説明

ワークロールの組換え方法

【課題】高生産性を維持及び重大トラブルにつながるワークロール割損を回避でき、通板トラブルなく安定的に熱延鋼板を製造するためのワークロール組換え方法を提供する。
【解決手段】熱間圧延操業中にオンラインでワークロールを研削可能なロール研削装置を備え、かつ研削対象となるワークロールが軸方向にシフト可能な圧延機のワークロール組換え方法において、圧延操業中のワークロールの摩耗量、上記ワークロール研削装置による研削量,およびワークロール熱膨張量の軸方向分布を計算し、ついで前記ワークロール熱膨張量の軸方向分布を考慮して、圧延操業中のバックアップロール、または中間ロールとの接触により生じるワークロール内最大応力を計算し、前記ロール接触時に生じるワークロール内最大応力が予め定めた応力を超えたときに、速やかにワークロールの組換えを実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オンラインでワークロールを研削可能な装置を備え、かつ研削対象となるワークロールが軸方向にシフト可能な圧延機においてワークロールの使用限界を計算し、この結果に基づいてワークロールを組換える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の熱間圧延を行う際に、生産能率及び圧延材の表面品質の向上を図るために「圧延機のオンラインロール研削装置」が知られている(例えば、特許文献1参照)。これはワークロール軸方向に移動可能なフレームに取り付けられた砥石(研削体)をワークロールに押し付けてワークロールをオンラインで研削する装置(以後、オンライングラインダー装置と称す)である。
【0003】
この装置を用いたワークロールの研削方法として、「圧延機におけるワークロールの研削方法」が知られている(例えば、特許文献2参照)。これによれば、研削グラインダーをワークロールの板道以外の部分での往復回数を板道部分の往回転数より多くして研削することにより、圧延で生じるロール摩耗以外の部分を多く研削し、摩耗プロフィルを平滑化し、ワークロールの組換えを延長させる方法である。
【0004】
また、別のワークロールの研削方法として、「オンラインロールグラインダー装置によるロール研削方法」が知られている(例えば、特許文献3参照)。これによれば、ワークロールプロフィルを測定する装置を用いて、ワークロールプロフィルを実測し、目標とするワークロールプロフィルとの誤差部分を研削する方法である。
【0005】
また、さらに別のワークロールの研削方法として、「オンラインロールグラインダによるロール表層の研削方法」が知られている(例えば、特許文献4参照)。これによれば、板幅方向の累積圧延負荷(線荷重)に応じてロールグラインダの押付線圧力を変更することにより、過剰な研削などを防止し、所望のロール軸方向プロフィルにする研削方法である。
【0006】
一方、圧延操業中の圧延材プロフィルや板形状を維持する方法として、で開示されている方法が知られている(例えば、特許文献5、特許文献6参照)。これらには、ワークロール組換単位内で、圧延材1本毎に数〜数10mmずつロール軸方向にシフトして圧延し、ロール摩耗量や熱膨張量を軸方向に分散させ、圧延材プロフィルや板形状を維持する方法が記載され、実用化されている(一般的にサイクリックシフトと称す)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−253106号公報
【特許文献2】特開昭61−49713号公報
【特許文献3】特開平02−89509号公報
【特許文献4】特開2006−181630号公報
【特許文献5】特開昭61−212416号公報
【特許文献6】特開2007−21545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ワークロールが軸方向にシフト可能な圧延機の場合(例えば、熱間圧延機列の後段スタンドに配備されているサイクリックシフトが可能なミル)、特許文献5及び特許文献6に記載されているように、圧延材プロフィルや形状を維持するために、サイクリックシフトを採用して圧延操業を行っている。このような圧延機の場合、バックアップロール胴長に比べてワークロール胴長が、例えば300〜400mm程度長くなっている。
【0009】
そのため、特許文献2で開示されている方法を用いて研削した場合、例えばワークサイド(片側)にワークロールを大きくシフトすると、ワークサイド側の胴端部が研削砥石稼動範囲の外側へ出るため、圧延操業中にワークロール端部50〜100mm程度が主に研削できないという問題がある。この場合、圧延操業中に圧延作業を休止し、片側に大きくシフトさせてワークロール端部の部分を集中的に研削することも考えられるが、圧延作業中止を伴う生産性阻害の要因になることは明らかである。
【0010】
また、生産性重視の観点(ロール組換えに伴う生産ロスを回避)から、上記ワークロール端部を研削しないで圧延操業を継続した場合、ワークロール端部とバックアップロールとの接触時に生じるワークロール内最大応力が限界に達し、ワークロール端部に割損が起きるという問題があった。
【0011】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決し、オンラインでワークロールを研削可能な装置を備え、かつ研削対象となるワークロールが軸方向にシフト可能な圧延機においてワークロールの使用限界を計算し、ワークロールの割損が起こることなくワークロールの組換え時期を計算する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を要旨とする。
熱間圧延操業中にオンラインでワークロールを研削可能な装置を備え、かつ研削対象となるワークロールが軸方向にシフト可能な圧延機のワークロール組換え方法において、
圧延操業中のワークロールの摩耗量、上記ワークロール研削装置による研削量,およびワーク熱膨張の軸方向分布量を計算し、
ついで前記ロール軸方向分布を考慮して、圧延操業中のワークロールとバックアップロールとの接触時に生じるワークロール内最大応力を計算し、
前記ロール接触時に生じる最大応力が予め定めた応力を超えたときに、速やかにワークロールの組換えを実施することを特徴とするワークロール組換え方法である。
また、6段圧延機の場合、前記接触時に生じるワークロール内最大応力をワークロールと中間ロールとの最大応力とすることを特徴とする上記記載のワークロール組換え方法である。
【発明の効果】
【0013】
第1発明及び第2発明によれば、ワークロール内最大応力が予め定めた応力を超えたときに、その時点での圧延操業状態に応じてワークロールを交換するので、重大トラブルにつながるワークロール割損を回避可能なことから、高生産性を維持し、通板トラブルなく安定的に熱延鋼板を製造するためのワークロール組換え方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】オンラインロールグラインダーを使用しないで連続的に圧延操業した場合の圧延材とロールプロフィルの関係を示す図である。
【図2】ロール割損時のロールプロフィルを示す図である。
【図3】ロール割損時のワークロールとバックアップロールとの接触線荷重分布及びその時の最大応力を示す図である。
【図4】圧延本数に対するワークロール端部最大応力の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の内容を図面に基づいて詳細に説明する。
ワークロール組換えなしで圧延操業を連続的に行い、オンラインロールグラインダー装置を適用しない場合、図1に示すようなワークロールプロフィルで圧延ケースが存在することから、特に圧延形状起因で圧延トラブル(絞り、半成など)の要因になっている。また、圧延操業中にはワークロール熱膨張(及び摩耗)の軸方向分布を平滑化すために(安定的な圧延操業実施のため)、特に、熱間連続圧延機列の後段で圧延毎に、例えば50mmずつワークロールを軸方向に移動(最大±150mm)させる操業(サイクリックシフト)が行われている。
【0016】
上記のようなサイクリックシフトを行うミルでは、一般的にワークロールがバックアップロールより長いため、ワークロールラインダーとワークロールシフト量との関係から、機械構造(配置)上から端部に砥石が届かない。このために、ワークロール端部が研削できない場合やどちらか一方に大きくシフトしている場合に、ワークロール端部の研削ができないことが圧延操業を実施してわかった。
【0017】
また、圧延生産性の観点から、ワークロールグラインダーを適用して、ワークロール組換えなしで圧延操業を継続した結果、ワークロール端部が割損し、重大な操業トラブルが発生した。図2に、圧延本数233本目におけるトラブル発生直後に、圧延機からワークロールを取り出して測定したワークロールプロフィル測定結果を示す。このとき、バックアップロール胴長は2000mmであった。
【0018】
発明者らはこのワークロールプロフィルと圧延操業条件より、圧延操業解析計算に用いられている公知の分割モデル(例えば、「板圧延」コロナ社出版、1993;64−70頁参照)を用いて、ワークロールとバックアップロール(胴長2000mm)との接触荷重分布を計算し、その値を用いて2円柱間の接触時に生じるワークロール内最大応力(ヘルツ応力)を計算した(上記文献の257頁参照)。図3にその結果を示す。この結果から、圧延操業中にワークロール端部に2.0kN/mm以上の多大な集中応力が発生していたことがわかった。
【0019】
一般的にヘルツ応力が2.0kN/mmを超えた場合、ロールは疲労破壊を起こすことがわかっており(例えば、「第78回塑性加工シンポジューム;日本塑性加工学会S57」25−36頁参照)、今回の操業で、ワークロール端部で疲労破壊を起こし得ることが懸念された。
【0020】
そこで、発明者らは、上記のような圧延操業を行う場合、予め設定したワークロールとバックアップロールとの接触時に生じるワークロール内最大応力を超えたときに、速やかにワークロールの組換え実施して圧延操業を実施することを着想した。ここで、上記予め設定したワークロールとバックアップロールとの接触時に生じるワークロール内最大応力は安全側を考慮した場合、上記2.0kN/mmより小さく設定することになる。
【0021】
このとき、上述したワークロール端部で破壊挙動は疲労破壊であることから、上記予め設定したワークロールとバックアップロールとの接触時に生じるワークロール内最大応力を超えた時点で、直ちに破壊することは考え難い。このことから、ワークロール組み換え時期に関しては、たとえば、熱延ライン上の圧延材が全て通過した後、または、その時点から、例えば、上記疲労破壊を起こし得る2.0kN/mmの範囲内で実施すれば十分である。
本発明の具体的な方法は実施例で詳述する。
【0022】
また、上記において、ワークロールとバックアップロールを有する4段圧延機の例を説明したが、同様に6段圧延機にも本発明を適用することができる。その場合、接触応力を計算する関係は、ワークロールと中間ロールとの間に発生する接触時に生じるワークロール内最大応力となる。
【実施例】
【0023】
本発明を熱間連続圧延機列に適用した実施形態を具体的に説明する。
本発明を実施するにあたり、ワークロールプロフィルを予測する必要がある。同予測のワークロールサーマルクラウン予測に関しては、公知の予測モデル(例えば、特開平7−80517号公報参照)を用いた。上記予測モデルは、熱間圧延において異なる物性値を有する2層、すなわち芯材と外層材とで構成されたワークロールのロール内温度分布を圧延操業中に計算する際に、ロール半径方向温度分布の多項式で表現し、ワークロール内温度分布を算出して、ワークロールの熱膨張量、すなわちワークロールサーマルクラウンを計算する方法である。
【0024】
ワークロールの摩耗量は、一般的に用いられている式、例えばスタンド毎に現状操業データを用いてチューニングした式(1)により求めた。
WR=α*Σ(p/DWR*L) (1)
ここで、WWR:ワークロール摩耗量、p:線荷重(圧延荷重/板幅)、
WR:ワークロール直径、L:圧延長、α:チューニング定数
である。
【0025】
式(1)のチューニング定数αは、上記実操業データと実際の摩耗量から決めればよい。このとき、ワークロール摩耗量を直接測る方法もあるが、ロールたわみ量や熱膨張量が混在していることから、分離が困難であり、実用的ではなく、計算で求める方が実用的である。
【0026】
オンライングラインダー研削量に関しては、現状の砥石押当て力と単位時間当たり、又は一往復あたりの研削量として、実機データをもとに計算式を作ればよい。
また、本発明では予め設定しておく応力を、前記「第78回塑性加工シンポジューム;日本塑性加工学会S57」に記載されているデータから、安全側を考慮して1.80kN/mmとした。上記応力は、ワークロール交換に関して今回設定した値であり、操業現場の状況に応じて変えてもよい。
【0027】
本発明では、実績圧延操業データからワークロールプロフィルを予測し(熱膨張、摩耗、研削)、次いで実績圧延操業データと上記ワークロールプロフィルとを用いて、前記文献「板圧延」(コロナ社出版、1993)に記載の分割モデルを用いてワークロールとバックアップロール、又は中間ロールとの接触荷重分布を計算し、次いで上記接触荷重分布を用いて、同文献から2円柱間の接触時に生じるワークロール内最大応力(ヘルツ応力)を計算すればよい。ここで、上記分割モデルはロール胴長を微小領域に分割し、その中では荷重は一様として数値計算により、圧延材板厚分布、ワークロール変位、ワークロールとバックアップロール間の荷重分布などを算出するモデルである。
【0028】
図4に、熱間仕上圧延機列の最終スタンドF6におけるワークロール端部の最大応力の推移を示す。上記予め設定しておく応力を超えた時点で速やかにワークロールの交換を実施した。本発明を採用して以来、重大トラブルであるワークロール端部の割損は皆無となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延操業中にオンラインでワークロールを研削可能な装置を備え、かつ研削対象となるワークロールが軸方向にシフト可能な圧延機のワークロール組換え方法において、
圧延操業中のワークロールの摩耗量、上記ワークロール研削装置による研削量,およびワーク熱膨張の軸方向分布量を計算し、
ついで前記ロール軸方向分布を考慮して、圧延操業中のワークロールとバックアップロールとの接触時に生じるワークロール内最大応力を計算し、
前記ロール接触時に生じる最大応力が予め定めた応力を超えたときに、速やかにワークロールの組換えを実施することを特徴とするワークロール組換え方法。
【請求項2】
6段圧延機の場合、前記接触時に生じるワークロール内最大応力をワークロールと中間ロールとの最大応力とすることを特徴とする請求項1に記載のワークロール組換え方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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