説明

ワーク位置決め装置

【課題】 永久磁石のワークに及ぼす吸着力を調整することができ、その結果、当該吸着力を弱めることによってワークを吸着面に吸着させたまま吸着面上を摺動移動させて姿勢補正することもでき、且つ、当該吸着力を強めることによってワークを吸着面上に強固に拘束させて位置決めすることもできるワーク位置決め装置を提供すること。
【解決手段】 空気圧シリンダ14,15が稼動されて、作動リンク8が図1(a)右方へ向けて水平移動されると、カム溝9は図1(a)右方へ移動され、ローラフォロワ7が押動斜面9aにより作動リンク8の移動方向へ押される。ローラフォロワ7はローラ軸6を中心に回転されながら略鉛直下方へ押動されて下降させられる。これによって、磁石ユニット3がベースプレート2から遠離され、吸着面2aの吸着力が弱められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接時にワークを位置決めするためのワーク位置決め装置に関し、特に、永久磁石の磁力を用いて、ワークを吸着して位置決めでき且つその吸着状態も解除できるワーク位置決め装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車輌を構成する部品のうち、車輌のボディ部品には薄板状の金属板が多用されている。このようなボディ部品には、例えば、材料となる大判の金属板をプレス加工により所望の形状に切り出したものや、或いは、プレス加工により切り出された複数のワーク(被溶接材)を溶接したものが用いられる。
【0003】
ここで、複数のワークを溶接する場合、各ワークはそれぞれ縁端同士が突き合わせられ、その突合わせられた縁端同士がレーザ光により溶接される。この溶接に用いるレーザ光は極めて細い光線であるので、各ワークの縁端同士を確実に密着させて接合不良を防止する必要がある。
【0004】
このため、ワークの縁端同士を突き合わせる方法については各種の提案がなされており、例えば、本願出願人の提案による特開2003−290982号記載の被溶接物突合わせ方法や特開2002−144085号記載の溶接用肌合わせ治具による方法などが提案されている。ここで、前者の被溶接物突合わせ方法では、機械式バネや空気圧シリンダで作動するクランプ板によってワークを基準ベースに押圧して位置決めする方式を採用している。また、後者の溶接用肌合わせ治具による方法では、電磁石によりワークを吸着して位置決めする方式が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−144085号公報
【特許文献2】特開2003−290982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した機械式バネや空気圧シリンダによるワークの位置決め方式では、基準ベースや機械式バネやエアシリンダを支持するフレーム構造を、機械式バネや空気圧シリンダによる押圧力やその反力に耐え得る剛性強度に製作する必要があり、その分、装置全体としてフレーム構造が大型化してしまうという問題点があった。この点、上記した溶接用肌合わせ治具によれば、ワークの位置決めを電磁石及びワイヤによって行うため、機械式バネやエアシリンダを用いてワークを位置決めする場合のようにフレーム構造が大型化することはない。
【0007】
しかしながら、上記した溶接用肌合わせ治具は、第一及び第二電磁石の磁力によって第一及び第二形状調整部材にワーク(被溶接材)を吸着させたまま、そのワークをワイヤによって開先調節部材側に引き寄せるように構成されている。つまり、第一及び第二磁石の磁力は、ワークを形状調整部材上で摺動させる程度の弱めの磁力であって、ワークを板厚方向に拘束はするものの、ワークの板幅方向に拘束するだけの強力な磁力ではない。従って、上記した溶接用肌合わせ治具によれば、ワークの板幅方向の位置決めは、別途、ワークのキーナットに連結されるワイヤを引き寄せることで実現しなければならないという問題点がある。
【0008】
このため、溶接用肌合わせ治具では、ワーク同士の縁端を突合わせ溶接する前に、上記したワイヤを連結させるためのキーナットを、そのワークに設けることが必須条件となってしまう。よって、キーナットなどを溶接でワークに取り付けるための溶接熱によってワークの変形が生じる虞や、キーナットなどを溶接する分の作業時間の長期化を招来するという虞があるという問題点もある。
【0009】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、永久磁石のワークに及ぼす吸着力を調整することができ、当該吸着力を弱めることによってワークを吸着面に吸着させたまま吸着面上を摺動移動させて姿勢補正することもでき、且つ、当該吸着力を強めることによってワークを吸着面上に強固に拘束させて位置決めすることもできるワーク位置決め装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のワーク位置決め装置は、強磁性体で形成されるワークを位置決めさせるものであり、ワークを当接させる吸着面が設けられるベース部材と、そのベース部材の反吸着面側に対する接近方向および遠離方向へ往復移動可能に形成されると共に永久磁石で形成される磁石部材と、その磁石部材に回転可能に連結されるローラ部材と、そのローラ部材の外周面が当接され前記磁石部材の往復移動方向と傾斜して交わる傾斜面であって、前記ベース部材から遠離方向に移動する前記磁石部材の進行方向側に向けて設けられる押動斜面と、その押動斜面が設けられその押動斜面の傾斜方向及び前記磁石部材の移動方向とは異なる一の往復移動方向へ移動可能に形成される作動部材と、その作動部材の往復移動方向とは異なる方向へその作動部材が動くことを規制するようにその作動部材を支持する支持部材と、その支持部材により支持される前記作動部材を往復移動させるための駆動力を付与する駆動装置と、その駆動装置の動作を制御することで作動部材の位置制御し、前記磁石部材と前記ベース部材との間隔を調節して前記吸着面の吸着力を調節する制御装置とを備えている。
【0011】
この請求項1記載のワーク位置決め装置によれば、例えば、磁石部材がベース部材に最も接近する場合、強磁性体で形成されるワークは、永久磁石の磁力によってベース部材の吸着面に吸着され、ベース部材に強固に拘束されて位置決めされる。
【0012】
磁石部材をベース部材から遠離させるには、制御装置による動作制御がなされた駆動装置によって、作動部材が一方へ移動されることで、ローラ部材が押動斜面上で回転される。すると、この回転と共にローラ部材が磁石部材を伴って、ベース部材に対する遠離方向へと移動される。
【0013】
このとき、ローラ部材は、押動斜面の傾斜方向両側のいずれか一方から他方へ向けて相対的に移動され、この移動によって磁石部材とベース部材との距離が拡大される。すると、磁石部材の永久磁石によってベース部材の吸着面に作用する磁力が弱められ、強磁性体であるワークをベース部材の吸着面に吸着させる吸着力が低下される。
【0014】
つまり、磁石部材をベース部材から遠ざけると、永久磁石の磁力が及ぼす吸着面の吸着力は徐々に弱められ、磁石部材がベース部材から充分に遠離されると、ベース部材の吸着面でのワークの位置決めは解除されるのである。
【0015】
これに対し、磁石部材をベース部材へ接近させるには、制御装置による動作制御がなされた駆動装置によって、作動部材が移動され、ローラ部材が押動斜面に当接されて回転されながら押動斜面の傾斜方向両側のいずれか他方から一方へ向けて相対的に移動される。すると、この移動によって、磁石部材とベース部材との距離が徐々に縮められる。
【0016】
そのうえ、磁石部材がベース部材へ接近する場合、ローラ部材は、押動斜面と当接することによって、磁石部材ともども永久磁石の磁力により一気にベース部材側に引き寄せられることが防止される。この結果、永久磁石の磁力がワークに及び始めてから磁石部材がベース部材に最も接近するまでの間、ベース部材の吸着面における吸着力は徐々に強められることとなる。
【0017】
このようにして、磁石部材をベース部材に対して接近または遠離させるように移動させることで、磁石部材とベース部材との間隔を変更でき、この間隔の変更に応じて永久磁石が吸着面に及ぼす吸着力を変更することができる。
【0018】
したがって、制御装置による駆動装置の動作制御を介して、作動部材の位置制御をなせば、磁石部材とベース部材との間隔を調節して吸着面の吸着力を微調節できる。この結果、例えば、ベース部材の吸着面にワークが吸着されたままでも、そのワークの姿勢を補正させることができるようになる。
【0019】
さらに、作動部材の押動斜面においては、磁石部材の移動方向に対して傾斜して交わることから、永久磁石の磁力がローラ部材を介して押動斜面に及ぼす力が、作動部材の往復移動方向に作用する分力成分と、その往復移動方向を除く方向に作用する分力成分とに分解される。
【0020】
ここで、作動部材の往復移動方向を除く方向に作用する分力成分については、支持部材によって全て支持されるので、駆動装置にあっては、作動部材の往復移動方向に作用する分力成分のみを負担すれば足りることとなる。
【0021】
このため、駆動装置は、作動部材の往復移動方向に作用する分力成分を越える駆動力を付与しさえすれば、作動部材を移動させることができ、永久磁石の磁力に抗して磁石部材をベース部材から遠ざけることができる。つまり、駆動装置は、永久磁石の磁力よりも低出力で作動部材を可動させることができるのである。
【0022】
請求項2記載のワーク位置決め装置は、請求項1記載のワーク位置決め装置において、前記磁石部材には永久磁石が複数設けられており、その複数の永久磁石は、前記磁石部材の縦方向に正磁極と負磁極とが交互に並設され、且つ、前記永久磁石の横方向にも正磁極と負磁極とが交互に並設されている。
【0023】
請求項3記載のワーク位置決め装置は、請求項1又は2に記載のワーク位置決め装置において、前記磁石部材は、前記ベース部材から遠離する場合に略鉛直下方へ移動可能で、且つ、前記ベース部材へ接近する場合に略鉛直上方へ移動可能に形成されており、前記作動部材は、前記磁石部材の往復移動方向に対して直交する略水平方向へ移動可能に形成されている。
【0024】
なお、上記した請求項1のワーク位置決め装置の変形例として、以下のものがある。
【0025】
第1変形例のワーク位置決め装置は、請求項1記載のワーク位置決め装置において、前記押動斜面は、前記磁石部材が前記ベース部材と最も接近する始端部から前記ベース部材と最も遠離する終端部まで連なると共に、その押動斜面における前記始端部と前記終端部との中間位置で傾斜角度が変更されており、その押動斜面の前記始端部から前記中間位置までの傾斜角度が、その押動斜面の前記中間位置から前記終端部までの傾斜角度より小さく形成されている。
【0026】
この第1変形例のワーク位置決め装置によれば、請求項1記載のワーク位置決め装置と同様に作用する上、ベース部材に最接近した磁石部材をベース部材から遠ざける場合、作動部材が駆動装置によって移動されると、ローラ部材は、押動斜面により押動されて回転され、この回転によって押動斜面の始端部から中間位置へと相対的に移動される。この移動に伴って磁石部材はベース部材から反接近方向へ移動される。
【0027】
そして、ローラ部材が押動斜面の中間位置に達した後、更に作動部材が駆動装置によって押動されると、ローラ部材は、それまでより傾斜角度が大きな押動斜面によって押動されて回転され、この回転によって押動斜面の中間位置から終端部へと相対的に移動される。この結果、磁石部材はベース部材から最も遠離した位置まで移動される。
【0028】
なお、この第1変形例のワーク突合わせ装置には、上記した請求項2又は請求項3記載の構成要素のうちいずれか一方のみを付加しても良く、更に、請求項2及び請求項3記載の構成要素の双方を付加しても良い。
【発明の効果】
【0029】
本発明のワーク位置決め装置によれば、制御装置により駆動装置の動作を制御することを通じて作動部材の位置制御することで、磁石部材とベース部材との間隔を調整して、永久磁石が吸着面又はワークに及ぼす吸着力を調整できるので、当該吸着力を弱めた状態にすることによってワークを吸着面に吸着させたまま吸着面上を摺動させて姿勢補正することもでき、なおかつ、当該吸着力を強めることによってワークを吸着面上に強固に拘束させて位置決めすることもできるという効果がある。すなわち、永久磁石の磁力による吸着力を強弱させることのみで、ワークの厚さ方向にも、また、ワークの吸着面上での摺動方向にも、そのワークを確実に拘束することができるという効果がある。
【0030】
また、永久磁石の磁力により磁石部材とワークとの間に磁気引力が作用する状態において、その磁石部材をベース部材から遠離方向へ移動させる場合、駆動装置は、永久磁石の磁力よりも小さな駆動力を作動部材へ付与することで、磁石部材をベース部材から遠ざけることができる。よって、駆動装置には磁石部材の永久磁石の磁力に相当する駆動力は不要なので、その分、駆動装置を小型化できワーク位置決め装置全体としての装置サイズをコンパクト化できるという効果がある。
【0031】
更に、押動斜面により磁石部材を押動させる場合に、押動斜面は回転可能なローラ部材と接するので、押動斜面によりローラ部材を移動させる場合に押動斜面とローラ部材との摩擦抵抗を低減でき、磁石部材の移動を円滑に行わせることができるという効果がある。
【0032】
請求項2記載のワーク位置決め装置によれば、特に、複数の永久磁石は、磁石部材の縦方向に正磁極と負磁極とが交互に並設され、且つ、永久磁石の横方向にも正磁極と負磁極とが交互に並設されている。このため、これら永久磁石の磁力線は正磁極からそれに隣り合う負磁極へと向かうため、永久磁石の磁力が遠方に作用しにくく、永久磁石の近傍の磁力線の密度が高められるという特性が得られる。このため、複数の永久磁石が及ぼす磁力は、磁石部材がベース部材に最接近される場合にワークをベース部材の吸着面に強力に吸着させることができるという効果がある。
【0033】
また、永久磁石の近傍の磁力密度が向上されるので、ワークがベース部材の吸着面に強固に固定される場合に、そのワークの吸着面に対する摺動方向(スラスト方向)へ保持力を増加させることができる。このため、特に、請求項4記載のワーク位置決め装置によれば、磁石部材によってワークをベース部材の吸着面に位置決め固定して、その固定されたワークの縁端同士を突き合わせて溶接する場合に、ワークをベース部材の対向側から挟み込むためのクランプ用部材がなくとも、ワーク同士の位置ずれを防止できるという効果がある。
【0034】
しかも、永久磁石の磁力作用範囲が永久磁石の極近傍に限定されるので、ベース部材の吸着面の磁力を完全に消滅させる場合に磁石部材をベース部材から遠離方向へ移動させる距離を短くできる。従って、永久磁石を使用しているにも関わらず、電磁石を使用する場合のようにベース部材の吸着面の吸着力を短時間でオン又はオフさせることができるという効果がある。
【0035】
請求項3記載のワーク位置決め装置によれば、特に、磁石部材をベース部材から遠離させる場合に、磁石部材は、押動斜面によってローラ部材が押動されることで略鉛直下方へ向けて移動される。よって、ベース部材から磁石部材を遠ざけて吸着面の吸着力を消滅させる場合には、磁石部材に作用する重力の分、磁石部材を略鉛直下方へ移動させるのに必要な磁石部材の移動力を小さくできる。従って、駆動装置の駆動力を更に低下させることができ、その分、駆動装置を小型化できるという効果がある。
【0036】
なお、上記した第1変形例のワーク位置決め装置については、以下の効果がある。
【0037】
第1変形例のワーク位置決め装置によれば、特に、押動斜面の始端部から中間位置までの区間は、押動斜面の中間位置から終端部までの区間に比べて傾斜角度が小さいので、ローラ部材を押動するため作動部材を移動させるときに必要な駆動装置の駆動力を小さくすることができる。よって、駆動装置に必要な駆動力を、ベース部材に最接近した磁石部材をベース部材から引き離す場合において低減させることができるという効果がある。
【0038】
ここで、永久磁石による磁気引力がワークと永久磁石との間に作用する場合に、押動斜面の傾斜角度が小さい程、押動斜面がローラ部材から受ける作動部材の移動方向における分力成分は小さくなる。よって、この作動部材の移動方向に作用する分力成分が小さくなれば、作動部材を移動させる駆動装置の駆動力も低出力化できるので、磁石部材をベース部材から容易に引き離すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施例であるワーク位置決め装置の内部構造の縦断面図であり、(a)は磁石ユニットがベースプレートに最接近した状態を、(b)は磁石ユニットがベースプレートから最も遠離した状態を、それぞれ示した図である。
【図2】図1に示すカム溝を拡大視したワーク位置決め装置の縦断面図である。
【図3】(a)は、図1のIIIA−IIIA線における縦断面図であり、(b)は、図1のIIIB−IIIB線における縦断面図である。
【図4】図3に示すワーク位置決め装置の左側面図である。
【図5】磁石ユニットの内部に配設される複数の永久磁石の配列状態を示す概略斜視図である。
【図6】本発明の第2実施例であるワーク位置決め装置の内部構造を示す縦断面図である。
【図7】第2実施例のカム溝を拡大視した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。ワーク位置決め装置は、鋼板等の薄板状の強磁性体で形成された溶接対象物(以下、「ワーク」と称す)を所定の溶接位置に位置決めして固定するためのものであり、主として、ワークをレーザ光で溶接するレーザ溶接機に使用される。
【実施例1】
【0041】
図1は、本発明の第1実施例であるワーク位置決め装置1の内部構造の縦断面図であり、図1(a)は磁石ユニット3がベースプレート2に最接近した状態を、図1(b)は磁石ユニット3がベースプレート2から最も遠離した状態を、それぞれ図示している。なお、図1(a)は図3(a)のIA−IA線における縦断面図に、図1(b)は図3(b)のIB−IB線における縦断面図に、それぞれ相当するものである。
【0042】
図1に示すように、ワーク位置決め装置1は、ステンレス鋼材製で略平板状のベースプレート2を備えており、このベースプレート2の上面にはワークが載置可能な略平面状の吸着面2aが形成されている。この吸着面2aは、単なるステンレス鋼材製の面であるが、磁石ユニット3が有する永久磁石30(図5参照)の磁力によって磁化され、強磁性体であるワークを吸着させることができる。なお、このベースプレート2の板厚は、磁石ユニット3の上面に生じる磁力の作用範囲より小さくされている。
【0043】
ベースプレート2の吸着面2aは、セラミックス系超鋼金属をプラズマ溶射することで形成される薄膜により被覆されており、かかる被覆により表面硬度が高められている。この吸着面2aの表面硬化よって、ワークと接触する吸着面2aの耐摩耗性は向上される。また、熱処理や窒化処理による表面硬化法ではベースプレート2自体が常時的な磁石となってしまうが、セラミックス系超鋼金属を溶射することによって吸着面2aを硬化すれば、ベースプレート2の常時的な磁石化を防止できる。よって、ベースプレート2に永久磁石30の磁力が及ばない場合に、ワークを吸着面2a上で円滑に摺動させることができる。更に、溶射法としてプラズマ溶射が用いられるので、溶射によるベースプレート2の歪みを抑制して、吸着面2aの表面硬度のみを向上させることができる。
【0044】
この磁石ユニット3は、例えば、略1,000kgfにも相当する吸着力を発生可能なものであり、ベースプレート2の吸着面2aの反対面、即ちベースプレート2の下面と間隔を隔てて対向配置されている。この磁石ユニット3の上面には、複数の永久磁石30(図5参照)が配列されており、これらの永久磁石30の磁力によってベースプレート2の吸着面2aに吸着力が付与される。また、ベースプレート2の外周縁部には、このベースプレート2を支持する上面視略額縁状の支持枠2bが設けられており、この支持枠2bの枠内には磁石ユニット3が遊挿可能とされている。なお、磁石ユニット3の永久磁石30の配列状態の詳細については後述する。
【0045】
磁石ユニット3はベースプレート2の吸着面2aの反対面におけるほぼ全域と対向するように形成されている。また、磁石ユニット3がベースプレート2に最接近した状態では(図2参照)、ベースプレート2と磁石ユニット3との間の隙間がベースプレート2の板厚より小さくされている。本実施例では、例えば、ベースプレート2の板厚が略4mmであるのに対して、ベースプレート2と磁石ユニット3との間の隙間が略3mmとされている。また、磁石ユニット3の下部にはブラケット4,5が固着されており、このブラケット4,5は略水平方向に間隔を隔てて設けられている。
【0046】
ブラケット4,5は、磁石ユニット3の下部からワーク位置決め装置1の略鉛直方向(図1上下方向)長さの略中間辺りまで延設される板材であって、その形状が側面視略三角形状に形成されている。また、ブラケット4,5は、ローラ軸6を磁石ユニット3に支持するための部材であり、その下端部にローラ軸6がそれぞれ回転可能に軸承されている。このローラ軸6,6の外周にはローラフォロワ7がそれぞれ嵌着されており、ローラフォロワ7,7はブラケット4,5及びローラ軸6,6を介して磁石ユニット3に回転可能に軸支されている。
【0047】
ローラフォロワ7,7は、磁石ユニット3を略鉛直方向へ往復移動させる駆動機構の一部であり、作動リンク8の略水平方向(図1左右方向)両側に設けられるカム溝9,9の内周にそれぞれ緩嵌されている。作動リンク8は、ローラフォロワ7,7と共に磁石ユニット3を略鉛直方向へ往復移動させる駆動機構の一部であり、磁石ユニット3の下方であってブラケット4の配設側(図1右側)からブラケット5の配設側(図1左側)にかけて配設されている。
【0048】
また、ローラ軸6及びローラフォロワ7は、作動リンク8が略水平方向へ往復移動される場合に、磁石ユニット3と共に略鉛直方向に往復移動するように構成されている。これは、磁石ユニット3の往復移動方向と永久磁石30の磁力が作用する方向とを一致させて、磁石ユニット3を略鉛直方向へ往復移動させることによって、ベースプレート2の吸着面2aに作用する吸着力を強弱させるためである。
【0049】
図2は、図1に示すカム溝9を拡大視したワーク位置決め装置1の縦断面図であり、図中の矢印Yは、磁石ユニット3がベースプレート2から遠離する際の移動方向を示している。図2に示すように、カム溝9は、磁石ユニット3の往復移動方向(図2上下方向)に対して傾斜して交わる長溝状に形成されている。このカム溝9の溝幅はローラフォロワ7の外径より僅かに大きく形成されており、このためローラフォロワ7はカム溝9の内周部にて回転可能とされる。
【0050】
磁石ユニット3が図2に示すようにベースプレート2に最接近する場合、ローラフォロワ7はカム溝9の延設方向一端側(図2右上側)に配置され、カム溝9は、そのローラフォロワ7の存在位置から空気圧シリンダ14,15の反配設側(図2左側)下方へ傾斜角θ(例えば略15°)で下降傾斜するように延設されている。カム溝9の内周には互いに対向する傾斜面である押動斜面9aと補助斜面9bとが形成されており、この押動斜面9aと補助斜面9bとの対向面間にローラフォロワ7が存在する。
【0051】
押動斜面9a及び補助斜面9bはいずれも磁石ユニット3の往復移動方向である略鉛直方向(図2上下方向)と傾斜して交わる傾斜面である。この押動斜面9aは、磁石ユニット3がベースプレート2から遠離する際の移動方向(図2中の矢印Y方向)に向けられ、且つ、補助斜面9bは押動斜面9aと略平行に対向して設けられる。
【0052】
図1に戻って説明する。作動リンク8の下部であってカム溝9,9の間部分には、側面視略台形状の凹部が設けられてている。この作動リンク8の凹部には略水平方向に間隔を隔てて一対のガイドブロック10,10が取着されている。この一対のガイドブロック10,10は、略水平方向に延在するガイドレール11に係合されている。また、一対のガイドブロック10,10は、ガイドレール11に係合したまま略水平方向へ往復スライド移動可能にも形成されている。更に、ガイドレール11は略平板状の支持基盤12の上面に固定的に配設されている。
【0053】
このように構成することによって、作動リンク8は、ガイドレール11上を略水平方向へ往復移動可能な状態で、支持基盤12上に支持されている。しかも、ガイドブロック10,10がガイドレール11に係合されることによって、作動リンク8が永久磁石30の磁気引力により支持基盤12から略鉛直方向に引き上げられたり、或いは、磁石ユニット3などの重量で押し下げられたりすることを防止している。すなわち、作動リンク8は、自らの往復移動方向である略水平方向(図1左右方向)とは異なる別方向へ動くことが規制されている。
【0054】
支持基盤12は、ワーク位置決め装置1を床面上で支える略平板状の台座である。この支持基盤12の略水平方向両端部にはいずれも略平板状の支持壁板13,13が立設されている。また、支持壁板13,13の上端部には上記したベースプレート2の支持枠2bが横架され且つ固定されている。これらのベースプレート2、支持基盤12、及び支持壁板13,13によって、ワーク位置決め装置1の枠組みは形成され、この枠組みの内部に磁石ユニット3、作動リンク8、及び、空気圧シリンダ14,15が配設されている。
【0055】
空気圧シリンダ14,15はいずれも作動リンク8を略水平方向へ往復移動させる駆動力を付与する駆動装置である。この空気圧シリンダ14,15は、作動リンク8のブラケット4の配設側(図1右側)に並設され、互いのシリンダ本体同士が一体に連結されている。空気圧シリンダ14,15は、互いのシリンダロッド14a,15aが逆方向へ向けられており、シリンダロッド14aの先端が作動リンク8のブラケット4配設側の端部に、また、シリンダロッド15aの先端が固定ブラケット16に連結されている。
【0056】
また、空気圧シリンダ14,15のシリンダ本体は、作動リンク8の往復移動方向へ摺動可能に支持基盤12上に載置され、シリンダロッド15aが連結される固定ブラケット16は支持基盤12上に固定されている。このため、空気圧シリンダ14,15が駆動されてシリンダロッド14a,15aが各シリンダ本体から進出又は没入されると、固定ブラケット16を固定された起点としてシリンダロッド14aの先端部の位置が略水平方向へ往復移動させられる。
【0057】
このようにシリンダロッド14aの先端部が支持基盤12上を往復移動することによって、作動リンク8は、支持基盤12上を略水平方向へ往復移動させられる。また、空気圧シリンダ14,15のシリンダロッド14a,15aの推進力は相互に略等しいので、空気圧シリンダ14,15を相互に連結した場合、作動リンク8を往復移動させる駆動力は、単体の空気圧シリンダを使用する場合に比べて拡大される。
【0058】
図3(a)は、図1のIIIA−IIIA線における縦断面図であり、図3(b)は、図1のIIIB−IIIB線における縦断面図である。なお、ワーク位置決め装置1の内部構造は、ブラケット4とブラケット5とが相違する点などを除いて、図1(a)のIIIA−IIIA線におけるものと同図IIIA’−IIIA’線におけるものとは略同一であり、図1(b)のIIIB−IIIB線におけるものと同図IIIB’−IIIB’線におけるものとは略同一である。
【0059】
図3に示すように、支持基盤12の略水平方向両端からはいずれも略平板状の支持壁板17,17が立設されている。支持壁板17,17の上端部には上記したベースプレート2の支持枠2bが横架され且つ固定されている。支持壁板17,17の対向面間には上記した磁石ユニット3が配設されている。この磁石ユニット3の底部からは略水平方向に間隔を隔てた一対のブラケット4,4が下方へ延設されている。このブラケット4,4の下端部には、各ブラケット4の厚み方向に貫通した通孔が形成され、その内周にブッシュ
18,18が嵌合されている。ブッシュ18,18は、ローラ軸6の軸方向略中央の部分を回転可能に軸承する軸受けである。
【0060】
ローラ軸6は、そのローラ軸6の軸方向が略水平方向(図3左右方向)へ向けられており、ブッシュ18,18の内周に回転可能に内嵌されている。また、ブッシュ18,18の間部分にあたるローラ軸6の外周には上記したローラフォロワ7が嵌着されている。このため、ローラフォロワ7はブラケット4,4の対向面間に介装され、それと共にローラフォロワ7を自己のカム溝9に嵌合させる作動リンク8もまたブラケット4,4の対向面間に介装されている。ローラフォロワ7を支持するローラ軸6は、その軸方向にブラケット4,4を貫通し、更に、その軸方向両端部が支持壁板17,17にまで達している。
【0061】
ローラ軸6の軸方向両端部であってブラケット4,4より外方の外周部には、ローラフォロワ7と同種のローラフォロワ19,19がそれぞれ嵌着されている。ローラフォロワ19,19は、磁石ユニット3の移動を案内すると共にその移動方向を略鉛直方向にのみ規制するものである。具体的には、磁石ユニット3が作動リンク8と共に図1の左右方向へ移動すること防止するものである。そのため、ローラフォロワ19,19は支持壁板17,17に設けられるガイド部材20,20と係合されている。
【0062】
ガイド部材20,20は略平板状に形成されており、互いに対向するようにして支持壁板17,17に取着されている。ガイド部材20,20には、ローラ軸6の軸方向と同一方向に貫通すると共に略鉛直方向に連続する長溝であるガイド溝21がそれぞれ設けられている。このガイド溝21,21はガイド部材20,20にローラフォロワ19,19を係合させるための溝であり、ローラフォロワ19,19はガイド溝21,21の内周部を回転しながら磁石ユニット3の移動に伴って昇降移動させられる。
【0063】
図4は、図3に示すワーク位置決め装置1の左側面図である。なお、図4に示すワーク位置決め装置1の右側面図は図4の線図と対称形であり、その図示及び説明を省略する。
【0064】
図4に示すように、支持壁板17には、ローラ軸6,6の配設位置に対応する箇所に開口部17a,17aが開口形成されている。この開口部17a,17aは、その縁辺の輪郭形状が側面視略U字形に形成されており、ローラフォロワ19,19の移動方向である略鉛直方向(図4上下方向)に延びる長溝状とされている。また、ワーク位置決め装置1を左側面視した場合、上記したガイド溝21の縁辺の輪郭形状は、支持壁板17の開口部17aの縁辺の輪郭形状に合致するものとされている。
【0065】
ガイド溝21の内周面は、その頂部に設けられる略半円弧状の曲面と、その曲面の両端から略鉛直下方に延びる一対の垂直面とから形成されている。ガイド溝21の溝幅、即ち一対の垂直面間の距離はローラフォロワ19の外径より僅かに大きく形成されている。このためローラフォロワ19はガイド溝21の内周部にて回転可能に緩嵌される。
【0066】
このローラフォロワ19によれば、作動リンク8が略水平方向(図1、図2及び図4の左右方向)へ移動されると、そのローラフォロワ19がガイド溝21の垂直面と当接されて、磁石ユニット3の略水平方向(図1、図2及び図4の左右方向)への移動が規制される。しかも、ローラフォロワ19は、磁石ユニット3の略鉛直方向への昇降に伴ってガイド溝21の垂直面に当接しながら回転されるので、併せて、磁石ユニット3の略鉛直方向(図1、図2及び図4の上下方向)の往復移動も案内される。
【0067】
図5は、磁石ユニット3の内部に配設される複数の永久磁石30の配列状態を示す概略斜視図である。なお、図5では、永久磁石30の上面(ベースプレート2との対向面)に発生する磁極を「N」又は「S」で示しており、図中の「N」はN極(正磁極)を、「S」はS極(負磁極)を、それぞれ意味している。
【0068】
図5に示すように、複数の永久磁石30は、それぞれの上面が相互に面一となるように隣り合わせに配列されている。このように配列された複数の永久磁石30は、その上面がベースプレート2の下面に対向するように磁石ユニット3の内側上部に配設される(図3参照)。永久磁石30は、例えば、希土類磁石であるネオジム磁石で形成されている。また、複数の永久磁石30は、縦方向及び横方向に隣り合うもの同士が磁極が異なるものとされ、N極とS極とが交互に並設されている。
【0069】
このため、磁石ユニット3の上面にはN極の各永久磁石30から、それに隣り合うS極の各永久磁石30へ向かう磁界(磁力線)が生じている。この結果、これら複数の永久磁石30の上面近傍に作用する磁力線の密度は高くなり、磁石ユニット3の上面近傍での磁界の強度は高められる。すると、磁石ユニット3がベースプレート2に最接近した状態でベースプレート2の吸着面2aに作用する吸着力は、上記した永久磁石30の配列を採用した場合と不採用の場合とでは、それを採用した場合の方が大幅に増強される。
【0070】
よって、吸着面2aに載置されるワークが薄肉厚であっても、強い磁界を作用させることができ、かかるワークを強力に吸着面2aに吸着させることができるのである。しかも、磁石ユニット3の上面近傍に磁界を集中させるので、磁石ユニット3をベースプレート2から僅かに遠ざけるだけで、ベースプレート2の吸着面2aの吸着力を消滅させることもできる。例えば、本実施例の磁石ユニット3によれば、その磁石ユニット3をペースプレート2から略40mm以上離すと、ベースプレート2の吸着面2aの吸着力は完全に消滅させられる。
【0071】
次に、上記のように構成されたワーク位置決め装置1の動作について説明する。このワーク位置決め装置1によれば、まず、図1(a)に示す状態から、空気圧シリンダ14,15が稼動されて、シリンダロッド14a,15aがシリンダ本体の内方へ没入される。すると、空気圧シリンダ14,15のシリンダ本体が支持基盤12の上を図1(a)の右方へ摺動されて、空気圧シリンダ14のシリンダロッド14aも図1(a)の右方へ水平移動される。
【0072】
これによって、作動リンク8は、ガイドレール11上を摺動して空気圧シリンダ14,15の配設側(図1(a)右方)へ向けて水平移動され始める。この作動リンク8の移動に伴ってカム溝9は図1(a)右方へ移動され、このカム溝9の移動に伴ってローラフォロワ7が押動斜面9aと当接され、作動リンク8の移動方向(図1(a)右方)へ押される。すると、ローラフォロワ7は押動斜面9aとの摩擦抵抗によって押動斜面9aに当接されながら押動斜面9aの傾斜方向へ向けてローラ軸6を中心に回転される。
【0073】
このとき、ローラフォロワ7は押動斜面9aの押動により作動リンク8の移動方向へも移動しようとするが、かかる移動は、ローラフォロワ19がガイド溝21の右側垂直面(図4右側)に当接することによって規制される。この結果、作動リンク8の動きに追従した磁石ユニット3の水平移動が防止される。従って、ローラフォロワ7は押動斜面9aに当接して回転されながら、また、ローラフォロワ19はガイド溝21の右側垂直面に当接して回転されながら、それぞれ略鉛直下方へ押動され下降させられる。
【0074】
ローラフォロワ7が略鉛直下方へ下降されると、これに伴って磁石ユニット3がベースプレート2から略鉛直下方へ向けて遠離される。そして、この磁石ユニット3の移動が続行されて、磁石ユニット3がベースプレート2に最接近する最上点から所定ストローク(以下「磁力限界距離」という。)離れた位置まで下降されると、図1(b)に示すように、ローラフォロワ7はカム溝9の下端部(図1(b)左下側)に到達する。なお、本実施例では磁力限界距離が略40mmとされている。
【0075】
ローラフォロワ7がカム溝9の下端部に到達すると、磁石ユニット3とベースプレート2との間から磁気引力は消滅され、吸着面2aに作用する吸着力も吸着面2aから完全に消滅させられる。また、磁石ユニット3が最上点から略鉛直下方へ磁力限界距離だけ移動して、ローラフォロワ7がカム溝9の下端部(最下点)に達すると、空気圧シリンダ14,15による作動リンク8の図1右方への移動も停止される。この停止をもって、磁石ユニット3をベースプレート2から最も遠離した最下点へ退避させる動作が完了する。
【0076】
なお、磁石ユニット3をベースプレート2へ向けて接近させる磁石ユニット3の上昇動作は、上記した動作と逆の動作を行うことによって実現される。
【0077】
以上説明したように、本実施例のワーク位置決め装置1によれば、押動斜面9aは作動リンク8の移動方向に対して傾斜角θで傾斜している。このため、永久磁石30の磁気引力によってローラフォロワ7が略鉛直上方へ付勢される場合、その付勢力に対抗して押動斜面9aがローラフォロワ7を押し返す反力(F)は、押動斜面9aの傾斜角θに応じて、作動リンク8の往復移動方向(略水平方向)に作用する分力成分(F・sinθ)と、その作動リンク8の往復移動方向を除く方向(作動リンク8を略鉛直上方へ)に作用する分力成分(F・cosθ)とに分解される。
【0078】
このとき、作動リンク8の往復移動方向を除く方向に作用する分力成分(F・cosθ)は、ガイドブロック10,10及びガイドレール11を介して支持基盤12によって全て支持されるので、空気圧シリンダ14,15は、作動リンク8の往復移動方向に作用する分力成分(F・sinθ)のみを負担すれば足りる。従って、空気圧シリンダ14,15は、永久磁石30の磁気引力より小さな駆動力、即ち、作動リンク8の往復移動方向に作用する分力成分(F・sinθ)を越えるだけの駆動力を付与すれば、作動リンク8を図1(a)の位置から図1(b)の位置へ向けて移動させることができる。
【0079】
例えば、本実施例では傾斜角θが略15°であるので、作動リンク8の駆動力は、ローラフォロワ7に略鉛直上方へ向けて作用する負荷の略25%程度にまで低減される。このため、空気圧シリンダ14,15の個々に関しては、その半分の略12.5%程度にまで低減される。よって、磁石ユニット3の強力な磁力に合わせて、空気圧シリンダ14,15を大型化する必要もなく、小型の空気圧シリンダ14,15を用いて装置1全体を構成することができるのである。
【0080】
また、磁石ユニット3を最上点から最下点までの範囲で移動させることで、磁石ユニット3とベースプレート2との間隔を変更でき、この間隔の変更に応じて永久磁石30が吸着面2aに及ぼす吸着力を変更することができる。つまり、図示しない制御装置によって空気圧シリンダ14,15の動作を制御することで作動リンク8の位置制御をすれば、磁石ユニット3とベースプレート2との間隔を調節して吸着面2aの吸着力を微調節することもできる。
【0081】
例えば、吸着面2aに作用する吸着力を弱めることができれば、吸着面2aにワークを吸着させたまま、そのワークの端部を押して吸着面2a上で摺動させることもできる。そうすれば、ワークの縁端同士を突き合わせて溶接する場合に、吸着面2a上にワークを吸着させたまま摺動させて姿勢補正をすることもできることとなる。
【0082】
次に、図6を参照して、上記実施形態の変形例について説明する。
【実施例2】
【0083】
図6は、本発明の第2実施例のワーク位置決め装置100の内部構造を示す縦断面図である。図7は、カム溝101を拡大視した側面図であり、図中の矢印Yは、磁石ユニット3がベースプレート2から遠離する際の移動方向を示している。第2実施例のワーク位置決め装置100は、上記した第1実施例に対して、作動リンクに設けられるカム溝の形状を変更したものである。以下、第1実施例と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略し、異なる部分のみを説明する。
【0084】
図6に示すように、ワーク位置決め装置100のカム溝101は、第1実施例の場合と同様に作動リンク8の2箇所に設けられている。また、図7に示すように、カム溝101は、磁石ユニット3が最上点にある場合にローラフォロワ7が位置する始端部101aから、磁石ユニット3が最下点に有る場合にローラフォロワ7が位置する終端部101bまで連続した長溝である。カム溝101は、始端部101aと終端部101bとの中間位置で鈍角状に折曲されており、側面視略へ字形に形成されている。
【0085】
このため、カム溝101は、その始端部101aから折曲部101cまでの区間102と、折曲部101cから終端部101bまでの区間103とに区分されている。区間102,103はいずれも、磁石ユニット3の往復移動方向(図7上下方向)に対して傾斜して交わっており、その溝幅もローラフォロワ7の外径より僅かに大きく形成されている。また、区間102は、始端部101aから折曲部101cへ傾斜角θ1で下降傾斜され、区間103は、折曲部101cから終端部101bへ傾斜角θ2で下降傾斜されている。
【0086】
カム溝101の区間102の内周には互いに対向する傾斜面である押動斜面102aと補助斜面102bとが形成されており、区間103の内周には互いに対抗する傾斜面である押動斜面103aと補助斜面103bとが形成されている。押動斜面102a,103a及び補助斜面102b,103bはいずれも磁石ユニット3の往復移動方向である略鉛直方向と傾斜して交わる傾斜面であり、押動斜面102a,103aは磁石ユニット3がベースプレート2から遠離する際の移動方向(図7中の矢印Y方向)に向けられ、且つ、補助斜面102b,103bは押動斜面102a,103aと略平行に対向して設けられる。
【0087】
ここで、区間102の傾斜角θ1は区間103の傾斜角θ2より小さくされている。例えば、第1実施例と同様で磁力限界距離を略40mmに、且つ、作動リンク8の略水平移動距離を略150mmにした場合、傾斜角θ1が略10°であれば傾斜角θ2は略20°に、傾斜角θ1が略5°であれば傾斜角θ2は略24°に、それぞれ設定されることとなる。ローラフォロワ7が区間102にある場合には磁石ユニット3とベースプレート2とが極接近しているので磁気引力も強い。そこで、かかる強力な磁気引力に対抗して作動リンク8をより低負荷で移動させるため、区間102の傾斜角θ1を極力小さくして、空気圧シリンダ14,15の負担を低減させるのである。
【0088】
これに対して、区間103の傾斜角θ2を傾斜角θ1より大きくしているのは、ローラフォロワ7が区間103にある場合には磁石ユニット3とベースプレート2と間隔も区間102にローラフォロワ7にある場合に比べれば拡大しているので磁気引力も弱まっている。よって、弱めの磁気引力であれば区間103の傾斜角θ2を傾斜角θ1より大きくしても、空気圧シリンダ14,15は、作動リンク8を低負荷で移動させることができるからである。
【0089】
以上、実施例に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0090】
例えば、本実施例では、カム溝9,101の傾斜角θ,θ1,θ2の具体的数値を示したが、これらの数値はあくまでも一例に過ぎず、空気圧シリンダの出力に応じて適宜変更しても良い。また、本実施例では、永久磁石30の一例としてネオジム磁石を示したが、かかる永久磁石30の種類はこれに限定されるものではなく、ワークを吸着面2aに吸着させる場合に必要な吸着力を充足するものであれば、例えば、フェライト磁石や、アルニコ磁石、サマコバ磁石、又はその他の永久磁石であっても良い。
【0091】
また、本実施例のワーク位置決め装置1,100には、ベースプレート2の対向面側に配設され、且つ、吸着面2aと共にワークを挟み込み可能に形成される鉄板などの強磁性体製のクランプ用部材を設けても良い。このようにすれば、ベースプレート2に載置されたワークの上にクランプ用部材を重ね置くことで、磁石ユニット3がワークに及ぼす吸着力が更に向上されるので、ワークを吸着面2a上により強固に固定できる。なお、上記した実施例中に示した各種の具体的数値に対応するクランプ用部材の板厚は略9mmが好適である。
【符号の説明】
【0092】
1,100 ワーク位置決め装置
2 ベースプレート(ベース部材)
2a 吸着面
3 磁石ユニット(磁石部材の一部)
4,5 ブラケット(磁石部材の一部)
6 ローラ軸(磁石部材の一部)
7 ローラフォロワ(ローラ部材)
8 作動リンク(作動部材)
9,101 カム溝
9a 押動斜面
9b,102b,103b 補助斜面
10 ガイドブロック(支持部材の一部)
11 ガイドレール(支持部材の一部)
12 支持基盤(支持部材の一部)
14,15 空気圧シリンダ(駆動装置)
18 ブッシュ(磁石部材の一部)
30 永久磁石
101a 始端部
101b 終端部
101c 折曲部(始端部と終端部の中間位置)
102a,103a 押動斜面
θ,θ1,θ2 傾斜角(傾斜角度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性体で形成されるワークを位置決めさせるワーク位置決め装置において、
ワークを当接させる吸着面が設けられるベース部材と、
そのベース部材の反吸着面側に対する接近方向および遠離方向へ往復移動可能に形成されると共に永久磁石で形成される磁石部材と、
その磁石部材に回転可能に連結されるローラ部材と、
そのローラ部材の外周面が当接され前記磁石部材の往復移動方向と傾斜して交わる傾斜面であって、前記ベース部材から遠離方向に移動する前記磁石部材の進行方向側に向けて設けられる押動斜面と、
その押動斜面が設けられその押動斜面の傾斜方向及び前記磁石部材の移動方向とは異なる一の往復移動方向へ移動可能に形成される作動部材と、
その作動部材の往復移動方向とは異なる方向へその作動部材が動くことを規制するようにその作動部材を支持する支持部材と、
その支持部材により支持される前記作動部材を往復移動させるための駆動力を付与する駆動装置と、
その駆動装置の動作を制御することで作動部材の位置制御し、前記磁石部材と前記ベース部材との間隔を調節して前記吸着面の吸着力を調節する制御装置とを備えていることを特徴とするワーク位置決め装置。
【請求項2】
前記磁石部材には永久磁石が複数設けられており、
その複数の永久磁石は、前記磁石部材の縦方向に正磁極と負磁極とが交互に並設され、且つ、前記永久磁石の横方向にも正磁極と負磁極とが交互に並設されていることを特徴とする請求項1記載のワーク位置決め装置。
【請求項3】
前記磁石部材は、前記ベース部材から遠離する場合に略鉛直下方へ移動可能で、且つ、前記ベース部材へ接近する場合に略鉛直上方へ移動可能に形成されており、
前記作動部材は、前記磁石部材の往復移動方向に対して直交する略水平方向へ移動可能に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のワーク位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−113200(P2009−113200A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16569(P2009−16569)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【分割の表示】特願2004−104768(P2004−104768)の分割
【原出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(591033010)株式会社小矢部精機 (8)
【Fターム(参考)】