説明

ワークピースの無接触保持方法及び無接触保持装置

【課題】ワークピースを保持手段と接触しないように保持する方法及び該方法を実現できる無接触保持装置の提供。
【解決手段】吸気で下方にあるワークピースを吸い上げながら、排気で該ワークピースの前記吸気による吸着を阻むことで、該ワークピースを宙に浮かせた状態で保持することを特徴とする、ワークピースの無接触保持方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークピースの無接触保持方法及び無接触保持装置に関し、特に、ワークピースを保持しながら取り扱う際、ワークピースに接触しない保持方法及び該保持方法を実現できる無接触保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークピースを点検や加工するには、ワークピースを保持する手段が必要である。この保持手段として、場合により、ワークピースが破損や汚染されないようにする必要があるので、図11に示されているような無接触保持装置が使用されている。
【0003】
この無接触保持装置1は、図示のように、送気手段92から供給される空気を、緩衝空間12に一時留めた後、緩衝空間12の上方に開けてある複数の排気口13を経由して下方からワークピース91に噴気すると、該噴気によってワークピース91を宙に浮かせることができるので、ワークピース91を保持手段と接触しないように保持しながら点検や加工をすることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、下から噴気することによりワークピースを宙に浮かせてから点検や加工をする方法では、点検や加工のために加えられた潤滑油や、点検や加工のため生じたりする切削屑などがワークピースから周囲に飛散するため、頻繁且つ広範囲に掃除する必要があるという欠点がある。
【0005】
従って、本発明は、ワークピースを保持手段と接触しないように保持しながら点検や加工する時、ワークピースから不要な物質が飛散しにくくて掃除しやすいワークピースの無接触保持方法及び無接触保持装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、本発明は、吸気で下方にあるワークピースを吸い上げながら、排気で該ワークピースの前記吸気による吸着を阻むことによって、該ワークピースを宙に浮かせた状態で保持することを特徴とするワークピースの無接触保持方法を提供する。
【0007】
また、上記無接触保持方法を実現する装置として、本発明は、チャンバーケースを備えており、該チャンバーケースの内部に、吸気手段と連通することができる低圧チャンバー、及び、排気手段と連通することができる高圧チャンバーが画成され、また、該チャンバーケースの底面に、前記低圧チャンバーと連通している吸気口、及び、前記高圧チャンバーと連通している排気口が、それぞれ形成されている。前記低圧チャンバー及び前記高圧チャンバーをそれぞれ吸気手段及び排気手段に連通させてから、前記吸気手段を作動して前記低圧チャンバーの内圧を低下させることによる前記吸気口の吸気で下方にあるワークピースを吸い上げ、一方、前記排気手段を作動して前記高圧チャンバーの内圧を上昇させることによる前記排気口の排気で前記ワークピースが前記吸気によって吸着されることを阻むことで、前記ワークピースを宙に浮かせた状態で保持することができることを特徴とするワークピースの無接触保持装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の前記ワークピースの無接触保持装置及び無接触保持方法でワークピースを保持手段と接触しないように保持しながら点検や加工する時、吸気で下方にあるワークピースを吸い上げながら、排気で該ワークピースの前記吸気による吸着を阻むことによって、該ワークピースを宙に浮かせた状態で保持することができるので、点検/加工中に、ワークピースから潤滑油や切削屑などの不要な物質が飛散することを防ぐ効果ある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の無接触保持方法を実現する無接触保持装置の、下方からみた斜視図である。
【図2】前記無接触保持装置の分解図である。
【図3】前記無接触保持装置における底面板体の、上方からみた斜視図である。
【図4】前記無接触保持装置における底面板体の、下方からみた斜視図である。
【図5】前記無接触保持装置における上方ケース体の、上方からみた斜視図である。
【図6】前記無接触保持装置における上方ケース体の、下方からみた斜視図である。
【図7】前記無接触保持装置における板状部の、上方からみた斜視図である。
【図8】前記無接触保持装置における板状部の、下方からみた斜視図である。
【図9】前記無接触保持装置におけるチャンバーケースの上面図である。
【図10A】前記図9における線10A−10Aに沿って切った断面図である。
【図10B】前記図9における線10B−10Bに沿って切った断面図である。
【図11】従来の無接触保持装置の概要構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下は図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳しく説明する。
【0011】
図1は本発明の無接触保持方法を実現する無接触保持装置2の、下方からみた斜視図であり、図2に該無接触保持装置2の分解図である。
【0012】
図1及び図2に示されているように、本発明の無接触保持装置2は、支持フレーム6により所定の高さに支持されているチャンバーケース4を備えており、チャンバーケース4は下から上へ底面板体43と、気流案内手段42と、上方ケース体41とが順番に重なって組み立てられたものである。
【0013】
図3及び図4に、底面板体43の上下2つの面がそれぞれ示されている。図3に示されているのは、気流案内手段42の方に向かっている上面であり、図4に示されているのは、チャンバーケース4全体の下面でもあり、作業中にワークピース8に向かう下面である。
【0014】
図示されるように、底面板体43には底面板体43の上面から下面まで貫通した複数の排気口432、432、432及び複数の吸気口433、433、433がそれぞれ形成されている。これらの排気口及び吸気口は、底面板体43の全面に対し、ほぼ均一に散在している。また、図3に示されているように、気流案内手段42に向かっている底面板体43の上面では、各排気口432の口径と各吸気口433の口径とが略一致するようになっている一方、図4に示されているように、ワークピース8に向かっている下面では、各吸気口433の口径が各排気口432の口径より大きく形成され、吸気口433の総面積も排気口432の総面積より広くなっている。
【0015】
図5及び図6に、上方ケース体41の上下2つの面がそれぞれ示されている。図5に上方ケース体41の、チャンバーケース4全体の上面として露出している上面が示され、図6に気流案内手段42に向かっている下面が示されている。
【0016】
図示されるように、上方ケース体41の上面の中央当りに、空気を吸い込む吸気手段(図示せず)と連通するように取り付けることができる吸気ポート417が1つ設けられ、該吸気ポート417の周りに、空気を吐き出す排気手段(図示せず)と連通するように取り付けることができる排気ポート416が4つ設けられている。図6に示されているように、気流案内手段42に向かっている上方ケース体41の下面は窪んで形成されており、気流案内手段42との間の低圧チャンバー24が画成されている。低圧チャンバー24は吸気ポート417を経由して吸気手段と連通することができる。また、気流案内手段42に向かっている上方ケース体41の下面には、各排気ポート416とそれぞれ連通する管状部428、428、428、428が4つ形成されており、これら管状部428は気流案内手段42の一部として各排気ポート416から低圧チャンバー24を通過し、気流案内手段42の板状部420まで延在している。
【0017】
つまり、気流案内手段42は、上記4つの管状部428、428、428、428と、底面板体43と密接している板状部420とからなったものである。
【0018】
図7に上方ケース体41に面している板状部420の上面が示され、図8に底面板体43に密接している板状部420の下面が示されている。まず、図8に示されているように、底面板体43に密接している板状部420の下面に、所定方向(図8における横方向)に沿って延在している少なくとも1本(この実施例では4本)の第1の案内溝424、424、424、424と、各第1の案内溝424からそれぞれ直角に分岐している多数本の第2の案内溝425、425、425とからなった凹陥部421が形成されている。また、図示されるように、板状部420には、吸気が通ることのできる複数の第1の通気孔422、422、422と排気が通ることのできる4つの第2の通気孔423、423、423、423とが形成されている。前記複数の第1の通気孔422、422、422は、それぞれ上方ケース体41に面している上面から底面板体43に密接している部分まで貫通するように形成されており、一方前記4つの第2の通気孔423、423、423、423は、前記第1の案内溝424、424、424、424にそれぞれ対応して配置されており、これら第2の通気孔423は各管状部428、428、428、428とそれぞれ連通するように形成されている。板状部420と底面板体43との間には、凹陥部421により高圧チャンバー23が画成されている。高圧チャンバー23は各第2の通気孔423、423、423、423及び各管状部428、428、428、428、排気ポート416、416、416、416を経由して排気手段と連通することができる。
【0019】
更に、底面板体43に形成された各排気口432、432、432は、板状部420に形成された凹陥部421の形成位置に対応し、高圧チャンバー23と連通するようになっている。
【0020】
各吸気口433、433、433は、各第1の通気孔422、422、422と連通できるように配置されており、吸気ポート417に取り付けられている吸気手段で底面板体43の下側から空気を吸い込むことができる。
【0021】
以下は、図9及び図10を用いて、本発明の無接触保持装置2に吸気手段及び排気手段が取り付けられていると共に、吸気手段と排気手段が作動している時の状態について詳しく説明する。
【0022】
図9に本発明の無接触保持装置2のチャンバーケース4の上面が示されており、図10のAに図9における線10A−10Aに沿って切った断面図が示され、図10のBに図9における線10B−10Bに沿って切った断面図が示されている。
【0023】
図10のAに示されているように、本発明の無接触保持装置2の気流案内手段42には、4つの管状部428、428、428、428及び4つの第2の通気孔423、423、423、423により構成され、底面板体43に形成された排気口432、432、432と低圧チャンバー24と連通している排気流案内通路が構成されている。
【0024】
また、図10のBに示されるように、本発明の無接触保持装置2の気流案内手段42には、複数の第1の通気孔422、422、422により構成され、底面板体43に形成された吸気口433、433、433と低圧チャンバー24と連通している吸気流案内通路が構成されている。
【0025】
本発明の無接触保持装置2は、気流案内手段42として一つは吸気口433から吸い込んだ空気を低圧チャンバー24に一旦溜め込んで内圧を均一に低下させてから吸気手段へ送る通路、そしてもう一つは排気手段から受け入れた空気を高圧チャンバー23に一旦溜め込んで内圧を均一に上昇させてから排気口432へ送る通路、の2つの経路を有しておりこれら流れる方向が真逆になっている2つの気流を互いに独立させ、且つそれぞれ均一な圧力で案内することができる。
【0026】
この構成により、本発明の無接触保持装置2は、図1に示されているように、吸気手段を作動させ、吸気口433の吸気で下方にあるワークピース8を吸い上げ、一方、排気手段を作動させ、排気口432のワークピース8に対する排気によるワークピース8の底面板体43への吸着を阻むことで、ワークピース8を底面板体43の下方で宙に浮かせた状態で保持することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
上記構成により、本発明のワークピースの無接触保持方法及び無接触保持装置は、ワークピースを保持手段と接触しないように保持しながら点検や加工する時、吸気で下方にあるワークピースを吸い上げながら、排気で該ワークピースの前記吸気による吸着を阻むことによって、該ワークピースを宙に浮かせた状態で保持することができるので、点検/加工中に、ワークピースから潤滑油や切削屑などの不要な物質が飛散することを防ぐ効果がある。
【符号の説明】
【0028】
2 無接触保持装置
23 高圧チャンバー
24 低圧チャンバー
4 チャンバーケース
41 上方ケース体
416 排気ポート
417 吸気ポート
42 気流案内手段
420 板状部
421 凹陥部
422 第1の通気孔
423 第2の通気孔
424 第1の案内溝
425 第2の案内溝
428 管状部
43 底面板体
432 排気口
433 吸気口
6 支持フレーム
8 ワークピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気で下方にあるワークピースを吸い上げながら、排気で該ワークピースの前記吸気による吸着を阻むことで、該ワークピースを宙に浮かせた状態で保持することを特徴とするワークピースの無接触保持方法。
【請求項2】
チャンバーケース(4)を備えており、
該チャンバーケース(4)の内部に、吸気手段と連通することができる低圧チャンバー(24)、及び、排気手段と連通することができる高圧チャンバー(23)が画成され、また、該チャンバーケース(4)の底面に、前記低圧チャンバーと連通している吸気口(433)、及び、前記高圧チャンバーと連通している排気口(432)が、それぞれ形成されており、
前記低圧チャンバー(24)及び前記高圧チャンバー(23)をそれぞれ吸気手段及び排気手段に連通させてから、前記吸気手段を作動して前記低圧チャンバーの内圧を低下させることによる前記吸気口の吸気で下方にあるワークピースを吸い上げ、一方、前記排気手段を作動して前記高圧チャンバーの内圧を上昇させることによる前記排気口の排気で前記ワークピースが前記吸気によって吸着されることを阻むことで、前記ワークピースを宙に浮かせた状態で保持することができることを特徴とする、ワークピースの無接触保持装置。
【請求項3】
前記吸気口も排気口も複数ある上、前記吸気口の総面積が前記排気口の総面積より大きいことを特徴とする請求項2のワークピースの無接触保持装置。
【請求項4】
前記いずれの吸気口の面積も前記いずれの排気口の面積より大きいことを特徴とする請求項3のワークピースの無接触保持装置。
【請求項5】
前記チャンバーケースの上面に、吸気手段が取り付けられる時前記吸気手段と連通する吸気ポート(417)と、排気手段が取り付けられる時前記排気手段と連通する排気ポート(416)とが設けられており、
更に、前記チャンバーケース内に、気流案内手段(42)が、前記チャンバーケース内の空間を前記低圧チャンバーと前記高圧チャンバーとに画成するように取り付けられており、
前記低圧チャンバーは、前記気流案内手段(42)の上にあって、前記吸気ポート(417)及び前記複数の吸気口と連通しており、
前記高圧チャンバーは、前記気流案内手段(42)の下にあって、前記排気ポート(416)及び前記複数の排気気口と連通していることを特徴とする請求項3または4のワークピースの無接触保持装置。
【請求項6】
前記気流案内手段は、前記チャンバーケースの底面と密着している上、その前記チャンバーケースの上面との間の空間が前記低圧チャンバーとして画成されており、また、その前記チャンバーケースの底面に向かう面に凹陥部(421)が形成されている上、該凹陥部と前記チャンバーケースの底面との間の空間が前記全ての排気口と連通する前記高圧チャンバーとして画成されており、
更に、前記気流案内手段には、前記吸気口と前記低圧チャンバーとを連通している吸気流案内通路と、前記低圧チャンバーを通過し前記高圧チャンバーと前記排気ポートとを連通させている排気流案内通路とが互いに独立するように設けてあり、
それにより、前記吸気口から吸い込んだ空気を、前記吸気流案内通路と前記低圧チャンバーと前記吸気ポートとを順番に経過して吸気手段まで送りながら、他に、前記排気手段から送られてきた空気を、前記排気ポートと、前記排気流案内通路と、前記高圧チャンバーと前記排気口とを順番に経過して排出することができることを特徴とする請求項5のワークピースの無接触保持装置。
【請求項7】
前記凹陥部は、所定方向に沿って延在している少なくとも1本の第1の案内溝(424)と、前記第1の案内溝から分岐している多数本の第2の案内溝(425)とからなったことを特徴とする請求項6のワークピースの無接触保持装置。
【請求項8】
前記第2の案内溝(425)は、いずれも、前記第1の案内溝(424)と直交になっていることを特徴とする請求項7のワークピースの無接触保持装置。
【請求項9】
前記排気口も前記吸気口も、前記チャンバーケースの底面に均一に散在するように配置されていることを特徴とする請求項8のワークピース保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−264584(P2010−264584A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215673(P2009−215673)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(508211096)由田新技股▲分▼有限公司 (12)
【Fターム(参考)】