確保することができる。尚、本発明は、前述したようにハウス構造であるため気温の低い冬場においてもハウス栽培部5内はワサビ1の栽培に適した温度に保たれ、しかも、作土部10を構成する作土用石11は冬場としては比較的暖かい温度の栽培用水Wに触れることでそのまま保温効果を発揮し、この点においてもハウス栽培部5内の温度及び栽培用水Wの温度はワサビ1の栽培に適した温度に保たれる。従って、一年を通してハウス栽培部5内の温度及び栽培用水Wの温度は栽培に適した温度に保たれ、よって、ワサビ1の生育を促進して生産量を増加することができる。
【0037】
また、作土部10は、前述した水冷却性だけでなく通水性(ひいては通気性)を有する為、停滞せず流れる清浄な栽培用水Wと豊富な酸素とで育つことになり、前述したワサビ田に比して短期間(約半分の期間)で栽培できることになる。
【0038】
また、請求項3記載の発明のように構成した場合には、散水部7における散水も排水部8における排水も高低差を利用した自然流下により行われる構造であり、大掛かりな駆動源などは不要で極めてコスト面(イニシャルコスト及びランニングコスト)に秀れることになる。
【0039】
また、請求項4記載の発明のように構成した場合には、散水部7における散水も排水部8における排水も高低差を利用した自然流下により行われる構造であり、且つ、隣接するハウス栽培部5同士間における栽培用水Wの受け渡しが高低差を利用した自然流下により行われる構造であり、大掛かりな駆動源などは不要で極めてコスト面(イニシャルコスト及びランニングコスト)に秀れることになる。
【0040】
また、請求項5記載の発明のように構成した場合には、散水部7から散水後の可及的に早い段階で低温のまま例えばワサビ1の根元部1Aへ灌水されることになり、温度の低い水を直ちにワサビ1に与えることができる。散水された後に直ちに栽培用水Wは作土部10に吸収されることになり、栽培用水Wが暖かい空気に触れる時間が少ない為、より一層栽培用水Wの高温化が抑制されることになる。
【実施例】
【0041】
本発明の具体的な一実施例について図面に基づいて説明する。
【0042】
本実施例は、ワサビ1を栽培するためのワサビ栽培プラントPであって、複数のハウス栽培部5を有するものである。
【0043】
具体的には、各ハウス栽培部5は、図1に図示したように土壌地域2に複数(3つ)の栽培領域3を設け、この栽培領域3夫々の上方を覆い体4で覆って構成されている。
【0044】
栽培領域3は、図1,2に図示したように土壌地域2に互いに高さの異なる上下段の複数(3つ)の土壌段部2aを形成し、この各土壌段部2aに深さ約60cmで所定面積を有する平面視長方形状の凹状部3aを掘削形成し、この土壌で形成される凹状部3aの内面に樹脂製の防水シート12(ビニールシート)を敷設して構成されている。尚、凹状部3aは掘削して形成する場合に限らず、栽培領域3となる部位の周囲に盛り土などの立ち上がり部を設けて形成するようにしても良く、また、凹状部3aの内面にコンクリートを打設しても良いが、施工期間やコスト面等を考慮すると防水シート12を敷設することは有効である。
【0045】
覆い体4は、図1〜3に図示したように栽培領域3の周囲に立設される構成のフレーム部材4a(躯体)に透明のビニールフィルム4bを張設したものであり、各ハウス栽培部5は所謂ビニールハウスとして構成されている。
【0046】
ビニールハウスは、風雨からワサビ1を保護し得るのは勿論、外気と遮断されて極めて保温効果に秀れる為、特に気温の低い冬場においても栽培用水Wを栽培に適した温度(約12℃程度)に維持することができ、ひいては雪国でも年中通して栽培することができるため飛躍的な生産量の増加が望め、しかも、周囲を囲むことで害虫からワサビ1を保護することができ、ひいては無農薬栽培も可能になるなどの利点がある。
【0047】
また、覆い体4には、特に夏場に気温が上昇するハウス内を自然に冷却する為の手段が設けられている。具体的には、覆い体4に図示省略の窓や扉を設けたり、その他にも、ビニールフィルム4bの下方部位を上方へ捲り上げられるようにするなど、通気性を向上する構造を設けている。尚、この通気性を向上する構造を設けることで開放された部位は防虫ネットで保護することで害虫の侵入を阻止している。
【0048】
また、ハウス栽培部5夫々に、栽培用水Wを散水する散水部7を設けるとともに、この散水部7から散水された栽培用水Wをハウス栽培部5の外部に排水する排水部8を設け、隣接する複数(上下段)のハウス栽培部5のうち、上段(上流側)のハウス栽培部5の排水部8から下段(下流側)のハウス栽培部5の散水部7に栽培用水Wを自然流下させて供給するように設けている。
【0049】
具体的には、散水部7は、図2,3,4に図示したように樹脂製パイプ(塩ビ管)から成る散水管7Aを適宜配設して構成されており、ハウス栽培部5内(栽培領域3)内の上流側の縁部に沿った状態に配設されるとともに、後述する作土部10上に配設される。
【0050】
最上段(最上流)のハウス栽培部5に係る散水部7(散水管7A)には、土壌地域2で得られる栽培用水W(例えば沢水や湧水や地下水などの水)が供給されるように構成され、後述する返水部を設けた場合には、この返水部の水も散水部7に供給される。
【0051】
また、下段に位置するハウス栽培部5に係る散水部7(散水管7A)の一端部(上流側端部)には、後述する排水部8の排水管8Aが接続されて栽培用水Wが供給される。
【0052】
また、散水管7Aは、図2,3,4に図示したように作土部10上に配設される部位の周面に散水孔7aが多数形成されている。
【0053】
本実施例では、分岐させた多数本の散水管7Aを、栽培領域3に形成される作土部10の上方約10cm〜20cmの高さ位置Hにして作土部10と略平行状態に横設している。
【0054】
即ち、本実施例では、散水管7Aを作土部10の表面から約15cmの高さ位置Hに配しており、これは、図4に図示したようにワサビ1がある程度育って葉1aが大きくなるとともに茎1bが伸びた際、葉1aよりも下方に位置し、根茎1c付近となる部位(根元部1A)に灌水し得る高さ位置Hである。符号1dは根である。
【0055】
この構成から、散水部7からの散水は、作土部10の上方約15cmの高さ位置Hに横設された散水管7Aの周面に多数形成された散水孔7aから行われ、よって、散水管7Aの高さ位置が低い為、散水部7から散水後の可及的に早い段階で低温のまま栽培用水Wを直ちにワサビ1に与えることができる。散水された後に栽培用水Wは作土部10に吸収されることになり、高さが低い程栽培用水Wが暖かい空気に触れる時間が少なく、栽培用水Wの高温化が抑制されることになる。しかも、作土部10の表面から上方約15cmの高さ位置Hに横設された散水管7Aに多数形成された散水孔7aから散水する構成とすることで、作土部10の表面から上方位置には散水による保冷効果により保冷空間が形成され、よって、ワサビ1周辺の気温も栽培に適した温度に保つことができる(ハウス栽培部5内が35℃以上になってもワサビ1の根元部1Aを14℃〜19℃に保てることを確認している。)。仮に散水管7Aが高い位置に配されている場合、ワサビ1の葉1aが邪魔となって栽培用水Wがワサビ1の根元部1Aに灌水されにくく、しかも、落下する距離と時間が長くなる分、それだけ栽培用水Wは熱を吸収して温度が上昇してしまい、更に、作土部10の上方位置に保冷空間を形成することができない(作土部10に植えたワサビ1の周囲の温度を栽培に適した温度に維持することができない。)。つまり、作土部10の上方約10cm〜20cmの高さ位置Hとはワサビ1の特性に合った高さであり、約15cmが最適と考える。
【0056】
また、散水管7Aは、上流側に比し下流側程低くなる傾斜状態に配設され、即ち、排水管8Aと接続する上流側端部から下流端部にかけて徐々に低くなるように傾斜状態に横設されており、よって、排水管8Aから供給された栽培用水Wは散水管7Aを自然流下しながら散水孔7aから散水される。
【0057】
排水部8は、図2,3,4に図示したように樹脂製パイプ(塩ビ管)から成る排水管8Aを適宜配設して構成されており、その一部がハウス栽培部5内の栽培領域3(凹状部3a)の底面部に配設され作土部10内に埋設され、その他の部位がハウス栽培部5の外部に延設されるように構成されている。
【0058】
具体的には、排水管8Aは、図2,3,4に図示したように凹状部3aの底面部に所定間隔を介して二本並列状態に配設され、この部位には周面に集水機能を発揮する多数の集水孔8aが形成されており、この集水孔8aから凹状部3aの底面部まで流下通過した栽培用水Wが集水されることになる。
【0059】
また、排水管8Aは、上流側に比し下流側程低くなる傾斜状態に配設され、即ち、作土部10に埋設される上流側端部から下流側端部にかけて徐々に低くなるように傾斜状態に横設されており、集められた水を自然流下してハウス栽培部5の外部まで流すように構成されている。
【0060】
この排水管8Aの下流端部は、下段(下流側)のハウス栽培部5に係る散水部7の散水管7Aに接続している。尚、最下段のハウス栽培部5に係る排水管8Bは、後述する返水部に接続するか、そのまま排水として流すようにしている。
【0061】
従って、排水管8Aで集められた散水用水Wは、隣接する下段(下流側)のハウス栽培部5に係る散水部7、若しくは、返水部に自然流下により供給される。尚、隣接するハウス栽培部5同士間に段差が設けられない場合には、上流側のハウス栽培部5に係る排水部8から下流側のハウス栽培部5に係る散水部7への栽培用水Wの供給(受け渡し)は、ポンプを介して行っても良い。
【0062】
また、排水管8Aは、後述する作土部10を構成する作土用石11に周囲が覆われた状態に設けられ、この排水管8Aは該排水管8Aを覆う作土用石11の径よりも小さい径(直径10cm)に設定されている。
【0063】
作土部10は、図4に図示したように栽培領域3内に作土用石11を配して構成され、散水部7から散水された栽培用水Wが流下通過する通水性及び通気性があり且つこの流下通過する栽培用水Wが作土用石11に触れて冷却される水冷却性がある。
【0064】
具体的には、作土用石11の平均粒径が異なる複数(3つ)の石層(各層20cm)を上下多段に形成して構成されており、上層から下層にいくに従い平均粒径が大きくなるように形成されている。実際に、最上層の作土用石11としては直径約1cm以下の作土用石11を採用し、中間層の作土用石11としては直径約4cm以下の作土用石11を採用し、最下層の作土用石11としては直径約15cm以上の作土用石11を採用している。尚、ワサビ1を植える最上層には作土用石11の他に適度な保水性を具備するため砂利や土を混ぜており、その他の層においても適宜砂利や土を適宜混ぜても良い。
【0065】
また、作土部10の最下層を形成する作土用石11にして排水管8Aを覆う作土用石11は排水管Aの径(直径10cm)よりも大きな石が採用されている。
【0066】
具体的には、前述したように排水管8Aとして直径10cmの排水管8Aを採用し、この排水管8Aを覆う作土用石11として直径約15cm以上の作土用石11を採用している。
【0067】
この最下層の作土用石11として排水管8Aの径よりも大きな石を採用したのは、層自体に十分な通水性及び通気性を確保しつつ、秀れた保冷性を具備して層を流下通過する栽培用水Wを十分に冷却する表面積を確保するためであり、この作土用石11を伝う栽培用水Wを積極的に冷却すると同時に排水管8Aも冷却して該排水管8Aを流通する栽培用水Wも積極的に冷却する機能を発揮させるためである。
【0068】
また、作土部10は、前述したようにハウス構造であることに加え、特に気温の低い冬場においても暖かい栽培用水W(冬場としては暖かい12℃程度の水)が触れることで作土用石11が暖められてそのまま保温効果を発揮し、この点においてもハウス栽培部5内の温度及び栽培用水Wの温度はワサビ1の栽培に適した温度に保たれる。従って、一年を通してハウス栽培部5内は栽培に適した温度に保たれ、よって、一年を通してワサビ1の生育を促進することができ生産量を飛躍的に増加することができる。
【0069】
符号13は、作土部10に栽培用水Wが充満した場合のオーバーフローとなる側溝であり、この側溝13は排水管8Bに連設されており、14は、ハウス栽培部5の脇部に形成される消雪用側溝であり、この消雪用側溝14には、消雪用水が配され、覆い体4から滑落する雪を受けて消すことになる(特に積雪量の多い雪国では、滑落して脇に積もった雪を放っておくとハウスが押し潰されてしまうことがあるため、これを防止するためのものである。)。
【0070】
また、図示していないが、比較的水量に恵まれ所謂かけ流しが可能な地域においては不要であるが、それ以外の地域においては返水部を設けても良い。
【0071】
具体的には、この返水部は、一端が最上段(最上流側)のハウス栽培部5に係る散水部7に連設され、他端が最下段(最下流側)のハウス栽培部5に係る排水部8に連設される返水管の所定位置に循環ポンプを設けて構成されている。
【0072】
従って、隣接するハウス栽培部5のうち上段(上流側)のハウス栽培部5の排水部8と下段(下流側)のハウス栽培部5の散水部7とが連設されて、上段(上流側)のハウス栽培部5の排水部8から下段(下流側)のハウス栽培部5の散水部7に栽培用水Wが自然流下により供給されるとともに、下段(下流側)のハウス栽培部5の排水部8から上段(上流側)のハウス栽培部5の散水部7に返水部を介して栽培用水Wが返送される水循環機構が構成される。
【0073】
本実施例は上述のように構成したから、最上段のワサビ栽培部5の散水部7に供給された栽培用水Wは、散水部7から作土部10に散水されて該作土部10を流下通過した後、排水部8から外部に排水され、隣接する中段(二段目)のワサビ栽培部5の散水部7に自然流下して供給される。この隣接する中段のワサビ栽培部5の散水部7に供給された栽培用水Wは、散水部7から作土部10に散水されて該作土部10を流下通過した後、排水部8から外部に排水され、隣接する最下段(三段目)のワサビ栽培部5の散水部7に自然流下して供給される。この隣接する最下段のワサビ栽培部5の散水部7に供給された栽培用水Wは、散水部7から作土部10に散水されて該作土部10を流下通過した後、排水部8から外部に排水される。返水部が設けられている場合には、最下段のハウス栽培部5の排水部8から最上段のハウス栽培部5の散水部7に当該返水部を介して栽培用水Wが返送される。
【0074】
このように上下3段に隣接するワサビ栽培部5同士間において栽培用水Wの受け渡しが行われ、つまり、本実施例に係るワサビ栽培プラントPに供給される栽培用水Wは3つのワサビ栽培部5で順に利用され、しかも、この栽培用水Wの流れは駆動源を必要としない自然流下により行われる。
【0075】
以上のように、栽培用水Wが隣接するハウス栽培部5で順に利用される効率の良い構造であり、少ない水量でもワサビの栽培が可能となり、ワサビ栽培の場所が山間部などに限定されることがなく、しかも、プラント内を水が動く構造であるから、栽培用水Wが停滞することで起こり得る問題(雑菌が発生したり水腐れするなどの問題)が生じることはなく、且つ、病気の原因となる濁流の流入も防止できるから、清浄で酸素が豊富な栽培用水Wを確保することができ、よって、ワサビの栽培に適した環境が得られることになる。
【0076】
また、本実施例は、散水部7からの散水は、作土部10の上方約15cmの高さ位置Hに横設された散水管7Aの周面に多数形成された散水孔7aから行われ、よって、散水部7から散水後の可及的に早い段階で低温のまま例えばワサビ1の根元部1aへ向けて灌水されることになり、温度の低い水を直ちにワサビ1に与えることができる。散水された後に直ちに栽培用水Wは作土部10に吸収されることになり、栽培用水Wが暖かい空気に触れる時間が少ない為、栽培用水Wの高温化が抑制されることになる。
【0077】
しかも、作土部10の表面から上方約15cmの高さの位置Hに配された散水管7Aに多数形成された散水孔7aから散水する構成とすることで、作土部10の表面から上方位置には散水による保冷効果により保冷空間が形成され、よって、ワサビ1周辺の気温も栽培に適した温度に保つことができる。
【0078】
また、本実施例は、散水部7から散水された栽培用水Wは作土部10を流下通過する際、作土用石11に触れて冷却され、しかも、この水冷却性がある作土部10に排水部8の排水管8Aが設けられており、この排水管8Aも作土部10によって保冷された状態であり、排水管8A内を通過する栽培用水Wを冷却する効果を発揮する。
【0079】
従って、従来においてワサビ1のハウス栽培で極めて困難とされてきた水温の上昇によるワサビ1の生産量の低下の問題を確実に解消でき、しかも、冷却設備を設けるなどの大掛かりな構造ではなく、簡易な構造で確実に実現することができる。従って、前述した従来例に比し、コスト安にして生産量を確保することができる。
【0080】
出願人は、本実施例に係るワサビ栽培プラントPにおける外気温に対する水温の関係について実際に試してみたところ、図5のような結果が得られた。
【0081】
実験は特に外気温が暑い夏場の時期に行っており、いずれの日も外気温の平均温度が約25℃以上の条件である。
【0082】
また、図5中の元水温とは、最上段のハウス栽培部5の散水部7へ供給される際の栽培用水Wの水温であり、図5中の終点水温とは、最下段(三段目)のハウス栽培部5の排水部8から排水された際の栽培用水Wの水温であり、いずれも朝8:00、昼13:00、夕17:00の時点で温度を測定している。
【0083】
図5に示すように朝から徐々に水温が上がるものの、終点水温は一日を通して平均してワサビ栽培に適するとされる水温20℃以下を維持していることが分かる。
【0084】
また、気温の高い昼よりも気温の低い夕の方が終点水温が高く、次の日の朝になると再び終点水温は低い温度に戻っていることが分かる。
【0085】
これは、作土用石11は、仮に夏場であっても気温が下がる夜間において冷却されるからであり、この作土用石11の冷却効果は、気温の高い昼間においては栽培用水Wと触れる(熱交換する)こともあり徐々に冷却効果が低下するが、夜間に冷却されて再び冷却効果は復活するからと考える。
【0086】
以上から、本実施例に係るワサビ栽培プラントPは、ハウス栽培で最も問題とされる栽培用水Wの温度上昇を防止することに極めて有効な構造であることが確認された。
【0087】
また、本実施例は、作土部10は、前述した水冷却性だけでなく通気性及び通水性を有する為、豊富な酸素と停滞せず流れる清浄な栽培用水Wで育つことになり、前述したワサビ田に比して約半分の期間で栽培できることになる。
【0088】
また、本実施例は、高低差(段差)を利用した自然流下により隣接するハウス栽培部5同士間の栽培用水Wの受け渡しが行われる構造であり、大掛かりな駆動源などは不要で極めてコスト面(イニシャルコスト及びランニングコスト)に秀れることになる。
【0089】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、ワサビを栽培するワサビ栽培プラントに有用である。
【符号の説明】
【0091】
W 栽培用水
1 ワサビ
1A 根元部
2 土壌地域
3 栽培領域
3a 凹状部
4 覆い体
5 ハウス栽培部
7 散水部
7A 散水管
7a 散水孔
8 排水部
8A排水管
8a 集水孔
10 作土部
11 作土用石
12 防水シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワサビを栽培するためのワサビ栽培プラントであって、土壌地域に複数設けた栽培領域夫々の上方を覆い体で覆って構成したハウス栽培部を有し、この各ハウス栽培部に、栽培用水を散水する散水部を設けるとともに、この散水部から散水された栽培用水を前記ハウス栽培部の外部に排水する排水部を設け、隣接する前記ハウス栽培部のうち一のハウス栽培部の排水部と他のハウス栽培部の散水部とを連設して、一のハウス栽培部の排水部から他のハウス栽培部の散水部に栽培用水を供給するように構成し、前記散水部として、前記排水部に連設され周面に散水孔が多数形成された散水管を、前記栽培領域に形成される作土部の上方所定高さ位置に横設した構成の散水部を採用し、前記作土部として、前記栽培領域内に作土用石を配して構成することで、前記散水部から散水された栽培用水が流下通過する通水性があり且つこの流下通過する栽培用水が前記作土用石に触れて冷却される水冷却性がある作土部を採用し、この作土部内に周面に集水孔が形成され前記排水部を構成する排水管を設けたことを特徴とするワサビ栽培プラント。
【請求項2】
ワサビを栽培するためのワサビ栽培プラントであって、土壌地域に上下段に複数設けた栽培領域夫々の上方を覆い体で覆って構成したハウス栽培部を有し、この各ハウス栽培部に、栽培用水を散水する散水部を設けるとともに、この散水部から散水された栽培用水を前記ハウス栽培部の外部に排水する排水部を設け、隣接する上下段の前記ハウス栽培部のうち上段の前記ハウス栽培部の排水部と下段の前記ハウス栽培部の散水部とを連設して、上段の前記ハウス栽培部の排水部から下段の前記ハウス栽培部の散水部に栽培用水を供給するように構成し、前記散水部として、前記排水部に連設され周面に散水孔が多数形成された散水管を、前記栽培領域に形成される作土部の上方所定高さ位置に横設した構成の散水部を採用し、前記作土部として、前記栽培領域内に作土用石を配して構成することで、前記散水部から散水された栽培用水が流下通過する通水性があり且つこの流下通過する栽培用水が前記作土用石に触れて冷却される水冷却性がある作土部を採用し、この作土部内に周面に集水孔が形成され前記排水部を構成する排水管を設けたことを特徴とするワサビ栽培プラント。
【請求項3】
前記散水管及び前記排水管は、上流側に比し下流側程低くなる傾斜状態に配設されて管内を栽培用水が自然流下するように構成されていることを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載のワサビ栽培プラント。
【請求項4】
前記散水管及び前記排水管は、上流側に比し下流側程低くなる傾斜状態に配設されて管内を栽培用水Wが自然流下するように構成され、隣接する上下段の前記ハウス栽培部のうち上段の前記ハウス栽培部の排水管と下段の前記ハウス栽培部の散水管とを連設して、上段の前記ハウス栽培部の排水部から下段の前記ハウス栽培部の散水部に栽培用水を自然流下させて供給するように構成されていることを特徴とする請求項2記載のワサビ栽培プラント。
【請求項5】
前記散水管7Aは、前記作土部10の表面近傍に位置する前記ワサビの根元部に灌水し得る前記作土部の上方約10cm〜20cmの高さ位置に横設されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のワサビ栽培プラント。
【請求項6】
前記栽培領域は、土壌を掘削して形成した凹状部の内面に防水シートを敷設して構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のワサビ栽培プラント。
【請求項7】
前記作土部は、前記作土用石の平均粒径が異なる石層を上下に積層して構成され、下層程前記作土用石の平均粒径が大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のワサビ栽培プラント。
【請求項8】
前記排水管は該排水管の径よりも大きな作土用石に覆われた状態で前記作土部内に設けられていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のワサビ栽培プラント。
【請求項9】
前記栽培用水がプラント内を流れる際の下流側に位置するハウス栽培部の排水部から上流側に位置するハウス栽培部の散水部に栽培用水を返送する返水部を具備することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のワサビ栽培プラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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