説明

ワダライト化合物の製造方法

【課題】本発明では、基板の耐熱性にあまり拘束されることなく、基板上に膜状のワダライト化合物を形成することが可能な、ワダライト化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】Ca12Al(14−x)Si32Cl(x+2)(ただしx=0〜4)の組成で表されるワダライト化合物の製造方法であって、(i)Ca12Al(14−x)Si(33+x/2)(ただしx=0〜4)の組成で表される非晶質の材料Aを調製する工程と、(ii)850℃未満の温度で、前記材料Aを塩素処理してワダライト化合物を生成する工程と、を有する製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワダライト化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワダライト化合物は、Ca12Al(14−x)Si32Cl(x+2)(ただしx=0〜4)の組成を有し、三次元的に連結された、内径約0.4nmの空隙(ケージ)から構成される特徴的な結晶構造を持つ。このケージを構成する骨格は、正電荷を帯びており、単位格子当たり12個のケージを形成する。このケージの一部は、結晶の電気的中性条件を満たすため、塩素イオンによって占められている(非特許文献1)。
【0003】
ワダライト化合物は、CaO(酸化カルシウム)、Al(アルミナ)、およびSiO(シリカ)を、化学量論組成となるように混合した後、この混合原料に過剰量のCaCl(塩化カルシウム)を加え、得られた混合物を850℃で72時間、熱処理することにより製造することができる(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Jeevaratnam,F.P.Glasser,and L.S.D.Glasser,J.Am.Ceram.Soc.,第47巻,No.2,p105−p106(1964)
【非特許文献2】Qui Ling Feng,Frederic P.Glasser,R.Alan−Howie,and Eric E.Lachowski,Acta Cryst.,C44,p589−p592(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、ワダライト化合物は、化学量論組成となるように調合されたCaO、Al、およびSiOに塩化カルシウムを加え、得られた混合物を850℃で72時間、熱処理することにより製造される。
【0006】
しかしながら、このような従来の製造方法には、以下のような問題がある。
【0007】
例えば、基板上に膜状のワダライト化合物を形成する場合、従来の製造方法では、基板を850℃以上の温度に加熱する必要がある。このため、従来の製造方法では、使用する基板の種類が限られてしまい、耐熱性のある基板しか使用することができないという問題が生じ得る。例えば、基板材料としてガラスを選定した場合、このような処理温度では、ガラス基板が軟化したり、変形したりして、適正な膜形成を行うことができなくなる可能性がある。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、基板の耐熱性にあまり拘束されることなく、基板上に膜状のワダライト化合物を形成することが可能な、ワダライト化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、Ca12Al(14−x)Si32Cl(x+2)(ただしx=0〜4)の組成で表されるワダライト化合物の製造方法であって、
(i)Ca12Al(14−x)Si(33+x/2)(ただしx=0〜4)の組成で表される非晶質の材料Aを調製する工程と、
(ii)850℃未満の温度で、前記材料Aを塩素処理してワダライト化合物を生成する工程と、
を有する製造方法が提供される。
【0010】
ここで、本発明による製造方法において、前記(ii)の工程は、
(a)前記材料Aに、金属塩化物を添加して、得られた混合物を850℃未満の温度で熱処理する工程、または
(b)塩素含有ガスを含む雰囲気において、前記材料Aを850℃未満の温度で熱処理する工程
を有しても良い。
【0011】
また、この場合、
前記金属塩化物は、塩化カルシウムおよび/もしくは塩化カリウムを含み、または
前記塩素含有ガスは、塩化水素ガスおよび/もしくは塩素ガスを含んでも良い。
【0012】
また、本発明による製造方法において、前記(ii)の工程は、620℃以上の温度で実施されても良い。
【0013】
また、本発明による製造方法において、前記(i)の工程は、酸化カルシウム、アルミナ、およびシリカを所定の割合で調合して得た原料を、1450℃〜1800℃の温度で保持して溶融した後、急冷する工程を有しても良い。
【0014】
また、本発明による製造方法において、前記(ii)の工程は、基板上で、前記材料Aを塩素処理する工程を有し、前記基板上に膜状のワダライト化合物が形成されても良い。
【0015】
この場合、前記基板は、ガラス基板であっても良い。
【0016】
なお、本願において、ワダライト化合物とは、Ca12Al(14−x)Si32Cl(x+2)(ただしx=0〜4)の結晶を有するもの、およびこれと同等の結晶構造を有する同型化合物を意味する。
【0017】
従って、本願におけるワダライト化合物には、Ca12Al(14−x)Si32Cl(x+2)(ただしx=0〜4)結晶格子の骨格と、該骨格により形成されるケージ構造とが維持される範囲で、Ca12Al(14−x)Si32Cl(x+2)(ただしx=0〜4)結晶骨格を構成する原子の一部が他の原子に置換された化合物、およびケージ中の塩素イオンの一部が酸素イオンに置換された同型化合物が含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、基板の耐熱性にあまり拘束されることなく、基板上に膜状のワダライト化合物を形成することが可能な、ワダライト化合物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明によるワダライト化合物の製造方法の一例のフロー図である。
【図2】例1における粉末aのX線回折パターンである。
【図3】例1における白色粉末のX線回折パターンである。
【図4】例2における熱処理後に得られた粉末のX線回折パターンである。
【図5】例3における膜状物質のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明について説明する。
【0021】
図1には、本発明によるワダライト化合物の製造方法の一例の概略的なフロー図を示す。
【0022】
図1に示すように、本発明によるワダライト化合物の製造方法は、
Ca12Al(14−x)Si(33+x/2)(ただしx=0〜4)の組成で表される非晶質の材料Aを調製する工程(工程S110)と、
850℃未満の温度で、前記材料Aを塩素処理してワダライト化合物を生成する工程(工程S120)と、
を有する。
【0023】
本発明では、前述のような従来のワダライト化合物の製造方法とは異なり、ワダライト化合物は、比較的低温(850℃未満の温度)で、材料Aを「塩素処理」することにより生成される。
【0024】
ここで、「塩素処理」とは、材料Aのケージを構成する骨格内に、塩素イオンを導入することが可能な処理方法の総称を意味する。例えば、「塩素処理」には、材料Aと金属塩化物を混合して、得られた混合物を熱処理する方法、および塩素含有ガスを含む雰囲気において、材料Aを熱処理する方法等が含まれる。
【0025】
このような本発明による方法では、基板上に膜状のワダライト化合物を形成する際に、基板の耐熱性にとらわれる必要が軽減され、使用できる基板の種類が増加する。例えば、本発明では、ガラス基板のような汎用性のある基板上に、ワダライト化合物膜を設置することが可能となる。
【0026】
以下、図1に示した各工程について、詳しく説明する。
【0027】
(工程S110)
まず、非晶質のCa12Al(14−x)Si(33+x/2)(ただしx=0〜4)(以下、単に「材料A」と称する)が調製される。
【0028】
材料Aの調製方法は、特に限られず、材料Aは、いかなる一般的な方法で調製されても良い。
【0029】
例えば、材料Aは、酸化カルシウム粉末、アルミナ粉末、およびシリカ粉末を含む原料粉末を所定の割合で調合して得た原料を、1450℃〜1800℃の温度で保持して溶融した後、急冷することにより調製することができる。
【0030】
この場合、例えば、保持温度は、1500℃〜1700℃の範囲であっても良い。また、急冷処理の際の降温速度は、例えば、10℃/分〜10℃/分の範囲であっても良い。好ましくは、1450℃から500℃を10℃/秒〜10℃/秒で冷却する。
【0031】
保持温度で処理する時間は、10分〜3時間の範囲であっても良い。
【0032】
ここで、本発明において使用される材料Aは、非晶質である必要がある。これは、結晶化合物の混合物を材料として用いた場合は、ワダライト化合物を低温で、かつ収率良く得ることが困難となるためである。例えば、材料Aを非晶質とせず、CaO結晶、Al結晶およびSiO結晶の混合物を材料として用いると、ワダライト化合物は単体では得られず、結晶化合物の混合物となる。
【0033】
なお、典型的な場合、材料Aの一般式におけるxの値は、約3.4である。ただしxの値は、0〜4の範囲で適宜選定することができる。
【0034】
原料は、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)およびケイ素(Si)の割合が、Ca:Al:Siのモル比で、12:14:0〜12:10:4となり、かつ、Caに対して、AlとSiの合計が、Ca:(Al+Si)のモル比で、12:14となるように調合される。Ca:Al:Si(モル比)は、12:12:2〜12:10:4であることが好ましい。
【0035】
なお、原料として使用される化合物は、前記割合が維持される限り、特に限られない。
【0036】
原料は、例えば、カルシウム化合物とアルミニウム化合物を含む混合物であっても良い。原料は、例えば、カルシウム化合物とアルミニウム化合物とケイ素化合物を含む混合物であっても良い。
【0037】
原料は、アルミノケイ酸塩を含んでもよい。原料は、カルシウム化合物と、アルミニウム化合物および/またはケイ素化合物からなる群から選定された少なくともひとつと、アルミノケイ酸塩との混合物であっても良い。
【0038】
カルシウム化合物としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、または水酸化カルシウムなどが挙げられる。これらの中では、炭酸カルシウムが好ましい。
【0039】
アルミニウム化合物としては、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、または硝酸アルミニウムなどが挙げられる。これらの中では、酸化アルミニウムが好ましい。
【0040】
ケイ素化合物としては、酸化シリコンが好ましい。
【0041】
また、材料Aは、粉末化することが好ましい。この場合、以降の塩素処理工程において、均一な組成のワダライト化合物をより容易に得ることが可能となる。
【0042】
材料Aが粉末状の場合、その粒径は、特に限られない。材料Aの粒径は、例えば、1μm〜20μm(平均粒径)の範囲であっても良い。
【0043】
通常の場合、粉末状の材料Aは、材料Aを粗粉化し、さらにこの粗粉を微細まで粉砕することにより調製される。材料Aの粗粉化には、スタンプミル、自動乳鉢等が使用され、まず平均粒径が約20μm程度になるまで粉砕される。粗粉を、前述の平均粒径の微細粉まで粉砕するには、ボールミル、ビーズミルなどが使用される。たとえば、タングステンカーバイドのボールを使った遊星ミルを用いると、材料Aの粗粒に異物が混入せず、20μm以下の粒径を持つ粗粒にすることが可能である。このようにして得られた材料Aは、ボールミルやジェットミルを用いて平均粒径10μm以下のさらに細かい粒子に粉砕することが可能である。さらに、20μm以下に粗粉砕した材料Aを溶媒と混合してビーズ粉砕を行うと、より細かい、平均粒径が5μm以下の材料Aの分散した分散溶液が作製できる。ビーズ粉砕には、例えば酸化ジルコニウムビーズを用いることができる。上記粉砕時に溶媒として、たとえば、水または有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、たとえば、アルコールまたはエーテルが使用できる。
【0044】
必要に応じて、粉末状の材料Aは、ペースト化、スラリー化、またはゾルゲル化されても良い。
【0045】
ペーストの作製方法は、特に限られず、一般的な方法を用いることができる。例えば、前述の調製粉末をバインダーとともに溶媒中に添加、撹拌することにより、ペーストを調製しても良い。バインダーには、有機バインダーおよび無機バインダーのいずれも使用することができる。有機バインダーとしては、例えば、ニトロセルロース、エチルセルロース、ポリエチレンオキシドなどが使用できる。また、溶媒としては、酢酸ブチル、テルピネオール、化学式C2n+1OH(n=1〜4)で表されるアルコール等が使用できる。
【0046】
次に、必要な場合、前述のようにして調製された材料Aが基板上に設置される。
【0047】
基板の材質、形状、および寸法は、特に限られない。基板は、例えば、ガラス基板であっても良い。また、用途に応じて、金属基板を用いることができる。金属基板の耐熱温度は600℃以上であることが好ましい。ただし、前述のように、本発明では、従来の製造方法に比べて、基板の耐熱性に対する制約が緩和され、より広い材料範囲から基板材料を選定し得ることに留意する必要がある。
【0048】
材料Aを基板に設置する方法は、特に限られない。
【0049】
材料Aは、例えば、塗布法、スプレー法、含浸法、または印刷法等により、基板上に設置されても良い。例えば、前述のようにして調製された材料Aを含有するペーストを、スクリーン印刷により塗布し、この塗布膜に熱処理を行って、溶媒およびバインダーを除去することにより、基板上に材料Aが膜状に形成される。塗布膜の好ましい焼成条件は、スラリーの成分の有機物が分解し、材料Aが基板表面と十分に固着される80〜850℃が好ましい。この熱処理は空気中で行うことにより、効率良く溶媒およびバインダーが除去される。熱処理時の雰囲気としては、不活性ガスまたは真空も可能であり、耐酸化性の低い基板を使用できる。また、焼成時間は10分〜2時間が好ましい。また、塗布膜の厚みは1〜50μmであることが好ましい。
【0050】
あるいは、材料Aは、スパッタ法、PVD法、CVD法、または電子ビーム蒸着法等の成膜技術により、基板上に直接、膜状に形成しても良い。
【0051】
(工程S120)
次に、材料Aが塩素処理され、これにより、ワダライト化合物が生成される。
【0052】
塩素処理は、850℃未満の温度で実施される。処理温度は、例えば、620℃〜800℃の範囲で実施されても良い。処理温度の上限は、770℃以下であることがより好ましい。620℃未満では、より長時間の塩素処理が必要となる。また、処理温度が770℃を超えると、塩素処理はより短時間にできるが、基板上にワダライト化合物を作製する場合は、耐熱性の基板が必要となる。
【0053】
塩素処理の条件は、特に限られない。塩素処理は、例えば、
(a)材料Aに、金属塩化物を添加して、得られた混合物を850℃未満の温度で熱処理する処理、または
(b)塩素含有ガスを含む雰囲気において、材料Aを850℃未満の温度で熱処理する処理
を含んでも良い。
【0054】
(a)の処理の場合、金属塩化物は、これに限られるものではないが、例えば、塩化カリウムおよび/または塩化カルシウムであっても良い。
【0055】
また、熱処理時間は、特に限られない。熱処理時間は、例えば、72時間未満であっても良く、例えば1時間〜10時間の範囲であっても良い。また、熱処理は、大気中で実施しても良い。昇温速度および降温速度は特に限られないが、ガラス基板を使用する場合は、100℃/時間〜600℃/時間とすると、基板の熱割れを避けることができるため好ましい。
【0056】
例えば、金属塩化物が塩化カルシウムの場合、熱処理によって、材料Aから、例えば、以下のような反応を経て、ワダライト化合物を製造することができる(x=0のとき):

Ca12Al10Si35+3CaCl
→ Ca12Al10Si32Cl+3CaO (1)式

ただし、この反応式は、一例であって、その他の反応を経て、材料Aからワダライト化合物が生成されても良い。
【0057】
一方、(b)の処理の場合、塩素含有ガスは、塩化水素ガスおよび/または塩素ガスであっても良い。また、処理雰囲気は、さらに、水素ガスおよび/または不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、および/またはヘリウムなど)等を含んでも良い。
【0058】
工程S120により、材料Aが塩素処理され、ワダライト化合物を生成することができる。特に、材料Aが設置された基板を塩素処理した場合、基板上に、膜状のワダライト化合物を形成することができる。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0060】
(例1)
以下の方法で、ワダライト化合物を製造した。
【0061】
(材料Aの調製)
まず、CaCO粉末、Al粉末、およびSiO粉末を、モル比が12:5:2となるように混合して、混合粉末を調合した。
【0062】
得られた混合粉末を白金坩堝に入れ、空気中で、1650℃で15分保持し、混合粉末を溶融させた。溶融物を双ローラー法により急冷(冷却速度10℃/分程度)し、厚さ約0.5mmの固形物を得た。
【0063】
固形物の組成は、Ca12Al10Si35であった。
【0064】
次に、この固形物をボールミルを用いて粉砕して、粉末aを得た。レーザ回折散乱法(SALD−2100、島津製作所社製)により、この粉末aの粒度を測定したところ、平均粒径は5μmであった。
【0065】
図2には、得られた粉末aのX線回折結果を示す。
【0066】
図2の回折パターンから、粉末aは、非晶質であることが確認された。以下、粉末aを「材料Aの粉末」と称する。
【0067】
(ワダライト化合物の合成)
材料Aの粉末5gと、塩化カルシウム(CaCl)粉末20gとを混合し、混合原料を得た。
【0068】
次に、以下の条件で、この混合原料を熱処理(塩素処理)した。
【0069】
まず、混合原料を蓋付きアルミナ坩堝に入れ、空気中で、400℃/時間の昇温速度で、670℃まで昇温した。アルミナ坩堝をこの温度に3時間保持した後、同じ雰囲気中で、アルミナ坩堝を400℃/時間の降温速度で、室温まで冷却した。
【0070】
次に、アルミナ坩堝内から得られた熱処理物を回収し、これを水洗、ろ過することにより、白色粉末を得た。
【0071】
図3には、得られた白色粉末のX線回折結果を示す。
【0072】
図3の回折パターンから、この白色粉末は、ワダライト化合物であることが確認された。
【0073】
(例2)
前述の例1と同様の方法で、材料Aの粉末を調製した。また、例1と同様の方法で、この材料Aの粉末を熱処理した。
【0074】
ただし、この例2では、材料Aの粉末は、塩化カルシウムと混合せず、そのままの状態で熱処理を行った。
【0075】
図4には、熱処理後に得られた粉末のX線回折結果を示す。
【0076】
図4に示すように、熱処理後に得られた粉末は、処理前とほとんど変化しておらず、ワダライト化合物を得ることはできなかった。
【0077】
(例3)
以下の方法で、ワダライト化合物を製造した。
【0078】
例1で得られた材料Aの粉末3gに、エチルセルロース、ブチルカルビトールアセテート(BCA)およびテルピネオールを含むビヒクル2.4gを加えて自動乳鉢で混練し、ペーストを調製した。
【0079】
印刷機を用いて、得られたペーストを、縦20mm、横20mm、厚さ0.7mmのガラス基板(AN100:旭硝子株式会社製)の表面に均一に塗布した。
【0080】
次に、このガラス基板を、空気中、600℃で1時間熱処理した。これにより、ガラス基板の表面に、材料Aの膜が設置された(膜厚18μm)。
【0081】
次に、このガラス基板を、塩化カルシウム粉末(2g)とともに、蓋付きアルミナ坩堝に入れ、空気中で、400℃/時間の昇温速度で、750℃まで昇温した。アルミナ坩堝をこの温度に6時間保持した後、同じ雰囲気中で、アルミナ坩堝を400℃/時間の降温速度で、室温まで冷却した。
【0082】
次に、アルミナ坩堝内からガラス基板を回収し、これを水洗した。これにより、表面に膜状物質が形成されたガラス基板が得られた。
【0083】
図5には、得られた膜状物質のX線回折結果を示す。
【0084】
図5の回折パターンから、この膜状物質は、ワダライト化合物であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の方法で製造されたワダライト化合物は、例えば、湿度センサ等に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca12Al(14−x)Si32Cl(x+2)(ただしx=0〜4)の組成で表されるワダライト化合物の製造方法であって、
(i)Ca12Al(14−x)Si(33+x/2)(ただしx=0〜4)の組成で表される非晶質の材料Aを調製する工程と、
(ii)850℃未満の温度で、前記材料Aを塩素処理してワダライト化合物を生成する工程と、
を有する製造方法。
【請求項2】
前記(ii)の工程は、
(a)前記材料Aに、金属塩化物を添加して、得られた混合物を850℃未満の温度で熱処理する工程、または
(b)塩素含有ガスを含む雰囲気において、前記材料Aを850℃未満の温度で熱処理する工程
を有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属塩化物は、塩化カルシウムおよび/もしくは塩化カリウムを含み、または
前記塩素含有ガスは、塩化水素ガスおよび/もしくは塩素ガスを含む請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記(ii)の工程は、620℃以上の温度で実施される請求項1乃至3のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項5】
前記(i)の工程は、酸化カルシウム、アルミナ、およびシリカを所定の割合で調合して得た原料を、1450℃〜1800℃の温度で保持して溶融した後、急冷する工程を有する請求項1乃至4のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項6】
前記(ii)の工程は、基板上で、前記材料Aを塩素処理する工程を有し、前記基板上に膜状のワダライト化合物が形成される請求項1乃至5のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項7】
前記基板は、ガラス基板である請求項6に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−23400(P2013−23400A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158407(P2011−158407)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】